『スパイ査問問題意見書』第3部

 

第二章 相違点の解決内容、方法

第2の誤り 詭弁的論理使用

 

(連続・7分割ファイル) 第1部(1)  1部(2)  2部  3部  4部  5部  6部

 

第3部目次〕                   健一MENUに戻る

   第2の誤り  詭弁的論理使用

   詭弁(1) “袴田陳述の虚偽規定と、「すりかえ三段論法」の虚偽

   詭弁(2) 架空の“新事実”挿入による虚偽

   詭弁(3) 証拠能力の恣意的評価で、暴行『無』にする虚偽”

   詭弁(4) 虚偽規定の袴田陳述発生の原因分析の虚偽

 

目次〕

 『スパイ査問問題意見書第1部(1)』

  はじめに 『意見書』の立場

  第一章 袴田・宮本陳述相違点の解決内容、方法

  第二章 相違点の解決内容、方法の4つの誤り

   第1の誤り   事実問題

    1、第1の事実問題=器物の用意・搬入・存在の真相

    分析(1)  袴田陳述

    分析(2)  宮本陳述

    分析(3)  木島到着時刻と「小林論文」のウソ

    分析(4)  器物の用意・搬入・存在の真相

 

 『スパイ査問問題意見書第1部(2)』

    2、第2の事実問題=暴行行為の項目・程度・性質の真相

    分析(1)  袴田陳述

    分析(2)  関係者6人の陳述

    分析(3)  宮本陳述

    分析(4)  暴行行為の項目・程度・性質の真相

 

 『スパイ査問問題意見書第2部』

    3、デッチ上げ部分と事実部分との区別

    区別(1)  デッチ上げ部分「解剖検査記録」「古畑鑑定書」の見方考え方

    区別(2)  事実部分

 

 『スパイ査問問題意見書第4部』

   第3の誤り   宮本個人崇拝

    現象(1)  宮本陳述内容の事実性の唯一絶対化

    現象(2)  宮本闘争方法の正当性の唯一絶対化

    現象(3)  闘争での役割・成果の不公平な過大評価

    現象(4)  闘争記録の不公平・一方的な出版・宣伝

 

 『スパイ査問問題意見書第5部』

   第4の誤り  対応政策・方法

    1、有権者反応への政治判断

    2、対応政策

    3、反撃・論争方法

    4、総選挙統括(13中総)

 

 『スパイ査問問題意見書第6部』

  第三章 4つの誤りの性質

  第四章 私の意見・提案

  〔資料〕 2つの事実問題関連抜粋資料

    資料(1)  第1の事実問題 袴田陳述 宮本陳述 3論文

    資料(2)  第2の事実問題 袴田陳述 宮本陳述 3論文

 

〔関連ファイル〕

  (1)、『スパイ査問事件と袴田除名事件  袴田政治的殺人事件の推理劇的考察』

  (2)、『スパイ査問事件の個人的体験』(宮地個人通信第十号)

  (3)、『作家森村誠一氏と「スパイ査問事件」』(添付)森村氏手紙、下里正樹氏手紙

  (4)、袴田自己批判・批判の共産党側資料、「3論文」と「党史」

  (5)、立花隆『日本共産党の研究』関係  「『年表』一部」、「加藤哲郎『書評』他」

  (6)、浩二 『袴田里美予審尋問調書、公判調書全文

  (7)、れんだいこ 宮本顕治論・スパイ査問事件

――――――――――――――――――――――――――――――――

『スパイ査問問題意見書』第3部

 

第二章 相違点の解決内容、方法

第2の誤り 詭弁的論理使用

〔目次〕

   詭弁(1) “袴田陳述の虚偽規定と、「すりかえ三段論法」の虚偽

   詭弁(2) 架空の“新事実”挿入による虚偽

   詭弁(3) 証拠能力の恣意的評価で、暴行『無』にする虚偽”

   詭弁(4) 虚偽規定の袴田陳述発生の原因分析の虚偽

 

 「3論文」において4つの詭弁的論理使用の誤りが発生した。1976年6月、平野謙氏の「『リンチ共産党事件』の思い出」という著書が付属資料として袴田同志の予審訊問調書(1〜19回)、第1審公判調書(1〜3回)をつけて出版された。その調書内容、および平野謙氏の見解にたいする党の見解および反論として、3つの文書が発表された。以下これを「3論文」とする。1)、赤旗6月10日付、袴田論文「スパイ挑発との関連と私の態度」。2)、「文化評論」9月号、小林論文「スパイの問題をめぐる平野謙の『政治と文学』」。これは、新日本新書「歴史の真実に立って−治安維持法・スパイ挑発との闘争」(小林栄三著)にも収録)。3)、赤旗924日付、問答形式解説論文「正義の闘争の光は消せない−袴田調書を悪用する策謀にたいして」。

 この3)の文章は解説で、上記1)、2)と基本的に同一内容のものである。問題は1)、2)の論文において、「査問状況について私の不正確な陳述」「その査問状況の記述こそ袴田陳述の最大の問題」、「査問状況について事実と合致しないそのような袴田陳述」として、2つの事実問題についての袴田是認陳述部分を全面否定しているが、そこで使用されている論理の中で、以下4つは明らかに詭弁的論理である。尚、この論理がその詭弁性について無意識のうちに使用されているのであれば別だが、党は、その論理の詭弁性を明白に意識しつつ、2つの事実問題での袴田陳述を全面否定するために使用している。4つの論理の詭弁性について検討する。

詭弁(1) “袴田陳述の虚偽規定と、「すりかえ三段論法」の虚偽

〔小目次〕

   1、「3論文」の論理

   2、論理の詭弁性

     第1の詭弁性  袴田是認暴行行為の性質についての虚偽

     第2の詭弁性  上記性格規定をする上での証明の欠如

     第3の詭弁性  「すりかえ三段論法」の虚偽

1、「3論文」の論理

 論理内容は以下である。「私は自己の主張をのべるべく取調べに応じた(三)。しかし、結局、系統的な「暴行」なるものを自認するかのような陳述になった(四)」(袴田論文)。「一定の系統的、意図的な「暴行」なるものを自認しているかのような袴田調書の記述」(小林論文、P.54)。「袴田同志の査問状況にかんする陳述は、結局、計画的な「暴行」なるものを自認するかのような陳述になったのである」(小林論文、P.54)。「査問状況にかんする私の不正確な陳述は」(袴田論文、四)。「査問状況についての袴田調書の記述こそ袴田陳述の最大の問題点」(小林論文)。「査問状況ニ関シテハ不正確ナ陳述カアル」(宮本第9回、P.225)「袴田予審調書の書くごとき「暴行脅迫」があったなどとは到底みることができないのである。査問状況について事実と合致しないそのような袴田陳述」(小林論文、P.53)。

 袴田陳述は系統的・意図的・計画的な「暴行」なるものを自認したかのような陳述になっていたが、系統的・計画的な「暴行」などはそもそも一切存在しない。したがって、査問状況にかんする袴田陳述は不正確=゙基本的不正確゙である。袴田陳述は査問状況については事実をのべていない=゙ありもしない「暴行脅迫」を是認するというウゾをのべている。結論として、(1)、暴行為存在の是認の袴田陳述部分の全面否定、(2)、暴行・脅迫行為の存在の全面否定をしている

2、論理の詭弁性

 ここには、下記の3つの詭弁がある。

〈第1の詭弁性〉=゙袴田是認暴行行為の性質゙についての虚偽規定

 袴田陳述は、4項目・3つの性質・上記「程度」の暴行・脅迫行為を是認しているだけである。第2の性質としての「系統的・計画的暴行の是認か、それとも非系統的・非計画的暴行のみの是認か」という問題では、私は後者の性格規定の立場をとっている。系統性有無では、断続的で、バラバラの行為としての非系統的「暴行」のみ是認をした。計画性有無では、衝動的、思いつき的な行為としての非計画的「暴行」のみ是認をした。系統的・計画的暴行をうけたという大泉陳述にたいして、非系統的・非計画的暴行脅迫のみであったと事実をのべて、系統的・計画的暴行の大泉陳述、「リンチ」という特高デッチ上ゲを反論、否認した。非系統的な「暴行」のみを是認という私の性格規定の根拠をのべる。

袴田予審陳述の暴行行為是認内容

〔表30

小畑査問時

大泉査問時

23

なぐるける(査問委員+木島時々)

なぐるける(査問委員+木島時々)

24日開始前

なぐる1回(袴田行為、第1審陳述)

なぐる1回(逸見行為、第1審陳述)

24日午前中

タドン1回(秋笹行為)、硫酸1回(袴田、木島行為)

1回(秋笹行為)、錐1回(誰かの行為)

 〔根拠(1)〕 行為の時間的連続性、連続的行為性有無

 23日には木島が「時偶」、「時々」と是認しているだけで、連続的に暴行したとはのべていない。大泉や小畑が訊問への返答につまったときにこづく、なぐるという非連続性行為を是認した。24日査問開始前に、袴田・逸見が小畑・大泉を1回なぐったのを第1審で是認しているのみである。24日午前中については、その午前中から昼食時までの間に、小畑査問中にタドンを1回瞬間的につけたのみ、硫酸については脅迫行為を1回是認しているのみという非連続的行為である。大泉にたいしても、斧を1回使用のみ、錐も1回臍の上を小突いたことを是認しているのみという非連続的行為である。このような゙時間的非連続性゙、゙行為の非連続性゙の性質の暴行を是認しただけの陳述を『゙系統的な「暴行」を是認しだ』という性格規定をすることは明白な誤りであり、虚偽である。

〔根拠(2)〕 行為種類の同一性有無

 なぐるけるの行為は木島が時々、査問委員または一同がなぐるけるとして一定の同一行為の存在を是認している。24日査問開始前のなぐるけるは予審ではのべておらず、第1審のみである。23日のなぐるけるの行為以外は、同種類行為がくり返し、2回以上でも行はれたとは是認していない。上記〔資料〕のように、4項目の24日午前中の行為はすべて別種類の行為であり、そこらにあった、斧、薬鑵の水、硫酸、タドン、錐(=鉄筆(?))などを各人が、脅迫的意図から、上記「程度」で使用したことを是認しているにすぎない。このような゙行為種類非同一性゙暴行を是認しただけの陳述を『゙系統的な「暴行」を是認しだ』という性格規定を行うことは明白な誤りであり、虚偽である。

〔根拠(3)〕 行為者の同一性、同一人物による連続行為有無

 袴田は、予審では、大泉をなぐる1回、小畑への薬鑵の水をかける行為1回の計2回。秋笹は、大泉への斧1回、小畑へのタドン1回の計2回。なぐるけるは訊問で聞かれていないので、陳述していない。木島は、大泉・小畑を時々なぐる、である。このような゙行為者の非同一性゙の程度の暴行を是認しただけの陳述を『系統的な「暴行」を是認した』という性格規定を行うことは明白な誤りであり、虚偽である。

〔根拠(4)〕 対象者の同一性、同一対象者への連続行為有無

 23日は査問委員、または一同と木島(時々)が小畑・大泉をなぐるけるで回数は不明である。24日は、小畑にたいして、硫酸使用、タドン使用1回づつ、計2回の行為のみである。24日は、大泉にたいしても斧の使用1回、錐の使用1回づつ、計2回の行為のみである。このように゙同一対象者への非連続行為゙の程度の暴行を是認しただけの陳述を『系統的な「暴行」を是認した』という性格規定を行うことは明白な誤りである。

〔根拠(5)〕 行為そのものの計画性有無

 木島の時偶の行為にしても「大泉ノ査問ノ途中、木島カ二階ニ上ツテ来テ査問ヲ聞イテ居リマシタカ時偶大泉カ返答ニ窮シタ時ニハ此ノ野郎ト云ウテ大泉ヲ殴ツタリ側カラ口ヲ出シタリシテ居リマシタ」(袴田予審大11回、P.231)というような衝動的な行為の是認陳述である。とくに、斧1回、硫酸1回、タドン1回、錐1回については、その「状況」、その「程度」を見れば、そこにはなんの計画性もなく、袴田がそこににあった薬鑵の水で脅迫してやろうと思いついたものであり、小畑の「其ノ動作力余リ滑稽テアツタノテ夫レニ暗示ヲ得テ」(P.248)木島が硫酸をつけることを思いついたのである。秋笹がそこらにあった斧やタドンで脅迫してやろうと思いついたのである。それらはまさに2人の査問中において「返答ニ窮シタ時ニ」各人が衝動的、思いつき的に゙暴行というより脅迫゙をした程度のものである。このような゙行為そのものの非計画性゙程度の暴行を是認しただけの行為を『計画的な「暴行」を是認した』という性格規定を行うことは明白な誤りである。

〔根拠(6)〕 同一行為の回数、異る対象者への同一行為有無

 斧、硫酸、タドン、錐とも、上記「程度」で各1回づつ瞬間的にやられただけという是認である。小畑・大泉の2人にたいして、23日の回数不明のなぐるける以外は、同一行為はやられていない。小畑には硫酸、タドン各1回、大泉には斧、錐各1回のみ是認した。このような゙同一行動の回数゙程度、゙異る対象者への同一行動゙程度の暴行を是認しただけの陳述を『計画的な「暴行」を是認した』という性格規定を行うことは明白な誤りであり、虚偽である。

 〔根拠(1)〕から〔根拠(6)〕で見たように袴田予審陳述は暴行・脅迫行為の存在を是認しているが、その行為の性質については、それらのどこを見ても『系統的・計画的・意図的な「暴行」を自認したかのような陳述』にはなっていない。このような事実に反する虚偽的性格規定をすることは、暴行行為存在全面否定という最後の結論を引き出すための詭弁にほかならない。後でのべる「すりかえ三段論法の虚偽」を成立させるための性格規定のすりかえである。「3論文」の〈第1の詭弁性〉は、系統的・計画的な暴行を反論・否認し、非系統的・非計画的な暴行の存在のみを是認した袴田予審陳述内容の性質を、その事実に反して、『系統的・計画的・意図的な「暴力」を自認したかのような陳述』という虚偽的な性格規定を行っていることである。

〈第2の詭弁性〉=この性格規定をする上での証明欠除

 そもそも袴田予審陳述が『系統的な「暴行」、あるいは計画的「暴行」なるものを自認したかのような陳述』であれば、それば一貫した非転向中央委員の陳述゙としては大問題である。なぜなら、『系統的・計画的な「暴行」』は、私的制裁、私的に刑を科する行為としての「リンチ」行為における「暴行の系統性・計画性」と事実上、同義語的意味をもつものであり、さらには「査問即リンチ」の特高のデッチ上げとも同義語的意味をもつものである。そのような性質の意味をもち、かつ、存在もしなかった『系統的・計画的な「暴行」』を一貫した非転向中央委員が、「非転向」という一方で、是認していたというのか。「3論文」以前には、袴田陳述内容の非事実性の記述は「文化評論」4月号などにあるが、上記のような性格規定は一切、党説明で出されていない。「3論文」ではじめて提起された規定である。

 この性格規定のもつ重大性、重大な意味内容からいって、その規定をはじめて提起する場合、その規定の証明、根拠を示すのは当然である。袴田予審調書における暴行行為是認部分の性質が、だれが見ても『「暴行」の系統性・計画性』を一目瞭然に示しているのであれば、その証明は当然必要ない。しかし、私自身がどう見ても『「暴行」の系統性・計画性を自認していず、反論・否認している』と判断せざるをえないような予審陳述を、あえて『系統的・計画的な「是認」を自認している』という性格規定を主張する以上、当然その証明をしなければならない。

 「袴田論文」で証明、説明は一切ない。上記性格規定のみが、孤立して、なんの証明もなしに突如として、初めて出されている。しかも、それは『系統的な「暴行」を自認した陳述』という用語でなく、『系統的な「暴行」なるものを自認するかのような陳述になった』という、まわりくどい日本語表現方法でのべられている。「小林論文」で証明、説明は一切ない。問題点の事例については〔第2の詭弁的論理〕でのべる。性格規定として、「袴田論文」の『系統的』のみでなく、『意図的』『計画的』という用語もつけ加えられしたがって、袴田予審陳述は『一定の系統的・計画的・意図的な「暴行」なるものを自認するかのような陳述になった』と規定している。後で検討する「小林論文」の「(2)袴田調書の問題点の事例」の全体においても、上記性格規定を証明する事例は入っていない。「解説論文」でも証明、説明は一切ない。このような重大な、かつ初めての性格規定を゙なんの証明もなぐ提起すること自体誤りであり、〈第1の詭弁性〉にあわせて、二重の誤りであり、二重の虚偽である。

〈第3の詭弁性〉=「すりかえ三段論法」の虚偽

 〈第1、第2の詭弁性〉はこの「すりかえ三段論法」の虚偽を成立させるために、意識的に行なわれている。

〔表31

「事実」

「すりかえ三段論法」

(大前提)

系統的・計画的な暴行などそもそも存在していない。

暴行については協議もなく、計画もない。

私的科刑としての「リンチ」性暴行もない。

系統的・計画的暴行などそもそも存在していない。

(同左)

(同左)

(第二前提)

