■本の評価は、☆☆☆☆☆満点
☆☆が水準作
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99.12.2(木) 『地獄の同伴者』
・パラサイト・関更新。
・外は吹雪。楠田匡介連夜の登板。ミステリの歴史に「あっさり白状」派という一派を築くのか、それとも昨日のリベンジ(誤用)なるか。師走の一日、楠田匡介を読むというのも、嬉しいんだか悲しいんだかわからない。
・『地獄の同伴者』 楠田匡介 (春陽堂書店:探偵双書)
この本は、学生時代、貸本屋が古本屋に替わった店で買ったもの。山風『太陽黒点』のハードカバーとかも、この店で100円くらいで買った。店を発見して、しばらくすると、廃業していた。今、考えると、黄金郷だったかも。と、あだしごとはさておき。
中編2編と短編「雪」を収録。
●「地獄の同伴者」 原稿料をもらえない純文学作家が、雑誌社の社長、編集長、女性社員の3人の殺害を決意。次々と実行に移していくが、思わぬ邪魔が入り・・。原稿料の督促にいく電車賃にも事欠き、小学生の娘の貯金に手をつけるという冒頭がなかなか凄まじい。「Yの悲劇」をモチーフに、事件は思わぬ展開を示し、主人公の逃避行のクライマックスは、北海道地獄谷で迎える。最後に、サプライズが用意されているが、読者は、だいたいお見通しか。倒叙なのに、田名網警部+香山紅子という名探偵が出てくるのが嬉しい。
●「追いつめる」 警察の手を逃れた男が、逃げ込んだ先は、スネに傷もつ都会議員が所有する警戒厳重なホテル。男は、自室から一歩も出ない生活を続けるが、完璧な密室の中で、不自然な死を遂げる。話は一転。横領犯人の愛人との逃避行が、サスペンスフルに描かれる。話はどう交わるのか。本格+サスペンスという構成の妙が光る一編で、渡辺剣次が代表作としてるのも、頷ける。そして、また、こういう密室トリックには、思わず喜んでしまうのである。これも田名網警部+香山紅子。
●「雪」 これは、特にいうことないでしょう。密室トリックの里程標作。田名網警部物。
この作品集本は、☆☆★をあげられます。リベンジ果たされたり。作者は、北海道出身者のせいか、やたら北海道への言及がある。『犯罪の眼』にも、北海道弁が鍵になっているのがあったし、「追いつめる」の主人公が飲むのは、サッポロビールだし。
99.12.1(水) 『犯罪の眼』
・パラサイト・関更新。
・山田風太郎『武蔵野水滸伝』(小学館文庫)購入。
・「鳩よ!」「ユリイカ」でミステリ特集。まだ、よく眼を通していないのだが、あちこちで話題になっている『ハサミ男』殊能将之インタビューは、面白かった。乱歩と正史の違い、ミステリとSF、本格とは何か、実に明晰。とんちんかんな質問を連発するインタビュアーの小谷真理に、結構あきれる。とんでもジェンダー論に行ったり、横溝作品をほとんど読んでいるわりにその本質が全然わかってなかったり。山形浩生先生も苦笑するのではないか。葉山さんの謎宮会における『ハサミ男』の読みは、明察でしたね。
・『犯罪の眼』 楠田匡介(同光出版)
彩古さんと交換で手に入れた、いわゆるT蔵書。本の天地、目次、冒頭、巻末にもれなく旧所有者T氏の蔵書印が押してあり、なぜか奥付がはぎとられているという、一部で有名な古本らしい。一介のミステリ・ファンにすぎない自分がもっているというのも、なにか面映ゆいものがある。楠田匡介は、密室物で名を挙げた作家だけに、期待が大きい。警視庁捜査一家の吉川刑事、宇野刑事のコンビを主人公とする連作短編集。収録作は、「四十八人目の女」「謎の窒息死」「浴槽の怪死体」「死体紛失」「幽霊の死体」「拳銃を持つ女」「俺は殺さない」「犯人は誰だ」「首のない死体」「連続殺人」「冷凍美人」の11編。面白そうでしょう。それでは、この中の一編、「浴槽の怪死体」を御紹介しよう。
温泉場の娘が殺された。被害者の金が引き出され、出入りした男に渡っていることが判明。刑事が追及すると男は「あっさり白状」。でも、凶器が出てこない。犯人が放り投げた凶器は、もしかして近くを通過した貨車にささってしまったのではないか。然り。終着駅で「凶器は、あっけなく見つかった」。「あつははは。まさか、本当にまさかだね」 こらーっ。
身元不明の死体発見→足の捜査で被害者特定→容疑者を問いつめると「あっさり白状」(本当にこう書いてある)の必勝パターンの連続に悪酔いさせられました。おまけに、不可能犯罪物もなかったし(涙)。「パンパン」「配給」「闇米」「ズロース」「三国人」といったう記号に往時の風俗を偲んで楽しむぐらいしか。ところで、このシリーズもうないのかな、って業は深いか。☆
99.11.28(日)『氷柱』
・パラサイト・関更新。
・待望の牧野修短編集『忌まわしき匣』(集英社/1995円)購入。
・多岐川恭『虹が消えた』『黒い木の葉』読了。
・多岐川恭『氷柱』 講談社文庫 (昭和33.6 河出書房新社刊)
著者の記念すべき処女長編。昭和31年河出書房が募集した長編コンテストに二席入選。同時受賞の仁木悦子『猫は知っていた』と同様、河出書房の財政悪化により、一端出版は、立ち消えとなるが、復活した河出書房新社により昭和33年に刊行された。(『猫は知っていた』は、翌年度の乱歩賞に応募して一般公募後初の受賞作となったことは、周知のとおり)
