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アニマ・エテルナ・オーケストラ 大阪演奏会

日時
1999年10月23日(土)午後5:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
アニマ・エテルナ・オーケストラ
指揮
ジョス・ファン・インマゼール
曲目
1.シューベルト…「ロザムンテ」より序曲、間奏曲、バレエ音楽
2.シューベルト…交響曲第7(8)番 ロ短調「未完成」
3.ベートーベン…交響曲第5番 ハ短調「運命」
座席
1階E列21番(A席)

神さまありがとう!

 このところの仕事々々で今日のコンサートもホント言うとすっかり諦めていました。
 それが偶然にも、4時で全ての作業が終わってしまったのでした。
「え? 帰っても良いの?」
 慌ててシンフォニーホールへと突撃。その結果、5時10分前に会場に到着。ほぼ100%諦めていただけに、信じられない気持ちでした。ママン、奇跡ってホントにあるんだね。神さまありがとう! ありがとう!
 でも明日も仕事。

劇音楽「ロザムンテ」

 会場内に入って驚いたのだが、客席を見ると人が5割ほど。……信じられない。まなこを擦るがやっぱりガラガラ。このオケがすごい演奏をすることは充分予測できるのにどうしてだろう? そんな不満を吹き飛ばすような演奏を期待する。

 最初の音がやや硬いのを除くと、初めから集中力のある演奏で好感を持った。また全員が上手すぎて、技巧的に不安なところが皆無だった。特に「運命」が当時の楽器の性能を越えてしまった箇所があって、古楽器では辛いところがあるはずなのにそれを全く感じさせなかった。
 さて、1曲目の序曲だが、展開部後半からコーダにかけて白熱するような高揚感があって思わず拍手しそうになった。またこの曲のコーダに「グレート」そっくりなモチーフが出てきたのが面白かった。
 2曲目の間奏曲第3番はとても愛らしい旋律美に溢れた曲で、3曲目のバレエは……印象にない。けど素晴らしい序曲が聞けただけでももうけものだと思う。

交響曲第7(8)番 ロ短調「未完成」

 CDといっしょ。……じゃ話になんないんでもう少し。
 第2楽章の方がテンポを速めにとって演奏される。そのためすっきりとした印象を受け、シューベルトが古典派の時代に生きた人だったことを再認識される。堅固なフォルムをしていながら胸一杯の情熱を込めて歌を歌っていた。第2楽章でもっとシューベルトの歌に溺れたいと思ったが、それは贅沢というものだ。
 CDではやや頼りなく感じた弦がここでは優しく暖かく響いた。また木管の響きには心奪われるものがある。

交響曲第5番 ハ短調「運命」

 第1楽章、速いテンポでフェルマータをほとんど伸ばさない。そのためロマン的な濃厚さはなく、古典的なすっきりとしたフォルムをしていた。だから有名な「ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーーン」も「ジャジャジャジャン、ジャジャジャジャン」と切れが良く、再現部冒頭のオーボエソロもさらっと爽やかな涼風のように通り過ぎていった。

 第2楽章、ここも若干速めのテンポ。各調性で調律されている管楽器の音の混じり合いが非常に心地よく、冴え冴えとしているのに暖かみを感じさせる柔らかさが素晴らしい。今の楽器が失ってしまった音だ。
 この木管のアンサンブルが何とも言えず、この楽章を初めて心底美しいと思ってしまった。
 ただテンポがほんの少しだけ落ちる所が「?」で(インマゼールのミス?)、理解できなかった。快速のインテンポだからそのちょっとの変化がとても目立ってしまうのだ。

 第3楽章、スケルツォ(A)−トリオ(B)−スケルツォ’(A’)のオーソドックスな演奏。このところABABA’という演奏もあるだけにちょっと意外だった。
 ホルンが音の出しやすい音域らしく、とてもダイナミックな演奏だった。またトリオのコントラバスが羊腸のガットを使っているため、今の楽器のあまりに強すぎるアタック音が柔らかく、攻撃的な印象が薄れ非常にマイルドな味を持っていた。

 第4楽章、冒頭のファンファーレは金管楽器にとっては辛いものなのか、現在のトランペットなどで聞ける豪快な吹き飛ばしがなかった。しかしそんな表面的なことはどうでもよく、オケ全員が異常なほどの集中力を出し、全員の意志のもと音が結晶化するようなクリアーで内面から輝き出す情熱が噴き出した。これはオケのメンバーによるところが大きく、指揮者を逆に引っ張るくらいの気迫だった。
 最後の音が鳴り終わるとほんの極一瞬残響を味わってから爆発するような拍手が起こった。ブラボーの声も掛かり、観客が少ないのにも関わらず拍手は鳴り止むことがなかった。間違いなくブラボー級。
 アンコールを用意してなかったようだが、余りにも拍手が続くものだから、終楽章の再現部からコーダをアンコールで再び演奏してくれた。

楽器について

 せっかくの古楽器オケなので楽器について見た限りのことを書くと、まず弦楽器が時計回りに第1ヴァイオリン8人、第2ヴァイオリン7人、チェロ4人、ヴィオラ5人の順で、コントラバスはヴァイオリンの後ろに4人でした。またチェロにエンドピンがなく、両膝で抱えて弾いていて、コントラバスは立ったまま演奏していました。
 金管楽器にはピストンがなく、ホルンではピストンのあるところに管が8の字に巻いてあったのが見えた。またトロンボーンがテナー、バリトン、バスで管の長さが全く違っていて、楽器の構え方も今と違ってまるで事務用品のクリップの真ん中に頭を入れるようなカッコでした。
 木管楽器はフルートやピッコロがホントに木製だった。コントラファゴットが昔は今のように管がとぐろを巻いてなくて真っ直ぐだったと聞いていたので、ファゴットの2倍の長さを持った高射砲のような風体を期待していたのですがそれはなかったです。ちょっと残念。

おわりに

 彼らのCDでつい最近ベートーベンの第9が出ましたが(買ったけど聞く暇が……)、今日の演奏を聞いてしまうとぜひとも残りの8曲も聞きたくなってしまいました。シューベルトの全集に続き、ベートーベンの全集も素晴らしいものになると思います。

 総じて、魂が洗われるような演奏会でした。

 さて、次回は11月に入っての大フィル新庄町公演朝比奈隆の軌跡1999としてブルックナー第7番が待っています。
 特に朝比奈隆については前々回のシューベルトも前回のチャイコフスキー(ラジオで聴きました)も超絶的な名演だったので、すげー期待しています。

 それにしてもほとんど諦めていたこの演奏会が聞けて、さらにそれが素晴らしい演奏で本当に良かった。今日は誠に運が良かった。
 まあ、次の土日も仕事ですけど……。えいえんはあるよ。


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