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99.12.31(金) 千年忘れ
・酒飲んでいるうちに大晦日。大掃除を手伝えという、サイ君の有言・無言の圧力を感じつつ。
・昨日は、帰省中の岩井、あっちゃんと飲む。H社のファッション番長にして、内輪で最大の読書家、あっちゃんの大噴火に久しぶりに接して、楽しかった。なんでも、新刊で買って、そのほとんどを新古本屋に売り飛ばしているらしい。3ヶ月以内なら定価の4割で買ってくれるとか。今年の本では、
「永遠の仔、白夜行」「つまんなかった」
「盤上の敵」、法月倫太郎の冒険」「いま一つ」
「ぼっけえ、きょうてえ」「最初の一編を読んで売り飛ばした」(あれはプロレタリア文学と岩井のつっこみ)、
「恩田陸の2冊」「ファンから脱却できてない」
「カムナビ」「読んで腹が立った」
「恋愛中毒」「ミステリじゃない」
「赤い額縁、白い館の惨劇」「中途半端」(「活字狂想曲」「田舎の事件」を勧める)
「ボーン・コレクター」「良くない」
てな調子。結局今年買って、売り払わなかったのは、「芦屋家の崩壊」「どんどん端落ちた」(これは岩井、私の異議あり)「Y」「よもつひらさか」「皆殺し」「エンディミオン」の6冊だけだったとか。特に、「エンディミオン」を強く勧められるが、その前に「ハイペリオン」を読まなきゃならないしな。しかし、久しぶりに、純粋消費者の凄みを観たというか。
岩井のお薦めは、芦原すなお「月夜の晩に火事がいて」(バカミスで星五つ)。私は、「悪魔を呼び起こせ」、「「サヴェッジ・ナイト」、牧野修を強く推奨。
・今年も本日で終わり。ネットにはまって2年半あまり。小林文庫オフ会に出席させていただいたのをはじめ、世界が随分と広がった1年でありました。パラサイト・関ともども、ご愛読いただいた方に深く感謝申し上げます。また、来年もよろしくお願いいたします。よいお年をお迎え下さい。
●国内編リスト追加
 多岐川恭「好色な窓」。これで、950編目。



99.12.28(日) 海野十三全集
・年末に向けて課題山積するも、本日、職場の仕事納め。やれやれ。ばたばたと29、30の飲み会が決まって、やっぱり今年も、酒を飲み続けの正月休みになりそうだ。
・倉阪鬼一郎『白い館の惨劇』、クック『夏草の記憶』購入。
・注文を入れていた落穂舎から荷物が届く。
 『海野十三全集』全15巻(三一書房)、江戸川乱歩『探偵小説四十年』(講談社の全集のうち)、江戸川乱歩ほか『推理小説集1』(昭30・鱒書房)、多岐川恭『好色の窓』(昭和30・講談社)、左右田謙『疑惑の渦』(昭和53・幻影城ノベルス)、推理史話会『謎の女王国』(昭和44・新人物往来社)、コール夫妻『百万長者の死』(世界推理小説全集のうち)、天藤真『日曜探偵』、「宝石」1冊。
 本命だった『推理小説研究 創刊号〜21号』(6万5千円)、山前譲編『推理小説雑誌細目総覧』(7500円)は、外れ。値段が値段だけに、少し安堵しつつも、やはり残念なり。
 『海野十三全集』は、2万8千円なりだか、嬉しい買い物。これで帆村荘六物がまとめて読める。読者プレゼントのテレフォンカードもついていた。第1巻の月報(配本は、10回目)の読者の声に、『帆村荘六読本』の編集に当たられた小林宏至氏のコメントが載っていて、頬がゆるむ。『推理小説集1』は、「風太郎・砂男」とあったので、注文してみたが、高木・大坪・椎名・風太郎・乱歩の短編を収録したアンソロジーで、ちょっとがっくり。風太郎の「女死刑囚」に本人の「あとがき」がついているのが救いか。でも、5千円だしなあ。目録買いは、年季が必要と痛感。
●国内編リスト追加
新世紀謎倶楽部『堕天使殺人事件』、霞流一『屍島』、草川隆『個室寝台殺人事件』、北森鴻「波紋のあとさき」
●海外編リスト追加
 デレック・スミス『悪魔を呼び起こせ』、スチュアート・パーマー『ペンギンは知っていた』、ポール・ギャリコ『幽霊が多すぎる』追加。



