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4月17日(土) シド・チャリシーの3本
・美脚といえば、最近ミュージカル映画を立て続けに何本か観たのだが、先日観た『雨に唄えば』のラスト・ナンバー「プロードウェイ・メロディ・バレエ」に登場するシド・チャリシーの長い脚は、鮮烈だった。AMAZONに掲載されている『雨に唄えば』のカスタマー・レヴューには、「私はズッとシド・チャリシーばかり観てました」というのがあって、笑ってしまったのだが、かくも有名な映画の中で、最後のナンバーにしか出演していないシド・チャリシーの肢体とダンスに釘付けさせられるのは、紛れもない事実なのである。バレエ出身のこの女優は、フィルム・ノワールの犯罪的美女群を扱った最良の手引き、山田宏一『新編 美女と犯罪』においても「暗黒街の女、シド・チャリシー」として一章が割かれており、フィルム・ノワール的ニュアンスにも富んだ女優でもある。同書によれば、シド・チャリシーは、ディートリッヒやベティ・グレーブルの「百万弗の脚」に対して「二百万弗の脚」と呼ばれたといい、当時の人気のほどが窺える。
 「プロードウェイ・メロディ・バレエ」の中で、ジーン・ケリーが落とした帽子を椅子に座ったシド・チャリシーが脚の先ですくい取って挑発的に眼の前につきつける、均整のとれた長い脚が強烈な印象を残すが、最近観た『教授と美女』や『レディ・イブ』におけるバーバラ・スタンウイックにも似たようなシーンがあって、脚自慢の女優の決めポーズだったのかもしれない。
 というわけで、シド・チャリシーの出ている3本を。いずれも、MGMミュージカルを牽引した検印アーサー・フリード製作。

・『雨に唄えば』('52・米) ☆☆☆☆☆  DVD
監督ジーン・ケリー スタンリー・ドーネン 主演/ジーン・ケリー デビー・レイノルズ 
 ジーン・ケリーが土砂降りの中で唄い踊るシーンがあまりにも有名だが、サイレントからトーキーへの以降期の映画界を舞台にした、映画をつくることに関しての映画(メタ映画)でもある。トーキーに適応できない俳優たちを素材にした闊達なストーリー展開を縫うように、魅惑の歌とダンスが弾けまくってり、汲めども尽きぬ楽しさを保証する。ラストの17分に及ぶ「プロードウェイ・メロディ・バレエ」のシークエンスは、一編の映画を思わせる素晴らしさだ。

・『プリガドーン』(54・米) ☆☆☆  DVD
監督/ヴィンセント・ミネリ 主演/ジーン・ケリー ウァン・ジョンソン シド・チャリシー 
 百年に一度だけ姿を表すスコットランドの村に迷い込んだアメリカ人が、村の娘(シド・チャリシー)と恋に落ちて。村に悪が侵入するのを恐れた聖職者の魔法によって、この村の一日は、この世の百年に相当するのだ。18世紀の民族衣装に身を包んだシド・チャリシーが長いスカートを体の一部でもあるかのように優雅に踊る。セットの中の「スコットランド」は、今の眼からするとややつらいかもしれないが、村を去ったジーン・ケリー戻った現代のニューヨークのシーンは、なかなか鮮やか。百年に一度しか姿を表さないはずの村が、再びその姿を表す理由は、観てのお楽しみ。 

・『絹の靴下』('57・米) ☆☆☆★ ビデオ
監督/ルーベン・マムーリアン 主演/シド・チャリシー フレッド・アステア グレタ・ガルボ
 『ニノチカ』('39)のミュージカル舞台劇版の映画化とのこと。元の映画は、ルビッチ監督、ビリー・ワイルダー&チャールズ・ブラケット脚本の強力布陣。アメリカ資本の映画の音楽を引き受けたソ連の高名な作曲家を奪還するために、ソ連共産党の女工作員ニノチカはパリに潜入するが・・。党の申し子、笑わぬ女工作員シド・チャリシーに恋の揺さぶりをかけて、変心(変身)させていくのがアステアであり、バリの魅惑である。絹の靴下は、西側の自由と生の謳歌の象徴であるという訳。アステアとの愛に目覚め、シド・チャリシーがホテルの部屋で、一人踊りつつ艶やかに変身していくシーンは、素晴らしいの一言。ソ連共産党の本部で、本部員たちがジャズナンバーで踊るシーンをはじめ、全体主義をからかった強烈なギャグに満ちている。怪優ピーター・ローレの踊りがみられるのも楽しい。