地方都市に住み、遺産で暮らす元中学教師。冷然たる性格から「氷柱(つらら)」と呼ばれる男がある日、交通事故で死んだ幼い少女を目撃したことから、一般社会との関わりに踏みだし、街を牛耳る黒幕たちに奇妙な「復讐」を敢行していく。隠者のような生活をおくる主人公「私」の風変わりな日常と心象風景が点綴され、少女の母親との交情から、心が動いていく前半がまず読ませる。男の奇妙な「復讐」に話の焦点が移動してからは、一種の倒叙物の様相を帯びるが、抑制の効いた恋愛感情を交えながらも、作者は周到な仕掛けを用意して、探偵小説的興味も十分満たす。昭和30年代の探偵小説に、新しい「性格」と英米流のひねったプロットの妙をもちこみ、端正な文章、ニヒリズムと同居するロマンティシズムという作者の美質が早くも開花している恐るべき処女長編である。
コンテストの選考委員だった乱歩によれば、「前半のニヒリズム小説と、後半のルパン式活劇がどうも不調和な気がして入選に不賛成であったが、選者の一人であった木々高太郎君は、「氷柱」も入選させるべきだと強く主張した」ということである。☆☆☆★
●密室リスト追加
辻真先『仮題・中学殺人事件』『くらやみの天使たち』
99.11.27(土) 多岐川恭
・パラサイト・関更新。
・ジグソーハウスで購入した多岐川恭の本が14冊届く。長編が『氷柱』『売り出す』『みれんな刑事』『牝』『絶壁』『影あるロンド』、短編集が『残された女』『乱れた関係』『捕獲された男』『牝の芳香』『殺人者はいない』『悪人の眺め』『死体の喜劇』『射殺の部屋』。
『濡れた心』、『私の愛した悪党』、『変人島風物詩』、『異郷の帆』、『お茶とプール』、『宿命と雷雨』・・。以前読んだ長編は、どれも面白く、印象深かったのに、最近では、多岐川好きという人も、あまり聞かない。いつかまとめて読んでみたいと思っていたのだ。昭和38年までの著作リストは、別冊宝石117の「現代作家シリーズ3 多岐川恭篇」があるからいいとして、その後のリストは、あるのだろうか。手元にある『霧子、閃く』(ケイブンシャ・ノベルス)には、K・K探偵局シリーズ1とあるけど、シリーズの2は出ているのだろうか。気になるところ。
・『氷柱』、紀田順一郎『古本屋探偵登場』読了。
●密室リスト追加
辻真先『盗作・高校殺人事件』、『改訂・受験殺人事件』
99.11.25(木)
・残業続く。パラサイト・関更新。「二つのクイーン・ドラマ」。
99.11.23(火・祝)
・パラサイト・関更新。「クラーク百姓寄席2」。
99.11.21(日) 『悪魔を呼び起こせ』
・もういっちょう、パラサイト・関更新。
・小樽侵攻作戦の成果。鈴木いづみ『女と女の世の中』(ハヤカワJA)200、リー・ブラケット『赤い霧のローレライ』350、辻真先のソノラマ初期作『盗作・高校殺人事件』『改訂・受験殺人事件』『SLブーム殺人事件』』TVアニメ殺人事件』各200辺りが嬉しいところ。
・前回、安いのを数冊買ったせいか、文生堂から『探偵科学冒険』古書目録届く。風太郎本も総じていい値だが(93年の国書刊行会『虚像淫楽』が6000円とか)、同人誌の「鬼」9冊36万円、「密室」16冊48万円には、溜息しか出ない。探偵本バブルなのだろうか。しかし、つうことは先日、小林文庫オーナーさまから、「LIZARD」2冊で譲ってもらった「鬼」は、単純計算で4万円!?うがあ。御礼に大河内常平をお譲りしたのが、せめてもの救い。
・『悪魔を呼び起こせ』 デレック・スミス(国書刊行会/'99.11('53))
世界探偵小説全集第2期もこの作品で完結。森英俊氏が「創元推理」のエッセイや「世界ミステリ事典」での、熱のこもった紹介によって、密室ファンの胸を焦がしていた幻の作品の待望の邦訳である。
旧家クウィリン家の当主ロジャーは、婚約を機に、家督相続人が受け継ぐ秘密の儀式の復活を思い立ち、幽霊が出るという伝説の部屋に閉じこもるが、厳重に監視された密室の中で殺害された。続いて、事件の重要参考人がまたしても、侵入不可能な留置場で殺害される・・。
作者がプロではないせいか、キャラクター設定や、文章に華がないのはつらい。(探偵と被害者の交渉などは、かなり噴飯物である。)しかし、そんなことは、この際、どうでもよろしい。称えるべき点は、密室を核に据えた謎づくり見事さと、解法の美しさである。作者は、第一の密室で事件が起きるまで、くどいくらい当の部屋が密室として完璧かを説明していく。読者は、この部屋で殺人が起きることは承知の上だから、そこに本格固有のサスペンスというか、うねるような期待感が発生してゆく。殺人発生後も、証拠調べや当事者のディスカッションを通じて、HOWの退路が次々と絶たれていく。この両手、両足を縛っていくような作業(二階堂黎人いうところの「改め」)こそ、本格のセンス・オブ・ワンダー、解決の美しい補助線、本格が美しく翔ぶ瞬間を導き出す基本的な仕込みの一つなのである。第一の密室トリックは、単純な物ではなく(密室そのものが鍵や監視人により多重密室となっているため)、いくつかのトリックのコンビネーションになっているのだが、私的には、犯人脱出の部分のトリックに、まざまざと作品が翔ぶ瞬間を感じた。第2の密室の解法には、さらに美しく翔ぶ
瞬間がある。作品を読み返して、本格の醍醐味を知り尽くした作者の手の内を見る楽しさもまた格別。犯人の設定が今一つ好みではないけれど、これは個人的趣味の領分か。とにかく、久方ぶりに見た美しく翔ぶ密室であった。☆☆☆☆
99.11.20(土)
・パラサイト・関、またまた登板。もう、次のメールもきている。何かあったのか?
