書名:火のみち(上)
著者:乃南 アサ
発行所:講談社
発行年月日:2004/8/3
ページ:362頁
定価:1700円+ 税
書名:火のみち(下)
著者:乃南 アサ
発行所:講談社
発行年月日:2004/8/3
ページ:297頁
定価:1600円+ 税
内地で酒に溺れ、食い詰めた一家が満州へ、父は大工、満州でも酒はやめられずどんどこの生活、そして戦争に徴用された父はあえなく戦死。戦後満洲から引き揚げてき、その時残ったのは姉、妹、弟、母の5人、どん底の生活の中で母まで亡くした南部次郎は、わずかな葬式代の代わりに幼い妹を連れ去ろうとする男を撲殺してしまう。自己弁護も何もせず、懲役10年、二十歳の時の事、姉は一家のために働きにでる。幼い妹も施設に預けられ兄弟はばらばらに。
服役中も渦巻く憤怒を抑える術すら知らない次郎は刑務所の作業で備前焼と師匠に出会う。ひたすら土を練ること、陶器を制作することでようやく心が鎮まっていく。妹は兄の経歴のため、大学受験を諦め、デパートガールとして東京にちょうど皇太子殿下の結婚のころ、その後女優として成功する。しかし南部次郎の妹ということは決して証せない秘密。刑期を終えた次郎は20歳で罪を犯し、出所しても何もやることがない。そんな次郎を引き受けてくれたのが、備前焼の師匠。師匠の弟子として岡山の窯で修行をする、その後独立して窯を開く。
独自の世界を開きかけた頃、安宅コレクションの中から中国宋代の青磁・汝窯に出会ってしまう。そして身も心も青磁・汝窯に魅入られる。幻の器を自らの手で蘇らせたいという激情に、何もかも放り出して調査、研究、試作にのめり込んでしまう。火のみちというのは陶器を焼くとき、窯の中に陶器を置いて、その火をどのように通すみちを作ることによって出来上がりが微妙に変わってくる。火のみちを見つけることが陶芸家として大成できるかどうかの分かれ道。なかなか読み応えのある作品。