書名:紀ノ川
著者:有吉 佐和子
発行所:新潮社
発行年月日:2012/8/25
ページ:357頁
定価:590円+税
和歌山県の紀ノ川の素封家を舞台に、家霊的で絶対の存在である祖母・花。男のような侠気があり、独立自尊の気持の強い母・文緒。そして、大学を卒業して出版社に就職した戦後世代の娘・華子。明治、大正、昭和を生きた女三代(花・文緒・華子)の系譜をたどっていく長編小説。小さな川の流れを呑みこんでしだいに大きくなっていく紀ノ川のように、男たちのいのちを吸収しながらたくましく生きる女たちの生き様を情緒あふれる風景を描いている。昭和30年代の懐かしい小説です。映画にもなっています。この本で紀ノ川を知った人も多かったのではないでしょうか。今の小説と違って物語の流れがゆったりしているところが安心
するところがある。
本書より
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「紀ノ川沿いの嫁入りは、流れに逆ろうてはならんのやえ。・・・みんな流れに沿うて来たんや、自然に逆らうのは何よりもいかんこっちゃ」おんなのいのちのたくましさは、流れていく水のように自然に逆らわないところにあるんだ。川のもつ強大な浸食力は自然に逆らわないからである。自然を支配するためにはまず自然に柔軟であるべきだ。こうした水の知恵が女の力となって具現する。
「お前はんのお母さんは、それやな。云うてみれば紀ノ川や。悠々と流れよって、見かけは静かで優しゅうて、色も青うて美しい。やけど、水流に添う弱い川は全部自分に包含する気や。そのかわり見込みにある強い川には、全体で流れ込む気魄がある。・・・」