袴田予審陳述は、

イ、暴行の協議・計画を否認。系統的・計画的な暴行をうけたという大泉陳述を反論・否認した。

ロ、事実としての非系統的・非計画的な暴行脅迫行為のみを是認した。5項目・3つの性質・上記「程度」の暴行脅迫行為のみを事実として是認。

袴田予審陳述は、

ロ、系統的・計画的・意図的な暴行を自認したかのような陳述になった。

◎第二前提のすりかえによる下記結論への転換

(結論)

故に、袴田予審陳述の

イ、の部分は正しい。事実に合致している。

ロ、の部分は、上記全体でのべたように事実である。

故に、袴田予審陳述は、

ロ、の部分は、(大前提)に合致せず、事実をのべていない。そんな系統的・計画的「暴行脅迫」などありえない。

暴行行為そのものが一切存在しないとする宮本陳述のみが真実・真相である。

 (大前提)については、反共攻撃側は別として、民主勢力内部ではほぼ゙常識的゙なことで、だれでも認める事実である。但し、この(大前提)は「3論文」にば当然の前提゙として直接にはのべられていない。(第二前提)の左側「事実」部分については上記全体でのべてきた。「3論文」の虚偽はこの(第二前提)を大前提との三段論法の関係で、「右側」部分にすりかえたことにある。さらにその性格規定においてなんの証明・説明もしなかったことにある。(結論)として、この(第二前提)のすりかえが通れば、三段論法の結論としては「右側」部分に転換できることになる。そして、袴田予審調書の暴行行為是認部分の性格規定としてば事実に反するが゙、三段論法としてば成立゙し、逆に゙事実に反する゙(結論)が論理的には成立する。かくして、「すりかえ三段論法」として完成する。党は、反共謀略側の攻撃がいかに低劣、卑劣、宮本個人攻撃の形態をとろうとも、このような詭弁的論理を使用して対応すべきではない。

詭弁(2)  架空の“新事実”挿入による虚偽

1、「小林論文」での袴田予審陳述の非事実性、問題性証明方法

 「文化評論」9月、P.52「三、肉体的暴行という問題」のうち「(2)袴田調書の問題点の事例」について検討する。下記9項目事例により、袴田調書は、『査問状況についての記述こそ、袴田調書の最大の問題点』『袴田予審調書の書くごとき「暴行脅迫」があったなどとは、到底見ることができないものである』『査問状況について事実と合致しないそのような袴田陳述』であるとして、その陳述内容の基本的非事実性(=基本的不正確性)を結論づけ、゙事実無根の暴行゙を是認陳述したものとして、その是認陳述部分の事実性を全面否定するという方法をとっている。「小林論文」のあげる問題点の事例に、多くの゙架空の新事実(=ウソの新しい゙事実゙)゙がふくまれていれば、その証明方法は根本的に成立しない。

 「問題点の事例」=下記9項目と結論

 1)、「威嚇器具」についての協議有無。2)、「威嚇器具」の査問会場取り揃えについての他査問委員の陳述有無。「威嚇器具」など会場になかったことの証拠・証明としての、イ、小畑逃亡取り押え時の「兇器」をもったことの有無、ロ、査問」第2日目朝の逸見陳述による査問会場の様子。3)、「威嚇器具」搬入者とされている木島の秋笹宅玄関へのはじめての到着時刻相違と木島が二階へ上がる時刻による木島による器物搬入有無。4)、「威嚇器具」の他人使用行為目撃の袴田予審陳述の袴田公判陳述での消滅有無。5)、斧、錐、タドン、硫酸使用行為者といわれた本人の自己行為自認陳述有無。6)、袴田第1審・控訴審公判での器物、硫酸、錐使用行為否認有無。7)、兇器なるものの搬入証明、存在確認、使用証明有無。8)、小畑逃亡取り押え時の状況での陳述相違。9)、「生命の危険を感じ」されたかもしれぬほどの「暴行脅迫」存在是認陳述内容の事実性評価。そのような「暴行脅迫」など一切ないことの証拠・証明として、イ、熊沢、木俣の証言証拠、ロ、隣家証言証拠。10)、9項目事例にもとづく結論として、『袴田予審調書の書くごとき「暴行脅迫」』の存在の全面否定をし、『査問状況について事実と合致しないそのような袴田陳述』という評価を下している。

2、「小林論文」証明方法の詭弁性

 9項目の『問題点の事例』は3つに分類できる。〔性質(1)の事例〕は、宮本陳述でも、「小林論文」でものべていない゙新事実゙である。しかも、それは明らかなウソの事実である。上記第2、3、4、5、6事例は、『ウソの゙新事実゙』を捏造して「袴田問題点」を証明する手法である。〔性質(2)の事例〕は、゙新事実゙ではなく、宮本陳述ものべているが、゙虚偽の事実゙である。第7事例は『ウソの゙事実゙』を現情勢でも再主張して、「袴田問題点」を捏造している。〔性質(3)の事例〕は、一定の袴田問題点ではあるが、゙部分的不正確性゙゙を示しているにすぎない陳述部分を、゙基本的不正確性゙にすりかえる手口である。第1、8、9事例は『問題点の性質すりかえの虚偽』を行って「袴田問題点」を捏造している。「袴田陳述の最大の問題点事例」の3つの分類にもとづき個々の検討をする。「小林論文」の9項目の問題点事例の文章全体は文末〔資料(1)〕〔資料(2)〕の2つの事実問題での資料にのべた。したがって、以下は個々の部分のみ引用する。

〔性質(1)の5事例〕 『ウソの゙新事実゙』捜入の詭弁

≪第2事例の゙新事実゙性とその゙新事実゙にもとづく論理の虚偽性・ウソ≫

 この事例の゙新事実゙性をのべる。「小林論文」では、器具の取り揃え・「存在」否定の事例として、『予審で、袴田同志は、「威嚇器具」が査問第一日の朝から査問会場の秋笹宅二階にあって、木島がもちこんだようにのべてはいるが、他の査問委員はそれらの器具が取り揃えてあったようなことはのべておらず』、(P.52)とした。宮本陳述では、他査問委員(秋笹、逸見)の取り揃え陳述の有無はのべていない。袴田陳述の5品目の器物の用意・搬入・存在確認・並べ直しの是認陳述部分には直接的批判をなにもしていない。これまでの党説明(=19769月の「小林論文」のでる以前の説明)では、査問委員の器具取り揃え陳述の有無を根拠として、袴田陳述のその部分=器物の会場「存在」是認陳述の基本的非事実性を証明するという方法をとっていない。

 この゙新事実゙にもとづく論理の虚偽性、詭弁性として、ここには問題が2つある。第一に、他の査問委員(秋笹、逸見)の器具取り揃えの陳述がないというのは事実かどうか() これは、事実であると考える。査問委員でなく、警備隊責任者としての木島は5品目の器物用意・搬入・存在についてはなにも陳述していないのかは不明である。第二に、取り揃え陳述のないことだけで、5品目器物の会場「存在」という袴田陳述内容の事実性を否認することが論理的にできるかどうか(?) 他査問委員が、器具取り揃えをのべていなくても、その器具「使用」是認陳述をしていれば、それはその器具「存在」を前提とした陳述であり、実質的にその器具「存在」を是認している陳述である。器物「存在」・「並べ直し」・「使用」につての陳述と、上記「小林論文」が論理的に成立するのかを検討する。

〔表32

「威嚇器具」

その他の器物

出刃包丁

硫酸瓶

針金

細引

存在

並べ直し

「使用」是認

袴田

二挺

二挺

一瓶

4品目

秋笹

○4品目

逸見

○4品目

木島(警備隊責任者)

(?)

○4品目

印は「存在」、「使用」の陳述、印ばなんらかの゙「使用」是認陳述、

印は「存在」のみの是認陳述、「使用」は否認

 存在(=取り揃え)是認陳述は袴田のみで、警察・予審・第1審公判とも首尾一貫している。その変更点は〔第1の事実問題〕でのべた。木島の「存在」是認陳述有無は不明である。器物の゙なんらかの゙「使用」是認という点では、斧、硫酸瓶、針金、細引という4品目「使用」で上記4人が完全一致している。査問委員4人中では、宮本をのぞく3人の査問委員が4品目「使用」で完全一致している。その相違点は〔第2の事実問題〕でのべた。この4人、または査問委員3人の、取り揃えてあったという5品目中4品目「使用」是認陳述はそれらの器物の「存在」を前提としているは当然である。「存在」の事実上の是認陳述となる。

 査問委員3人の「存在」(=取り揃え)陳述の有無について、(1)逸見は、大泉(または小畑)を会場へつれてくる担当であるため、査問開始前の第一日朝からの器物の取り揃えについては直接見ていないし、器物の用意・搬入についてなんら関係していない。(2)秋笹も、木島に器物の用意を命令していないため、器物の用意・搬入についてなんら関係していない。その用意経過をのべることはできない。(3)袴田のみが、器物の用意についての命令者である以上、その用意経過(命令品目、非命令品目、用意、搬入、存在確認など…但し、搬入そのものは直接見ていない)をふくめて陳述できるのは当然であり、また、その内容として、上記〔第1の事実問題〕でのべたように、その経過段階陳述の首尾一貫性、「存在」是認についての警察・予審・第1審公判での首尾一貫性があるのも当然である。

 「小林論文」は、器具取り揃え陳述有無をのべることを通じて、細引をのぞく5品目の器物など会場に「存在」もしておらず、袴田陳述はウソをのべているという詭弁を使用した。「存在」を前提とした「使用」是認陳述があるにも拘らず、それを意図的に黙殺しておいて、それで袴田陳述内容を否定する問題点事例とすることは論理的虚偽である。他の部分でその「存在」を事実上是認した上での「使用」陳述がある。これは、その器物「存在」否認を証明しない陳述でもって、器物の「存在」否認を証明する事例とした詭弁証明法である。

≪第3事例の゙新事実゙性と、その゙ウソの新事実゙にもとづく論理の虚偽性≫

 「威嚇器具」の搬入者とされている木島の秋笹宅玄関へのはじめての到着時刻相違と、木島が二階へ上る時刻問題による木島の器物「搬入」否定の証明方法、器物「存在」否定の証明方法である。この事例の゙新事実゙性は、〔第1の事実問題〕でのべた。「小林論文」の第九段階説にもとづく論理は、4つの矛盾点をもち、ウソの゙新事実である。この<第九段階説>にもとづく器物の会場「搬入」・「存在」否定論理の詭弁性は、〔第1の事実問題〕で全面的にのべた。

≪第4事例の新事実性と、その虚偽性、ウソ≫

 この事例の゙新事実゙性をのべる。「小林論文」は、『それらの「威嚇器具」を大泉や小畑にたいして、他人が使ったという陳述はあるが、それらも公判ではほとんど消えてしまう』とした。宮本陳述で、公判ではほとんど消えてしまうとはいっていない。木島の硫酸第3段階行為是認の袴田予審・第1審公判陳述のうちで、木島の行為を控訴審で取り消したといっているだけである(宮本第9回、P.226)。これまでの党の説明では、公判でほとんど消えてしまうとは一度もいっていない。

袴田公判での他人の器具使用是認陳述有無

ほとんど消えているかどうか(?)

〔表33

予審

1審公判

控訴審公判

公判(両者を含む)

狭義の「威嚇器具」の使用

(秋笹)

(秋笹)

(第1審公判)

他の器物の使用

硫酸

(木島)

(木島)

×木島を取りけし

(〃)

タドン

(秋笹)

(きかれていない)

(誰か)

×否認

(宮本か誰か)

(控訴審公判)

印は「公判で消えていない」もの、?印は不明のもの)

 ここには、3つの問題がある。第一に、狭義の意味での「威嚇器具」の他人使用是認陳述は「公判で消えている」かどうか(?) 第二に、他の器物使用をふくめた4品目器物他人使用是認陳述は「公判で消えている」かどうか(?) 第三に、「公判でほとんど消えている」から、袴田予審調書の器物使用是認内容は基本的非事実性であるという「小林論文」の袴田予審陳述内容否定の論理は成立しうるかどうか(?)

 第一、「威嚇器具」の他人使用是認陳述は「公判で消えている」かどうか。

 威嚇器具については、斧、出刃包丁、ピストルであるが、(1)、斧の他人使用是認予審陳述は、秋笹の大泉への1回使用。(2)、出刃包丁は、「存在」是認のみで、その「使用」全面否認の予審陳述。(3)、ピストルは、小畑会場到着時に「ピストルを手にもっていた」という自己行為自認のみで、他人行為としてのピストル使用は一切陳述していない。したがって、他人使用是認陳述としては(2)、(3)は問題でなく、(1)斧使用のみである。

 (1)斧の秋笹→大泉への1回使用是認陳述については、(1)、予審「査問中秋笹カ用意シテアツタ斧ノ背中テ大泉ヲゴツント殴ルト同人ノ頭カラ血カ出タ事ヲ見受ケマシタ」(袴田予審第14回、P.248)。(2)、第1審公判「器物ヲ使ツタノハ秋笹カ斧ノ峰テコラ本当ノ事ヲ云ハヌカト云ツテ大泉ノ頭ヲ小突イタコトカアルタケテス。顔ヘ二三滴血カ流レマシタ」(袴田第1審公判第2回、P.317)、として、予審と同一内容を明確にのべており、゙公判で全く消えていない゙。(3)、控訴審公判は、不明である。 宮本陳述では、袴田が控訴審で「木島が硫酸をつけたことを取り消した」とのべているが、斧使用をとりけしたとはのべていない(P.226)。その他の個所でもない。したがって、「公判で消えている」という「小林論文」の゙新事実゙は、少くとも第1審公判という公判についていえば、完全にウソの゙事実゙である。控訴審は不明である。

第二、4品目器物他人使用是認陳述は「公判で消えている」かどうか。

 硫酸使用の木島→小畑への第3段階行為是認陳述 (1)第1審公判では、予審と基本的に同一内容を、第1、第3段階の連続行為として明確にのべている(P.317)。(2)控訴審公判では、上記宮本陳述(P.226)「(袴田は)木島カ硫酸ヲツケタト述ヘタカ後ニ取消シテ居ル」。但し、硫酸の第3段階の全面否認か、木島の行為のみの取り消しかは不明である。ここでも「公判」という点では、第1審公判で是認している以上、「公判できえている」とはいえない。私の上記判断は、現在の党の説明、および「小林論文」全体は、(1)予審陳述−(2)第1審公判陳述−(3)控訴審公判陳述の3者を厳密に区別し、その区別の上に書かれているので、一般的に『公判で』という言葉は密室審理としての『予審』への対比として『(2)第1審公判陳述、(3)控訴審陳述の両者ともにおける陳述有無』という意味内容として、厳密に使用されているという判断にもとづいており、あげ足とり的な意味でいっているのではない。以下も同様である。

 タドン使用の秋笹→小畑への他人行為是認陳述 (1)、第1審公判で、袴田被告は、聞かれていない、また自分からものべていない(P.316317の一問一答)。聞かれなかったことを「公判で消えている」とするのは詭弁である。(2)、控訴審公判は、不明である。

 錐使用の゙誰が→大泉への他人行為是認陳述 (1)第1審公判で、「私ハ左様ナ事ハ知リマセヌ」(第2回、P.317)と否認した。(2)控訴審公判では、「宮本テアツタカ誰テアツタカ大泉ヲ錐テツイタ」(宮本第9回、P.216)として是認している。したがって、「公判」という点では、控訴審公判で再び是認しているので、「公判で消えている」とはいえない。

 したがって、4品目の器物他人使用是認陳述は、4品目中、斧、硫酸、錐3品目の使用陳述は、公判では消えていない。4品目中、1品目のタドン使用陳述は「公判で消えている」のではなく、聞かれなかっただけである。よって、この第二の点からも、「公判でほとんど消えている」という「小林論文」の゙新事実゙はウソの゙事実゙である。

第三、「公判ではほとんど消えてしまう」から袴田予審調書の、斧、硫酸、タドン、錐の他人使用是認陳述内容は基本的非事実性(=基本的不正確性)であるという「小林論文」の論理は成立しうるか。

 「小林論文」は、(1)予審陳述は、密室審理のもとでの陳述であるとしてその内容の事実性を否定するために、密室審理でない「公判」として、(2)第1審公判、(3)控訴審公判を両者とも合わせていっているが、(2)、第1審公判でも、斧、硫酸使用は消えていない。錐使用を否認しているが、控訴審公判で再度是認し、消えていない。タドン使用は、「消えている」のではなく、聞かれなかった。(3)、控訴審公判では、斧、タドンは不明である。錐使用を再度是認した。硫酸のみ「消えている」といえる。(4)、「公判」全体として、斧、硫酸、錐の使用は「消えて」いない。タドンは、聞かれなかっただけである。したがって、「公判でほとんど消えてしまう」というのは、第1の狭義の「威嚇器具」の使用という点では、ウソの゙新事実゙であり、第2の4品目の器物使用という点でも、『ほとんど消えてしまう』といえる状況ではない。

 第4事例の゙新事実゙も虚偽、ウソの゙事実゙であり、「袴田予審調書の最大の問題点」を「公判でほとんど消えてしまう」というウソの根拠で証明することはできない。党はこのようなウソをついて、袴田予審調書の問題点を立証するという方法をとるべきではない。

