ようこそ、『星月夜作戦』へ。
これは、百年の時の向こうに忘れられた冬の女王を求める探索の旅の物語。星々が輝き、月の照らす夜の、もうひとつの星月夜作戦の物語。
本作はTRPG『トーキョーN◎VA The Detonation』のシナリオです。2005年に製作し、毎回少しづつチューンを加えながら、1年以上後の2006年の公開まで、10回余り実際にプレイされてきました。幸いにしてそのすべてが好評であり、リクエストが多かったため、シナリオコンテンツの形としてここに公開する運びとなりました。
アクトの前にシナリオをよく読み、アクトを開始してください。貴方の星月夜作戦に幸運のあらんことを。
プレイヤー:3〜4人
プレイ時間:5〜6時間
本シナリオのバックグラウンド・ストーリーは以下の通りです。
‥‥まだ世界が傾く前、20世紀の末。1991年のソヴィエト連邦崩壊直後にソ連軍と国家保安委員会『KGB』の合同の秘密作戦『星月夜作戦』(ズヴィオーズナヤ・ノーチ)によって、東西冷戦終結直前の冬の夜空に極秘裏に打ち上げられた人工衛星があった。
その名は、『“カラリエーヴァ”』(女王)。冬の女王は当時としては最高水準のコンピュータにより極めて高精度の照準を備え、3万5千km上空から地上世界のあらゆる場所にレーザー照射による攻撃を加えることができる。母なる祖国の最後の希望を載せて打ち上げられたこの軍事衛星があれば、世界のパワーバランスすらもが変えられるはずであった。
しかし、ソヴィエト連邦は崩壊し、東西の冷戦は終結。動乱の時代の中で不要と判断されたのか、『モスクワ・ルール』に従って西側世界の諜報員への礼儀として故意に破棄されたのか、『星月夜作戦』は完全に凍結。『“カラリエーヴァ”』は地上世界の歴史から完全に忘れ去られた。
災厄による世界崩壊後、何者かがこの『“カラリエーヴァ”』を操作可能なプログラム『“マースカ・ディカーブリ”』(12月の仮面)を作成。悪用に備え、暗号鍵となるデータ集合体『“カリリオーン・クラスタ”』によってのみ防壁が開かれるこのプログラムは、紆余曲折の後、トーキョーN◎VAハザード・メモリアルパークにある『災厄記念館』の電脳空間の片隅で時の埃に埋もれていた。
そして時は流れる。冬の女王『“カラリエーヴァ”』は災厄とその後の再生を果たした大地から忘れられたまま、静止軌道上を100年以上の間、地球を見守りながら回り続けていた。電波による軌道との通信も電脳空間に統合されたニューロエイジでは、古臭い通信プロトコルを使って通信する20世紀の衛星は、電脳空間上では存在していないのと同じなのだ。
冬の女王の伝説は僅かに語り継がれ、形を変えて様々な物語の中に登場するのみであった。
北米連合の見えざる盾として活動してきた情報機関『CIA』の優秀な情報工作官、暗号名『“カーディナル”』こと本名『クリス・エヴァーグリーン』は在職中に『“カラリエーヴァ”』の名に何度か出会い、その正体に心惹かれるも解き明かすこと叶わず、表舞台から身を退いた。
人間の皮を被った黙示録の竜、ケント・ブルース大統領の台頭により北米連合は密かに変化を始め、『CIA』から『MID』に統合された情報機関集合体は大統領の私兵へと変化を始めていたのだ。
‥‥そして、時は現在へと至る。
引退したスパイの国の枢機卿、『“カーディナル”』は冬の女王の謎を諦めることができなかった。トーキョーN◎VAへと旅行に来たのを機に、在職中からのジャーナリストとしての偽名『ニール・スミス』を名乗り、適任と判断した『フェイト』の元を調査依頼に訪れる。
そして、運命の皮肉か、彼の別れた妻の娘、『アンジェリン・エヴァーグリーン』もトーキョーN◎VAへとやってきていた。父の後を追い、ジャーナリストの道を志したアンジェリンは、大学卒業後にトーキーとしてデビュー。北米で偶然入手した『“カリリオーン・クラスタ”』のデータと共に、ヒット中の映画『星月夜の祈り』との関連を調べ、ロシアの伝説と『“カラリエーヴァ”』の秘密を探るため取材旅行に来ていたのである。身辺に身の危険を感じた彼女はナイト・ワーデン社を通じ、『カブト』に護衛を依頼する。
サイバースペースの光の海でも、『ニューロ』たち電脳世界の住人の間でアーバン・レジェンドが囁かれていた。謎のプログラム、『“マースカ・ディカーブリ”』。その正体は超兵器の鍵か、超AIか。噂の半分は自然発生したものであり、もう半分は『“カラリエーヴァ”』確保を目論む『MID』の情報操作によるものであった。
