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☆☆が水準作


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12月1日 
・もう12月だよ。法事とノア観戦で土日も終わる。喪中葉書も仕上げなければ。
・1週遅れの新日プロレス放映で棚橋が僕らと一緒にハワイにいきましょうとか言っている。この辺の配慮ってのは、地元放送局はしないのかね。
【折々の密室/11月26日】
・御茶壺奉献祭
 京都北野天満宮で行われる、秀吉の茶の湯の故事にまつわる祭り。
#060  E・ジェプスン&R・ユースティス「茶の葉」 『世界短編傑作集3』
 仲違いした二人の男性が相次いでトルコ風呂に入り年上の男が刺殺される。一方が犯人としか思われず、起訴されるが、不思議なことに凶器は発見されなかった。傷口に残された茶の葉から意外な真相が露見するいわずと知れた古典。中盤以降被害者の娘が探偵役となった法廷劇となることは、まったくもって失念していた。

【折々の密室/11月27日】
・更生保護記念日
#061 楠田匡介「沼の中の家」 『楠田匡介名作選』 
 日本唯一の長期刑務所の作業所がある「沼の中の家」。周囲二里の沼は死の沼と呼ばれ、沼底から吹き出すガスのため魚一匹生息していない。囚人は、この鉄壁の監獄から脱獄を企てるが。保護司を永く務めた著者によるトリッキイな脱獄物。



11月28日 (木)
・本屋から『日影丈吉全集第』2回配本入荷の連絡を聴き、いそいそと取りにいき受け取る。こういう瞬間は、嬉しいものだ。しかし、1万円出して25円しかお釣りがこないのは、さすがに一瞬、萎える。『暗黒回帰』『幻想器械』『市民薄暮』『華麗島志奇』という四冊の短編集を収めたこの第6巻は、お徳用とは思うのだが。
【折々の密室/11月25日】
・「学問のススメ」発刊(1876)
#059 エラリー・クイーン「実地教育」  『クイーン犯罪実験室』
 ハイスクールの不良少年を改心させるための特別授業を頼まれたエラリーは、クラスルームに足を踏み入れるや否や、探偵のキャリアの破滅の危機に直面した。紙幣の入った封筒が盗難にあったと女子生徒が訴えたのだ。生徒の身体検査も行い、教室中くまなく探すが紙幣は出てこない。1時限の終わりの時刻は迫る…。終業のベルと同時にエラリーの頭に閃いた意外な隠し場所には、自らの学生時代を思い出して微苦笑を浮かべる読者も多いだろう。

11月27日(水)
・HMM1月号は、ローレンス・プロック特集。カバーが変わりましたか。SFMのカバーは昔のHMMぽく感じる。小山正、ビデオ情報で、ヴァン・ダイン「ウィンター殺人事件」の末路を知り、一掬の涙を禁じ得ない。
・ブックオフのレジで、「何かお売り下さるものがあれば〜」と店員にいわれて、「そんなのありませんよ〜」と答えている若い客を見た。マニュアルが崩れる瞬間。あのセリフを言われているとき、自分はどんな顔をしているのか。1、2ミリ顎を動かして、鷹揚にうなづいている気分になっているような気もする。
【折々の密室/11月23日】
・外食の日
 日本フードサービス協会が1984に制定。
#057 コーネル・ウールリッチ「簡易食堂の殺人」 HMM82.7
 下町の深夜。毎晩きまって閉店間際に簡易食堂にやってきて、コーヒーとポローニャ・サンドイッチで腹を満たしていた男が、青酸で毒死した。自動販売機から取り出したサンドイッチに毒を盛る機会はなく、店側の手落ちもない。暗鬱な情景の中で、強烈な悪意が剥き出しにされる一編。

【折々の密室/11月24日】
・オペラ記念日
#058 クリスピン『白鳥の歌』 
 ワグナー歌劇の稽古中、トラブル・メーカーだったバス歌手が密室状況の楽屋で首吊り死体となって発見。自殺にしては妙な点がある。フェン教授が捜査に乗り出す。クリスピンの筆は軽やかにはねまわり、謎解きも満足できる出来。タイトルの「白鳥の歌」は、カーのある名作を踏まえたプロットの趣向を暗示しているのでは?