99.12.25(土) 歳末スクランブル
・残業やら、忘年会やら、二日酔い死やら、泣きながら(親父の)年賀状印刷やら。頼んでもいないのに、今年も暮れなんとす。
・イブは、円山「パスツール」で食事。コスト・パフォーマンス的には、かなりお得な感じ。本日は、家で
鶏モモ。猫美女にいただいたワインを抜く。(雑誌「幻影城」の件よろしくお願いします。私信)
・鉄人掲示板で情報を仕入れた落穂舎と芳林文庫の目録が届く。見てるだけで飽きないけど、特に、落穂舎の値段にクラクラ。山田風太郎「陰茎人」(東京文芸社 昭29)12万円。「悪霊の群」(東京文芸社 昭和 昭30)9万円。「盲僧秘帖」(東京文芸社 昭和30)9万円。山田風太郎自筆葉書(s47)5万円。うがあ。「陰茎人」や「盲僧秘帖」に入っている短編は、現在、手軽に文庫で手に入るにもかかわらずである。本の状態とかあるから、単純な比較はできないかもしれないけれど、同じ目録の太宰治のデビュー作「晩年」(砂古屋書房 昭12・再)が9万8千円なのをみるにつけ、溜息が出る。
・とはいえ、欲しいものいくつかに注文を入れてみる。ルビコンの河を超えたかも。
・フェラーズ「細工は流々」、マクラウド「牛乳配達退場」、矢口敦子「そこにいる人」(中央公論新社)購入。「そこにいる人」は、普通小説のようだけど、10月の出版。全然気づかなかった。
・小説新潮1月号に霞流一の紅門福助シリーズの短編「ライオン奉行のミレニアム」が載っている。しかも、本編は1万円のお年玉つき犯人当て小説。雑誌代を取り返すつもりで購入、一読してみたが、
見当がつかない。ミステリを読むとき、意外性を楽しむため、犯人当て思考停止脳内麻薬が流れるようになって随分経つが、こういうときは不便。でも、1万円狙ってみるぞ。
・各所で話題の左右田謙「狂人館の惨劇」(春陽文庫)、Qの鉄人掲示板で、クリスマス・ミステリと知って、段ボールから引っ張り出して読み始める。この本、2年前に池袋の文庫専門店で新刊として売っていたのだが。なかなかいい出だし。
・北森鴻『屋上物語』読了。読書中、無性にうどんが食べたくなって、朝飯はうどんにしてもらう。


99.12.20(月) 密室系の苦悩
・山風復刊の興奮も冷めやらぬ、底冷えの夜、皆さまいかがお過ごしでしょうか。玉置宏です。(ともさんの「みすべす」にリンクを貼りました。)
・松本楽志さんからメールをいただく。ポール・ギャリコ『幽霊が多すぎる』は、出入り不能の部屋でハープが鳴るので、密室物なのではないか、というもの。そう、そうなんです。私も、これは、密室物だと思います。ただ、密室系2019編を集めた「不磨の大典」ロバート・エィディ著「Locked Room Murders」(折原一の短編では撲殺の凶器にもなってますが、それほど部厚いわけではない)には、『幽霊が多すぎる』は、出てこないんですよ。それで、ちょっと迷っていたところもありまして。ロバート・エイディほどの人が読み逃しているとも思えないし。犯罪ではないから、セレクトされていないのだろうか。
 今年で気になっているのは、他に、スチュアート・パーマー『ペンギンは知っていた』。後半、独房での殺人という、一種の不可能犯罪が出てくるのですが、これも、「Locked Room〜』には、載っていない。密室物だというと、自殺ではないとバレてしまうからなのかとも思うが、そういうネタは結構多いはず。この小説の場合、殺人であることは、すぐ明らかになるわけだし、不可能犯罪の要件は、満たしているように思う。密室物だと思われるのに、「Locked Room〜」に入っていないのでは、ジョン・ロード『ブレード街の殺人』とかあって、これは出入り不能の部屋の殺人を扱っているので、不可能犯罪物だと考え、リストに入れている。
 悩みが多いのは(笑)のは、毒殺トリックと隠し場所トリックで、どちらも、それ単体だと、不可能犯罪にはならないけれど、周囲の状況では、不可能犯罪となりうる場合もある。鮮やかなトリックを使っていても、状況の縛りが緩い場合は、不可能犯罪に該当しないということになると思うけど、この辺も非常に微妙。デイヴィス『錆色の女神』は、ちょっと状況の縛りが緩いと思う。
・えー何の話でしたっけ。そうそう、『幽霊は多すぎる』は、いずれリストに入れましょう。ありがとうこさぞいました。(ついでに、『ペンギンは知っていた』も)。
・松本さんには、以前にも、ケイト・ロス『ベルガード館の殺人』(講文) を教えてもらいました。(購入は、したものの未読のため、未登載。すんません)このHP2年以上も、やってますが、この作品は「密室系」ではないかとメールで教えてもらったのは、松本さんだけなのですよ(涙)。リストにない作品で、これは、密室系だというのがありましたら、よろしくお願いします、皆さま。
・目下の最大の悩みは、「木から生きた鹿の首が生えていた」という不可思議が設定されている『屍島』の扱い。これは、やっばり不可能犯罪なのでショッカー。
・これから、持ち帰った仕事。そっちで悩め。