 シド・チャリシーは、ミュージカル衰退と同じくして人気も低迷し、以後、ナイトクラブなどに出演していたという。                                   


4月22日(木) 忍法帖短編全集/美しい脚の問題
・短編忍法帖が総集される『山田風太郎忍法帖短編全集』が遂に、ちくま文庫から刊行開始。第1巻『かげろう忍法帖』には、ボーナストラックとして「忍者帷子乙五郎」(『忍法忠臣蔵』の原型)収録あり。長編に比べあまり話題にならない、だがすぐれ物揃いの短編忍法帖を是非この全集で。
・前回の書き落としだが、『ピアニストの撃て』を観て、トリュフォーの美脚好きには恐れ入った。拉致されたシャルリとレナにギャングが語ってきかせるところでは、ギャングの父親は女の脚にみとれ、自動車事故を起こし、一命を落とす。シャルリと関係があるグラマラスな娼婦の脚のショットが出てきたと思ったら、レナの脚のショットもある。さほど魅力的とも思えない酒場の中年女が地下室に降りるシーンも脚のショット。そういえば、『大人は判ってくれない』で久しぶりに一家で映画を観にいってご機嫌の父親が主人公の少年に「ママの脚はきれいだろ」というシーンもあった。『恋愛日記』('77)の主人公は、女性の脚にとりつかれた男という。谷崎潤一郎も真っ青な脚フェチぶりなのである。
・『大人は判ってくれない』('59・仏)監督/フランソワ・トリュフォー 主演/ジャン・ピエール・レオー/クレール・モーリエ
 長編デビュー作。両親に愛されない少年が感化院に送られ…。友人と学校をさぼった主人公が、大人達に交じって、遊園地にあるような回転する遊具の中で身を捩って一回転するシーンがあるが、少年の溌剌とした表情と遠心力に逆らう身振りが二つとも、この映画をよく語っているように思われる。父の事務所からタイプライター盗んだことが少年にとって決定的な事件になるのだが、処分できなタイプライターというのは、あるいは『失われた週末』が意識されている?


4月14日(水) 『ピアニストを撃て』
・パラサイト・関更新。
・フランソワ・トリュフォー映画祭と銘打って、ディノスシネマという映画館で、14本の作品が上映されるというので、日曜日に最初の2本を観てきた。これまで観たトリュフォー映画を数えてみると、『あこがれ』『華氏451』『黒衣の花嫁』『アメリカの夜』『アデルの恋の物語』『トリュフォーの思春期』の6本しかなく、今回上映される映画とのダブリは『あこがれ』のみ。4日交代で7プログラム(2本立て)が用意されているが、果たして、何本観ることができますか。ディノスシネマは今回初めて行ったが、白石のゲームセンター・ボウリング場が入っているビルの片隅にある映画館だった。50席で客の入りは20人くらい。併映は、『大人は判ってくれない』。
・『ピアニストを撃て』 ('60/仏)監督 フランソワ・トリュフォー 主演/シャルル・アズナブール マリー・デュボワ
 デヴイット・グーデイスの犯罪小説が原作。ポケミス映画座で翻訳が予定されている同作の輪郭を想像してみるのも一興だ。安酒場のピアノ弾きシャルリ(シャルル・アズナブール)のもとに、ギャングの金を盗んだ兄が転がり込んできたことから、シャルリは二人組のギャングに付け狙われる羽目に。シャルリは、かつて国際的な名ピアニストだったのだが、妻の自殺をきっかけに、名を捨て、今の状況に甘んじている。店のウェートレスレナ(マリー・デュボワ)に励まされたシャルリは再起を志すが、喧嘩になった店の主人を誤って刺殺し、兄の隠れ住む雪の山荘へ向かう−。元妻の自殺の理由が語られる回想形式を初め、フィルム・ノワールへの傾斜は窺えるが、どこか間が抜けているギャング二人組に象徴されるように、物語上のサスペンスの持続はあらかじめ放棄されている(この回想シーンこそがフィルムノワールの肌触りだ)。むしろ鮮烈なのは、マリー・デュボワの生き生きとした表情や立ち居振る舞い。二人が山荘への逃避行を図るシーンは、突然現れる雪のイメージとともに、精彩に富んでいる。レナは銃弾に倒れるが、悲劇性を煽り立てられることもない。酒場では再びウェートレス が雇われ、シャルリは、同じ酒場のピアノ弾きに収まり、秩序は回復する。だが、彼の胸中では、観客と同様に、トレンチコートを着た優しく強い女が回想されることになるだろう。

