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                       ■本の評価は、☆☆☆☆☆満点
☆☆が水準作


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2001.2.2(金) 『銀と青銅の差』
・なにやら意識下で気になって仕方がないCMに「武富士」のCMがある。調子のいい曲に載って、ねえさんたちがエアロビだか、ワークアウトを踊りまくる。最近では、武富士提供の当地の天気予報番組にも、延々とロング・ヴァージョン?が映し出され、あれは一体なんなのかと、思っていたのだが、2日ほど前の道新にこのCMに流れる曲の話が載っていた。曲名は、「シンクロナイズド・ラブ」で、91年以来、この曲が流れており、95年にはCD発売。昨年の12月に再発され、7社のカラオケにも収録されたという。記事にも「意味不明なダンスのインパクト」とあって、わっはっは。バカCMの王道である。カラオケのレバートリーに入れようか。それ、ウォンチュテークマイヘン〜、フォアイルビヨメン〜。
『銀と青銅の差』 樹下太郎(報知新聞社『暗い道』('69)に併収/'61) ☆☆☆
 プロローグは、密室状況での不可解なガス中毒死。刑事は、現場付近に落ちていた会社のバッジを不審に思い拾いあげるのだったが・・。銀と青銅は、会社の管理職と平社員のバッジの違い。管理職から平社員に降格された主人公のやるせない怒りが冒頭のカタストロフに至るまでの軌跡を作者は追う。主人公の心情は、出世を拒否して趣味に生きる友人の生き方と対比されるが、その友人も、デザインのコンクールに入賞がかえって仇となって、会社の論理に翻弄されていく。克明に描かれる主人公の心理は、組織に生きるものには、ビリビリと響いてくるイタい話である。密室はじめミステリ的な興味はさほど強くないが、冒頭の男女は、一体誰なのか、という興味は持続される。ある意味で、「ロウフィールド館」的行き方か。


2001.1.31(水) 最後の文士
・サイ君にせっつかれていた、ヒル「幻の森」を求めて、帰りに久しぶりに街に出る。新刊を除いてポケミスを常備しているところが少なくなっように感じる。4軒目の紀伊国屋で、ゲット。渡辺啓助「ネメクモア」(東京創元社/4000円)、C.W.グラフトン「真実の問題」(国書刊行会)、「本格ミステリーは探偵で読め!」ほかを購入。万札が飛ぶ。ひゅるる。ポールタウンに半額店ができている。シンシア・アスキス他「淑やかな悪夢」(東京創元社)600円で購入。
・帰ると、松橋さんからの「雅楽探偵譚U 奈落殺人事件」(立風書房)と、古書店からの「アトリエ殺人事件」が届いている。ありがとうこざいます。
・アマゾンからメール。11/5に頼んだMalcolm J. Turnbull(著) "Elusion Aforethought : The Life and Writing of Anthony Berkeley Cox"が結局、入手できないと判明したとのこと。ほんとにあるのか半信半疑だったけど、リストに載せといて、この電子メールの時代に3か月近くたって、ないことがわかったというのは、いくらなんでも。
・昨日、渡辺温が北海道出身なのに、1歳違いの兄の渡辺啓助がなぜ、秋田出身なのかとふと疑問に思っていたら、「ネメクモア」の巻末年譜をみて氷解。ゼロ歳のときに、秋田から函館に転居してるのですね。翌年に函館で渡辺温が生まれている。しかし、3年後には、東京に転居しているから、北海道出身といばっていうのは、ちと苦しいかも。
・「ネメクモア」は、渡辺啓助100歳記念出版。帯に「推理文壇最長老」とあるが当たり前だ。100歳ですよ、奥さん。小栗虫太郎と同年生まれですよ。しかも、まだお元気らしい。山田風太郎の「人間臨終図鑑」によれば、百代を超えた小説家は、野上弥生子(100歳)が載っているだけ。その上は、物集高量(106歳/国文学者)、天海僧正(107歳)、平櫛田中(107歳/彫刻家)、大西良慶(108歳/住職)ときて、泉重千代(121歳/長寿世界一)だ。大物文人が亡くなる度に、「最後の文士逝く」と出る、最後の文士は何人いるのだ、と昔、筒井康隆が怒っていたが、「最後の文士」は生きている!長寿を言祝ぎたい。



2001.1.30(火) 誰か故郷を想はざる
・HMM3月号。厚い。「魔の淵」が、やっと本になるみたい。「ポップ〜」で目覚めたか、早川。今年のベストに入ってくれば楽しい。木村仁良のコラムによれば、クリッペン・ランドリュー社の刊行予定に、クイーンのラジオ台本集があるらしい。早く出してくれえ。
・kashibaさんのところで、札幌転勤を即ことわったというネタが。人口170万。食い物はうまいし、ねえちゃんきれいだし、すすきのはあるし、通勤に時間はかからないし、いいところですよ。ま、冬は寒いし、HMMは2日遅れで、ろくなデバート展はないですけど。札チョン族(札幌単身赴任者)の間では、札幌の2度泣きという言葉があるくらいで(赴任を命じられて泣き、戻るときまた泣く)めんそーれ札幌。
・お国自慢モードになって、郷土の推理・SF作家自慢。現在、札幌近郊に居住しているのは、柄刀一(近所の本屋でサイン本が平積み)、東直巳(すすきのの飲み屋で席が隣になったことがある)、佐々木譲、朝松健、荒巻義雄、佐々木丸美、矢口敦子といったところか(不確か)。鮎川先生も夏場は札幌近郊にいるようだ。
 荒巻義雄は「白き旅立てば不死」で、札幌南高同窓の渡辺淳一の「阿寒に果つ」と同一女性をモデルにしたりしている。北海道出身でいえば、京極夏彦(小樽)、川又千秋(小樽:小樽文学館に本が飾られている)、馳星周(浦河だったかな)、今野敏、鳴海章(帯広)、北大出身では永井するみ、佐藤正午。ちょっと遡れば、楠田匡介(厚田)、高城高(函館・道新)、嵯峨島昭(札幌)、幾瀬勝彬(札幌)、石原慎太郎(小樽に居住)、さらに遡れば久生十蘭(函館)、水谷準(函館)、牧逸馬(函館)、渡辺温など。橘外男は北海道で横領罪で捕まり、佐野洋は札幌で記者をやっていたとかいうのを入れれば、まだ増えるかも。玉井一二三みたくなってきたので、この辺で。(「日本ミステリー事典」を参照にしたけど、嵯峨島昭(宇能こう一郎)が札幌出身だとは知らなんだ)



