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1998年8月2日付の三鷹市役所広報紙「広報みたか」で明らかにされた「コミュニティバス」導入計画によって、小田急バスの境94系統(武蔵境駅南口〜三鷹市役所〜北野、1984年11月開設)が大きく変わりました。11月3日をもって、同系統は三鷹駅南口発着に改められるとともに、小田急の一般路線では初めてリフト付き小型バスが導入されました。そこで本稿では、8月11日に新川中原コミュニティセンターで行われた住民向け説明会の取材を皮切りに、同計画にまつわる動きを追っていきます。
9月5日から3週間の日程で、(財)運輸政策研究機構と三鷹市による福祉型コミュニティバス(STS)の実験=写真、新川団地中央で撮影=が行われました。境94系統の改善事業にも深くかかわるこのSTS実験、東部地域の住民には福音でもあるはずですが、実験に先立つ説明会では住民から戸惑いの声も聞かれました。
「実験の計画は寝耳に水で、かなりショックだった。静かな住環境を実現するため、昔から路線バスの乗り入れを断ってきたのに…。便利にはなるだろうが、沿道の住民には便利になることによるリスクもある」−。市の広報で初めて計画を知ったという、中原地区の一部の住民からは、こうした批判が相次ぎました。
同地区は地形の関係もあって道路が狭く、大型バスはもとより乗用車の行き違いも困難な所が多いのですが、そうした不便さが逆に「閑静な高級住宅街」の維持に貢献しています。地区の交通基盤を改善することなくバスを運行してみようというのですから、住民が不安に駆られるのはやむを得ないところ。これらの声に対して市側は「(路線バスができなかった)歴史的経緯はうかがったが、この実験が直ちに本運行というものではない。実験終了後、もう一度話し合いを持ちたい」と答えていました。
そんなこんなで若干の曲折はあったものの、STS実験バスは順調に運行されていました。筆者が試乗した15日、三鷹市役所−新川団地中央−つつじヶ丘駅線は宮園自動車のトヨタ・コースター(ステップ可動、リフト付き)、公共施設循環は三鷹市ハンディキャブの同仕様車(白ナンバー車)を使用。祝日で市の施設が休みのため、循環線の利用率は低かったようですが、つつじヶ丘線は高齢者を含め相当の利用がありました。
宮園自動車は福祉バス事業で実績のある会社だけに、運転士は技術・接客マナーとも優秀で、快適なドライブを楽しむことができました。実験なのでダイヤが不便なのは致し方ないとして、新生・境94系統もこのくらいの水準のサービスを提供できれば、市内交通の基幹に十分なり得ることでしょう。
STS実験も終了して約1カ月後の10月下旬、三鷹市コミュニティバス運行開始の案内が、武蔵境営業所管内の路線バス車内に順次掲出されました。運行開始は11月3日とアナウンスされました。
これに先立つこと数日前、バス車内に境94系統の運行を「11月3日で廃止」するとの「お知らせ」が張り出されました。同営業所には10月24日現在「コミュニティバス」用車両が入った形跡もなく、この社告を見た限りでは単なる路線廃止としか読めませんでした。営業所に直接確認したので事なきを得ましたが、廃止の告知だけが先行するのは乗客を不安にさせることであり、どうせならコミュニティバスのことも併記すべきだったと思います。