2006年10月はこの3公演

 


劇団、本谷有希子「遭難、」

青山円形劇場 10/12〜10/19
10/14(土)マチネ観劇。座席 A-1(招待)

作・演出 本谷有希子

 主人公である里見を如実に表現したのがチラシなどに書かれた文。これこそがこの作品を語っていると思うので、まずは勝手に引用させて頂く・・・。

 【遭難、とか言いながら冬も雪も山も全然一切関係なくて、ただどうしても私はいつもいろんなことを見失いがちというか、特に自分。自分のためならなんでもやってしまうのだ。これは本当、我ながらすごいタチが悪い。でもたとえばそのために他人をおとしいれたりすることが誰かに「あんた最悪!」とか言われたりしても、やっぱり私は「うるせー。自分がかわいくて何が悪いんだ」とか言い返しちゃう気もするし、まあさすがにそこまで言わなかったとしても、たぶん私は私が最悪な人間だとは思わない。だって私は自分がめちゃくちゃかわいいってだけだし。自分大好き。私は私のことが好きすぎて、それでたまに他人を傷つけちゃうこともなくはないってだけなのだ。】

 この作品は、先が読めない面白さもあったので、いつか観たい人は、これ以上読まない方が得策です。

 舞台は、旧校舎にある中学2年生担当の職員室(他の職員は新校舎にいるらしい・・・)。数週間前、江國先生(つぐみ)のクラスの男子生徒の仁科が校舎から飛び降り自殺を図り、今も意識が戻らないでいた・・・。仁科の母親(佐藤真弓)は、自殺をしたのは担任の責任だと主張し、毎日職員室に乗り込んできては、「息子が書いた相談の手紙を隠蔽したはずだ。」「相談を無視したから自殺したんだ。」と江國に詰め寄っていた。それは嫌がらせとしか思えないしつこさであった。他の先生も、その行動に困り果てていたが、児童の母親ということで手出しができないでいた。そんな中、里見先生(松永玲子)が、颯爽と仲裁に入り、その場を収拾させた。その行動に感謝する江國であったが、仁科が飛び降りる前に手紙を送り、救いを求めた相手は、里見なのであった・・・。
 その秘密を偶然知ってしまった石原先生(吉本菜穂子)は、里見に真実を話す様に諭すのだが、里見は石原を共犯者扱いし翻弄させる。そして“自分大好きな”な里見は、自分の保身の為だけに、真実を知られてしまった同僚たちや仁科の母の弱みを握り、脅しにかかるのであった・・・。しかし、そんなに事がうまく進むわけもなく、里見は、様々な状況に遭難していくのであった・・・。

 感情移入しないだろうと思っていた主人公の言動に「あっ、この気持ち判る」と思うところがあり、少々落ち込んだ。私も親しい人(外づらはいいので、極親し人)からは、自己中心的だと言われることがある。まぁ悪く言えば身勝手、好意的に言えば自由奔放っていうところか。でも自分大好きってわけではない。どちらかと言えば自分嫌い。でも裏はある(きっぱり言い切るのもなんだが・・・)。それが表面化した時の必死さに共感を覚えたのかもしれない。私もそれを突き付けられたら“トラウマ”という「理由づけ」をしてしまうかもしれない。まぁ種類は違うにせよ、人間誰しも持っている暗部なのではないだろうか。その誰にでもある(だろう)醜態を白日の元に曝け出した今回の脚本の面白さは、高評価したい。ただ途中ちょっとダレたところが勿体無く思う。そんなエアポケットが珠に傷。その瞬間は、脚本の面白さが演出の弱さで消えてしまった…と感じる。一度、演出だけ他の人に任せた公演も観てみたい気がする。名指しして申し訳ないが、ポツドールの三浦大輔とかなら、もっともっと追い込むに違いない。脚本にはそのくらいの圧迫感を感じるので、演出にも情念を注ぎこんで欲しい。“もうそのくらいで止めて!”って悲鳴が聞こえるくらいの息苦しさが欲しい。どうも本谷の演出は最後まで辛抱できず、楽な方(救いの方)へ逃げてしまう帰来があるように感じる。いや、楽な方へというのは安直な表現だなぁ、負のエネルギーの中にいるのが耐えられないのか、どこか逃げ道を作っているように感じてしまうのである。それが私は勿体無く思う。まぁ人によっては“救い”があるから観てられるって意見もあるので、人それぞれなんだとは思うが・・・。

