ナットクする 自信がもてる ベビーのうまい名づけ by All About 命名ガイド 牧野くにお |
■ 名字のお話 ●名前は名字に合わせてつけるものか? 名づけは、基本的には名字とは関係ありません。ただし、いくつもの名づけの方法のなかの「占いにしたがう名づけ」だけは、名字からつけられる名前の範囲が決まってしまいます。「名字と合う名前を知りたい」と言われる人もよくいますが、それはイコール「占いにしたがいます」という意味になるのです。 ここで書きますのは、名づけをはなれた、純粋な名字の話です。姓、氏、名字、苗字は言葉の発祥がちがいますし、「姓」の字も日本と中国では意味がちがいますが、今の日本ではみなほとんど同じ意味で使われています。ここでは便宜上、イエの名を「名字」、個人の名を「名前」と呼ぶことにします。 日本は名字の種類が世界でとびぬけて多いといわれます。正確な数は国勢調査でしか出ませんが、これは公表はされません。また漢字で分けるのと、呼び方で分けるのとでは数はちがいます。少ない数え方をしても10万をこえ、数え方によっては30万以上とも推定されています。
いろいろな名字の人数、そして順位については、いくつかの調査があります。 第一生命では契約者の名字の順位を、上位のものだけ発表しています。ふりがなの集計ですので、たとえば堺、酒井、坂井、阪井、坂居さんなどは同じ分類になります。 また、かつて姓名研究家の佐久間英氏が上位6,000位を発表したいわゆる佐久間ランキングも有名です。漢字別の集計ですので、たとえば大谷(おおたに、おおや)さんは同じ分類になります。ただしこのランキングは、たとえば推定人数が5万人の名字が90種類ある、というようにグループ別で表現しており、同じ人数の名字では細かい順位は不明だとしています。 佐久間先生が調査されたときは、電話の普及率が地方によって差があったため、資料はおもに都道府県別の「教職員名簿」によったそうですが、パソコンもない時代、家族全員で8年近い歳月をかけ、まさに気の遠くなるような作業を完成されたのです。 今の時代はほとんどの家庭に電話はあり、電話帳での順位は信憑性があります。電話帳にのせない人もいますが、ランキングにはあまり影響しません。電話帳はもちろん漢字別ですが、ちがう名字で人数が一致することは少なく、細かい順位が出ます。 電話帳では、第一生命発表の順位や、佐久間ランキングとはちがう順位になります。 全国個人電話帳の検索ソフト、写録宝夢巣ver5以降(日本ソフト販売)では、上位10,000位までの名字の順位が表示されるようになっています。
名字の順位でもっともくわしく、信頼性の高いのが、熊本県在住の村山忠重氏の調査による、村山ランキングです。 これは写録宝夢巣をはじめ多くのデータをもとに永い年月をかけて集計し、ベスト30,000位を確定させたもので、写録宝夢巣の年度版だけでの順位とかなりちがいます。 この村山ランキングは、別冊歴史読本「日本の苗字ベスト30,000」(新人物往来社)で発表されています。ぜひ入手して、ご自分の名字について調べていただくと面白いでしょう。このような大規模な集計が個人によって行われたのは前代未聞のことです。 ● 日本の苗字七千傑 ● 苗字館
名字というのが、おおよそ家系をあらわすことは世界で共通していますが、その発生のしかたは国によってかなりちがいます。 中国では姓(名字)は、古代の国の名から生じているものが多く、言いかえれば遠い祖先の出身国を意味するのです。また中国人は古代より同姓の人は結婚しない習慣があり、結婚したあとも「姓はちがいますよ」と夫婦別姓を名乗ります。夫婦が同じ名字を名乗ったりしたら、気でも狂ったのかと思われます。その点は韓国も中国にならったため、習慣は似ています。 近藤(近江の藤原氏)、伊藤(伊勢の藤原氏)、佐藤(佐野の藤原氏)のように、藤原姓と居住地を足して2で割ったような名字も多く、日本人の20人に1人が「藤」のつく名字です。 また田とか部(職業集団)、造、屋のように、仕事と関係の深い字も多く、渡辺(海運業)、矢部(矢のメーカー)、犬飼(宮中の犬の飼育係)など、職業をあらわす名字もかなりあります。 ほかに、明治のはじめに国民全員に名字が義務づけられたとき、あわててお坊さんや庄屋さんにたのんで名字を作ってもらった家もあります。それやこれやで、日本の名字の発生はさまざまです。 ● 世界的な視野でみますと、名前や名字は宗教と切っても切れない関係があります。ですから名前や名字の研究は、宗教の研究とウラオモテになります。 欧米ではキリスト教やユダヤ教にちなんだ名字も多く、たとえばジョーンズやジャクソンはヤハヴェの神からきています。アラブではイスラム教に関係した名前が多く、モハメッド・アリなどという氏名はアラブでは多いですが、モハメッドは預言者ムハンマド、アリはアラーの神からきています。 日本は儒教(祖先崇拝)の国で、イエ制度が深く根づいたため、誰もがイエの一員としてとらえられ、名字は格式とか社会的な立場もあらわしました。「家名をけがす」「○○家の恥」「家をつぐ」「嫁に出す」「嫁をもらう」「出もどり」「家を興す」「親孝行」「ご先祖に顔むけできない」といった表現が日常的に使われ、○○家結婚式場、○○家葬儀場などとも書かれ、個人のできごともすべてイエのできごととしてあつかわれてきました。儒教の広まった国では、今も名字を先に、個人名をあとに名乗ります。 欧米ではBrown(色黒)、White(色白)、Armstrong(腕力がある)、Johnson(ジョンの子)など、個人を説明したような名字もかなりありますが、日本では「色黒」「腕力」というような個人をあらわす名字は生まれませんでした。 仏教は出家(本格的に修行するには、まずイエをはなれろ)という教えをもつきびしい宗教で、イエ制度を否定するため、日本でも昔は僧侶だけは名字をもちませんでしたし、今もミャンマーのような仏教国には名字のない人はたくさんいます。 ● ただ面白いことに日本と欧米とは、宗教も風土もまるでちがうのに、住んでいた土地とか、職業から生まれた名字に、共通したものもあります。たとえば、 Wood=森さん Hill=岡さん Hilton(hill+town)=岡町さん Smith=鍛冶さん Taylor(tailor)=服部さん(はたおり) Wagner(wagonをつくる人)=車屋さん Carter(cartをつくる人)=車屋さん Bush=茂原さん たださすがに食生活のちがいで、欧米ではBakerという名字は多いですが、日本に「パン屋」という名字はありません。
よく名字の本などにめずらしい名字が紹介されていますが、名字の研究でむつかしいのは、実際にその名字の人が実在するかどうかの確認です。 たとえば釈迦牟尼仏(にくるべ)、法華経(ほけきょう)、火(ひ)、春夏秋冬(ひととせ)、鰐(わに)、荒々(あらら)、百千万億(つもい)といった名字は、ある本とか辞典には紹介されていますが、電話帳にはのっておらず、確認はできません。 ご本人が手紙や文書、看板などに書き、また電話帳にのっていて、確かに存在すると確認できたものでも、「こんな名字があったのか」と思わせるような珍しい名字はかなりあります。ちょっと気の毒な感じのものも、うらやましい感じのものもあります。 ここに全国電話帳(写禄宝夢巣)による、数の少ない名字の例を一部だけあげてみます。(電話帳は同じ名字でも毎年掲載される件数が変化しますが、最近は個人情報の問題などから、掲載件数が減る傾向にあります)
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