小田急バス私設ファンクラブ

特集・境94系統変身への軌跡(前編)

C811(P-LV314L)
武蔵境駅南口で発車を待つ境94系統北野行き
=1994年7月6日撮影= 

 1998年8月2日付の三鷹市役所広報紙「広報みたか」で明らかにされた「コミュニティバス」導入計画によって、小田急バスの境94系統(武蔵境駅南口〜三鷹市役所〜北野、1984年11月開設)が大きく変わりました。11月3日をもって、同系統は三鷹駅南口発着に改められるとともに、小田急の一般路線では初めてリフト付き小型バスが導入されました。そこで本稿では、8月11日に新川中原コミュニティセンターで行われた住民向け説明会の取材を皮切りに、同計画にまつわる動きを追っていきます。

境94系統を「改善」する理由は?

 三鷹市内のバス路線はJR吉祥寺、三鷹、武蔵境の各駅からおおむね南側に延びており、新川交差点(新川6丁目)を分水嶺のようにして東西南北に向かっています。同交差点を挟んで東部地域(新川、中原、牟礼、北野など)と公共施設の多い西部地域(下連雀、上連雀、野崎など)を結んでいる路線は現在、鷹54系統(三鷹駅南口〜仙川)と境94系統しかなく、東西間の公共交通が貧弱な状態が長年続いています。とりわけバスがもともと不便な北野地区から市役所などへ行くには境94が唯一の手段なのですが、1日4回運行で土曜・日祝とお盆は運休というダイヤでは、普段の足として気軽に使う気にもなれないのが現状です。
 一方、隣の武蔵野市吉祥寺地区では交通過疎地域の解消を目指した「ムーバス」がヒットし、コミュニティバス政策の数少ない成功例として全国的に有名になりました。三鷹市としても当然ながら意識はしていて、1996年から一部の市民を対象にアンケート調査を行うなどして、バス交通網改善の研究を開始。しかし、行政主導で車両の運行管理だけを関東バスに任せた「ムーバス」の手法は全国有数の富裕自治体である武蔵野市だからこそできたという見方もあり、三鷹市は「まず既存バス路線の改善を図り、それでも不十分な場合はコミュニティバスの新設を検討する」というスタンスで臨むことになりました。
 ここで、現状は閑古鳥が鳴いている境94系統を「使えるバス」に蘇生させ、東西交通の充実を目指す方向になったわけです。

普通の路線バスとして利用可能

 今回、具体的に示された改善策は3つに大別されます。発着駅を現行の武蔵境駅南口から三鷹駅南口に改めること、運行ダイヤを1日10回程度に増便すること、高齢者や障害者にも乗り降りが楽なリフト付き小型車両を使うことです。
 新しいルートは、北野折返場から新川通り、市役所を通って野崎から右折。総合スポーツセンター(仮称)ができる予定の井口(南横丁)、三鷹市芸術文化センター前、法専寺を経て三鷹駅に達します。小型バスの導入について市は「小田急バスと車種、デザインなどについて折衝中で、近いうちに回答がくる」(交通対策課)としています。
 この説明で分かる通り、境94系統改め新登場の「コミュニティバス」は、あくまで小田急バスの一路線という位置づけ。運賃体系は他の一般路線と同一で、小田急バスの全線定期券やバス共通カードも利用できるものと想定されています。これまでこうした小型車を保有していなかった小田急バスは新車を購入することになり、これらに対して三鷹市がいくらかの補助金を拠出する、という話でした。
 コミュニティバス導入は北野地区が実現第1号。2本目としては第一小学校前から分かれて三鷹台団地、三鷹台駅に達するルートが検討されています。かつては三鷹台駅までバス路線があったのですが、現在は道路事情の悪さや折返場確保の問題があって、実現までにはなお曲折が予想されます。

「STS」実験開始

STS実験の循環系統  9月5日から3週間の日程で、(財)運輸政策研究機構と三鷹市による福祉型コミュニティバス(STS)の実験=写真、新川団地中央で撮影=が行われました。境94系統の改善事業にも深くかかわるこのSTS実験、東部地域の住民には福音でもあるはずですが、実験に先立つ説明会では住民から戸惑いの声も聞かれました。
 「実験の計画は寝耳に水で、かなりショックだった。静かな住環境を実現するため、昔から路線バスの乗り入れを断ってきたのに…。便利にはなるだろうが、沿道の住民には便利になることによるリスクもある」−。市の広報で初めて計画を知ったという、中原地区の一部の住民からは、こうした批判が相次ぎました。
 同地区は地形の関係もあって道路が狭く、大型バスはもとより乗用車の行き違いも困難な所が多いのですが、そうした不便さが逆に「閑静な高級住宅街」の維持に貢献しています。地区の交通基盤を改善することなくバスを運行してみようというのですから、住民が不安に駆られるのはやむを得ないところ。これらの声に対して市側は「(路線バスができなかった)歴史的経緯はうかがったが、この実験が直ちに本運行というものではない。実験終了後、もう一度話し合いを持ちたい」と答えていました。
 そんなこんなで若干の曲折はあったものの、STS実験バスは順調に運行されていました。筆者が試乗した15日、三鷹市役所−新川団地中央−つつじヶ丘駅線は宮園自動車のトヨタ・コースター(ステップ可動、リフト付き)、公共施設循環は三鷹市ハンディキャブの同仕様車(白ナンバー車)を使用。祝日で市の施設が休みのため、循環線の利用率は低かったようですが、つつじヶ丘線は高齢者を含め相当の利用がありました。
 宮園自動車は福祉バス事業で実績のある会社だけに、運転士は技術・接客マナーとも優秀で、快適なドライブを楽しむことができました。実験なのでダイヤが不便なのは致し方ないとして、新生・境94系統もこのくらいの水準のサービスを提供できれば、市内交通の基幹に十分なり得ることでしょう。


さようなら境94、こんにちはコミュニティバス
 〜発車は11月3日に正式決定〜

 STS実験も終了して約1カ月後の10月下旬、三鷹市コミュニティバス運行開始の案内が、武蔵境営業所管内の路線バス車内に順次掲出されました。運行開始は11月3日とアナウンスされました。
 これに先立つこと数日前、バス車内に境94系統の運行を「11月3日で廃止」するとの「お知らせ」が張り出されました。同営業所には10月24日現在「コミュニティバス」用車両が入った形跡もなく、この社告を見た限りでは単なる路線廃止としか読めませんでした。営業所に直接確認したので事なきを得ましたが、廃止の告知だけが先行するのは乗客を不安にさせることであり、どうせならコミュニティバスのことも併記すべきだったと思います。

〜後編はこちらです〜

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