 ラストで里見に土下座させ、その背中に江國が花瓶の水をこぼすシーンがある。里見が改心したと思いきや「人の気持ちなんてわかるわけないじゃない。今私が謝ったって、本心から謝ってるかなんてわからないじゃない」と開き直る。そして原因はトラウマにあると訴える。それに対して江國は、「人の気持ちがわからないなんて当たり前じゃないですか。なに、わかりきったこと言ってるんですか?そんなこと、中学生だってわかってますよ」と切り返す(セリフはうる覚えです。ご容認ください・・・)。その鬼気迫るやりとりから、自らの業に対する理由を奪われたシーンまでは素晴らしい。ただ、トラウマの原因を作ったであろう先生に「もう電話もしないから」と今までの自己を否定する行動に出てしまったのは、残念でならない。できれば、そのセリフの後に「次ぎの相手(=トラウマ=江國先生)を見つけたから」とあくまでも自分中心の里見を見たかった。まぁどっちにせよ(改心したにしろ、しないにしろ)ラストシーンは、もっと明確に見せて欲しかった。

 で、余談になるが(とっても偏見的意見なので怒りを買いそう)里見は一人っ子だと思う。以前、一人っ子の知り合いから「一人っ子に分けるという意識はないんですよ、全てが自分のものだから」というような言葉を聞いて衝撃を受けたことがある。自分にはない感覚。そんな一人っ子論理がこの芝居にも出ているように感じた。出生率が落ちている日本。一人っ子だらけになったら・・・とても怖い気がするのは、片寄り過ぎた考えだろうか・・・。

 舞台美術も良かった。壁に入った大きなヒビ割れが、言い様も無い圧迫感をもたらす。床の端がササクレだっているのもいい。登場人物の心を見ているようで、広いスペースなのに息苦しい。ただ、円形劇場を考えてない造型はどうかと思う。私の席は正面だったからいいものの、両サイドの人はほぼ横向き状態。あれは辛いんじゃないのか。

 あと感じたのは、この作品を小説としても読んでみたいと思った。いやむしろ、小説の方が想像力が働いて面白いかも。きっとより残酷に人の心を切り刻む作品になると思う。


“劇団、本谷有希子”自分が観た公演ベスト
1.腑抜けども、悲しみの愛を見せろ(再演)
2.遭難、
3.乱暴と待機
4.腑抜けども、悲しみの愛を見せろ
5.無理矢理
【番外公演】
劇団、本谷有希子(アウェー)密室彼女

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ピチチ5「おさびしもの」

下北沢駅前劇場 10/12〜10/16
10/14(土)ソワレ観劇。座席 自由(7列目下手:招待)

作・演出 福原充則

 第一話「oh!よしこ」
 よしこちゃん(高橋美貴<あなざーわーくす>)に「好きだ」と告白する牧村くん(三浦竜一)。しかし、かなりな片思い。でも四人の傍観者(通りすがりの他人風情を装うがすぐ友人とバレる)の応援を受け「俺の“好き”が、君の“嫌い”に負けてたまるか!」と、いつの間にか決闘体制。・・・恋愛音痴の勘違い男の悲しい物語。

 第ニ話「隻腕くん」
 会社の飲み会が終わって風俗に行こうとするサラリーマン達。軽い気持ちで行こうとする課長(植田裕一<蜜>)と部下の佐々木(碓井清喜)。行くのを躊躇っている(けど説得して欲しい)市川(オマンキー・ジェット・シティー<ゴキブリコンビナート>)との会話が、いつしかスケベに意味を見出すかどうかの口論となっていく・・・。「性欲ってやつは悩ませるばかりで、人生の役にたったためしがない!」と。そして、そんな会話を悲しく思った右手(野間口徹<親族代表>)が、人格を持って現れる・・・。そして、彼等は風俗なんかに行かないようにと、チ○毛を抜いてバラ蒔くのであった・・・そんな下ネタ炸裂の物語。

