中央委員会殿

『スパイ査問問題意見書 (袴田・宮本陳述

相違点の解決内容・方法)

 

            愛知県委員会県勤務員支部 宮地健一

 

                  1977年4月13日

 ()HP目次や他のHP文書では、この題名を略して『スパイ査問問題意見書』としてあります。これは、当時の宮本委員長、小林中央委員・元宮本秘書、袴田副委員長ら3人を批判した「意見書」です。しかし、この提出日には、袴田氏は長期査問されていたので、これを読んでいません。この提出日は、1976年12月総選挙惨敗総括の常任幹部会で、袴田氏が宮本批判をし、宮本氏がそれへの長期の報復査問を開始した5カ月後で、かつ、1978年1月袴田除名の8カ月前という時期でした。

 3人のウソと詭弁を論破、論証することだけを目的とした、理詰めの党内「意見書」で、原文のままですので“長い”“読みづらい”ことをお許し下さい。字句・文章上の間違い、文の区切り、目次関係の章、見出し字句だけは直しました。3人の論点は多数あり、それが少し変わるごとに、そのウソ・詭弁論証データとして同じ陳述内容、鑑定書内容、党側見解の関連個所を重複引用しています。そのためよけい“長い”文になっていますが、その資料部分も削除せずに、残しました。提出後に事件新資料の出版はなく、したがって加筆はしていません。全体で23万字、68表あり、すべてを印刷するとA4版で162ページになります。一つのファイルでは、長すぎるので、連続の7分割ファイルに改訂しました。

(連続・7分割ファイル) 第1部(1)  1部(2)  2部  3部  4部  5部  6部

 

目次〕

 『スパイ査問問題意見書第1部(1)』

  はじめに 『意見書』の立場

  第一章 袴田・宮本陳述相違点の解決内容、方法

  第二章 相違点の解決内容、方法の4つの誤り

   第1の誤り   事実問題

    1、第1の事実問題器物の用意・搬入・存在の真相

    分析(1)  袴田陳述

    分析(2)  宮本陳述

    分析(3)  木島到着時刻と「小林論文」のウソ

    分析(4)  器物の用意・搬入・存在の真相

 

 『スパイ査問問題意見書第1部(2)』

    2、第2の事実問題=暴行行為の項目・程度・性質の真相

    分析(1)  袴田陳述

    分析(2)  関係者6人の陳述

    分析(3)  宮本陳述

    分析(4)  暴行行為の項目・程度・性質の真相

 

 『スパイ査問問題意見書第2部』

    3、デッチ上げ部分と事実部分との区別

    区別(1)  デッチ上げ部分「解剖検査記録」「古畑鑑定書」の見方考え方

    区別(2)  事実部分

 

 『スパイ査問問題意見書第3部』

   第2の誤り   詭弁的論理使用

    詭弁(1)  袴田陳述の虚偽規定と、「すりかえ三段論法」の虚偽

    詭弁(2)  架空の“新事実”挿入による虚偽

    詭弁(3)  証拠能力の恣意的評価で、暴行『無』にする虚偽

    詭弁(4)  虚偽規定の袴田陳述発生の原因分析の虚偽

 

 『スパイ査問問題意見書第4部』

   第3の誤り   宮本個人崇拝

    現象(1)  宮本陳述内容の事実性の唯一絶対化

    現象(2)  宮本闘争方法の正当性の唯一絶対化

    現象(3)  闘争での役割・成果の不公平な過大評価

    現象(4)  闘争記録の不公平・一方的な出版・宣伝

 

 『スパイ査問問題意見書第5部』

   第4の誤り  対応政策・方法

    1、有権者反応への政治判断

    2、対応政策

    3、反撃・論争方法

    4、総選挙統括(13中総)

 

 『スパイ査問問題意見書第6部』

  第三章 4つの誤りの性質

  第四章 私の意見・提案

  〔資料〕 2つの事実問題関連抜粋資料

    資料(1)  第1の事実問題 袴田陳述 宮本陳述 3論文

    資料(2)  第2の事実問題 袴田陳述 宮本陳述 3論文

 

〔関連ファイル〕

  (1)、『スパイ査問事件と袴田除名事件  袴田政治的殺人事件の推理劇的考察』

  (2)、『スパイ査問事件の個人的体験』(宮地個人通信第十号)

  (3)、『作家森村誠一氏と「スパイ査問事件」』(添付)森村氏手紙、下里正樹氏手紙

  (4)、袴田自己批判・批判の共産党側資料、「3論文」と「党史」

  (5)、立花隆『日本共産党の研究』関係  「『年表』一部」、「加藤哲郎『書評』他」

  (6)、浩二 『袴田里美予審尋問調書、公判調書全文

  (7)、れんだいこ 宮本顕治論・スパイ査問事件

 


『スパイ査問問題意見書第1部(1)』

〔目次〕

  はじめに 『意見書』の立場

  第一章 袴田・宮本陳述相違点の解決内容、方法

  第二章 相違点の解決内容、方法の4つの誤り

   第1の誤り   事実問題

    1、第1の事実問題器物の用意・搬入・存在の真相

    分析(1)  袴田陳述

    分析(2)  宮本陳述

    分析(3)  木島到着時刻と「小林論文」のウソ

    分析(4)  器物の用意・搬入・存在の真相

 

 はじめに  『意見書』の立場

 基本的立場

 今回のスパイ査問問題を中心とした反共謀略側の政治的意図、やり方に対して、私は全面的に反対している。党の反撃における対応政策、論争方法において、この「意見書」でのべる一部分の問題を除いては正しいし、それに基本的に賛成である。反共攻撃の中で、スパイ査問問題の事実問題のみを戦前史全体から切り離して攻撃するやり方にも私は反対している。また、スパイ査問問題の事実問題についての現在の党の説明対応政策もこの「意見書」でのべる一部問題点を除いて事実問題の説明として正しい。

 党の対応策における一部誤り

 部分的問題として“袴田・宮本陳述相違点の解決内容、方法”があるが、それは現情勢では基本的に誤りである。これは一部誤りではあるが、スパイ査問問題の性格全体に影響を持つ性質のものであるとともに、事実問題での説明の誤りに付随して、同時にいくつかの誤りも発生させている。反共謀略側の攻撃に正当性がないのは当然であるが、それへの党の反撃・対応において誤りがあれば、相手が反共謀略だからということでは、それを正当化することはできない。その誤りとして4つがある。

第1の誤り  事実問題

第2の誤り  詭弁的論理使用

第3の誤り  宮本個人崇拝

第4の誤り  対応政策・方法

 この4つの誤りの政治的性質は党にきわめて重大な否定的影響を与えるものであり、党はこれを早急に是正する必要がある。これが是正されず、党内外から批判もされず、放置されれば、それは党にとっても重大な損害を与えるものに発展する。

 使用している資料、著書

1〕、袴田資料

1)警察聴取書(8〜9回) 「朝日ジャーナル2.20号」

2)予審調書(1〜19回) 「平野謙著書」『「リンチ共産党事件」の思い出』(三一書房)

3)第1審公判調書(1〜3回) 「平野謙著書」『「リンチ共産党事件」の思い出』(三一書房)

4)予審終結決定 「松本明重編書」『日共リンチ殺人事件』(恒友会出版)

5)確定判決文 「亀山著書」『代々木は歴史を偽造する』(経済往来社)

6)著書『党と共に歩んで』

2〕、宮本資料

1)第1審公判調書(1〜6回) 「宮本顕治公判記録」

2)第1審再開公判調書(1〜16回) 「宮本顕治公判記録」

3)予審終結決定 「松本明重編書」『日共リンチ殺人事件』(恒友会出版)

