■本の評価は、☆☆☆☆☆満点
☆☆が水準作
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10月31日(木)
・HMM12月号。エド・マクベイン特集。現代ミステリの流れから疎くなると、あんまり楽しめる記事がない。短編をパラエティに富ませて、もう少し増量してもらいたいところだけど。関口苑生氏が少女探偵ナンシー・ドルーをまったく知らなかったと書いてて、ちょっとびっくり。
【折々の密室/11月1日】
・灯台記念日 日本最初の洋式灯台が1868年に東京湾の観音崎に着工されたのを記念して海上保安庁が制定。
#033 大阪圭吉「燈台鬼」 『銀座幽霊』
最近、不審な灯りにより船の難破を誘発させているという噂が立つ汐巻燈台。その夜、この燈台の三十メートルの高さにあるランプ室の窓から突如大石が飛び込んできて、現場をこなごなに破壊し、看手を死亡をさせるという怪事が発生。現場にはグニャグニャした赤いものが蠢いていたという。怪奇小説としか思えないシチュエーションが合理的に解き明かされ、一切の落胆をもたらさず感動に変える。名作とはこういうものだ。
10月30日(水)
【折々の密室/10月31日】
・ハロウィーン
もともとは11月1日に行われる万聖節の前日。アイルランドの古代ケルト暦では、おおみそかに当たるという。
#032 ディクスン・カー『血に飢えた悪鬼』
事件は、万聖節の前日すなわちハロウィーンに起こる。1869年のロンドンを舞台にした作中では、「この国には、その風習はないが、スコットランドでは古い時代からの祝祭だし、アメリカへ行くと、とても盛大な年中行事だ」と説明される。英国では、現在も、ハロウィーンというのは、マイナーなのだろうか。作中ではとりたてて、それらしき彩りもない。事件は、被害者しかいないはずの温室での殺害未遂だが、もっと大きな謎は、登場人物にふりかかる、自らの妻が本当の妻ではないのではないかという疑惑の方にあって、この辺『火刑法廷』や『疑惑の影』を彷彿させる。登場人物の心理が納得しがたかったり、筋立てが廻りくどかったり、筆の衰えは隠せないものの、偏愛したガス燈の時代を舞台にウィルキー・コリンズを探偵役に仕立て、密室事件を扱うというこの作家らしい主題で筋を通した巨匠の遺作。
10月29日(火)
・やっと正常化。
【折々の密室/10月27日】
・東京中央放送局、初めて電波を海外に送る(1930)
#029 「放送された肉体」 グレンヴィル・ロビンズ 『これが密室だ!』
科学者が自らの肉体を無線によって別の研究所に「放送」する旨、宣言。博士が放送を予告した時間に部屋に飛び込むと、中はもぬけの殻で粉々になった放送機械が散らばっている。「2、3年前まで不可能と思われていた」時代ならではの空想科学テイスト溢れる異色密室。
【折々の密室/10月28日】
・日本初のプロレス試合、力道山対ブランズ(1951)
プロレス×密室を思い出したので。日本初のプロレス試合は、朝鮮戦争在日国連軍慰問プロレス大会として行われたという。10分1本のエキシビションマッチで、結果は引き分け。力道山は、この試合まで2週間足らずしかプロレスの練習をしてなかったらしい。
#030 佐々木幸哉「狼どもの密室」 『本格推理3』
プロボクサーが殺害され、容疑は、異種格闘技戦を行う予定だった真日本プロレスのレスラーにふりかかる。現場は、ジムの片隅にある減量のためのサウナ風呂の密室。トリックは、某海外長編によく似ている。この主人公のレスラー、元国語教師で裏投げが得意。馳浩をモデルにしているらしい。
【折々の密室/10月29日】
・アメリカ大リーグ選抜野球チーム来日(1931)
#031 ジョン・L・ブリーン「魔の背番号12」 『密室大集合』
災厄続きの魔の背番号をあえて選んだ大リーガーが試合中、地下通路から忽然と消失。やがてシャワールームで死体となって発見される。審判探偵エド・ゴーゴンの推理はいかに。
【折々の密室/10月30日】
・第43回東京名物神田古本まつり開催(2002)
11月4日(月)まで
#032 G.K.チェスタトン「古書の呪い」 『ブラウン神父の醜聞』
