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2001.8.29(水) 『密室殺人コレクション』
・残業まだ進行中。どこまで続く泥濘ぞ。
・「ミステリ系更新されてますリンク」に新たに40サイト追加。1日半更新しないと、80を超えるサイトが上にいる。「回転木馬のデッドヒート」にようこそ。
 関さん、大分下の方ですぜ。
『密室殺人コレクション』 二階堂黎人・森英俊編(原書房/01.8) ☆☆☆★
○ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ「つなわたりの密室」
 怪傑作『赤い右手』の著者の150pの中編。『赤い右手』で見せた、常軌を逸したような作劇、暗い熱気とでもいうべき全体の雰囲気は本編でも健在。メインのアパートの一室からの「犯人消失」の状況の説明に約半分の筆が費やされるのだが、犯行時刻にこだわった執拗ともいえる状況提示の反復、救われない魂をもつ登場人物、時折顔を覗かせるホラーも真っ青の暗く凶々しい雰囲気は、情念本格若しくはノワール本格と呼びたいほどで、ミステリ史上独自の地位を占めるものだろう。被害者を時間を経て殺された二人とし、さらに密室の外にもう一つ監視の壁をつくるという密室状況の二重化によって、意外な解決のヴァリエーションを用意している。惜しむらくは、アンフェアぎりぎり、というよりアンフェアな描写があることで、この点にこだわれば多少点数が低くなるかもしれない。偶然の多用、意図的な時制の攪乱、ありあまる手掛かりの提示など「赤い右手」で使われた手法は、フロックではなくこの作家の特異な確信犯的手法だったことを了解させる作品である。
○マックス・アフォード「消失の密室」 
 オーストラリア作家。人間消失の伝説がある地下室から、二人の人間が立て続けに消失。あまり例のないようなトリックが用いられている。
ジョゼフ・カミングス「カスタネット、カナリア、それと殺人」 「黒魔術の殺人」「Xストリートの殺人」「不思議の国の少年」ほか、カミングスの短編はみな意想外の状況を提示する不可能犯罪物だ。本編は、衆人環視の映画撮影中の殺人を扱ったバナー上院議員物。軽快でテンポよく物語が進み、伏線も十分効かしたつくりは、本格短編のお手本のようだ。いつの日かカミングスの短編集が日本で出ることを望みたい。
○ロバート・アーサー「ガラスの橋」 
 雪の中の一軒家から消失した女。名作の所以は、冒頭の謎がシンプルで魅力的なことと、タイトルが示すトリックの象徴性にあり、か。
○アーサー・ポージス「インドダイヤの謎」 エラリー・クイーンのパロディ、セラリー・グリーン物。宝石泥棒の隠れ家から消えたダイヤモンド。随所にみせる皮肉が楽しい。邦訳だとこのネタはバレバレかも。
○サミュエル・ホプキンズ・アダムズ「飛んできた死」 
 1903年の作品ながら、浜辺の死体の周辺には、プテラノドン!の足跡しか残っていなかったという驚愕の冒頭。続いて殺された男の周囲にも、やはりプテラノドンの足跡のみ。歴史的発見だと驚喜する科学者が地球空洞説など語って、この話はどうなることかと思いきや、ラストはきっちり決めてくれる。3つの文書と1通の電報で組み立てられた構成といい、奇抜でファンジックな謎といい、ずばりツボ。



2001.8.27(月) 日米家建て話・その後
・山風追悼 
「追悼 山田風太郎  問題小説9月号」
○「追悼」 山田正紀
 「多分、山田風太郎にあっては、生きているのも死んでいるのも、さして違いはなかったろう。そうであれば、ぼくのために生きていて欲しかったと思う」
○「回想」 菊池秀行
 「山田風太郎先生、あなたのおかげて20年近く、なんとかやって来られました。」
○「追悼」 平岡正明
 「風太郎先生は七十九歳で亡くなった。ちょうどよい。」
・以前に、この辺で書いた日米家建て話関連について、『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』『北村薫の本格ミステリ・ライブラリー』に言及があったので、触れておく。(「この辺」は、ハイデンフェルト「〈引き立て役倶楽部〉の不快な事件〉」未読の方は、できれば読了後お読みください。)
 『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』にハイデンフェルト「〈引き立て役倶楽部〉の不快な事件〉」が収録されている。「あとがき代わりのミステリ対談」(有栖川有栖・北村薫)によれば、『大密室』のエッセイのミスフォローのために同作を入れた、ということらしい。ミスフォローというのは、小林信彦エッセイで、双葉十三郎が自分の思いつきだと喋ったとされる密室トリックが実在すると、小森健太郎氏に指摘されたことを指している。しかし、双葉氏がアドリブで喋ったのか、先に同作品を読んでいたのを忘れていたのか断定できない、と。で、
北村「あとで田中潤司先生に聞いてみましょう」ということになり、
話は、『北村薫の本格ミステリ・ライブラリー』収録の「田中潤司語る」に繋がる。
 くだんの件について訊きただした有栖川有栖に応えて曰く、