11月26日その2 『降霊会の怪事件』 
【折々の密室/11月22日】
・黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)111年祭、新宿で開かれる(1998)
 ネットでこんなのを見つけた。来賓の名に田口ランディとか小谷真理の名も見える。ゴールデンドーン(黄金の夜明け団・黄金の暁教団)は、19世紀末にイギリスに成立したオカルティズム結社。初期の参入者には、イェイツ、O・ワイルド夫人、ベルクソンの妹らがいたという。1898年、アレスタ・クローリーの参加で分裂。降霊術はあんまり関係ないかも。
#056 ピーター・ラヴゼイ『降霊会の怪事件』
 19世紀末ロンドンを舞台にしたクリップ&サッカレイ物第6作。人気霊媒師の降霊会で、宙に舞う白い手などの怪現象が続発。霊媒師は、いかさま除けのために開発された電気回路に接続された状態のまま、衆人環視の中で、感電死を遂げる。微弱な電気しか流れていない装置で、誰がいかにして霊媒師を殺害したのか。降霊術が熱狂的に受け入れられた風潮を背景に、ステージの霊媒ショー、いかさまのテクニックなど霊媒業界の内幕物的な面白さが味わえる。クリップが事件当夜の状況をそのまま再現するくだりをはじめ、力のこもった謎解きも好ましい佳作。


11月26日(火)
【折々の密室/11月19日】
・洋風建築の最古、最大の築地ホテル館開業(1868)
#049  山田風太郎「怪談築地ホテル館」 『明治断頭台』より
 一年前に竣工したばかりの築地ホテルの大ホールで、弾上台の小巡察が日本刀で胴切りにされるという事件が発生。周囲には見張りが立ち、手を下すことが可能だったものは誰もいない。事件には仇討ち絡みの子細がありそうだ。金髪の巫女エスメラダの降霊術が死者を呼び起こし迷宮入り寸前の謎を解き明かす。傑作連作集の璧頭を飾る鮮烈な謎と謎解き。

【折々の密室/11月20日】
・秋田県小去沢鉱山で沈殿池が決壊362人死亡(1936)
#050 大阪圭吉「坑鬼」 『とむらい機関車』
 室生岬の突端の鉱山での発火事件。延焼をくい止めるため発火坑を塗り込める作業に従事していた技師が殺害され、息をつく間もなく第二の殺人が。現場に塗り込められたはずの抗夫が脱出し復讐の鬼となっているのか。現場のリアリティ、緊張感溢れる展開、視界が突然開けるようなセンス・オブ・ワンダーに満ちた解決と何拍子もそろった名編。37年の作であり、小去沢鉱山の事件が作者の念頭にあったかもしれない。

【折々の密室/11月21日】
・ボジョレー・ヌーボー解禁日
#051 ディクスン・カー「死者を飲むかのように…」 『幽霊射手』
 イタリアの貴族のもとを小説家が訪れ、悪魔の聖杯と呼ばれる秘宝を見たいと所望する。かつて、この杯でワインを飲み干したボルジア家の親子は毒死したという伝説の杯。殺害の疑いをかけられた若者が杯の残りのワインを飲み干しても、いささかの異状も見られず、事件は神の御業によるものと歴史の闇に葬られる。その夜、事件を再現しようとした貴族は毒死し、小説家は事件の謎を小説の形式で明かす。中世と現代、現実と小説が交錯するロマンの香り漂う最初期作。


11月25日(月)
・マクロイ『割れたひづめ』、『村山槐多』購入。乱歩の「二少年図」賛、熱いすごい。
・既に危険領域。
【折々の密室/11月18日】
・太平洋横断ヨットレースの小林則子沖縄着。女性単独世界最長航海記録。(1975)ヨットが違うようですが。
#048 アガサ・クリスティ「ヨットレース事件」 『クリスチィ短編全集4』 
 ダートマスのヨットレース見物に興じる社交グループ。お転婆娘が宝石商の所有するダイヤモンドを一同の目前で盗んでみせるという座興に挑戦。まんまと賭けには成功するが娘が巧妙に隠したはずの場所から宝石は消失していた。「盗まれた手紙」が引用されるが、全体の構図にも大きすぎて気づかない手掛かりが使われている。パーカーパイン物。(ポワロを主人公にした別ヴァージョンあり)