4)確定判決文 「文芸春秋新年号」

7)『スパイ挑発との闘争』 「宮本顕治公判記録」

3〕、その他の関係者資料

1)袴田確定判決引証部分での逸見、木島、秋笹、大泉の予審調書の一部 「亀山著書」

2)秋笹確定判決文 「竹村一編」『リンチ事件とスパイ問題』(三一書房)

3)大泉予審調書(13〜19回) 「竹村一編」『リンチ事件とスパイ問題』(三一書房)

4)宮本第1審再開公判調書中の袴田、秋笹、逸見、木島、大泉陳述内容にふれている部分 「宮本顕治公判記録」

〔4〕、鑑定書

1)解剖検査記録、村上、宮永鑑定書 「前衛9月号」

2)古畑鑑定書 「前衛9月号」

〔5〕、党側資料 …以下これを「3論文」とする。

1)、赤旗1976年6月10日付、袴田論文「スパイ挑発との関連と私の態度」

2)、「文化評論」1976年9月号、小林論文「スパイの問題をめぐる平野謙の『政治と文学』」。これは、新日本新書「歴史の真実に立って−治安維持法・スパイ挑発との闘争」(小林栄三著)にも収録)

3)、赤旗1976年924日付、問答形式解説論文「正義の闘争の光は消せない−袴田調書を悪用する策謀にたいして−」

 以下に引用する引用文と、その頁数は、上の著書・文献からのものである。

 

第一章 袴田・宮本陳述相違点の解決内容・方法

〔小目次〕

   1、袴田陳述と宮本陳述の一致点と相違点

   2第5、第9項目の2つの事実問題での陳述相違点の内容

   32つの事実問題での陳述相違点の解決内容・方法

1、袴田陳述と宮本陳述の一致点と相違点

スパイ査問問題の17の陳述項目

〔表1

項目

特高デッチ上げ

陳述の一致点と相違点

1

内外情勢と日本共産党の任務

2

スパイ挑発との闘争での党方針

「殺害を共謀」

3

査問原因  2人のスパイ容疑と根拠

「指導権争い」

4

査問準備 (1)器具準備に協議なかったこと、その他協議

「用意と協議」

5

  〃   (2)器具の袴田・木島による用意、会場での存在

×

6

査問状況 (1)査問の開始前後

7

  〃(2)査問の進行経過(時間的)

8

  〃(3)査問の基本的手段・方法

「リンチ」

9

  〃(4)査問の付随的な手段・方法

「リンチ」

×

10

  〃(5)査問の身柄拘束とやり方

「不法監禁」

11

小畑死亡時の状況

「リンチ殺人」

12

小畑の死因

「脳震盪死」

13

小畑の死体処分

「死体遺棄」

14

赤旗号外記事

「断罪即処刑」

15

その他査問 (1)大串査問

「リンチ」

16

  〃    (2)波多、大沢査問(宮本関係ない)

「リンチ」

17

熊沢光子の処遇

「不法監禁」

17項目中 完全一致(◎) 11項目…1、2、3、4、7、8、12、13、14、16、17

基本的一致(○、△) 4項目…6、10、11、15  相違点(基本的不一致)(×) 2項目…5、9

 袴田陳述は予審、第1審公判とも基本的に同じである。ただし、第4項目は、第1審公判で陳述していたが、予審では陳述していない。第9項目は、細部では予審と第1審公判とでは異なる箇所もある。そのいずれも後でくわしくのべる。2人の陳述での基本的不一致は、第5項目、第9項目の2項目のみである。この「意見書」は、2項目での相違点の解決内容・方法にたいするものである。 以下、第5項目、査問の準備(2)器具の袴田・木島による用意、会場での存在を第1の事実問題とし、第9項目、査問状況(4)査問の付随的な手段・方法を第2の事実問題とする。

2人の闘争方法の相違

〔表2

決定、判決

袴田

宮本

1、警察

聴取書→送致書

聴取書(1〜10、11〜(?))

黙秘

2、検察庁

(?)未公表

(?)未公表

3、予審

予審終結決定

予審訊問調書(19回)

黙秘(5回)

4、公判

)第一審

第一審判決

第1審調書(3回〜(?))

第1審調書(6回)

第1審再開(15回)

2)控訴審

控訴審判決

控訴審調書((?)回)

控訴棄却でなし

3)大陪審

控訴棄却でなし

() は、出版・公表資料がなく、不明という意味である。

 

2、第5、第9項目の2つの事実問題での2人の陳述の相違点の内容

 第5項目事実問題を第1の事実問題とし、第9項目事実問題を第2の事実問題とする。

第1の事実問題=器具用意、搬入、存在、並べ直し(第5項目)

〔表3

袴田陳述

宮本陳述

1、器物の用意

1)器具用意の命令者

袴田個人(警備受け持ち)

2)器具用意の被命令者

木島(警備責任者)

3)命令内容・器物

針金、細引、斧、出刃包丁

4)木島の独自用意

硫酸

×…否認(硫酸瓶の存在)

2、器物の会場搬入

5)会場搬入打合せ

23日午前8時頃

6)会場搬入者

木島に先に行くよう命じた

7)会場搬入時刻

8〜9時の間

8)袴田・確認時刻

23日午前9時頃に 木島が一階にいた

3、器物の会場存在

9)会場存在器物

(1)ピストル三挺

○自分のピストルの自認

(2)斧二挺

×『其ノ様ナ物ガ査問アヂトニアッタカトウカ判然シマセヌ』

(3)出刃包丁二挺

×『同上』

(4)硫酸一瓶

×『硫酸カアツタトノ推定カ根拠ナク』

(5)細引き

○存在・使用の是認

(6)針金

×『針金ヲ使ツタカ否カハ私ハヨクワ分ラナイ』

(7)錐…不明、鉄筆か?

(8)コロロホルム…12月中旬失敗のとき

4、器物の並べ直し

10)器物配置状況

警察で配置状況を図面に書く(第7回聴取書)

(/印は反論・是認のなんの陳述もないもの)

 

第2の事実問題=査問の付随的手段・方法としての暴行・脅迫行為(第9項目)

〔表4

袴田陳述

宮本陳述

1.自己行為自認

1)なぐるける

○2回…小畑、大泉を各1回なぐる

×

2)斧の使用

×…自己の斧の使用否認

×

3)タドンの使用

×

4)硫酸の使用

○…硫酸の第1段階(水)

×

5)錐の使用

×

6)ピストルの使用

○一回…査問開始時

2.他人行為の目撃

1)なぐるける

○23日…一同+木島

24日…逸見1回

×…『何モ目撃シテ居ナイ』

2)斧の使用

○秋笹→大泉に

×…『同上』

3)タドンの使用

○秋笹→小畑に

×…『同上』

4)硫酸の使用

○木島→小畑に

×…『同上』

5)錐の使用

△(誰か)→大泉に

×…『同上』

6)出刃包丁の使用

×

×…『同上』

 

3、2つの事実問題での陳述相違点の解決内容・方法

 くわしい内容は後でのべる。陳述内容相違点の解決内容では、宮本陳述のピストル、細引き存在是認部分をのぞき、袴田陳述内容を全面否定した。2つの事実問題もふくめ宮本陳述の完全事実性を是認し、『スパイ査問問題の事実・真相を全面的に解明』とした。一方で、袴田陳述内容では、系統的な「暴行」なるものを自認したかのような陳述をした誤りとした。袴田同志の「問題点」の自己批判を「袴田論文」で行った。その「問題点」への批判を「小林論文」「解説論文」で行った。

 闘争方法相違点の解決では、袴田同志が警察・予審の密室審理に応じたことは誤りとし、宮本同志の密室審理拒否闘争方法のみが正しいとした。宮本同志の闘争方法の正当性について不公平・一方的な強調・過大評価をした。袴田同志の闘争方法の正当性を一部以外は全面否定し、黙殺をした。