田中「双葉さんが当時のEQMMを読んでいる可能性はありますね」
北村・有栖川「おお!」

 とあって、読者の自分も「おお!」と内心叫んでしまった。結局は、どちらかわからないということになるのだが、以前訝しんだのがまんざら無根拠でもないとわかって溜飲が下がった感じだ。
 しかし、田中潤司氏、まだお元気な様子。というか、まだ68歳なのか。書評に著者からクレームがついて嫌気がさし、ミステリとは疎遠になったというが(日本ミステリー事典)、当時の回想など書いてくれるといいのだが。



2001.8.26(日) 帝国は終滅しない
・わーい。当サイトが、kashibaさん別宅オフで、「推理電網で一番濃い和物サイト」と認定されたぞ。すぐに、タキシードを用意しろ、サイ君。
・森さんから、二階堂黎人・森英俊共編『密室殺人コレクション』(原書房/2,400円+税)をいただいてしまう。ありがとうございます。『赤い右手』のJ・T・ロジャーズの150pの中編初め、大好きなジョゼフ・カミングスの短編など、まさに密室ファン随喜の内容。『最上階の殺人』『四人の申し分なき重罪人』と3冊並べて、どれから攻めるかと考える至福のとき。
・セイヤーズ『学寮祭の殺人』(創元推理文庫)も遂に出る。700p超。1320円+税。
・角川文庫『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』『北村薫の本格ミステリ・ライブラリー』。前者は、巽昌章の短編、スラデック「見えざる手によって」など、後者は、レナード・トンプスンのトリックが有名な短編や新井素子・吾妻ひでおほか「ライツヴィル殺人事件」、「ジェミニ−・クリケット事件」(米版)などファン心くすぐるラインナップ。一週間くらい休みが欲しいところ。
・「GQ」9月号で、「ミステリー万歳!」という30p超の特集。筒井康隆、中野翠らのお薦めが見所か。石原伸晃が「フロスト日和」、デヴィット・ハンドラーほかと並べて石原慎太郎「晩餐」が入っているのは、身びいきか。現代本格20選にジェニファー・ロウが入っています。 
・最近、2ちゃんねるのプロレス版をよく覗きにいくのたが、昨日は、異変が起こっていて、目が離せなくなってしまった。よくわからないのだが、転送量の関係で、このままの形態で2ちゃんねるが存続することは難しいという主宰者の宣言があったらしい。最初は、ネタとタカをくくっていた住民たちだったが、次々とリアルタイムで他の板が消えていく事態を目の当たりにして、大混乱。「最後にこれだけは言おう」スレッドや「伝説のコテハンを懐かしむ」スレッドが急遽立ち上がった。日ごろ荒れるのが常態の板に、「本当は、みんな好きだった」とか、「本当はプロレスが好きだった」とか、「ありがとう」の言葉が乱舞。難民達の行く末を案じる内容や、「またどこかで会おう」という書込み。地球最後の日もかくやとの内容になっていく。一時は、午前0時をもってすべて消えるという報が流れ、自分の書込みが最後になるのではないかという思いが切実に伝わる内容に。一方、掲示板テクノクラートたちは、難民対策を協議、UNIX版ではエンジニアたちが帝国の危機を救うため、転送量圧縮というプロジェクトXを発動、必死の作業が続く。UNIX板応援スレッドが立ち上がり、住民達 の声援がこだまする。結局、プロジェクトが成功したらしく、「あれ他の版が復活しはじめた」、という「シャム双生児」のラストのようなオチがついて、プロレス板は消えることなく、他の板も復旧したようなのだが、1日100万ヒットあるという巨大掲示板だけに、まるで、壮大な破滅SFを味わっているような気分だった。世界から言葉が消えていく(「残像に口紅を」)、帝国の崩壊と難民達(「日本沈没」)、科学者たちの必死の応戦、次々とつぶれていく板、右往左往する住民、すべてを司る主宰者(フェッセンデンの宇宙)・・。帝国は終滅しない、のか。