西アフリカのニアニアというところで、革で装幀した古書を覗き込んだ者が船から消失。微風一つない凪の日に船べりの外へ歩み出したが、水しぶきが少しも立たなかったという状況が凄い。続いて呪いの古書を開いた人間が4人が次々と不可解な状況で消失を遂げる。冒頭で「消失」と「出現」をめぐる興味深いやりとりがあるが、「消失」したのでなく「出現」したのだというブラウン神父の逆説が、登場人物の性格に絡めて、見えるものと見えないものの寓話に仕立てあげているのは、さすが。
10月27日(日)
・創元推理文庫より「創元推理手帖2003」。一日一頁形式の文庫手帖。頁下には、その日にまつわる推理・SF作家等のデータ。まさしく、自分のために出たような手帖である。折々を書き込んでいくとしよっか。
・山口雅也『奇偶』。密室も出てくるものの、うーむ。
【折々の密室/10月25日】
・征韓論破れ、江藤新平、板垣退助らが参議を辞任(1873) 事件の背景として江藤新平の辞任がちと出てまいります。
#027 山田風太郎「幻燈煉瓦街」−『警視庁草紙』より−
異国風の街並みはできたが、そこに住む人間は百鬼夜行という明治初期の銀座。のぞきからくり師の興業が終わった家から三味線の音が聞こえ、油戸巡査が中を覗いてみると、三味線を抱えた男の死体。建物の廻りには5人の巡査が張り番をしており、男がその場に出現するはずはないのだったが。男は、井上馨の用人岡田平蔵と判明。世の耳目を蠢動せしめた事件に下した、ご隠居隅老斎の解決は。
【折々の密室/10月26日】・噴火湾サーモンダービー(2002)
鱒、ですが。
#028 岡村雄輔「紅鱒館の惨劇」 『紅鱒館の惨劇』
北アルプスを背にして建つ「紅鱒館」で発生した密室殺人。被害者はこの邸宅の所有者である淡水魚研究の博士夫人で、元女優。事件当夜の状況は長編並みに錯綜を極め、もう一つの殺人も発生。犯人の狙った「完全犯罪」の内容が出色。事件に遭遇した秋水魚太郎のセリフがイカしてる。「ああ又しても密室殺人か!」
10月24日(木)
・一度離されると、なかなか追いつかんですのう、「折々」。何が困るといって本が出てこないのが一番困る。
・既に米国に帰国したパラサイト・関から帰国第一弾。
【折々の密室/10月23日】
・左右田謙生誕
「密室探求」では22日生になっているが、『日本ミステリーの100年』では、23日生まれ。
#025 左右田謙「山荘殺人事件」 『密室探求第一集』
雪の山荘。女主人が寝室から忽然と消失。現場は「窓のある密室」で、窓は開いているが、窓外に足跡はない。別の殺人の後、夫人の死体が山荘から離れた地点で発見される。各種トリックを巧妙に組み合わせた佳作。猫の使い方もグッド。
【折々の密室/10月24日】
・東海道線の石屋川トンネル工事着工 日本初のトンネル工事(1870)
#026 阿井渉介『黒い列車の悲劇』
三陸海岸の単線・北リアス線。トンネルに入った列車が出てこない。数分後反対方向からやってきた列車が何事もなかったようなに線路を抜けていった。まもなく消失した列車が海上を走っているのを漁師が目撃。とびきりの不可能は誰が何の目的で起こしたのか。警視庁牛深警部を主人公にした鉄道シリーズ最終作。犯人の動機はやや弱いが、警部が幼い頃住んでいた小樽時代の回想が生々しく事件とかかわり読ませる。
10月23日(水) 2冊の中国本
・芳林文庫の目録は、ポケミス特集。初刊本、再出荷本、奥付けetc奧が深いものなり。現物、各種情報を比較対照の上、ポケミスの箱付き1号を推定するところは、本棚探偵の趣。
・後藤さんから送っていただいた中国語の日本ミステリーアンソロジー2冊。前に画像をいただいたのだが、うまく貼れなかった。『*至的*創意』『愛的証明』(珠海出版社)。(*は漢字がない)前者の収録は、小栗虫太郎。島田荘司、香山滋、山田風太郎、赤川次郎、横溝正史、山村美紗、折原一、戸板康二。後者の収録は、西村京太郎が2、赤川次郎3、山田風太郎、山村美紗各1。前者は、なかなか渋いセレクション。風太郎は、「虚像淫楽」と「眼中の悪魔」。他作家のは、ちょっとみただけでは判然としないものが多い。全ページの脇に「日本スリル・ミステリー小説集」と日本語入っているのが面妖な感じ。カバー折り返しにシリーズの既刊分が掲載されているが随分出ているもんだ。
小林文庫ゲストブックで須川さんが紹介されていた中国語に翻訳されたミステリのページが参考になりました。
折々は、後刻。
10月22日(火) 街角のあなた
・コートが必要なくらい冷え込んで来た。初雪も間近かもしれない。