4、資料

〔資料〕 2つの事実問題関連抜粋資料 『日本共産党との裁判第6部』の最後

    資料(1)  第1の事実問題   袴田陳述  宮本陳述  3論文

    資料(2)  第2の事実問題   袴田陳述  宮本陳述  3論文

(HP注)、この原資料は、これを先に読んだ方が全体を理解しやすいということで、「スパイ査問問題意見書」ではここに載せました。しかし、かなり長いので、HPでは『スパイ査問問題意見書第6部』の最後に移しました。

 

第二章 相違点の解決内容・方法の4つの誤り

〔小目次〕

   第1の誤り   事実問題

   第2の誤り   詭弁的論理使用

   第3の誤り   宮本個人崇拝

   第4の誤り   対応政策・方法

第1の誤り  事実問題

〔小目次〕

   1、第1の事実問題=器物の用意・搬入・存在の真相

 

   2、第2の事実問題=暴行行為の存在とその程度、性質の真相 『第1部(2)』ファイル

   3、事件の事実部分とデッチ上げ部分との区別 『日本共産党との裁判第2部』ファイル

1、第1の事実問題=器物の用意・搬入・存在の真相

〔小目次〕

   分析(1)  袴田陳述

   分析(2)  宮本陳述

   分析(3)  木島到着時刻と「小林論文」のウソ

   分析(4)  器物の用意・搬入・存在の真相

分析(1)  袴田陳述

査問準備(2)と警備隊責任者木島の行動の経過

 袴田陳述には、下記の8つの段階がある。

 第一段階、12月中旬 袴田警備隊動員担当・中央委員候補が、木島に警備隊責任者を命じ、警備一切を一任した。そこで、木島に針金、細引、斧、出刃包丁の4品目の器物の支度を命じた(予審第9回.P.224、第1審第2回.P.305)。但し、第1審公判では命令品目は斧、出刃包丁の威嚇器具のみ。

 第二段階、12月半頃(最初の査問計画日−失敗のとき) 行動隊の誰かがコロロホルムを持参した(予審弟13回.P.243)。

 第三段階、1223日午前8時頃 袴田は木島と連絡し、警備に関する手筈を打合せた。査問場所に先にいっているよう云いつけた(予審第10回.P.225.第1審第2回.P.308)。但し、(予審)査問場所→(第1審)アヂトに変化している。

 第四段階、1223日午前9時頃(=宮本が小畑を連行する一時間位前) 袴田がアヂトヘ到着したら、一階に木島、木俣、二階に秋笹がいた。木島は警備外部との連絡都合上階下にいた(予審第10回.P.225)。

 第五回段階、同上時刻 袴田が二階へ上ると、木島の用意した斧二挺、出刃包丁二挺、硫酸一瓶、細引、針金等が置かれていた。袴田は器物の存在確認をした(予審第10回.P.225.第1審第2回.P.305)。その配置模様の略図を、第7回聴取書・第134丁表の図面として警察で書いた(警察弟7回聴取書。予審第10回.P.225.第1審第2回.P.311)。

 第六段階、同上時刻 袴田は2つの目的で、それらの器物、火鉢を並べ直した。(1)査問の場所を広くするために火鉢を片付けた。(2)部屋に入ると斧や包丁がすぐ彼等の目につきテロの目的を察しうるようにするためであった(警察聴取書第9回。朝日ジャーナルP.37、第1審第2回.P.311)。

 第七段階、1223日午前10時〜10時半頃(=小畑、大泉到着時) 袴田はピストルを片手に、細引を片手につかんで起ち上り…小畑を用意の細紐で縛り、…大泉を縛りつけ…など細引の即時使用をした(予審第10回.P.226.第1審第2回.P.308311)。

 第八段階、同上時刻(=大泉到着時) 大泉到着時に木島、秋笹、袴田の3人が飛びかかったと大泉はいうが、木島は二階にいなかった(予審第18回.P.266)。袴田が二階へ上ったときは秋笹1人しかいなかった。大泉が入ってきたときには二階には宮本、秋笹、袴田の3人がいた。小畑は押入れに入れてあった(第1審第2回.P.311P.312)。

 第九段階、木島行動時刻の「小林論文」説  小林中央委員は、『予審で、袴田同志は、「威嚇器具」が査問第一日の朝から査問会場の秋笹宅二階にあって、木島がもちこんだようにのべているが…(中略)…当の木島は、査問開始後にはじめて秋笹宅の玄関にくるのであり、二階に上がるのは査問第一日の夕方である』(「文化評論」9月.P.52、「新日本新書」P.67)とした。袴田陳述は、査問準備(2)について、警備責任者木島との連絡と木島の行動内容、1223日の査問開始前・開始時(大泉到着時)での会場の一階・二階の存在有無、威嚇器具とその他の物の用意・搬入・存在・並べ直し等経緯の点で論理的に首尾一貫性をもっている。他査問委員宮本、逸見、秋笹3人は、警備隊長担当袴田同志のように警備にかんして木島との連絡をもっていない以上、それについての陳述がないのは当然である。第九段階、「小林論文」説は、この第一〜第八段階の袴田陳述(警察、予審、第1審)内容の事実性を全面的に否定する『新事実』として、「文化評論」9月号ではじめて掲載されたが、この説の検討は後にのべる。

器物会場存在品目の袴田陳述(6品目と配置模様)

〔表5

器物

品目

警察

予審

第1審公判

控訴審

1、威嚇器物

○二挺

(?)

出刃包丁

○二挺

(?)

2、他の物

硫酸瓶

(?)

○一瓶

(?)

針金

○使用

(?)

細引

○使用

(?)

3、錐

(?)

○錐使用

○鉄筆存在

○錐使用

4、上記配置模様

(並べ直し前の配置)

◎(第7回聴取書)

(?)

 斧、出刃包丁、針金、細引の4品目については、警察、予審、第1審公判とその会場存在陳述は首尾一貫している。警察でも硫酸瓶の会場存在について、第7回聴取書(配置模様の図第134丁表)または他の聴取書でのべているか不明である。 錐については、用意品目に入っていない。予審・第1審公判、控訴審とその存在(錐か鉄筆)や使用について大きな変更があり、これは袴田陳述の問題点である。錐以外の5品目については、その陳述に変化・変更部分はあるが、それはその会場存在そのものについての基本的変更ではない。

 変化、変更部分は、2つある。1)器物の用意協議の有無について、予審では協議有無についてのべていない(予審第9回.P.223)。第1審公判では、「別ニ協議ハ致シマセヌカ」と協議を否認している(第1審第2回.P.305)。2)用意命令品目について、予審で、斧、出刃包丁、針金、細引の4品目を是認した。第1審公判では、斧、出刃包丁の2品目であった。「針金、細引の2品目は命令したかどうか不明である」(第1審第2回.P.305)とした。この1)、2)のいずれも、その会場存在を是認した上での、用意問題にかんする変化・変更である。それらの器物の並べ直し以前の配置模様については、警察第7回聴取書で、袴田が略図第134丁表を書いて示している。予審では、第134丁表の通り確認した(予審第10回.P.225)。第1審でも、第134丁表の通り確認した(第1審第2回.P.311)。警察・予審・第1審公判とその陳述内容は首尾一貫している。

 器物用意の協議、命令有無についての袴田陳述

 器物用意協議有無について、警察では不明で、予審では協議有無をのべていない。ただ、協議有を是認してはいない。第1審では、協議を否認した。

器物用意の協議、命令有無

〔表6

警察

予審

第1審

控訴審

(1)袴田命令品目

(?)

斧、出刃包丁、針金、細引

斧、出刃包丁

(?)

(2)袴田、非命令品目(木島独自用意品目)

(?)

硫酸瓶

硫酸瓶、錐 (コロロホルムは行動隊)

(?)