2001.1.29(月) 『錯誤のブレーキ』
・小山正とバカミステリ−ズ『バカミスの世界』購入。評論集のようなものだと思っていたのだが、どっこい、バカミス史から、インタヴュー(山口雅也)、バカミス対談(北村薫×若竹七海)、書下し短編(霞流一)、初訳(ウッドハウス、マルツバーグ、ロバート・バー、ロバート・L・ベレムの短編)、バカミスベスト100ガイドまでを揃えたバラエティ・ブック。まだ、少しを読んだだけだけど、70頁に及ぶ「図解!バカミスの歴史」は、初耳情報満載、コーア&モーゲンセンの「殺人読本」を彷彿させるような愉しさに満ちていて圧巻。読みたい本が、またどっと、増えたぞ。さあ、ウィリアム・シャトナー「電脳麻薬ハンター」を探しにいかなくちゃ。風太郎も主要バカミスのメンバーに入ってます。感想は、週末か。(26日の記、一部勘違いがありましたので、こっそり修正)
中町信『錯誤のブレーキ』 (講談社ノベルス/平成12.6) ☆☆☆
 SRのベストに常連のように顔を出している作家なので、気にはなっていたのだが、恥ずかしながら、この作家の長編を読むのは初めて。探偵役は、ちんちくりんで太った中年の小説家と翻訳家の夫婦、脇で出てくるのが格言好きの春日部の「古畑任三郎」とくれば、現代の本格好きは、席をけって退場してしまいそうだが、これは当たりだった。雨の夜の正面衝突の事故。運転者は、即死、同乗の三人は瀕死の重傷というこの大事故に端を発して、連続殺人が始まる・・。幾つものネタを細かくつなぎ、輻輳するプロットを一枚ずつ剥がしていきながら、作者は容易に真相に気づかせない。容疑者が絞られ、探偵の謎解きが始まっても、なお真相は予断を許さないのだ。とりわけ感心したのは、全編に張り巡らされた伏線の量・多彩さで、この丁寧な仕上げぶりは、昨今の荒っぽい仕上げの本格に対するアンチテーゼともいえる。ダイイングメッセージの部分など、ギャグすれすれの部分もないではないが、職人芸の確かさに瞠目させられた一編。簡素ながら心理的盲点をついた密室トリックもセンスがいい。「しかし、鼻毛が出てる人は賢い」という格言があるとは、勉強になった。



2001.1.28(日) 『偽装』
・既に旧聞に属するかもしれませんが、松本楽志さんのリニューアル・サイト「天使の階段(The Angel's Stairway)」が公開されております。おやじだと、ん?「天国への階段」?と思ってしまうんだよなあ。相変わらず、いろいろ読んで、いろいろ考えておられます。リンクも多謝。
・おーかわさんのところに「バカミスの世界」情報。もう出るところには、出てるのか。
・たかはし@梅ケ丘から、「黒い仏」の著者注釈(既読者限定)が、著者のサイトに載っていると教えてもらいました。知ってたよん。
・ネット古書店に注文して、外れた高原弘吉「アトリエ殺人事件」。裸本を同店から譲ってもらえることになった。うっうっ、只で本をくれる新刊本屋がありますか。25日の「んもうっ」は取消し、取消し。
『偽装』 相村英輔 (徳間ノベルス/00.7) ☆★
 帯に「密室とアリバイの核融合!時間と空間の壁を破り、思考と論理の限界を超える書下ろし長編新本格ミステリー」とあって、参考文献には、トポロジーやら論理学の本がずらりとくれば、所詮厚化粧と思っても、小さな胸をときめかすではないですか。しかし、そこで読者がみたものは・・・。モータープール経営者の妻が死体で発見され、現場はどうみても絞殺の状況だが、検死の結果、自殺と判明。妻には莫大な保険金がかけられており、不審に思った警察が経営者の身辺を洗ってみると、過去に保険をかけら従業員が怪しい事故死を遂げていることが浮かび上がってくる。決め手を欠いた捜査陣が手を拱いているうちに、妻の自殺事件に絡んだ関係者が密室で殺害される。しかし、経営者には、完璧なアリバイが・・。ここまでの展開は、悪くない。時刻表をそのまま引き写したような捜査陣のトライアル&エラーにつきあわされているうちに、仰天の真相が押し寄せる。なにが仰天かといって、密室もアリバイも、推理クイズ集にも載らないようなショぼいネタ。これが核融合なら、線香花火はビックバンだ。時代を三十年くらい遡ったような、捜査陣や素人推理メンバーの明朗ぶりはレトロな味 わいなので、次作は、明朗ミステリーを期待。
●密室系リスト追加
 相村英輔『偽装』(中村さん)、『不確定性原理殺人事件』、中町信『錯誤のブレーキ』


2001.1.26(金) バカミスの世界/『安達ケ原の鬼密室』
・霞流一氏から、お知らせをいただきましたので、勝手に告知。「このミス」のバカミスナーにも、予告があり、同氏も原稿を寄せている「バカミスの世界」(小山正とバカミステリーズ/美術出版社/1500円)が来週刊行されるそうです。早いところでは既に棚に置かれている本屋もあるとのこと。霞氏も、出来のよさに、ついつい本屋で二冊買ってしまったというお薦め作。気になる人は本屋へゴー。
『安達ケ原の鬼密室』 歌野晶午(講談社ノベルス/00.1) ☆☆★
 島田理論にもっとも忠実にミステリをつくりあげている著者らしい奇想の一編。現代の怪事件を核にして、別々に進行する戦時中の鬼密室事件、アメリカの現代切り裂き魔事件、知恵の一太郎風教育童話でくるみこんでいき、核になる謎が解けたところで、パタパタとその他の事件も解けていくところは、作中に登場する、釘一本抜けば瓦解する橋を連想させる。願わくは三層、四層目の事件にもう一工夫欲しかったところ。鬼密室事件で使われるのは、トリックは、ある海外作品で使われるトリックの拡大版ともいえるが、そのトリックが描き出す「絵」が強烈なのは、本作の最大の強みだろう。