2001.8.24(金)
・相変わらず、残業モード
・朝山蜻一『真夜中に唄う島』、皆川博子『花の旅 夜の旅』(扶桑社文庫)いただく。出るとは聞いていたものの、特殊小説家・朝山蜻一が文庫になってしまった。これを快挙といわず、なんといおう。幻影城連載のみで今回が初単行本化になる「蜻斎志異」も併録。皆川博子の巻は、「聖女の島」を併録。どちらも美味しそう。
・山田風太郎追悼
○「オール読物」9月号
「追悼特集 さようなら、山田風太郎さん」
・エッセイ
 西義之「風太郎さんことども」
  「かくて風太郎さんは中世のほうに行ってしまい、司馬遼太郎さんが、昭和に材をとって小説を書かなかったように、私たちは、二作家の昭和物にはお目にかかれないことになった」
 中野翠「通俗にして低俗にあらず」
  「通俗にして低俗にあらず。稚気あふれるのに幼稚ではない。奔放にして品格あり・・。そこが貴重だと思った」
 森まゆみ「父に似た人」
  「森さんはあれですねえ、うちのの若い時に似てるな」
 中島らも「やさしい忍者、堕つ」
  「先生は苦いユーモアの持ち主である。それも上質のブラック・ユーモアであって、その奧にはテレと愛情が仄見えている」
新保博久「四分割風太郎論」
  「乱歩が太陽なん、さしずめ風太郎は月だろう」
追悼再録「邪宗門佛」(昭和24年オール読物初登場の記念碑的作品)
○「小説宝石」9月号
縄田一男「追悼 山田風太郎 棺より出でし・・」
 「もし、山田風太郎作品の版が完全に絶えるような時代が来るとすれば、その時は、日本そのものがほとんどどうにかなってしまっている時に違いない」
○「小説現代」9月号
橋本治「追悼 山田風太郎  不戦青年からむにゃむにゃ老人へ」     
 「風太郎先生のその後も、この辻馬車の行方と同じように、燐光にふちどられて、しかもまっしぐらだったのだと、私は信じているのである。爆裂弾と共に涅槃へ赴かれるのは、最高に素敵だ」
 
 橋本エッセイは、明治物までの風太郎作品の出版形態のしょぼさを語り、「幻燈辻馬車」以降の
変質を語り、晩年の「魅力的なおじいさん」像への異和を語る。青年時、熱狂して蒐め読んだ者が語りうる、ひと味もふた味も違う名エッセイ。



2001.8.22(水) 草創期のミステリ・コミュティ
・「幅広い人脈も含めた泰に関する研究はこれからである」と山前譲氏は、松本泰「清風荘事件」の講説で書いている。最近、長谷川海太郎関係の本を何冊か読んで、この松本泰人脈というのは、なかなか面白いという気がしている。乱歩や正史を中心としたグル−プとは、別な草創期のミステリ・コミュニティがあったのではないかという気すらしてくるのである。まず、その中心に松本泰を据えてみる。
●松本泰(1887-1939)
 東京生まれ。慶大文学部卒。在学中から「三田文学」などに執筆。13-16英国遊学。21「大阪毎日新聞」に『濃霧』を発表。23「秘密探偵雑誌」を発行。『探偵小説通』(30)なる海外ミステリ概説書まで出したマニアでもあった。
●松本恵子(1891-1976)
 旧姓伊藤。函館生まれ。青山学院英文科卒。父の友人の子女に英語と日本語を教えるためロンドン滞在中に松本泰と結婚。帰国後、夫の雑誌刊行を助け、翻訳に従事。戦後は、クリスティの翻訳で知られる。中野圭介名義の短編、本人名義の創作・随筆もある。
 松本夫妻は、大正10年、当時は東京の郊外だった東中野に、通称「谷戸の文化村」と呼ばれた文化住宅十数軒を建てた。そこの一角では、夫妻の文士仲間がテニスコートでテニスに興じたりしたという(「清風荘事件」講説)。
●伊藤一隆
 恵子の父。札幌農学校卒。数少ないクラーク博士の教え子であり、さけます増殖事業や石油事業に功績のあった人であったことは、前に触れた。「秘密探偵雑誌」に対する資金的援助をしたかもしれないという(探偵文芸傑作選山前譲解説)。アーサー・B・リーヴの翻訳がある。
●長谷川海太郎(1900-1935)
 一人三人。新潟出身。函館中学退学。18-24アメリカ放浪。帰国した24年の秋から、「谷戸の文化村」に弟のしゅん(『彼等の昭和』ではりん二郎となっている)と住む。25年1月谷譲次名義で「新青年」に「めりけんじゃっぷ」物を発表。25年3月「探偵文芸」には、林不忘名義で「釘抜藤吉捕物覚書」を書く。
 帰国後、海太郎は、松本泰のところに現れて後に「時事新報」で連載された「女ところどころ」の原型の原稿を見せたことから、「探偵文芸」を手伝うようになったという。(『踊る地平線』)
●長谷川和子
 海太郎夫人。旧姓香取。25年8月「少し神経衰弱気味」になった海太郎は、松本夫妻の進めで、七沢温泉に行く。同行するはずだった松本夫妻は、時間がとれずに行けず、松本恵子の青山女学院時代の同窓生であった和子が、松本夫妻からの招待状をもって出かけていき、二人は恋に落ちる。和子は当時29歳、松本泰の主宰する「英語研究会」に出入りし、翻訳家志望だったという。(『踊る地平線』)
 (この項続く) 



