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ザ・シンフォニー名曲コンサート Vol.42
森と海の浪漫

日時
2000年3月19日(日)午後2:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
大阪センチュリー交響楽団
独奏
田部京子(p)
指揮
小林研一郎
曲目
1.シベリウス…交響詩「フィンランディア」
2.グリーグ…ピアノ協奏曲 イ短調
3.ブラームス…交響曲第4番 ホ短調
座席
1階E列25番(A席)

森トンカツ、泉ニンジン

 今日はドイツ三大Bの三人目のブラームスです(笑)。“ドイツ三大B”なんていうキャッチフレーズはハンスリック派がひねり出したものですが、当のブラームスの性格から言ってえらい迷惑だったでしょう。
 大阪は生憎の雨模様でしたが、この湿っぽさを吹き飛ばす熱演を期待してホールに足を運びました。

シベリウス…交響詩「フィンランディア」

 会場の照明が落ちるとコバケンがひょこっと現れ、舞台下手で一礼をするとスタスタと指揮台上に上がった。

 冒頭の金管から大きなうねりを感じさせ、オケ全員の放つ気合いがビシビシと伝わってくる。オケの調子が大変良く、今日の演奏は素晴らしいものになる予感がした。
 演奏の方は一切たるむところがなく、クライマックスに向かってジリジリと盛り上がり、最後は力強くそして輝かしく響きわたった。

 曲が終わると同時に大きな拍手と「ブラボー!」の歓声。その歓声も十分納得できる素晴らしい演奏だ。
 かなり長い拍手が収まると、弦セクションが一時退場して次のコンチェルトの準備にかかった。

グリーグ…ピアノ協奏曲 イ短調

 ステージにピアノがセットさせると、コバケンと田部が大きな拍手で迎えられた。薄い藤色のドレスがすてきだった。

 有名なティンパニのトレモロからのピアノのカデンツァが鳴ると一気に瑞々しいグリーグの世界に包まれた。
 この前の大フィル新庄公演で感じた、田部の繊細だが芯のある硬質でクリアーなタッチがグリーグの気質にみごとマッチして曲の最初から最後まで演奏に引き込まれてしまった。
 特に終楽章がとても良く、上記の美点に力強さが加わり、身を乗り出して聞き入っていまいそうになった。

 曲が終わると会場からは割れんばかりの拍手が起こった。指揮者やセンチュリーの団員もソリストに拍手を送った。
 田部は「マエストロとセンチュリーのみなさんもこの拍手を受けて下さい」とゼスチャーをしたが、両者は「いえいえ」と今日のソリストをたてていた。
 演奏の途中コンマスが持つヴァイオリンの弦が切れるアクシデントがあったが、非常に高揚した気分が会場を包み、前半が終了した。
 ……思わず買っちゃったよ、田部さんのCD。

ブラームス…交響曲第4番 ホ短調

 この曲はブラームス晩年の作品だと言われていますが、作曲された1885年から彼はまだ12年も生きることを考えたらとても晩年だとは言い難く、逆に脂ののりきった時期の作品だと思います。
 だから第1〜3楽章を聞いてみると、そんなに陰々滅々とはしてなくて、かえってほのかな明るさが漂ってくるほどです。(例えが悪いが、マーラーの『夜の歌』のようなもの)
 それだけに終楽章の渋さがあまりにも難しく、第3楽章のにぎやかさと合わせてこの終楽章をどう処理するかが演奏上最大のポイントではないかと思います。さて、コバケンはこの難曲をどう料理するか不安であり楽しみでもあります。

 前半での好調さを受け継いで、センチュリーが精度の高いアンサンブルを聞かせる。その凛とした音は透明で輝くようだった。
 コバケンの指揮もブラームスの持つ歌謡性を充分に意識し、しなやかな手触りで曲を進行させる。
 どの楽章も聞き応えたっぷりで、ブラームスの交響曲では割と退屈な緩徐楽章もじっくりと聞き込めるものだった。
 そして爆発するような第3楽章を受けてアタッカで突入した終楽章では、パッサカリアとソナタ形式とを融合させたこの楽章独特の形式感を確保したままグイグイと突き進み、最後に大きな山場を築くと、一気にクライマックスを迎えた。

 観客を興奮のるつぼに叩き込んだ演奏が終わると同時にワッと拍手が起こり、「ブラボー!」の声がかかった。
 何度も何度もステージに呼び出されるコバケン。その度に「今日はセンチュリーに拍手を送ってください」と各パートを立たせていきました。客席からさらに大きな拍手が送られます。
 そのうちコンマスとの間で、「マエストロも拍手を受けて下さい」「いやいや」「いいえ、どうぞどうぞ」といったやりとりもあって、会場に微笑みがこぼれました。
 確かに今日のセンチュリーの出来は素晴らしいものでした。

アンコール

 鳴り止まない拍手に応えてコバケンが
「え〜、今日はみなさんと一期一会の出会いができて大変嬉しく思います。オーケストラの方も今日は素晴らしい演奏をして下さいました。お別れにハンガリー舞曲の第5番を久しぶりにやりたいと思います」
 そういうと今日のアンコールがかかりました。
 曲の出だしを粘るように歌うと、途中からアッチェレランドをかけて快速で突っ走っていく。コバケンのタクトにセンチュリーがものの見事に応える。これも素晴らしい演奏でした。
 私は大変満足してシンフォニーホールを後にしました。

おわりに

 今日の演奏会の模様は4月2日と9日のABCラジオ( 1008KHz )“ザ・シンフォニーホールアワー”( 7:15 - 8:00 )にて放送の予定ですので、時間が許せばぜひとも聞いてみて下さい。3曲とも素晴らしい出来でしたから。

 総じて、冴えた響きが清々しく感じた演奏会でした。

 さて、次回はゲルギエフとロッテルダムフィルのプロコフィエフの5番とベルリオーズの幻想です。
 大阪国際フェスティバルにはこれの他にも行ってみたい(梯剛之(P)+藤岡幸夫(Con)+大フィル)のがあったのですが、我慢してこの演奏会にかけたいと思います。
 それはともかく、幻想交響曲なんでまさにゲルギエフにピッタリだと思いませんか? いまからとっても楽しみです。


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