玄 関 口 【小説の部屋】 【交響曲の部屋】 【CD菜園s】 【コンサート道中膝栗毛】 【MIDIデータ倉庫】

春を呼ぶコンサート

日時
2001年3月15日(木)午後7:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団
独奏
小山実稚恵(Pf)
指揮
小林研一郎
曲目
1.ヴェルディ…歌劇「運命の力」序曲
2.リスト…ピアノ協奏曲 第1番
3.マーラー…交響曲第1番 ニ長調
座席
2階DD列21番(A席)

はじめに

 前回行った関西フィルのマーラーのあとコバケンはチェコに渡り、そこでチェコフィルとチャイコフスキーの交響曲全集を録音して来たそうです。今日の大フィルともチャイコのチクルスを行っていますが、どんなものになったのでしょうか。
 ステージを見渡すと、大フィルの顔ぶれも定期公演の時とは若干違うようです。また今日のコンサートマスターはマリオではなくてルーシーの方でした。
 会場の照明が落ち、音合わせも終わると、コバケンがいつもの通りトトトとステージ中央へ現れ、演奏が始められました。

ヴェルディ…歌劇「運命の力」序曲

 少しだけ意外だったのはオケがきちんと歌っていたことだ。特に木管陣がアリアの旋律を心地よく吹いていたのが印象に残った。
 またシレッとしてはいたが、かなりのボリュームがオケから出ていて調子自体は良好のようだった。

リスト…ピアノ協奏曲 第1番

 「運命の力」序曲が終わると、ピアノがセットされてトライアングル協奏曲―――じゃなかったピアノ協奏曲が始められた。
 なにより、ソリストの音色に芯が無く、平面的な響きは演奏に引き込まれてしまうような魅力のあるものではなかった。
 確かにテクニック上困難なこの曲をみごとに弾きこなし、無表情な演奏になることもなく情感が込められたものではあったが、ソリストとして最も重要な音色自体の魅力に欠けていたため、心から楽しめるものではなかった。小山さん、調子が良くなかったのかな?
 一方、大フィルは協奏曲の伴奏にしては熱演していると思った。

マーラー…交響曲第1番 ニ長調

 休憩後は演奏者の数もグッと増えてのマーラーとなった。
 ひと月前に同じ曲を同じ指揮者で同じホールにて聞いたため、関フィルとの違いがよく解った。演奏者自体では関フィルの方が上手い、もしくは良い音色ではないかと思う瞬間があったが(特にホルンと弦)、個々の演奏者の音が積み重なったオーケストラ全体の表現力としてはやはり格段の差が認められてしまう。
 ただ思い切りの良かった関フィルに比べ、大フィルの方は腰が重い聞かん坊のような感じを受けた。またオケは結構鳴っているのにシレッとしているように感じてしまうのは、このオケの個性なのかもしれない。
 この日特筆すべきは木管の出来が大変すばらしく、緑頭氏のクラリネットをはじめ、オーボエ、フルートのプレイが非常に冴えていたことだ。

 一方、コバケンの解釈について関フィルと大きく違っていたのはテンポ設定だった。
 チェコフィルとのCD同様に重いテンポでじっくりと音楽が進められていった。なかなか先へ進まない音楽に「いったい何時になったら終わるのかな」と心配してしまったくらいだ。遅いテンポのなか、丹念に各表情を描き出していくのでコバケンの音楽にどっぷりと浸り込むことができた。
 大フィルも第1楽章ではなんかモヤモヤした印象だったが、第2楽章からはシャキリとし、音楽にダイナミックさが現れるようになった。ただトライアングルの叩き方にもう少しデリカシーが欲しかった。
 第3楽章も関フィルとはすっきりと演奏してこの楽章の新しい一面を聞かせてくれたものだったが、この日は正統的な葬送行進曲と言えるものだった。
 第4楽章が関フィルの時はもっと一気呵成に聞かせるものだったが、じっくりと進めた分、今日の演奏はこの楽章が元々持つ構造的な弱さが出た気がする。
 コーダでは金管全員が立ち上がってのクライマックスとなったが、ここだけアッチェレランドがかかり、曲全体の構成から浮き上がって聞こえてしまった。この部分だけは関フィルとの演奏と同じ速さだったが、今日のはテンポが遅かった分その違和感が際だってしまった。
 コバケンの「巨人」はいつもそうなので、仕方ないと言っちゃあそれまでだが、ここをほぼインテンポで乗り切ることができたらもっと「壮大な音楽」になると思うので、その点だけは残念でしかたない。

おわりに

 そこそこの入りだった客席から大きな拍手が湧き起こり、ステージ上をコバケンが走り回ります。
 このうち拍手を制して恒例のコバケンの一言が始まりました。
「(前略)一期一会の出会いが持てたことを大変嬉しく思います。……それで壮大なマーラーの音楽あと、アンコールというのもどうかと思うのですが(ここで大きな拍手) ですが、このままお別れするのも寂しいので(会場から笑い)、25秒から30秒ほどお時間をいただきたいと思います」
 結局やりたいんかい(笑)。と言うわけでいつもの通りマーラーの最後の部分を繰り返してアンコールとなりました。
「56の3つ前」
 とコバケンがオケに指示を出すと、みなさんあわてて「どこだ、どこだ」と楽譜を覗き込んでました。
 最後にコバケンさんがもらった花束をコンマスとビオラトップ、コントラバストップに渡して幕となりました。この辺もいつも通り。
 大フィルが指揮者に続いて解散しようと席を立ちましたが、コバケンが舞台下手の扉の前で立ち止まり、客席に向かって深々と頭を下げたものだから、みんな下手を向いたまま帰るに帰れず、ステージ上で団子になってました。この辺もいつも通り。

 総じて、「コバケンさんいつも通り」の演奏会でした。

 さて、次回はまたもや大フィルのマーラー。今度は「大地の歌」です。秋山さんがどんなマーラーを聞かせてくれるか、非常に楽しみです。


コンサート道中膝栗毛の目次に戻る