ブルース大統領の私兵と化し、上層部が超自然に支配された『MID』。ニューフォートの作戦本部からは大統領の命を受け、『ミルトン・ブラウン』をリーダーとする工作チームがN◎VAに派遣される。MIDの偵察衛星『“オールマイティ・アイ”』の電子支援を受け、彼らは活動を始めた。外交官特権を隠れ蓑にまずは『イヌ』の職場である特務警察ブラックハウンドを訪れ、キャストたちを泳がせて『“カラリエーヴァ”』の調査と確保を目論む、秘密作戦を開始したのである。
かくして全ての役者は揃い、運命の天輪は巡り始めた。
ロマンチックなスパイ映画『星月夜の祈り』がヒットする秋のトーキョーN◎VAで、忘れられた真実を巡る冒険が始まる。百年の時の塵に埋もれた鍵と、忘れられた冬の女王を求める探索の旅へ。災厄の街と光の海を巡り、災厄記念館へ、そして女王と接触すべく、星月夜の彼方へのストレイライト・ランへ。
今こそ幕を開こう。もうひとつの星月夜作戦を指揮するのは、貴方だ。
読んでいただければ分かるとおり、情報量も多く、シナリオも詳しく記述してあります。読みながらその場で同時にルーラーをしたりするのは明らかに無理です。事前にきちんと必要なものを読んで把握し、準備を整えた状態で行ってください。
プレイヤーも頭を使うことになるかと思います。徹夜、イベントの2次会や3次会など、頭脳の働きが鈍った状態で行うには不向きです。
題材要素としては洋画、軍事冒険小説、スパイ物、情報機関、外国としてロシアやアメリカ、軍事、宇宙‥‥などと一般的なよくあるシナリオより趣味の世界に耽溺していますが、プレイヤーがその筋に詳しい必要はありません。詳しい人がいればより盛り上がるでしょう。同様にキャストにも特別なものは要求せず、標準的なN◎VAのキャストが入れるように作ってあります。推奨スタイルも、N◎VAのシナリオで一般的に導入頻出度が高いスタイルを選んであります。
ルーラーの貴方にも上記の題材要素は必須ではありません。もし好きであれば共感の度合いが増すことと思います。
残念ながら本作は初心者向けのシナリオとはいえませんが、N◎VAのルーラーに慣れていない方、およびTRPGそのもののゲームマスターに慣れていない方がもしも遊ぶ時のために、本文中の『◆ノート:』などあちこちにガイド的な記述も付記しました。マスタリングの助けとマスタリング技術向上の助けになれば幸いです。
プレアクトのページに推奨キャストは書いてありますが、シナリオに適したキャストの選択はアクトの成功に向けて重要です。アクトを開始する直前になって初めて知るようなことのないように。
今はネットの時代です。参加者がみなインターネットに接続できていれば、BBSやインスタントメッセンジャーを用いて打ち合わせができます。検索エンジンにキャストの名前を打ち込むだけで、詳細データや登場するプレイ日記、リプレイ、他者からの評価など有益な情報が出てくるかもしれません。キャストだけでなくプレイヤーに関しても同様です。情報は有効に活用してください。
◆PC1:フェイト
謎めいた依頼人、ニール・スミスの頼みで始まる探索行が動機であり、彼との交流が重要になります。55歳となっている彼に年が近い大人や、いわゆるハードボイルド系、若い人物たちを既に導くべき立場にあるキャストは不向きです。最も似合うのは10代〜20代の駆け出し的なキャスト、特に女性です。若い女性キャストであればその設定を調査し、ゲストのアンジェリンと何かしら共通点を持たせると説得力と共感の度合いが増します。実際のアクトでは、若い女性フェイトがほとんどでした。最もヒロイン的な立ち位置になります。
ジャーナリスト関係のキャストもお勧めです。何なら、《真実》の使いどころと想定してある『●『フェイト』:引退した枢機卿』のシーンはロールプレイのみで突破できるよう変更しても構いません。
若い男性フェイトには、放っておいてもヒロインが付いてくるシナリオがそこらじゅうに沢山あるでしょう。彼らには休んでもらって、今回は女性フェイト陣にも活躍してもらいましょう。
◆PC2:カブト
護衛の依頼人であるアンジェリン・エヴァーグリーンの守護が動機、彼女との交流が重要になります。スタイルでおまけとしてカブトが入っているのではなく、職業としてカブトを行っているキャストの方がよいでしょう。
若いキャストでも、経験のあるキャストでも、男女でもどちらでも。実際のプレイでは、特に選んだわけではないのですが、全員が男性でした。
また本文中のアンジェリンの台詞などは、漠然と相手が男性であることを想定して書いてあります。
◆PC3:ニューロ
都市伝説として囁かれる謎のプログラム“マースカ・ディカーブリ”探索が動機となります。さすがにMID所属のニューロがもしもいたら却下ですが、所属勢力も設定もほとんど制限はないため、様々なニューロが参加できます。アルファ=オメガのような可愛い女の子が似合わないキャストであれば、導入を調整できます。本作ではオルタナティブ導入として、櫛田千里少佐を登場させたパターン『●オルタナティブ導入:主要取引先との世間話』を併記しておきました。
