NIGHT RANGER
Farewell Japan The "Goodbye" Tour







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Jack Blades - bass, lead and backing vocals
Brad Gillis - guitar, backing vocals
Keri Kelli - guitar, backing vocals
Kelly Keagy - drums, lead and backing vocals
Eric Levy - keyboards, backing vocals












 前回の来日公演「40TH ANNIVERSARY JAPAN TOUR 2022」から3年。

 ナイトレンジャーが日本に戻ってきてくれた。
 バンドにとって1983年12月の初来日以来、16回目の来日公演。
 数年毎に 規則正しく来日してくれるのはファンにとって喜ばしいことである。


 そうではあるが......ただ、今回はちょっと趣が違う。
 日本公演のタイトルが『Farewell Japan The "Goodbye" Tour』つまり”サヨナラ公演”なのである。



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 これを最初に訊いた時 耳を疑ったが、同時に「遂に来たか」という予定調和の答え合わせをしているような気持ちにもなったのだった。
 やはりそれはメンバーの年齢(ジャック・ブレイズ、ケリー・ケイギーが70代、ブラッド・ギルスが60代後半)や病気や怪我など身体的な故障の問題など、憂慮する事象があったからに他ならない。
 しかし、ジャックのインタビューを見ると『可能な限り最高な姿を見せることが出来るうちに 日本のファンに「さよなら」を伝えたい』というのである。
   つまり今すぐ(あるいは近々)ナイトレンジャーが解散するとか、活動を停止するということではないということである。
 それは最近のライヴの映像を見ても 何も全く変わらず なんならバンドはベストな状態である。
 それゆえ『今回が日本最後』という事実に 納得する気持ちと受け入れられない気持ちの相反する状態なまま ライヴ当日を迎えることとなった。



 大阪への移動は 前回と同じく行きは近鉄、帰りは新幹線とした。
 近鉄は前回乗車して快適だった「ひのとり」である。
 乗車時刻も同じ。大阪まで2時間。何もかも同じであった。
 ただ、地元の地下鉄に乗った段階で 携帯を忘れてきた事に気付き意気消沈したが すぐ気を取り直した。
 前回と同じく鶴橋で下車した私はJR大阪環状線 内回りに乗って まず大阪駅へ移動(ここで迷ったことと云えば、大阪環状線には複数の路線が並行で走っているらしく、どれに乗っていいのか判らなくなってしまった)。
 大阪駅に到着すると、桜橋口へと急いだ(どうすれば迷わずに行けるのか、YouTubeで学んでおいたのが役に立った)。
 桜橋口に行くと、長い行列が出来ているのがすぐ視界に入ってきた。
 それは今回の会場であるグランキューブ大阪、横にあるリーガロイヤルホテルへ宿泊客などを輸送するシャトルバスを待つ列であった。
 ほぼほぼ今夜のナイトレンジャーのライヴに向かう客であったのだ(と思う)。
 前回もこのシャトルバスを利用したが、この時間帯にこの人の数は以前とは異なるものであった。
 やはり、最後の公演という特別感がそうさせたのだろうか。
 結局、バス停にやってきた1台目のシャトルバスには定員オーバーで乗れず、2台目にも定員ギリギリでなんとか乗車することが出来た。
 その為、自分が座れたのが最後尾の席。
 窮屈な体勢を強いられたのだった。
 車窓からは 道路工事が渋滞を引き起こしているのが見て取れた。
 リーガロイヤルホテルまでの十数分間が 自分にはその何倍にも感じ取れたが、到着して息苦しいほどの車内から開放されると安堵感に包まれた(途中で調子が悪くなりそうだったからだ)。
 バスを降りると、すぐさま隣のグランキューブ大阪へと急いだ。
 まだギリギリ、開場時間にはなっていない。
 グランキューブ大阪の玄関前の広場には 入場を待つ大きな人の列が形成され、まだ列に加わらない客が取り囲んでいる形でいた。
 自分はもちろん すぐさま入場列の最後尾に加わった。
 開場時間となると 入場列は動きはじめ ようやくグランキューブ大阪の建物内に入ることが出来た。
 目指すメインホールは5階である。
 エスカレーターか、エレベーターで上るしかないが 今回もエレベーターで上った(と思う)。
 やがて見えてきた ホール入り口と 5つほどに分かれたチケットもぎりセクション。
 ああ、前回もこんな感じだったと2年前の光景が脳裏に蘇ってきた。
 チケットをもぎってもらい、ホールに入ると私はすぐにグッズ売り場を目指した。
 当然ながら 其処は途轍もなく混んでいる筈と思ったら、案外そうでもなく拍子抜け。
 それは先行発売が入場前に行われたからだが、その結果 主要なTシャツなどのグッズは既に売り切れを示していた。
 Tシャツ(\6000)が飛ぶように売れているのは良いことだが、つい数年前までは\4000ぐらいだったことを知っていると複雑な気持ちにはなる(グッズはバンドにとって重要な収入源だとは判っているのだが)。
 結局、いつもどおりパンフレットとまだ余裕があったマグカップを購入しグッズ売り場を後にした。
 ところで、今回は大阪の友人と参加する予定になっていた。
 チケットもお願いしたので席は横並びである。
 友人は 18:30頃に会場に到着予定と連絡があったため、私はそれまではロビーの椅子に座って時間を潰すことにした。
 ロビーは入場する客が、それぞれの席に向かうべくごった返していた。
 そんな様子を見ながら、今夜のライヴに思いを馳せつつ、これまでのナイトレンジャーのライヴの思い出を振り返っていた。
 期末試験を終えたその日に”ケッタ”(名古屋弁で自転車のこと)で名古屋市公会堂へ駆けつけた初来日公演
 涙が出るほど嬉しかった再結成後初の名古屋公演
 出待ちしてサインを貰ったクラブクアトロ公演
 Firehouseとのジョイント公演というのもあった。
 また初来日公演で一緒に行ったクラスメートや 再結成ライヴに行った 今はもう居ない友人の顔も浮かんでくる。
 大袈裟かと思うが ナイトレンジャーは 自分の人生の様々な局面で大きく関わってきていたと言ってもいいのかもしれない。
 それぐらい影響力は大きかったと思う。



