2003年8月はこの3公演

 


猫☆魂「箱舟」

銀座小劇場 8/1〜8/3
8/2(土)マチネ観劇。座席 自由(最後列右端:招待)

作・演出 西永貴文

 舞台は、都会から離れたとある孤島(ただし遠泳で泳ぎつける距離らしい・・・)。その孤島には孤児院があった。島民が他にいるのか判らないが、その孤児院では、自給自足で日々の生活を送っていた・・・。
 その日は、孤児院の創設者である院長の葬儀の日。孤児院出身のシイナ(村木宏太郎)とヒルタ(仲井陽)が葬儀のために、島に帰ってきていた。そこでシイナは、この孤児院を相続し、院長の意思を引き継ぐことを決意する。そんな場に泳ぎ着いたオリンピック候補のシモン(丸川雅也)。そして、海から突如現れたカワウソのタカちゃん(西永貴文)。タカちゃんはシイナが海に投げ捨てたガラスのビンが当たって「大変な事になっている」と告げる。そして、散々説教した挙句、ダンボールを置き去りにし海に帰ってしまった。そのダンボールを不用意に開けたシイナは、両手をガラスで切ってしまう。その箱の中には、ガラスで傷だらけの赤ん坊が入っていた・・・。
 20年後・・・箱に入っていた赤ん坊は、マコト(井澤崇行)と名付けられ、20歳の誕生日を迎えようとしていた。20年前にその場にいた人々は、それぞれの道を歩んでいた。シイナは、ガラスで切ったことが原因で、まったく両手が動かないまま20年を過ごした。ヒルタは新宿二丁目にゲイの店を出していた。シモンは、ヒルタからダイエット飲料だと言われて飲んだドリンク剤が原因でドーピング検査に引っかかり、オリンピック候補から外されていた。そんな彼等は、まるで運命に引き寄せらたかの如く島に集まってきていた。いや、この3人以外にも、孤児院に関わりのある人々が、続々島に集まってきた・・・。それは単に“運命”に引き寄せられたのではなく、シイナがヨシダ(田行正龍)から依頼されて栽培している大麻(シイナ本人は何を栽培しているのかは知らない)に導かれてであった・・・。
 人々の思惑が渦巻く中、マコトの誕生日の夜を迎える。しかし、楽しいはずのその夜が、血に染まってしまうとは誰が想像しただろうか・・・。男色家のシイナ(これが“院長の意思を引き継ぐ”事でもあった)は、大麻を巡り騒動が起こっている事など知らず、成人の儀式だとマコトを襲う。酒に酔い激怒したマコトは、シイナのイチモツを切り落としてしまうのであった・・・。
 そんな駄目人間を見かねた神は、大雨を降らせ、孤島を海に沈めてしまう。そして、カワウソの指示により“箱船”に乗ったマコトだけは命拾いをするのであった。良い行いをしていれば、いつかは自分にとって良い事が巡ってくる、と信じていたマコトは喜々とする。しかし、その喜びも束の間。その船が向かった先は北朝鮮であった・・・。

 物語は「原因と結果との間には一定の関係がある」という『因果』がテーマ。それに「前世における行為の結果として現在における幸不幸があり、現世における行為の結果として来世における幸不幸が生じる」という仏教の思想『因果応報』が加わる。「今日いい行いをしていれば、明日はいい事がある」みたいな。そして、「悪事を働けば必ずしっぺ返しが来る」みたいな話。

 麻薬、同性愛、幼児虐待・・・それらが要因となって崩壊して行く様は、なかなかおもしろかった。登場する人達は皆、悪事の「因果」が巡り不幸に落ちて行く。しかし、マコトは、容姿は醜いが、良い行ないをしているので、いつかは幸せが・・・って信じている。しかし、思いとは裏腹に悪い事ばかりが起こってしまい、いつまでたっても一人泥沼状態・・・。「え〜、いい人なのに神様のいじわる」みたいな、とことん不幸に落ちて行く展開がたまらない。しかし、そんな差別化をはかっているのに、全員にスポットをあててしまったがために、全体的にはピンボケになってしまった。やっぱコントラストも必要だと思う。せっかく主人公を不幸のどん底に落としているのに、際立たせていないのは勿体ない。

 今回初観劇だが、芝居全体としては、わけのわからない不思議な世界感を持っており、好感が持てる。ただ、昔の大人計画を見ている様で、オリジナルさ、新しさという点では、心に届くものが少なかった。もう一つ何かスパイスが足りないって感じ。でも、それは場数を踏んでいく内に掴んで行きそうな、そんな期待感を持たせる劇団ではあった。

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毛皮族
「毛皮のジュンリー『誘惑させて』」

下北沢駅前劇場 8/3と8/10
8/10(日)観劇。座席 H-8(招待)