2001.8.20(月)  『彼等の昭和』
・残業モードに入っているうちに、いつの間にか、大通りのビール園は終わっている。今年の札幌の夏は、1日も真夏日を迎えないで、終わるのか。
・「図書新聞」(8月18日付け)に風太郎訃報。次号に平岡正明の追悼が載るらしい。
・チェスタトン『四人の申し分なき重罪人』(国書刊行会)購入。巽昌章解説というのも嬉しい。
『彼等の昭和』 川崎賢子('94.12/未来社) 
 めりけんじゃっぷ・長谷川海太郎を頭とする四兄弟の伝記的事実をキーに昭和という時代を見据えようする長編評論。まず、彼等の父がいる。
●長谷川椒夫
 佐渡出身。自由民権運動にかぶれた後、函館に転居。投獄経験もある明治・大正・昭和を生きた硬骨のジャーナリスト。佐渡ケ島時代の教え子に北一輝がおり、、「踊る地平線」によれば、北一輝研究の副産物として椒夫の若き時代の著述も明らかになっていったらしい。
●長谷川海太郎
 長男。函館出身。アメリカ放浪の後、一人三人、わずか10年あまりの作家生活で「一人三人全集」16巻を残した文壇のモンスター。海太郎とつの妻は、フィッツジェラルドとゼルダのカップルのようにスキャンダラスな浪費ぶりだったという。父は、海太郎が生まれたときも、早逝したときも歌を詠んだ。
●長谷川りん二郎(「りん」はさんずいに「隣」のつくり)
 次男。渡仏後、二科展に入選。地味井平造の筆名で、「新青年」に幾つかの忘れ難い短編を残す。地味井(ジミー)は、兄の付けた愛称から。戦後は窮乏生活の中、絵の制作に没頭。
●長谷川しゅん(「しゅん」の字は一言で説明が難しい)
 三男。満州国外交部を経て満州映画協会に勤務。満映理事長だった甘粕大尉に重用されたという。満州文壇で活躍した一人であり、翻訳に「偉大なる王」がある。
●長谷川四郎 
 四男。5年に及ぶシベリア抑留の後、『シベリア物語』などで作家としての地位を築く。アジア・アフリカ作家会議などの運動にも携わる。
 かなり恣意的な紹介だが、越境の欲望に憑かれたような兄弟たちである。著者は、随所で鋭い切り口を見せるが、昭和の多様な側面を照らし出すような四者四様の伝記の面白さの前では、その舌鋒の鋭さもややかすみがち。作家としては大成せず、帰国後、船員生活の傍ら膨大な量の作品を同人誌に発表し続けた長谷川しゅんの生が特に印象深い。



20018.16(木) 『文珠の罠』
・昨日は、道立図書館オフが無事挙行されたようで何よりでした。直前のおげまるさんの書込みで一人緊迫してました。次回の機会があれば、またお誘いください。本日も残業、いつ、休めるのじゃ。
・たかはし@梅ケ丘から、昨年のスラップハッピーの日本公演のライブ盤ほかが届く。こんなの出たんだ。嬉しい驚き。
・ようっぴさんの影響で、この前借りてきた、鷲尾三郎。密室物一編見つけ。
・『文殊の罠』 鷲尾三郎('57.11/春陽堂文庫) ☆☆★
「文殊の罠」 超有名な大胆アリバイトリックを用いた謎解き編。南郷探偵物。
「鬼胎」 奔放な女優に翻弄された産婦人科医の復讐とは。タイトルほどは凄くない。
「極印」 密室で殺された双子の姉の女優。伏線が素直すぎて途中で勘づいてしまうが、コンビネーションによるかなり意外な密室トリックを使っている佳品。
「生きている屍」 探偵作家の元に寄せられた二人の女の手紙。後半の手紙が謎解き編になっている。「殺人」ならぬ「生人」という何やら奇妙な犯罪を描いているのが、なんとも風変わりでもあり、外しているようでもあり。
 古めかしい手記形式が2編あるが、この形式は探偵小説との相性はなかなかよろしい。