2001.1.25(木) 『金閣寺に密室』
・マーヴ湊さんよりメール。昨日のWhat's newの中の都筑道夫の受賞候補作は、御指摘のとおり「西郷札」ではなく、「西郷星」でした。「西郷札」だと、松本清張になってしまいます。直しておきました。御教示感謝。
・あるネット古書店からの目録のメール。園生義人「ママさんの告白日記」(大和出版S.34初版・カバー傷汚れ)に 3,000円とか値段がついている。んもう。
・『金閣寺に密室』 鯨統一郎 ☆☆★
 将軍位を退いた後も権勢を誇った足利義満が金閣寺最上層の密室(ひそかむろ)で、謎の死を遂げた。賢才の誉れ高い一休のもとに、その死の謎を解くように依頼があったが・・。「邪馬台国はどこですか?」で謎解きセンスのよさをみせた著者の長編本格ミステリ。同時代の群像を各所に配しながら、密度のあるパズラーをこしらえている。作中、一休の有名なとんち話が幾つも語られ、なぜ今さらと思うが、それも作者のたくらみの一つである点はポイント高し。ただ、歴史ミステリという制約上、時代考証など生地の裏打ちの部分もしっかりしている必要があると思うのだが、作者の人物や風俗を扱う手つきはやや軽すぎるようにも思える。山椒太夫の足跡のない雪上での怪死の謎もあり。



2001.1.24(水) 賞と都筑道夫
・都筑道夫の『推理作家の出来るまで(下)』に、酒の入った小泉喜美子から電話がかかってきたというくだりがある。「週刊文春ベスト・テン」アンケート依頼につけられた資料に、都筑の作品も、小泉の作品も入っていない。若い作家でも、入っているのに、と小泉は、憤慨して、週刊文春に抗議したというのだ。「週刊文春」では、資料は時間がなかったので、いろんな集の受賞作家と受賞作品をリストアップしたものだという。「わたしも都筑さんも、乱歩賞や協会賞はもちろん、なんの賞もとっていないでしょう。だから、リストに入っていなかったのよ」そういって、小泉の不満は続き、その最後の電話を枕にして、著者は小泉喜美子を追悼するのだが。
・興味深く思えたのは、都筑道夫が乱歩賞はともかく、推理作家協会賞をとっていない、というところ。日本推理作家協会賞の文学賞検索で検索してみると、本当だ。その後もとれていない。第16回の「誘拐作戦」から始まって第43回の「西郷星」(短編および連作短編集部門)まで、評論賞を含めて候補になること実に10回。大本命だったと思われる評論部門「黄色い部屋はいかに改装されたか?」も、権田萬治の「日本探偵作家論」にさらわれてしまっている。『推理作家の出来るまで(下)』の年譜をみると、「幻影城」「オール読物」「小説CLUB」「江戸川乱歩賞」「サントリーミステリー大賞」「日本推理作家協会賞」などの審査員を歴任しながら、文学賞の受賞歴は、皆無のようだ。功労賞とも思われる「日本ミステリー文学大賞」でさえ、審査員を務めているにもかかわらず、自身は受賞していないという無冠の帝王ぶり。
市川さんのサイトに、本格ミステリ作家クラブが選ぶ第1回「本格ミステリ大賞」の候補作が決定したと、出ている。評論部門で、都筑道夫「推理作家の出来るまで」がノミネート。他の顔ぶれからいって、若干評論賞との趣旨は違うかもしれないがもう、これに決定でしょう。それなら、賞をつくった意味がある。しかし、それでは「推理作家協会賞」と同じになってしまうのか。
・日本版EQMM創刊当時、日本のミステリは海外に比べ四半世紀遅れていると発言し、昭和30年代後半、ふたつの読者層の融合に成功したにもかかわらず、最終回で「混合状態は長続きせずに、二十年かそこらで、創作読者と翻訳読者は、また分離した。海外ミステリとのひらきは大きくなっている」と書いた都筑道夫が、現代のミステリシーン、本格シーンをどうみているのか。聞いてみたい気がする。



2001.1.23(火) 山風再録作
黒白さん掲示板で、全10巻で山田風太郎ミステリ集成の企画が進んでいることが明らかになりました。やんややんや。
・松本楽志氏が復活した模様だが、サイトわかりません。
・掲示板の話題ながら
・おげまるさんが続々報告している風太郎の再録作の多さには、驚かされる。「小説の泉」なんていう雑誌は、再録専門だったか。中島河太郎編「戦後推理小説総目録第2集」で削除された作品(改題再録作)と併せ、仮にアップしてみる。「宝石」関係も、結構再録があったと思うが、これは、リストがあるので、後日追加予定。
・第2集削除組の中に「悲恋華陣 傑作倶楽部 32.2」があるので、この時点で元作品「十字架姫」が判明したのだろうか。「別冊新評」の中島リスト(作品目録)には、「悲恋華陣」は入っていないようだ。
・作成中に『天狗岬殺人事件』の解説(日下三蔵氏)で、「この罠に罪ありや」の初出が「ルックエンドヒヤー」24.3(「帰去来」リストでは、24.6)、「心中見物狂」の初出が「富士」25.6(「帰去来リスト」では、26.12)になっているのに気づく。リストを修正しなくては。



2001.1.22(月)
・土曜日、いわゆる3美女が、ウェブマスター抜きで「密室系オフ会」を開いたらしい。(<違う)伏せっておりましたわ。桑園のアイリッシュ・パプ行ってみたい。
・「ナボコフ短編全集1」(00.12/3800円/作品社)全35編のお徳用購入。いつか読むそのいつかとはいつなのか(マルシー風々子さん)。当たり前だが、この全集で、サンリオの「ナボコフの1ダース」は、全部入るらしい。
・掲示板におけるおげまるさんの怒濤のレポートと、日下さんからの情報提供により、風太郎作品リスト及びカウント・ダウンを更新。



2001.1.20(土) 『黒い仏』
・サイ君からひったくって『黒い仏』読了。いつもにもまして、感想文。
・『黒い仏』 講談社ノベルス(01.1) ☆☆★
 この一筋縄で行かない作者に関しては、何を書いても肯定派のつもりだったのだけど、これは、結末に近くなって、否定・肯定の間を揺れ動いた。結局は、肯定の側に落ち着くことになったのだが。否定側としては、「ああ、やっちまったか」というのが第一感。本格ミステリというのは、不自由なジャンルで、ある種の資質の作家には、その制約から逸脱したいという欲求を、常にもたらし続けるのではないかと思われるのだが、3作目にして早くも、その傾向を押さえきれなかったかという印象。
 肯定に転じたのは、本格ミステリの本質に迫る相当インパクトのあるアイデアを中核に据えている点だ。本格ミステリの関節外しは、もっともルーズな形でいくと、昨年の講談社ノベルスの何作かのような、つまらないものになってしまうが、本書の関節の外し形は、それに比べると、かなり高級。本格ミステリが生来的にもっている傾向を拡大し、推理によって世界を変貌させてしまう、世界創造者としての名探偵(逆にいえば、価値紊乱者としての名探偵)の機能を極限まで押し進め、一種の探偵論としても読めるものになっていると思う。
 まあ、情で否定し、頭で肯定するのは、正しい読み方ではないかもしれない。全編に伏線を張り巡らしている(らしい)ある設定も、これをやってみたかったというより、それすら、戯れの一種ではないかとも思われる。
 3作目にして、少数の愛好家に愛されるカルト作家の道を選択したのか、それとも本書は早すぎた番外編にすぎないのか。次作注目。