・昨日、時季はずれの職場の観楓会(これは、北海道方言らしい。旅行会のこと)で、小樽の巨大商業施設「マイカル・小樽」にある小樽ヒルトンに一泊。帰りに、古本小樽侵攻作戦。結構な当たりだったような気が。
・出たっ。デレック・スミス「悪魔を呼び起こせ」。さあ、読むぞ。
99.11.18(木)
・パラサイト・関、連夜の登板。「EQMM序文翻訳」
99.11.17(水) 大通りのブックオフ
・パラサイト・関更新。熱い『名探偵の世紀』評。
・昨日から本格的降雪。残業後、噂で聞いた大通りのブックオフに行ってみる。聞けば、10月29日に開店したとか。でかい、本が多い。「人間の手がまだ触れない」状態(誰が人間やねん)かと思いきや、めぼしい物なし。
海渡英祐「霧の旅路」(徳間文庫)300
梶龍雄「葉山宝石棺の惨劇」(大陸文庫)340
梶龍雄「天才は善人を殺す」(講談社)100
大谷羊太郎「花文字の憎悪」(ノン・ノベル)400
島田一男「死蝋の市場」(光文社文庫)
というあたりを拾ってくる。「葉山〜」が、密室物なのが慰めか。
●密室リスト追加
梶龍雄『葉山宝石棺の惨劇』、海渡英祐「悪霊の家」
99.11.16(火) クラック博士と人間椅子
・帰途、「ローソクもらい」がクラーク博士の陰謀、という関の細君の説を考えながら歩いていたら、ポール・セローのクラーク博士に関する文章を思い出した。ポール・セローは、「モスキート・コースト」などの小説で知られる米作家・旅行エッセイスト。北海道にやってきたときの文章を「鉄道大バザール」(下)(講談社)から引用してみる。
「クラック博士(CLARK博士がCRACK−ひび割れ博士と聞こえる)の銅像を御覧になりますか?」
と、渡辺さんが言った。マサチュ−セッツの人ウィリアム・S・クラークは、札幌の歴史上最も尊敬されている一人物である。それまで、私は名を聞いたこともなかったが、アマーストのマサチューセッツ農業大学で学長をつとめたことがあるそうだ。(中略)
「青年よ、大志を抱け。(略)」
意味の何とでも取れるこの告別の辞が、日本人を奮い立たせた(「青年よ、大志を抱け」という言葉は、爾後わが青年たちの人生目標となった」と、『札幌案内』に書いてある。)しかし、マサチューセッツの百姓大学から来た男が大志を抱けと日本人に教えて長く歴史に名を留めたというのが、私には何だかオカシクてならなかった。クラック博士とはいやはや。(引用終わり)
「マサチューセッツの百姓大学」というところが、なんとも強烈である。ああ、クラック博士。
・このままだとミステリと関係なくなってしまうので(別に関係なくてもいいのだが)、引用の部分の少し前、セローが東北を「下りはつかり」で北上する部分をご紹介。
「おまけに汽車の中で読んだ本が良くない。それは江戸川乱歩の『日本怪奇幻想小説』であった。著者は本名を平井太郎といい、江戸川乱歩はエドガー・アラン・ポーのもじりで、御本家と同じでもっぱら恐怖小説を書いている。こしらえごとが不自然だし、こけおどしの文章が神経にさわるにもかかわらず、私は話のバカバカしさにつられて読み続けた。日劇ミュージック・ホールの客が娯楽と心得ていた気味の悪い二人舞踏と同じく、こう気味が悪いとつい眼が離せなくなる。日本人の精神の病める一面がここにもあった」
この後、セローは「鏡地獄」「人間椅子」と読みすすめるが、
「「はつかり号」にも、私の座席から二つ、三つ先にごつい握りこぶしを膝に置いたずんぐりと醜い男がいた。しかし、彼はにこにこと笑っていた。乱歩のおかげで私は気が狂いそうになり、とうとう本を投げ出した」(引用終わり)
・セローが読んだのは、もちろん英訳本と思われるが、乱歩を読んだ外国人作家の文章というのは、珍しいのではないだろうか。最近、忘れかけていた乱歩のもつ「気味の悪さ」を思い起こさせてくれる
文章ではある。そして、また、米作家を「気が狂いそう」にまで、追い込んだ乱歩の筆力と「日本人の精神の病める一面」に快哉を挙げたくなるのである。
99.11.15(月) 『幻獣遁走曲』
・昨日買った、英米短編ミステリー名人選集5、E.D.ホック『革服の男』は、実に16年ぶりに出た本格名手の短編集。これは、買い。全作品日本版「EQ」訳出済みというところが、多少つらいところであるが。
・『幻獣遁走曲』 倉知淳(東京創元社(’99.10)
あの、猫丸先輩物の第二短編集。謎解きとしては、多少物足りない面もあるが、読者を吸引してやまぬ、作品世界の構築力は、ますます磨かれてきている。猫丸探偵がアルバイトで出没する五つのファニーな世界。中期以降の泡坂(「トリュフとトナカイ」とか)を彷彿させるような出来映え。☆☆☆
●密室リスト追加
海渡英祐「殺人もあるでよ」(『事件は場所を選ばない』所収)
広告業界を舞台に描かれる二つの死。二つ目の殺人は、エレベーターに乗り込んだ男が一階に着いたときには、槍で刺し殺されていたという魅惑的な謎。エレベーター密室物の名作W・クローンの「サタヌス博士のク不可能殺人」(HMM80.3)ばりの解法もグッド。でも、このオチは艶消し。
99.11.14(日)
・新刊でウールリッチ「見えない死」(新樹社)、恩田陸「木曜組曲」(徳間書店)、京極夏彦「百鬼徒然草 雨」、多田克己「百鬼解読」(講談社ノベルス)、相村英輔「不確定性原理殺人事件」(徳間ノベルス)、谷譲次「踊る地平線・上」(岩波文庫)、「本格推理15」、ホック「革服の男」(光文社文庫)を買う。
・半額店で、角田喜久雄「下水道」(春陽文庫)、戸板康二「塗りつぶした顔」、生田直親「佐賀怪猫
殺人事件」、栗本薫「グルメを料理する十の方法」、ファスト「死刑台のメロディ」を買う。
・「本格推理」は、今回で鮎川編集長は、リタイヤし、二階堂黎人が引き継ぐらしい。二階堂の文書は、相変わらず、おかしな表現が頻出。
・海渡英祐と梶龍雄の短編集を読む。
・「密室犯罪学教程」にとりかかる。
●密室リスト追加