 
4月10日(土) 『犯人は誰だ』
・パラサイト・関更新。相変わらず、バタバタして更新が滞る。
『犯人は誰だ』('39・米)
監督サム・ウッド 主演/デイヴィッド・ニーヴン オリヴィア・デ・ハヴィランド 
 原題は、「Raffles」。あのイギリスの紳士泥棒として名高い−そして我々にはその実態はよく知られていないE・W・ホーナング作の義賊A.J.ラッフルズ、である。本作が4度目の映画化というから、人気のほどが知れる。邦題から推測されるようなフーダニット映画ではないので、この邦題は少し変かもしれない。冒頭、ラッフルズによる名画の盗難事件−今は苦しい生活を送っている往年の女優に名画は届けられ女優は懸賞金を警察から得ることになる−という義賊ぶりが端的に示すエピソードからスタート。ラッフルズは、クリケットの選手として活躍する一方、趣味的に泥棒を続けているが、友人バーニーの妹(オリヴィア・デ・ハヴィランド)との真実を打ち明けられない苦しさゆえ泥棒稼業から足を洗う決意をする。ところが、バーニーが公金に手をつけ、犯罪者に転落する瀬戸際に立たされという窮状を救うため、親交のある近しい伯爵夫人のネックレスを奪うことを決意。スコットランドヤードのマッケンジー警部は、複数の手がかりから、事前にA.Jによる盗難を察知し、伯爵邸を警備し包囲網を狭め、さらに、宝石を狙う窃盗常習犯が絡んできて…。ラッフルズは(少なくともこの映 画では)、ルパンのような天才的な犯罪者ではなく、不用意なミスも多い。若き日のデイヴィッド・ニーヴンは優雅で、紳士泥棒を好演。とりたてて、サスペンスが強調されるわけではないが、クリケット、舞踏会、演奏会、田舎屋敷…と、英国の上流の雰囲気たっぷりに古き良き物語が綴られる。オリヴィア・デ・ハヴィランド(『風とともに去りぬ』)が気品ある恋人役を演じているのが印象に残る。


4月1日(木)
・パラサイト・関更新。関氏の義父さんがなくなった由。まだお若いはずなのに。ご冥福をお祈りします。


3月31日(水)
・朝起きたら(1日)、一面の雪。
・『消された証人』('55・米)
監督/フィル・カールソン 主演/ジンジャー・ロジャース エドワード・G・ロビンソン 
裁判中の大物ギャングの有罪を立証するはずだった証人がギャング一味に殺害される。検察側は最後の切り札として、服役中の女囚を刑務所からホテルに連れ出し、刑期の減免と引き替えに決定的な証言をするよう求めるが、女囚は首を縦にふらない。そこへ、再び証人をなきものにしようとするギャングの手が迫る。 主演の女囚は、フレッド・アステアとの名コンビで有名なジンジャー・ロジャース、検事はギャング俳優としてならしたエドガー・G・ロビンソン(『飾り窓の女』)盛りはとうに過ぎた往年のスターを二人並べみましたといった態の映画で、警護役の刑事と恋に落ちるジンジャー・ロジャースはどうみてもオバさんにしかみえない。最初から、勝ち気に囀りまくっていて、演技が上手いのはわかったよ、と感情移入もできず引き気味に。喋りまくる女を主演に据えて、どう転んだらフィルム・ノワールになるのかと思っていたら、意外なツイストを効かせていて、唐突にノワールなテーマが現出するんですな。これには少し驚かされた。警護役の刑事をブライアン・キースが好演。ほぼ舞台は、ホテルの一室に固定されるが、TVでは募金を募る24時間テレビのようなことをやっていて、 ちょいと面白い。 