11月20日(水) 人の道
・岩井大兄から密室物の今年の収穫として、林泰広『見えない精霊』を教えてもらう。久しぶりにトリックに殉じた泣かせる一品とか。ついでに、部屋を獣道化して人の道を外した旦那の極道に泣くサイ様が不憫だ、とあり、サイ君も喜んでおりました。
・先日、職場の洋楽カラオケ好きで、6種類の通信カラオケがあるのが売り物のカラオケ屋へ。さすがに数がある。キング・クリムゾンを見つけてしまい、「21世紀の精神異常者」と「「クリムゾンキングの宮殿」をやってみる。快感だけど、前者はほとんど歌うところないじゃん、って、また一つ人の道を踏み外したような気が。ピート・シンフィールドも草場の陰で泣いていることであろう。それにしても、どこかに「スターレス」は入っていないか。

【折々の密室/11月15日】
・笹沢左保生誕(1926)
#045 笹沢左保『人喰い』
 今年惜しくも75歳で亡くなった著者。『求婚の密室』を作家自身が初の密室トリックによる長編と呼んでいることに有栖川有栖は異議を唱えている(『密室大図鑑』)ように、初期代表作では、不可能興味を扱っている例が多い。労働争議を背景としたこの作品も、現場が視線にさらされているため、犯行の余裕がごく短時間しかないという一種の密室状況が提示されている。密室の謎ときもセンスがいいが、タイトルに象徴されるような強烈な犯人の悪意が一読忘れがたい印象を残す。

【折々の密室/11月16日】
・東京間借り人協会発足(1966) 
会長中村武志。
#046 歌野晶午「ドア ドア」 (空白部分は、上下逆方向の矢印) 『放浪探偵と七つの犯罪』
 四畳半一間の典型的な学生下宿が舞台。衝動的に殺人を犯した学生が隠蔽のために安普請ならではの密室工作を試みる。しかし、すぐに探偵信濃譲二に犯行を指摘されてしまったのはなぜなのか。結末は袋とじとなっている倒叙密室の佳編。

【折々の密室/11月17日】
・島久平逝去(1983)
#047 島久平『硝子の家』
 地面から屋根までをことごとく硝子で張り巡らせた奇矯な家で、密室殺人が発生。続いて刑事が尾行している人間が不可解な状況で死を遂げる。伝法探偵はなぜか動物園で密室の研究にいそしむが。密室の謎をメインに正面から本格に挑んだ著者の代表作。伝法探偵自身の消失トリックもある。創意あるメイントリックは、天城一提供とのこと。


11月19日(火) あすなひろし
・以前紹介した、掲示板常連たかはし@梅ケ丘氏主宰の「あすなひろし追悼公式サイト」。今般、ついに(仮)あすなひろし作品選集刊行予定が告知されました。しかも少女漫画、少年漫画、青年漫画3冊3ジャンル一挙刊行とのこと。しかも、大判の体裁で新書サイズでは味わえなかったニュアンスも再現されるらしい。興味のある方は、是非同サイトを御覧ください。刊行の際には、私も応援させていただきます。
・酒飲みやら残業やら筋肉痛が続いているうちに、たまる折々の密室。たまるたまる。先日、本の置き場をついに確保。ネットの途方もない方々に比べて、決してもっている本の量は多くはないのだが、いわゆる獣道は、日増しに細くなり、ついにドアもしまらない状態になってしまった。早く実家の本をもっていけと度々迫る親も部屋を見て仰天していた。この寒さに、ストーブもたけない。このままでは、獣道一直線。一念発起して、玄関から歩いて数十秒のところに本置き場を確保。本以外もおけるなどとサイ君の懐柔にも策を弄した。土、日に少し運び入れ、部屋はかなりすっきり。いつまで、置き場を確保しておけるのかわからないが、これでまだ増やせる。今が、一番危険な状態かもしれない。