(3)命令の有無不明

針金、細引

 全体として、器物用意協議の存在は1度も是認していず、第1審公判で明確に否定している。警備隊動員担当・中央委員候補・査問委員としての袴田個人による警備責任者木島への器物の用意命令として陳述している。会場での4品目存在は警察・予審・第1審公判と首尾一貫している。その用意命令・非命令品目については、斧、出刃包丁、硫酸瓶3品目は予審、第1審公判と変更はない。非命令品目のなかで、12月半頃、最初の査問計画日(失敗のとき)に行動隊の誰かがコロロホルムを持参してきており(予審第13回.P.243)、1223日には硫酸瓶が非命令品目として用意・搬入・存在していたということは一定の共通性がそこには存在する。

木島の当時の党内地位と大泉、小畑査問での任務についての袴田陳述

〔表7

警察

予審

第1審公判

控訴審

1)党内地位イ.査問以前

(?)

東京市委員会組織部員(第5回.P.207

東京市委員会(第2回.P.305

(?)

ロ.1224

党中央委員候補者

党中央委員候補者

2)大泉、小畑査問での任務

(?)

警備隊責任者

警備隊責任者

(?)

3)警備での袴田との打合せ

(?)

○(第9回.P.223

○(第2回.P.305

(?)

(2)12月半頃(失敗のとき)

○(〃.P.224

○(〃.P.306

(3)1223日午前8時頃

○(〃.P.225

○(〃.P.308

4)警備隊人数(1)1223

(?)

2〜3名動員方針(第9回.P.223

人数いってない(第2回.P.306

(?)

(2)〃

2〜3名つれてきた(同上)

(3)〃

2〜3名いた(同上)

 1224日小畑死亡後の会合で、宮本と逸見相談の結果、木島を党中央委員候補者に決定した。袴田予審『小畑カ死シタ日ニ同人ヲ、査問ノ為メノアヂトテ宮本ト逸見カ協議ノ結果、秋笹ト私トヲ中央委員ニ挙ケル事ニ決定シ、其ノ場テ宮本カラ其ノ旨ノ伝達ヲ受ケテ中央委員ニ就任シタノテアリマス。』(予審.第6回.P.211)。『暫ク小畑ヲ其ノ儘ニシテ置イテ木島ヲ其ノ席カラ外サシテ、宮本、秋笹、逸見、私ノ四名テ会合ヲ持チマシタ(中略)尚、中央委員会ノ構成ニ付キ協議シ(中略)尚其ノ席上、宮本ト逸見ノ相談ノ結果、従来中央委員候補者テアツタ私ト秋笹ヲ中央委員ニ挙ケルコトニ又木島ヲ其ノ候補者ニスルコトニ決定シタノテアリマス』(予審.第12回.P.240)。袴田第1審『問 被告人ハ従来中央委員候補者テアツタノカ此時以後、中央委員ト成ツタ訳カ。答 左様テス。私ト秋笹カ中央委員候補者カラ中央委員ト成リ、木島カ中央委員候補者ニ成ツタノテス』(第1審.第3回.P.322)。宮本陳述、論文でも、この会合と組織分担、党中央部の補充の協議をのべている(第4回公判。P.181「組織分担」)。「党中央部の補充と新しい分担を決定した」(「スパイ挑発との闘争」P.15)

 大泉、小畑の査問では木島を“たんなる警備員、警備の一員”ではなく『警備隊責任者』にした。袴田予審『12月中旬木島隆明ト連絡シタ時、同人ニ対シ、警備隊ノ責任者タルコトヲ命シタルトコロ、即座ニ之ヲ承諾シタノテ、大泉、小畑両名ニ対スル警備一切ヲ任シタノテアリマス。私カ木島ヲ警備隊責任者ト定メタノハ(中略)且ツ宮本モ木島ヲ信頼シテ居タノテ右査問会ニ関スル中央部ノ会合ノ際私ト宮本トカ木島ヲ警備隊長トシテ推薦シタ結果中央部トシテ同人ヲ起用スルコトニ決定シ(中略)尚木島ハ信頼スルニ足ル部下ヲ二三名警備隊員トシテ動員スルコトニシタノテアリマス』(予審第9回、P.223)。袴田第1審『…同人ニ此ノ査問ノ警備隊責任者タルコトヲ命スル旨云ヒ渡シタ処同人ハソレヲ承諾シタノテアリマス。問 木島ヲ警備隊責任者トスル事ニ付テハ中央部テ承諾シテ居タノカ。答 大泉、小畑査問ニ関スル中央部ノ会合ノ際、私カ提案シ同意ヲ得テ居リマシタ。』『問 木島ニ警備隊責任者ヲ命シタ時、同人ニ何人位動員セヨト云フ事ヲ命シタノカ。答 君ノ最モ信頼出来ルト思フ者ヲ寄越ス様ニト云ツタ丈ケテ人数ハ云ヒマセヌカ査問ノ日同人ハ二、三名連レテ来テ居リマシタ様テス』(第1審第2回公判.P.305P.306)。

 この『木島=警備隊責任者』について宮本陳述はいっさい触れていない。一警備員としており、現在の党の説明や「小林論文」も『木島=一警備員』という立場でのべている。木島が、“たんなる一警備員”であったのか、それとも『警備隊責任者』であったかは、「小林論文」の上記〈第九段階説〉を検討する上で一つの重大な問題である。後でのべる。宮本陳述『彼(木島)ハ小畑、大泉ノ査問ニ当ツテハ委員テハナク単ナル見張テアツタ』(宮本第8回公判.P.212)。『一、木島ハナント云ハウト一警備員テアツテ同人ノ供述ハ本質的判断ノ根拠トハナラナイ』(宮本第13回公判.P.272)。これは、木島の警備隊責任者地位否定によって、木島陳述の証拠能力を低めるためのウソである。

 警備での袴田との打合せと、警備隊人数は、表の通りである。上記3項目についての袴田陳述は予審、第1審公判とも首尾一貫している。

 袴田陳述(警察・予審・第1審公判)の証拠能力検討

 但し、警察聴取書第7回は未公表で、公表は第8、9、10回のみである。袴田陳述の任意性とその根拠は、〔第2の事実問題〕でのべる。

 査問準備(2)と警備隊責任者木島の行動第一段階から第八段階にいたる経緯について、袴田陳述は、予審と第1審公判との比較でも首尾一貫している。

 器物の会場存在品目について、警察・予審・第1審公判での陳述の比較で袴田陳述は首尾一貫しているか(?) (1)5品目について、警察での硫酸瓶陳述有無不明をのぞいて、基本的に首尾一貫している。(2)器物の配置模様の陳述も警察・予審・第1審公判と完全に首尾一貫している。(3)陳述変化・変更部分としての器物用意協議有無問題では、(予審)協議の有無についてふれていない→(第1審)協議を否認した。しかし、これは5品目の会場存在についてのなんの変更でもない。いずれも是認している。袴田個人の用意命令品目問題では、(予審)命令品目を斧、出刃包丁、細引、針金→(第1審)斧、出刃包丁とした。非命令品目は、(予審)硫酸瓶→(第1審)硫酸瓶。命令有無不明は、→(第1審)細引、針金。これも、5品目の会場存在についてのなんの変更でもない。いずれも存在を是認している。したがって、上記の変化・変更はあっても5品目の会場存在については予審・第1審と同一であり、斧、出刃包丁、細引、針金の4品目の会場存在については警察・予審・第1審と完全に同一であり、首尾一貫している。

 

分析(2)  宮本陳述

 〔第1の事実問題〕での宮本陳述の証拠能力を検討する。

(1)宮本陳述の内容

 是認部分 宮本ピストル1挺の会場での存在。細引用意の協議。用意・搬入・存在・使用を是認した(宮本第4回公判.P.175176)。小畑・大泉到着時での細引の即時使用によって、『査問開始以前』の細引搬入・存在を是認した(宮本第4回公判.P.176.宮本「スパイ挑発の闘争」P.10)。

