書名:栄花物語 長編小説全集6
著者:山本周五郎
発行所:新潮社
発行年月日:2013/10/25
ページ:576頁
定価:2000円+税
平安時代の宇多天皇の治世から起筆し、摂関権力の弱体化した堀河朝の寛治6年2月(1092年)まで、15代約200年間の時代を扱う歴史物語です。宮廷の女性の手によるものです。この栄花物語はこれとは全く別物、江戸時代中期田沼意次の時勢を舞台に4人の主人公を中心に江戸の風俗、庶民の生活、武士の生活を綴った物語です。
ここで極悪人のように扱われてきた田沼意次に、全く別の視点から彼は新しい改革に情熱を向けて反対派(保守派)の松平定信などと戦いながら改革を進めていく。低い身分から大大名、老中まで出世した意次に回りは反対派ばかり、出る杭は打たれる(嫉妬が怖い)汚職まみれ、贅沢三昧、賄賂政治など悪評には事欠かないが、田沼意次のやろうとしていたことは、蝦夷の開発、ロシアとの交易、印旛沼の干拓、直接税の徴収、銀行の設立、国債の発行など当時の人達にとっては全く理解できない発想。
石高固定の武士の収入は減ることはあっても増えることはない。消費だけの生活。それは行き詰まるだけ、それを解決するには増収を図ること。それも御用金のように一時的な増収とは違って恒常的に収入をはかる税の種類を変えることに注目した。その先駆的業績を上げている。この小説以後、最近では田沼意次の評価が大分上がってきている。著者の慧眼を見る思いがする。
「罪というものは人と人の間にあるもので、人と法の間にあるものではない。」と言わせているが、含蓄のある言葉だと思う。今、法さえ守れば何をやっても良いという風潮、ちょっと考えさせる。
田や沼や よごれた御世を 改めて 清くぞすめる白河の水
白河の清きに 魚の住みかねて もとの濁りの 田沼恋しき
本書より
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「歴史は、真実をつたえるよりは、政治の権力者、当路者たちによって、社会情勢を正当づけるために、故意に改ざん、修正、ねつ造もしくはまっ殺される性質を、本来的に持っているもの」