≪第5事例の゙新事実゙性と、その虚偽性・ウソ≫

 この事例の゙新事実゙性をのべる。「小林論文」は、『平野の新著の帯にも引用されている袴田予審調書の一部では、秋笹が斧で大泉の頭を殴ったとか、誰かが錐で大泉の腹をこづいたとか、秋笹が小畑の足の甲にタドンの火をつけたとか、木島が小畑の腹に硫酸をつけたとか、書いてあり、他の被告で同様の趣旨をのべた者もある。しかし、その行為をしたと云われた本人はいずれも否認している』(P.52)とした。宮本陳述では、行為者の自己行為の否認について、硫酸をつける行為の自認者がいないことをのべているだけであり(宮本第10回、P.245)、斧、錐、タドン、硫酸の゙いずれも自認者がいない゙といっていない。これまでの党説明で、自認者の存在を上記のように全面否定していない。

 斧、錐、タドン、硫酸使用行為者といわれた本人の自己行為『いずれも』全面否認有無

 これは、予審、第1審公判、控訴審公判を通じてかどうかは不明である。゙現在公表資料゙は予審のみなので、予審での自認・否認有無を見る。「小林論文」は予審、公判をとわず、自認者がいないという書き方になっている。

〔表34

袴田予審陳述

袴田第1審公判陳述

自認者の有無

(1)斧

秋笹

秋笹

秋笹予審で自己行為自認

(2)錐

(誰か)

×(控訴審で宮本か誰か)

×宮本公判で自己行為否認

(3)タドン

秋笹

(きかれていない)

秋笹予審で自己行為自認

(4)硫酸第3段階

木島

木島

×木島、予審・公判で自己行為否認

 錐、硫酸第3段階の自己行為について、その行為をしたといわれた本人否認は「小林論文」のように、事実である。しかし、斧、タドンの使用については、秋笹が非転向時・予審陳述で自己行為として自認している。(1)、斧「有リ合ワセタル物ニテ大泉ヲ小突イタ様ナ記憶アリ」(予審第14回、P.306)。これは斧か錐が推定されるが、斧の使用行為の自認であるという根拠は上記にのべた。(2)、タドン「自分ハタドンヲ火箸ニテ鋏ミ小畑ノ踵ノ辺ニ一回押シツケルト小畑ハ慌テテ足ヲ引込メタルコトアリ」(予審第13回、P.306)。この2項目の事実性は、自己行為自認と、袴田・逸見の他人行為目撃陳述の゙細部にいたるまでの一致゙という点からも証明される。

〔表35

秋笹自己行為自認陳述

袴田他人行為目撃陳述

逸見他人行為目撃陳述

(1)斧

秋笹→大泉

1

有リ合セタル物

小突イタ

秋笹→大泉

1

斧ノ背中、斧ノ峰

ゴツント殴ルト

頭ヘ二、三滴血カ流レマシタ

コラ本当ノコトヲ云ワヌカト云ツテ

秋笹→小畑

1

小サキ斧ニテ

コツント叩キタルコトアリ

何故嘘ヲ云ウノカト云ヒテ

(2)タドン

秋笹→小畑

1

タドンヲ火箸ニテ鋏ミ

踵ノ辺ニ

押シツケルト

慌テテ足ヲ引込メ

秋笹→小畑

1

タドンノ火ヲ持ツテ来テ

足ノ甲アタリニ

クツツケマシタ

熱イ熱イト云ツテ

足ヲ跳上ケマシタ

タドンカ畳ノ上ニ散ツテ

処々ニ焼跡ヲ拵ヘ

秋笹→小畑

1

火鉢ノ火ヲ鋏ミ来タル故

両足ノ甲ニ

載セタルトコロ

熱イト叫ンテ

足ヲハネルト

火ハ附近ニ散乱シテ

畳ヲ焦シタリ

(予審第14回、P.306

(予審第14回P.248、第1審P.317

(予審第18回P.302303

 したがって、「小林論文」で『錐、硫酸だけは本人が否定している』とか『4項目中2つだけは本人が否定している』というのであればよい。しかし、゙4項目全部を上げておいで『その行為をしたと云はれた本人ばいずれも゙否定している』として、4項目行為者の全員否認を主張し、それを通じて、袴田予審陳述内容の非事実性(=基本的不正確性)を証明しようとする以上、この゙新事実゙もウソであり、ウソの゙新事実゙でもって袴田陳述内容の基本的非事実性を証明することはできない。党はこのようなウソをついて、袴田予審陳述の4項目他人行為目撃陳述内容の事実性全面否定の事例とするという方法をとるべきではない。

≪第6事例の゙新事実゙性と、その虚偽性・ウソ≫

 この事例の゙新事実゙性をのべる。「小林論文」は、『袴田同志自身も、一審や控訴審公判で器物で殴った者はいないことや、硫酸うんぬんや錐うんぬん等が確認されたものでないことなどをふくめ、系統的な「暴行」などという事態でなかったことを主張している』(P.52)とした。その根拠として、硫酸痕跡、タドン痕跡、斧使用痕跡のないことを上げている。宮本陳述は、控訴審での木島が硫酸をつけたことの取り消しをのべているのみであり(P.226)、袴田同志が一審や控訴審で、器物で殴る、錐、硫酸の全面否認をしたなどとはいってない。これまでの党説明では、袴田同志が、予審での斧、硫酸、錐の是認陳述を、一審や控訴審で否認したとはいっていない。

 一審公判、控訴審公判での器物、硫酸、錐の使用行為否認の袴田陳述有無について、この事例で、「小林論文」は、袴田同志の予審陳述と公判陳述(一審や控訴審)とを対比させて、その対比によって、予審陳述内容の基本的非事実性を論証し、全面否定するという論理をもちいている。ここには二つの問題がある。第一に、袴田同志は斧、硫酸、錐使用是認予審陳述にたいして、公判陳述では、器物、硫酸、錐の使用を否認、または『確認されていないこと』として否認しているということが、事実かどうか。 第二に、袴田同志は、予審陳述では『系統的な「暴行」なるものを自認したかのような陳述』を行い、一審や控訴審公判陳述でばそれとは基本的に異り、上記第一の内容を含め゙て、『系統的な「暴行」などという事態ではなかったことを主張』しているという「小林論文」全体の規定は事実かどうか(?)。

 第一の問題が、事実かどうか(?)=第1の予審・公判の対比内容

〔表36

予審

一審公判

控訴審公判

公判全体(両者)

器物の使用

(秋笹)

(秋笹)

(?)

+(?)

出刃包丁

×

×

×

硫酸の使用

第1段階

(袴田)

(袴田)

(?)

+(?)

第3段階

(木島)

(木島)

×(木島を取り消し)

+(?)

錐の使用

(誰か)

×

(宮本か誰か)

×

印は是認陳述、×印は否認陳述、?印は資料未公表で不明)

 『器物で殴った者はいないこと』の主張、陳述有無では、表のように、出刃包丁使用は予審、第1審公判ともに全面否認している。しかし斧使用は(秋笹→大泉1回)予審(P.248)、第1審公判(P.317)とも一貫して是認しており、予審陳述にたいして、公判で゙器物の使用゙陳述が否認されたというのはウソの゙新事実゙である。控訴審での斧使用陳述有無は不明である。

 『硫酸うんぬんが確認されたものでないこと』の主張、陳述有無について、袴田陳述は、予審、第1審公判ともに硫酸使用の第1、第3段階については明確に是認しており、しかも、第3段階を自己行為の第1段階脅迫行為に連続するものとして第1段階自己行為を自認している。控訴審で、硫酸の第3段階の木島の行為を取り消しているが、第1審公判で是認している以上、『一審や控訴審の公判で、硫酸うんぬんが確認されたものでないこと』を主張、陳述しているというのはウソであり、これも公判陳述と予審陳述とを゙事実をゆがめで対比させて、その詭弁によって後者の事実性を否定しようとするものである。

 『錐うんぬんが確認されたものでないこと』の主張・陳述有無では、第1審公判では、予審の「錐使用」を否認している(P.317)。しかし、控訴審公判では、再び、「宮本テアツタカ誰テアツタカ大泉ヲ錐テツツイタ」と是認陳述をしており、「誰カ」という言葉だけ見れば不特定1人称であり、゙確認されたもの゙という陳述とは異るが、「宮本カ誰カ」として是認している。『一審や控訴審の公判で』という用語のように゙公判両者ともで゙として見れば硫酸第3段階とは逆で、1審否認と控訴審再度是認であり、「小林論文」はウソである。

 『一審や控訴審の公判で』の否認有無について、「小林論文」は、予審陳述にたいして一審・控訴審両公判ともでという意味で使用している。予審、公判両方とも否認しているのは出刃包丁だが、それはそもそも予審でその使用を全面否認しているものである。予審是認にたいして両公判とも否認いるのはいずれにもない。

 したがって、これらを見ると、「小林論文」のいう袴田予審陳述是認部分と袴田公判陳述否認部分との対比内容はウソである。

 第二の問題が事実かどうか(?)=第2の予審・公判陳述内容の性格規定の対比内容

 予審陳述『系統的な「暴行」なるものを自認しているかのような陳述(袴田調書の記述)』(P.5254)、公判陳述『系統的な「暴行」などという事態ではなかったことを主張』(P.52)、という予審陳述内容の性格規定と公判陳述内容の性格規定の対比によっても、前者の(1)の基本的非事実性(=基本的不正確性)を証明したとしている。

 予審陳述内容はどうか。予審での大泉陳述反論・否認(第18回、P.266267)、木島陳述反論・否認(第13回、P.244)、事実のみの是認を通じて、系統的・計画的な「暴行」を明確に否認した。是認しているのは、5項目(錐をふくめ)・3つの性質の暴行・脅迫行為の事実としての存在のみである。非系統的・非計画的「暴行」のみのを是認した。

 1審公判陳述内容はどうか。1審公判でも、予審と同じく、『系統的な「暴行」』を反論、否認しているのは当然である。(例)、逸見陳述批判(P.303304)、警察式テロの否定(P.305)、器物用意の協議否認(P.305)、23日での器具使用否認(P.310)、木島発言批判(P.315)、出刃包丁の使用否認(P.317)、小畑への斧使用否認、袴田の斧使用否認(P.317)、錐使用の否認(P.317)、などがある。

 控訴審公判陳述内容は、未公表で不明である。予審陳述暴行行為是認部分の性格と第1審公判同じ部分の性格とは基本的に同じである。予審陳述『系統的「暴行」を自認』←→公判陳述『系統的「暴行」を否認』という「小林論文」の対比内容は事実でなく、性格規定の対比としてはウソである。

「小林論文」の予審陳述・公判陳述の対比法の虚偽論理

〔表37

袴田予審陳述での有無

袴田公判陳述での有無(両公判とも)

(1)器物で殴る(斧)

是認した(事実) 

→×否認した(小林ウソ)

(2)硫酸使用

是認した(〃)  

→×否認した(小林ウソ)

(3)錐使用

是認した(〃)  

→×否認した(小林ウソ)

(性格規定)

(性格規定)

4)『系統的な「暴行」』

自認した(小林ウソ)

→×否認した(事実)

 予審では(1)、(2)、(3)を是認しているという『事実』にもとづいて、―→(4)系統的「暴行」を自認しているという『小林ウソ』の性格規定を行い)――→両公判では、(1)、(2)、(3)をいずれも否認しているという『小林ウソ』をのべ、それにもとづいて―→(4)系統的な「暴行」を否認しているという『事実』の性格規定を行った。3つの『小林ウソ』にもとづいて、『事実』の性格規定を行い――→その論理的操作にもとづいて、予審の(1)、(2)、(3)の是認陳述内容が非事実性のものであることを証明するといゔ論理的対比の虚偽゙を使用している。この第2予審陳述と公判陳述との対比内容そのものが論理的に成立しない。そのような論理的に成立しない詭弁で、予審・公判陳述内容を対比させて、袴田予審陳述の最大の問題点の事例にするという虚偽論法を党は使用すべきではない。

〔性質(2)の1事例〕 『ウソの事実』再主張の詭弁

≪第7事例の゙事実(断定)゙の虚偽性・ウソ≫

 この事例ば新事実゙ではない。

 「小林論文」『結局、「兇器」なるものについては、その搬入についても、使用についても証明はなく、査問会場にあったかどうかさえ確認されていない。こんなことで国民を「有罪」にすることは、けっして許されない』(P.53)とした。宮本陳述は、基本的に同一趣旨である。これまでの党説明も同じである。 したがって、「小林論文」の第7の事例ば新事実゙ではない。

 事実は以下である。「兇器」、その他器物で、木島(他警備隊員の可能性もあり)により搬入されたものは、斧、出刃包丁、硫酸瓶、針金、細引の5品目である。ピストルは宮本が一挺、袴田が一挺搬入・用意した。タドン、錐(=鉄筆(?))は家を数日前に借りた秋笹が搬入・用意した。この「搬入」「存在」「使用」はバラバラのものでなく、数日前に借りた家での1223日、24日という2日間の問題としては、「使用」はその「存在」を当然の前提としている。その「存在」は、数日前に借りたばかりという条件の中で、その会場への「搬入」を当然の前提としている。したがって、「使用」→「存在」→「搬入」という逆の順序でその゙証明度゙゙確認度゙を検討する。数日前に借りたということは、宮本「スパイ挑発との闘争」(.15)にある。

「兇器」なるものの搬入証明、存在確認、使用証明有無

〔表38

搬入証明

存在確認証明

使用証明

陳述証拠

物的証拠

陳述証拠

法医学証拠

陳述証拠

(木島?)

二挺

袴田二挺(木島)

45個以上出血)但し、デッチ上ゲ

袴田、秋笹、逸見、木島、大泉5人一致

出刃包丁

(〃)

二挺

袴田二挺(〃)

×

×(大泉のみ)

硫酸瓶

(〃)

袴田一瓶(〃)

×

同上5人一致

針金

(〃)

二種類

袴田(〃)

×

同上5人一致

細引

(〃)

袴田(〃)

(縛創)

同上5人と宮本6人全員一致

 

 第一、「使用」証明の有無

 出刃包丁「使用」陳述は大泉のみで、これは大泉の事実無根出鱈目陳述である。細引「使用」については、法医学的証拠としての縛創もあり、関係者6人全員が是認陳述をしており、細引「使用」証明は完全である。細引「存在」「搬入」も証明として完全である。斧、硫酸瓶・硫酸、針金「使用」については、法医学的証拠として、小畑への斧使用による45以上の出血・皮下出血があるが、これはそのほとんど(90%前後)は事実無根のデッチ上げであるという判断、根拠は上記にのべた。したがって、これは「使用」証明にはならない。関係者陳述証拠として、細引をふくめ、「なんらかの使用」という点で以下検討する。但し、それは予審陳述しが現公表資料゙ではないので、予審陳述にもとづいて、その゙「使用」証明度゙を検討する。尚、予審陳述内容の゙信用度゙=「密室審理」問題については、〔第4の詭弁的論理〕でのべる。

関係者陳述証拠一部としての予審陳述における器物「使用」一致点

〔表39

予審での「使用」是認

1審での「使用」是認

非転向

転向

スパイ

非転向

袴田

秋笹

逸見

木島

大泉

袴田

他の4

(?)

硫酸瓶、硫酸

(?)

針金

(?)

細引

(?)

 4品目器物の「なんらかの使用」是認陳述という点では、予審非転向2人、転向者2人、スパイ1人の計5人が完全に一致している。査問者側と被査問者が完全に一致している。大泉の硫酸瓶・硫酸「使用」陳述は自分にたいしても使用されたようにのべている。しかし、これは出鱈目で小畑への硫酸第1、2、3段階行為において、第1・2段階行為者の脅迫的言葉を自分が目隠し中に聞いたものをのべているのであって、第1、2、3段階の行為を直接目で見たものではない。

器物「使用」の相違点

〔表40

袴田

秋笹

逸見

木島

大泉

秋笹大泉1回

秋笹大泉1回

秋笹小畑1回

宮本小畑1回

いちいち器具で殴られた、また頭へ1回

硫酸瓶、硫酸

袴田・木島小畑

宮本(?)

