過去の雑記 00年12月

雑記のトップへ

前回へ
12月21日
それ以外の選択肢のあるはずもなく、『祈りの海』を読みはじめる。「貸金庫」から「放浪者の軌道」までの前半7篇を読了。未読は「百光年ダイアリー」ただ1篇、既読分はすべてストーリーを思い出せるという困った状態にもかかわらず、何の問題もなく楽しめる。ああ、イーガンの短篇は良いなあ。

初読時に最も衝撃を受けたのは、イーガンの日本初紹介作となった「貸金庫」だった。大胆な設定と、繊細な描写、これぞ新時代のアイデアストーリー、という鮮烈な印象があった。以来7年。いま読み返してみると、ちょっと粗いかも。この展開は少し急ぎすぎだよなあ。というわけで、ここまでのベストは、きれいにまとまった「ぼくになることを」か、奇想において並びなき「放浪者の軌道」。人々の思想が伝染するようになった結果、思想的カオス模様を構成するようになった世界なんてネタ、ふつう書けないよなあ。

12月22日
今日もまた『祈りの海』「ミトコンドリア・イヴ」から、「イェユーカ」までの3篇。特筆すべきはなんといっても、「無限の暗殺者」だろう。不可算無限個の多元世界全体にわたって存在する暗殺者という設定はあまりにも素晴らしすぎる。SFM00/ 5の「闇の中へ」に優るとも劣らない、いや『宇宙消失』とすらためを張れるバカバカしい大ネタ。SFに破天荒なアイデアをこそ求める同好の士は必読。すごいぞ。

12月23日
来客あり。

さまざまな事実について蒙を啓かれる。まだまだ世の中は知らないことに満ちている。奥が深い。

夕方から新宿で、もうすぐ出張が終わる細木さん(8)の送別会。転職した人や、退職した奴、退学した奴に関する噂話に、今の仕事の話、今期のアニメの話、最近の本の話、デンパの話など。なんだかんだの末、歌わずに別れたというのは快挙ではなかろうか。僕はともかく、細木さんが明日の仕事のために歌わずに帰るとは。歳月(と仕事)はかくも人を変えるものなのか。僕の知ってる細木さんはそんな人じゃないやい。見損ないましたよ。< それはどうか

帰宅後、とあるメールの内容に、机の前につっぷして、しばし回復せず。

12月24日
仕事のために歌わずに帰ったというのに、まったく能率が上がらない。まあ、世の中そんなものだろう。悪いな、堀川(12)。

そんなこんなでクリスマス・イヴの日曜だというのに一人、仕事をしなかったり、したり、しなかったりする。ふん。寂しくなんか無いやい。< もういい歳なんだから、その態度はどうか

長谷川裕一『クロノアイズ』3巻(講談社ZKC)読了。「待ちに待ってた出番が来たぜ」というわけで、みんなのアイドル・侵略大帝が四大幹部の一人として登場。だめだ、こいつがでてくるだけで展開がギャグになる。重要な設定はいくつか提示されたが、盛り上がり的には今一つ、というかそういう巻ではない。次巻以降、3〜4巻分使った大エピソードが始まることを希望。

王欣太『蒼天航路』21巻(講談社モーニングKC)読了。荊州攻略戦の後半がメイン。曹操の影がどんどん薄くなっているような。まあ、場面が場面だけにしかたが無いんだが。

12月25日
近所の書店でSFM2月号と冬目景『羊のうた』5巻(バーズコミックス)を買う。

SFMは遊びどころ満載で実に楽しいのだが、いまちょっと十分に遊ぶ余裕がない。まあ、そのうち。

とりあえずマガジン読者賞だが、今年は予想を発表するのを忘れていたのだった。海外、イラストは投票通りで、予想通り。今年のラインナップならこれしか有り得ないだろう。国内は予想外だが、どうせ何が来ても予想外だったから問題無し。投票した「愛の陥穽」も4位に入っていたし成績は例年になく良いね。