3月30日(火) 古本×古本
・ジタバタ・ドタバタ。業務と怒濤の送別会で浮上できず。1日付けで部署は異動するが、転勤はなし。
・日曜日、予約していたkashiba@猟奇の鉄人『あなたは古本がやめられる』(本の雑誌社)を、bookmarrkに請け出しに。タイトルをいう前に店員が持ってきたのでやれやれ。しかし、これでいいですか、という店員は、なんとなく古本ジャンキーとはこういうやつか、という眼。実用書じゃないんだって。カバーを開くと、おお銀ペンによる鉄人のサイン。早く仕事に行かなきゃなならないところを併設のバーガーショップに寄って拾い読みするのは、蜜の味でございました。処女出版おめでとうございます。
・戴いた『ジャーロ』15号、色頁は、野村宏平氏による「〈保存版〉ミステリーファンのための古書店ガイド 北日本編」、北海道、東北、信越、北陸の注目古書店を網羅しているのだからもの凄い。「北海道の古本屋」という小冊子を提供しただけなのに、当方の名前が出てくるのが面映ゆい。例の沖本貸本店についても、詳しく触れられています。
・久しぶりに古本屋のはしごをしてみたい気がふつふつと沸いてくる春であります。
・少年探偵小説スレ、怒濤のSFジュブナイル書誌に唖然。



3月15日(月)
・年度末でジタバタ・ドタバタ。パラサイト・関、アップ忘れ。すみませんでした。
・フクさん、MYSCON代表勇退。長きにわたりお疲れさまでした。


3月12日(金) 『シネマほらセット』
・パラサイト・関、自ら季刊「ジャーロ」並みという更新来た−。
・アーネストさんに教えてもらった本。
・『シネマほらセット』 橋本治(04.3/河出書房新社) 
 この世に存在しない架空映画の上映館シネマほらセット。館主は橋本治。レムの架空書評集とかは有名だけど、架空映画の批評集(というより紹介集か)は、ほとんど例がないのでは。上映される48本の映画は、例えば、こんなやつ。
 映画『巨人の星』('62・伊)。監督は、ルキノ・ヴィコンティ。脚本は、ヴィスコンティとモラヴィア。漫画のルーツという設定ではあるけれど、星一徹役は、パート・ランカスターで、明子がクラウディア・カルディナーレ、花形満がアラン・ドロン、伴宙太はリノ・ヴァンチュラ、スケバンのお京さんは、ステファニア・サンドレッリ…という布陣。ここまでの配役なら余人をもってもできるかもしれないが、本作を62前後のヴィスコンティのフィルモグラフィのミッシングリンクとして位置づけ、星一徹というファナティックな父親像が生まれた理由、本作がヴィコンティ映画の転回点となったことを論じるという芸は、ヴィコンティ批評であり、返す刀で巨人の星批評にもなっているという高度なもの。
 都はるみ主演の「オズの魔法使い」、ウディ・アレン主演の「伊豆の踊り子」等の和洋混沌、彼岸・此岸のギャップぶりも、めざましい異化効果を挙げている。ピター・フォンダ主演の『サイコ』がシリーズ化され、全米を放浪したり(毎回マドンナが変わる)、ケネス・ブラナーが石塚英彦主演の『ハムレット』をつくったり、『秋桜狂詩曲』では北林谷栄主演の素晴らしい一編を現出させてみたり…。しかし、本作の芸を真から愉しむには、多分、日本のアチャラカやらチャンバラを含む和洋古今の映画や、源氏物語といった古典から昨今のパラエティ番組までに至る教養が必要なのだろう。顔が判らない俳優か随分あった。風太郎作品も二本上映されており、『くの一忍法帖』−忍法幻菩薩と肉鞘の技を競うのは、シャロン・ストーンとジョン・マルコヴッチ!−、『忍法魔界転生』−柳生十兵衛デンゼル・ワシントン、宮本武蔵ロバート・デニーロ、柳生但馬守アンソニー・ホプキンス、監督はスティーヴン・ソダーバーグ−であります。キネ旬連載作。