木島小畑

(?)小畑

硫酸あびせる(2人に)

針金

(相違点なし)

(なし)

(なし)

(なし)

(なし)

細引

(相違点なし)

(〃)

(〃)

(〃)

(〃)

 針金、細引「使用」については、5人の陳述内容に基本的相違点はない。斧使用回数1回、こづく程度の使用の点では斧使用是認査問者側4人に基本的な相違点はない。対象者についての陳述内容は、非転向者2人(対大泉)と転向者2人(対小畑)とで、正反対になっている。後者は転向による特高の陳述証拠つじつま合わせへの迎合的陳述である。硫酸瓶、硫酸使用対象者では、その使用是認査問者側4人中3人が一致している(秋笹は不明)。しかし、使用程度では、第1、第2、第3段階とバラバラの陳述内容であり、かつ、法医学的痕跡はない。

 大泉、逸見、木島の陳述内容が、予審非転向袴田・秋笹の予審陳述内容に与えだ影響度゙有無を検討する。3人の迎合的、または事実無根の陳述内容部分の゙影響゙をうけて、非転向中央委員2人が同じような陳述をする可能性、斧、硫酸、針金、細引「使用」について事実無根の内容陳述をする可能性はありうるかどうか。非転向中央委員2人が、非転向時において、3人にたいする反論・批判・反論はありえても、3人に迎合して、自らも゙非転向の一方で゙、事実無根の上記4項目「使用」行為を是認するなどとは考えられない。1940年、宮本第1審公判併合審理時に宮本、袴田、秋笹が出席した。そこで、3人ともが、逸見、木島の陳述内容を批判している(宮本第1回〜第2回公判、P.23〜P.76)。

 器物「使用」是認という点で5人陳述内容の一致点と相違点からの証明度はどうか。斧「使用」は、行為者秋笹(自認)、対象者大泉、回数1回、程度こづく程度があった。硫酸瓶・硫酸「使用」は、行為者第1段階袴田(自認)、第2・3段階不明、対象者小畑、回数1回、その程度は、第1段階、薬鑵の水による硫酸脅迫程度(袴田自認)、第2・3段階不明である。針金「使用」は、小畑、大泉にともに使用した。細引「使用」も同じ、であるので、゙関係者陳述証拠という枠内でば、それら゙なんらかの「使用」証明度゙は高い。

 第二、「存在」確認の有無

 ここには、関係者陳述証拠と物的証拠と2つがある。

予審陳述における器物「存在」確認の一致点と相違点

〔表41

非転向

転向

スパイ

非転向(公判)

袴田

秋笹

逸見

木島

大泉

宮本

二挺

×

出刃包丁

二挺

×

硫酸瓶

一瓶

×

針金

×

細引

「存在」確認是認陳述 ×「存在」否認陳述

「使用」是認にもとづく、「存在」を当然の前提とした陳述)

 宮本以外の5人で、5品目器物の全体、または1品目でも「存在」を否認している者ば現公表資料゙の中ではいない。むしろ、それらの器物「使用」是認陳述により、その「存在」そのものを袴田器具準備命令者のように明確にのべていなくても、゙事実上゙の「存在」是認陳述=「存在」を当然の前提とした「使用」是認陳述を行っている。

「存在」についての非転向・中央委員袴田陳述の一貫性

〔表42

警察

予審

1審公判

控訴審公判

〇二挺

(?)

出刃包丁

〇二挺

(?)

硫酸瓶

(?)(第7回聴取書)

〇一瓶

(?)

針金

(?)(但し「使用」是認)

(?)

細引

(?)

配置模様

134丁表)

(同左)

(同左)

(?)

 斧、出刃包丁、細引の「存在」是認という点では、警察、予審、第1審公判と完全に首尾一貫している。それらの器物の配置模様(第7回聴取書、134丁表)是認による「存在」確認についても警察、予審、第1審公判と完全に首尾一貫している。

 物的証拠による゙「存在」確認度゙はどうか。(1)、斧二挺は、袴田が木島に命じて用意・搬入・「存在」した…袴田是認、宮本否認(P.260)。(2)、出刃包丁二挺…同じ。(3)、針金二種類…同じ。(4)、スコップは、秋笹が小畑死亡後、木島に命じて用意した。宮本陳述では、スコップの用意は是認した(宮本第8回、P.214215)。但し、物的証拠としては否認した(宮本第11回、P.260)。問題は、これらの斧、出刃包丁、針金、スコップ事後処理者とその陳述内容である。スコップ購入から見ても小畑仮埋葬後での(1)、(2)、(3)、(4)処理は秋笹、木島の関係で行なはれた。しかし、2人がそれについてどういう陳述をしているかは不明である。この4つの物的証拠(8487号の斧、出刃包丁、198199号の針金、7号のスコップ−宮本第11回、P.260、大泉予審第18回、P.130)が、袴田是認のように゙会場に「存在」した本物゙かどうか不明である。特高がどこからが数だげ揃えた物かどうが現公表資料゙では不明である。この物的証拠が、秋笹、木島陳述により、その処理場所、発見場所等が裏付けられているかどうか不明なので、物的証拠は「存在」確認の証拠とはなりえない。しかし、関係者陳述証拠で見る限り、上記(1)(2)を総合的に検討した場合、宮本以外はその「存在」を当然の前提とした「使用」是認陳述をしている。その「存在」を否認している者がいないことをふくめて考えれば、5品目の器物の゙「存在」確認度゙は高い。

 第三、「搬入」証明の有無

 これは「木島ノ用意シタ斧二挺、出刃包丁二挺」(袴田予審第10回、P.225)という袴田陳述があるだけで、木島陳述内容が未公表なので、不明である。しかし、袴田陳述では、細引と他4品目は同時的に用意命令(非命令品目もふくむ)・用意・搬入・存在・並べ直し・配置模様されているものとして、警察・予審・第1審公判と基本的に一貫している。午前9時頃階下にいた、警備隊責任者としての木島自身が「搬入」したか、それとも他の3人の警備員のうちの誰かが「搬入」したかは別として、査問開始→小畑・大泉到着時で細引を「使用」したこと→細引が査問開始以前に会場「存在」→細引の査問開始以前の「搬入」という関係から見れば、細引の「搬入」証明は完全である。細引とともに他の器物も同時に「存在」「搬入」されていたという袴田陳述(予審、第1審公判も同一内容)の゙「搬入」証明度゙は高い。しかも、上記の、関係者陳述証拠による゙「使用」証明度゙、゙「存在」確認度゙の高さから見ても、数日前に借りた家という条件の下では、それば「搬入」証明度゙の高さをも示している。

 この事例の゙事実(断定)゙のウソ

 関係者6人の陳述証拠(但し、゙現在公表分゙部分のみ)をその一致点と相違点、および、その陳述時点での非転向、転向、スパイなど思想的立場の相違、および、その陳述内容の相互影響の可能性などを合わせて、総合的・批判的に検討した場合、関係者陳述証拠による゙「使用」証明度゙、゙「存在」確認度゙、゙「搬入」証明度゙は高いと考えるのが道理にあっており、合理的な判断である。それにたいして、「小林論文」のいうように、その関係者陳述証拠を総合的に検討して見ても、正しいのは宮本陳述のみで、他5人の「存在」「使用」是認陳述はすべて誤りであり、5人基本的一致内容の関係者陳述証拠による゙「使用」・「存在」・「搬入」証明度゙は低いか、あるいは、まったくない。『搬入についても、使用についても証明はなく、査問会場にあったかどうかさえ、確認されていない』という断定的な結論は、論理的に無理があり、成立できない。「小林論文」の『結局…ない』として、第1事例から第6事例をもとに、「搬入」「存在」「使用」を全面否定することは論理的に成立していないのに、その論理的に成立していない結論でもって、上記の゙事実断定゙を行うというウソをついている。

 但し、上記゙証明度゙判断は、他証拠によって裏付けられていない関係者陳述証拠のみによる証明である以上、細引「搬入」「存在」「使用」完全証明とはことなって、゙証明度゙が高いという不完全証明であることはいうまでもない。「小林論文」は『こんなことで国民を「有罪」にすることは決して許されない』(P.53)としている。この意味は、器物搬入・存在・使用が証明されていないのに「有罪」にすることはゆるされない、という趣旨である。それにたいして、私は、器物「搬入」・「存在」・「使用」は上記内容で一定証明(=不完全証明)されているが、当時(1933年)の条件下では、その搬入・存在・使用程度では、道義的・政治的問題点は存在するが、刑法上で「無罪」であり、それを様々なデッチ上げをくっつけて「有罪」にすることは決して許されないという点で異なる。

〔性質(3)の3事例〕 『問題点の性質すりかえ』の詭弁

≪第1事例と問題点の性質すりかえ虚偽≫

 この事例の内容として、「小林論文」は、『袴田同志の予審調書によると「威嚇器具」として出刃包丁や薪割り用の斧なだが用意されたことになっており、あたかも査問委員会が「威嚇器具」の準備を共謀したかのようにもうけとれる記述になっている。しかし、「威嚇器具」の準備など査問委員会で協議されたことはなく、袴田同志自身、一審公判で、そんな協議はなかったとのべ、他の査問委員も皆そういう協議はなかったと陳述している』(P.52)とした。宮本陳述は、(袴田陳述について)「査問ノ準備ニ当リ威嚇器具ノ器具ヲ用意スルニハ協議ノナカツタ事ヲ一審公判テ述ヘテ居ル」(宮本第9回、P.226)である。

 「威嚇器具」用意協議有無問題についての袴田陳述内容の問題点とその性質には二つの問題がある。

 第一、「小林論文」の第1事例は、袴田予審陳述のその部分の前後の文脈からすれば、『「威嚇器具」の準備を共謀したかのようにもうけとれる』という点では、たしかに袴田調書の問題点の1つとすることは正しい(袴田予審、第9回、P.222223)。しかし、この問題点は査問での袴田予審陳述の基本的非事実性(=基本的不正確性)をなんら証明する事例ではない。

 なぜなら、このP.222223の査問の準備・協議内容についての陳述において、袴田中央委員が器具用意協議存在是認陳述をしているのであればともかく、どこを見てもその協議を是認している個所はない。家屋借入、警備隊動員、小畑大泉の連行者、査問目的、査問内容などの「査問方針の大網」などの協議内容をのべて(P.222下段12行目〜P.223上段11行目)、その後に「私ハ此ノ決定ニ基キ」(P.223上段12行目)として、木島を警備隊責任者に命じたこと、器具用意命令、警備隊動員がのべられているという文章・記述になっている。その「決定ニ基キ」という言葉が、木島への器具用意命令個所(P.223、下段、16行目)にまで、゙日本語の文章としでかかるのか、それ以前までしかかからないのかが不明な調書記述になっている。これは、たしかに袴田予審調書の問題点の1つであるとあえて言えば言えるが、明白に器具準備協議を是認している訳でない。それを上記協議項目の中に入れていない以上、゙その問題点の性質゙としては「決定ニ基キ」という調書文言がどこまでかかっているか不明という、゙日本語表現上の部分的問題点゙という性質であって、これでもって、「袴田陳述の最大の問題点」の事例の1つとすることは正しくないし、ましてや、この問題点の性質は、袴田予審調書内容の基本的非事実性(=基本的不正確性)を証明する性質のものではない。このような゙部分的性質の日本語表現上の問題点゙を『あたかも『査問委員会』が「威嚇器具」の準備を共謀したかのようにもうけとれる記述になっている』という表現方法で、「最大の問題点」の第1事例としてのべることは、゙問題点の性質のすりかえの虚偽゙である。

 第二、「小林論文」は、この第1事例を、上記第2、第3事例と一体にさせて、器物用意・搬入・存在確認・並べ直し是認袴田陳述内容の事実性を全面否定する論法をとっている。第1、2、3の事例でもって〔第1の事実問題〕での袴田是認部分を全面否定しようとしている。「小林論文」の3事例が事実であり、また基本的不正確さを示す性質の問題点事例であれば、この3つを総合して、袴田陳述の査問準備(2)(第5項目)での是認部分内容の非事実性を証明できる。しかし、第2・第3の事例ば論証内容からいっで、実質的に虚偽・ウソの事例あるいは、完全にウソの゙事実゙をのべたものであり、論理的に成立していない事例である。査問の準備(2)について、第1事例は問題点という点では、事実としても、それ自体では袴田予審調書内容の基本的非事実性を証明せず、第2、第3事例が、上記の意味で、虚偽・ウソの事例であるため、「小林論文」は〔第1の事実問題〕での袴田陳述内容の基本的非事実性を、この3事例ではなんら証明していない。

≪第8事例とその問題点の性質すりかえの虚偽≫

 この事例の内容をのべる。「小林論文」は、『小畑が予期しない死をとげるさいの状況について、袴田予審調書では逸見が小畑の咽喉をしめつけたようになっているが、逸見はこれを否定し、袴田同志自身も公判では逸見が頭部をおさえたと訂正している。また逃亡をはかった小畑をとりおさえ、彼が静かになったので、一同が小畑が逃亡を断念したものと思って、ひと安心したときの状況について、袴田予審調書では「互いに全力を尽くして争っているうち、小畑は最後に大声を一声上げるとともに身体から力がぬけてしまった。」「予期しなかった事件の突発に一同驚き、押えていた手を放した」などと、小畑の様子の急変にすぐ気がついたかのように、そして、自分たちの「全力」で小畑を急変にいたらしめたかのようにもうけとれる記述になっている。これは、小畑の死を知ってのちの印象が小畑をとりおさえた時点の印象と混同されたまま記述されたものである。』(P.53)とした。宮本陳述は、(袴田陳述について)「小畑死亡時ノ状況ニ関シ小畑カ騒ク前、宮本ノ炬燵ニ入ツテ居タルコト、当時小畑ハ壁カラ離レテ座敷ニ足ヲ投出シテ居タト云フコト、小畑カ暴レ出シタ当時誰モ兇器ヲ手ニシテ居ナカツタコト等正確ニ述ヘテ居ルカ、公判テ宮本カ小畑ヲ背負投ケシタト云ウテ居ルカ、之ハ違ツテ居ル。背負投ケテ投ケタノテハナク袴田カ小畑ニ抱付イテ倒シタトコロヘ後カラ起キタ宮本、木島カ駆ケツケタト云フノカ正シイノテアル。其ノ時小畑ハ俯向ケニナツテ居タ宮本ハ小畑ノ腕ヲ捻上ケタト云フ様ナ事ヲ云ツテ居ルカ小畑ハ仰向キニサレテ居タノテアル、又其ノ時逸見カ小畑ノ頭ヲ締メタトカ云フカ左様ナ事ハナイ、又秋笹カ二階ニ上ツテ来タ時、秋笹ハ殺スノハマスイト云ツテノニ対シ私カ何故ト反問シタ様ナコトハナイ」(宮本第9回、P.226)とした。

 小畑逃亡取り押え時状況での陳述相違での問題点と、その性質

 一致点に次がある。宮本、木島はコタツに入って仮眠していた。当時、小畑は壁から離れて座敷に足を投出していた。小畑逃亡取り押え時において誰も器具を手にしていなかった。小畑が大声をあげた。袴田・逸見・宮本・木島の4人で逃亡を取り押さえただけである。人工呼吸はしたが蘇生しなかった。一致点の性質は、小畑逃亡取り押え状況の゙基本点゙での一致であり、二階にいた4人の関係者陳述の中では、袴田陳述と宮本陳述とはまさに、その゙基本点゙のすべてにおいて完全に一致している。袴田、宮本陳述と逸見、木島陳述とでば基本点゙においても相違している。

 相違点に次がある。4人の位置、行動では、逸見の手の位置、背負投げ、手の捻上げ宮本行動について異なる。小畑の姿勢として、俯向け、仰向けが違う。小畑死亡時の印象では、急変、死亡に゙瞬間的゙に気がついたか気がつかなかったか、小畑死亡瞬間での査問委員間会話内容が異なる。相違点の性質、その問題点の性質は、゙部分的問題゙での相違である。なぜなら「殺意の存在」「小畑死因」「45個以上出血性可能性行為」についての相違ではなんらない。この゙部分的性質゙の相違点で、だれの陳述が真実であるかは二階にいた4人の陳述がバラバラであり、不明である。この点で、階下にいた秋笹陳述もふくめ5人の陳述の一致点と相違点を総合的・批判的に検討し、事実判断することは一定は可能であるとしても、その相違点は上記のように゙基本点゙での不一致でない以上、それをここでいちいち検討する必要もない。勿論、宮本陳述にあるように、袴田陳述には一定の部分的問題点をもつ。゙基本点゙での一致があるにもかかわらず、それに一言も言及せず黙殺し、゙部分的性質゙の問題点での相違のみを恣意的に言及し、それを「袴田陳述の最大の問題点」の事例の1つとし、その事例によっても袴田予審調書内容の゙基本的非事実性(=基本的不正確性)゙を証明しようとすることは、これも゙問題点の性質のすりかえの虚偽゙である。

≪第9事例とその問題点の性質すりかえの虚偽≫

 この事例の内容をのべる。「小林論文」は、『袴田予審調書にあるような「生命の危険を感じ」させたかもしれぬほどの「暴行脅迫」があれば、二人の婦人の陳述も当然それらを反映したものとなったろうし、両隣りの人びとにも聞えたにちがいないのに、特高さえもそういゔ証言゙をひきだすことはできなかったのである』(P.53)とした。宮本陳述は、(袴田陳述について)「処カ、予審ノ陳述テハトウシテソンナ騒キカ近所ヘ知レナカツタラウカト思ヘル様ナ陳述ヲシテ居ル」(宮本第10回、P.243)とした。