2001.8.14(火) 『踊る地平線』
・ようっぴさんから、またも渋いところの密告。「宝石」昭和36年10月号に掲載の飛鳥高の「細すぎた脚」。工事現場の事務所で起こった、密室殺人事件が扱われているとのこと。「推理作家が密室を作ることには必然性がありますが、殺人を犯すような人間が密室をわざわざ作って殺すなどということは、現実にはないことでしょう。密室は、あくまでも作品の上において行われることだからです。ただ、犯人の知らぬ間に密室殺人になっていたということはなきにしもあらずということです。」という作者の言葉も教えてもらいのました。ちなみにこの号は、密室特集が組まれているそうです。ようっぴさんは、17歳らしいんですが、渋いところ読んでますねえ。
・『踊る地平線』 室謙二 ('85.1/晶文社)
 函館出身、米国放浪を経て戦前の文壇に彗星の如く出現した海太郎は、谷譲次名義で「めりけんじゃっぷ」物、林不忘名義で「丹下左膳」、牧逸馬名義で犯罪実話やハイソな家庭小説を相次いで発表し、一人三人、文壇のモンスターと呼ばれた長谷川海太郎の評伝。その残した作品からいっても、極めて多面的な作家だと思えるが、著者の興味の大半は、1920代のアメリカを放浪し、アメリカのはぐれ日本人たちの群像を「ジャズのような」といわれたモダニズム文体で書いた谷譲治に集中する。独自のアメリカ文化が開花した狂乱の20年代は、また、旧大陸から移民たちが押し寄せ、猥雑で活気のある空間が形成された時代でもあった。その中にあって、本作で抽出される「めりけんじゃっぷ」たちのたくましく陽気で、根無し草の悲哀も併せもった個性は、興味をひきつけずにはおかない。
著者は、海太郎のアメリカでの足取りを追うが(オペリン大学に入学して、すぐ退学するのは実は英語がよく理解できなかったためという衝撃の事実?も明らかにされたりもする)、日本人コミュニティでもWASP社会でもない新米国民の間を漂う海太郎の放浪は、明治以来の海外体験作家の経験の質とまったく異なるものだったと思われる。その体験の質と帰国後の作品の関連を追い、著者が描き出したアナーキーで理想主義的な顔をもつ海太郎像は、説得力があるのだが、やや、あらかじめ定められた枠に当てはめようといすぎるきらいがないでもない。今では省みられることもない家庭小説でベストセラー作家になった海太郎は、帝国ホテルから引き抜いたコックとお抱えの運転手、何人もの女中が住み込む豪邸で、過労ゆえか、35歳で早逝する。早足で駆け抜けた生涯は、この作家をもっと知りたいという気を起こさせる。



2001.8.12(日) 「ふしぎな異邦人」
・道立図書館へ行く。JRの車窓から見える夏空がいつか見た青空のように懐かしい。2階に上がると、例によっておげまるさんが、古い「女学生の友」などをめくっている。声をかけると、コピーを差し出す。おげまるさんは、またやった。
・そのコピーは、多分、新発見の山田風太郎短編「ふしぎな異邦人」(平凡別冊11号/昭和32年11月号収録)。角書きは「横浜の慕情」。「大都会小説」とある。「ヨコハマ・横浜」と題する短い作者自身のエッセイが付いているから、この号初出の短編だろう。詳細は、夏休み中おげまるレポートに期待。
・何冊か貸し出しを受け、おげまるさんと札幌に戻る。旭屋で、バークリー『最上館の殺人』(新樹社/2000円)ゲット。なんだか、ひっそりとでた感じ。装幀もいたってシンプル。合わせて「本の雑誌」9月号購入。既に立ち読んではいたのだが、古本病初期患者には、捨て身技ともいえるkashibaエッセイ必読です。(家に帰ったらサイ君が即引っ張り出してあちこち声を挙げて受けまくっていた)
・小林文庫ゲストブックで得た情報をもとに、石川書店へ。お、確かにサンリオSF文庫が増えている。「深き森は悪魔のにおい」4,200円。うーむ。「女の千年王国」1,200円の1冊のみ購入。おげまるさんは、ダブリの「コンビューター・コネクション」1,000円購入。
・その後、休みに入った人が多いせいか、空いている居酒屋で、延々と風太郎話など。
・こしぬまさんから、毎日新聞読書欄ので中野翠が山田風太郎の3冊を選んでいる旨教えてもらいました。ありがとうこざいました。そのうち、まとめなければ。