2001.1.19(金) 『バルーン・タウンの手品師』
・おお、黒白さん掲示板で、『笑う肉仮面』復刊情報。ついに、その日が来ますか。
・去年の国産密室本山くずし続行中。
『バルーン・タウンの手品師』 松尾由美 ☆☆★
 住人は、すべて妊婦というバルーン・タウンを舞台にした第2短編集。
「バルーン・タウンの手品師」 極秘事項の入ったディスクの消失。「ゴド待ち」ならぬ名探偵「暮林美央を待ちながら」とでも演出が心憎い。推理の応酬、真相も見事。
「バルーン・タウンの自動人形」 ペンキ塗りたての体育館で犯人の出入りが不可能な状況での殺人。妊婦の隠し芸大会、自動人形と謎の絡み合わせ方もグッド。
「オリエント急行十五時四十分の謎」 オリエント急行を模倣した占い小屋での人間消失。美央と女流作家、高飛車系、竜虎相打つ。読者を誤導した上で、予想を上回る解決が鮮やか。最も推す。
「垣原博士の異常な愛情」 バルーン・タウンの秘密とは。このネタは、予想されるものとはいえ、後味は悪し。暮林美央がアルジェに行けなかった理由も拍子抜け。
 キャラは立ち、ユーモアの味つけも十分だったのだが。甘露を飲んでたら、底の方によもぎ味が混じっていた感じで、★1つ減。 
●密室系リスト追加
 上記、上から3作を追加。(中村さんより)


2001.1.18(木) 『UNKNOWN』
・パラサイト・関更新。「スティームタイガーの死走」チョー興奮レヴューで、山田隆夫も、へとへと。
・レヴューの中で出てくるマッキンレー・カンター「ピアノ盗難事件」。読んでるはずなのに全然内容を覚えていない。HMM80年3月号「密室大特集」を引っ張り出して再読。なあるほど。
・ふと、思ったこと。「黒い仏」(Black Buddha)って、タイトルの元ネタは、スラデック「黒い霊気」(Black Aura)かな。
・北村薫『リセット』購入。
『UNKNOWN』 古処誠二(講談社ノベルス/00.4)☆☆★
 起こる事件は、侵入不可能の自衛隊基地の警戒監視隊隊長室に仕掛けられた盗聴器、という小味なもののみ。それでいて、なにげない会話やさりげない情景描写が結末に至って、周到な伏線だったと気づかせる腕は凡手ではない。謎が解かれることで、自衛隊という組織のUNKNOWNな領域が開かれるという結構もまた良し。文章や会話は、今ひとつのところがあるが、こちらの方も、将来は期待できそう。



2001.1.16(火) 『推理作家の出来るまで(上)』
・川口文庫から目録。あっ、欲しいのが。でも、目録全部注文しても、多分7桁いかないよ〜kashibaさん。
・黄金バットの敵役にナゾーという怪人がいて(四つある眼の色分けがどういう基準でされているのか子供心に不思議だったりした)、登場するときに、なぜか必ず「ローンブロゾォオー」という意味不明のうなり声をあげる。この「ローンブロゾォー」というのは、一体なに?とかねてから不思議に思っていたのだが、『推理作家の出来るまで(上)』都筑道夫(フリースタイル/00.12)を読んでいて、びっくり。著者がいうところによると、「犯罪人類学者の名を借用したものただろう」とある。そういや、ローンプロゾ−なる19世紀イタリアの人類学者がいました。うろ覚えだけど、骨格によって人間のタイプを区分して、犯罪者になる人間は、生来的なものであるという、今から思えば、ナチスのジェノサイドにもつながるようなトンデモの説を打ち立てた人ではなかったか。戦前の紙芝居でのナゾーも、やはりローンブロゾォ−と出てきたらしい。しかし、なぜローンブロゾが出てくるの。著者によれば、昔の妖怪は「ももんがあ」といって出てきた由。
・などという、トリビアルなところでも色々ためになった『推理作家の出来るまで(上)』。
たとえば、
●戦前に「墓場の鬼太郎」の原型で「墓場来太郎」という紙芝居があった
●サイレント時代のハリウッドでチャーリー・チャンを演じた上山草人は、戦前の日本映画でポパイを演じたことがある
●「妖奇」を編集していた本多喜久夫(輪堂寺耀)の素顔 
 などと数え上げていってみたいところである。
 上巻は、3歳半の記憶に始まり、映画や芝居、読書にあけくれた少年時代、戦時中の中島飛行場での徴用、敗戦を経て、カストリ雑誌編集者時代、読物雑誌作家時代、「魔界風雲録」の出版、翻訳家時代まで。いつも片隅でつまらなそうにしていた少年が同時代のエンターテイメントを吸収して、活字の戦国時代に乗り出すまでが半自伝的に描かれる。若いところには、さして面白くなかった東京の情景、気鋭の落語家だった兄との愛憎、二人の師匠(正岡容と大坪砂男)との交渉といった辺りも、実に面白く読める。しかし、ほぼ同時代ながら学生の映画鑑賞禁止に抗議する論文まで書かざるを得なかった田舎(風太郎)とは、まったくえらい違いだな。この東京のソフィストケートが、目の肥えた、何を書くかよりどう書くかに主眼を置く作家を生んだのか。
 後半、重複部分がやや目につき、単行本化に当たっては、若干著者の手を入れてもらいたかったところ。