天城一「星の時間の殺人」「村のUFO」「夏炎」「遠雷」「火の島の花」「朝凪の悲歌」「怨みが浦」「影の影」(以上『密室犯罪学教程』より)、梶龍雄「密室なんて、ダイッキライ!」、斎藤肇『殺意の迷走』追加
99.11.10(水) 猫と牛
・仕事が忙しくなると、ネタもないし書く気力も失せる。毎日更新の方を心底尊敬してしまう。
・帰宅したら、猫特集の「ダ・ヴィンチ」が。北村薫の猫を見たがってたサイ君が買ったもの。サイ君曰く「なんか本の情報が多い雑誌だね」って、何をいっておるのか。猫小説の紹介がどっさり。
・猫といえば、和物では初と思われる怪猫アンソロジーが人類文化社という変な名前の会社から。東雅夫「怪猫鬼談」がそれ。このメンバー、この厚さで1800円はお買い得。巷の猫好きに(多少の悪意を込めて)、お薦めしたい。
・この前、高橋徹に聞いた話。彼の家にしょっちゅうあがり込んでくる野良猫は、他にも10軒以上の「我が家」をもっているらしい。夏になると、クーラーのある家にばかり出入りするとかで、TPOに応じて我が家を選択するようである。給料日が近づくと、寄ってきたりとか。猫の葬式をやったら、あなたも猫兄弟でしたかと驚く人がたくさんいるのでは。出入りする我が家でそれぞれ性格を演じ分けているとしたら、立派なビリー・ミリガン猫である。
・なぜか、牛ミステリのアンソロジ−ごっこをやってみたい衝動に駆られるのだが、あんまり思いつかない。山前氏のアンソロジー「12星宮殺人事件」でも、牡牛座には嵯峨島昭の「すきやき殺人事件」を選んでいるくらいで、相当に苦しい。サキには、短編があったような。長編でよければ、ネロ・ウルフ物の牛ミステリ「シーザーの埋葬」をまっさきに挙げるのだが。
99.11.7(日)直
・「鉄人」プレゼント7日24時までと勘違いしてたああ。
・倉知淳『幻獣遁走曲』、恩田陸『象と耳鳴り』読了。
・『ハムレット』を読んで、先王ハムレット殺しの真犯人は、息子ハムレットという説が成立するのはないかと、ふと考えた。(ハムレットは、ドイツに留学していたという鉄壁のアリバイがあると、鉄人に指摘されたが、アリバイは破るためにある!)河合隼雄ほかの『快読シェイクスピア』という本を立ち読みしてたら、中国でシェイクスビア協会が設立されたときに、「誰が先王ハムレットを殺したか」という劇の記念講演があって、次のような数幕が演じられたという。「息子ハムレットが犯人」、「先王の妻ガートルードが犯人」、「先王とオフィーリアは実は駆け落ちした」!・・(立ち読みなので記憶曖昧)。先王殺しの犯人は、実の弟クローディアスであることが、劇中で明示されているため、「真犯人」が別にいるなどと考える人は、そうそういないのではないかと思っていたのだが。またしても、陽の下に新しきものなし、か。
・本日の収穫 ブライアン・アッシュ編「SF百科事典」(サンリオ)1500
●密室リスト追加
鳥羽亮『剣の道殺人事件』、倉知淳「猫の日の事件」、西村京太郎「オートレック号の秘密」、宮原龍雄「五つの紐」、海渡英祐「密室のワンちゃん」
99.11.6(土) give me a candle
・「猟奇の鉄人」の少年物に関する山風情報は、ますます凄いことになっています。
・一昨日、休暇で来札中の高橋徹と飲む。こちらは、サンリオのd「サンディエゴ・ライト・フット・スー」を拠出。スラップ・ハッピーの再発CD「sort
of」を貰う。日本酒の店で、村松友視批判などでオダを挙げていると、となりのおじさんが、なぜか同調。そのうちに、そこらにあった紙を短冊形に切り始め、その日つくったという俳句を速射砲の如く披露しはじめる。うーむ、日本は詩人さきわう国なり。こちらは、好き勝手に講評などをして、大いに楽しまさせていただきました。聞けばそのお方、水原秋桜子門下とか。土産に一句もらってきました。
「池塘みな光沈めて雪待てる」
池塘とは、泥炭地にある湖沼のこととか。動く物影もない、時間も止まったようなこの時期の道北の風景を読んでなかなかと思いましたが、どうなんでしょう。
・本日は、高橋徹、サイ君、猫美女と4人で、行啓通りの「グロッタ」というイタリア料理店でランチ。ここのXTC好きの店主は、一昨日、飲み屋で高橋に紹介された。山美女が膝にテーピングして山に行ったため、山猫シスターズが揃わず残念。パスタおいしゅうございました。高橋は、「住宅建築」という専門誌に、「さまよえるひとりもの トーキョー・プア・フラット」というコラムを連載しているとかで、興味のある方は立ち読んでくださいませ。
・高橋が帰った後で、行啓通りの「オレンジ・ペコ」でお茶。ミルク・ティだけで195種類もあって、どうやって選べっていうねん。
・古本屋で中島河太郎編「海洋推理ベスト集成 血ぬられた海域」(徳間ノベルス)200、海渡英祐
「美女が八人死体が七つ」(徳間ノベルス)200購入。新刊本屋で「創元推理19」「XTC チョークヒルズ・アンド・チルドレン」を購入。創元推理は1900円。この内容では辛いよなあ。
・東宝日劇で評判の「シックス・センス」をサイ君と観る。HMMのフィルム・レヴューでは、意外なプロットは「『アクロイド殺し』に比肩できめレヴェル」との煽り。で、見事にやられてしまいました。デカい伏線があったのに。
本日は、まるで日記だ。って日記でしたか。
・関が書いていた「ローソク出せよ」について、立ち読みで、ちょこっと調べてみました。七夕からお盆にかけて、北海道全域で行われる風習ということで、練り歩く際の歌にもいろんなヴァリエーションがあるらしい。もっとも、オーソドックスなのは「ローソク出せ、出せよ、出さないとかっちゃくぞ、おまけにひっかくぞ」というもの。ローソクではなく、小銭をくれた家の前では、御礼に花火をならすという地域もあるとのこと。最近は、小銭等の強要が好ましくないとして、禁止している学校もある由。つまらないことするな。秋田、新潟の一部にも、似たような風習があるらしいので、関の細君のハロウィン伝播説というのは、ちと違うようだ。ところで、この風習、何という名前なのか気になっていたのだが、ものの本によれば、
