おわりに…すべてはイグアナの"奇跡"

そもそもテレビを見るときには本来、その裏側などは別に知らなくてもよいことだろう。視聴者にとっては番組自体の面白さが第一であり、どう制作されたかは二の次である。作り手の意図が作品と必ずしも一致しないことだってある。しかし一方で、作品に対する感動が大きいと、それがどうやって作られたのかがやはり気になってくる。
映画館に映画を見に行くと、必ず売店でその映画のパンフレット(プログラム)を売っている。そこには出演者やスタッフのコメントが掲載されていたり、評論家が作品を解説していたりするのに加えて、いわゆるメイキング・オブ・○○のような話が紹介されている。大がかりな仕掛けの種明かしや、制作費がン億円なんてことなどの裏話的なエピソードが散りばめられていることも多い。それを読み、作品をあらためて反芻するというわけである。
テレビドラマの場合、映画館に足を運ぶのではなく家庭で(いわゆるお茶の間で)見るわけだから、パンフレットなんてものは当然ない。だからどのように作られたかなどもあまり表にでてこない。そんなわけでここではあらためて、「メイキング・オブ・イグアナの娘」といった具合に資料をもとにまとめてエピソードを紹介したのだ。

ふりかえってみると計算どおり狙いどおりというよりも、いくつかの偶然と熱意、そしていくらかの幸運がこの作品を作り上げたのではないだろうか。
高橋プロデューサーと原作の出会いからして偶然の産物であった。そして、そこで生まれた熱意はやがて企画として昇華し、原作者の気持ちを動かし、それまでのタッグを伏線として岡田氏の脚本に結実した。
無論ドラマは企画や脚本のみでできあがるものではない。青島リカを演じきった菅野美穂、そして榎本加奈子、佐藤仁美、小嶺麗奈、岡田義徳ら若手俳優陣。もうひとりの主人公といえる、母・ゆりこを演じた川島なお美。慈愛に満ちた父を演じた草刈正雄。
こうして後から考えても、これ以外にはありえなかったという印象を抱かせるキャストの面々である。

これらをすべて偶然だといって片づけてしまうより、ひとつの奇跡がそこにあったと言いたい。その後にわたって多くの人々の心をとらえてやまないこの作品に、奇跡という表現はけっしておおげさではないと思うのだ。