2001.8.8(水) 
・しばらく予兆は続いていたのだけど結局、昨年のリベンジの仕事が降ってきて、しばらく忙しくなりそう。夏休みは何処。更新も腑抜けたものになりそう。まあ、いつものことですが。
・彷書月刊の植草甚一特集。植草甚一を1930年代モボの残党ととらえた坂崎重盛のエッセイが面白かった。古書店主のエッセイで植草の戦中の書簡が紹介されているのだが、確信犯的に戦争の影がない。本の話ばかり。8月の手紙で今年になってから200冊読んだとある。やはり凄い人である。植草甚一といえば、札幌の成美堂という1階が新刊、2階が古本という形態の店があって、なぜかそこの2階の一角には、植草甚一の写真やら蔵書が飾られていた。いつのまにか、新刊がなくなって1階で古本を扱い、なんとなく荒れ果てた感じで、数年前閉店してしまった。あれはなんだったんだろう。

2001.8.7(火) 神津恭介少年物決定版
・掲示板でもおなじみ、文雅さんから
   神津シリーズ少年ものガイドブック A5版36P
   成吉思汗復刻脚本総集編 A5版60P
の2冊を頂戴する。ガイドブックは、「初心者版」と銘打っているものの、神津恭介シリーズの長中短編33編プラス推理クイズまで捕捉した決定版。間違いなく、日本で最も詳細な神津恭介少年もの研究でしょう。かみつ、こうず問題についても、「骸骨島」では、かみず、こうず、かみつなど毎回違うルビ
が打っててある、などとあって面白い。図書館名など所蔵場所がそれぞれ付記されているのも、便利でしょう。迫力なのは、巻末の少年物蒐集のドキュメントで、おげまるさんの少年物リストに衝撃を受けるというところから、おげまるさん、道立図書館が頻繁に出てくる。「どんなに感謝しても感謝しきれない方」としておげまるさんに謝辞もあり。一部預かっているので、早く渡さなくては。私は、なにもしていないのに、貴重なものいただきすみません。成吉思汗復刻脚本総集編は、NHKFMドラマをテープ起こし!したもの。ファンというのは、ここまでやりますか。夏コミに出るとのこと。
・その後の山風追悼記事を書いておく。
○朝日天声人語
○毎日新聞(川村湊) 逆説的な「人生の師」 小説家・山田風太郎氏を送る
 「文壇とも、文学賞などともほとんど無縁だった風太郎氏は、その徹底したフータロー(何者にもなろうとしない、無用の人」ぶりで、逆説的に多くの人々(愛読者)の「人生の師」であったのである。
○日経新聞8/5(種村季広) 生死まるごとの喜劇 山田風太郎氏を悼む 
  「人生を全部余録、余生と見て、死までの一切を、とりわけ死を滑稽事として演じること。山田風太郎はみごとにやり遂げた。われわれは今からでも遅くない。」
○北海道新聞8/7夕(中島誠) 山田風太郎さんを悼む 生と死の多様性示す
 「対極にあるといわれる司馬遼太郎と山田風太郎、ふたりの太郎は、ともに世を去った。改めてその巨大さを知る。」


2001.8.6(月)
・こしぬまさんから掲示板で教えていただいた日経と毎日の山風追悼、宮澤さんのサイトで知った朝日天声人語、図書館にてコピー。
・サイ君が葉書をもって駆け込んできた。「なにこれー。花嫁とお父さんの写真」と、いったかどうか知らないが、手にしているのは、kashibaさんのご結婚のときのツーショットをプリントした暑中見舞い。私にまでお裾分けありがとうございます。噂に違わず、若き美人の奥さまですな。これぞ人生の勝利者です。改めておめでとうございます。
・ようっぴさんから密告連弾。おいしいところがサクサク。
○島久平の「自殺の歌」と(「別冊宝石」誌の昭和27年7月刊) 伝法探偵登場の密室物
○島久平「犯罪の握手」(「別冊宝石20号」昭和27年6月刊)です。 ある意味密室へのレクイエムとえるようなトリックが使われているとのこと。
○鷲尾三郎の「月蝕に消ゆ」(「宝石」昭和32年9月号) 人間消失物。非常に鷲尾氏らしいある要素(「悪魔の函」等に代表されるあの要素)があるとのこと。ありがとうこざいました。