99.12.19(日) 山風復刊
・♪とぅるらりら〜、とぅるらりら〜。ストラングル・成田の舞いをプレゼント〜。kashiba掲示板の投稿を通じて、日下三蔵さんにメールで教えていただいた、山風復刊情報。凄すぎます。(もう、ともさんの「みすべす」には、出てますか。そうですか)。早く、書店でお目にかかりたい〜。
・『屍島』読了。
・「メフィスト」臨贈1月号の泡坂妻夫、曽我佳城、復帰作3作読む。「魔術城落成」が最終作なのですが、こ、これは〜。


99.12.16(水) このミスほか
・「かくして殺人を」読了。ちょっと期待値より低かったか。映画業界とカーのスラップスティック、ラブ・コメ志向を語る、霞流一解説は、人を得た感じ。
・「このミス」は、昨日購入。関つぁんのために、面倒だが国内外ベスト10を書いときましょう。
(国内編)
1 永遠の仔 天童荒太  2 白夜行 東野圭吾  3 亡国のイージス 福井晴敏
4 バトル・ロワイヤル 高見広春 5 柔らかな頬 桐野夏生 6 ボーダーライン 真保裕一
7 最悪 奥田英朗 8 盤上の敵 北村薫 9 ハサミ男 殊能将之 10 MISSING 本多孝好
横溝正史「双生児は囁く」は、21位、土屋隆夫「ミレイの囚人」は30位でした。
(海外編)
1 極大射程 スティーヴン・ハンター 2 ボーン・コレクター 3 夏草の記憶 トマス・H・クック 
4 三人の名探偵のための事件 レオ・ブルース 5 悪党パーカー/エンジェル 6 クリスマスに少女は還る キャロル・オコンネル 7 死の記憶 トマス・H・クック 8 パナマの仕立屋 ル・カレ
9 血の流れるままに イアン・ランキン 9 ポジオリ教授の事件簿 ストリブリング
フェラーズ「自殺の殺人」が12位、ジム・トンプスン「サヴェッジ・ナイト」が30位、「ホーン・マン」が31位、マケイブ「編集室の床に落ちた顔」が35位でした。
 以下、徒然なるまま
 ・このミスは、今年はなぜかあまり待ち遠しくなかったな とか
 ・国内物は、別のジャンルのベスト10を見ているようだ とか
 ・国内物ベスト10は、ミステリーチャンネルベスト10とほぼ同じじゃないか とか
 ・レオ・ブルースの4位にすすり泣く人がいるだろう とか
 ・なんで、ジム・トンプスン「ポップ1280」を出さなかったんだ 早川ーっ とか
 ・直木賞選評とかホラー大賞選評とか業界内了解ができあがったところでの攻撃というのは、ちと 寒いな とか
 ・実名座談会に匿名が出たらなんにもならないじゃん とか
 ・山口雅也と我孫子武丸は、本当に撤退してしまったな とか
 ・「新本格がミステリーを乗っ取る日も近い」は、それは話が逆でしょう とか
 ・創元の隠し玉にサム・ホーソン博士物の短編集。わーい、とか。
 ・霞流一ほか「世界バカミス全集」は、昨年の借りを返す大ヒット。読書ガイドになっているところが   エライ とか
と何を長々と書いているのか(暇なのか)
・ハルキ文庫から霞流一『屍島』(600円)が出た。奇蹟鑑定人ファイル第2弾。御本人から構想を聞いたとおり、馬と鹿を掛け合わせた「馬鹿」という動物が登場するマッド・サイエンティスト本格らしい。
ここを読んでいる人は買うように。と、いうことで、実は本日の裏テーマは、霞流一3連発でした。