・「折々」を探して、古いHMMを繰っていたら、81.2月号の「街角のあなた」に、藤原義也さんが登場しているのを発見。まだ大学の1年生。「百万読者の面前で颯爽とミステリに別れを告げる」ために出たという応募動機が凄い。インタヴュア「雨」こと青木雨彦「雨」氏も「言っちゃナンだが、なかなかの論客でいらっしゃる」とある。栴檀は双葉よりかんばし、としうところか。この「街角のあなた」、学生時代の霞流一氏が本名で出たこともあるし、通読してみると、結構、後年の有名人が顔を出すかもしれない。
【折々の密室/10月21日】
・乱歩生誕(1894)
#023 江戸川乱歩「妻に失恋した男」 『江戸川乱歩全短編1』
「妻に失恋した男」が密室で自殺?捜査当局のくだした結論に納得できない刑事は、ねばり強く真相を追い求める。ネタ的には海外有名作のいただきだが、男の奇妙な心理に見るべきところあり。
【折々の密室/10月22日】
・熊本県警がオウム真理教総本部など14か所を国土利用法違反容疑で家宅捜査、顧問弁護士ら2人逮捕
#024 笠井潔「空中浮遊事件」
『天使は探偵』 未曾有のテロを行った天啓教の幹部がスキーリフトで移動中に忽然と消失。一方、レストハウスでは残党たちの集会が開かれており、そのさなか、足跡のない深雪の中で空中から落下してきたと思えない状況で幹部の死体が出現する。不可能の豪華2本立て。美人スキーインストラクター大島安寿物。
10月20日(日)
・金曜日、職場の観楓会で、札幌近郊の新篠津村の温泉へ一泊。宴会料理で松茸ごはんが食べられると思わなかったよ。なぜか名物というキムチを買ってくる。
【折々の密室/10月19日】
・日ソ国交回復の日
#022 二階堂黎人「ロシア館の謎」 『ユリ迷宮』
革命の余燻もさめやらぬロシアの雪原の果てで、ドイツ人の間諜は、〈吹雪の館〉と呼ばれる豪壮な館がたった半日の間ら忽然と消失したのを目撃する。場所の誤認、二つの城、簡単な解体、紙製による張り子等の可能性はすべて冒頭で否定される。結末で明かされる仕掛けは「豪快系」。ロシア革命秘史の趣も。二階堂蘭子物。
【折々の密室/10月20日】
・吉田茂死去(1967)
#023 海渡英祐「下痢をした死体」 『おかしな死体(ホトケ)ども』
頑固なところはかつてのワンマン首相に瓜二つといわれる警視庁捜査一課吉田茂警部補が遭遇したのはマンションの密室状況の殺人。事件の起こった隣室の子供達の証言から不可能状況が形造られるが、事件現場には隠し部屋があって女がいたことが判明。しかし、この女が犯人とも思えない。そうこうするうちに、証言プラス現場のカメラのフィルムから再び不可能状況が出現。ほどけては結ばれる謎に「密室なんて糞くらえ」とこぼしつつ、吉田警部補は、大量に消えたトイレットペーパーの手掛かりから真相をひねり出す。このシリーズ、ユーモラスながせ、都筑道夫ばりのモダンデテクティヴストーリーの実践編でもある。
10月17日(木) おいしいペーパーバック
・ようっぴさんから、島田一男の密室物「8.1.8」の密告あり。感謝。
・関からの戴き本のペーバーバック。
Ellery Queen 「A ROOM TO DIE IN」
同 「THE DEVIL'S COOK」
同 「WHICH WAY TO DIE?」
John Dikson Carr「PAPA LA-BAS」
同 「PANIC IN A BOX C」
今年のEQMM9-10というのも、貰う。森さんの事典で調べてみると、「A ROOM
TO DIE IN」ジョン・H・ヴァンス、「WHICH WAY TO DIE?」はリチャード・デミングの代作ですか。後者まカバーは、銃をもった碧眼の男に横たわる美女があしらわれているところがそれっぽい。「A
ROOM TO DIE IN」は、密室物であり、クイーンのハウスネーム作としては、非常に良く書けておりプロットも巧みとエイディーも誉めているので、本棚のこやしとはしたくないとは思っているのだが。カーの唯一の未訳長編「PAPA
LA-BAS」の翻訳はどうなってしまったのだろう。
・『日影丈吉全集1』購入。9500円プラス税。解説を読むと、テキスト選定にも細心の注意が払われるのがよくわかる。『真赤な子犬』『内部の真実』が作者自らの手で仏訳した草稿が見つかったというのにも驚いた。
【折々の密室/10月18日】
