書名:満つる月の如し 仏師・定朝
著者:澤田 瞳子
発行所:徳間書店
発行年月日:2012/3/31
ページ:382頁
定価:1900円+税
「孤鷹の天」を読んで澤田瞳子という作家を知った。母は澤田ふじ子36才。この物語は平安時代藤原道長、頼道の時代の仏師定朝を描いたもの。仏師・定朝は若い頃から天賦の才能を発揮していたが、仕事は徹底的にサボる。仏像を刻む仕事に興味を失っていた。時は平安時代、飢饉、疫病に人々は苦しめられて地獄の生活。そんな時代に「ほとけ」なんかいない。いくら自分の腕で仏像を刻んでもそれは「ほとけ」は現れない。そして不幸な人々を救うことなど出来ない。の現実に絶望していた。
そこに現れたのがエリート貴族、比叡山の僧であり、帝に近侍する内供奉の隆範、定朝の造った仏像に惚れ込んでしまった。定朝の才能を開花させようと陰になり日向に支援する。前半は隆範から見た定朝、世間を描き、隆範が東国に左遷させてからは定朝の目からの視点で物語が進む。平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像の完成したところで終わる。「孤鷹の天」に比べると残念ながら落第点だ。登場人物の縦に横に交差して関係がよく分からない。説明が悪い。また「孤鷹の天」のように読者を物語にどんどん引きずり込んでいく迫力がない。また面白くない。この本は昨年6月図書館に予約しておいた本です。長い間待った甲斐がないという感じ。
何となく母の澤田ふじ子の悪いところ(整理が悪い)に似てきたように思う。もう少し整理し直した方が語り部としては何を言いたいのか?分かる。読者は細かな知識だけを求めているのではない。歴史資料としてはもの足りず、物語にしても中途半端という感じがした。まだまだ若い作家なので今後を期待したい。「孤鷹の天」というすばらしい作品が書ける力があるのだからこの作品は残念。