 時計の針が18:30を指し示す頃、ようやくロビーを離れ トイレに寄った後 いよいよ客席に入っていった。
 ドドーンと目に入ってくるステージは 正面にスクリーンとそれをバックに黒く高い台が据えられているシンプルなセット。
 このステージセットを見て 初来日公演を思い出すファンはきっと多いに違いない。
 今回の席はBP列。
 同じ列にはPA卓が構えられており、音響的にはバランスが良い席だったと思う(通路を挟んだ、斜め後ろの席にはバンドメンバーの家族が座っていたのを確認出来た)。
 ただ いかんせんステージまでは遠い。
 前回は この目でステージを見通せるほどのなかなかな良席だったが、今回は用意してきた双眼鏡が手放せなくなりそうであった。
 その自席の横には 既に友人が座っているのを認めた。
 彼と会うのも 数年ぶり。
ライヴに限っていえば 一緒に行った 2017年に行われた スラッシュとダフ・マッケイガンが復帰して初のGuns N' Rosesの来日公演以来となる。
 しばし旧交を温め 開演時間を待った。
 その間にも 場内ではひっきりなしに80年代のHR/HMがSE代わりに流されていた。
 ビリー・アイドル「Mony Mony」、ZZ TOP、デフ・レパード「Hysteria」 、スコーピオンズ「Rock You like A Hurricane」が次々と流された。
 1曲が終わる度に(ライヴが始まると勘違いして)大歓声が湧く。
 ただ いつまで経ってもライヴは始まらない。
 ナイトレンジャーのライヴで これほどの遅れは珍しい。
 結果的に 開演予定時間から 20分ほど待たされたのである。
 実はライヴ前には VIPパッケージ(129,000円/69,000円/29,000円/9,800円)を購入した客を対象に バンドとのミート&グリートやサイン会、バックステージでのウォーミングアップ、サウンドチェックパーティーが行われるのだが、それに先立つバンドの”本当の”サウンドチェックが20分ほど長引き それが全てのスケジュールに影響を与えたらしい
 開演直前に 最前列を中心に客が雪崩込んできたのを訝しげに思っていたが、そういうことだったのかと後になって判ったのだった。
 「Rock You like A Hurricane」がフェードアウトすると 突然 メンバーの話し声が場内に響き渡った。