11月14日(木)
・『「黒猫」傑作選』購入。
・kashibaさんに「謎のギャラリー<密室系>編」と名指しで指名され、光栄至極。結構真面目に内容を考えてみたりするが、あんまり面白くならない。鉄人の謎ギャラリーを散策してみたいものである。
【折々の密室/11月14日】
・宮原龍雄生誕(1915)
#044 「不知火」 宮原龍雄 (別冊宝石(昭和27.2)
 百枚読切中編として掲載されたもの。九州の不知火現象にまつわるペタントリー、密教の流れをひく妖しげな不知火教など道具立ては十分。冒頭の密室殺人に始まり、不知火教の教祖の娘が儀式のさなかに衆人環視の中で焚殺され、さらに温泉入浴中の教授が撲殺されるが犯人も凶器も消失、といった具合に不可能犯罪が連打される。優に長編を支えられる雄大な骨格をもつのに、枚数が短すぎるのが残念無念。三村検事+満城警部補物。


11月12日(火) 『レイトン・コートの謎』
・あやー、小林文庫ゲストブック桜さん、拙サイトを御覧になって、道立図書館資料展の目録を注文されたとか。ワープロ打ち50p足らずのものですので、あまり期待されませんように。
・祝!『狩人の夜』文庫化。文庫化の前に読まなくてはと、あせる莫迦者一人。
・『レイトン・コートの謎』 アントニイ・バークリー(国書刊行会02.9/('25) ☆☆☆☆
 滞在中のカントリー・ハウスで起きた密室事件。遂に邦訳されたバークリーの第一作。 アブラムシを庭師が退治している冒頭の場面からロジャー・シェリンガムが登場。庭師に「うるせえぞ、シェリンガムの旦那!」といわれるくらいおしゃべりな探偵は、持ち前の好奇心を発揮して犯罪捜査に乗り出していく。軽快な筆致に乗せられ一読、作者の秘めた狙いは判明する。ああ、バークリーはこれがやりたかったのか。
 現代の眼からみると、想像の範囲内の結末かもしれないが、狙い所が斬新だったことはよくわかる。黄金期において、いち早いフェアプレイ宣言となった冒頭への実父への献辞や、ことあるごとにロジャーが口にする作中のフェアプレイ宣言も額面どおりに受け取れない。後年の作を知るひいき目かもしれないが、フェアプレイ宣言は、作者の狙いである意外な結末を導き出す迷彩になり、あるいは物語の攪乱要素にすらなっているようにみえる。また、結末で軽やかに(あまりにも軽やかに)下される、モラルに関する一つの結論も、後に、バークリー/アイルズ作品で形を変えて展開される要素を孕んでいるように思われる。シェリンガム・サーガがこのような出自をもつこと自体ひどく興味深い。ともあれ、ミステリ史上に残る名探偵、ここに誕生である。
【折々の密室/11月13日】
・火刑廃止(1868)
#043 ディクスン・カー『火刑法廷』
 カーの代表作として名高い作。生身の女性の消失、納骨堂の死体の消失の謎が扱われるが、特筆すべきは、平凡な日常に忍び込む恐怖の醸成。手持ちの名探偵を排した安定感の欠如が、この作品の到達した高みに押し上げるのに一役かっている。



11月11日(月) 葉山宝石館の方へ

【折々の密室/11月11日】
・宝石の日 1909年のこの日宝石の国際重量単位がカラットに決定したのにちなんで、宝石業者、宝石商が制定。ということで、大川氏お薦めの一作。
#042 梶龍雄『葉山宝石館の惨劇』
 葉山マリーナを臨む白い洋館・宝石棺で私立探偵が宝石を散りばめたトブカプの短刀で刺殺された。現場は、三重の密室状況。現場から持ち去られた宝石を散りばめられた凶器で引き起こされる密室殺人、さらに密室殺人。事件は、密室の状況下での犯人の自殺で一件落着に見えたが、これも他殺と判明し、事態はさらに混迷を深めていく。小学生と好奇心旺盛な女子大生の探偵合戦がもたらす結末とは。密室の謎の背後に素敵な狙いを秘めた好打。この手があったか、という密室の謎解きとも有機的に結びついている。随所に工夫を凝らした丁寧な仕上げもさすが。 
 