2001.8.2(木)
・掲示板でpowderさんが書き込んでおられる、山風、天国で麻雀の図いいなあ。色川武大は、相変わらず眠りこけてるのをみんなで起こしながら「ほい、色さん」とかやっているの。
・本屋を何軒か廻るが山風コーナーを設けているところはなかった。
・彷書月刊8月号は、植草甚一の特集。まだ読んでないけれど、末永さんは、昭和出版街第2回で、春陽文庫の伝記小説に導かれ、シャープペンシルとモダニズム出版社の意外な関係を探っている。南陀楼綾繁というヘンな名前の人のネットコラムでは、本の購入日記でよく覗くところとして「猟奇の鉄人」「書物の帝国」「ガラクタ風雲」等を挙げている。他人様の買いっぷりに癒されるということはあるよなあ。
・小説推理9月号では、「喜国雅彦を古本世界に引き込んだ悪い人たち」のタイトルで古本座談会。日下三蔵さん、よしだまさしさん、彩古さん、石井女王さんと、MYSCONの後、喫茶店に行った人たちじゃん。やはり、恐ろしいメンツだったのか。写真・紹介入りなので、石井女王さま女子高生説が実証された模様。


2001.8.1(水) 風太郎死す
・昨日から今日にかけて、更新をしていないにもかかわらず、400以上のアクセスがありました。山田風太郎氏の逝去を惜しむ気持ちを共有したいという方々の訪問かと思います。メールで山風の死を教えて戴いた方、掲示板に書き込んで戴いた方にも感謝します。
・昨日昼すぎには、山風ファンであることを知っている職場の人からメールをもらい、その死を知った。その年齢ゆえ、いつかこの日が来るとは思っていたが、死に至る病を抱えているわけではないと思っていたため、やはりその日は突然に思えた。半ば茫然しながら仕事を終え、昨夜は、「戦中派虫けら日記」等を拾い読みしていた。
 「世の中のだれが死んでも何の痛痒も感じないし、当方が死んでも世の中のだれにも痛痒はない。これはいったい生きていることことなのだろうか、とニガ笑いする」というエッセイの言葉に、そうではないですよ先生といってみたい気がするし、「人間臨終図鑑」の著者であってみれば、関のように最後のセリフは「死んだ」だったのかと聞くのが正しい追悼の仕方のような気もする。無論、どうやっても本人には届かない言葉ではあるけれど。
・7月28日は奇しくも、36年前乱歩の亡くなった日でもある。乱歩の遺体が落合火葬場で荼毘に付された後のことを風太郎は、こう書いている。
 「やがて、安置場で壺に入れたが、大きな頭蓋骨は入り切らず、口から盛り上がっている。隠亡が遠慮会釈もなくふたで押さえると、あの数々の妖麗な幻想をえがいた偉大な頭蓋骨は、ガシャリとつぶれて収まってしまった。
 「乱歩先生、永遠にさようなら」と、僕はつぶやいた。」(追想三景)
・31日の夕刊各紙によれば、 作家山田風太郎(やまだ・ふうたろう、本名・山田誠也=やまだ・せいや)氏は、28日午後5時30分、肺炎のため東京都多摩市の病院で死去した。享年79歳。密葬は31日午前、近親者のみで済ませた。喪主は妻は啓子(けいこ)さん。(喪主は立てないとしているものもあり)葬儀・告別式は行わない。後日、しのぶ会を予定しているが日取りは未定。 晩年は糖尿病や白内障、パーキンソン病などを患っていた。
・各紙夕刊見出し(朝日を除き社会面・日経は1日朝刊)
○朝日1面  忍法帖シリーズ・戦中派不戦日記/山田風太郎氏死去  
同 社会面 生死も虚実も達観/「忍法帖」「物語の魔術師」発揮/文壇と無縁、悠々の晩年 (評伝 編集委員・由里幸子) 談話・文芸評論家 野口武彦
○毎日 「柳生十兵衛死す」「忍法帖シリーズ」/山田風太郎さん死去談話 文芸評論家 川村湊
○讀売 忍法帖シリーズ、魔界転生/山田風太郎さん死去 談話・文芸評論家 縄田一男
○日経 忍法帖シリーズや「魔界転生」/山田風太郎さん死去
○北海道新聞 忍法帖シリーズ、戦中派不戦日記/山田風太郎氏が死去 コメントの中では、野口武彦の「司馬遼太郎のアポロ的世界を包み込むようなデュオニソス的を開拓していた」というのが眼を惹いた。ネガ・ポジではなく包み込むような。
・1日付け夕刊(文化面)
○朝日新聞(関川夏夫) 天才老人の水のごとき笑い/作家山田風太郎氏を悼む
○讀売新聞(松山 巌) 山田風太郎さんを悼む/星々輝かした巨大な闇
 「ミステリー大賞の受賞式の途中、何度か入れ歯がはずれかけ、そのたびに奥さんが直した」という。
・東京から札幌に職場が変わった3年前の春、引っ越しまではまだ1日あるというエアボケットのような日、何を考えたのか、風太郎の住む街、聖蹟桜ケ丘まで出かけたことがある。電話帳で住所を調べ、ほどほどにおしゃれな、ほどほどに凡庸な駅周辺のショッピング街を抜けていく。商店街の客寄せ企画か、素人バンドの演奏するビートルズの「nowhere man」が流れている。少し中心部をはずれると街は急に時代を遡ったような表情を見せ始めた。小高い丘に続く桜並木は、花が満開だった。この坂を登っていくと、風太郎の家があるのだなと思った。しばらくその場に佇み、引き返した。街では素人バンドが、何回目かの「nowhere man」を繰り返していた。
・山田風太郎氏のご冥福を心からお祈りします。