99.12.14(火) 密室大図鑑
・『有栖川有栖の密室大図鑑』は、密室好き必読。和洋20本ずつの不可能犯罪物の代表作を取り上げ、それぞれにイラストを付したという密室読本。世界で初めてのコンセプトの本かもしれない。感想は、ゆっくり読んだ後に書くとして、和物のうち、坂口安吾「赤罠」、我孫子武丸「人形はテントで推理する」は、当HPのリストになし。文中言及されている鮎川哲也「道化師の檻」、泡坂妻夫「病人に刃物」「亜愛一郎の逃亡」、大河内常平「サーカス殺人事件」も、同様。鮎川と泡坂は、読んでいるはずなのだが、すっかり忘れている。(大河内常平のは、どうやって読めばいいのだろう。)ということで、6編ありがたく、リストに頂戴つかまつる。リストは、まだまだだと思っているけど、やっぱり全然まだまだ、だなあ。一方、江戸川乱歩「目羅博士の不思議な犯罪」と大阪圭吉「闖入者」は、密室物なのだろうか。こちらは、再読してみよう。
●リスト更新
 上記6編のほか、愛川晶『夜宴』を追加。



99.12.12(日) 師走の本買い
・朝まで飲んで二日酔いで倒れていたり、北海道ひぐま文庫を探しに行ったり、あれやこれやら、何だか本の読めぬ日々なり。
・でもって、本日は本買い。
・カーター・ディクスン「かくして殺人へ」(新樹社)2,000
 抄訳は別冊宝石はもっているんだが、読まずによかったと自己正当化。解説は霞流一。映画撮影所の脚本家、スクリューボール・コメディ風の展開と、個人的嗜好をいたくくすぐる展開。後、半分。
・ピーター・ラヴゼイ「地下墓地」(早川書房)2000
 フランケンシュタインがテーマらしく、これまた、個人的嗜好は、くすぐる。
・「ドイル傑作選T ミステリー編」(翔泳社)2500
 ホームズ外典6編ほか全13タイトル。これでは、シャーロッキアンも買わざるをえまい。
・小池滋「ゴシック小説をよむ」(岩波書店)2300
 「ケイレブ・ウィリアムス」とか、いつかゆっくり読んでみたいと思っているのだが。いつになるやら。
・ナボコフ「ディフェンス」(河出書房新社)2200
 社会に背を向け、チェスに没頭する主人公を描いたナボコフの初期作とかで、おたく小説の元祖かも。
・これで、1万円超え。うがあ。
・ネットでは旧聞だけど、小林文庫ゲストブックにおける森英俊氏の日本の不可能犯罪物・埋もれた名作リストは、垂涎のラインナップでありました。
・鉄人掲示板で小林文庫オーナーから、「世界探偵秘史」について教えてもらいました。やっぱり、凄いインターネット。
・特濃度で、「猟奇の鉄人」に匹敵する「BAR黒白」にリンクしました。今後の展開が実に楽しみ。