【折々の密室/11月12日】
・洋服記念日 1872年「礼服ニハ洋服ヲ採用ス」との太政官布告にちなむ。
#043 アンソニー・バウチャー「もぬけのからの殺人」 HMM'95.5
 そいつは死体よりも始末が悪かった。現場に残されているのは、化粧着と胸元の眼鏡、ワイシャツの袖は化粧着にすっぽり収まり、首もとまでボタンがかけられている。スボンの下には靴が置かれ、靴下ものぞいている。パンツもはいている。足りないのは肉体だけだった。「洋服の密室」からいかに人間は消えた?黒魔術探偵ヴァーナーは、合理的謎解きを超える解答を編み出す。バウチャー好みのレコードの蘊蓄もある小粋な一編。



11月9日(土)
・読書週間にちなんだ、道立図書館資料展示は時代小説特集。「忍者小説集」(2巻14号・’64.8/高橋書店)なんて雑誌も展示されていて、こんな雑誌もあったのかと感心。なかにか力の入った展示目録をもらってくる。

【折々の密室/11月9日】
・119番の日
#040 折原一「北斗星の密室」 『本格ミステリ02』
 火事の通報に消防車が駆けつけると、家の中にはバラバラ死体が。現場の窓は空いているが家の周囲の雪には足跡はない。密室マニア黒星警部の頭脳に閃いた推理とは。北斗星とはあんまり関係ないのね。

【折々の密室/11月10日】
・エレベーターの日
  おまけにトイレの日。珍しくもったいない一日なのだが。
#041 迫光『シルヴィウス・サークル』 193×年”さかしまの娘”と名乗る2人組の女性芸術家が創り上げたエレベーター装置を組み込んだ巨大な芸術作品プルースト・マシーンの中で起きた密室殺人。続いて、伊豆半島の岬で起こる足跡なき殺人。事件の背後には、「記憶」をめぐる不可思議な実験が関係しているようだった…。異空間のような戦前世界の創出、随所に窺われる審美眼、幻想方面への傾きにオリジナリティを感じるが、ミステリとしてはやや読者を置き去りにしている感もあり。次作に期待してみたい。