「ローソクもらい」
とのこと。しょぼすぎ。
99.11.3(水)
・パラサイト・関更新。
・再び、「猟奇の鉄人」掲示板にて、日下三蔵氏から山風少年物について御教示いただく。「少年」掲載の3作のほかに、小林文庫オーナーがゲストブックに書いていたリレー長編「夜の皇太子」、さらに「暗黒迷宮党」、「冬眠人間(別ヴァージョン?)」、「怪盗魔猿団」という作品が存在するらしい。凄い。クラクラします。
・関の要望に応えて、ポケミス復刊本を書いておきます。10/28付けで書いた4冊のほかに、
エラリー・クイーン編「黄金の12」
トマス・スターリング「一日の悪」
クリスチアナ・ブランド「ゆがんだ光輪」
モーム「アシェンデン」
スラデック「黒い霊気」
スターク「悪党パーカー/殺人遊園地」です。「一日の悪」と「黒い霊気」は、必読の名編。
・10/30、ホークスの「マルタの鷹」('41)と書いたけど、 「三つ数えろ」('46)の誤りでした。東京でハワード・ホークス映画祭が開かれるようで、うらやましい。
●密室リスト追加
芦辺拓・小森健太朗「ブラウン神父の日本趣味」、柄刀一「緋色の紛糾」、小森健太朗「黒石館の殺人」、芦辺拓「黄昏の怪人たち」(以上『贋作館事件』)、森村誠一『ガラスの密室』、勝田鋭太郎「体育館殺人事件」
99.10.31(日) 「江戸にいる私」再見
・えー、既に本日の「猟奇の鉄人」掲示板御覧の方は、おわかりのように山田風太郎「江戸にいる私」は、昭和34年版と昭和48年版は、別作品であることを評論家の日下三蔵さんが指摘してくださいました。ありがとうこざいます。ありがとうこざいます。山風リストとカウント・ダウンの該当部分を修正
しておきます。かねてから同一作品ではないかと思っていたところ、廣済堂文庫版の解説に「昭和34年に書かれた」という一節があり、同一作品と勝手に判断して削除してしまっていたもの。確認もせず、削除してしまったのは、蛮行でありました。日下氏によれば、昭和34年版「江戸にいる私」は、マッド・サイエンティスト素広平太博士物とか。これで、私的には単行本未収録作がまた一つ増えて、楽しみも増えたというもの。
・昨日は、学生時代の友人との飲み会。本日は、二日酔いのまま外出。家に帰ってからは「幻想文学56」等を読んで、だらだらと過ごす。
・本格推理コレクションと銘打たれた恩田陸「象と耳鳴り」(祥伝社/1,700円)。創元の往年の名シリーズ「クライム・クラブ」のカバーを模した装幀で、なかなか素敵でございます。
99.10.30(土) ラティーマーの二発
・昨日の帰り、「宝石」79号(米英仏独加傑作15人集)1,000を購入。ヒュー・オースチン「鼻かけ三重殺人事件」のほか、ステーマンやノックスの短編も入っていて、ニヤリ。別な本屋で、オブライエン「ドーキー古文書」が収録されている集英社版「世界の文学16」800も購入。小林信彦のエッセイの中に出てくる、ド・セルビイ主義なる語を読んで、一度現物を拝みたかった本。しかも、マット・サイエンティスト物らしいぞ。
・「名探偵の世紀」をゆるゆると読む。色々面白し。
・カーター・ブラウン「とんでもない恋人」読了。撮影中に撃ったピストルに実弾がこめられていて俳優が死ぬという設定が、この前読んだラティマー「黒は死の装い」に同じ。共時性というやつか。
・ジョナサン・ラティマーは、本格テイストの濃い軽ハードボイルドみたいに言われているけれど、クレイグ・ライスなどと一緒に、スクリューボール・コメディという枠にくくると、その本質の一端が明らかになるかもしれない。映画でいえば、ハワード・ホークスの「赤ちゃん教育」('38)、「ヒズ・ガール・フライデー」('40)、ルピッチの「生きるべきか死ぬべきか」(42)とか、のあたり。タガの外れた登場人物たちが、狂騒を繰り広げつつ、大団円に向かうコメディ。味付けは、恋愛風味。(余談ながら、眼鏡をとると美人というパターンは、「赤ちゃん教育」に出てきたような気がするけど。これだと、同じホークスの「マルタの鷹」('41)より3年早い。記憶違いかも)
・で、ラティマーの2発をば。
・「黒は死の装い」 ジョナサン・ラティマー(ポケミス669/"59)
主演する大女優に結末が悪いと文句をつけられた脚本家リチャード・ブレイクが、ジャングル映画「夜の牙」のシナリオを徹夜で書き直していると、見知らぬ素裸の美女が迷い込んできて・・。続いて撮影中に撃ったピストルの銃弾が実弾にすり替えられていて発生する大女優殺人事件。衆人環視下で、いかに弾はすり替えられたのかという不可能興味を持続しつつ、ハリウッドの殺人事件は進行する。
脚本家とハリウッドをめぐる話は個人的ツボ(クイーンのハリウッド物とか、ハクスレイ「猿とエッセンス」とか、バートン・フィンク}とか)。不可能犯罪も絡んで、最初からメロメロ。出てくる人物は、撮影所長ファブロをはじめ、皆、強烈な個性の持ち主。視点人物を次々と変えていきながら、ブレイクと新人女優の恋愛を横糸に、面白いようにストーリー転がしていく話術も巧み。ハリウッドを舞台にしたバックステージ物としても、文句がない面白さだ。結末がやや暗くなければ、文句のないスクリューボール・コメディ。ただ、犯人が早い段階で明らかになったので、ツイストを期待したのだが、こちらは、望蜀か。☆☆☆★
・「第五の墓」ジョナサン・ラティマー(ポケミス875/"41)
私立探偵カール・クレーヴェンは、娘の連れ戻しを依頼されて、ボールトンという街へやってきた。娘は、ソロモンの葡萄園という丘陵で1000人以上の信者が暮らす宗教団体に入信してしまったのだ。 地元を牛耳る悪党との派手な銃撃戦や宗教団体の美女との夜毎の情事を経つつ、入神した娘が儀式の犠牲者となりそうという情報をキャッチした探偵は、最後の賭に出るが・・。女好き、酒好きの軽ハードボイルドの典型的主人公が、得体の知れない宗教団体と絡むというミス・マッチがたまらない。宗教団体もどこかタガが外れていて、黒いユーモアを交えつつ、物語も予想を超える進行を見せる。そして、顎が外れるような結末。くせ者ラティマーの真骨頂だ。☆☆☆★