3月10日(木) 映画メモ
・ネタなしで、今年になって観た映画メモ
・『第七天国』('27・米) 監督/フランク・ポーセージ ☆☆☆☆ BS
 パリの下町を舞台にした恋愛物の無声映画。下水掃除人シコは、ふとしたこから虐げられている娘(ジャネット・ゲイナー)を助ける。性悪女の姉は、妹に鞭をふるっているのだから凄い。警察を欺くため二人は、シコの屋根裏部屋「第七天国」でかりそめの同居生活を送るがいつしか本当の愛に変わった矢先、シコは第一次大戦に徴兵される。楽天家のシコと薄幸の娘の恋愛がいきいきと描かれ、迫力に富む戦争シーン・混乱のパリがメロドラマを高みに引き上げる。七階に昇るシコを追って一階から縦方向に移動していくキャメラには驚嘆。

『出来ごころ』('33 松竹). 監督/小津安二郎  BS ☆☆☆★
 長屋を舞台にした人情物。無声映画だが、あまり違和感ない。出来ごころで若い女に惚れ、酒浸りになり工場にもいかなくなるやもめ暮らしの父。息子の突貫小僧(変な芸名だ)が小学校の同級生に「本字(漢字)も読めない」親と莫迦にされて、泣きながら父親にむしゃぶりついていくシーンには涙。お人好しで調子のいい寅さんのような父親役は、坂本武。昔の飯田蝶子は、昔の田中裕子に似ている。

『悪い種子』 ('56・米) 監督/マーヴィン・ルロイ ビデオ ☆☆☆☆ 
 アンファン・テリブルを題材にした緊迫のサスペンス物。娘の小学校で生徒が事故死を遂げる事件があり次第に母親(ナンシー・ケリー)は娘が犯人ではないかと疑うようになる。徐々に疑惑が高まり、母親が心理的に追いつめられていく描写が精緻で、特に出入りの掃除人が殺されるシーンの畳みかけるような演出は圧巻。その後の展開も予断を許さない。凝った白黒映像も美しい。

『スリ』 ('59・仏) 監督/ロベール・ブレッソン ビデオ ☆☆☆ 
 「呪われた作家」ブレッソンの作品。生活苦のためスリ稼業に陥る若者。それを見守る愛人。ミニ・ラスコリニコフ的な哲学をもつ青年はやがて改心することになるのだが。『抵抗』と同様、物語的高揚もなく、音楽もほとんどない静けさの中で綴られ、結末はあっけない。様々なスリの手口があかされるが、手首がクローズアップされる映像は、一種のフェティシュか。

『ガラスの墓標』('69/仏=伊=西独) ☆☆
 DVD監督 ピエール・コラルニック /主演セルジュ・ゲーンズブール ジェーン・パーキン 恰好良く禿げていない頃のゲーンズブール。眼の縁が赤い。殺し屋稼業から抜け出そうとする男とその友人と愛人のいびつな三角関係を軸にしたフレンチ・フィルム・ノワール。60年代末の香りが漂うが、思わせぶりな映像、弛緩したストーリー、当時同棲中のジェーン・パーキンの裸身が惜しげなくさらされるのも、なんだか、いい気なもんだとしか思えない。