11月7日(木) デッドリイ・クラブの冒険
・パラサイト関更新。
・一仕事終わった打ち上げで、カニ食べ放題のお店へ。「北海道人のくせに食べ放題のカニに幻想もっているなんて」とサイ君に言われはしてたものの、それなりに楽しみにはしていたのですよ。席につくと、桶の上に、山盛りの毛ガニ、タラバ、ズワイが。テーブルには、後は洗面器大の殻入れと少量の握り鮨があるだけ。さあ、どこからでもかかってこいという気迫をひしひしと感じる。店内に他の客の姿がないのが一抹の不安要素ではあったのだが。
 乾杯の合図とともに、各自カニにとりかかる。味の方は、あからさまな冷凍・輸入物で、脱皮ガニらしく、身も水っぽい。それでもカニの味はするので、わしわしと食べる。まことカニは会話殺しである。こちらのテーブル、30分くらいで一桶開けて、追加オーダー。
 アイパッチをした店主が現れ、「もっと大事に食べろ」「育つのに何年もかかるんだ」と、のたまう。その迫力に気圧されていると、「毛ガニを食べたいのは何人だ」。おずおずと数人手を挙げる。我々はもはやカニの奴隷状態。店主は、「漂流教室」の関谷さながら。カニ資本主義の帝王である。
 店には、この親父しかいないらしく、ビールを運ぶのも客がやらされる。空いたジョッキを厨房に運んで置こうといると「余計なことするな」。「もしもこんなカニ屋があったら」というドリフのコント状態だ。
 そのうちに親父が「カニラーメン」を持ってくる。「これが、まずかったら言ってくれ」。
 ただのミソラーメンだ。
 「カニを身ながら食べる。これが本当のカニラーメンだ。がはは」つい我々は愛想笑いをしてしまう。ああ、恐るべきカニ資本主義。カニ餓鬼道に落ちた我々。
 「まず麺だけ食べる。その次にごはんを入れて食べる。これがうまい」。
 親父の講釈どおり食べた食べた上司がぽつり「意味がない」
 食べ放題の限界は、自分の経験値からいって、50分がいいところだと思うが、この日の客は、リミッターを外している。10年くらいカニアレルギーだったという係員も、己が病魔を克服したことを確かめるように食い続ける。もはや、無念無想、味などどうでもいい、そこには己と闘う美しいファィターたちの姿だけがあった。2時間の時間切れ間際、もはや胃に一切の空地がなくなった状態で、うたい文句に鉄砲汁サービスとあったのを思い出す。アイパッチの親父に、おすおずと確認すると、「カニラーメンが鉄砲汁だ。」
 確かに、麺だけ食べると汁になるよな。ああ、美しき二段活用。
 二次会。席につくや、一人がトイレに駆け込む。何度もリバースしてリタイア。
 翌日、別の係員から「朝方から嘔吐が止まらない」と年休の電話があり、一同心配。食べ過ぎなのか、カニが悪かったか。カニアレルギーだった人間は、完全に病魔を克服したと、にこにこしておりました。
【折々の密室/11月8日】・いい歯の日
 日本歯科医師会が推進。4/18もよい歯の日なんだとか。
#039 坪田宏「歯」 『紅鱒館の惨劇』 
 科学者が研究生を殺して密室で自殺?現場に残されていた歯が決定的な手掛かりになるのだが、その他の小道具の使い方も巧みで印象に残る。古田三吉物。



11月6日(水)
・「彷書月刊」、「昭和出版街」は、九鬼紫郎と小栗虫太郎。同の字がつく出版社の関係も面白い。古本小説大賞受賞作はなしだが、特別奨励作「まけてほしい」は、新書マンガコレクターの方が書いたもので、コレクターの心理、生態や古本屋批判が面白い。自慢されるのがいやだから古本仲間をつくらないというのは、そういう考え方もあるのかと。
・ブックオフで山村正夫・大谷羊太郎「セクシー・ギャル殺人事件」、有為エンジェル「赤と青の殺意」ちょっとだけ嬉しい。
・【折々の密室/11月7日】
・立冬
#038 天城一「冬の時代の犯罪」 『密室探求第二集』
 戦後の混乱期に起きた全裸の美女の絞殺事件。周囲の雪に足跡はない。犯人は自首してきたが、犯行方法は不明のまま。25年ぶりに出てきた摩耶正の出し忘れの手紙が、「冬の時代」の事件の謎を解く。被害者が裸だった理由が秀逸。


11月5日(火)  『家蠅とカナリア』
・『家蠅とカナリア』 ヘレン・マクロイ 創元推理文庫(02.9('42)) ☆☆☆★ 
 19世紀末の演劇上演中のさなか、舞台で瀕死の病人役を演じていた俳優が第一幕終了後には、本物の死体となっていた。犯行可能な人物は限定されている。大胆に冒頭に提示された手掛かり「家蠅とカナリア」がもたらす真相とは。とにかく演劇「フュードラ」の内容がことごとく巧みに事件に生かされているのに感心させられる。主演女優の肖像をはじめ、俳優たち、プロデューサー、売れない戯曲作家、後援者など演劇人士の生態を十分に織り込み、上演中止、再演、再び事件発生という展開もスムーズで、リーダビリテイも高い。カナリアの方の手掛かりにいささか無理な感もするのが、ポイントマイナス分。燈火管制演習をクライマックスにもってくるなど戦時下の風俗が十分に描かれているのも面白い。この時代のミステリをもっと読んでみたくなった。