 「一体、これは何なのだ?」

 客の誰もが首をかしげたと思う。
 もしかして MR.BIGのフェアウェル・ライヴのように楽屋から生中継でも始まったのか。と思った。
 だが、ステージのスクリーンは白く発光したまま何も映し出されなかった。
 するとエリック・リーヴィがピアノの伴奏を始めると「Sing Me Away〜♪」とジャック、ブラッド、ケリーらが歌い始めた。
 その見事なコーラスは「Sentimental Street」「(You Can Still) Rock In America」と続いた。
 この ちょっとしたアコースティック・セッションは今回、今ツアーの為に新たに録音されたものだったらしいが、出来るなら映像で見たかったと思うのだった。
 今までのナイトレンジャーの来日公演とは明らかに違う趣向にいやが上にも フェアウェルを意識したスペシャルなものを感じた。
 「さあ、これでいよいよライヴが始まるぞ」と意気込んでいると、聞こえてきたのは Beastie Boysの「Fight For Your Lights」
 「なぜ このタイミングでこの曲?」と困惑してしまった。
 開演前にも 何曲もフルで流していた為、余計に?が頭に渦巻いてしまったのだ。
 ようやく「Fight For Your Lights」が終わったと思ったら、今度は映画「ゴジラ」のメインテーマをハードなシンフォニー・アレンジしたバージョンが大音量で響き渡った。
 日本だからこその演出なのだろうが、20分あまりの遅れに加えてのこのライヴのイントロは流石に「早く始めてくれ〜」と思わざるを得なかった。


 「ゴジラ」のメインテーマの終わりに『All Right Please Welcome to Night Ranger』とお馴染みの野太いアナウンスが場内の端々まで満たす。
 その声と同時に薄暗いステージにメンバーが現れた。
 ステージに赤いスポットライトが当たる。
 それをバックに浮かび上がる黒い影。
 聞こえてくるギターリフは「This Boy Needs To Rock」のイントロだ。
 それを奏でるブラッド・ギルスに一斉に視線が注がれる。
 やがてジャック・ブレイズがボーカルを取る。
 それは今まで、何度となく見てきたナイトレンジャーの姿であった。
 「This Boy Needs To Rock」はギターソロがそのままDeep Purpleの「Highway Star」の有名なソロへと繋がった。
 これまた 今まで何度となく見聞きしてきたパフォーマンスだった。
 後半は再び「This Boy Needs To Rock」に戻って ブラッド、ケリ・ケリー共にタッピングなどを用いたアウトロを弾き終わる。
 その直後、エリックが奏でるキーボードが重低音を唸らせる。
 「Sing Me Away!」とジャックが叫ぶやいなや、聞き慣れたリフが場内に響く。
 ステージ上ではジャックやケリ・ケリーがピョンピョンと飛び跳ねてテンションが高い。
 そして ブラッドとケリ・ケリーのギターハーモニー・フレーズはいつ聞いても心地良い。



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 3曲目「Four In The Morning」は1985年リリースの3rdアルバム「7 WISHES」収録の楽曲。
 今回のフェアウェルツアーは「7 WISHES」アルバム・リリース40周年を記念とした特別なものになるとジャックは予告していた。
 それだけに どのような趣向で披露されるのか楽しみでもあった(特に今まで披露していない曲の登場があるのか 期待していた)。
 「Four In The Morning」と云えば 個人的には以前、ギターを練習して早々に諦めたギターソロを注目する。
 このギターソロは複雑かつ素早いフィンガリングが特徴で、正に初代ギタリストのジェフ・ワトソンの流麗な奏法(エコノミーピッキング)が見せ所だった。
 だからこそ注目したが、ケリ・ケリーは最も複雑な部分はフィンガリングではなくタッピングで纏めていた。
 YouTubeでも 同じように この曲のこの部分をタッピングで弾いている方がいて コメント欄では文句を言っている人がいたが、その人がこれを見ているならなんと言うのだろうか?と想像してしまった。
 とはいえ、其処まで詳しく見ている者はどれくらいいるだろうか。
 そんなこと関係なく、大きく盛り上がって終わったのだった。
MCでジャックが「All Right OH Saka!」「Night Ranger Back!!」と叫べば ブラッドが客席を眺め「People is Great. Beautiful〜」と唸る。
 ジャックはそれを受けて日本語で「ウツクシイ!」「ウツクシスギ!」と連呼した。