99.12.7(火) すべてが古本になる 
・タイトルは、意味なし。
・関つぁん、掟破りの一日、二度アップ。ISDNをも溶かす白熱の「誤審の悲劇」レビューに刮目せよ。
・一仕事終えたので(本当か)、帰りに、サイ君にその存在を教わった東方面の古本屋を襲撃。その前に古レコード屋と兼用の古本屋。
ジェリイ・ウォルターズ「砂の館」(角川文庫/小泉喜美子訳)190
バラード「第三次世界大戦秘史」(福武文庫)300
柴田錬三郎「幽霊紳士」(光風社書店/「異常物語」併録)200
dステーマン「マネキン人形殺害事件」(角川文庫)100
紀田順一郎・荒俣宏編「怪奇幻想の文学U 暗黒の祭祀」500
同            「怪奇幻想の文学W 恐怖の探究」900
と、こいつはなかなか。
 次の古本屋で、最大の血風か。
坂部護郎「世界探偵秘史」 (昭和21・星書房)
前書きに曰く「この書は、アメリカの南北戦争以降現代に至るまで、この世界各地に頭角を表した偉大なる刑事、探偵、探偵小説家が手にした代表的事件を年代順、各国別らよって興味本位に記したもので、これ等刑事が取扱った事件は、いづれも実在的、即ち実際にあった事件で仮空のものではない」。
 しかし、ピンカートンとか実在の探偵と並んで、デュパンやルコック、ホームズの扱った事件も、詳しく書いているのである。なんだこりゃ。最近、この本のタイトルをどこかでみかけたような気もするのだが、気のせいか。価格は、恥ずかしいので省略。


99.12.6(月) ヒルダ・ローレンスほか
・新刊ヒルダ・ローレンス『堕ちる人形』(小学館文庫)購入。ヒルダ・ローレンスといえば、『雪の上の血』(東京創元社/世界推理小説全集)。(って、持っていないんだが)すっかり忘れていたバス通学の憧れの美少女と、湯治場で会ったような気分だ。前に、小学館文庫の編集会議には、オールド・ミステリファンの嘱託がいて、数ヶ月に1回やってきて勝手な提案をして帰っていくのではないか、という趣旨のことを書いたことがあるような気がするが、その嘱託辞めてなかったのか。この文庫、マーガレット・ミラーやC・アームストロングなど既刊は、訳や校正に問題がありとされているが、でも、嬉しいぞ。この作品自体は、バーディンの「青尾蠅〜」などとともに、ジュリアン・シモンズの選集に入った埋もれた名作という。
・巻末の作品リストで、中編「Death Has Four Hands」の翻訳がないことになっているけれど、別冊宝石105号「ヒルダ・ローレンス&クリストファ・ブッシュ編」に「四本の手の恐怖」として訳されています。この号をひっぱり出してきて、大原寿人の解説を読んでみたら、
「四年ほど前、『雪の上の血』が翻訳されています。が、これは、じつにひどい翻訳だった。ある高名な、大学教授の訳なのですが、どんなに翻訳探偵小説の好きな人でも30ページ読んだら、頭が痛くなって投げだしてしまうような代物でした。」
 とあるので、もしかしたら『雪の上の血』を読み終えた人は、いないのかもしれない。この訳者は、誰ならんと思って、『世界ミステリ作家事典』の巻末に当たると、鈴木幸夫。うーむ、「推理小説の美学」などの編訳があり、千代有三の筆名で推理小説も書いている人なので、それほど酷いものとも思えないのだが。その翻訳も読みたくなってきた。
・高橋徹氏より情報提供。「通販生活」の冬の号に多岐川恭の「落ちる」(直木賞受賞作)が載っているという。で、店頭確認。これまでも、半村良、干刈あがたとか、つげ義春とか、渋いところが載っていた由。ここにも、意固地な編集者がいるのだろうか。
・猫美女さまから、「んっ、ちゃっちゃっ」じゃなく、「うっちゃん、ちゃん」であるという指摘を受けましたので、一応、書いときます。でも、言語にとって美とは何であるか。



99.12.5(日) 猫たちとの夜  
・昨日は、山美女、猫美女の山猫シスターズとサイ君とで、意味不明の宴会。厚岸のカキなどを食しながら、いいワインをやるという、身のほど知らずの時を過ごす。山美女は、オフシーズンは、膝の筋トレに励むらしい。関氏のアメリカ生活とか、インターネットの話題か結構出てました。二次会場の猫美女邸に移動するときに、初見の1/2ブックスに飛び込んで、顰蹙を買う。鮎哲編「見えない機関車」等結構な収穫。猫美女邸で二匹の美猫に囲まれながら、聞いてしまった飼い主の呪文のような言葉「んっ、ちゃっちゃっ」が脳裏について離れませぬ〜。
・文生堂、K文庫から相次いで、本が届く。K文庫は、ほとんど外れ。北村薫同人誌セットなども、当たるはずはありませんでした。ドイル「クルンバーの悲劇」がちと嬉しい。文生堂は、ガードナー「最後の法廷」、スコット「現代推理小説の歩み」、宝石2冊、飛鳥高「死刑台へどうぞ」、「戦中派不戦日記から35年」という山風の未収録エッセイが載っている「文芸春秋」。
・借りてきた「猫の王」、狩久の短編などを読む。
●リスト更新
井沢元彦『猿丸幻視行』、『ダビデの星の暗号』、楠田匡介「追いつめる」追加。