 「生命の危険を感じ」させたかもしれぬ程度の「暴行脅迫」有無での問題点とその性質には、二つの問題がある。第一、「生命ノ危険ヲ感ジタカモ知レマセン」陳述(P.248)は誇張的表現として問題点ではある。これは、(1)なぐるける、(2)斧使用、(3)タドン使用、(4)硫酸使用、(5)錐使用の5項目の暴行・脅迫行為事実をのべ、査問の態度が大泉、小畑にどういう心理的影響を与えたかという点での袴田推測における誇張的表現である。しかし、この「生命ノ危険」という誇張的表現の問題点は、そのまま5項目行為の基本的非事実性を証明するものではない。「小林論文」は「生命の危険を感じ」という程度を゙直接的に゙「暴行脅迫」の程度問題として使用している。しかし、袴田陳述は、゙直接的にば、「生命の危険を感じ」というのは、「査問ノ態度」「取調ヘノ峻烈」さの程度問題としてのべているのである。「以上ノ様ナ事カ暴行トシテハ著シイ例テ、吾々ノ査問ノ態度カ真剣テ具体的事実ニ就イテノ取調ヘカ極メテ峻烈テアツタノテ、大泉小畑等ハ相当ナ恐慌ヲ感シ、生命ノ危険ヲ感シタカモ知レマセン」(袴田予審第14回、P.248)これは、調書の日本語読み方を恣意的にすりかえる詭弁である。

 第二、袴田予審陳述の5項目暴行・脅迫行為の物音発生「程度」問題

 上記にものべたし、さらに次の〔詭弁(3)〕でもくわしく検討する。5項目行為の1つ1つにおいて、そのイ、行為自体の物音、ロ、行為者の声、ハ、対象者の声、の発生有無と、発生している場合の物音「程度」が、通常の査問の問答以上、以下かどうかを上記で゙具体的゙に検討した。5項目のイ、ロ、ハ「15の物音」発生有無・発生「程度」を見ても、通常の査問の問答以上の物音は、発生していない。

 「小林論文」は、物音発生「程度」問題で5つの詭弁を使っている。(1)、袴田陳述の5項目のイ、ロ、ハ「15の物音」を1つ1づ具体的゙に検討しない。(2)、袴田陳述の誇張的表現を、「査問ノ態度」「取調ヘノ峻烈」程度でなく、「生命の危険を感じ」させた「暴行脅迫」物音発生「程度」に恣意的にすりかえた。(3)、その物音発生「程度」であれば、それは自動的に隣家へ聞える「程度」の物音が発生しているとする虚偽的仮定を行った。(4)、この仮定論に立って、「しかし、隣家へはきこえていない」という事実を対比させた。(5)、そして、『袴田予審陳述の書くごとき「暴行脅迫」などがあったなどとは到底みることができないものなのである』(P.53)という結論を引き出すという論理操作を行った。「小林論文」はこの(1)〜(5)のような論理操作を行って、袴田予審陳述で是認している「暴行脅迫」の非事実性を証明する方法をとっている。袴田陳述の誇張的表現部分は問題点であるというだけでならともかく、その誇張的表現を物音発生程度問題にすりかえ、詭弁操作を行って、基本的不正確性を証明して見せるという証明方法は誤りであり、虚偽である。

 私個人の判断として『袴田予審陳述の問題点』とその性質は、上記にのべたように、事実程度の誇張歪曲表現の陳述2項目、不特定行為者表現の陳述2項目、記憶ちがい、事実誤認の陳述2項目(うち1つは控訴審)、不明1項目がある。これら7項目は「査問状況にかんする袴田陳述の問題点」として存在しているが、その問題点の性質は、いずれも、査問状況についての袴田是認陳述部分の基本的非事実性(=基本的不正確性)を証明する事例ではないし、なりえない。

3、「小林論文」の証明方法の性質

 上記証明方法の論理構成

 3つの性質に分類される9項目の事例を、〔性質(1)の事例〕第2、3、4、5、6事例。〔性質(2)の事例〕第7事例。〔性質(3)の事例〕第1、8、9事例として分析した。その9項目事例による゙結論゙として、『袴田予審調書の書くごとき「暴行脅迫」があったなどとは、到底みることができないものである』『査問状況について事実と合致しないそのような袴田陳述』とした。次に『そのような袴田陳述がなぜ生まれたかは』として、その原因分析をのべている。この原因分析については〔詭弁(4)〕でのべる。「小林論文」は、『袴田陳述の最大の問題点』として、9事例とその根拠も合わせてあげ、それらによって、袴田予審陳述の基本的不正確性を証明したとしている。

 3分類される゙虚偽、ウゾの事例捏造による袴田予審陳述の基本的非事実性証明方法の虚偽

虚偽的証明方法

〔表43

事例

<事実>

<虚偽・ウソ>

<基本的非事実性証明の事例になりうるか(?)>

問題点とはいえる

問題点の性質すりかえ虚偽

→×(ならない)

問題点といえない

虚偽・ウソの新事実

→×

→×

→×

→×

→×

事実断定の虚偽・ウソ

→×

問題点としては一定事実

問題点の性質すりかえの虚偽

但し、×

誇張的表現の問題点

→×

小林結論

『袴田陳述のいう「暴行脅迫」など到底ない』『事実と合致しない袴田陳述』

(証明できた)』

 9事例中、〔性質(3)の事例〕3項目ば問題点゙という点では一定事実ではあっても、基本的非事実性を証明する性質をいずれももっておらず、その3事例からは『袴田陳述のいう「暴行脅迫」など到底ない』というような結論をみちびき出すことは論理上では絶対できない。さらに、9事例中、6項目は、゙ウソの新事実゙がウソの事実である。事実問題としてその事例がウソまたは論理的に成立できない虚偽論で構成されている以上、これらはそもそも『袴田陳述の最大の問題点』という設定それ自体が成立していない。したがって、3つの性質の゙虚偽゙に分類される9事例全部を総合しても、上記内容の結論は絶対に成立しない。

 ゙虚偽の新事実゙の事例作成の若干の特徴と、私の結論

 袴田予審陳述の基本的非事実性を証明するために、「予審陳述」と「公判陳述」とをウソの゙新事実゙を捜入する方法をとってまで対比させ、その中で、第1審公判陳述と控訴審公判陳述とを混同させ、片一方の「公判」で否認していれば、または聞かれていないため陳述していなければ、「公判」一般で否認したとした。片一方で是認していても、意図的にそれに言及せず黙殺した。それによって、「密室審理」の予審陳述内容を全面否定するという虚偽的論理を使用している。他の関係被告で陳述していることでも、陳述していないと明白なウソを捜入して事例をつくりあげている。器物の「存在」と「使用」について、事実上の「存在」是認となる「使用」是認陳述があるにも拘らず、それに一言もふれず、袴田以外では明白な「存在」是認陳述がないからとして、器物「存在」全面否定の証拠にするという虚偽的論理を使用している。「一人の自己行為否認」陳述を、他の者では自己行為自認者がいるにも拘らず、その事実をいつわって「その一人をふくむ他全員も自己行為の否認をしている」として、事例をつくりあげている。党は、このような゙虚偽・ウゾ事例作成をしたり、上記全体の詭弁的論理を使用すべきではない。

詭弁(3)  証拠能力の恣意的評価で、暴行行為『無』にする虚偽

 これは、証拠能力が低い、または証拠能力を基本的にもたない証拠を証拠能力の高い、または完全な証拠能力をもつ証拠として扱い、そのような証拠でもって暴行行為『無』が完全に証明されたとする゙論証不充分゙の虚偽である。

1、暴行行為『無』主張とその証拠

 宮本陳述でも、現在の党の説明でも、「小林論文」でも、袴田陳述のいう5項目暴行行為は一切存在しないという立場に立っており、その全面否定の論証証拠として下記をあげ、それで完全に論証されたとしている。

『無』の完全証拠能力をもつとするもの

〔表44

法医学的証拠

隣家証言証拠

関係者陳述証拠

(痕跡問題)

(異常な物音問題)

関係者否認証拠

関係者是認証拠

1)なぐるける

(きいていない)

1人(宮本陳述)

4人×(自認3人)

2)斧使用

45個以上の出血=斧使用)

1人(〃)

5人×(自認1人)

3)硫酸瓶・硫酸使用

(痕跡なし)

1人(〃)

5人×(自認1人)

4)タドン使用

(〃)

1人(〃)

4人×(自認1人)

5)錐使用

(〃)

1人(〃)

2人×(大泉、袴田)

『無』の完全な証拠能力をもつ証拠とする評価。

×証拠能力は全然ない証拠とする評価)

2、「程度」問題での「小林論文」論理の詭弁性

〔小目次〕

   1、隣家証言証拠を完全証拠能力をもつとする物音発生「程度」問題の詭弁

   2、『痕跡なし』法医学的証拠を、『無』完全証拠能力をもつとする詭弁

 関係者陳述証拠から見た、暴行・脅迫行為の「程度」問題と上記各証拠の証拠能力評価(=◎印、×印)の詭弁性について、次の2つで検討する。

1、隣家証言証拠を完全証拠能力(◎印)をもつとする物音発生「程度」問題の詭弁

 「小林論文」は、『3人のうち1人は…こうのべた。「階段の上り下り等の音から推察しますと、五、六人位居たと思います。そうして女の人が二人位居たように思いました。…隣りは昼は非常に静かであって、夜の九時頃より二階に上ったり下りたりする物音と何か話をしている声がきこえます。別に悲鳴をあげる声や人を殴打するような声は聞えませんでした。」「ただ声で女が二人居るように思われましたのであります」。もう二人は…(中略)…暴行の類の異常な物音をきかなかったという点では、二人とも堀川証言と同様である。堀川証言での五、六人とか、女が二人とかは事実に合致する。階段昇降の音も、普通の会話の声も、人数や性別を識別できる程度には聞えたのだから、どなったり、殴ったり、悲鳴をあげたりすれば、たちまち聞えた筈だが誰も耳にしていない。』(P,50、「新日本新書」P.62)。『袴田予審調書にあるような「生命の危険を感じ」させたかも知れぬほどの「暴行脅迫」があれば…(中略)…両隣りの人びとにも聞えたにちがいないのに、特高さえも、そういゔ証言゙をひきだすことはできなかったのである。』(P.53)。『秋笹宅の両隣りの主婦の証言と「暴行脅迫」なるものについての袴田陳述とではその矛盾はあまりにも大きすぎる』(P.55)とした。宮本陳述は、「(袴田陳述について) 而モ、控訴審ノ最後テハ彼自身トシテハ小突ク位ノ事カ四・五回程度アツタカモ知レナイ位ノモノト述ヘテ居ル。処カ予審ノ供述テハトウシテソンナ騒キカ近所ヘ知レナカツタラウカト思ヘル様ナ陳述ヲシテ居ル」(宮本第10回公判、P.243)とした。

 「小林論文」で、゙隣家の物音内容の識別問題゙を具体的に提起している以上、そこには2つの問題がある。

 第一に、昼間と夜間の相違による物音内容識別可能程度に相違が存在する。  

 昼間 『昼は非常に静かであって…』として昼間での異様な物音をなにも聞いていない。下記にのべる昼間の午後(24日午後)の小畑逃亡取り押え時の小畑の出した大声をなにも聞いていず、゙識別していない゙。

 夜間 『夜の九時頃より二階へ上ったり下りたりする音と何か話をしている声が聞えます』として、(1)、夜九時以後の階段昇降の音を゙識別している゙。(2)、夜九時以後の普通の会話の声を゙識別している゙。

 隣家で発生する物音についての識別可能程度の相違について、昼間と夜間とでは大きな相違があることは日常的にもだれもが経験していることである。夜九時以後の上記(1)(2)の識別内容があるから、昼間の物音も、すべて(1)(2)の程度に識別できるという論理、または識別できた筈だが、昼間にそれを識別していないから、袴田予審陳述のいう24日午前中昼間の「暴行脅迫」など到底ありえないという論理である。これは、昼夜の相違を無視した論理であり、そのような゙日常的な常識゙、゙普遍妥当性゙を欠いた論理で、昼間の「暴行脅迫」存在を全面否定することは、論理的に無理がある。

 第二に、具体的にも、23日夜間と24日昼間とでの物音識別内容に『巾』や相違がある。

 23日夜間=夜9時以後 この時間帯は、宮本、秋笹、木島3人による二階での大泉査問があった。袴田・逸見は帰宅した。また、宮本による階下での熊沢光子査問があった。夜九時以後の(1)、(2)物音という以上、22日は査問日でなく、24日夜は小畑死亡後で査問は中止した。したがって、隣家での(1)、(2)物音は、23日夜上記2人への二階と一階とでの査問により発生した物音である。そして、夜九時以後、(1)、(2)が識別された(堀川マス証言)。

 24日査問=午前中の査問と午後2時頃の小畑逃亡取り押え時の小畑の大声

 23日昼間については、袴田陳述では、なぐるけるの第1項目の行為のみ、行為者の声も対象者の声も陳述していない。それにたいし、『昼は非常に静かであって』という隣家証言がある。

 24日昼間の午前中の査問における袴田予審陳述での5項目・3つの性質・3つの「程度」の暴行・脅迫行為の物音発生程度としては、イ、行為自体の物音、ロ、行為者の声、ハ、対象者の声の「15の物音」が、通常の査問の問答程度以上のものがないことは上記に検討した。下記にも若干のべる。それにたいし、『昼は非常に静かであって』という隣家証言がある。

 24日午後2時頃の小畑逃亡取り押え時の小畑の大声、取り押えの物音は、査問者側5人の陳述内容の全員完全一致という点から、その声は通常の査問問答以上「程度」であった。それについても隣家ではなにもきいていないという問題がある。それにたいし、『昼は非常に静かであって』という隣家証言がある。袴田「小畑ハオート云フ様ナ大声ヲ張リ上ケマシタ(中略)小畑カ絶ヘス大声ヲ張リ上ケテ喚クノテ其ノ声ヲ出サセナイ為メニ」(袴田予審、第12回、P.238〜P.239)。袴田「(小畑ハ)オーイト大声ヲ出シタノテ(中略)皆テ押エツケテ居ル間、小畑ハ絶ヘス大声ヲ発シテ怒鳴ツテ居リ(中略)小畑ハ最後ニ大声ヲ一声上ケルト」(袴田第1審第2回、P.318)。逸見「(小畑ハ)非常ナル力ニテ抵抗シ大声ヲ発シ居リタリ、(中略)宮本カ小畑ノ腕ヲ捻上クルニ従ヒ小畑ノ体ハ俯向キトナリ「ウーウー」ト外部ニ聞エル如キ声ヲ発シタ故(中略)小畑ハ「オウ」ト吠エル如キ声ヲ立テ、」(逸見予審第18回、P.303)。木島「小畑ハ言葉テハ表現出来ナイ様ナ苦シソウナ聞ク者ニハ不気味ナ声ヲ立テテ居リタリ、右ノ如キ有様ニテ自分ハ小畑ハ断末魔ノ悲鳴ヤ」(木島予審第1518回、P.305)。宮本「小畑ハ手足ヲ動カシ声ヲタテ様トスルノテ逸見ハ声ヲタテサセマイトシテ口ノ辺ヲ押ヘタ(中略)其ノ裡ニ小畑ハ声ヲ立テナクナリ」(宮本第4回、P.180)。宮本「小畑は大声をあげ、猛然たる勢いでわれわれの手をふりきって暴れようとする。(中略)逸見は小畑の大声が外へもれることをふせごうとしてか」(宮本、「スパイ挑発との闘争」、P.14)。秋笹「二階ニテ小畑カ大声ニテ喚キ立ツル声カ聞エ次テ夫ヲ取鎮メル為バタバタト非常ニ喧シキ物音聞エ七、八分ヲ経ルヤ小畑カ虎ノ吼エルカ如キ断末魔的叫ヒ声ヲ上ケタカト思フト」(秋笹予審第14回、P.306)。

 小畑逃亡取り押えは、24日午後2時頃の昼間であり、査問中「15の物音」は24日午前中の昼間である。5人の一致している「程度」としての゙大声゙も隣家へきこえていない中で、午前中査問「15の物音」は、はたして、小畑逃亡取り押えの物音「程度」以上のものであったのか。それともそれ以下である通常の査問問答「程度」のものであったかが再度、問題となる。 袴田陳述の是認する5項目暴行・脅迫行為にともなう物音・声の「程度」は、24日午後の上記小畑逃亡取り押え時の声・物音「程度」以上であったか(?)