3月8日(月) ホークスの2本 
・観てから、若干時間が経っているけど。
・映画メモ(ハワード・ホークス監督の2本)
『赤ちゃん教育』('39・米) ☆☆☆☆ 
 キャサリン・ヘプバーンのマン・ハント(男狩り)映画。狩られるのは、生真面目な動物学者ケーリー・グラント。実際に、ケーリー・グラントがヘプバーンに頭から網をかぶせられるシーンもある。始まりからイカレているヘプバーンと気弱な男を優雅に演じるケーリー・グラントの対比がひたすら楽しいスクリュー・ボールコメディ。主要人物が次々とミイラとりがミイラになって、留置所に入れられていくシークエンスは語りにドライブがかかっていくエスカレーションの見本。『影なき男』の迷犬アスタが出ている。
『教授と美女』('41・米) ☆☆☆☆★
 脚本は、ビリー・ワイルダー、チャールズ・ブラケットの『サンセット大通り』コンビ。長きにわたって百科事典編纂中の言語学教授ゲーリー・クーパーが俗語表現蒐集のため街に繰り出し、クラブの歌姫バーバラ・スタンウィックに出逢うが、この女、実はギャングの情婦で、同僚の七人の老教授連を巻き込んで大騒動に。さばけた姐御を演じるスタンウィックはすこぶるファニー。老教授連を中で「七人のこびとたち」が表現される呼ぶシーンがあるが、白雪姫クーパーは、王子さまならぬスタンウィックのキスで目を覚ますのである。ディテールも巧みで、例えば、女の正体を知って、教授連が下宿に引き揚げてきたシーン。教授連は、女から教わったダンスの練習のために引かれた床のラインを剥がす。下借の女主人が蓄音機を片づけようとすると、弾みでダンス音楽が流れ出し、スタンウィックを嫌っていたはずの彼女は涙を抑えながら部屋を出ていく。ごく短い場面だが、歌姫が老教授連にもたらした一瞬の青春とその喪失感が伝わってくる。ごく短いたシーンだが、こういったシーンがあってこそ、結末に向けて盛り上がろうというもの。コテージの番号の6がひっくりかえり9になって(逆だ ったか)混乱を呼ぶシーンがあるが、『ゴダールの探偵』で同じようなシーンがあったはず。この引用なのかな。


3月7日(日) 『飾り窓の女』
・某ネット・フリマで入手したビデオ。
・『飾り窓の女』('44・米)
監督/フリッツ・ラング 主演/エドワード・G・ロビンソン ジョーン・へネット 
 J・H・ウォーリスの原作は未読。女房・子供を旅行に送り出した大学の犯罪心理学の助教授。行きつけのクラブの横の飾り窓に展示されている美しい女の肖像画に見入っていると、窓ガラスに絵と瓜二つの女の顔が浮かび上がる。謎めいた女の誘われ、彼女の部屋でくつろぐうちに、女の情人が現れ、格闘の末、助教授は誤って男を刺し殺してしまう。身の破滅を恐れた助教授は、死体を遺棄し、男と女は、名前も告げず二度と会わないことを誓い、別れるが…。反ナチ物三部作の間に撮られたフリッツ・ラング監督作は、サスペンス豊かにつくりあげられた風格ある秀作。どしゃ降りの中、自らの車を取りに戻り、山の中に遺棄するまでのシークエンスは、一夜のアヴァンチュールの代償としてはあまりに重いものに巻き込まれた男の切ない息づかいが伝わってくるように描かれる。パトカーによる尋問、料金所におけるトラブル等、すんなりことが運ばないことで、サスペンスはヒッチコック映画のように(おそらく逆かもしれないが)醸成されていく。事件後、助教授は、友人の地方検事とのクラブの会話で、被害者が財界の大立者だと知り、現場に残した靴跡から、相当程度犯人像が絞り込まれてい ることを知る。さらに、事件に興味があると思われて、遺棄の現場に検事と立ち会うことに。言葉の端々に、公知の事実でないことを喋ったり態度で示して、まじまじと観られるシーンは怖い。やがて、被害者のボディガード役が現れ、女を脅迫し、助教授と女は密会し、次なる殺人に手を染めていかざる得ないことを知って−。ジョーン・へネットと脅迫者の心理的に追いつめられていく会話のシーンの演出も冴えている。ジョーン・ベネットは『浜辺の女』よりずっといい。『ローラ殺人事件』のジーン・ティアニーの如く、絵から現れたような謎めいた魅惑の登場シーン。格闘中のエドワード・G・ロビンソンに鋏をもたせ、暖炉にもたれかかる姿は悪女には違いないが、体の線が浮き出たドレスで恐喝者に気丈に対応し、やがて追いつめられベッドで泣き濡れる姿には、観る者はを惹きつけられずにはいられない。オチは曰くあるらしが、ご愛敬と受け取っておく。