 否認部分 威嚇器具(斧・出刃包丁)用意協議の否認(袴田第1審陳述と一致)。斧、出刃包丁の用意・存在の否認(宮本第11回公判.P.260)、針金存在の否認(宮本第9回公判.P.233)。硫酸瓶存在の否認(宮本第10回公判.P.244)。全体として、袴田陳述(予審、第1審)の5品目のうち、細引をのぞく他の4品目(斧、出刃包丁、針金、硫酸瓶)の存在を否認した。現在の党の説明でも、4品目の用意・搬入・存在を完全に否定している。

(2)宮本陳述での4品目器物用意・存在否認の非事実性と、当時条件下での正当性との区別

 当時条件下での正当性は、〔第2の事実問題〕でのべる。4品目存在否認内容の非事実性を証明する方法として、査問関係者6人の器物使用是認陳述と器物用意・搬入・存在問題の関係から検討する。〈証明法(1)〉 器物用意・搬入・存在確認の直接当事者袴田陳述と木島陳述との一致点と相違点検討から、真実、真相を検討する方法だが、これは木島陳述が未公表なので、現時点ではできない。〈証明法(2)〉 器物使用が“査問関係者陳述の一致点という枠内”で基本的に証明された場合、それは、数日前にこの査問会場が借りられたという条件(「スパイ挑発との闘争」P.15)では器物の用意・搬入・存在の証明に自動的になりうる。しかし、この証明法は物的証拠、器物購入店舗証拠、関係者陳述証拠の一致という完全証明ではなく、あくまで、関係者陳述の一致点と相違点による証明という限定的・不完全なものであることはいうまでもない。

 器物存在・使用についての関係者陳述内容を分析する。ここでの使用は「なんらかの使用」である。使用内容の詳細は〔第2の事実問題〕で検討する。大泉 1)存在の陳述なし。2)使用は、細引、斧、出刃包丁、硫酸、針金、錐、ピストル。但し、使用器物、使用程度もスパイとして出鱈目な陳述がある。木島 1)存在は、木島陳述未公表で不明。2)使用は、細引、斧、硫酸、針金、タドン。但し、硫酸使用の自己行為は否認している。逸見 1)存在の陳述なし。2)使用は、細引、斧、硫酸、針金、タドン。但し、木島、逸見とも、使用者、使用した相手、使用程度については迎合的または不正確、記憶ちがいの陳述をしている。〔第2の事実問題〕でのべる。秋笹 1)存在は、秋笹陳述未公表で不明である。2)使用は、細引、斧、硫酸瓶、針金、タドン。斧「有リ合ワセタル物」、タドンの使用行為については自己行為を自認した。袴田 1)存在陳述は、細引、斧二挺、出刃包丁二挺、硫酸一瓶、針金、鉄筆又は錐、ピストル三挺である。2)使用について、(1)使用是認は、細引、斧、硫酸、針金、タドン、錐、ピストル、(2)使用否認では、出刃包丁使用を全面否認した。大泉到着時、大泉査問中の2回にわたる完全な出刃包丁使用否認をした(袴田予審第18回.P.266P.267)。宮本 1)存在について、(1)存在是認は、細引、ピストル1挺(宮本ピストル)、(2)存在否認は、斧、出刃包丁、硫酸瓶、針金存在を全面否認した。現在の党説明も宮本陳述と完全に同一である。2)使用について、(1)使用是認は、細引のみ、(2)使用否認では、斧、出刃包丁、硫酸瓶・硫酸、針金、タドン、錐の使用全面否認をした。

 ここで問題にしているのは“その器物の存在を当然の前提とする器物使用陳述”についてのみである。その具体的使用方法はすべて〔第2の事実問題〕で検討する。

物的証拠、器物の存在・使用についての関係者陳述の一致点と相違点

〔表8

物的証拠

存在・使用についての関係者陳述・証拠

陳述者の思想的立場

スパイ

転向者(警察から)

予審非転向者

一貫して非転向

大泉

木島

逸見

秋笹

袴田

宮本

計6人

用意、搬入者

器物

(転向陳述)

(予審非転向陳述)

(非転向陳述)

1.袴田

→木島

1)細引

6人全員

2)斧

◎二挺

×

5人

3)出刃包丁

△二挺(使用否認)

×

2人

4)硫酸瓶・硫酸

×

5人

5)針金

×

5人

2.秋笹

6)タドン(火鉢用

(△)火傷

×(使用否認)

4人

7)鉄筆又は錐

△○

×(使用否認)

2人

3.各個人

8)宮本ピストル

4人

9)袴田ピストル

4.12月半頃行動隊

10)コロロホルム

122324日にはない

(△)

 ◎印−存在・使用とも是認、○印−使用を是認、△印−存在のみ是認、×印−存在・使用とも否認、または使用否認。〈計6人〉欄は、存在または使用の是認者数で、その内容は後にのべる。

 これは3つの問題をふくんでいる。第一、6人の関係者陳述一致点をどう評価するか。第二、6人の関係者陳述相違点をどう評価するか。第三、宮本陳述と他5人(スパイ1人、転向者2人、予審非転向者2人)との相違点をどう評価するか。

 第一、6人の関係者陳述一致点への評価

 細引使用については宮本中央委員を合わせ6人全員が完全一致した。それは、細引の『査問開始以前』の用意・搬入・会場存在での一致を意味している。斧、硫酸瓶・硫酸、針金の「なんらかの使用」については宮本中央委員をのぞく5人が一致した。5人は斧、硫酸瓶、針金の存在を前提としている。袴田中央委員は存在も是認している。「なんらかの使用」とは、使用関係者、対象者、使用頻度、使用回数での相違を別とした「なんらかの使用」の是認陳述である。その「なんらか」の具体的内容の相違点と一致点の検討は〔第2の事実問題〕でのべる。ここではその抽象的な「使用」という問題から見た「存在」の事実上是認ということである。タドンの「なんらかの使用」についても4人が一致した。大泉の△印は、タドンを直接いっていないが火傷のことで、これは出鱈目である。後でのべる。

 細引、斧、硫酸瓶・硫酸、針金の「なんらかの使用」一致は、4品目「存在」を当然の前提とする陳述である。スパイ(大泉)、転向者(木島、逸見)、予審非転向陳述(秋笹、袴田)の5人の完全一致をどう説明し、どう評価するか。4品目の「なんらかの使用」は事実であり、4品目「存在」は事実であった。

 第二、6人の関係者陳述相違点への評価

 「なんらかの使用」という抽象的な「使用」とは別に、具体的な「使用」としての使用者、対象者、使用頻度、使用回数はかなり相違しているが、その検討は〔第2の事実問題〕でのべる。出刃包丁、錐の「なんらかの使用」は不一致点が大きい。出刃包丁使用を大泉は陳述した。袴田は存在のみ陳述し、使用は2回にわたり完全否認した。の「なんらかの使用」は大泉、袴田の2人のみで、他にだれも「使用」陳述していない。袴田陳述も錐「使用」は予審→第1審→控訴審とまちまちで首尾一貫していない。出刃包丁、錐の「なんらかの使用」は相違点から見て、事実ではない。タドン「使用」を大泉は警察では陳述していない。小畑査問中は大泉は目隠しをされていたので、タドン使用行為は見えず、またタドン使用そのものも音は発生せず、小畑の「熱イ」という声だけだった。使用行為者側の声も、硫酸とは異り、「硫酸をつけるぞ」という袴田自己行為自認の声も存在せず、大泉も判別できなかった。スパイである以上、他の出鱈目な陳述から見て、聞こえていたら陳述しない筈がない。但し、予審では火傷を陳述した(第16回.P.99.第18回.P.137)。