・さて、本日はすすきので飲み会。
99.10.28(木) ポケミス復刊など
・「ミステリ系更新されてますリンク」でも底に沈みつつあったパラサイト・関、久々更新。
・HMM12月号の特集は、エラリイ・クイーン誕生70年。幻のラジオ・ドラマ、本国EQMMの再近号に載ったホック、ジョン・L・ブリーンによる贋作など。クイーンの片割れダネイのエッセイによれば、ホームズに熱中したあとでルパンにはまって、こっちの方がある意味でより強烈な体験だったと書いているのが面白い。ルパンは、現在の英米では影が薄いようだけど、一時期は人気プランドだったのか。
・帰りの本屋で、ポケミス復刊ゲット。購入したのは、キャスパリ「ローラ殺人事件」、アームストロング
「疑われざる者」、ラインハート「ドアは語る」、カーター・ブラウン「とんでもない恋人」り4冊。去年の復刊もかなり読み残しているのだが。帰って本棚をチェックしたら「ローラ〜」は、持っていた。健忘症進行中なり。
・「とんでもない恋人」は、タフガイ、アル・ウィラー警部とメイヴィス・「深呼吸・ブラジャーストラップ切れ」・セドリッツの二大キャラクター激突本だったのね。「ドアは語る」の訳は、村崎敏郎。「私は脚をくじいたので、この二週間来の毎日は三つに区分されている。そのうち二つはこの図書館で起こる」冒頭からわけのわからない訳で大いに楽しめそうである。
99.10.26(火) 「不必要な犯罪」
・帰りに森英俊・山口雅也編「名探偵の世紀」(原書房/1,700円)購入。副題は、「エラリー・クイーン、そしてそのライヴァルたち」。とり挙げられている名探偵は、エラリー・クイーン、ドルリー・レーン、フェル博士とHM卿、アンリ・バンコラン、ファイロ・ヴァンス、ネロ・ウルフ、マローン&ジャスタス夫妻。 喜国雅彦のイラスト、原書のカラー書影。目次を見ていくと、クイーンとカーの未訳短編、クレイグ・ライスのエッセイ、北村薫のクイーン贋作短編辺りで震えが来る。ミステリ・リーグ誌再現、ビッグネームのエッセイ、座談会、完璧な書誌・・。凄すぎる。望みうる最高の名探偵読本である。中学生の頃、こんな本と出逢っていたら、本と心中していたかもしれない、と思わせるような出来映え。ミステリに興味のある人は、必読、必携の1冊だ。珠に傷は、もったいなくて、読めないこと。保存用にもう一冊買おう。
・パラパラと捲っていくと巻末近くに「インターネットのエラリー・クイーン&のライヴァルたち」のコーナーが。どれどれと見ていくと、並み居るサイトに混じって、当HPが過褒の紹介とともに、掲載されているのではないか。カーのリストも載っけていないのに、なんたる光栄。野村さんありがとうこざいました。
・なにかしら届く生活というのは、嬉しいものである。しかし、先日届いたのは、最凶の贈り物。実家で某大推理研会誌「LIZARD」を漁ったときに、8号がないのに気づいて、岩井大兄にコピーを頼んだ
のである。読まない方がいいと断り書きがあったのに、読んでしまったのが不覚。唯一、関が編集した号で、太田ネタはじめ内輪ネタが爆裂。しばし、笑いがとまらない。既に就職してたけど、1冊もらってたはずなんだけど。しかし、よくあんな滅茶苦茶な会誌、山前氏と今朝丸氏に送ったもんだ。若いとは、恐ろしい。
・フクさんからのリクエストにお応えして。つたない感想など。
・「不必要な犯罪」 狩久 (幻影城ノベルス/昭和51.9)
知る人ぞ知るマイナー・ポエット狩久の唯一の長編。文学くずれといったら語弊があるが、戦後の推理小説が、大坪砂男、日影丈吉、中井英夫など既成の文壇に収まりきれない才能の受け皿になってきたという側面は、見逃せない。文学の幅広い渉猟者であるにもかかわらず、どういうわけか自分
の才能が生かせるジャンルが推理小説であると信じ(誤解し?)、推理小説を書いた一連の作家たち。こうした作家たちが戦後の推理小説史に深みと一種の格を与えてきたのは、間違いない。新本格という運動に決定的に欠けているのは、こうしたジャンル外からの奇妙な思いこみを持つ存在だと思うのだが、それは余談。
狩久も、解説の梶龍雄が「鬼才」と書くように、こうした系譜に連なる一人なのだろう。
舞台は、昭和30年代の海辺の町。「精神の貪婪」たる知的な杏子と「肉体の貪婪」たる奔放な葉子という対照的な性格をもつ双子の姉妹を巡る男女の愛憎が主軸。杏子をモデルにした中杉画伯の傑作が盗まれ、画に裸婦の精密な恥部が書き加えられるという奇妙な事件を発端に、妖しい連続殺人が展開する。
まず、欠点と思われる点から。文章の生硬さは確信犯だから措くとして、火の女、水の女という構図や二人をめぐる男たちの愛憎が「芸術」を背景に展開するという図式自体が作品が書かれた当時としても古すぎる。性が一つの主題になっているが、観念的にすぎ生の迫力を伴ってこない。登場人物の奇妙な心理が説得力をもって描かれないので(特に、犯人として名乗り出る人間)、結末のカタルシスが減殺されている。(奇妙な心理・謎解き・ロマネスクのアクロバティクな融合という点では、当時デビューしたばかりの連城三紀彦の方が遥かに上である)。犯人に関する推理は繰り返されるが、作者のナレーションの形で行われことが多く、大時代。
こうして、書くと全然魅力がない作品のようだが、けっしてそんなことはない。特に、最初に殺される杏子がなぜ葉子の水着を着ていたか、という一見普通の謎に「スペイン岬」のような意想外の解決を与え、「不必要な犯罪」タイトルにふさわしいチェスタートン的逆説を浮上させるあたりの呼吸は、優れたものである。そして、何よりも、「推理癖」とロマネスクが融合するものである、融合しなければならない、とでもいいたげな作者の奇妙なオブセッションめいた情熱が一読本書を忘れがたいものにしている。
観念小説を観念的だと批判するのは、筋違いというもの。むしろ、本書の本当の欠点は、観念小説に徹しきれなかったことかもしれない。☆☆★