・チャック・ベリー生誕(1926)
ロックンロールの祖→『「ロック」傑作選』ということで。苦しい。
#021 島田一男「8・1・8」 『「ロック」傑作選』
大学の研究室で変死した博士。現場は鍵のかかった密室で、当初は、胸像の落下による事故死と思われたものの、現場には、「八・一・八」の血文字が残されていた。ダイイングメッセージの方がメインだが、密室構成法にも少し面白い工夫あり。
10月16日(水)
・関とまた飲む。
・とりあえず、「折々」を追いつかせておく。くー。
【折々の密室/10月14日】
・鉄道の日 1872新橋−横浜間で鉄道が正式営業にちなんで。
#017 西村京太郎『ミステリー列車が消えた』
行き先不明のブルートレイン「ミステリー号」が東京駅を出発したまま消失。全長250m400名の乗車客はどこへ消えたのか。大仕掛けのネタではあるが、十津川警部らの追跡行はサスペンスを持続したままテンポ良く進む。犯人が直接登場しない幕切れもグッド。列車消失物の中興の祖か。
【折々の密室/10月15日】
・新聞週間 日本新聞協会が1948から実施。週間中の日曜日が新聞少年の日。
#018 ケルマン・フロスト「恐ろしき夕刊」 『新青年傑作選4』
小道具として出てくる新聞の版の違いを鍵にした出来のよい密室短編だった記憶があるが、本が手元にないため後日補足。
【折々の密室/10月16日】
・ボスの日Boss's Day スタッフからボスへの感謝の日。1956アメリカ商工会議所で登録。
困ったときのホックだね。
#019 エドワード・D・ホック「ギャングスターの車の謎」 『サム・ホーソーンの事件簿U』
ギャングに拳銃をつきつけられて町外れの農家に向かった医師が遭遇したのは、謎の消失事件。ギャングのボスが衆人環視の中リムジンから消えた。拉致した医師がホーソーン医師だったのは、ギャングたちにとっても計算違いだったというしかない。
【折々の密室/10月17日】
・貯蓄の日
#020 L・T・ミード&ロバート・ユースティス「金庫室の怪」 『シャーロック・ホームズのライヴァルたち2』
錠の中へどんな鍵でも差し込まれたらその瞬間に電気によるベルが鳴り響く工夫が凝らされた特別仕立ての金庫室。その密室から美貌の女賊マダム・コルチーは、いかにして巨大なダイヤモンドを盗み出したのか。ちょっとした工夫が面白い。このマダム・コルチー、解説によれば、イギリスを震撼させた犯罪秘密結社「七王国」の首魁であり、宮殿のような邸宅を構え、上流社会に出入り。邸宅の冷凍室には、非常時用の身代わり用の瓜二つの若い娘の死体を用意し、脱出用に屋上には気球、地下にはテムズ川に抜ける高速艇を用意しているというから凄い。探偵小説に初めて登場した大量殺戮者でもあるという。
10月12日(土)
・14日(月・祝)、帰省中のパラサイト・関と飲む。(15日記)
・折々が遅れてきた。
【折々の密室/10月13日】
・引っ越しの日(1868年に明治天皇が東京に到着したのを引っ越しの始まりとして、全国引越専門協同組合連合会が制定とか。うーむ。)
#016 愛川純太郎「木箱」 『密室探求 第2集』
作中曰く「我国犯罪トリック史上に新しき一頁を追加したK市箱詰め死体事件」。厳重に縄で梱包された箱から死体が出現。発送元では箱には茶道具が詰められ、トラックの運送中も入れ替えは不可能のはず。謎の案出に新手を出した佳編。
10月11日(金) 酔眼出版計画
・帰省中の岩井大兄と飲む。業界大手の大兄の会社にもリストラ・分社化の波は押し寄せてきて、商売関係では、とんといい話を訊けず。「こっち戻って古本屋でもやろうかな」というのに対し大賛意を示す。
「ネット販売も入れれば一人喰っていけるくらいは純利があるだろう」(根拠なし)
「某ネット古書店のように新しいビジネスモデルで、大繁栄しているところもあるし」
「立地は女子校の近く」
「ブックオフ廻りで仕入れを手伝うよ」
などの当方の言葉に、大兄も大炎上。酔眼朦朧、
「俺はやる。「落穂舎」を居抜きで買ってやる。」宣言まで飛び出した。
・「ついでに出版事業も手がけよう」とけしかける。
「アメリカのスモールブレスでは、カルト作家の短編集がバンバン出てる」
野球好きならプロ野球チームオーナー、映画好きなら映画監督、本好きなら出版社社長というのは夢ではないか。