作・演出 江本純子

 前座は、昭和の時代からタイムスリップした様な江本純子の単独ライブ。曲は、平山美紀「ビューティフル横浜」、中村晃子「虹色の湖」、大橋純子「たそがれマイラブ」、山崎ハコ「ジプシーローズ」。ソファに座り、喉にいいと自分に言い聞かせているのか、本当に効くのか、ハーブのたばこを吸い、ハーブティーを飲みながら、歌を唄いつつ、盛り上がらない客に「殺すぞ」と毒を吐きつつ、又唄う。

 二番手の前座って言うか、次に登場したスピードルズは、ミネラルウォーターの場内販売。ジュンリーにぶっかけてもらう為の水150円。ちなみに、スピードルズが口を付けたものは300円なり。

そんな感じで客席が暖まったところで本編の開始。陰陽師の衣装を身にまとい、口から血糊を流したジュンリー登場。そして、その血糊を含んだ口にミネラルウォーターを流し込み、花道から客席に向かって激しく吹き散らす。逃げる客と喜ぶ客が入り乱れて一気にヒートアップ。曲は、ビョーク「Army Of Me」、ダウンタウン・ブギウギ・バンド「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」、ダウンタウン・ブギウギ・バンド「アンタがいない」。

 暗転後、上半身裸(もちろん入れ墨プリント付き)で登場のジュンリーは、拡声器片手で歌いまくり。もぉ〜大暴れ。もちろん、花道では、水しぶきの洗礼。曲は、中山美穂「ついてるね、のってるね」、中山美穂「派手」など4曲。スピードルズ、JJガールズも登場して豪華絢爛。ジュンリーは、全員と握手をする為に客席に乱入したりして。ちょっとドキドキ。

 その後は、中休み的な大人の座談会(30分)。ゲストは、澤田育子、金子清文、柿丸美智恵。
 柿丸姉さんは例のごとく素直には呼んでもらえず、ジュンリーから変な客呼ばわりされたあげく、中島みゆきの真似で歩いて来たらよしとの指令。エモジュンの柿丸いじりもなかなか、って言うか大好き。テーマは、「恋愛について」だったけど、誰一人そんなテーマに沿って話しゃぁしない。結局、役者で誰が好きか、芝居の感想などを聞いて、時間まで。えんげきのぺーじ(通称えんぺ)の一行レビューに反応し「言いたいことがあるなら直接あたしに言って!」と言いつつ、客席にえんぺ管理人を見つけ、引きずり出し。その他、しりあがり寿やら山田広野を見つけては、あぶり出し。最後にゲストからのカラオケリクエスト。澤田育子からは、早川義夫「あめんぼの歌」。金子清文からは、森田健作「さらば涙と言おう」。金子清文の奥さんからは「ブルーベルベット」。青ひげ公の城で荻野目慶子からもらったCDから、「スイングしなけりゃ意味がない」。

 締めくくりは、スイカを次々とマシンガンで叩き割り、そのスイカを食い散らし、客席に放り投げながら歌いまくるパンクなジュンリー。悲鳴と歓喜の中、歌うは、ザ・カーナビーツ「好きさ好きさ好きさ」、バトルロッカーズ「セルナンバーエイト」、戸川 純「蝉化の女」、最後の曲まで一気に駆け抜け、通路はスイカでベタベタ。後片付け大変そう・・・。

 アンコールは観客総立ちで、沢田研二の「サムライ」。そして客出しは、沢田研二「カサブランカ・ダンディ」。

 最高のひと時を過ごせた。初めてパンクショーを観たが、これぞエモジュンの真骨頂ってくらいに暴れまくり、壊れまくり。あのカリスマ性は凄い。アイ・ラヴ・ジュンリーと叫びたいくらいに惚れ惚れ。


“毛皮族”自分が観た公演ベスト
1.ヤコブ横須賀泥だらけのSEX/毛皮族民主主義人民共和国
2.エロを乞う人
3.毛皮のジュンリー『誘惑させて』
4.高麗人参毛具毛具
5.ハンバーガーマシーンガーンホテールボヨーン
6.踊り狂いて死にゆかん

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毛皮族
「実録!!ヌッポンオエロケ犯罪歌劇『夢中にさせて』」

下北沢駅前劇場 7/31〜8/13
8/13(水)ソワレ観劇。座席 F-3(招待)

作・演出 江本純子

 前説で、ジュンリー登場。「わくわくさせてよ」を熱唱するも、客席を占めるオヤジ率が高過ぎるのが原因なのか、なんか冷え冷え。本人も納得いかず、再度登場するも変化なし。

 本編。遊女の道に踏み込んだ阿部定(町田マリー)。その定が働く女郎屋にやってきた、自称事業家の三浦和義(江本純子)。その三浦に一目惚れしてしまった定の人生を、吉原炎上と絡めて描いた犯罪歌劇。って簡単に書いてしまったが、そこに、三浦の愛人となっている福田和子(澤田育子)、遊郭のおかみ・林真寿美(柿丸美智恵)、女郎の死体をもらっては秘密のお楽しみを続ける佐川一政(原口洋平)、連続変態殺人犯の小平義雄(金子清文)、梅川昭美(和倉義樹)、石井輝子(佐々木幸子)、山田みつ子(羽鳥名美子)などなど。戦後史に残る犯罪者達の夢の共演的パラレルワールド。歴史上では時間も場所も違う犯罪者達だが、一同に会したらこんな会話も成立するだろうなぁ的、素晴らしい世界。全三幕。