2001.1.15(月) 『幻影城の殺人』
・『探偵春秋傑作選』(光文社)、井上雅彦編『魔術師』(角川ホラー文庫)購入。大きな本屋を三軒廻ったけど、『天狗岬殺人事件』は見あたらず。『魔術師』には、風太郎「忍者明智十兵衛』収録。相変わらずやってくれます。
・『幻影城の殺人』 篠田秀幸 (ハルキノベルス/00.10) BOMB!  
 怪作である。かつて『蝶たちの迷宮』で、期待感と読後感の激しい落差を味わっただけに、手に取るのもためらいがあったのだが、最近ハルキノベルスで復活を遂げ、分厚い密室物を連打している。となれば、読まずばなるまい。
 これが、またとんでもない話。岡山県幻影島にある日本初の映像テーマパーク「ハルキ・ワールド」で、大々的に繰り広げられるマーダーゲームにおいて、五重の密室殺人が発生。名探偵弥生原公彦は、限られた期限の中でその謎を解決できるのか。角川春樹自らが案内役を勤めるハルキ・ワールドのアトラクションがまず凄い。「野性の証明」体験ツアーに続いて「天と地と」と「戦国自衛隊」が体験できる「ザ・戦国」、「復活の日」体験ツアーの隣は、横溝正史ワールドで、「獄門島」「八つ墓村」「犬神家の一族」の世界を満喫。島と本土を往復するのはクルーザーは「野性号」で、お出迎えは、なんと薬師丸ひろ子。
 事件の方がさらに輪をかける。売れっ子の超感覚派(新本格派)の作家、大江春泥(京極夏彦)、鵜飼正彦(綾辻行人)、白河龍神(清涼院流水)らが参加するマーダーゲームで、大江が謎の失踪を遂げ、続いて密室で首切り死体で発見されるのは、帝都ノベルス(講談社ノベルス)の超有名編集者。後書きに一応のエクスキューズはあるが、どう読んでも( )内がモデルとしか読めない。登場の了承を事前に貰っているであろう実名小説ウロボロスシリーズより、ある意味過激な小説かもしれない。事件現場には、18年前に帝都社ノベルスから発刊され1作だけで終わった高木誠一(篠田秀幸)の『死霊たちの迷宮』(『蝶たちの迷宮』)が転がっていた・・。本編は、ゲーム本格を骨格をもちながら、角川春樹ヨイショと講談社ノベルスの編集者への私怨が同時進行するという、恐いほど個人的な小説である。かくして、筆誅は遂げられた、のか。
 肝心の内容の方は、あまりに贅肉がつきすぎ。ガラクタトリックと無理な推理を廃して、中核になるアイデアを生かせばひょっとして佳作になったかもしれないのだが。




2001.1.12(金) 狩々博士/『虹北恭助の冒険』
・パラサイト・関更新。
・首廻りの調子が悪くて、最近けん引に通っているのだが、あの「銀河忍法帖」に出てくる拷問具みたいので引っ張られるのが最近嫌いでなくなってきて・・。危険な兆候か。
・殊能将之『黒い仏』(講談社ノベルス)購入。う、薄い。パラパラと観たら、ジャンボ鶴田に関する言及があった。
・H林文庫から、荷物。ジェームズ・ハリス『禁断の実』(文京出版)、ルーファス・キング『青髭の妻』(ぷらっく選書)、狩々博士『ドグラ・マグラの夢』(三一書房)、伊藤秀男『大正の探偵小説』(三一書房)。『ドクラ・マグラの夢』は、何度かみかけたこともあるのだが、最近あまりみない。巻末に『ドグラ・マグラ』の英文シナプシスが載っていて、その監修が由良君美。「狩々博士」とは、東大英文系の人のペンネームだったのだろうか。
 『ドグラ・マグラ』という小説がロベルト・ヴィーネ監督『カリガリ博士』('19)を下敷きにしていることは明らかだと思うのだが、不思議にそのことに言及しているものを見ない。竹中労の『たまの本』(あのイカ天バンドの「たま」)に1行さりげなく書いてあったのを見たくらい。ペンネームで、そのことを示唆している「狩々博士」にはなんとなく興味をもっていたのである。
『虹北恭助の冒険』 はやみねかおる(講談社ノベルス/00.7) ☆☆
 名探偵は、小学校6年生。不登校児で古本屋の店番をしている不思議な少年恭介が同じ学校の野村響子と挑む5つの謎。「虹北みすてり商店街」ひとりでに増えていくお菓子の謎。「心霊写真」体育祭の写真に映った心霊写真の謎。「透明人間」深夜、アーケードをさまよう透明人間の謎。「祈願成就」願いを聞いてくれる不思議なビルディング。「卒業記念」タイムカプセルに秘められた謎。
 これは、ジュヴナイルなんでしょうか。帯に新本格ジュヴナイルとあるから、そうなんだろうな。となれば、何をいうのも野暮だし、良質な子供向け読物だとは思うんだけど、一応、「メフィスト」に連載され、ノベルスの外装をまとっている以上、一言あとがきに出てくる編集者と同じことをいいたくなってしまう。「そんな枝葉の部分じゃなく、本筋のトリックの部分で頑張ってくださいよぉ〜」



2001.1.11(木) 『駒場の七つの迷宮』
『齣場の七つの迷宮』 小森健太朗(光文社カッパノベルス/00.8) ☆☆
 新興宗教サークル「思索と超越研究会」に所属する東大生葛城は、天才的な勧誘活動を行う「勧誘女王」素亜羅に出逢う。やがて素亜羅も入会したサークルは、衆人環視の下の奇怪な殺人に直面する・・。本編の肝は、「見えない人」テーマに、新たなヴァリエーションを持ち込んだところだろう。一見、とんでもない発想に見えるけれど、チェスタートンの「見えない人」や天城一の「高天原の犯罪」、最近では、芦辺・小森「ブラウン神父の日本趣味」のように、この領域は、「視線の政治性」そのものがテーマになっているようなところがあり、その意味では、90年代の直系の嫡子といえなくもない。本筋の謎の方に適用が困難なトリックなのが残念。一見、80年代の漫研を舞台にしても成立しそうな話なのだが、それだと冒頭のエビグラフが生きてこないのか。ミステリの範疇を逸脱したような結末は、矢吹駆症候群?