 ジャックが次曲を紹介した。
 それは「Why Does Love Have To Change」 2ndアルバム『Midnight Madness』収録の楽曲である。
 確か、日本では(自分が参加出来なかった)2019年に行われた1stアルバム『Dawn Patrol 』2ndアルバム『Midnight Madness』の再現ツアーで初めて披露されて以来である。
 ゆえに自分が生で聞くのがこれが初というレア曲である。
 2019年に初披露されたということもあって当時、自分でも演奏をコピーしたこともあって想い出深い(ただ、今聞くと酷い出来(苦笑)もう一度、弾き直したい(笑))。
 ブラッドとケリ・ケリーが奏でる3度のハーモニーフレーズは、ツインリード・バンドの真骨頂を再認識させてくれた。
 ブラッドとジャックが互いに名前を連呼する短いMC(小休止)の後、始まった5曲目は「Touch Of Madness」だ。
 自分にとっては2014年以来、11年ぶりに聞くこの曲。
 今まで何度となくステージで聞いてきたが やはり記憶は初来日公演に直結する。
 今宵も ブラッド・ギルスの派手で強烈なアーミング・プレイが曲の終わりに華を添えた。
 次のMCでは ジャックが客席とのコール&レスポンスを楽しんだ。
 「エーオ!」を言い合う「ライヴ・エイド」で伝説のパフォーマンスを行ったQueenのフレディ・マーキュリーが「Hammer To Fall」の前に行ったあの煽りである。
 その後、ステージに唯一残ったキーボードのエリック・リーヴィをジャックは「イチバン、ミュージシャン」「No1. Musician」と紹介。
 そして今度は「リーヴィ!」で客席とのコール&レスポンスだ。
 上記したように「7 WISHES」アルバム・リリース40周年であることもジャックは客に伝える。
 それを示すように、エリック・リーヴィがお馴染みのメロディーを弾き始めた。
 「7 WISHES」アルバム収録の「Sentimental Street」である。
 同時にドラムセットに、ケリー・ケイギーにスポットライトが当たった。
 いつものように朗々と、ケリーが歌い上げる。



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 途中からステージにジャック、ブラッド、ケリ・ケリーが復帰し、歌唱に加わる。
 サビの部分でジャック、ブラッド、ケリ・ケリーがコーラスを付ける。

 「ああ、見慣れたこんな姿も今日で最後なのか」

 そう思うと、急に切なくなってきた。
 熱く歌い上げるケリー。
 そんな彼を全霊でバックアップするメンバー達。
 エンディングのケリーのキメのパフォーマンスは いつもと何ら変わりがないが、最後を意識してなのか いつも以上の熱量を感じたのだった。
 演奏直後には ジャックはケリーを讃え「ケリー!ケリー!」と客席とコール&レスポンスで煽った。
 やがて聞こえてきたブラッドによるヴァイオリン奏法のイントロ。
 其処にケリ・ケリーも同じヴァイオリン奏法で応える。
 曲は「Rumors In The Air」である。
 この曲も7年ほど前、ギターソロの部分だけコピーした事もあるため、やはり思い入れがある。
 それゆえブラッドのソロを中心に双眼鏡でガン見したのだった。
 ギターソロの後、曲は一旦ブレイク。
 ケリーとジャックが客を煽り、盛り上げる。
 40年以上、ステージでパフォーマンスを行ってきたライヴバンドの真髄を発揮するのだった。
 8曲目は2014年以来の、ちょいお久しぶりな「High Road」
 2014年リリースの同名アルバム収録だから、そのアルバムツアー以来となる訳である。
 「High Road」はイントロや曲間に客と「Yeah 〜」のコール&レスポンスを行うのだが、11年前当時のことが薄っすらと蘇ってきた。
 エリック・リーヴィの短めなキーボードソロ(は新機軸?)も含め、大いに盛り上がったのだった。
 一瞬の静寂の後、私が大好きな曲の到来を知らせる 重低音のキーボードの和音が場内を包み込んだ。
 ジャックがバンド結成時(1981年)のことを話始める。
 デビュー時の話はあったが、それ以前の話をするのは珍しい。
 やはり日本公演最後という意識がそうさせたのか。
 そして1stアルバム「Dawn Patrol」の話へ。
 最後に次曲のタイトルを口にした。
 そう「Eddie's Comin' Out Tonight」と。
 暗闇の中、舞台後方の高台に上がっていたブラッドへ、スポットライトが当たる。
 イントロのリフを(ブラッドならではのアーミングを絡め)弾き出した。
 いつの時代でも この瞬間に いつも痺れる。
 それは42年前からずっと変わらない。
 それに このブラッドの立ち姿は やはり初来日の時と激しく重なる。エモすぎるのだ。
 曲は最注目のギターソロへと流れるように進む。
 ブラッドがアームを激しく震わせ、その後はケリ・ケリーとのギター・デュエルだ。
 交互に3度でハモる速弾きフレーズを披露し、エンディングでは一緒になってギターハーモニーを奏でる。
 "速弾きツインリードはかくあるべき"という姿を見事に体現していると思う。
 この曲が製作された当時、ギターの速弾きといえば「エディ・ヴァン・ヘイレン」だ。と言われていた。
 それゆえ彼に勝負を挑んで勝つには 一人では無理だが、二人で弾けば勝つことも出来るのでは?という思いでこの曲を作ったと言われている(だからこそタイトルにEddieという名前が付いているのだ)。
 エディ・ヴァン・ヘイレン亡き今、これも彼の偉大さを知るエピソードの一つかもしれない。
 個人的にアドレナリンが沸騰した瞬間(とき)が過ぎ、エリックが(ピアノ音色で)メロディを奏で始めた。
 メロディに乗せジャックの歌唱がしっとりと始まる。
 10曲目も 1stアルバム「Dawn Patrol」からの選曲「Call My Name」だ。
 静から動、動から静へという曲構成がとてもドラマチックである。
 動の部分での見せ場は 交互に分け合ったブラッドとケリ・ケリーのギターソロ。
 タイプの違うギタリスト二人の競演はやっぱり興味深く面白い。
 ブラッド・ギルス、ジェフ・ワトソンという全くタイプが違う、それぞれに特徴的な技・奏法を持つ二人のギタリストが一緒にバンドを組んだというのは奇跡的だったと思う。
 最初から練りに練って考えられていたのかどうか判らないが、このコンセプトは斬新で大成功であったのは歴史が証明している通りである。