99.10.24(日)
・昨日は、プレMYSCON大宴会。続々とアップされるレポートを漁っているうちに、こんな時間。参加した方がレポートできる媒体をもっているというのも素晴らしい。「30人の3時間」ならぬ「90人の4時間」って感じですね。もう、参加した人より詳しいよん(虚勢)。次回は、是非参加いたしたく。フクさんはじめ、スタッフの方は、お疲れさまでした。と、ここに書いても・・。
・狩久「不必要な犯罪」、ラティマー「黒は死の装い」「第五の墓」読了。
・山風リスト、カウントダウンに「忍法関ケ原」を反映。
●密室リスト追加
いしかわじゅん「世界一幸福な朝」、大河内常平「工事現場の埋葬」「宮館厩舎殺人事件」、嵯峨島昭「野鳥獣料理殺人事件」
99.10.22(金) 届いた、届いた
・珍しく酒飲みなしの、残業ウィーク。やっと一息。
・一昨日、小林文庫オーナーから、荷物が届く。なにかしら届く生活というのは、嬉しいものである。ブツは山田風太郎、高木秋光ほかの同人雑誌「鬼」(昭和26.3)の3号。こんなのを拝むことができるとは。16頁と薄いのに、水谷・高木・香山・島田・三橋・山田・香住ほかのエッセイと島久平の伝法探偵物の掌編まで読める。風太郎の「高木彬光論」は、単行本未収録の貴重版。また、ご好意により風太郎の単行本未収録短編「泉探偵自身の事件」(昭和23年゜新探偵小説」)を読むことができた。そのほかにおまけも。感涙。オーナーさま、ありがとうこざいますう。
・昨日、山前氏から荷物が届く。何かしら届く生活というものは、嬉しいものである。ブツは、天城一の私家版「DESTINY CAN WAIT」「密室犯罪学教程」「沈める濤」の3冊。1冊目の「風の時/狼の
時」が在庫切れになっているというのは、残念だったけど、良かった良かった。こんなHPをやっている以上「密室〜」はどうしても、手にしたかった本。きょうてえ!抱いて寝る。それにつけても、鉄人日記で、「密室犯罪教程」の横につけられた「d」は、心臓に悪かった。もう少しで、dの悲劇。
・大河内常平「夜光獣」を読了。
99.10.17(日) 「瓶詰めの街」
・本日、午後に、札幌で初雪。モスクワでも、まだ初雪が降っていないというのに、どうなっているのだ。扇風機を片づけなくては。
・昨日は、札幌から1時間半ほど離れた滝川「ラ・ペコラ」にて、いつぞやの3美女と羊料理を食す。シェフが、イタリアとモンゴルに羊料理修行に行っているという本格的な専門店で、ラムのおいしいところを堪能いたしました。羊の脳のフライには、さすがに原罪という文字が頭をよぎったが。ミステリに興味のない山美女が、猟奇の鉄人掲示板を読んでいるのに吃驚。
・そごう10万冊古本市。河出「メグレと幽霊」300、「メグレ氏ニューヨークへ行く」300、ジェイムズ・メルヴィル「智勝寺殺人事件」(中央公論社)100、いしかわじゅん「瓶詰めの街」300。10万冊もあって、こんなものか??。探偵実話5000とか、高すぎ。
・講談社文庫山田風太郎「忍法関ヶ原」出る。帯には、「ブーム再燃!!シリーズ堂々完結」の文字が。売れ行きがよければ、この後も引き続き出ると、日下三蔵氏が幻想掲示板等に書き込んでいただけに、前後半矛盾する帯の惹句がうらめしい。フクさんの「UNCHARTED SPACE」掲示板でも話題になっております。カウントダウンは、近日。
・I「N・POCKET」で、忍法帖「完結」を記念して(あああ)、馳星周との対談ほか40頁の山風特集。書斎のイラストと文が興味深かった。(風太郎は、若い頃「少年倶楽部」には、書いていないと思うぞ)150円なので、買い。
・青樹社文庫から鮎川・山前編「本格推理展覧会 迷宮の旅行者」出る。このシリーズって、まだ続いていたのかと新鮮な驚き。第3巻「凶器の蒐集家」が96年3月刊だから、3年半り。宮原龍雄・大庭武年あたりが嬉しいところ。
・いしかわじゅん「瓶詰めの街」角川書店('94.3)
「東京で会おう」「ロンドンで会おう」に続く、作家南畑剛三を主人公にしたハードボイルド・コメディの3作目(未文庫化)。「白銀は招くよ」「世界一幸福な朝」、表題作の3作収録。「北方謙三」をしゃれのめしたキャラ南畑、その愛人でアイドルシンガーの芦屋美樹、南畑の原稿にいつも泣かされる美人編集者早瀬万里子、常に南畑にプロットの売り込みを図る金山寺・「ぎくうっ」・刑事、いずれも、キャラ立ちまくりで、いしかわハードボイルド・コメディは、完成の域。これ以降のシリーズ作品がないらしいのが、実に残念。「世界一〜」は、おお密室系。表題作は、顔文字が炸裂するパソ通が舞台。南方は、パソ通上ではなぜか16才の女子高生になりきり、「おじさま」に恋心を抱いたりする。☆☆★
99.10.13(水) 「悪魔に食われろ青尾蠅」
・宮澤さん@宮澤の探偵小説頁に背中を押されるように、近所の古本屋で、狩久の長編「不必要な犯罪」(幻影城)2,000を購入。5年くらい動いておらず、いつか下がるのではと思っていたが、いわゆる一つの根負けというやつである。お店の人も喜んでいることでしょう。
・「悪魔に食われろ青尾蠅」 ジョン・フランクリン・バーディン(翔泳社)'99.10('48)
サイコ・スリラーというより、由緒正しくニューロティック・スリラーと呼びたい作品。70年代に埋もれた作品としてシモンズらに再評価され、劇的な復権を果たした作品という。2年間の入院の後、精神病院から退院したハプシコード奏者のエレンは、愛する夫の下に帰るが、夫との生活は、微妙になにかが違っていた。エレンの前に、一人の男が現れ、運命の影は、彼女を深い闇に包み込んでいく。
一読すれば、本書が一般に受けなかったのも、劇的な再評価がされたのも、うなづける。。エンターテインメントとしては重厚すぎる一方、その眩暈のするようなビジョンは、現代を先取りする先見性に満ちているのだ。