 第三話「魚の生徒」
 丸藤家の葬儀場。女子生徒が不倫の末に妊娠し自殺してしまい、その告別式の手伝いをすることとなった同級生の男子生徒たち。でも、クラスから仲間はずれ的な彼等(中島:野間口徹、脇坂:三浦竜一、中村:三土幸敏<くねくねし>)は、人が来ないような場所に配置されていた。もっと人が通るところへ行こうという提案に、中島は「行ったことがないところには、行かない」と、きっぱり言い切ったりする素敵な小心者。特にやることがない彼等は、自殺した女生徒の噂話を続ける・・・。そんなだらけた空気の中、体育教師の山咲(植田裕一)が現れ、そんな彼等に激を飛ばす。が、その直後、思い余って女子生徒の死体を持ち出すのであった・・・実は山咲こそが、女子生徒の不倫相手であった・・・そんな歪んだラブ・ストーリー。

 第四話「牛丼太郎高円寺店」
 どの牛丼屋よりも、格安で質の悪い牛丼を出す“牛丼太郎”。商品の質の悪さに比例して、店員の吉村(植田裕一)も先輩(野間口徹)の質も最低でまったくやる気がない。常連客(友川:三土幸敏、床島:吉見匡雄)も同様に覇気がない。そんな“牛丼太郎”に恨みを持つ男達(オマンキー・ジェット・シティー、碓井清喜)がいた。彼等は、牛丼太郎の牛丼が280円とあまりに安いため、毎日のように食べてしまい、そのせいでちゃんとした定職につかず、いい歳になってもミュージシャンになる夢を追いかけてしまった。だから、そんな状況を作った“牛丼太郎”に復讐する・・・というむちゃくちゃな論理を持っていた。車で店に突っ込み(本物の車!マジに驚いた!!)常連客の友川を轢いてしまう。車に轢かれて一度は死ん友川だが、天国への途中で牛の精に出会い生還する。再生して言う「俺にも奪われるものがあった!いのちだ!」というセリフが物悲しい・・・。また別のシーンでは、客に「店の床が汚い」と言われたため、店員が清掃屋を呼ぶ。その清掃屋の二人(蓑島:三浦竜一、まこと:横島裕<もざいく人間>)も、これまたやる気がなく、適当に掃除しては「もういいですか?」を繰り返す。そのやる気のなさに大笑い。そんな“牛丼太郎”を行き来するダメ人間達の物語。

 第五話「世界をもっと複雑に」
 第一話の牧村くんとよしこちゃんの話に戻る。「好きだ」と伝えることだけで満足してしまう、牧村。よしこに彼氏の純(碓井清喜)がいようとお構い無し・・・。

 全5話のオムニバス。そこで描かれるのは、いい歳してフリーターやってる男とか、クラスからはぶかれている男子生徒とか、風俗通いの冴えない会社員だとか、もぉ〜ダメな男たちばかり。ただ、そのへなちょこさを真剣に描けば描くほど、演じれば演じるほど可笑しさが増してくる。福原充則が描くダメ人間は本当に素晴らしいのである。それをみごとに体現できる役者も素晴らしいんだけどね。ただ今回は、第ニ話のエロネタで引く人もいるだろうなぁ〜と思う。自分は大笑いしちゃったけど。・・・えっ共感した訳じゃないですよ、疑いなきように!

 今回の見どころは、空飛ぶ自転車!!!(それだけ注目されるのは腑に落ちないらしいけど)と言っても本当に空を飛ぶ訳ではなく、天井から吊り下げてある自転車に牧村くんが乗り、ペダルを漕ぐごとに少しだけ前に進むだけなんだけど(笑)。でも、その時は、思わず感動してしまう(何でだかわからんけど)。牧村くんがんばって!な気分になり、ちょっと拍手もんです。それにしても、へなちょこで脱力感満々(そこが大好き)。そんなダメさを丁寧に描きながら、時として力技的な演出を見せる。その世界の住人にはなりたくない!って思いながらも、どんどんその世界に引き込まれてしまう・・・福原マジックだねこりゃ。

 ピチチ5としては初の下北沢進出である。でも場所が変わろうが、いつもと同じ脱力感を堪能。これからも注目して行きたい劇団の一つである。余談になるが、今回の中で一番良かったセリフが第四話(だったと思う)で三土幸敏が言う「正論ってマジ腹がたつよなっ」ってセリフ。三土さんが言うから余計にツボにはまってしまい、終演後もそのセリフが頭の中を駆け巡っていた・・・。


“ピチチ5(クインテット)”自分が観た公演ベスト
1.はてしないものがたり
2.おさびしもの
3.反撃バップ!!