 ジャックが「カリフォルニアを訪れたことがある人?」と尋ねる。

 この問いかけが次の曲への布石となった。
 11曲目は「Growin' Up in California」である。
 ママス&パパスに「California Dreamin'(夢のカリフォルニア)」という曲があるが、ナイトレンジャー流"夢のカリフォルニア"という感じに思える。
 (そう思うのは このPVの影響もあるのかもしれない)
 ひたすら明るく楽しい曲を終えた後、ジャックがデビュー43周年であること、そして「1983年の初来日公演に来たことがある人は?手を挙げて」と問いかけた。
 もちろん、自分も手を挙げる。
 そういえば、過去のライヴでもこんなシーンがあったな。と思い出す。
 デビューや初来日を振り返ったことをきっかけに次は 1stアルバム「Dawn Patrol」からの曲と紹介し、ジャックは「Night Ranger」と高らかに宣言した。
 ミディアムテンポの 1stアルバム「Dawn Patrol」では最もヘビーメタルな曲は最近では、中盤のケリーのドラムソロから大きく趣を変える。
 ステージ上には ケリーとジャックだけが残った。



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 ここでドラムとベースのセッションとなるが、途中でジャックが転んで?その場で倒れてしまうハプニングが起こった。
 「Oh 〜」と客席からは心配そうなため息が漏れるが、ジャックは寝転んだままベースを弾き続けた。
 (大したことなくて良かった)
 だが、そのまま自力で立ち上がることが出来ずに スタッフに手を引っ張って起き上がらせてもらっていた。
 リアルに孫もいる71歳のジャックも 若い頃のように動けないのが判ってしまった瞬間であったが 一連の事象をステージ・アクションのように見せていたのにはプロフェッショナルさを感じたのだった。
 ドラムを叩きながらケリーが客を煽る。
 それが呼び水となって、ステージを履けていたケリ・ケリーが被り物をかぶり、ドラムスティックを持って登場。
 ドラムセットに上り、フロアタムを叩き始める。
 やがてブラッドやジャックもその輪に加わり同じようにシンバルやタム、バスドラの縁などを叩き始めた。
 最後はエリックも加わり、ドラムソロは大団円を迎えるのだった。
 (ちなみに 日本武道館公演では 和楽器バンドの黒流という方が和太鼓でドラムソロに参加したそうだ)
 ここから「Night Ranger」はスラッシュメタルのような高速リフの曲へ変化する。
 狂ったようにアーミングを操るブラッド。
 やっぱり華があるギタリストは違うなと再認識する。
 つまりブラッドの独壇場であった。
 レコード時代と同じようにジャックが叫び、歌う。
 あの初来日公演の鮮やかな記憶と重なるのだった。
 「アリガトウ」ジャックが呟く。
 ステージにアコースティック・ギターが用意された。
 「トミー・ショウ、テッド・ニュージェント...」と名前が読み上げられる。
 そうなれば次の曲はあのバンドの曲しかない。
 13曲目はDamn Yankeesの「High Enough」であった。
 ケリ・ケリーが 固定スタンドに据えられたアコギを弾き始める。
 そのメロディに合わせジャックが歌い始め、やがてバンドがそれに続く。
 考えてみれば Damn Yankeesを結局(今の所)この目で見ることはなかったが(1990年、1993年に来日公演を行っている。1993年には名古屋でも公演を行っているが何故、行かなかったんだろう?)再結成後、必ずと言っていいほどDamn Yankeesの曲はやってくれていた。