それではということで、第1巻は天城一、第2巻は巽昌章というところまで決まったが、これではあまり売れ行きは期待できそうもない。
「出したい本を出すためには、まず売れる本をつくる必要がある」と私。
「それが出来れば苦労はないが」
「秘策あり。実は、今年、太宰治の著作権が切れたはずだ」
「ほう。それで」
「太宰治の短編集を出す」
「そんなものあちこちから出てる」
「今出てるのは全部ダメ。活字が多すぎる。今時の中高生が手に取るか。活字はできるだけ少なくする。冒頭は「女生徒」、巻末は「走れメロス」あとは、数編適当に。永遠の青春文学だから質は保障されている。カバーは、驚くな、現在超人気のヒップなイラストレーターだ」
「誰だ」
「知らん。リリーフランキーとかか(小声になる)。文化のかほりがするから手弁当でやってくれるはずだ。それで、帯の推薦文は、現代の若者に人気の芸能人とかスポーツ選手だ」
「誰だ」
「知らん。あゆ、とか中田とか(声が小さくなる)」
「ちょっと違ってきているような気もするが」
「まあいい。文化のかほりがするから、読んでなくてもギャラなしでやってくれる。おまけに、「あゆ、太宰すき。」とかテレビで宣伝してくれる度、どっかんどっかん増刷がかかる。夏休み前の発刊で、読書感想文に悩める生徒、父兄、教師も、みんな、えびす顔だ。原稿にかかる費用は一切なし。宣伝は大物の口コミ。これはおいしい。純文で儲けて、ミステリへ廻す。逆ビジネスモデルだ」
「第二集もいこう。やはり自殺者が欲しいところ」
「北村透谷、これは無理。芥川龍之介か。これで、やや売り上げは落ちる」
「落ちては困る」
「第三集、樋口一葉で、またやや落ちる。第四集で、起死回生の「小倉百人一首」を出す」
「ますます、落ちそうな」
「一頁一首のみ。100行で一冊読める。全国の悩める生徒は、また、えびす顔だ。全巻に、岩井大兄の文学史を無視した無茶苦茶な解説を付す」
「おお」と、大兄が感動の涙を流しているところへ、夜は更けていく。
【折々の密室/10月12日】
・島田荘司生誕
#015 島田荘司『ロシア幽霊軍艦事件』
箱根の富士屋ホテルに残された一枚の写真。大正8年のある嵐の夜、芦の湖に巨大な軍艦が出現、ロシア白軍の兵士たちが湖岸に降り立った映像を伝えている。道路も整備されていない時代のこと、軍艦はいったいどこから出現したというのか。とてつもない謎は、ロマノフ家の皇女アナスタシアの生死の謎とリンクし、封印された歴史のヴェールが剥がされる。冒頭の謎解き、衰えない筆力には、素直に感動させられる。エピローグは長すぎ。御手洗潔物。
10月10日(木)
・購入本から。
竹本健治『匣の中の失楽』(双葉文庫)100頁を超える資料(対談、評論、創作ノート等)が付いた完全保存版
川田武『乱歩邸土蔵伝奇』(光文社文庫)乱歩生涯の謎に迫る伝奇物らしい。グッドタイミング。
山前譲編『「ロック」傑作選』戦後編も10冊予定。楽しみな新シリーズ。
マイケル・スレイド『髑髏島の惨劇』(文春文庫) 一部のファンから熱狂的に歓迎されたサイコホラー作家のホラー+本格物らしい。「嵐の孤島、幽霊射手、切り裂きジャック、密室殺人、無数の殺人機械・・」これは凄そう。
【折々の密室/10月11日】
・「リンゴの歌」が主題歌の戦後初の映画「そよかぜ」封切り(1945)
#014 吉村達也『ニュートンの密室』
箱根の美術館の記念式典で女性彫刻家殺人事件が発生。現場は「ニュートンの密室」と題された直径8mの円筒形オブジェの中。高さ15mの上方は開放されているが、衆人環視の中そこから出入りは不可能。内部はカメラで監視されている。密室をつくるのにかなり大げさなトリックを弄しているが、この設定だと、もっと簡単に密室つくれるはずだし、密室構成理由も今ふたつ。リンゴもちょこっと顔を出します。家庭教師・軽井沢純子物。
10月9日(水)
・一時帰国予定の動きも慌ただしい、パラサイト・関の翻訳ミステリアワー8ヶ月ぶりに更新。
・【折々の密室/10月10日】
・体育の日
ということで、本家を。
#013 ロナルド・A・ノックス「密室の行者」 『世界短編傑作集3』
舞台は、元屋内打球戯場のスタンドを取り払った体操場。東洋思想にかぶれた金満家が幽体離脱の実験のために体操場にこもるが、ありあまる食料を前にして餓死していた。「ありあまる食料を前に」にというのが美しい謎。被害者は、××だったという設定だが、その設定がない場合でも、不可能状況が現出していたことが、ぬかりなく言及されている。このもう一つの隠れた不可能状況もなかなか魅力的。しかし、ノックスは中国人は禁じたが、インド人はOKだったのね。