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ONEOR8「電光石火」

THEATER/TOPS 10/24〜10/31
10/28(土)マチネ観劇。座席 H-8

作・演出 田村孝裕

 舞台は八木材木店の事務所兼休憩所。奥は社長の八木努(木村靖司)の自宅になっている。努は親父から受け継いで材木店の社長をやっているが、事故で膝を痛めてしまい、実務は妹の泉(冨田直美)が仕切っていた。材木店の運営は順調とは言えず、資金繰りの厳しさから、従業員の竹田誠二(野本光一郎)に借金の保証人になって欲しいと頼んでいるくらいであった。そんな状況になってしまったのは、離婚した啓子(福島まり子)が会社の金を持っていったからだと社長は言っているが、竹田の妻・美和(田口朋子)は、その言葉が信じられず、保証人の印を押すのを躊躇っていた。
 八木材木店には、八木が離婚した原因の女・伊東利江(和田ひろこ)が住みつき、近所に住む少年・柳沢洋朗(庄島康哲)が頻繁に出入りしていた。柳沢の母は、八木材木店に出入りしている事をよく思ってなく、やめさせて欲しいと学校に通告していた・・・。
 そんなある日、家を捨てて出て行った姉の緑(藤田記子)が出戻ってきた。しかし、行き場がなく右往左往するばかり。柳沢の担任の橋本真弓(今井千恵)や生活指導の宇佐美直道(平野圭)もやって来る。そして「会社の金を持ち逃げされた」と噂を流され憤慨した啓子もやって来た・・・。そんな八木材木店を取り巻く人々を描いた物語。

 まぁ簡単に言ってしまえば、女ったらしの八木社長の人生(自分のだらしなさを認めず、不都合は全て他人の所為にし生きてきた・・・)のある部分を切り取って描いた作品である。ただその切り取った数日が何かの転機になった特別な日とは思えず、八木社長はこれからも女ったらしのだらしない人生を送るに違いないわけで、この作品からは、心が動かされるものが何もなかったのである。嫌悪感も好感も、ましてや感動もなく、ふ〜んなるほどねって感じなのである。この日の私は体調が悪かったという原因もあるが、作者がこの作品で描こうとしたものが全然伝わってこなかった。一体何を描こうとしたのだろうか?物語を書ける作家だと聞いていたので期待してしまったのも敗因かなぁ〜とも思う。ラストで柳沢を自分の子供(たかし)にみたててキャッチボールをするシーンは、ちょっと悲しい場面ではあるが、単なる“身から出た錆”としか思えず、かわいそうだとかの感情が全然わかない。

 役者では、客演の藤田記子のぶっ壊し方に独り笑ってしまった。真剣な話になるとその空気が嫌でチャチャを入れる人をうまく演じていたと思う。芝居を台無しにする(演出通りなのだろうけど・・・)演技に、心の中で大爆笑。でも普通の人にはきっと藤田さんだけが浮いて見えたに違いない。それから、平野圭の変人さもツボ。あの話し方は演技なのだろうか?地なのだろうか?ONEOR8は初観劇なので平野圭の人物像がわからないが、変人過ぎ!!あと、木村靖司が良い。軟派な面と大声を張り上げる時の威圧感の温度差が素晴らしい。うまいなぁ〜と感心してしまった。

 結局、今回は役者は良かったけど、脚本が・・・って感じ。まぁ、他の作品を観てないで語るのは申し訳ないのだが、ONEOR8には他の劇団にないものを期待していただけに落胆は大きい。って、ちゃんとした芝居なのに気に入らないのは、本当に申し訳ないと思う。個人的嗜好が評価に多大な影響を与えるのが私の個性なので、仕方がないと諦めてください。って何言い訳してるんだろ。

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