 披露されるのは きまってこの「High Enough」「Coming of Age」なのだが、他にも「Crazy Train」などもやっていた為、カバー曲よりもナイトレンジャーの曲をもっとやってくれ。と思うこともしばしばであった。
 しかし、ジャックが今後 来日することが無くなったらDamn Yankeesの曲を聞く機会もなくなってしまうのだろう。
 無くなってから気付く貴重な体験であったのだ。
 バラードを熱唱するジャックに、楽器交換(不調があったのか)の為にスタッフがステージ中央で立ちんぼ状態になっていたのにはクスッと笑えたが、曲は感動的に終わりを迎えた。
 ケリ・ケリーが再び、アコースティックギターの後ろに立ち、再びコードストロークを行う。
 其処に天高くエリックのキーボードの音が重なった。
 ケリーがボーカルを取る。
 「Man in Motion」アルバムに収録された「Reason To Be」である。
 前回の来日公演でも 1988年の解散直前の来日公演以来に披露されたレア曲であったが、今回もセットリスト入りしてくれたのは感慨深い。
 おそらく今回の公演では、解散前のアルバム全てから満遍なく披露する心づもりではないのかと思っていた。
 (まあ この大阪公演では「BIG LIFE」アルバムからの選曲はなかった。が 日本武道館公演では「The Secret of My Success」が披露されたので あながち間違ってはいなかったのだ)
 エンディングは再び、ケリ・ケリーのアコギをバックにケリーが熱く歌い上げ終わった。
 15曲目は、再び思い入れが強い1stアルバムから「Can't Find Me A Thrill」
 イントロのギターリフが奏でられた瞬間から 大興奮状態である。
 初来日を含め、何度か生で聞いてきたが これまたレコードで聞いていたあの頃が思い出される。
 「Don't Tell Me You Love Me」「Sing Me Away」「Night Ranger」では そうならないのは、ライヴの超定番曲であり聞き馴染みがある為だろう。
 だが「Can't Find Me A Thrill」「Eddie's Comin' Out Tonight」「Call My Name」「Penny」 などは今では ステージでやったりやらなかったりとする為、ダイレクトにあの頃〜1983年当時に直結するのだ。
 そんな初期原理主義の自分が、2019年に行われた「Dawn Patrol」アルバムと「Midnight Madness」アルバムの2枚完全再現ライヴに東京と関西(兵庫県)だけだったとはいえ、足を運ばなかったのが今もって後悔している。
 この年以降の来日公演は名古屋では行われなくなってしまったが、あの時も今回と同じように遠征すれば良かったと今更ながらに思ってしまう。



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 「Can't Find Me A Thrill」のギターソロは、ジェフ・ワトソンの担当だった。
 −ということはケリ・ケリーの見せ場の一曲である。
 ステージ前方に用意された小ぶりのお立ち台に立ち、Gibson Les Paulのゴールドトップのフィンガーボード上を指がせわしなく踊る。
 正にケリ・ケリーのギターソロ・コーナーとして用意されたような曲でもあった。

