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7.雄と雌の月ごとの行動圏の変化

7−1.オスの月ごとの行動圏の変化

 図11は成体雄の1986年の月ごとの行動圏の変化の様子を示している。ここで定住個体は次の月にも捕獲されたものを、消失個体は次の月に捕獲されなかったものを指す。
 4月は4匹の雄が追跡された。このうち88Bのみが繁殖状態にあり、また005は5月に消失していた(消失個体の行動圏は図では破線で示している)。102は5月にワナ内で死亡していた。4月は繁殖状態の88Bが非繁殖状態の2匹の個体(005と102)の行動圏と重複しているが、3匹の非繁殖個体はお互いに行動圏を重複させなかった。非繁殖個体の3匹はいずれもやや睾丸が下降した状態で、捕獲の少し前までは繁殖状態にあったと考えられる。5月には4月のように調査地すべて利用することがなく、南西側に多くの個体が存在する(5匹)。しかしながらこの5匹のうち6月に再捕獲されたのは1050と74の2匹であった。この2匹はこの月お互いにその行動圏のほとんどを重複させている。008はもっとも大きな行動圏を持っているが、この個体は足跡地点数が少なく、この調査時期に大きく移動したものと思われる。実際この個体は6月に捕獲されなかった。6月になると多くの個体が移入してきて、行動圏はお互いに大きく重複しあい、5月に利用していなかった部分にも多くの個体が入ってきている。しかし5月と同様に南西の部分で多く重複が見られる。移出・消失個体は重複の多い南の部分で多 くなっている(3匹)。7月になると個体数が減少し、重複は少なくなる。重複の多かった南西側は7月は重複が少なかった。消失個体は1匹のみで(0104)、前月に比べ行動圏が大きくなっている。定住個体は0102と4100および4100と2100が大きく重複する。8月になると74がワナ内で死亡しており、代わりに0306がその地点に入り込んでいる。行動圏は7月よりも2匹増えたために重複が多くなっている。6月に捕獲され7月に消失した2個体(1050と3060)が再びこの月に捕獲された。両個体ともほぼ6月と同じ地域を利用している。消失個体は6匹でこれらはお互いにあまり重複していない。また定住個体は0608と4100および0102と4100が大きく重複する。9月になると、8月よりも多くの個体が捕獲されたが(18匹)、追跡され、しっかりとした行動圏が描けたのは5個体のみであった。ワナ掛けは9月の中旬に行われ、足跡法はその後2日間の間隔をとって行われたのであるが、ほとんどの個体が足跡を残さなかった(18匹のうち8匹が足跡を残した)。これが消失によるのかどうかは分からないが、このワナ掛け時期と追跡の時期とでアカネズミの分布がかなり変わったようである。1985年と1986年 で9月に多くの移入個体があるが、この多くの移入が交尾期の空間関係に関係があるとすると、9月の足跡法による行動圏は交尾期のピークが過ぎた後の行動圏である可能性がある。この月はすべての個体が繁殖状態になっており、足跡を残した8個体のうちしっかりとした行動圏が得られたのは5個体のみで、このうち0307のみが9月に初めて捕獲された個体で、残りの4個体はすべて前月より定住していた個体であった。8月からの定住個体は5匹で、そのうち1匹は消失し、9月の新個体は9匹が足跡法を行ったとき消失した。9月に捕獲された個体のうち、体重の重い個体は移入個体でそれらはすべて足跡法の時少数の地点でしか足跡を残さないか、あるいは全く足跡を残さなかった。この時期移入してきた個体のうち、定住した個体は0307で、体重は39.0gあり、これは9月の捕獲個体の中で一番体重が軽い。9月には8月からの定住個体は定住する傾向があり、移入個体は消失する傾向がある。また移入個体のうちでどの個体が残るかは体重に無関係である(表1)。88Bはこの月ワナ内で死亡していた。88Bの行動圏に隣接していた0608が行動圏を広げ、88Bが8月に占めていた地域を利用するようにな る。定住個体は0306と0307の重複をのぞき、ほとんど重複が見られなくなる。10月になると個体数は減少し、5匹の個体が追跡された。10月の行動圏の図では定住個体と消失個体の区別をしていない。これらの個体はその行動圏をほとんど重複させていない。また9月に比べ、行動圏の大きさが小さくなっている。

論文図表

論文図表

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