2000.1.7(日) 『スティームタイガーの死走』
・ある日のバカ夫婦の会話
TVを観ていた夫「お、すごい。このCM」
妻「なに?」
夫「市内通話の値下げのCMなんだけど、値下げ9日前に使ってた曲が「ク、ク、クク〜、ク、ク、クク〜(「幸せの青い鳥」の節)」
妻「ふんふん」
夫「8日前がパッパッパパッパ〜(「他人の関係」の節)
妻「ふんふん」
夫「で、3日前の今日が、サンタ〜ル〜チ〜ア〜。凄いだろ」
妻「それ、それぞれの曲が9拍子、8拍子、3拍子ってこと?」
9拍子なんてあるかっ。
・松橋さんから、山風の未収短編「邪宗門頭巾」を送っていただきました。ありがとうこざいます。題名
から想像されるように、切支丹物。ヒーロー物のテイストもあり。登場人物に関するちょっとした趣向は、少年物でも使用されてました。
・次は、霞流一レヴューの第一人者パラサイト・関に向けて現在空輸中の本。前座ということでお許しを。
『スティームタイガーの死走』 霞流一(01.1/ケイブンシャノベルス) ☆☆☆
 著者後書きによれば、当初、映画『真昼の決闘』のひそみにならい、物語と読書時間の流れが一致するミステリという前代未聞のチャレンジを行ったがゆえに遅れてしまったというのだから恐ろしい。次は、決して『ロープ』に挑まれないことを祈念。
 戦時中に設計はされたものの幻に終わったC63型蒸気機関車が復元され、実際の中央線を走ることになった。しかし、記念すべき日、甲府駅で死体が発見され、さらに復元された「虎鉄号」は、列車ごと誘拐。犯人の要求は、中央線沿線3駅でキャンプファイヤーをやること及び荻窪駅周囲100メートルの範囲を挟んで「花いちもんめ」をやれ、というものだった・・。テンコ盛りの謎が次々と繰り出されるノンストップ本格を目指したというだけあって、雪上から消えた足跡、列車消失、列車内の密室殺人などなどが、張り巡らされたギャグの間から次々と登場。これらがすべて結末に向けて律儀に回収されていくのが実に快感。あまりに、謎の畳みかけが強烈なので、謎解きに至って、そういえばそんな謎もありましたっけというくらいドライブがかかっている。無論、「花いちもんめ」も含めすべて謎はロジカルに解明されるのだが、最後の二連打がまた絶句もの。「オクトパスキラー8号」を読んだ人なら「なぜそれが出る」というとんでもない「引用」というか「オマージュ」を覚えているだろうが、ここでも、思わずのけぞるような趣向が凝らしてあって、読者は天を仰ぐこと必定。天馬空を ゆくバカミスぶりである。ミステリファンならずとも、てっちゃん必読。小林文庫オーナーも必読。
●本日の密室系
森村誠一「腐った山脈」(TACさんより) 山小屋の密室プラスアリバイくずし。
●密室系作品リスト追加
上記及び小栗虫太郎「失楽園殺人事件」(上野さんより)、「オフェリヤ殺し」、小森健太朗『駒場の七つの迷宮』(中村さんより)、はやみねかおる「透明人間」追加。



2001.1.5(金) 『アルコォルノヰズ』
・昨日の記述について、「ぱらでぁす・かふぇ」の松本楽志さんが掲示板に登場し、事情を語ってくれました。
・そういえば、年末の買い出しから逃走してブックオフで、ちょっと嬉しい収穫。式貴士「天虫花」「なんでもあり」各100円。やっと、「面影抄」が読めた。
・ごく数人の方のためのビックリ情報。手稲の某総合病院で、某大推理研にいたことのある安田氏に再会。医者にはなってると思ってたけど、ごく近いところで、ERをしているとは。昨年、腎細胞癌の手術をしたということで、その場で手術の傷口を見せてもらいました。個人HPも、もっており、興味のある方は、札幌のギタリスト潤へどうぞ。写真満載の闘病日誌もあり。医者の闘病日誌というのは、珍しいのでは。おまけに、その場で自主制作版CD「好きでいてくれたよね」を貰ってしまう。名刺交換からURL交換の時代か。
 正月に主人公の友人のモデルについて岩井大兄と意見の一致をみたのが次の作品。
『アルコォルノヰズ』 飯野文彦 ('00.11/ハルキホラー文庫) ☆☆★
 小説を読む楽しみは、「○○は××のようだ」という表現を楽しむところにその本質がある、というようなことを書いていたのは、小林信彦だったか。チャンドラーやロス・マクの直喩の凝り具合は、ただごとではなかったけれど、この作品は、それを遥かに上回る。無慮、数百に及ぶ直喩が読者を襲うのだ。アルコール中毒に近い状態に陥っているフリーライターの前に20年ぶりに「ヤツ」の姿が現れる。ヤツの存在に怯える主人公の前に青葉と名乗る女性の理解者が現れ、世界は変容しはじめる・・。ストーリーの起伏は、ほとんどない。生活苦に苦しみながら、酒に溺れ、悔恨と自意識の狭間で葛藤するフリーライターのみた悪夢の世界。ろくでなしの詩を歌った日本的私小説の伝統に沿ったような私小説ホラーが直喩の洪水にまみれて展開する。150頁付近のケータイ女が出てくる辺りから、それまで押さえこんだような筆致は黒い笑いの方にも旋回し、滑走しはじめる。特に、家の中に出来たマンホールの穴に消えていく着メロのイメージは秀逸。リーダビリティなんかくそくらえといった姿勢がある意味清々しくもある見落とせない一編。
●本日の密室系
式貴士「面影抄」 雪の上に自殺したはずの死者の足跡が残り途中で消失。間羊太郎名義で同人誌に発表れた作品。話者交代による語りに意外性あり。(葉山さんより)
●密室系作品リスト追加
上記及び、霞流一『スティームタイガーの死走』、ミルワード・ケネディ『救いの死』追加