2001.7.30(月) ジャンピング・ジェニイ
・全然暑くもないのに、夏バテなのか、すっかり間が空いてしまいました。・少年物の関連で奧木幹夫さんの「All.About.渡辺啓助」からリンクしていただきました。知っている人は、皆知っていると思いますが、渡辺啓助関係では空前のサイト。貴重な書影等が見られる別館の「大衆文学・探偵小説資料」も必見です。
・『ジャンピング・ジェニイ』 アントニー・バークリー(01.7('33) ☆☆☆★
 バークリー名義では『地下室の殺人』('32)と『試行錯誤』('37)の間に、『Panic Party』('34)とともに挟まっている作品。『殺意』('31)、『レディに捧げる殺人物語』('32)の二大傑作で犯罪心理の探究を試みた後の作品ということでも、興味を引く。
 小説家の屋敷で開かれた著名な「殺人者と犠牲者」に扮する仮装パーティの席上、周囲から疎まれていた作家の弟の妻が余興として建てられていた絞首台で首吊り死体となって発見された。女は一見自殺に間違いのないように思われたが、ある現場の状況に目をとめたロジャ−・シェリンガムは、持ち前の詮索癖から事件に関わっていくことになる。
 バークリーに捧げられたミルワード・ケネディ『救いの死』('31)は、一種の名探偵批評になっていたが、その扱いのストレートさに比べ、バークリーがここで披露する名探偵像は、さすがにひねくれていて、手が込んでいる。ロジャー・シェリンガムは、本作では、「失敗する名探偵」を超えて、善意から証拠を捏造し、偽証を強い、事件を錯綜させ、事実が指し示す真相とは別の真相の体系をこしらえようとする価値紊乱者、トリックスターとして機能する。図らずも、普通の名探偵とは、まったく逆の、反デウス・エクス・マキナともいえる存在になっているのである。証拠の捏造が、意図せざる別の「真相」を開示し、ドミノ倒し的に別の「犯人」が告発されていく中盤の展開は圧巻である。しかも、現場に置かれた椅子というごく単純な手掛かりから、幾つもの混乱と真相を紡いでいくところはパークリーの面目躍如といえる。それに比べ、推理とは無縁のところから生じる皮肉な結末はやや物足りないが、ここでロジャーの存在が反探偵的な存在であるとすれば、それもまたやむを得ないか。
 殺されるに価する人間を殺害しても許されるか、名探偵による事件の操作と「真相」の捏造といった本書のテーマは、「試行錯誤」において大きく花開くことになる。本書もまた、バークリーがその作品群で突き詰めていった本格の可能性を示すものとしてして味読に価する作品だ。英国黄金時代の最重要作家として全作翻訳して欲しい作家である。