10月8日(火) フランス革命夜話
・があん。10月7日は、ミステリの日でしたか(鉄人日記)。ポーの逝去日というのは、ソースにあったのだが、ポーにまつわる密室のあれこれを参照して書く元気が湧いてこないのでした。
・7日の折々の文章を途中でアップしてしまったため修正。
・しばらく首のけん引で病院に通うことに。
・『フランス革命夜話』 アン・ペリー(02.8(00) ヴィレッジ・ブックス
歴史ミステリで知られる著者の本文100p強のノヴェラ。オットー・ペンズラーブックス第4弾とあり、カバーにも、後書きにも、ミステリとあるけど、これをミステリとは呼ぶには無理がある。フランス革命真っただ中、小説家でサロンの花スタール夫人(実在の人物)に仕える未亡人セリーが、一粒種の息子をなくす。息子を預けていた友人が子供を省みずに男と逢瀬を楽しんでいたことを知らされたセリーは、二人への復讐を誓うが・・。ミステリというには結末も腰砕けで、激動と騒乱の時代を舞台にした女性向きロマンといったところか。フランス革命に興味のある方はどうぞ。
このヴィレッジ・ブックス(ソニー・マガジンズ)、ペンズラーブックスをはじめ、ミステリファンにも面白そうなのもあるのに、ラブロマンスや映画化原作などと一緒くたになっていて、今一つ注目度も低いような気がする。ミステリは体裁を替えるとかサブレーベルをつくるとかした方がいいのでは。
【折々の密室/10月9日】
・世界郵便デー ということで、見え見えですが。
#013 G.K.チェスタトン「見えない人」 『ブラウン神父の童心』
トリックの寓意性ということでは、色々なことを考えさせてくれる古典。監視下の侵入のみならず、被害者の消失も扱っている点も注目したい。
10月7日(月) 乱歩蔵
・小林文庫オーナーの掲示板への書込み。「譚海」の当時の少年への影響力を物語る。館淳一氏もですか。オーナーの目配りの広さには毎度のことながら恐れ入る。
・新保博久+山前譲編著『幻影の蔵』(東京書籍)購入。8000円。300頁を超える蔵書目録は活字をもう少し小さくして定価が下がらなかったかとか、写真頁がもっとあっても良かったとか、色々あるが、リスト好きは楽しめそう。CDも楽しみだが、パソコンのCDドライブが壊れているのが痛い。
・『鷲尾三郎名作選』(河出文庫)購入。毛馬久利物が一冊にまとまったのが嬉しい。
【折々の密室/10月8日】
・木の日(「十」と「八」で「木」になることから日本木材青壮年団体連合会が1977に制定)木の日とくれば、これしかない。
・#012『樒/榁』 殊能将之
香川県の温泉宿で、16年の時を隔てて起きた二つの密室事件。密室の死体と空っぽの密室事件。石動戯作物。ケイト・ウィルヘルムの引用をフックに榁=ねずの木=植物界のコヨーテ=複製された密室という連想こそが、二つの密室事件を並べる必然性になっているのが興味深い。ここでは、言葉遊び的な思考の流れ以外に作品の成立している根拠がない。いきおい、作品は冗談小説に近づくが、冗談が冗談を有む構造が、意外にミステリがミステリ有む構造に近似していることにも気づかせてくれる。深読みするな。後者の密室構成理由はグッド。コストパフォーマンス的には物足りない。
10月6日(日)
・最近とみに首の調子が良くなく一日伏せる。また、首吊り(けん引)に通わなきゃだめか。
・kashibaさん、「折々」とり上げていただき、どうもです。「まーだーぐうす」、楽しみにしております。こちら、意味不明の企画ですが、たぶん初めて一週間以上日記が続いたというところに意義があったかと。「日めくり密室」という案もあったのだけど。突発的に始まったので、突発的に終わると思います。
四苦八苦ぶりに見かねたのか、10月7日用に、
1957年:日本初のプロレスの世界選手権試合(ルー・テーズ‐力道山、後楽園ホール)
を教えてくれた人がいる。ネタ的にはおいしいが、プロレス×密室、思い浮かばねー。作品も一緒に教えてほしいものである。
・今週の予定を書いて、一人気合いを入れてみる。(都合により番組を変更する場合がございます)
10/8 木の日
9 世界郵便デー
10 体育の日
11 並木路子「リンゴの歌」発売