 第三、宮本陳述と他5人陳述(スパイ1人、転向者2人、予審非転向者2人陳述)との相違点評価

 宮本陳述では5品目器物中、斧、出刃包丁、硫酸瓶・硫酸、針金の「使用」を全面否認し、それだけでなく、その「存在」も否認している。タドン「使用」も全面否認している。他5人は、細引以外の上記4品目の「存在」を否認したものは“現在公表資料の中では”誰もいない。大泉は斧、出刃包丁については、「使用」のみでなく「存在」も是認している(大泉予審第18回.P.131)。斧、出刃包丁、錐「使用」については“現在公表資料の中では”秋笹、逸見、木島とも是認、否認ものべていないが、同時にその「存在」の是認、否認ものべていない。

 他5人は「使用」について、次のように一致している。(1)斧「なんらかの使用」は、秋笹自己行為自認もふくめ5人全員一致。(2)針金使用5人全員一致。(3)硫酸瓶・硫酸「なんらかの使用」は、袴田硫酸第1段階自己行為自認もふくめ5人全員一致。(4)タドン「なんらかの使用」は、秋笹自己行為自認もふくめ大泉をのぞく4人が一致している。(1)、(3)、(4)の自己行為の自認陳述については〔第2の事実問題〕でくわしくのべる。このように是認していることはすべてその「存在」を当然の前提としている。この点で、宮本陳述のそれら「使用」否認、「存在」否認と完全に異っている。スパイ、2人の警察からの転向者、2人の予審非転向者の、5人陳述の一致度と宮本陳述との不一致度をどう説明するか。この真相は分析(4)でのべる。

分析(3)  木島到着時刻と「小林論文」のウソ

 査問準備(2)の直接当事者としての袴田陳述と木島陳述の一致点と相違点について、木島陳述が未公表なので不明である。袴田確定判決引証部分の木島予審陳述も査問準備(2)には直接ふれていない。宮本陳述中の木島陳述検討部分でも査問準備(2)には直接ふれていない。したがって、この側面からの検討は現在ではできない。袴田陳述と宮本陳述とで3項目の一致点がある。細引の用意・搬入・存在・使用は6人全員一致した。細引の小畑・大泉到着時での即時使用も完全一致し、それは『査問開始以前』の会場への搬入・存在の自動的是認・完全一致である。大泉到着時には木島は二階にはいなかったことも、大泉陳述への反論で2人は一致している。問題は〈「小林論文」第九段階説〉の警備隊責任者木島の『はじめての秋笹宅玄関へくる』到着時刻問題である。

<「小林論文」第九段階説>の“新事実”性

 「小林論文」は、『予審で袴田同志は「威嚇器具」が、査問第一日の朝から秋笹宅二階にあって、木島がもちこんだようにのべているが、(中略)当の木島は査問開始後にはじめて秋笹宅の玄関にくるのであり、二階に上がるのは査問第一日の夕方である』(「文化評論」P.52.「新日本新書」P.67)とした。(中略)部分は〔第2の誤り〕で検討する。

 宮本陳述では、木島の搬入問題、木島の会場到着時刻問題にはふれていない。むしろ木島陳述の時刻問題については次のように批判している。『又、十二月二十三日夜中、袴田カ居タト述ヘテ居ルカソレハ全ク無根ノ事テ袴田ハ其ノ夕帰宅シテアヂトニハ居ナカツタノテアル。大体一定ノ場所ニ一定ノ時或人間カ其処ニ居タカ居ナイカト云フ事ハ事件ヲ判断スルニ付、根本問題テアル。ソレカハツキリ判ラナイ様テハ他ノ陳述モ信用スル事ハ出来ナイ。木島ノ陳述ノ其ノ点カ曖昧テアル以上他ノ陳述モ曖昧テアルト云ハサルヲ得ナイ』(宮本第8回公判.P.214)。

 これまでの党の説明では、木島の秋笹宅玄関到着時刻についてなにものべていない。「文化評論」9月号の「小林論文」ではじめて掲載された“新事実”である。

 この〈「小林論文」第九段階説〉には次の4つの問題とそれにもとづく〔第1の事実問題〕での袴田陳述内容の事実性の全面否定という論理構成がある。第一に、木島が二階へ上る時刻の問題。第二に、木島のはじめての秋笹宅玄関到着時刻の問題。第三に、上記第一、二による木島による器物の搬入否定の問題。第四に、上記第一、二、三を通じて、細引をのぞく他4品目器物の会場存在全面否定と搬入そのものの全面否定を行い、それによって〔第1の事実問題〕での袴田陳述内容の事実性の全面否定をおこなうという目的をもつ論理である。

 第一に、木島が二階へ上る時刻問題

 査問参加(査問委員ではないが)のために二階へ上る時刻問題については、木島自身の陳述、袴田・宮本陳述は一致しており、木島の査問参加は夕方である。確定判決では夕方5時頃と認定した。『夕方以前』に、秋笹宅玄関到着後二階へは一度も上っていないかどうか(?) 袴田予審陳述では、午前9時頃に木島が一階におり、二階へ上ったら器物が存在したとし、第1審陳述では自分が2つの目的で並べ直したとなっており、木島がその9時以前に二階へ器物を当然もって上ったものということを前提としている。「小林論文」では、夕方からの査問参加を二階へ上る時刻事例としてあげているが、これは木島が二階へそれ以前に、玄関到着後一度も二階へ上らなかったという証拠能力としてはなんら価値がない。「小林論文」第九段階説の二階へ上る時刻問題は、木島の査問参加時刻(夕方)と二階への器物搬入時刻とを意図的にすりかえて、査問参加時刻(夕方)をのべることによって、それ以前の二階への木島器物搬入の袴田陳述の事実性を一切否定するという詭弁である。

 第二に、秋笹宅玄関への木島はじめての到着時刻問題

 「小林論文」の論証方法上の問題点

 袴田陳述では、『査問開始以前』(9時頃)に木島が一階にいたとし、『朝八時頃、木島隆明トノ連絡ノタメ同人ト出合ヒ、大泉、小畑両名ニ対スル査問ノ場所ニ関スル地理等ヲ教ヘ、警備ニ関スル手筈ヲ打合セタ上、同人ニ査問場所(第1審公判ではアヂト)ヘ先ニ行ツテ居ル様ニ云ヒ付ケテ別レ。同日午前九時頃、其ノ時ニハ木島カ既ニ同所ニ来テ居テ警備外部トノ連絡ノ都合上階下ニ居リマシタ。私ハ二階ニ上ツテカラ其ノ部屋ニハ木島ノ用意シタ斧二挺、出刃包丁二挺、硫酸一瓶、細引キ、針金等査問用ノ器具カ置カレテアリ』(袴田予審第10回.P.225)としている。

 それにたいし、「小林論文」は『当の木島は…であり、…夕方である。』として誰の陳述証拠としてでなく、全く新しい事実問題を明白な事実として断定的にのべている。この論証方法、袴田陳述の事実性否定方法の問題点は次の点である。木島のはじめての玄関到着時刻が『査問開始以後』であるとは、今まで宮本陳述、宮本論文もふくめ誰もいっていないし、現在の党の説明でも書かれていない。「小林論文」で1976年9月にはじめて掲載された“新事実”である。木島のはじめての玄関到着時刻を証言できるのは、『査問開始以前』なら木島自身、秋笹、ハウスキーパー木俣の3人であり、『査問開始以後』なら、査問委員4人は二階へ上っているから木島自身と木俣の2人である。「小林論文」では、それらの誰の陳述とも書かれていない。袴田確定判決の引証部分での木島予審陳述中『午前九時頃…秋笹宅付近ニ到リ、夫レヨリ秋笹ノ命ニヨリ査問ノ「ピケ」(見張)ヲ約半日ヤリマシタ』(亀山著書.P.304)とあり、これは『査問開始以前』の秋笹宅玄関到着を意味している。『査問開始以前(午前9時頃)に一階に木島がいた』とする袴田陳述内容と真向から対立し、それを否定する木島到着時刻の“新事実”をのべるにあたって、何の陳述証拠も上げずに“事実断定”として提起し、それによって袴田陳述内容の事実性の全面否定の根拠にするという論法、否定方法は根本的に誤っている。

 「小林論文」の論証内容、否定内容の問題点、矛盾点

 『木島は査問開始後にはじめて秋笹宅の玄関にくるのであり、…である。』という「小林論文」の陳述証拠なしの“事実断定”は内容上で、査問準備(2)と警備隊責任者木島の行動として、それについての袴田陳述の論理的首尾一貫性にたいして論理的優位性をもちうるかどうか(?)