 「Sister Christian !!」とジャックが叫ぶ。

 エリックがお馴染みのフレーズを奏で始める。
 ケリーが客にアピールし、歌い始める。
 客はそのメロディに合わせて手を左右に振り始め 客席は一体化した。
 (このような光景を一体、何度見たことか!)
 「Sister Christian」でナイトレンジャーは大きく飛躍したが、このバラードのヒットが結果的に解散につながったのは周知の事実である。
 それゆえ当初は 何か違和感のようなものを感じなくはなかったが、再結成以後は必ず演奏される定番曲となって わだかまりのようなものも薄らいだと思う。
 なにより演奏するメンバーが嬉しそうだったのだ。
 客席ではスマホのライトが掲げられ ライター代わりの灯火となって曲を盛り上げる。
 曲のラストになると、ドラムセットを降りたケリーがマイクを持ってステージセンターに歩み寄る。
 キーボードのみで 最後のフレーズを歌い上げたケリーには笑顔しかなかった。
 その姿に我々は 大きな拍手と歓声で称賛するのだった。
 ジャックが激しく客を煽る。
 それを破って場内に溢れ出したギター・イントロ。
 曲は「When You Close Your Eyes」であった。
 バックのスクリーンには 懐かしきPVが映し出される。
 この曲を聞くと、必ずと言っていいほどこのPVを思い出すので、この演出にはグッとくる。
 しかもこの曲自体が 昔の恋人のことを思い出すという歌詞で PVもそれに倣ったものであった。
 そんな昔を振り返る、言ってみればナイトレンジャーの昔を振り返るようなイメージの曲をセットリストの後半に持ってくるなんて なんという心憎い演出なんだと思わざるを得なかった。
 ケリ・ケリーはギターソロを取るにあたって 舞台後方の高台に上がってアピール。
 ジャックとブラッドはそちらを凝視している。
 その直後、ドラムだけ演奏する中 ジャックの指示で客席を巻き込んだアカペラによる「When you close your eyes Do you dream about me」の大合唱。
 その興奮が冷めやらずな中、ジャックが曲名を叫んだ。
 すると 私のDNAレベルで永年刻み込まれてきたギターリフ=イントロが聞こえてきた。
 ナイトレンジャーの全てはこの曲から始まったと言っていい「Don't Tell Me You Love Me」である。
 二人のタイプの違う個性的なギタリストを紹介しつつ、バンドの名刺代わりとなったこの曲。
 アーミングのブラッドと エコノミーピッキングのジェフ。
 ジェフからケリ・ケリーに代わっても、このギターソロはいつ聞いてもスリリングだ。
 ジャックの「Don't tell me」に対する 「I don't want to know」の大合唱も もはや定番化されているが これが最後と思うと感慨深い。



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 轟音を響かせ 大きな盛り上がりで曲が終わるや ジャックは矢継ぎ早に叫ぶ。

 「You Can Still Rock ! in Ohsaka !!!」

 ブラッドのギターから放たれた地響きのようなアーミング音が場内に響き渡る。
 其処にケリ・ケリーのギターリフが被さる。
 これ以上ないほどのアドレナリンの高まりを感じる「(You Can Still) Rock In America」が始まった。
  元気いっぱいなジャックの歌唱に続き「ギター」という掛け声で始まるこの曲最大の見せ場が登場。
 ハーモニクスを絡めたアーミング・ダウン&アップが特徴的なブラッドの速弾き、そしてケリ・ケリーの8フィンガー。
 初めて見た時は少々、違和感のあったケリ・ケリーの8フィンガー・プレイも今やなんの遜色もない。
 ジャックの号令で「Rock In America」の大合唱。
 例年の来日公演と何ら変わりがないパフォーマンスであった。
 曲のエンディングでエリック・リーヴィ、ケリ・ケリー、ブラッド・ギルス、ケリー・ケイギーとメンバーを紹介し、最後に自分の名前を告げた後、ジャックはこう叫んだ。

 「You Can Still Night Ranger !!」

 改めてここでナイトレンジャーの名前を出したことに”最後の来日公演”という重みが実感として伝わってきたのだった。

 曲が終了し、拍手の中 メンバーはステージを降りていった。




 暗闇に包まれたステージには白く浮かび上がるスクリーンだけが残った。
 すかさずアンコールを求める手拍子が始まる。
 それが5分ぐらい続いただろうか。
 ブラッド・ギルスを先頭に メンバー達がステージに帰還してアピールする。
 ジャックは阪神タイガースのユニフォーム(上着)を羽織り、同様にナイトレンジャー・グッズのキャップを後ろ前逆に被っている。
 ジャックがデビュー以来43年間の活動の応援に感謝を伝えた(MR.BIGのビリー・シーンのように長くは語らなかったことは意外であったが)。