〔表45

イ、行為者自体の物音「程度」

ロ、行為者の声「程度」

ハ、対象者の声「程度」

(殴打の音など)

(どなる)

(悲鳴など)

なぐるける

(多少)

(云いながら)

×

斧使用

×

(「コラ本当ノコトヲ云ワヌカト」)

×

硫酸瓶・硫酸使用

×

(「之ハ硫酸タト云ツテ」)

×

タドン使用

×

×

(「熱イト云ツテ」)

錐使用

×

×

(「痛イト悲鳴ヲ上ケテ」)

15の物音「程度」(通常の査問の問答以上の音−0。通常の査問の

問答程度またはそれ以下の音−6。×物音はなんら発生していない−9)

 6つの物音発生行為の物音「程度」とも、◎印(通常の査問の問答以上の音)ではなく、○印(通常の査問の問答程度またはそれ以下の音)であるという判断の根拠は、上記に、<第1の根拠>、<第2の根拠>としてくわしくのべた。したがって、この6つの物音「程度」とも、24日午後の小畑逃亡取り押え時の小畑の大声や物音程度以上のものでは絶対にない。そして昼間午後2時頃の小畑大声が隣家へ聞こえていない。隣家で識別されていない以上、同日昼間午前の6つの物音「程度」は隣家へ聞こえる訳がないし、隣家で識別ができる筈がない。

 暴行行為『有の場合の「程度」問題』基準黙殺による「小林論文」論理構成の虚偽

 「小林論文」は、『秋笹宅の両隣りの主婦の証言と「暴行脅迫」なるものについての袴田陳述とでは、その矛盾はあまりにも大きすぎる』(「文化評論」9月、P.55)として、袴田陳述内容の事実性を全面否定した。「暴行脅迫」の「有」・「無」という all or nothing という基準からのみ見れば、これは『大きな矛盾』に見える。゙両立しえないもの゙に見える。しかし、別の基準『有の場合の「程度」問題』として見れば、隣家証言の物音識別内容問題には、昼間と夜間の相違や『巾』がある。23日夜九時以後は階段昇降の音、普通の会話の声が、識別されているのに、24日昼間午後の小畑大声と取り押え物音も聞こえておらず、『昼は非常に静かであって』という証言になっている。5項目行為「15の物音」発生「程度」のいずれも、袴田陳述では通常の査問の問答以上の物音を陳述、是認しておらず、ましてや、゙隣家に聞こえていない゙小畑大声「程度」以上の物音は発生していない。暴行行為是認陳述の他4人の関係者のいずれも、その物音「程度」問題については袴田陳述と同じである。これらで見る限り、『両隣りの主婦の証言』と『「暴行脅迫」を是認している袴田陳述』とでは、なんら矛盾していない。したがって、この2つの証拠ば両立しうるものである゙

 隣家証言証拠にもとづいて、袴田陳述内容の事実性を全面否定する論理は、『有の場合の「程度」問題』基準による検討、と小畑逃亡取り押え時の小畑大声を隣家は聞いていない事実にもとづく2つの証拠能力の比較検討を意図的に黙殺している。「有」か「無」か、all or nothingという基準だけから、隣家証言証拠と袴田陳述証拠・他4人是認陳述証拠とを対立させ、『あまりにも大きな矛盾』を創作した。上記の検討を行えば、゙矛盾せず、両立できる゙2つの証拠を、その比較検討の意図的黙殺によって、゙『あまりにも大きな矛盾』をもち、両立できない゙2つの証拠として描き出すことは明白な虚偽論である。

2、『痕跡なし』法医学的証拠を、『無』完全証拠能力をもつとする、「程度」問題の詭弁

 「小林論文」は、『「予審終結決定」は小畑の腹部に「硫酸ヲ注グ」といったが、特高の云うままの鑑定をした裁判所医務嘱託の解剖検査記録にも、薬品の作用の痕跡などない』(P.50)『解剖検査記録でも、薬品の作用とか火傷とかの痕跡は全然ない』(P.52)とした。但し、これは、宮本陳述、現在の党の説明でも全く同一内容である。2つの『痕跡ない』ことでもって、タドン使用、硫酸使用『無』(=全面否認)の完全証拠としている。

 袴田陳述の是認する、硫酸使用、タドン使用行為にともなう痕跡発生「程度」問題

 硫酸痕跡について、硫酸の第1、第2段階行為はいずれも脅迫行為であり、そもそも痕跡など発生せず、したがって『痕跡なし』という法医学的証拠は、第1・第2段階行為の「有」・「無」にたいしてば基本的になんの証拠能力ももっていない゙。第1段階行為について、袴田自己行為を予審、第1審とも同一内容で自認した。第2段階行為について、秋笹、逸見は他人行為目撃是認をした。第3段階行為についての袴田陳述の是認「程度」は、『其ノ中木島カ真物ノ硫酸ヲ瓶ノ蓋ニツケテ小畑ノ腹部ヘツケタノテス』(第1審、第2回、P.317)である。そして、その「程度」の付着の場合の痕跡発生「有」・「無」について、上記で3つのケースを検討した。タドン使用痕跡(=火傷)についても、上記のように、その「程度」の場合の痕跡発生「有」・「無」について3つのケースを検討した。

 硫酸、タドン使用『有の場合の「程度」』の相違による上記証拠の証拠能力の相違を黙殺した「小林論文」の論理構成の虚偽

 硫酸第3段階行為、タドン使用行為の「有」・「無」というall or nothingという基準からのみ見れば、『痕跡なし』という法医学的証拠と袴田陳述証拠・タドン使用秋笹自己行為自認陳述証拠は、決定的な矛盾となり、゙両立しえないもの゙に見える。しかし、別の基準『有の場合の「程度」問題』として見れば、その2つの暴行・脅迫行為ともに「程度」の相違による3つのケースがそれぞれ存在する。「程度」問題のちがいによって、その『痕跡なし』証拠の証拠能力は異るという関係が成立する。

『硫酸痕跡なし』法医学的証拠の硫酸第3段階行為『無』証拠能力

その行為の「程度」の相違による証拠能力の相違

〔表46

「程度」

袴田陳述の否認と是認「程度」

左「程度」への『痕跡なし』証拠能力有無

イ、「硫酸をあびせる」(特高・大泉)

×(否認)

(完全証拠能力−痕跡発生する)

ロ、「硫酸ヲ注グ」(確定判決、予審終結決定)

×(否認)

(〃−〃)

ハ、「硫酸ヲタラタラトタラシ」(逸見陳述)

×(否認)

(〃−〃)

ニ、「硫酸ヲ瓶ノ蓋ニツケテツケタ」(袴田陳述)

?(゙証拠能力度゙、不明)

 袴田是認「程度」の硫酸付着の場合には、上記でのべたように、<硫酸痕跡発生可能性不明のケース>および<硫酸痕跡識別可能性不明のケース>がありうる。その場合この証拠は、第3段階行為『無』にたいしては完全証拠能力をもたない。関係者陳述証拠で見る限り、斧、タドン使用での秋笹・袴田・逸見3人の細部にいたるまでの陳述完全一致と、秋笹自身の斧、タドン使用自己行為自認ということから、斧、タドン使用が事実であると判断したのと同じく、硫酸第3段階行為については、袴田・逸見陳述では、上記程度問題での相違はあるが、他の部分で一致点が多く、このような一致点・相違点発生は『なんらかの硫酸第3段階行為』存在なしには考えられない。

非転向者と転向者の下記内容での一致・不一致

〔表47

袴田陳述(予審・第1審)

逸見陳述(第18回予審)

行為者

木島

木島

行為

真物ノ硫酸ヲ瓶ノ蓋ニツケ

硫酸ノ瓶ノ栓ヲ外シ

個所

小畑ノ腹部ニ

小畑ノ下腹部ニ

程度

瓶ノ蓋ニツケテ、腹部ニツケタ

硫酸ヲタラタラトタラシ

影響

スルト段々硫酸カ滲ミコンテクルト見ヘテ

少シスルト熱クナツタト見エ

反応

痛ツテオリマシタ

小畑ハ悶エ始メタリ

(P.248、P.317

(P.303

  

『タドン使用痕跡(火傷)なし』法医学的証拠の使用『無』証拠能力

その行為「程度」の相違による証拠能力の相違

〔表48

「程度」

袴田陳述の否認と是認「程度」

左の「程度」への証拠能力

イ、「炭火ヲ押当テ」(予審終結決定)

×否認(瞬間的のみ是認)

(痕跡発生するので、『痕跡なし』は『行為なし』の高い証拠能力をもつ)

ロ、「炭団火ヲ押エツケ」(確定判決)

×否認(瞬間的のみ是認)

(〃−〃)

ハ、秋笹、袴田、逸見3人陳述ば瞬間的゙なタドン使用「程度」

〇是認(瞬間的のみ是認)

×(『痕跡なし』は『行為なし』証拠能力を基本的にもたない)

 ハ「程度」の゙瞬間的行為゙の場合には、上記でのべたような<タドン使用痕跡(=火傷)不発生のケース>、および<タドン使用痕跡の識別不能のケース>がありうる。3人陳述の細部にいたるまでの一致および、その行為付着時間の゙瞬間性゙での完全一致という点から見ても、その場合、この痕跡なし証拠はタドン使用行為『無』証拠能力を基本的にもたない。しかも、関係者3人陳述証拠の細部にいたるまでの一致というだけでなく、秋笹自身が予審第13回で、『自分ハタドンヲ火箸ニテ鋏ミ小畑ノ踵ノ辺ニ一回押シツケルト小畑ハ慌テテ足ヲ引込メタアルコトアリ』(P.306)と明白に自己行為自認している以上、この痕跡なし証拠はタドン使用行為『無』証拠能力を持たない。「小林論文」はこのように『有の場合の「程度」』の相違による上記証拠の証拠能力の相違という関係をわざと黙殺することによって、両者ともその行為『無』の完全証拠能力をもつとしている。それによって、袴田陳述内容の基本的非事実性は証明されたとしているが、これも詭弁である。

3、「小林論文」の゙論証不十分の虚偽゙論理操作

 証拠能力論理操作の特徴を検討する。関係者陳述証拠における、暴行行為是認陳述証拠としては、次の通りである。その細部の内容の一致点・相違点については上記にのべてきた。

〔表49

是認者

自己行為自認者

他人行為是認者

1)なぐるける

4人

3人−袴田、逸見、木島

3人−袴田、逸見、大泉

2)斧使用

5人

1人−秋笹

4人−袴田、逸見、木島、大泉

3)硫酸瓶・硫酸使用

5人

1人−袴田(第1段階の水)

5人−袴田、秋笹、逸見、木島、大泉

4)タドン使用

4人

1人−秋笹

3人−袴田、逸見、木島

 この証拠が存在する一方で、他証拠と基本的、または細部で矛盾している側面・部分もある。それらの証拠の検討方法とその証拠能力の評価方法としては、下記4つの証拠を総合的・批判的に検討すべきであり、そのうちの1つの関係者是認陳述証拠を、内容上の検討なしに証拠能力を否定すべきではない。(1)法医学的証拠、(2)隣家証言証拠、(3)関係者『否認』証拠、(4)関係者『是認』証拠の4つを総合的・批判的に検討すべきである。

 「小林論文」は、物音発生「程度」問題についても、(2)隣家証言証拠と(3)宮本否認陳述のみをとりあげ、(4)の「程度」問題についての「15の物音」程度を゙具体的゙に検討をしないままで、(4)の証拠能力を『密室審理陳述』を根拠として、完全否定している。そして(2)と(3)を完全証拠能力をもつものとして扱っている。痕跡発生「程度」問題についても、(1)、(3)宮本否認陳述のみをとりあげ、(4)の「程度」問題についての行為の「程度」の相違と、痕跡発生「有」・「無」の相違または土中25日間後に発掘での識別可能性検討を゙具体的に゙行わないままで、(4)の証拠能力を同じく『密室審理陳述であること』を根拠として完全否定している。この『密室審理陳述の゙信用度゙問題、゙正確度゙問題』については、次の〔第4の詭弁的論理〕でのべる。

 このように、(1)、(2)、(3)、(4)の4つの証拠の一致点・相違点、および、その証拠間の矛盾性・両立性などについて総合的批判的検討をやらず、(3)宮本否認証拠のみを最初から『真実・真相』として、それら裏付けるものとして、(1)、または(2)の証拠を1つの独立した暴行行為『無』の完全証拠能力(◎印)をもつとして扱うことは、゙論証不充分の虚偽゙を上記にのべた内容でおこなうものである。

 

詭弁(4)  虚偽規定の袴田陳述発生の原因分析の虚偽

1、三重の虚偽論

 第1の虚偽論は、『系統的な「暴行」なるものを自認するかのような陳述』としだ虚偽の性格規定゙である。さらに、『そのような袴田陳述がなぜ生れたかは』(「小林論文」P.53)として、その原因分析をするというのは、別の虚偽論となる。そもそも、袴田予審陳述ば非系統的・非計画的な「暴行」の存在を事実として是認し、系統的な「暴行」をうけたという特高・大泉のデッチ上げに反論・否認している゙という性格のものである。それを上記の゙虚偽の性質規定゙を行うという第1の虚偽に続いて、そのウソ・虚偽の性格規定をした陳述がなぜ発生したのかを分析するということ自体が、2の虚偽論である。その発生原因として3つの原因論をのべている。しかし、第1の原因としての『反論の力点』問題が虚偽である。第2の原因としての『転向者への反発』問題が虚偽である。第3の原因としての『密室審理』問題も虚偽である。これが、いずれも虚偽の原因論であるという点で、3の虚偽論を構成し、それは三重の虚偽論となっている。

2、3つの原因論の虚偽性

 3つの原因論の個々を分析する。

〔小目次〕

   〔原因論(1)〕 『陳述の力点』問題の詭弁

   〔原因論(2)〕 『転向者への反撥』問題の詭弁

   〔原因論(3)〕 『密室審理』問題の詭弁

〔原因論(1)〕 『陳述の力点』問題の詭弁

 ここでは、陳述内容の力点評価についての虚偽的立論をしている。

「3論文」の論理

 「袴田論文」『同時に、スパイ調査問題については当時の状況のもとで、私の陳述の力点は、いきおい、スパイ挑発にたいするわが党の闘争を根本的にゆがめる「指導権争い」とか「殺害を共謀」とかいう特高警察の作った虚構に反論することにおかれた。どうしても、これらの点だけは特高警察の虚構を打破しようという意図であった。同時に、その結果、「暴行」うんぬんといった式の特高の主張については、それをいちいち反論してただすという点はきわめて不充分となった』(三)。『転向者への反発や、「指導権争い」とか「殺意」なるものの否定ということに主な力点をおいた陳述が、取調べ側の構想による問答の流れの中で、結局、系統的な「暴行」なるものを自認するかのような陳述になった』(四)。『私は転向に反対し、スパイや転向者の供述のもとに特高警察が作りあげた「指導権争い」「殺人」といった主張に反論する意図から、警察の取調べや予審に応じたのだったが…』(四)。「小林論文」『査問状況についての事実と合致しないそのような袴田陳述がなぜ生れたかは袴田同志が、「スパイ挑発との闘争と私の態度」で書いている。スパイ調査問題にかんする袴田陳述の力点は「党内派閥の指導権争いによるリンチ殺人」という特高のデマ宣伝に沿った他被告の陳述や鑑定などがつきつけられているという当時の状況のもとで、いきおい「指導権争い」とか「殺害を共謀」とかいう特高の虚構への反論におかれ、計画的な「暴行」うんぬんという類の特高の主張への反論はきわめて不充分となった』(P.53)。「解説論文」『袴田氏は「党内派閥の指導権争いによるリンチ殺人」という特高のデマに反対して、自分の主張をのべようとして取調べに応じたのですが、陳述の力点は「指導権争い」とか「殺意」とかに反論することにおかれ、「残虐なリンチ」うんぬんといった特高の主張への反論はきわめて不充分となりました。それが、密室の審理になかで、系統的な「暴行」なるものを自認したかのように書かれていったのです』。

 この「3論文」は下記の2つの論理から構成されている。第一、特高の「党内派閥の指導権争いによるリンチ殺人」という3本柱虚構への反論の意図、実際の反論において、『党のスパイ挑発との闘争を根本的にゆがめる』性質のものとして、(1)「指導権争い」 (2)「殺害を共謀」「殺害」に『反論の意図』をもち、実際にも『反論の力点』がそこに置かれた。その結果、(3)「リンチ」「計画的な暴行」への反論は不充分となった。第二、(3)への反論が不充分であったので、取調べ側の構想による問答の流れの中で、系統的な「暴行」を自認するかのような陳述になった。そして、この2つの論理の上に立って、系統的「暴行」を自認するかのような袴田予審陳述内容の事実性を全面否定するという論理構成になっている。

 「3論文」の〔原因論(1)〕の詭弁として上記2つの論理を検討する。

≪第1の論理の詭弁性≫第1の『反論の力点』問題は事実かどうか(?)