【折々の密室/11月6日】
・初のアパート「上野倶楽部」完成(1910)
 アパート物で。
#037 大坪砂男「赤痣の女」 『探偵くらぶ 下』 
 階下が屋内商店街(アーケード)になっている大森のアパートの密室で、アーケードの管理人が青酸カリを注射して自殺?戦後の筍生活の様相が練達の筆で描き出され、かなり複雑な事件と相まって、この短編を読み応えのあるものとしている。密室トリックの方は、安普請のアパートならではのリアリティで、一種爽快な感さえ受けたもの。緒方三郎物。


11月4日(月) ガイ・フォークス・デイ
・11月5日は、ガイフォークス・デイ。英国ミステリを読んでると、割り注に、「11月5日の英国議事堂爆破陰謀事件。「ガン・パウダー・プロットの記念日に、張本人のガイ・フォークスの奇怪な像を作り子供たちが町中を引き回してから焼き捨てる風習がある。」などと出てきて、何だこの風習は、と思ったりしたもの。
 ネットで調べてみると、この日は、子供たちの最大の祭りのひとつであり、イギリスではハロウィーンはこの日に吸収されたようになっているらしい。子供達は、何日もかけてぼろで人形を作り、ガイに見立てて街を引っ張り回し、大きさや出来栄えを競いあったりするらしい。そして、ガイの人形を見せて「ガイに1ペニーおくれ」と通行人や近所の人から、からこづかいをもらい、花火を買うための資金とするとも。ガイ・フォークス・デイについては、この辺が詳しく参考になる。彼の地のミステリにも度々登場するようで、検索すると、J.デイヴィー『花火と猫と提督』、レンデル『わが目の悪魔』、シモンズ『犯罪の進行』、エアード『そして死の鐘がなる』、クリスティ「厩舎街(ミューズ)の殺人」、チェスタトン「ジョン・ブルノワの珍犯罪」等がたちどころに出てくる。ガイ・フォークス・アンソロジーが組めそうだ。
 さらにネットでみていくと、この「ナイス・ガイ」とかの語源は、ガイ・フォークスにあるらしいこと(ガイ・フォークス→変な恰好をした男→男)、ジョン・レノンが「リメンバー」の最後の一節で「remember the fifth of November」といっているのは、このガイ・フォークス・デイのこと、この国議事堂爆破陰謀事件の背景には、プロテスタント対カソリックの根深い対立が背景にあり、遠く北アイルランド紛争の淵源になっているという説もあるらしいこと等が出てきて、なんだか勉強になった気分。ああ、しかし、400
年もの間、子供達に焼かれ続ける可哀想なガイ。
 最初の割り注は、実は、カー『三つの棺』から。「ガイ・フォークス・の訪問者」と章題の一つにもなっている。
【折々の密室/11月5日】
・ガイ・フォークス・デイ
#036 ディクスン・カー『三つの棺』 
 コメント後刻。 



11月3日(日) 『密室の守銭奴』
・探偵講談、大宴会凄かったようですね。小林文庫オーナーさまお疲れさまでした。

【折々の密室/11月4日】
・フィルポッツ生誕(1862)
 ということで、シミだらけの雑誌を引っ張り出してみる。70頁程度しかないから、かなの抄訳かもしれない。
#035 E・フィルポッツ『密室の守銭奴』(別冊宝石29)
 ロバート・エイディが酷評し、カロライン・ウェルズがフィルポッツの最上作(乱歩解説より)としている密室物。さて、判定はどっちだ。高利貸しで故売にも手を出している守銭奴がアパートの密室内でトルコ短剣で刺殺される。現場は、金庫のように頑丈でドアには6つの閂、窓には鉄格子がはまっているという念の入りよう。事件当日から被害者の弟が姿をくらましているが、その他の関係者には皆アリバイが成立する。弟は事件に関係しているのか?。犯行方法は一体?「闇からの声」で探偵役を務めた退職刑事リングローズと現職警官アンブラーの必死の捜査は続く。失踪した弟周辺を洗っていくうちに「樽」が出現し意外な被害者が飛び出したり、次第に絞られていく容疑者、という具合に事件は地味に盛り上がりを見せる。捜査に行き詰まった探偵が幼児の絵本を見ているうちに、ジクソーの最後の一片がはまるシーンなどは、なかなかである。本書の眼目は犯人は容易に目星がつくが、心理的にその犯行が納得し難いという探偵(と読者)のジレンマにあるのかもしれない。この点はかなり強引ながら、新味のある解決をつけており、(当時としては)新しい悪の形の創造に熱心だったフィル ポッツの真骨頂といえなくもない。ただ、密室の方は−エイディ氏が怒るのも無理はない。