〈矛盾点(1)〉

 袴田個人による警備隊責任者木島への器物用意命令、用意品目、木島の用意、23日午前8時の指示『先に査問場所=アヂトへ行っているように云いつけた』についての第一〜第三段階についての予審・第1審公判同一内容の袴田陳述にたいしてはなんの反論にもなっていない。第四、五段階の搬入否認のみである。「小林論文」は、第一〜第三段階についての袴田陳述を事実として認めるのか(?)

〈矛盾点(2)と「小林論文」の虚偽性〉

 第七段階の小畑・大泉到着時で、直ちに細引を使用した。これは、袴田陳述、宮本陳述、宮本論文「スパイ挑発との闘争」とも完全一致している。これは『査問開始以後』でなく、『査問開始以前』に細引が会場に搬入・存在していたことを示す完全証拠となっている。

 細引用意は袴田陳述が一貫して木島用意品目としてのべているものであり、細引即時使用は木島が『査問開始以前』に秋笹宅玄関へ来ており、細引を搬入したことを示す完全証拠となっている(袴田予審第9回.P.223.第10回.P225)(第1審第2回.P.305P.308)。5品目中、細引のみを秋笹が用意したとは袴田陳述の全経緯から考えられないし、そのような陳述も“現在公表されている資料”では誰もしていない。5品目器物の、同一者木島による8〜9時同時搬入、二階同時存在を示す袴田陳述がある。細引のみは他の査問委員が用意・搬入したという陳述証拠はない。その可能性は秋笹のみで、宮本・逸見は小畑・大泉連行の任務、袴田は細引用意命令者である。細引の『査問開始以前』用意・搬入・存在のみ認めて、細引き以外の他4品目の『査問開始以前』用意・搬入・存在も是認する袴田陳述内容の事実性を全面否定することは論理的に矛盾しており、かつ、説得力を基本的にかいている。したがって、この〈「小林論文」第九段階説〉はウソの“新事実”である。

〈矛盾点(3)と「小林論文」の虚偽性〉

 木島の任務は、宮本陳述や現在の党の説明のいうように『たんなる見張』『一警備員』ではなく、警備隊責任者であり、警備員としては少くとも林鏡年、金季錫、加藤亮の3名が動員されていた(「亀山著書」の袴田確定判決引証部分の木島予審陳述.P.304305)。査問会場警備任務としては、袴田陳述のいうように『警備外部』と会場内警備とにわかれ、上記3名は『警備外部』として特高によるアヂト襲撃等にそなえて会場外におり、木島は警備隊責任者として、一度は会場内(=秋笹宅玄関内)に『査問開始以前』にくるのは当然であり、『午前九時頃警備外部トノ連絡ノ都合上階下ニ居リマシタ』という袴田陳述(予審第10回.P.225)は会場警備の任務分担上当然である。むしろ、小畑・大泉到着後でのスパイ査問通告時における小畑・大泉が逃亡を企てる危険性から見ても、警備隊責任者が『査問開始以前』には会場内警備を分担し、かつ『警備外部トノ連絡ノ都合上』階下にいるのは常識である。

 他に3名の警備員がいるのに、「小林論文」のように、警備隊責任者が『査問開始以前』に秋笹宅の付近に来ていながら、一度も玄関に入らないことなどありえない。袴田陳述によれば、午前8時に別れて、査問場所=アヂトへ先にいっているよう指示され、9時頃には会場付近に到着していながら、午前10時または10時半頃の査問開始まで、秋笹宅玄関へ一度も入らず、他の3名とともに会場外にいただけなどとは、一般的な党の会場警備の常識からもありえない。木島が『たんなる見張』『一警備員』であり、他の3名と同格ならば、上記の点もありうるが、警備隊責任者として中央部で正式に決定されたものであり、1224日には党中央委員候補者に決定されているのである。さらに1223日夕方(5時頃)からは査問委員ではないが、査問そのものに参加しているという事実から見ても、「小林論文」のいうようなことは常識的にありえない。したがって、この点からも〈「小林論文」第九段階説〉はウソの“新事実”である。

〈矛盾点(4)と「小林論文」の虚偽性〉

 袴田陳述は予審で1223日午前の木島存在有無について3つの時刻をのべている。(1)午前8時、木島と連絡、警備の手筈打合せ、先に査問場所へいくよう指示(P.225)。(2)午前9時、木島は警備外部との連絡の都合上、階下にいた(P.225)。(3)午前10時または10時半、大泉到着時に木島も二階にいたと大泉はいうが、木島は二階にはいなかった(P.266)。宮本陳述は、この点では袴田陳述と完全に一致している(宮本P.209)。そして(1)(2)については小畑連行任務中であり、当然のことながら一切触れていない。

 「小林論文」によれば、袴田予審陳述は同一日(23日)の(1)8時、(2)9時、(3)10時の3回にわたる木島存在有無陳述のうち、(1)8時、(3)10時の袴田陳述は正しく、事実であり、(2)9時の袴田陳述は誤っており、事実でない、ということになる。この矛盾点については「小林論文」はなんの説明もしていない。同一日の8時・9時・10時についての両者の経緯説明の論理を比較した場合、袴田陳述の(1)(2)(3)の方がはるかに首尾一貫しており、また(2)(3)を見た場合でも、9時には警備隊責任者として警備外部との連絡都合上、二階へ上らず、階下におり、10時または10時半頃の大泉到着時にはやはり二階へ上っていなかったという方が事実経緯説明としてはるかに説得力をもっている。この点でも〈「小林論文」第九段階説〉はウソの“新事実”である。

 第三に、第一、第二による木島の器物搬入否定問題

 第一、第二により小林論文は、木島の器物搬入が否定され、袴田陳述の『査問開始以前の木島搬入説』(第一〜第八段階)が否定されるという論理構成になっている。しかし、上記に見たように第一、第二の問題とも詭弁的論理、またはウソの“新事実”であり、あるいは袴田陳述にたいする他のなんの陳述証拠も示さないままでのウソの“事実断定”である以上、この論理そのものが成立しない。

 但し、木島自身が直接、上記器物をもちこんだかどうかについては袴田陳述でものべていず、他3名の警備員の誰かが、器物を細引と同時に搬入した可能性もありうる。これは不明である。また、二階搬入についても、木島自身が直接二階へもちこんだかどうかについては袴田陳述はのべていず、秋笹がうけとって二階へ搬入した可能性もありうる。これも不明である。 党はこのようなウソの“新事実”挿入によって袴田陳述内容の事実性を否定する方法をとるべきではない。

分析(4)  器物の用意・搬入・存在の真相

1)、〔第1の事実問題〕についての各証拠の証拠能力

 第1の事実問題(第5項目)の証拠を検討する。スパイ査問問題の刑法上有罪・無罪(治安維持法は問題外)の証拠という意味ではない。

 物的証拠として、斧二挺、出刃包丁二丁(昭和九年第一二四九号ノ内八四乃至八七号)、針金(198199号)(宮本第11回公判.P.260)(大泉予審第18回.P.130)がある。この4個の物件および針金が出てきた経緯が不明なので、査問会場にあった物かどうか不明である。秋笹、木島が、その処理および処理場所について陳述した結果でできたのか(?) 他の関係者公判で袴田、秋笹、逸見、木島の4人は証拠物件として是認しているのか(?)