99.12.4(土) 探偵小説のアジア体験
・小林文庫ゲストブックで、小林オーナーが話題にしていた「朱夏」という雑誌で、特集「探偵小説のアジア体験」を読む。「文化探求誌」とあり、特に旧植民地や日本とアジアとの関わりに深い関心を寄せている雑誌らしい。インターネットで注文したら送ってくれた。
・八本正彦、長山靖生、藤田知浩による作家論(渡辺啓助、小栗虫太郎、夢野久作)、満州出身の作家を語る加納一朗のエッセイ、探偵作家とアジアに着目した作家紹介、大庭武年の「小盗児市場の殺人」の再録等充実した内容。欲をいえば、アジアと探偵小説の関わりに関する総論的な論考を読みたかったが、この分野、今後大きな成果が期待できそうだ。以下、とりとめのない雑談。
・戦時文学や徴用作家、植民地文学の研究が近年進んでいるようだが、戦前の探偵小説に考える上で、アジアとの関わり、特に植民地との関わりは、無視できないものと思っていた。荒俣宏だったかが、「モルグ街の殺人」のオラウータンや「まだらの紐」の毒蛇などが、ボルネオやインドなど異国からもたらされたものであることを指摘して、未知のもの/恐怖/悪は、外部からやってくるという趣旨のことを書いていたと思うが、ミステリが本質的に「悪」を扱わざるをえない文学ジャンルであるが以上、戦前の探偵小説ジャンルの生成に、植民地という「内部化された外部」は、無視できない影響を及ぼしているのではないかと思う。極論してしまえば、日本が植民地をもつことで、ジャンルとしての探偵小説が、英米に遅れて形成されていったという立論も可能ではないか。そういった観点からいっても、今回の特集の論考は、なかなか刺激的である。
・加納一朗のエッセイによれば、満州出身の作者として、加納氏のほか、鮎川哲也、島田一男、樫原一郎、石沢英太郎、南沢十七、西村望、椿八郎、大庭武年などを挙げており、橘外男も満州で生活しているという。これは、戦後の推理小説でも無視できない勢力である。責任編集の藤田知浩氏が書いているが、大藪春彦、生島治郎というハードボイルドの旗手が、それぞれ京城、上海生まれというのも、偶然ではないだろう。
・夢野久作の「氷のはて」(字が出ない)、小栗虫太郎の「完全犯罪」の戦前固有のエキゾチズム、鮎川哲也『ペトロフ事件』の舞台である満州の日・露・中三国が鼎立する異世界・・がなぜ成立し得たのかを探るのも興味あるところだ。
・探偵小説的関心を離れても、満州という偽帝国、キメラは、興味深い存在だ。満鉄という官主導でつくられたコングロマリットは、日本のアナーキストくずれの芸術家や映画人を受け入れるという懐の広さをもっていたらしい。鮎川哲也が満鉄、赤川次郎の父君が満映の職員だったというのも、なにやら奇しき縁だ。(加納エッセイによれば、赤川次郎の父君は、満映の総務課員で、昭和20年、理事長甘粕正彦が自殺したときの第一発見者だったという!)