 そもそも特高の(1)(2)(3)の3本柱虚構の性質は、゙3つとも゙が党のスパイ挑発との闘争を根本的にゆがめるものであって、(3)の「リンチ」は(1)(2)とくらべて、その性質が弱いものではない。特高・スパイ大泉によってつくられたのは『赤色リンチ事件』として115日夕刊、16日・17日朝・夕刊において、他の査問事件と合わせた『共産党リンチ事件』として大々的に発表・報道されたものである。5月21日以後の≪本日記事解禁≫後の第2波デマ宣伝でも、それは同じである。その第1波、第2波デマ宣伝において、(3)の「リンチ」「計画的暴行」が(1)(2)とくらべてデマ宣伝が弱かった訳では決してない。その根拠として、1月15日夕刊、116日朝・夕刊、117日朝・夕刊の内容がある。したがって袴田中央委員の取調べに応ずる意図そのものが、(1)(2)だけにあった筈がなく、(3)を合わせた反論の意図があったのは当然である。また、実際の警察・予審での袴田陳述の(1)(2)(3)の゙反論の力点゙を見ても、(1)(2)への反論にたいして、(3)への反論が不充分であったという評価は、その陳述全体の評価として事実に反する。その根拠として、警察での第8回取調書で「査問の手段・方法の詳細についてはのべられません」として暴行行為の陳述をすることを一切拒否している。予審では、大泉陳述への反論(18回、第四問、P.266〜P.267)、木島陳述への反論(13回、第四問、P.244))がある。(3)への反論が『不充分』なのではなく、(3)への反論が、(1)、(2)への反論とは別の性質をもっていたのである。

 (1)(2)(3)の特高のデッチ上げの性質相違と(1)(2)(3)への反論内容・反論方法の性質相違について、上記デッチ上げ問題でのべたように、それは4種類で構成されているが、その性質の相違によって、それへの反論内容・反論方法の性質も相違するのは当然である。この反論内容・反論方法の性質相違は『反論の力点』『反論の充分・不充分』という性質の相違とは異る。

(1)、「指導権争い」事実無根の第2のデッチ上げ。―→したがって、これへの反論は「指導権争い」の全面否認・全面反論となる。

(2)、「殺害を共謀」事実無根の第2のデッチ上げ。―→したがって、これへの反論も「殺害を共謀」の全面否認・全面反論となる。

(3)、「リンチ」「計画的な暴行」事実程度の誇張歪曲の第3のデッチ上げ。事実無根の第2のデッチ上げという2つをふくんでいる。―→したがって、これへの反論は、一定の「暴行・脅迫」の存在を認める主張をして、否認・是認をふくむ次の3つの内容とならざるをえない。

(1)、第2、第3のデッチ上げにたいして、暴行行為事実部分である4項目・3つの性質・「程度」の暴行・脅迫行為の事実を是認して、真相を明らかにする。

(2)、事実程度の誇張歪曲デッチ上げにたいして反論・否認する。大泉を斧で乱打、大泉の歯が折れた―→大泉を斧で秋笹が頭を1回小突いたのみ、袴田が大泉を斧で殴ったことはなく、また歯がおれることなどありえない。硫酸をあびせる、ぶっかける―→誇張歪曲を否認し、硫酸を瓶の蓋につけて、腹部につけただけとして、第1・第3段階行為のみ是認した。錐で身体の所きらわず、滅茶滅茶に突き刺す―→誰かが大泉の臍の上を錐で1回こづいただけ、と反論・否認是認とを併用して、真相を明らかにする。

(3)、事実無根のデッチ上げにたいして、全面否認・全面反論する。薪割、出刃包丁で乱打―→出刃包丁の「存在」は是認するが、出刃包丁「使用」は全面否認、全面反論した。小畑を斧でなぐる―→小畑への器具の使用を全面否認した。小畑へはタドン使用と硫酸第1・第3段階行為のみ是認した。木島「アヂラレタカラヤツタ」―→木島をあじったことの全面否認をした。

 袴田中央委員は予審において、特高の(1)(2)(3)における、4種類のデッチ上げにたいして、上記のように反論している。(3)「リンチ」のデッチ上げにたいしては、(1)、(2)、(3)の反論内容・反論方法で反論せざるをえないし、また事実そうしている。(3)の(1)、(2)、(3)反論方法と(1)(2)全面否認の反論方法とは、その性質が異るのは当然であり、(1)(2)への反論と(3)への反論とを゙表面的に比較すれば゙、(1)(2)への反論内容・方法のほうが『全面否認』として、゙すっきりしている゙。但し、宮本陳述は、(3)「リンチ」への反論もすべて事実無根のデッチ上げとして、(1)(2)(3)『全面否認』の反論方法をとっている。

 それでは、袴田陳述(第1審公判も同じ)のこのような(1)(2)と(3)とでの反論内容・方法の性質の相違を『(1)(2)への反論は充分であり、(3)への反論は不充分であった』といえるのか(?)。それは、『反論の充分・不充分』という性質のものではなく、゙デッチ上げの性質相違への反論内容・方法の性質相違゙であり、それをたんに『(3)への反論不充分』と評価することはできない。これは、゙特高の(1)(2)(3)のデッチ上げにおけるその性質相違への(1)(2)(3)での反論内容・方法の性質相違゙を―→『(1)(2)への反論充分・(3)への反論不充分』という相違にすりかえる詭弁的論理にほかならない。

 そもそも(3)への袴田反論が(1)(2)(3)の内容・方法で充分か・不充分かという点では、(1)(2)(3)として基本的反論はなされている。勿論その反論に不徹底さや上記袴田陳述内容の(私が判断する)問題点をふくみつつも、(1)(2)への反論との比較において、(3)への反論のみが基本的に不充分であったといえない。したがって、1)、2)の2つの問題をもつ『反論の力点』問題は、当時の状況、袴田中央委員の取調べに応じた反論の意図、警察・予審での袴田陳述内容の実態評価からいって、1)、2)とも「3論文」の評価は事実ではなく、〔原因論(1)〕としては虚偽的立論である。

≪第2の論理の詭弁性≫『(3)への反論不充分―→系統的な「暴行」を自認したかのような陳述発生』問題は事実かどうか(?)

 『取調べ側(予審判事)の構想による問答の流れの中で』ということがあるにしても、ここには論理的飛躍がある。袴田陳述の証拠能力分析でのべたように、袴田中央委員は、警察での拷問を1度もうけていない。一貫して非転向をつらぬいた。自ら事実を解明しようとして、警察の取調べや予審に自主的、任意的に応じた。(3)の問題については、警察では一切陳述を拒否し、予審ではじめて陳述していることなどが、袴田陳述内容の証拠能力を評価する場合に前提としてある。「リンチ」が事実無根の第2のデッチ上げのみで構成されているのであれば、いくらそれへの『反論が不充分』であっても、拷問をうけず、一貫して非転向の党中央委員が、事実無根の「暴行」の存在など、自認、是認することなどは常識的に見てありえない。

 『取調べ側の構想による問答の流れの中で』という問題では、警察では、自ら、(3)についてのべることを一切拒否している。『査問中同人等ニ暴行脅迫ヲ加ヘテ所謂拷問シテ調ヘタテハナイカ』(全文)ということで、『暴行脅迫』の゙具体的項目を1つ1つあげで質問しているのではない。それなのに、四問の答として袴田中央委員が、゙具体的に5項目の暴行・脅迫行為を1つ1つあげで、警察・予審を通じて、゙はじめで予審第14回、第四問において、陳述しているのである。予審判事は、それ以前に「暴行脅迫」を聞いていず、第三問でも聞いていない。予審での木島陳述、大泉陳述にたいし、事実以外のデッチ上げ部分を断固として否認している(P.244、P.266〜P.267)。第1審公判で、斧使用有・無をめぐる問答の中で、裁判長の誘導尋問的な問もあるが、袴田被告はこれにたいして、事実以外のデッチ上げ部分を断固として、否認している(P.316〜P.317)。取調べ側(=予審判事)の問や上記3)、4)の誘導尋問的な問への答の流れの中で、゙到底ありもしない゙事実無根の「暴行」を自認したのではなく、特高の第2、第3の種類のデッチ上げをふくめて構成されている(3)の内容への反論内容・方法の3つの中の1つとして、非系統的・非計画的な暴行・脅迫行為の事実のみを自認・是認した陳述を行った。また、それ以前の問題として、『(3)への反論不充分』という評価自体、と『系統的な「暴行」を自認したかのような陳述』という性格規定自体が、虚偽の評価、虚偽の性格規定であることは、上記に検討した通りである。したがって、この第2の論理『(3)への反論不充分―→系統的な「暴行」を自認するかのような陳述発生』論も、゙論理的飛躍の虚偽゙=論理的につながらない2つの問題を結合させる虚偽であり、事実ではない。

〔原因論(2)〕 『転向者への反撥』問題の詭弁

 「3論文」の論理

 「袴田論文」『関係被告の多くは転向して、特高警察の検討した筋書きに迎合する陳述をおこなっていた。転向者の陳述は、大泉や小畑へのスパイ容疑の根拠が簿弱だったかのようにのべたり、宮本や袴田には殺意があったかもしれぬというようなまったく荒唐無稽のことをのべるなど、自分等は非転向の宮本同志や私の意見に追随しただけであるかのように印象づけようとする傾向を多分にもつものだった』(三)。『転向者への反撥や、「指導権争い」とか「殺意」なるものの否定ということに主な力点をおいた陳述が(中略)結局、系統的な「暴行」なるものを自認するかのような陳述になった』(四)。「小林論文」『転向者が自分らは非転向の宮本・袴田同志の意見に追随しただけであるかのように印象づけようとする傾向を多分にもつ陳述をしていることにたいする袴田同志の反撥もあった』(P.53)。宮本陳述「査問状況ニ関シテハ不正確ナ陳述カアル(中略)木島、逸見達ノ迎合誇張的ナ陳述カアツタ為、ソウシタ雰囲気ノ下テ不正確ナ陳述カ生シタモノト思フ」(宮本第9回、P.225)。

 この時点での転向者は逸見・木島である。この2人が「袴田論文」のいう内容の陳述を行っていたのは事実である。とくに、逸見・木島とも斧使用については対象者を特高の陳述証拠つじつま合わせに屈服して、小畑にすりかえるという迎合的陳述を行っている。それらへの袴田中央委員の反撥があったことも事実である。

逸見・木島の密室審理陳述と転向による陳述内容の゙迎合度゙

〔表50

<迎合的陳述部分>

<事実部分>

1)、査問原因

◎指導権争い

スパイ容疑

2)、査問方針

◎宮本・袴田に殺意

殺害を共謀していず、殺意もない

3)、査問状況

◎小畑への斧使用

逸見は秋笹行為目撃陳述

木島は宮本行為目撃陳述

◎硫酸の「程度」(逸見「タラタラトタラシ」)

イ、2人の事実「程度」是認部分

(1)なぐるける、逸見自己行為自認、木島自己行為自認

(2)斧使用「程度」、頭をコツントたたく、軽くつつく、秋笹行為目撃

(3)硫酸使用(但し、上記にのべた不明部分あり)

(4)タドン使用、瞬間的行為性

(5)針金使用

ロ、2人の陳述していない部分(゙現公表資料゙で)

(6)錐使用

(7)出刃包丁の使用

(8)23日夜の大泉の気絶(木島は陳述していない)

4)、小畑死亡時

◎宮本等に殺意

小畑逃亡取り押え行為是認

 

 「袴田論文」「小林論文」の〔原因論(2)〕の詭弁

 問題は、2人の『転向者の陳述への反撥』が存在したことを『系統的な「暴行」なるものを自認するかのような陳述』発生原因の1つとすることが論理的に可能かどうかということである。゙2人の転向者の迎合的陳述の存在は事実である。それへの袴田中央委員の反撥の存在は事実である。陳述内容に反撥が反映したも事実である。〔原因論(2)〕は論理的に何を意味するのか。転向者2人の事実無根の内容の陳述があったから、それへの反撥の結果として、一貫した非転向中央委員がありもしない『系統的な「暴行」』の存在を認める陳述をした。゙逸見・木島の2人が、宮本・袴田に追随してやっただけ、「アヂラレタカラヤツタ」(木島)だけだといっているので、それへの反撥の結果として、いやあじっていないと反論・否認するだけでなく、゙査問委員全員、一同と木島とで、23日はなぐるけるの行為をしたんだとして、事実としてありもしない「暴行」をデッチ上げて、陳述しだという論理である。

 このような発生原因論=因果関係論には、2つの問題がある。第一に、この因果関係論は、袴田陳述内容の実態にてらして事実かどうか(?) 第二に、このような因果関係論は、論理的に成立しうるかどうか(?)

袴田陳述における、逸見・木島「暴行」行為

〔表51

逸見行為の目撃陳述

木島行為の目撃陳述

23

◎査問委員と木島がなぐるける(予審、P.248、P.231)。一同がなぐるける(第1審、P.310

◎木島がなぐる(P.231、P.248

(一同がなぐるける(第1審、P.310))

24

/(予審では陳述していない)

逸見が査問開始前大泉をなぐる(第1審、P.316

◎木島の硫酸第3段階行為(予審、P.248

(同上、(第1審、P.317))

予審では、逸見名指し行為を陳述していない。

木島のなぐる行為と硫酸第3段階行為のみ陳述

 この◎印の3個所陳述が、2人の陳述内容への反撥を原因として、2人がやってもいない暴行行為を非転向中央委員が自らデッチ上げて陳述したものと判断することができるのか(?) そんなデッチ上げを2人にたいしてしなければならない理由はどこにもないし、その必要もない。「追随してやっただけ」「あぢられたからやった」という部分のみ否認し、あとは事実をのべればよい。そして、袴田中央委員はそういう陳述をしている。袴田陳述が4項目を是認している問題も、逸見・木島2人が他人行為目撃陳述として、1)なぐるける、2)斧使用、3)硫酸使用、4)タドン使用を是認しているという『転向者陳述への反撥が原因』とすることなどは、論理的にまったく成立しない。袴田陳述内容の実態からいって、この『転向者への反撥』原因論は完全な虚偽論である。

 『転向者への反撥』原因論は論理的に成立しうるか(?)

 転向者2人の陳述内容への反撥が、たんに反撥にとどまらず、その2人への゙報復゙、゙復讐心゙となっていれば、成立する。スパイ査問事件での責任逃れを転向者にさせないために、2人がやってもいない、存在もしてもいない、◎印の1)なぐるける、3)、硫酸使用第3段階行為を自らつくりあげ、無実の行為の責任を負わせる゙というような心理状況に非転向中央委員がなったというのか。そうであれば、この因果関係論は心理的にも、論理的にも成立する。しかし、このような推測は、袴田陳述内容の実態を見ても成立しうるものでない。「袴田論文」「小林論文」の『転向者への反撥』原因論は、因果関係論として詭弁というだけでなく、現党員としての袴田同志にたいする党の側からの最大の侮辱である。宮本陳述は当時の条件下の陳述としては正当性がある。現時点においても、宮本陳述の通り、「袴田論文」「小林論文」でそれを再主張することは断じて正しくない。

〔原因論(3)〕 『密室審理』問題の詭弁

 「3論文」の論理

 「袴田論文」『裁判所の予審では予審判事が聴取書をもとに尋問し、裁判所書記として調書を書かせていく。警察の取調べはもちろん、予審尋問でも弁護人はつかず、「共犯者」なるものや証人を出席させて被告人からの反対尋問にさらすこともなく、予審判事が自分の都合に応じて、゙だれそれはこういっているがどうがといった質問をするだけである。…(中略)…こういう密室の審理では取調べ側の主張が全体の基調となり、取調べ側の主張の矛盾の追求とか被告人に有利な事実や主張の解明とかはほとんど不可能である。その暗黒性は治安維持法裁判ではとくにはなはだしい。査問状況にかんする私の不正確な陳述は警察の取調べや予審という密室審理のもとで生れたものである。…(中略)(エンゲルスの引用文)…私は拷問に反対し、スパイや転向者の供述をもとに特高警察が作り上げた「指導権争い」「殺人」といった主張に反論する意図から警察や予審の取調べに応じたのだったが、不正確な陳述を必然的にともなう密室の審理に応じたことは誤りであり、私はその教訓を明確かつ厳正にうけとめている』(四)。

 「小林論文」『もっとも重要なことはそういう袴田陳述が警察の取調べや予審という密室の審理でなされたことである。弁護人もつかず、「共犯者」なるものや証人への反対尋問もおこなわれない密室の審理では、取り調べ側の構想(この場合は「リンチ共産党事件」という予断と偏見)に合わせた尋問がなされ、それによって調書が作られ、取り調べ側の主張の矛盾の追求とか、被告人に有利な事実の解明とかはほとんど不可能である。そのなかで、袴田同志の査問状況にかんする陳述は結局、計画的な「暴行」なるものを自認するかのような陳述になったのである』(P.53〜P.54)。『その時代の予審調書などを、いくら本人の署名押印があるからといって、無批判に真相をしめすものだとみることができないのは当然の民主的常識の一つである。平野はその民主的常識を忘れているのではないか』(P.54)。『治安維持法を前提とした裁判事件を今も論じるときには、治安維持法、特高警察とその拷問や脅迫や長期拘留、予断と偏見を生みやすい当時の司法制度など、「相手のルール」自体も当然に批判の対象となるから、警察の調書や予審調書の信用度はますます疑わしいものとみるべきである』(P.55)。『これらの点では、密室の審理を拒否し、現行の憲法と刑事訴証法を先取りしたといってよい公判闘争をした宮本同志の陳述こそ、真相究明の基礎となるものである』(P.55)。「解説論文」『(問い)、袴田氏はなぜ、そういう事実と相違する陳述をしたのですか。(答え)、そういう陳述は当時の制度としての特高警察の取調べや予審という密室によって生まれたのです。…(中略)…「残虐なリンチ」うんぬんといった特高の主張への反論はきわめて不充分となりました。それが、密室の審理の中で、系統的な「暴力」なるものを自認したかのように書かれていったのです』。宮本陳述「公正ナ判断ハ冷静客観的ニ行フテコソ出来得ルノテアツテ警察ヤ予審ノ如ク閉サレタ手続ノ下ニ於テ行ハレタ結果ニ偏ツテハ到底出来ナイテアル。故ニ、本公判ニ於ケル私ノ陳述ニ偏ツテノミ事件ヲ明白ナラシメルコトヲ得ルノテアル」(宮本第14回公判、P.279)。

 ここでは、警察・予審などの「密室審理」の一般的性質・条件と「密室審理」における不正確陳述発生の一般的必然性をエンゲルスの引用を合わせて論証している。そこから個別的ケースとしての査問状況にかんする袴田陳述内容の゙基本的不正確性(=基本的非事実性)゙発生原因にも、前者の一般的論証をストレートに適用できるものとしている。ここには2つの論理がある。第一、「密室審理」の一般的性質・条件、およびそこでの不正確陳述発生の一般的必然性は、一般論としては当然事実であり、全く問題はない。第二、一般論の個別ケースへの適用問題がある。袴田予審・密室審理陳述が(1)(2)(3)とも゙基本的゙不正確だとはだれもいっていない。宮本陳述(P.225〜P.226)でも「三論文」でも、むしろ、(1)(2)は妥当、正確と認めている。(3)の゙基本的゙不正確『事実に合致しない陳述』のみを問題にしている。(1)(2)への反論は、゙「密室審理」にも拘らず゙、その一般的性質条件の影響をなんらうけず、゙基本的に正確゙であり、(3)の査問状況にかんする陳述のみが、゙「密室審理」の影響をうけで、゙基本的に不正確゙であるという適用方法を「三論文」は行っている。このような、因果関係論または、一般論の個別的ケースへの適用方法は論理的に成立しうるか。

 〔原因論(3)〕の詭弁性をけんとうする。「密室審理」ど(3)基本的不正確陳述゙の、このような因果関係論は成立しうるか。

1)、論理的に成立しうるかどうか(?)