2001.1.4(木) 『魔の淵』
・五月雨的に始まってしまった当サイトでありますが、今世紀のどこかまで、よろしくおつきあい申し上げます。6万アクセスに達しました。
・パラサイト・関更新。
・年頭、色々あったような気もするが、この一点。『天狗岬殺人事件』を全然みかけない。旭屋では、時代小説コーナーに置かれていて、おげまるさんが買った後は、また時代小説コーナーに置かれていたというし。札幌の本屋、山風を置こう。
・仕事始め。夜に「金富士」で、某大推理研OB岩井大兄、高橋将、藤井あっちゃんと飲む。このメンツは久しぶり。高橋は、いつのまにか取締役になっている。腹一杯飲んで食って、四人で8100円とは、相変わらず泣けてくる。出際に、往時ほとんど話したこともないウッディ・アレン似の親父に「昔のメンバーが揃って良かったね」といわれ、嬉しかったり。
・相変わらずあっちゃんは、読んではブックオフ系に叩き売っているらしい。本格ミステリベスト20も、ほとんど読んでいて、「安達ケ原の鬼密室」「金閣寺に密室」「アリア系銀河鉄道」がいいといっておられました。
・年末に「ぱらでぁす・かふぇ」が終了?中村さんのHP更新停止に続く事件のミッシング・リンクは、実は「密室調査員」だった。やがて、第3、第4の・・と、そんなことはないっす。「空からアスピリン」で検索しても、「夜会」のサイトしか出てこないんですけど。
『魔の淵』 三橋一夫 (山田書店) 図書館 ☆☆
 「魔の淵」といっても、ヘイク・タルボットではない。今をときめく?明朗小説の書き手、三橋一夫の長編ミステリーだ。風間弁助は、元々、商家の一人娘春之と結婚して、妻の親の財産を継いだのだが、持ち前の商才もあって、店は弁助の代で繁盛。艶福家でもあった弁助は、事故で片足を失った春乃を町外れのみかん畑にある小さな家に追いやり、芸姑だった富子を本宅に引き入れる。悠々自適の晩年をおくる弁助だったが、小さな悩みはあった。春乃の子(実子)の純夫と富子の子(庶子)弁太郎のいずれを跡継ぎとするべきか。純夫は、おっとり屋の夢想家肌、弁太郎は勤勉努力家で弁助のコピー、互いに正反対の性格である。普通なら、弁太郎に軍配があがりそうなものだが、世間体を重んじる弁助は踏み切れない。そこへ、純夫の元乳母だったカタヤが殺害されるという事件が起きて・・・。殺人事件があり、犯人も半ばまで隠されているのだが、いかんせんミステリーとしての工夫は、ほとんどない。作者の狙いも、そこにはなかったというべきで、弁助やその妾富子、弁太郎という俗臭ふんぷんたる人間たちと対比して、宗教に親しむ春乃、純夫らのやさしい、清澄な心の唄を歌い上げるのに 努めている。俗臭が行き着く果ての最後のカタストロフはなかなか凄絶である。濁った側に一瞬引き込まれそうになった純夫の心の隙(魔の淵)を幻想的に描き出すところが作者の真骨頂か。純夫の婚約者となる、るり子の一家(父親は小説家)がなかなかいい。
(弁は旧字)



2001.1.3(水) 
・パラサイト・関から、今世紀第1信が来たので、アップ。
・大晦日くらいから、持病の首のヘルニアのせいで、首が動かん。首の回らない今年を象徴しているのか。新世紀本始めは、「四谷怪談は面白い」でした。


2001.1.1 (月・祝)
 明けましておめでとうこざいます。今年もよろしくお願いします。
 12/27 ミステリ・マガジン放出告知の件ですが、希望される方から、メールをいただきましたので、募集を打ち切りたいと思います。とりあえず、お知らせまで。



−【以下前世紀】−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

12月31日(日) アディオス
・長らく手をつけていなかった山田風太郎作品リスト及びカウントダウンを更新。
・年間回顧をやって、ベスト10をやってなどと思いつつ気を失っているうちに、紅白が始まってしまいました。うっひい。
 皆さま1年間ありがとうこざいました。来年も、よろしくお願いいたします。
 良いお年をお迎えください。(て、誰も見とらんよなあ)来年は、多分4日から開業。
 では、アディオス、20世紀。



12月28日(木) 『天狗岬殺人事件』/『火の接吻』
・仕事納め。私事でやや安堵することあり。
・あれれ、中村さんのHP無期限更新の停止の弁。本格ミステリを中心とした丁寧で、納得のいくレヴューと、日記を楽しみにしていたのに。仕事・私生活が落ち着いたら、復帰を望む。密室調査員第3号としても活躍していただきました、というか、また是非お知らせください。
・ついに、出たっ。『山田風太郎コレクション1 天狗岬殺人事件』。原稿枚数800枚、普通の単行本、2冊分。本屋で見かけたら、是非手にとってくださいませ〜。全体は、4つのパートに別れていて、
PART1 「天狗岬殺人事件」「この罠に罪ありや」「夢幻の恋人」「二つの密室」
PART2 「パンチュウ党事件」「こりゃ変羅」「江戸にいる私」「贋金づくり」
PART3 「三人の辻音楽師」「新宿殺人事件」「赤い蜘蛛」「怪奇玄々教」「輪舞荘の水死人」
PART4 「あいつの眼」「心中見物狂」「白い夜」「真夏の夜の夢」
堂々、すべて単行本未収録短編17編(現代物)の偉観であります。PART1は本格ミステリ、PART2は奇想小説、PART3は「女探偵捕物帳」シリーズ、PART4は、トリッキーなサスペンスとバラエティに富んでおります。カバーデザインは、京極夏彦 with Fisco。
 今まで単行本に収録されていない作品ばかりなので、質的には不安もないではなかったが、自分的には、とても面白い。幻想的ムードの本格「天狗岬殺人事件」、ホラー的展開をみせる「夢幻の恋人」、エラリー・ヴァンス!やヴァン・ドゥーゼン博士、フータロ探偵まで出てくるある意味究極の密室パロディ「二つの密室」、パンパンのへそばかり狙う盗賊団を扱ったナンセンス「パンチュウ党事件」、山風キャラ、マッド・サイエンティスト素広平太登場の登場歴史改変?SF「江戸にいる私」、シリーズの枠設定がブッとんでいて本格している女探偵捕物帳シリーズ、純文学誌に掲載されたトリッキーな本格でもある「白い夜」、意想外の展開が待ち受け、ある名作のトリックを先取りした「真夏の夜の夢」などは、特にいいと思う。(2編未読)こうしてみると、本当に作風の広さがわかる。
 奥付の発行日が「平成12年1月10日」になっているんですが、これは誤植か。
・戸川昌子というと、ワイドショーに出てくる姉御肌や官能サスペンスの書き手というイメージが先行して、恥ずかしながら長編は1冊も読んでいなかったのだが、この度読んだ「火の接吻」は堪能した。従来から、読みの玄人筋での評価は高く、小林文庫オーナーも収集に動いているようなので(笑)、『火の接吻』の再刊を契機に、「官能サスペンス」も含め少なくない作品群に新たなスポットが当たるかも知れない。ミステリファンのみならず、いずれフェミニズム方面からも、再評価される作家ではないかという気がする。
・『火の接吻』 戸川昌子(扶桑社文庫/00.12('84) ☆☆☆★
 洋画家宅から出火し、逃げ遅れた洋画家が焼死した。3人の幼稚園児の火遊びがその原因ではないかと思われたが、子供達は、「黒い蝙蝠が口から赤い火を吹いた」と証言。事件から26年が経過したとき、決まって5のつく日に現れる放火魔が跳梁し、3人は事件に絡んで意外な役回りで遭遇する・・。放火犯を追う消防士と刑事、愉快犯的犯行を繰り広げる放火魔。3人の役回りは、読み進むに
つれ明らかにされ、一見するところ事件に謎はない。ところが、結末に至って、明確に見えていた事件の輪郭は、反転に次ぐ反転を重ねる。まるで、箱の中からとめどなく真相という新たな箱が飛び出してくるようなマジック。吹き荒れるマニュピレータの嵐は、眩暈のするような感覚をもたらす。
 それにしても、いくつもの恋愛や親子の情が描かれているのにもかかわらず、本書の冷え冷えとした触感は、どうだ。すべての登場人物は、読者の感情移入を拒み、利用する/されるゲームのプレーヤーとして振る舞う。そこにある確固としたものは、血まみれの臍帯のつながりのみ。登場人物の荒涼とした精神風景は、一面、形式からの要請でもあるのだが、作者の資質の現れでもあると思われる。近年脚光を浴びているノワールの世界に近いところにいるのが、戸川昌子かもしれない。




