……カモミールの香りに誘われて、私は少々長居をしすぎてしまった。それとも、これが「時価」の「この店にくつろぐ僅かばかりの時間」だったのかもしれない。
ごちそうさま、と席を立ちあがった私を「少々お待ちを。」と店主が呼び止めた。
やはり代金かな、という私の思いをよそに、店主はカウンターの奥に一度消え、色とりどりの小さな袋を幾つか持って戻ってきた。
「貯蔵庫の小人から、貴方におみやげだそうでございます。」
手渡せた袋の一つずつから微かにお茶の香りが漂う。その香りは袋の色ごとに微妙に異なる。中国茶、ハーブ、不思議なフルーツの香りといった様に。
「これからたとえ何処へ行かれても、疲れた時に紅茶の風味とこの店の時間が思い出せる様に、だそうです。
……最も、簡易的な物ですし、そもそもこの店くらいの紅茶では、お役に立つかは定かではないですが……。」
しかし素人とは言え紅茶店のオーナー、ただでそう簡単にお茶の時間をあきらめたりはしません(笑)。
ティーバッグですが、お茶を飲む環境を自分の机に整備して、ちゃっかり仕事の合間にくつろいでます。
辛い仕事だって、1杯のお茶を飲むちょっとしたゆとりさえあればやっていけるはず……。
……ということで、ティーバッグでの職場のお茶の時間についてのお話です。
最近、仕事が忙しくなってしまい、自宅でゆっくりと紅茶をいれる余裕もなくなってしまいました。
ティーバッグの最大の利点、それはなんといってもお手軽であることです。
確かに、自分の部屋で時間と心のゆとりがあって、ゆっくりと紅茶を楽しみたい時にはリーフでいれたほうが味・香りともに上を行くと思います。(ジャンピングも楽しめますしね。)
でも、忙しい職場や、自宅でもひどく疲れていたり時間がない時には、ほんの数分・手間いらずですぐに心を休ませてくれるティーバッグの手軽さはとてもありがたいものだったりします。言ってみれば、リーフティがゆったりとしたテーブルに幸せをくれる天使だとしたら、ティーバッグは暗い道に灯りをふっと点してくれる点灯夫、といったところでしょうか。
……もっとも、私は最近何杯も飲むので、高速道路の街灯みたいにずらりと灯りが点ってますが(笑)。
だんだん紅茶が好きになってくると、街を歩いていて季節のブレンドや変わった香りの茶葉、もしくは綺麗な紅茶缶を見ただけで、思わず買って飲んでみたくなってしまいます。
ましてや、紅茶専門店に足を踏み入れてしまった日には、もう店を出る時には幾つかのお茶を抱えているはめになりかねません(笑)。ところが、よく見かけるサイズのリーフティの紅茶缶は100グラムや125グラム。
だいたい1杯で使う茶葉の量は2〜3グラムと言われてますので、1缶で約40杯分です。
これが1缶ならともかく、2缶、3缶と増えてゆくと、さすがにだんだん飲みきれなくなってきます。
ましてや、運悪く買った紅茶が口に合わなかったときはなおのこと、なかなか缶の中身が減っていきません。しかも悪いことに、茶葉は鮮度が命。開けてから長い時間がたってしまうとだんだん香味が弱くなってしまうのです……
その点、ティーバッグだとせいぜい5〜10パックで、場合によっては1パックのみで売っている場合もあるので、気楽に試し買いができるのです。
とりあえずティーバッグで買ってみて、おいしかったら改めて缶のリーフティを買うもよし、または衝動買いしまくった様々な色とりどりの種類のティーバッグを、仕事の合間に選ぶもまた楽し。買う時も気軽で楽しい、それがティーバッグの持ち味なのです。
リーフでもティーバッグでも本来は基本的ないれかたは同じです。
ちゃんと沸騰したてのお湯で、ポットも暖めた上でしっかり蒸らすこと。
たとえバッグの中でジャンピングできなくても、葉っぱにとっておいしく味を引き出せる、快適な環境は一緒なのです。でも、職場などで飲む場合手軽に飲む場合、実際にはそこまでの時間と環境を用意できないことが多いです。
と、いうわけで、私の環境での話を中心に、職場でのティーバッグの紅茶の入れ方をちょっと書いてみます。
- ティーバッグを選ぶ
- まずは時間帯や体の状態、あるいは単なる気分にまかせて、飲むお茶を決めます。
例えば、まだ眠い朝には強めの味のセイロンウバの、午後の疲れてほっとしたい時間帯にはまろやかな味の中国茶、眠ってしまいそうな時は眠気覚ましにすっぱいハイビスカスとか。
この選ぶ時間も、結構楽しいものです。
- お湯を得る
- できるだけ沸かしたてに近いいいお湯を得たいところですが、私の場合は湯沸かしポットのお湯にとどまってます。保温されてて温度が高いのがせめての救い。
コンロとやかんが使える環境の方は、こっそり抜け出して沸かしに行くもよし(笑)
ただし仕事にかまけて、火をかけっぱなしにして忘れないように……。
- ふたをして蒸らす
- ティーバッグと言えど、できればちゃんとポットでいれてあげたいところ。
ちなみにティーバッグの数は一杯につきひとつ……って当たり前といえば当たり前ですね。
もし休憩時間が決まっていて、みんなで休憩をする様な職場なら、休憩時間を見計らって人数分のお茶をいれてみんなでティータイムというのもいいですね。でも実際にはポットでいれるほど場所や環境の余裕がない場合もあります。また、自分で仕事の合間を見て何度も飲む場合は、ポットよりもティーカップでいれたほうがフットワークが軽い場合もあります。
そういう方は、カップにティーバッグを一つぽとんと落とし、直接お湯を注ぎましょう。
ただし、たとえカップでいれる場合でも守ったほうがいいことがあります。
それは、ふたをするということ。カップでもふたをすればちゃんと茶葉が蒸れてくれるので、ポットと変わらない味がでます。お店にいくと、結構綺麗なデザインふた付きのティーカップやティーマグが売っています。職場で飲む場合は、あらかじめ職場用のふた付きのカップを買っておくのがお勧めです。
ちなみに、私はお茶の色がよく見える、ガラスの透明なハーブティ用カップを使ってます。ティーバッグの場合、茶葉が細かくなっているので蒸らし時間はリーフティよりも短めに。だいたい2分程度です。
お湯を注いだあと、電話の応対などを始めてしまうと、気が付いたころにはむちゃくちゃ渋くなっていたりするので要注意です(笑)。
- ティーバッグを取り出し、お茶をいただく
- 適度に茶葉が蒸れたら、ティーバッグを取り出し、机まわりを少し片づけて、ゆっくりお茶を味わいましょう。
あらかじめ、お茶菓子などを常備しておくとなお幸せになれます。
このページは、あと今まで飲んだティーバッグのお茶の話も付け加える予定です。
もし、「こう工夫するともっとおいしいよ」とか、「ここは違うよ」ということがありましたら、メールにて教えて頂けると嬉しいです。
このページが、仕事が忙しくて疲れている方の、ささやかなお役に立てれば幸いです。
いかがでしたでしょうか?少々現実味の強い代物になってしまいましたが……。
……そして今私はここで、おみやげにくれたティーバッグでいれた紅茶を飲みながらこの文章を書いている。カップからは、ほんのりと懐かしく、心の落ち着く香りが漂っている。
ただでさえ忘れっぽい私が、これだけあの雪の降る森の小さな店のことを詳しく書き記せるのも、もしかしたらこの紅茶のおかげかもしれない。