 「ブラッド・ギルス Goodbye」

 アコースティックギターを抱えたブラッドにスポットライトが当たり、その横で「Goodbye」のイントロのアルペジオをケリ・ケリーが爪弾き始めた。
 それをバックにメロディを奏でるブラッド・ギルス。
 ステージ中央のマイクスタンドの前には ケリー・ケイギーである。
 やがて歌唱が始まった(ただ、ケリーの歌は やや不調な感じであった。それだけは残念だった)。
 ギターソロもそのままアコースティックギターで弾き通すブラッド。
 このままアンプラグドセッションで終わるかと思いきや、ラストはエレキに持ち替え ケリーもドラムセットに陣取った。
 あらためて分厚いバンドサウンドが場内に響き渡る。
 同時にそれはライヴの終焉を、最後の来日公演の終わりを いやがうえでも意識させた。
 しかし、ツアーのタイトルから予想されていたとはいえ「Goodbye」でライヴを終えるとは 余りにも切ない(もちろんまだ この時点では この曲が最後になるとは判らなかったのだが)。
 (武道館公演のラストは「(You Can Still) Rock In America」であった。曲の増減はあるのは判るものの なぜ セットリストを変えたのだろう?)
 エンディングは ブラッドの"これでもか"というぐらいの熱の籠もったプレイを披露(終始、アームを持ちっぱなしだ)。

 「Thank You Ohsaka アリガトウ !!」

 轟音が止み、温かい拍手がメンバーを包み込む。

 遂に終わってしまった。

 Wアンコールを望むうちに場内には それを断ち切るかのように見知らぬ軽快な曲が流れ始めた。

 それは後にファンサイトの掲示板で教えて貰ったのだがニール・ダイアモンドの「Sweet Caroline」という曲であった。

 この曲の歌詞には このような一節がある。

 「Good times never seemed so good(楽しい時間がここまで良いとは思っていなかったよ)」

 1983年12月の初来日公演以来、42年間、日本のファンと共に過ごして時間が「こんなに楽しいものだとは思わなかったよ」と歌詞に感謝を込めて伝えているのではないか。
 今更ながら その意味が判ってバンドのセンスの良さに感動している。
 この曲に合わせて ジャック(だったと思うが)がステージ上で口ずさんでいるのも見えたが、この選曲をしたのはきっとジャックなのかもしれない。
 日本武道館公演では KISSの「Rock and Roll All Nite」が掛かったらしいが(翌日には エース・フレーリーの逝去の報が世界中を駆け巡った。この哀しい偶然は胸が痛い)今、思えばこの「Sweet Caroline」の選曲はピッタリだったと思う。
 ライヴ終了直後、私は「いつものナイトレンジャーだった(最後の来日公演とは思えなかった)」と友人に感想を漏らしたが、改めて振り返るとフェアウェルを意識したものは色々とあったことに気付く。
 だが、バンド自体はまだまだ活動は続くことを名言している。
 また新曲も、あるいはニュー・アルバムの発表もあるかもしれない。
 確かにジャックが言うように1年後、2年後、5年後、10年後 どうなっているかなんて 誰にも判らない。
 だからこその今、このタイミングでのフェアウェル公演だったとは思うが、何も変わらないメンバーのパフォーマンスを見れば"次の"公演を期待してしまうのは何もおかしな事ではないだろう。
 フェアウェルの撤回は難しいとは思うけれど、フェアウェル2回目があってもなんら問題ない、むしろそうあって欲しい。

 今はただただ、そう思うばかりである。




 とりあえず今は こうメンバーに伝えたい。

 ジャック・ブレイズ、ブラッド・ギルス、ケリー・ケイギーには長い間、お疲れ様でした。

 今まで日本のファンを楽しませてくれて ありがとう。

 そして 長くサポートしてきた ケリ・ケリー、エリック・リーヴィ、また ジョエル・ホークストラ、レブ・ビーチ、マイケル・ローディー、クリスチャン・カレンもありがとう。

 それから オリジナル・メンバーのジェフ・ワトソン、アラン・フィッツジェラルド ありがとう。





 NIGHTRANGER FARWELL JAPAN the Goodbye Tour in Osaka





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SET LIST
Into Uuplugged Session Tape
Opening S.E. Fight For Your Lights(Beastie Boys)               
Opening S.E.2 「Godzilla」Main Theme(Akira Ifukube)
1This Boy Needs to Rock(include Highway Star)
2Sing Me Away
3Four In The Morning
MC
4Why Does Love Have To Change
MC
5Touch Of Madness
MC
6Sentimental Street
MC
7Rumors In The Air
8High Road
9Eddie's Comin' Out Tonight
10Call My Name
MC
11Growin' Up in California
MC
12Night Ranger
13High Enough(Damn Yankees)
14Reason To Be
15Can't Find Me A Thrill
16Sister Christian
17When You Close Your Eyes
18Don't Tell Me You Love Me
19 (You Can Still) Rock In America
・・・Encore・・・
MC
20Goodbye
Closing S.E. Sweet Caroline(Neil Diamond)             






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