ビジュアル的に盛り上がる見せ場も幾つか用意してあります。光の海の旅人たちには、存分に電子のウィザードの力を発揮してもらいましょう。
◆PC4:イヌ
シナリオ序盤から認識できる敵との戦いの予感が主な動機となります。機動捜査課以外でも参加できます。N◎VA方言に「ビッグナンバー」という言葉がありますが、確かにこのシナリオでも用意済みの見せ場が最も少なくなっている枠がPC4です。人気のあるオフィシャルゲストの登場、個性付けのなされた敵との対決などでフォローしています。プレイヤーにN◎VA初心者がいるなら、貴方のフォローに自信がないならばPC番号がより小さい枠に回ってもらった方がよいかもしれません。
ゲストコネクションの技能にはあまり意味がありません。敵役ゲストのリーダーであるミルトン・ブラウンは、もしかしたらシナリオ本筋により近しい『フェイト』役や『カブト』役や『ニューロ』役と会話することが多くなるかもしれません。その恐れがあるなら、キャストの設定に合わせて変更しておきましょう。
カブトワリが入っている、戦闘系である、サイバー化が激しい、
その他インディアと共通点がある、もしくは貴方が相応しいと思った場合:
ゲストコネを<コネ:インディア・セヴン>に変更。オープニングに『●オルタナティブ導入:モノアイの男』を挿入。アクトを通しインディアの出番を増やして存在を強調し、『イヌ』を仇と認知し、その演技を増やす。
女性である、ニューロなどテクノロジー系と近しい、実はアヤカシである、
その他レーネと共通点がある、もしくは貴方が相応しいと思った場合:
ゲストコネを<コネ:レーネ・ジーン>に変更。オリジナルのオープニングを作るか、『●『イヌ』:不愉快な視察』で彼女の出番を増やして存在を強調。キャストと会話をさせ、敵と認識させる。アクトを通しレーネの出番を増やして強調し、『イヌ』を仇と認知し、その演技を増やす。
◆幻のPC5:
実際のプレイではプレイヤー5名で行ったことはありませんでした。シナリオでも想定はしておらず、用意された導入や見せ場、動機の確保などがまったくない、いわゆる「完全放置」になります。見せ場の平等な分配とキャスト/ゲストの尊重に関し、ルーラーとプレイヤー双方で気配りが必要になります。
実は、アクト内の展開に限って言えばPC5が降臨したことが‥‥いや、先に進みましょう。
また、この星月夜の女王の探索の物語には、父と娘の絆、遠い過去への追憶、国を愛した人々の想い‥‥などの感情の要素が出てきます。
N◎VAの源流である“サイバーパンク”と一部相反することではありますが、ウェットな人間の感情を持ったキャスト、人情を解するキャストがいたほうが適切でしょう。
N◎VAはキャストの強さと経験点が必ずしも比例しないので厄介なのですが、普段からN◎VAを遊んでいるプレイヤーの愛用のキャスト、経験点が数十〜3桁台のある程度強いキャストを想定しています。
全員が作りたて、あるいはルール的な強さの作り込みをしていない数十点台のキャストが揃っているとまずいかもしれません。
ゲストプロファイルに、『●ゲストの改造指針』は載せてあります。どうぞキャスト陣に合わせて適合させてください。
本作はオフィシャルの『SSS』形式に概ね沿っていますが、一部従っていない部分もあります。登場NPCの台詞は「◆セリフ:」ではなく「◆描写:」の中に入れています。「◆ノート:」には、SSSのハシラのように、注釈やマスタリングのヒント、おまけの余談が書いてあります。
中カッコ『』の中には、情報項目名、シーンタイトル名、および『フェイト』『カブト』のように、その枠のキャストを表す代名詞としてスタイル名を入れて使用しています。文中で登場人物の台詞以外で「貴方」と記述した場合は、多くの場合、ルーラーのあなたを指しています。
本文中の描写や台詞は一般的なシナリオより多めに記述してありますが、全てをそのまま読み上げる必要はありません。貴方の判断でそのアクトに適した部分を使ったり、適宜アレンジを加えて構いません。(むしろ、そうすべきです。)
予めキャストの設定を調べたり、プレイヤーの傾向を調べておき、ゲストの台詞や演出を調整しておくのも役に立ちます。シナリオ本文中でも、それを念頭に置いた描写は幾つか存在します。これは貴方の星月夜作戦なのです。世界でただひとつのアクトにしましょう。
準備は済みましたか?
それでは、貴方の星月夜作戦を開始しましょう。成功を祈っています!
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