ヒッチコックは、精神分析をモチーフにした「白の恐怖」('45)で、従来の映画の夢のシーンのお約束を脱却するため、サルバドール・ダリを起用し、現実的にシャープで明晰なイメージを打ち出したかったという(「映画術」)。本書も、「白の恐怖」の悪夢のシークエンスの影響下にあると想像するのは難しくないが、ここで試みられているは、もっと微妙な感覚だ。不気味の基調低音の下、細部の執拗なまでの描写が日常を離脱していき、自由連想が悪夢にとってかわる瞬間。意識は、時を往還し、空間はひずみ、世界は落下し続け、千のグラスは割れる。
それにつけても、本書は怖い。先を読むのがためらわれてしまうような怖さは、エレンが逃げ惑うフィールドが、己という牢獄内にすぎないことから来るものか。暗鬱なイメージに満ちた、息の長い文章を読み進めれば、真の恐怖はきっと訪れる。
本書は、孤独な島ではないとして、40年代〜50年代のサイコ・サスペンスを紹介し、とりわけEQのサイコ・ミステリ的な側面にまで言及した藤原義也氏(のものと思われる)解説は、流石。(それに比べて、恩田陸のエッセイは呑気すぎでは)☆☆☆★
99.10.11(月・祝) 島田ジャングル・クルーズにうってつけの日
・パラサイト・関更新。
・土曜日の日、帰省中の岩井大兄と、高橋将と私の3人で飲む。順番に某大推理研の初代会長、副会長、会計の3役である。よく続くもんだ。前半は、マイ・ブーム金丸京子話(金丸京子ファンには「屍蝋の市場」が一番とか)ほか、後半は70年代アイドル論。なんだかなあ。
・各所で話題の「男の隠れ家」11月号購入。古本特集なんですね。やっぱり山前氏の書斎が凄いです。パソコンのまわりに散らばっているのがカストリ誌「妖奇」というのも、絶妙。
・古本菌に感染中で、昨日も、屯田のブックオフに行ってしまう。郊外も大郊外のせいか、結構な収穫。トーマス「可愛い女」(立風書房)100、三橋一夫「無敵五人男」(春陽堂文庫)100がとりわけか。でも、三橋一夫の明朗ユーモア小説家ってどうするんだ俺。
・連休中の読書は、大谷羊太郎「60歳革命」と南郷次郎物3冊、というのもなんだかなあ。最後に読んだのがバーディン「悪魔に食われろ青尾蠅」(翔泳社/2000円)だったので、モードを切り替えるのが一苦労。アンナ・カヴァンというか、ムジールというか。心して読まないと、ちとつらい。内容については、改めて。巻末の恩田陸のエッセイは、読後に読まれることを強く推奨。
99.10.7(木) 血風は異ならず
・先週来のドタバタ仕事が片づいたので、帰りに平岸方面を攻めてみる。
○北天堂書店
「別冊幻影城 日影丈吉」1,000
○lリブロ平岸(いつのまにかほとんど映画関連本だけになっていた)
3冊100円棚
アップフィールド「ポニーと風の絞殺魔」(早文)
ジョー・ゴアズ「死の蒸発」(角文)
デアンドリア「殺人アイスリンク」(早文)
野町祥太郎「死相の女」(春陽堂文)
大谷羊太郎「ダブルフェイス」(光文)
P・アンダースン「地球人よ、警戒せよ」(創文)
藤村正太「死の四暗刻」(立風書房)800
○ブックオフ系1
梶龍雄「海を見ないで陸を見よう」(講文)150
多岐川恭「濡れた心」(講文)150
フレーザー「エイブヤード事件簿 人形懐胎」(講文)100
ジェイムズ・ハーバート「悪夢」(講文)150
島田一男「悪魔の系図」(光文)150
○ブックオフ系2
ジム・トンブスン「内なる殺人者」(河出文)270
○ブックオフ系3
多岐川恭「墓場への持参金」(ベストブック社)100
志摩芳次郎「お色気探偵譚」(光風社書店)100
大谷羊太郎「失踪殺人事件」(日本文芸社)150
高原弘吉「消えた超人」(春陽堂文)100
キャロル・スミス「おかしなおかしな大追跡」(角文)100
○ブックオフ系4
ジェイムズ・ハーバート「霧」(サンケイ・ノベルス)300
フランク・ケーン「弾痕」(QTブックス)200
ウォルター・ハーマン「スパイの罠」(QTブックス)200
多岐川恭「元禄葵秘聞」(講談社)200
ラニアン「プロードウェイの天使」(新文)180
ポール・ギャリコ「ジェニイ」(新文)160
・トンプスンはダブリ。決定打に欠けるが、結構血風かも。志摩芳次郎「お色気探偵譚」は、作者が後書きでチェスタートンのファンだと書いているので、結構期待していたり。
99.10.5(火)
・「別冊シャレード山沢晴雄特集号」届く。何かしら届く生活というのは、嬉しいものである。内容は、長編500枚一挙掲載。果たして、読めるのか。
・「名探偵・神津恭介読本」後書きによると、編集に当たった浅草紅堂堂守の方は、この本のおかげで、会社を辞めたとか。んー、入魂すぎる一冊。中には、山風ファンにも、有益な情報が。神津恭介と荊木歓喜が競演する高木彬光・山田風太郎の合作長編「悪霊の群」に関し、出版芸術社の社長、原田裕氏がインタビューに答えて、その舞台裏を明かしている。それによると、合作は原田氏が勧めたもので、アイデアは高木彬光が出し、風太郎が書くということになったらしい。連載何回かでつまずいて、二人の仲が険悪になったこともあったとか。文章の継ぎ目(執筆者が交替している部分)がわからないと、同書を読んだときには感じたが、これで疑問も氷解だ。
同インタビューによると高木の遺作に「乱歩・正史・風太郎」というエッセイがあるらしく、これもいずれ出版芸術社から出るかもしれない。高木の平成3部作の真相も興味深いことでした。
99.10.3(日)
・昨日、来札中の宮澤さん@宮澤の探偵小説頁とお会いし、ジンギスカンなぞつつきながら色々ミステリ四方山話ができて、楽しゅうございました。長時間どうもでした、宮澤さん。また、よろしくお願いします。
・黒白さんから「名探偵・神津恭介読本」送っていただく。「神津恭介ファンクラブ創立10周年記念」ということだが、発行が、あの「名探偵帆村荘六読本」の浅草紅堂本舗だけに、全250頁、商業出版として十分成立するクオリティの高さに、驚かされること請け合い。山田・高木合作「悪霊の群」などについても、新情報多数なのですが、これはおいおい。
・本日は、これにて。