 最近芝居を観る事に楽しみを感じなくなっている私だが、毛皮族だけは別。ここほど公演が楽しみな劇団はないって程、楽しみにしている。その期待通りに素晴らしい舞台であった。感動したとか、いい芝居だったとかは次元が違う、ただただ“楽しかった”と素直に思えるのが、毛皮族の良さだと思う。そりゃ本も良いけどね。ただ、今回は、江本純子が魅せられたノンフィクションとしての犯罪者の奇行や言動の面白さが、客席にどれほど届いたのだろうか?と疑問が残る。フィクションの部分の面白さは充分に堪能した。ただ、フィクションの部分に、現実の犯罪者の心理が投影される事によって、面白さに拍車がかかり、作者の意図するものが完成されるのだと、勝手に解釈する。それは、伝える側より、観る側の認識に問題があったのだが、犯罪者の事をどれだけ知っているかが、作品を楽しめる境目だったように感じた。まぁ自分も小平義雄とか知らなかったし。当日パンフに「毛皮的犯罪者ぷち名鑑」が載っていはいたが、事件すら知らない人達には、そんな名鑑も“馬の耳に念仏”・・・って取り越し苦労か?
 ちょっと流用させてもらうと、【阿部定】性交中に情夫の首を絞め殺害。それでも一緒にいたいからとチンコを切り取って逃亡。映画『愛のコリーダ』のモデル。【福田和子】松山でホステスの同僚を殺害後、整形手術などをし、全国津々浦々を逃亡。【三浦和義】ロサンゼルス旅行中、妻の一美さんが何者かによって銃撃される。悲惨な事件として初めは被害者的な報道をされるも、多額の保険金や愛人の存在などから疑惑が湧き上がる。「疑惑の銃弾」の人。【小平義雄】戦後の荒廃した巷で、食料探しに血眼になったいる女達に「安い米がある」と声をかけ、強姦、殺害を繰り返す。【梅川昭美】銀行に猟銃を持って立て籠もる。行員を人質に42時間籠城。女子行員を裸にしたり、人間バリケードを作ったりした。【佐川一政】パリに留学中に、下宿先でオランダ人女性を殺害後、死体を食べる。【林真寿美】和歌山毒カレー事件の容疑者。【山田みつ子】お受験戦争で幼児を殺害。・・・これだけのキャラを持った犯罪者達を一同に会し、吉原炎上に結びつけるなんて、まったくもって素晴らしいの一言。江本純子の才能を再認識した。

 そして、芝居とレビューが混ぜこぜのスタイルに“宝塚的”と表現するのは過去のものだと、考えを新たにした。これこそが“毛皮スタイル”だと断言したい。そのレビューに関しての余談だが、金子清文が歌って踊っている姿に、とても感動してしまった。今回の客演が、アルコール中毒からの復帰第一作目らしいが、よくまぁ毛皮族なんかを選んだもんだって初め思ったけど、芝居を観て、これで完全に更生できたんじゃないのって心底思えた。金子清文と言えば大人計画の『ファンキー』で魅せた性的異常者の名演技が記憶にいつまでも残っている。脳裏に焼きつく程の名演技をもう一度、って程のものは今回なかったが、更生して本当に良かった。

 本編終了後には、フィナーレレビュー『毛皮は立ったまま眠っている』の上演。
 内容は、『傷だらけの天使』『プレイガール(金子のボス編)』『プレイガール(江本のボス編)』の3場。『高麗人参毛具毛具』を観劇した時の感想に、「毛皮族で『傷だらけの天使』が見たい」というようなラブコールを書き綴ったのだが、その思いが届いたのか、実現されて非常に嬉しい〜。カッコ良かった〜。次は『探偵物語』あたりを、本物のベスパを舞台で乗りまわすなんてどうでしょ。あと、『キーハンター』の「非情のライセンス」あたりもいいなぁ〜。なんちって。

 クリスマスには、渋谷クアトロでレビュー公演。そして、来年の本公演では駅前劇場での1ヶ月のロングラン公演と破竹の勢いの毛皮族。次回公演も大いに期待したい。


“毛皮族”自分が観た公演ベスト
1.ヤコブ横須賀泥だらけのSEX/毛皮族民主主義人民共和国
2.実録!!ヌッポンオエロケ犯罪歌劇『夢中にさせて』
3.エロを乞う人
4.毛皮のジュンリー『誘惑させて』
5.高麗人参毛具毛具
6.ハンバーガーマシーンガーンホテールボヨーン
7.踊り狂いて死にゆかん

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