12 島田荘司生誕
13 引っ越しの日
【折々の密室/10月7日】
・スポーツの日
こんな日があったのかと思ったら、政府が東京オリンピック招致キャンペーンの一環して制定したらしい。五輪開催後は、10月10日に移行して体育の日になったと。スポーツの日の方が今風な気もするが。ということで、苦しいながら体育館の密室。
#011 折原一「密室の王者」 『七つの棺』
町民相撲大会の優勝者時任山が鍵のかかり、目張りのされた体育館で死亡。まわりには泥酔した4人の男達が倒れていて。「不可能犯罪以外は興味がない」黒星警部が謎解きに精を出す。ノックス「密室の行者」のパロデイ。不可能状況が、ちと弱いのが難。
10月5日(土)
・新川のブックオフに行くも閉店していた。
【折々の密室/10月6日】
・第27回札幌マラソン(2002)
以前、住んでいたところの部屋からは、走っているランナーが見えたもの。
#010 山田正紀『蜃気楼・13の殺人』
村おこしのイベントのマラソン大会の最中ランナー13人が忽然と消失。コースは戦国時代の山城・十三曲坂を使っており、途中の抜け道はない、いわば10キロに及ぶ大密室。消えたランナーの一人は、木に突き刺さった無惨な姿で発見。古文書「栗谷一揆騒動諸控」をなぞるように怪事は相次ぐ。初期のミステリだが、現実が古文書を模倣していくような謎づくりは、この作家らしい。トラクターにひき殺された死体の周囲にトラクターの通った跡がなく、トラクターが飛来したとしか思えない不可能状況もあり。
10月4日(金)
【折々の密室/10月5日】
・「大阪市市営新交通システム「ニュートラム」暴走(1993)
#0010 芦辺拓『メトロポリスに死の罠を』
「廃県置市」下の新・大阪市で「知性を備えた野獣」が街を丸ごと「切り取る」ことを宣言。手始めに走行中の核物質輸送列車が白い閃光とともに消失。続いて市街地の環状線を用いた、切り取り作戦が発動する。自治警特捜の面々はメトロポリスを守りきれるか。レトロスペクティヴな味わいのある近未来を舞台にした冒険活劇。
10月3日(木) 『煙で描いた肖像画』
・以前から気になっていた古本屋に行ってみた、という山美女の話。 最近の本2冊、少し古い本を2冊(計5000円分くらい)持ちこんで初めて売ってみたら、「700円です」といわれる。そんなに安いのか〜とがっかりしながらも、財布から700円取り出して払おうとしてしまったという。おまけに、店主に「このうえお金までもらっちゃあ、申し訳なくて」との追い打ち。なんとなく自分にもありそうな話で笑ってしまう。確かに、店でお金をもらうという経験は、あんまりないよね。
・『煙で描いた肖像画』 ビル・S・バリンジャー('50(02.7))
十年前に一度見かけただけの美しい少女。集金代行業の青年は、脳裏に焼き付いて離れない少女の面影を古い資料の中に見いだし、憑かれたように彼女の足跡を辿り始める。シンプルだが、読む者の胸を揺さぶらずにおかない力強いプロット。わずかな手掛かりを基に、彼女の足跡を追う青年の探索が小さな暗礁に乗り上げたところで、探索された当時の彼女の真実の物語が語られる。鮮烈な悪女像を描き出す女の物語のパートは、切れ味のいい短編のようだ。現在と過去、一人称と三人称で交互に語られるフーガのような形式は、次はどうなる、という読者の興味を倍加させ、ぐいぐいと引きずりこんでいく。二つのパートはどのように交わるのかという点も興味のポイントになるが、予想を数段上回る幕切れが用意される。考えてみれば、本書で用いられる形式は、極めて人工的なものだが、登場人物は皆鮮やかに描かれており、人工性をほとんど感じさせない。特に、冷え冷えとした都会の孤独感は、バリンジャータッチとでもいうべきもので、邦訳のある長編ともども、語りの技巧とキャラクター造型が溶け合ったこの作家の独自の魅力を伝える。本書は、忘れがたき秀作といっていいだろう。
【折々の密室/10月4日】
・TBSテレビ「8時だヨ!全員集合」放映開始(1969)
土曜8時はかつて子供のゴールデンアワーだった。「8時だヨ!全員集合」が収録された渋谷公会堂が停電事故を起こした翌週に使用したという羽戸橋公会堂を舞台にした霞流一の密室物「天は風を見捨てたか」(『首断ち六地蔵』所収)をもってくるという手もあるが、ここはこの長編。
#009 栗本薫『優しい密室』