99.12.2(木) 『地獄の同伴者』
・パラサイト・関更新。
・外は吹雪。楠田匡介連夜の登板。ミステリの歴史に「あっさり白状」派という一派を築くのか、それとも昨日のリベンジ(誤用)なるか。師走の一日、楠田匡介を読むというのも、嬉しいんだか悲しいんだかわからない。
『地獄の同伴者』 楠田匡介 (春陽堂書店:探偵双書)
 この本は、学生時代、貸本屋が古本屋に替わった店で買ったもの。山風『太陽黒点』のハードカバーとかも、この店で100円くらいで買った。店を発見して、しばらくすると、廃業していた。今、考えると、黄金郷だったかも。と、あだしごとはさておき。
 中編2編と短編「雪」を収録。
●「地獄の同伴者」 原稿料をもらえない純文学作家が、雑誌社の社長、編集長、女性社員の3人の殺害を決意。次々と実行に移していくが、思わぬ邪魔が入り・・。原稿料の督促にいく電車賃にも事欠き、小学生の娘の貯金に手をつけるという冒頭がなかなか凄まじい。「Yの悲劇」をモチーフに、事件は思わぬ展開を示し、主人公の逃避行のクライマックスは、北海道地獄谷で迎える。最後に、サプライズが用意されているが、読者は、だいたいお見通しか。倒叙なのに、田名網警部+香山紅子という名探偵が出てくるのが嬉しい。
●「追いつめる」 警察の手を逃れた男が、逃げ込んだ先は、スネに傷もつ都会議員が所有する警戒厳重なホテル。男は、自室から一歩も出ない生活を続けるが、完璧な密室の中で、不自然な死を遂げる。話は一転。横領犯人の愛人との逃避行が、サスペンスフルに描かれる。話はどう交わるのか。本格+サスペンスという構成の妙が光る一編で、渡辺剣次が代表作としてるのも、頷ける。そして、また、こういう密室トリックには、思わず喜んでしまうのである。これも田名網警部+香山紅子。
●「雪」 これは、特にいうことないでしょう。密室トリックの里程標作。田名網警部物。
 この作品集本は、☆☆★をあげられます。リベンジ果たされたり。作者は、北海道出身者のせいか、やたら北海道への言及がある。『犯罪の眼』にも、北海道弁が鍵になっているのがあったし、「追いつめる」の主人公が飲むのは、サッポロビールだし。

 

99.12.1(水) 『犯罪の眼』
・パラサイト・関更新。
・山田風太郎『武蔵野水滸伝』(小学館文庫)購入。
・「鳩よ!」「ユリイカ」でミステリ特集。まだ、よく眼を通していないのだが、あちこちで話題になっている『ハサミ男』殊能将之インタビューは、面白かった。乱歩と正史の違い、ミステリとSF、本格とは何か、実に明晰。とんちんかんな質問を連発するインタビュアーの小谷真理に、結構あきれる。とんでもジェンダー論に行ったり、横溝作品をほとんど読んでいるわりにその本質が全然わかってなかったり。山形浩生先生も苦笑するのではないか。葉山さんの謎宮会における『ハサミ男』の読みは、明察でしたね。
『犯罪の眼』 楠田匡介(同光出版)
 彩古さんと交換で手に入れた、いわゆるT蔵書。本の天地、目次、冒頭、巻末にもれなく旧所有者T氏の蔵書印が押してあり、なぜか奥付がはぎとられているという、一部で有名な古本らしい。一介のミステリ・ファンにすぎない自分がもっているというのも、なにか面映ゆいものがある。楠田匡介は、密室物で名を挙げた作家だけに、期待が大きい。警視庁捜査一家の吉川刑事、宇野刑事のコンビを主人公とする連作短編集。収録作は、「四十八人目の女」「謎の窒息死」「浴槽の怪死体」「死体紛失」「幽霊の死体」「拳銃を持つ女」「俺は殺さない」「犯人は誰だ」「首のない死体」「連続殺人」「冷凍美人」の11編。面白そうでしょう。それでは、この中の一編、「浴槽の怪死体」を御紹介しよう。
 温泉場の娘が殺された。被害者の金が引き出され、出入りした男に渡っていることが判明。刑事が追及すると男は「あっさり白状」。でも、凶器が出てこない。犯人が放り投げた凶器は、もしかして近くを通過した貨車にささってしまったのではないか。然り。終着駅で「凶器は、あっけなく見つかった」。「あつははは。まさか、本当にまさかだね」 こらーっ。
 身元不明の死体発見→足の捜査で被害者特定→容疑者を問いつめると「あっさり白状」(本当にこう書いてある)の必勝パターンの連続に悪酔いさせられました。おまけに、不可能犯罪物もなかったし(涙)。「パンパン」「配給」「闇米」「ズロース」「三国人」といったう記号に往時の風俗を偲んで楽しむぐらいしか。ところで、このシリーズもうないのかな、って業は深いか。☆