書名:新・平家物語(二)吉川英治全集34巻
著者:吉川 英治
発行所:講談社
発行年月日:1967/9/20
ページ:505頁
定価:680円+税
清盛が武家として初めて政治の中心に躍り出てきた。これは彼がそれを望んだわけではなく、時代がそうさせたところが多い。もともと藤原氏全盛時代は平家、源氏といえば武家で穢れた存在と蔑まれていた人達。そんな平家が時代と共に表に出てきた。そして平家物語は鎌倉時代源氏の世になってから書かれた書物。多分に源氏の正当性を強調しているところが多い。そんな原文に、吉川英治の視点でなるべく中立に書くことを意図しているように見える。前政権をあしざまに言うのは古今東西、いつの時代でも同じ事。この巻では鞍馬に幽閉された牛若丸(義経)を奥州の藤原秀衡が、金売り吉次を使って鞍馬を脱出させる。しかし義経は藤原一族に監視されるのを嫌って、紀州、京都へと諸国巡りの旅に出てしまう。一方伊豆に流された頼朝はひたすら仏道に励み、その他女にうつつを抜かしている。そして誰が見ても幽閉の身を慎んでいるように振る舞っている。
彼の周りには平家に靡いた人々に囲まれていた。そんな中、北条氏の時宗の娘政子との恋に。また源頼政は平治の乱で源氏を裏切って、平家側に鞍替えをして源氏の中では唯一、清盛の信頼を勝ち得ているが、内に秘めたる思いは、平家にも源氏にも馬鹿にされながら自分の仕事を粛々とこなしている。時には鹿ヶ谷の陰謀にも巻き込まされそうになりながら巧みにかわして生き延びている。一方、清盛の感心は宋との貿易、世界の文物の交易、福原(神戸)に港の建設に熱心に京都よりは福原の雪の御所への滞在がメインとなる。そしてこの貿易に寄って巨大な富を作っていく。都は義弟の大納言・平時忠が担当する。この時忠が『此一門にあらざらむ人は皆人非人なるべし』若しくは『平氏にあらざる者は人にあらず』と高言したとされる。清盛の兄弟位までは貧乏な武家を経験しているので世の中のこと、人情、義理、武士の意地なども判っているが2世、3世の苦労しないで官位ばかり高くなった子供、孫の世代になってきて清盛の苦労が多くなってくる。また後継者として清盛自身も、また世間も期待していた重盛の死によって奢る平家に衰退の兆しが見えてくる。