名門女子高の運道具室の密室で発見された若い男の死体。17歳の「みにくいアヒルの子」森カオルとさだまさし探偵伊集院大介が挑む。刊行当時、周囲では、このトリック、「ドリフのコントに出てきた」「易しい密室だ」と評判になった。この女子高、登校時と下校時に校舎に向かって「ごきげんよろしゅうごさいます」というんだよね。
10月2日(水) 『デッド・ロブスター』
・『デッド・ロブスター』 霞流一(02.9) ☆☆☆
紅門福助物の長編としては、蟹づくしだった『ミステリー・クラブ』に続く本編は、エビづくし。:劇団「健光新団」y宛てに送られてきた恵比寿様の彫像の送り主は、2週間前素っ裸で溺死した俳優から
のものだった−。
万事快調の霞ミステリ。軽快な筋運び、突飛な登場人物、横にのめるようなギャグの連発。ラティマー風の軽みの味わいを出せるのは、日本ではこの人しかいないだろう。加えて、エビにまつわる蘊蓄が面白く、小劇団という内幕物の要素もある。さらに、密室・足跡のない殺人・奇妙な凶器などの不可能犯罪が待ち受けるのだから、一粒で何重にも美味しい。これまでの幾つかの作品は若干趣向の詰め込みすぎの印象もあったが(そこがまた魅力でもあるのだが)、本書は事件の交通整理もよく、すっきりとまとまっている。アリバイ破りの要素が、結末まであまり強調されなかったのは、いささか残念。
「皆を集めてさてといい」の解明シーンでは、舞台に多数の劇団員を上げ、論理的に犯人以外のものを排除していくという、犯人の「オーデイション」が敢行される。謎解き場面史に残るアイデアかもしれない。抑え気味だったお約束のグルメシーンが、最後でどっと出て、ああ海老が食べたくなった。
【折々の密室/10月3日】
・映画の撮影に初めて人工照明使用(1899)
#008 ジョゼフ・カミングス「カスタネット、カナリア、それと殺人」 『密室殺人コレクション』
邦訳のある6編のバナー上院議員物は、どれも、すこぶるできのいい不可能犯罪物。バナー物だけで、26編もの不可能犯罪物があるらしい。読みてー。本編は、映画撮影のセットで起こった衆人環視の殺人を扱ったもの。犯人は透明人間なのか。伏線の効いたテンポの良い謎解きは、本格短編のお手本。タイトルもグッド。
10月1日(火) 探偵少年
・やよいさんから、プランゲ文庫のマイクロフィッシュで確認したとして、下記の情報をいただきました。ありがとうございます。おお、ついに、プランゲ文庫にまで調査は及びましたか。これから続々と成果がもたらされそうですね。貴重な情報と思いますので、とりあえず下に転記させていただきます。
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●「探偵少年」の1号〜5号(S23.6〜10)
宝島(スチブンソン/訳伊藤龍雄) S23.6〜7
黄金虫(江戸川乱歩) S23.6〜*
怪龍島(香山滋) S23.6〜*
七つの星(牧野吉晴) S23.6〜*
痛快太郎(森健二) S23.6
人魂退治(海野十三) S23.6
二十の扉のとき方−大下宇陀児先生にきく(著者名なし) S23.6
ぐず信大探偵(土岐雄三) S23.7
愉快な魔術師(古川雅章) S23.7
ロケット時代が来る(小松崎茂) S23.8
黒い爪の男(森下雨村) S23.8〜9
電線はこんなに服をきている(佐野昌一、科学読物) S23.8
白い粉(北町一郎) S23.9
闇からの声(森下雨村) S23.10
目に見えぬ波(佐野昌一、科学読物) S23.10
(注)終わりが*のものは10月以降も継続のため、最終回を確認できず。
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【折々の密室/10月2日】
・グレアム・グリーン生誕(1904)
#007 グレアム・グリーン「不当な理由による殺人」 HMM'91.919
叫び声のあった部屋に警部が踏み込むと、既に被害者はこときれていた。部屋には鍵がかかっており、窓から出入りした痕跡もない。部下の到着を待ちながら若い巡査と事件現場に佇む退職間際の警部の胸には、若かかりし頃の追想と悔恨が断片的にこだまする。手の込んだ叙述でによる警部の追想が一段落したときに、事件の真相は明らかになる。『第三の男』『情事の終わり』などで知られる文豪が25歳のときに書いた実験的な作品。