 法医学的証拠として、5品目器物の法医学的使用証明による存在証明がある。(1)縛創における細引使用では、小畑、大泉とも縛創があり、存在証明となる。(2)針金、硫酸使用痕跡はないので、存在証明とならない。(3)斧使用痕跡が小畑にあり(鈍体の作用)、証明があることになっているがこれは特高のデッチ上げである。後でのべる。細引使用証明は、細引の用意・搬入・存在の完全証明となっている。

 関係者陳述証拠では、査問委員4人、警備隊責任者木島、スパイ大泉ら6人の陳述がある。くわしくは下記でのべる。細引使用は6人とも完全に一致しているので、細引の用意・搬入・存在は完全証明である。

 5品目の器物購入店舗証拠について、警察の証拠提出有無は不明である。

 以上から、細引の用意・搬入・存在・使用証明は完全証明である。

2)、器物準備問題の真相

 下記の8項目がある。

 1)器物用意の協議有無 細引用意は協議した。細引は袴田命令品目となった(宮本第4回公判.P.175176)。協議無は、威嚇器具としての斧・出刃包丁と、他に針金、硫酸瓶である。この4品目については、協議はなく、袴田・木島の関係だけで用意された。

 2)袴田中央委員候補者・査問委員・警備隊動員担当による警備隊責任者木島への用意命令と用意品目−5品目の器物 (1)協議有で、かつ用意命令品目は、細引。(2)協議無で、袴田個人の用意命令品目は、斧、出刃包丁。(3)協議無で、袴田非命令品目(=木島の独自用品目)は、硫酸瓶(コロロホルムは、失敗のとき)。(4)協議無で、上記(2)(3)のいずれかは針金である。

 3)警備隊責任者木島の用意 用意品目は、斧二挺、出刃包丁二挺、硫酸一瓶、細引、針金であった(予審第10回.P.225)。器物購入店舗は、不明である。物的証拠として、斧二挺、出刃包丁二挺、針金(宮本第11回公判.P.260)(大泉第18回予審.P.130「竹村編集」)がある。斧、出刃包丁の8487号の4個の証拠、針金は198199号の証拠がある。器物事後処理は秋笹か木島のいずれかと思われるが、斧、出刃包丁、針金処理場所についての秋笹、木島陳述有無は不明である。

 4)搬入 搬入者は木島(警備隊責任者)で、朝9時頃、木島は一階にいた(袴田予審第10回.P.225)。他3人の「警備外部」の警備員である可能性もある。搬入品目は、斧、出刃包丁、硫酸瓶、細引、針金5品目である。搬入時刻は、袴田が二階へ上る以前の午前8時以後から9時頃の間であった。細引用意・搬入と他4品目用意・搬入との関係では、5品目を同時用意・同時搬入した。上記〈「小林論文」第九段階説〉との関係は後でのべる。二階への搬入者は、木島か秋笹かのいずれかである。

 5)存在確認=“取り揃え”の確認 存在確認陳述者は、査問委員では袴田1人である。査問開始前に他は秋笹のみ二階にいた。被査問者大泉も存在確認した(大泉予審第18回.P.131))。宮本、逸見は小畑、大泉連行の道中でその陳述はない。存在確認品目は、斧二挺、出刃包丁二挺、硫酸瓶一瓶、細引、針金の5品目である。錐は秋笹のガリ切り用鉄筆であると考えられる。配置模様は、第134丁表の図面通り(警察第7回聴取書)(予審第10回.P.225)(第1審第2回.P311)であった。

 6)並べ直し 23日午前9時頃、2つの目的で並べ直した(第1審第2回公判.P.311)。(1)査問の場所を広くするために、火鉢を片付けた。(2)部屋へ入ると斧や出刃包丁がすぐ彼等の目につきテロの目的を達しうるように並べ直した。

 7)最初の使用は細引使用 小畑、大泉到着直前に袴田が片手にピストル、片手に細引きをもって起ち上る。到着するとすぐ2人を細引で縛る。『査問開始以前』に細引の用意・搬入・存在は“その使用によって”完全証明である。宮本陳述も、細引協議有を是認(宮本第4回公判.P.175176)し、到着時の細引使用を是認し、搬入・存在も事実上是認した。「先ツ小畑ヲ連レテ行キ二階ヘ上ツテ直ク同人ヲ制縛シ、査問ヲ開始スル旨云フト」(宮本第4回公判.P.176)、「身体を拘束して」(「スパイ挑発との闘争」P.10)。細引の『査問開始以前』搬入者は木島である。

 上記1)〜6)の経緯、第一段階〜第八段階の袴田陳述の首尾一貫性からいって他の4品目とは別に、細引のみを秋笹が用意・搬入したとは考えられない。宮本、逸見は小畑、大泉連行者で、袴田は細引用意命令者である。そうなれば搬入者は木島となる。これも〈「小林論文」第九段階説〉との関係で重要な問題である。

 8)23日午前9時頃(袴田到着時)から10時または10時半頃(大泉二階到着・査問開始時)での木島存在場所 「小林論文」第九段階説では、木島はそれ以前にも、その間にも“会場外”にいて、秋笹宅の玄関へは一度もきていないことになっている。しかし、木島は午前8時頃、袴田と会い、先にアヂトへいっているように云いつけられ、アヂトへ行った(予審「先に査問場所」―→第1審「先にアヂト」)。袴田が午前9時頃アヂトに到着すると、木島、ハウスキーパー木俣がおり、木島は「警備外部との連絡の都合上」階下にいた。二階には秋笹1人のみいた。そこには木島の用意した5品目が存在していた。午前10時または10時半頃、小畑の後で、大泉が二階へ上ったとき、大泉は木島も二階にいたといっているが、木島は二階にはいなかった(袴田予審第18回.P.266.第1審第2回.P.311P.312)(宮本第8回公判.P.209)。

 関係者陳述証拠能力についての全体的評価

 〔第1の事実問題〕での宮本陳述のうち、斧、出刃包丁、硫酸瓶、針金の4品目「存在」・「搬入」否認内容は事実ではなく、真実、真相でもない。4品目用意・搬入・存在を是認する袴田陳述内容の事実性を全面否定するための〈「小林論文」第九段階説〉は虚偽の“新事実”であり、ウソである。袴田陳述は部分的不正確さ・問題点を当然ふくむとしても、論理的首尾一貫性があること、警察・予審・第1審陳述内容には基本的同一性があることから〔第1の事実問題〕での袴田陳述は証拠的能力が高い。4品目用意・搬入・存在確認・並べ直しの袴田陳述は基本的に正確であり、事実である。しかし、上記「使用」陳述の一致点の事実性については、上記部分だけでは基本的に証明されている訳ではない。この評価は、下記〔第2の事実問題〕への評価をふくめてのべている。

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〔関連ファイル〕

  (1)、『スパイ査問事件と袴田除名事件  袴田政治的殺人事件の推理劇的考察』

  (2)、『スパイ査問事件の個人的体験』(宮地個人通信第十号)

  (3)、『作家森村誠一氏と「スパイ査問事件」』(添付)森村氏手紙、下里正樹氏手紙

  (4)、袴田自己批判・批判の共産党側資料、「3論文」と「党史」

  (5)、立花隆『日本共産党の研究』関係  「『年表』一部」、「加藤哲郎『書評』他」

  (6)、浩二 『袴田里美予審尋問調書、公判調書全文

  (7)、れんだいこ 宮本顕治論・スパイ査問事件