12月27日(水) 告知など
・「かんかんのう」問題は、高橋@梅ケ丘の先輩の勘違いだった模様。すなわち、先輩は、『九連環の唄』のオリジナルが梅枝節などと勘違いしていたらしい。と、書いても、話の筋がわかっている人が
いるかどうか。
・掲示板のマーヴ湊さんの書込みで山風コレクションが遂に出たことを知る。その後、小林文庫ゲストブックで桜さんの目撃情報が続く。昼休みと夜に、リーブルなにわを覗くが見あたらず。しばらく、大通りの本屋通いが続くことになりそうだ。
・そのリーブルなにわで、都筑道夫『推理作家の出来るまで 上・下』(フリースタイル/各3,900円)捕獲。帯なしで完本です。高い本を買うと『夜明けの睡魔』で、瀬戸川猛資がレ・ファニュ『ワイルダーの手』(上・下)について書いていたことを思い出す。
 「バリバリの新刊を上下二冊、神田の三省堂で7000円支払って買ったのだ。毅然として臆することなく。」
 まあ、当時の7000円とは、物価は異なるけれど。
 『推理作家が出来るまで』は、昭和50年から63年まで13年の長きにわたってHMM連載。自分の年齢でいくと、15歳から28歳の年までに当たる。それが12年置いて、世紀末に本になるというのは何やら感慨深いものがある。連載開始時から、読んでいたはずなのだが、なかなかミステリの話が出てこないので、まどろっこしかった記憶がある。今読めば、戦前・戦後の貴重な東京史、文化史としても味わえるのだろうが。日下三蔵氏による完璧な年譜と書誌つき。
・浅暮三文『夜聖の少年』(徳間デュアル文庫)、HMM2月号購入。HMMの巻頭インタヴューは、倉知淳。写真が見物。
 ついでに、サイ君用にコーンウェル『尋問 上・下』購入。帯は、「スカーペッタに殺人容疑!」。
 この前出たサラ・パレツキー『ハード・タイム』の帯は、「V・I刑務所へ!」
 誘拐容疑の濡れ衣で捕まってしまうのである。シリーズがネタ切れになってくると、よくある手だよね。でも、刑務所まで行ってしまうのは、新手か。
・家に帰ってくると、霞流一『スティームタイガーの死走』が届いていた。著者自らの手で送っていただき、感謝感激。と、いうことで、御紹介。
 帯は、『機関車消失!よみがえった幻の蒸気機関車C63が走行中、線路上から突然消えた。驚愕のトリックに気鋭が挑む書下し!」あとがきによれば、テンコ盛りの謎が次々と繰り出され、一気読みしてしまうノンストップ本格を目指したとのこと。しかも、例のゲロの密室?!もあるようです。献辞は、大阪圭吉に捧げられているとあれば、これは必読。
 霞流一『スティームタイガーの死走』(ケイブンシャノベルス)800円+税
 買いましょう。
 関つぁんの分も戴いてしまったのですが、どうしませう。
・岩井大兄から、「一人破滅ホラー「アルコォルノヰズ」を読め!」というタイトルの全体的に意味不明なメールが届く。ちょっと、引用させていただく。
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凄い! これは買いだ! 青春の日々が甦る。加えて、何であの頃酒酒言ってたのか、その精神世界の全容がつまびらかになるぞ。一文ごとに搾り出すような比喩を入れるのは、何か小説を書くということを勘違いしてるのではないかと疑うほどかなり鬱っとおしいが、物語はアル中へと突っ走る主人公の酒飲み百芸を見てるようで実に楽しい。また、かつてアニメのノベライズで、生理の終わった宇宙パイロットのヒロインに「排卵、完了しました!」と、言わしめたお下劣ギャグも健在。
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 そら、伝説のワセミスOB飯野文彦氏の渾身の書下し(ハルキ・ホラー文庫)とあっては、即買い、即・読みだったんですが、途中落っこちてしまいました。これは、読み終えねばなるまいて。
●告知
・で、本題の告知であります。この友人の岩井大兄がミステリマガジン(HMM)のバックナンバーを持ちきれなくなって、引き取り手を探しております。 
●リストは次のとおり。
1983. 10                    計  1冊
1984.  3                    計  1冊
1985.  4、 8                 計  2冊
1986.  2〜12                計 11冊
1987.  2〜12                計 11冊
1988.  1〜12                計 12冊
1989.  1〜 9、11、12          計 11冊
1990.  1〜 6、 8〜12(8月号2冊)  計 12冊
1991.  1〜12(9月号2冊)        計 13冊
1992.  1〜12                計 12冊
1993.  1〜 4、 6、 7、 9〜12    計 10冊
1994.  1〜12                計 12冊
1995.  1〜12                計 12冊
1996.  1〜12                計 12冊
1997.  1〜 7、 9〜12          計 11冊
1998.  1                    計  1冊                        
合 計144冊です。
●一括引取りを希望
●本代は不要。送料は負担していただきたい。
 段ボール大小二箱ですが、宅急便屋に聞いたところ都内で合計3200円位だそうです。(札幌なら4500円位か)岩井氏の住居(東京の西葛西)の近郊の方は直接取りにいくのもOK。
●競合があった場合は先着順
 ということです。
 もし、ご希望の方がいれば、成田(s-narita@mxh.mesh.ne.jp)まで、メールください。岩井あて連絡します。無論、面識・電識ない方でも結構です。
 希望の方が出るまで、しばらく告知を続けます。