・文化の日だし、そのうち何か思いつくだろうとタカをくくっていたのに、時間が経っても、何も思い浮かばない。こういう抽象名詞は連想には向かないらしい。途中で頭を切り替えて、文具の日(打ち間違えではない。文化と文具は歴史的に同じ意味として1987年に制定された由)で考えるが、これも何も出てこない。卓上から鉛筆が消失しても、日常すぎてお話にならないもんな。さらに、本日は、レコードの日でもあるし、ハンカチーフの日でもあると鼓舞するが、一度出てこないとなったら何も出てこない。結局歴史ネタで。

【折々の密室/11月3日】
・ニューヨークで初の自動車ショー(1900)
#034 ジャック・フットレル「幽霊自動車」 『思考機械の事件簿U』
 1908年の短編集に収録された作品だが、この時代に既に自動車の速度取締りが普通に行われていたことに改めて驚かされる。両端に巡査が控えていて、スピード違反の車をカモにしている「トラップ」といわれる舗装道。トラップの両側には石塀がそそり立っていて、抜け道はない。もの凄いスピードで突っ込んできた自動車がトラップの中で忽然と消失。そんな奇怪な事件が夜毎に繰り返される。自動車消失の謎を突き止めるために、新聞記者13名をトラップ内に立たせたり、、自転車選手に追跡させたりという探偵側の工夫が楽しい。ホワイダニットとしても説得力あり。



11月1日(金) 『その死者の名は』
・帰りに、焼き牡蠣を食べに行く。ものは、道東の厚岸からの直送。厚岸の牡蠣というのは、サロマ産とかに比べて、ひどく大ぶりなんだけど、味はひけをとらない。磯の香の漂う焼きたての牡蠣にレモンを絞って食す。水分の飛んだ、旨みの塊が口中に広がる。噛むほどに旨みが増す。顔がほころぶ。酒がすすむ。生牡蠣の方もしっかりいただく。こっちも勿論うまい。以上、関つぁんを羨ましがらせるためだけに書いた記述。
・『その死者の名は』 エリザベス・フェラーズ(創元推理文庫(02.8('40)) ☆☆☆★ 
フェラーズのデビュー作にして、トビー&ジョージ物でデビュー作。深夜に人を轢いてしまったと飛び込んできた女性。被害者は泥酔していたはずなのに、周囲に酒壜は見あたらない。本当に事故なのか。被害者は誰なのか。 オフビートな謎の設定、簡潔ながら味わい深い描写、観察の行き届いた性格描写、ほど良いユーモア、意外な解決などこのシリーズの特色が既に第一作から完成していることを証明する作品。事件が起き、波紋を広げ、登場人物相互の隠れたドラマも明らかになっていくのだが、トビー&ジョージの蛇行するような捜査は、今一体なにが問題になっているのか本当のところを掴ませない。同格の探偵二人というシリーズの特徴は、「捜査のダブルミーニング」とでもいうべき高級な迷彩を施すのにも一役買っている。読者を翻弄するテクニックも鮮やかなハイブラウな作品。

【折々の密室/11月2日】
・GHQが財閥資産凍結・解体を指令(1945)
 財閥というわけではないが。
#033 天城一「朝凪の悲歌」 『密室犯罪教程』 
大地主の娘の一人娘の寝室で、大臣間違いなしと将来を嘱望されていた男が射殺。犯人は突然寝室に進入してきた男だと娘は証言するが、同時刻に邸宅に駆けつけた警官は犯人を目撃していない。娘は固く縛り上げられ犯行は不能と目される。23年後に明らかになる事件の真相は?戦後の改革で財産をとり上げられた一族の悲劇が沁みる一編。