3月6日(土) アート・オブ・ノワール
・霞流一『ウサギの乱』(講談社ノベルス)(帯〜誰も思いつかなかった不可能犯罪、いまだかつてない不可思議犯罪!)、『松本泰探偵小説選T』(論創社)、(帯〜戦後初の集大成)、橋本治『嘘つき映画館 シネマほらセット』(河出書房新社)(*掲示板でアーネストさんに教えてもらった架空映画評集)、山前譲編『全席死定』(徳間文庫)購入。最後の鉄道ミステリ・アンソロジーには、風太郎の「吹雪心中」が採られている。・サイ君にせっつかれて『ロード・オブ・ザ・リングV 王の帰還』を札幌駅のシネ・コンシネマ・フロンティアで観る。最近、劇場で観てるのは、このシリーズだけ。チケット売場には予想どおり、行列が出来ている。並んでいる客のお喋りには、昨日6時間ぶっ続けで1、2を観て予習してきたなんて声も。シネ・コンの3つのホールで上映中なのに、席は、前から3列目になってしまい、でかい映像と音響に心臓がバクバクした。3時間半、エピローグの部分はちょっと長いのでは。前作をすっかり忘れ、話のわからないところが多く、あれはなんだ、これはなんだ、と観終わったあと、サイ君に小一時間インタヴュー。
・ノワールなお買い物。
 Eddie Muller (著)『The Art of Noir: The Posters and Graphics from the Classic Era of Film Noir』(アマゾンの書影)。フィルム・ノワールのポスターを集めた270頁の大型本。映画はモノクロでもポスターは皆カラー、当時の映画ポスターがオールカラー、驚くほどの美麗さで再現されている。眼光鋭いタヌな男達が銃を握り、あるいは女を引き寄せる。魅惑的な美女たちが恐怖におののき、あるいは銃を握る。(『月光の女』のベティ・ディヴィスや『拳銃魔』のペギー・カミンズの握った拳銃からは、モクモクと黒煙がたち昇っていたりする)アメリカのみならず、世界のポスターにも目を配っており、『潜行者』『仮面の男』『拳銃の報酬』の日本版も収録。俳優別コーナーもあり、その顔ぶれは
男優 ハンフリー・ボガート、リチャード・コンテ、ダン・デュリエ、ジョン・ガーフィールド、バート・ランカスター、ロバート・ミッチャム、エドモンド・オブライエン、ディック・パウエル、ロバート・ライアン、ローレンス・ティアニー
女優は、ジョーン・クロフォード、グロリア・グレアム、アイダ・ルピノ、Ann Savage、リザベス・スコット、バーバラ・スタンウィック、オードリー・トッター、クレア・トレヴァー、マリー・ウィンザー。聞いたことのない俳優も多い。 
 その他ライター別(ビッグ3と呼ばれるハメット、ケイン、チャンドラーやウールリッチ等)や監督別のコーナーも。中には、現在の目からみても、モダニズムを感じさせるものもあり、観ていて飽きない。そういえば、子供の頃、行っていた銭湯では、必ず映画のポスターが張ってあった。ポスターの主演男優・女優の写真や絵、あおり文句、予告編で、観客は公開予定の映画に想像をめぐらし、自分の映像をつくりあげる。観客にとって映画は「作品」でなくて「事件」であったということに改めて気づかされる、ポスター群だ。


3月5日(金) 『ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎』
・ノワールなお買い物。Paul Duncan (著) 『Film Noir (POCKET ESSENTIALS)』。ポケット・サイズ、100頁足らずの薄い本。内容は、『疑惑の影』『深夜の告白』などの古典の解説とフィルーム・ノワールのフィルモグラフィ。フィルム・ノワール(1940-60)、ポスト・ノワール(1960-75)、ネオ・ノワール(76-92)他で、約1000本の映画が挙げられている。(フィルム・ノワールは647本!)監督や主演を調べるのに重宝だ。イタリア、メキシコといった国のノワール映画のほか、日本の映画も10本挙げられている。ちなみにそのタイトルは、黒澤明『天国と地獄』、鈴木清順『殺しの烙印』、若松孝二『犯された白衣』、深作欣二『仁義なき戦い』『仁義の墓場』、北野武の5作。うむむ。
・読むのが勿体ないなどといってられなくなって。
『ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎』アントニイ・バークリー(晶文社/03.4('27)) ☆☆☆★
 ありあまる想像力と論理癖のゆえに、事件を「つくり出す」メタ探偵ロジャー・シェリンガムの特異な個性が開花した一編。ラドマス湾の転落死事件取材の特派員となったシェリンガムは、従兄弟の相棒アントニイとともに、捜査に乗り出すが…。洞察力に富み、温厚な紳ホーンズビー警部のキャラクターが秀逸で、シェリンガムとの丁々発止のやりとりが、アントニイの恋愛模様ともども中盤までの読みどころとなっている。しかし、作者の狙いはさらに深く、事件と推理は、ラスト一行の台詞に収斂すべく組織されていく。魅力的な推理も、手がかりのアンサンブルも、登場人物も、ここでは作者の捨て石にすぎない。別な古典を思わせる、その屋台くずしの強烈さ−、強靱ともいいたいバークリーの作家精神には改めて脱帽である。真犯人が想像力の豊かすぎる名探偵という存在そのものを利用するマニュビレート・テーマの原型が顔を覗かせている点も興味深い。蛇足ながら、靴の手がかりの扱いの巧みさには、舌を巻いた。