 一般的原因論―→個別ケースの全体への作用という結果論は成立しうる。一般的原因論―→個別ケースの一部分(3)への作用という結果。個別ケースの他(1)(2)部分へは作用しないという結果…成立しうるのか。結果において、全体にその一般的原因が作用していない場合=即ち、個別ケースの一部分にたいしてしか原因の作用があらわれていない場合、その一般的原因論がなぜ、(3)「リンチ」にのみ作用し、(1)「指導権争い」(2)「殺害を共謀」に作用していないのかという説明なしに、そのような一般的原因論だけで(3)の゙基本的゙「不正確性」を論証することはできない。そして、(3)は基本的『不正確』で、(1)(2)は基本的『正確』という相違発生への1つの説明として、〔第1、第2の発生原因論〕としての『反論の力点』問題、『転向者への反撥』問題があるが、その発生原因論としての虚偽性については上記に検討した通りである。〔原因論(1)(2)〕が虚偽であり、原因論として不成立となった場合、(1)(2)の陳述内容は密室審理の一般的性質・条件の影響・作用をうけずに正確であり、(3)の陳述内容のみが、その密室審理の一般的性質・条件の影響・作用をうけて、基本的『不正確』であったという論理は、それだけでは因果関係論として虚偽である。

2)、袴田予審「密室審理」陳述内容の実態にてらして、成立しうるかどうか(?)

 袴田「密室審理」陳述内容と宮本「公判」陳述内容との一致点と相違点について、冒頭でのべたように2人の陳述項目中で、スパイ査問問題の方針・事実部分で、17項目が重なっている。そして、17項目中、基本的に15項目で2人の陳述内容は一致している。

 完全一致(11項目)

1、内外情勢と日本共産党の任務

2、スパイ挑発との闘争での党方針

3、査問原因…2人のスパイ容疑とその根拠

4、査問準備(1)…基本的協議内容だけで、器具準備協議はない

7、査問状況(2)…査問の時間的進行経過

8、査問状況(3)…査問内容、査問の基本的手段・方法

12、小畑死因…脳震盪死でない

13、小畑の死体処分

14、赤旗号外記事問題

16、その他の査問(2)、波多、大沢査問(但し、宮本中央委員は検挙後でこの査問には関係していない)

 

 基本的に一致(4項目)…(部分的性質の問題での相違)

6、査問状況(1)…査問の開始以後

10、査問状況(5)…査問中の身柄拘束とそのやり方

11、小畑死亡時の状況

15、その他の査問(1)大串査問

 

 相違点(2項目のみ)…(基本点、基本的性質の問題での相違)

5、査問準備(2)…5品目器物の袴田・木島による用意・搬入・存在確認・並べ直し

9、査問状況(4)…査問の付随的な手段・方法としての5項目の暴行・脅迫行為の存在

 「3論文」の因果関係論は、上記の実態にてらして、次のような詭弁的性質を持つ。゙袴田予審陳述は17項目中15項目が「密室審理」にも拘らず、その一般的性質・条件の影響・作用をなんら受けずに正確であり、宮本被告との分離審理・予審終結決定まで接見通信禁止措置にも拘らず、完全、または基本的に一致している。上記第5、第9項目の2つの事実問題2項目のみが、基本的に相違しているが、この相違の発生の原因は、まさに「密室審理」の一般的性質・条件の影響・作用を受け、「密室審理」が原因で、この2項目は基本的不正確になったのである゙という内容となる。しかし、この因果関係論の内容は、説得力に基本的に欠けるし、因果関係論として、それだけでは虚偽である。

 また宮本陳述および、「3論文」では、(3)の『査問状況にかんする袴田予審陳述が不正確』『事実に合致しない』としているが、宮本陳述および「小林論文」9項目の問題点事例を見ると、そこには下記の8項目をふくんでおり、その8項目の袴田「密室審理」陳述内容を見ても、8項目中6項目は宮本「公判」陳述内容と完全、または基本的に一致している。

4、査問準備(1)基本的協議内容…器具準備の協議の存在を是認していないこと ◎

5、〃(2)5品目器物の袴田・木島による用意・搬入・存在確認・並べ直し ×

6、査問状況(1)査問の開始前後 ◎

7、〃(2)査問の時間的進行経過 ◎

8、〃(3)査問内容、査問の基本的手段・方法 ◎

9、〃(4)査問の付随的手段方法としての5項目の暴行・脅迫行為の存在 ×

10、〃(5)査問中の身柄拘束とそのやり方 ○

11、小畑死亡時の状況 ○

(◎印−完全一致、○印−基本的に一致、×印−相違点)

 したがって、『査問状況にかんする袴田「密室審理」陳述』8項目全体が、宮本「公判」陳述と相違しているのではなく、『査問状況』の中での上記第5、第9項目の2項目が相違しているだけである。

 袴田「密室審理」陳述と宮本「公判」陳述とで、17項目中15項目が、完全または基本的に一致し、正確である。かつ、現在党のいう広義の『査問状況』8項目中6項目が完全、または基本的に一致し、正確だという状況がある。そのとき、なぜ査問の準備(2)、査問状況(4)のみが不一致、基本点での相違なのかを、『密室審理』原因論で説明することは、〔原因論(1)(2)〕が上記に検討したように虚偽であり、原因論として成立していない以上、たんに説得力に欠けるというのみでなく、因果関係論として虚偽である。

3)、そこには、「密室審理」陳述の゙信用度゙問題と袴田予審陳述内容の基本的非事実性(=基本的不正確性)証明の゙大前提すりかえ三段論法の虚偽゙が存在している。

 逸見・木島陳述は、警察段階での転向によって、特高デッチ上げ3本柱(1)(2)(3)のいずれにたいしても、迎合的陳述部分をふくんでいるのは、宮本陳述のいうように事実である。その点での基本的不正確部分をもっている。しかし、一方で、事実「程度」部分ものべ、大泉の出鱈目な陳述を是認していない部分もある。とくに、暴行行為についての陳述では、その「程度」問題として、小畑の45個以上出血を発生させる「程度」の行為については第1、第2段階とも是認していない。逸見・木島の迎合的・基本的不正確陳述発生の原因は、「密室審理」という条件の下での特高式拷問脅迫と量刑問題でのアメによる「転向」という2条件がある。「密室審理」と「転向」という2条件併存ケースでの、基本的不正確陳述である。たんに、「密室審理」という第1条件があれば、「転向・非転向」という思想的立場の第2条件にかかわりなく、その「密室審理」陳述内容は、゙部分的゙不正確さでなく、゙基本的゙不正確部分をともなうということは一般的な因果関係論としても成立しない。

 『治安維持法を前提とした裁判事件』(「小林論文」P.55)における「密室審理」調書内容の事実性、゙信用度゙の評価基準について次の問題がある。イ、陳述者の思想的立場は、非転向か転向か、または、公判からの転向か。ロ、陳述は、任意に応じたのか、拷問による自白か。ハ、陳述は、事件・事実の真相をのべる目的か、偽装転向など特高へのごまかし的目的か。ニ、実際の陳述内容における非事実性の比率・割合として、基本的部分が非事実性か、部分的問題点をもつだけか。ホ、実際の陳述内容における不正確性の度合は、基本的不正確か、記憶ちがい等部分的不正確か。ヘ、陳述内容への「密室審理」の一般的性質・条件の影響の度合は、基本的部分に影響しているか、部分的な問題に影響しているだけか、などがある。「密室審理」調書の゙信用度゙を検討する時には、「小林論文」のいう『相手のルール』を当然の批判の対象としつつも、その陳述者の思想的立場・目的、および、実際の陳述内容の実態の上記の評価などを総合的、批判的に検討し、その上で、「密室審理」という条件と、その陳述者の陳述内容の基本的正確性の有無との因果関係を判断すべきである。しかし「3論文」とも、そのような検討を行なっていない。「小林論文」は、9項目の虚偽事例を捜入する詭弁的論理を使用して、「密室審理」原因論を上記内容で主張した。

「密室審理」原因論における、゙大前提すりかえ三段論法の虚偽゙

〔表52

<事実>

<すりかえ三段論法>

(大前提)

イ、密室審理陳述と転向という2条件併存ケースでは基本的不正確部分をもつ。但し、一切事実部分をふくまない訳ではない。その比率は個々のケースでまちまちである。

ロ、一貫した非転向者の密室審理陳述といえども、それはすべて密室審理の一般的性質・条件の影響をうけて、部分的不正確部分をもつ。時には、基本的不正確部分をふくむこともある。

(左側のイ、ロの区別を行わず、すりかえ)―→

すべての「密室審理」陳述は、「密室審理」の一般的性質・条件の影響・作用をうけて、゙信用度゙が低く、基本的不正確さを必然的にともなう。『事実に合致しない』陳述を必然的にともなう。

(◎大前提のすりかえによる結論のすりかえ)

(小前提)

袴田予審陳述は「密室審理」でなされた。

袴田予審陳述は「密室審理」でなされた。

(結論)

ロ、故に袴田予審陳述の一部には部分的不正確部分が存在する。

しかし、査問状況2項目についての実際の陳述内容は、他15項目同様、基本的に正確であった。

故に、袴田「密室審理」陳述の17項目中の『査問状況』2項目だけば基本的゙に不正確であり、『事実に合致せず』、袴田同志が是認する『「暴行脅迫」など到底ありえない。』

 この゙すりかえ三段論法゙の特徴は、(大前提)において、イ、ロの区別を行わないこと、即ち、転向か非転向かという第2条件を無視して、゙転向・非転向を問わず゙右側部分の大前提になるというすりかえを行っている。このような(大前提)自体は、論理的にも、かつ、袴田・秋笹中央委員の『非転向』・『密室審理』陳述の実際にてらしても成立していない。「密室審理」の一般論を個別ケースとしての非転向・袴田陳述にもストレートに適用するということを行い、(大前提)のすりかえによって、(結論)のすりかえを行っている。〔詭弁(1)〕が(大前提)は正しく、(小前提)をすりかえるといゔすりかえ三段論法の虚偽であった。それにたいし、この〔第4の詭弁的論理〕の「密室審理」原因論は(小前提)は正しいが、(大前提)を虚偽論ですりかえ、(結論)を虚偽の結論にすりかえるといゔすりかえ三段論法の虚偽゙を用いている。

3、〔3つの原因論〕の全体について

3つの原因論の言及有無

〔表53

宮本陳述

「袴田論文」

「小林論文」

「解説論文」

原因論(1)

原因論(2)

原因論(3)

 この3つの原因論の個々のどれを検討しても、゙それ自体としで虚偽論である。また、「小林論文」でいう『もっとも重要なこと』としての第3の発生原因論も、゙それ自体独立しで原因論として成立することはできない。第1、第2の原因論が成立していれば、成立する場合もある。しかし、第1、第2の発生原因論が虚偽であった。「密室審理」原因論は、15/17項目の完全または、基本的一致点の存在をそれ自体として、論理的にまったく説明することができない。この3つの原因論全体を総合しても、原因論が成立しうることにもならない。この因果関係論は個々にも、全体にも虚偽論である。これらを宮本陳述がのべているからといって、現情情勢のもとで無批判的にそのまま再主張することは誤りである。。

 〔詭弁(4)〕について

 袴田予審陳述『問題点の9事例』のうちで6/9項目ば虚偽の新事実゙またば虚偽の事実断定゙例である。3/9項目ば問題点の性質すりかえ虚偽゙例である。さらに゙論証不充分の虚偽゙がある。「三論文」は、この3つの詭弁的論理によって、袴田予審陳述内容の基本的非事実性(=基本的不正確性)が論証されたとした。その上に、『そのような袴田陳述がなぜ発生したか』として、゙虚偽の性格規定をした陳述゙の原因分析をするという虚偽論を設定、設問した。その゙虚偽的゙原因分析論としての3つの原因論が、『反論の力点』問題、『転向者への反撥』問題、『密室審理』問題の個々にも、全体としても虚偽論であり、因果関係論として成立していないという〔詭弁(4)〕を構築した。それによって、袴田予審陳述の2つの事実問題是認部分の事実性を全面否定した。これらは、袴田予審陳述内容の事実性を全面否定していく上での゙論理的必然゙、゙当然の帰結゙といえる。しかし、現情勢では、反共謀略側の攻撃が激しいからといって、このような複数の詭弁的論理の使用におちいることは、党として正当化されることではない。

4つの詭弁と「3論文」の関係

〔表54

「3論文」以前

「3論文」(1976年6月〜9月)

「袴田論文」

「小林論文」

「解説論文」

詭弁(1)

(なし)

始めて提起

詭弁(2)

(なし)

始めて提起

詭弁(3)

存在したが、表面的

隣家証言を一段と詳細に提起

詭弁(4)

(なし)

始めて提起

 このような詭弁的論理は19766月〜9月にかけての「3論文」ではじめて提起されたものである。第3の詭弁的論理のうち、隣家証言証拠問題については、それ以前からも宮本陳述、党の説明、不破質問(国会)などで出されている。ただ、いずれも『隣家が異常な物音をきいていない』という程度のもので、「小林論文」でその゙物音識別内容、識別程度゙問題が一般と詳細に提起された。

 私は、「3論文」が出揃う9月以前に、6月に出版された平野謙著書の資料としての袴田予審訊問調書、第1審公判調書を一通りは読んでいた。しかし、2つの事実問題についての袴田陳述内容と現在の党の説明との相違内容のうちで、袴田陳述内容のほうが事実ではないかという一般的感想をもった程度だった。「小林論文」の出る9月以前の時点では、党の説明も反共攻撃への反論は事実問題の否定のみで、袴田現党副委員長の約40年前の予審陳述調書内容、および『密室審理に応じたこと』への批判、自己批判ということはなにもなかった。「文化評論」4月号などでは、断片的、部分的に袴田陳述の事実性を否定していた。私は、反共謀略側の攻撃への対応からいって、党が2つの事実問題で゙その程度のウゾをつくのもやむをえないと考えていた。しかし、「三論文」が出揃い、その内容について、私は、たんに、袴田予審陳述内容、および「密室審理に応じたこと」への批判、自己批判というだけでなく、その批判、自己批判において、4つの詭弁が使用されていることを感ずる中で、これは党による反共謀略側攻撃への反論・闘争という枠からの重大な逸脱としての党自体の重大な誤りであると考えるにいたった。さらに、それらは、次の〔第3の誤り〕でのべる歴史の偽造歪曲と宮本同志への個人崇拝現象発生を同時的にともなっていると判断するにいたった。197512月文芸春秋新年号から1976年6月までの党の反撃・闘争とは次元の異る党自体の新しい誤り・問題点が発生・発展したと私は判断するにいたった。これが私がこの「意見書」を書く決意にいたった動機の一つである。

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〔関連ファイル〕

  (1)、『スパイ査問事件と袴田除名事件  袴田政治的殺人事件の推理劇的考察』

  (2)、『スパイ査問事件の個人的体験』(宮地個人通信第十号)

  (3)、『作家森村誠一氏と「スパイ査問事件」』(添付)森村氏手紙、下里正樹氏手紙

  (4)、袴田自己批判・批判の共産党側資料、「3論文」と「党史」

  (5)、立花隆『日本共産党の研究』関係  「『年表』一部」、「加藤哲郎『書評』他」

  (6)、浩二 『袴田里美予審尋問調書、公判調書全文

  (7)、れんだいこ 宮本顕治論・スパイ査問事件