3月3日(水) 『狼は天使の匂い』
おお、これは、と早速、サイン本欲しさに「本やタウン」で予約。札幌で受け取れるところは、3店しかない。鉄人なら、きっと絵入りサインだなと。3月末が待ち遠しい。
・ビデオ屋で見つけたとき、やった、と思った一作。
・『狼は天使の匂い』('73・米)

監督/ルネ・クレマン 主演/ロバート・ライアン ジャン・ルイ・トランティニャン 
 最近観たのでも『十字砲火』(1947)『浜辺の女』(1947) 『罠』(1949)といった作に主演している、ロバート・ライアン。それ以外でも、『ベルリン特急』(1948)、『十三号桟橋』(1949)、『危険な場所で』(1951)『東京暗黒街 竹の家』(1955) 等、随分フィルム・ノワールに出演している俳優だな、と思っていたら、あちらの文献では、「film noir icon」とまで呼ばれている。グーティスの小説を原作にし、ジャンプリゾの脚色した本作は、フィルム・ノワールの衣鉢を継いでいることを宣明するためにも、主演ロバート・ライアンでなければならなかったのかもしれない。展開は、原作に敬意を払ったジャンプリゾの脚色小説(『ウサギは野を駆ける』)どおりだが(当たり前)、有名な「煙草縦3本立て」など印象的なシーンが追加されており、賭けで敗れたライアンは、その後も3本立てを練習したりしている、といった演出でも窺えるように、原作の冷徹なチャーリーに比べ、犯罪チームの家父長としてやわらぎが増している印象。実際この映画では、犯罪チームが一種の家族として描かれており、襲撃の前には、記念写真を撮り、メンバーを数名を失った際にも、写真でも撮ろうかという台詞が出てくる。大がかりな襲撃シーンは、圧巻でコンサート・ホールの地下をタキシードで歩く男達には、ぞくぞくさせられる。シュガー(レア・マッサリ)が美人すぎるほかは、ペッパー(ティサ・ファロー)他の個性的な脇役陣はイメージぴったり。冒頭のルイス・キャロルのエピグラフにも象徴されるように、フィルム・ノワール的世界を一種の おとぎ話にくるみこんだようなトーンが鮮烈な印象を残す。


3月1日(月) 20万
・1日、昼くらいに20万アクセスになったようで、日頃の御愛顧、感謝します。10万のときに、パラエティ・ブックをつくるなどと宣言して、有言不実行のまま。10万&20万で、これをやりたいというのもあるのだが、いつのことになるやら。
・『Murder Is My Beat』(輸入盤)は、クラシック・フィルム・ノワールのサウンドトラックCD。収録は、『アスファルト・ジャングル』『キー・ラーゴ』『マルタの鷹』『ローラ殺人事件』『欲望の果て』『郵便配達は二度ベルを鳴らす』『ミルドレッド・ビアス』『三つ数えろ』『脅迫者』『十字砲火』『苦い報酬』『月光の女』『潜行者』『生まれながらの殺し屋』『マカオ』『ハイ・シエラ』『白熱』の全18曲。
 定番のスクリーンミュージックと違って、この頃の曲は単体では今いち盛り上がらない。各映画の名場面が収録されているが、ヒアリング能力ゼロの当方には、チンプンカンプン。猫に小判の買い物だったかも。

bss.rule