読者賞のプレゼント当選者、5人の内3人知っているような気がするのだが、気のせいか。

12月26日
朝晩はめっきり冷え込むようになった昨今、みなさまはいかが御過ごしでしょうか。

と、意味もなく語り掛けで文章を書き始めてしまうくらい寒い。冬の大三角が美しく輝こうが、木星が白々と光ろうが寒いもんは寒い。だから寒いんだって。

ただ夜道を歩くだけでも寒いってのに、二分差で前の電車を逃した荒川沖駅、寒風吹きすさぶホームにスーツ一枚で佇み、次の電車が来るのを20分近くも待っていると、次第に「ベアトリスの愛」に包まれてるんじゃないかってな気分になってくる。同じ包まれるなら別の愛がいいなあ。

というわけで、ほぼ一年ぶりに「祈りの海」読了。人物描写、世界設定、ガジェット、プロット、アイデア、テーマ、全てにわたってよく出来ている。明らかに既訳のイーガン作品の、いや多分、90年代翻訳中短篇のベストだろう。
ただ、巧いと思うし、面白いんだけど、愛するにはちょっと隙がない。『祈りの海』のベストはと問われても、一番面白かったのはと問われても、きっとこれを挙げるけど、一番好きなのはと聞かれたら「無限の暗殺者」を挙げるかな。
全体を通して読んで改めて驚いたのはテーマの類似性。アイデンティティ云々ももちろんなのだが、自由を求める話がここまで多いとは。あるいは宗教、あるいは思想、あるいは未来、あるいは血縁。イーガンの主人公たちは常に精神的自由を求めているようだ。だが、彼らは安易に逃げたりはしない。自分の精神を縛るものを理解し、理解し、理解することで、それを無効化しようとする。だからこそ、彼らの悩みがリアリティを持って伝わってくるのだろうけど、何もそうまで真面目に戦わなくても。

12月27日
昨日、極寒の荒川沖駅に一人立ち、「これはネタになる」などと考えていたのがまずかったのか、ものの見事に風邪を引く。お約束にもほどがあるだろう。> ヲレ

運良く、午後は納会で早仕舞いだったので、とっとと帰って早々と床に就く、はずが、なぜ新星堂で<ガルディーン>の三巻とか買ってますか?世の中って不思議だなあ。

帰宅後、さすがに体力の限界を感じて寝る。室温25度設定で毛布に潜り込んで、寒いというのはまずいのではなかろうか。

目が覚めたので、風邪に気づいた瞬間反射的に買い込んでいたミカンを食べてみる。むう、これは痛い。ミカンの味を「痛い」と感じるのは初めての経験かも。

そんなこんなで割と悲観的な気分になっていたのだが、かかってきた電話に応答している内に回復してきた。人生で大事なものはやはり気合いですね。あとタイミングにC調に無責任。

気力が回復している内に飯を作り、食う。グリーンアスパラとソーセージを茹でるだけの行為を「作る」と表現すべきかどうかはともかくとして。

飯を食いながら、先週末に借りた「モンティパイソン・アンド・ナウ(吹替え版)」を見る。最高。いやもう、広川太一郎のエリック・アイドルが抜群の出来。独特の早口の語りが見事に役柄に嵌まっている。他の声優陣(納谷悟郎、山田康雄、青野武、飯塚昭三、古川登志夫、松金よね子)の演技も絶品。これを見てた年寄りが、字幕版の"Flying Circus"に不満を述べるのは納得がいくな。ああ、元祖16tを見られたのも収穫でした。この感動を大切に明日に繋げよう。

なんか体調が良くなった気がしてきたので、“あの”<未来放浪ガルディーン>の三巻、火浦功『大豪快。』(角川スニーカー文庫)の巻末付録、「無謀大対談の復活」を読む。うーむ、なにもかもみな懐かしい。本文は「中学生の夏の日」が否定されるのが怖くて読み出せないから、もうしばらくカバーイラストでも眺めていよう。

麻のスーツにニットタイ、スリム<口先男>ブラウンだよぉぉぉぉぉぉ(感涙)。

12月28日
目が覚めても体調が良いような気がするという錯覚は続いていたので、久保書店の本が並んでいるという噂の、船橋の旭屋書店まで行ってみる。

なんかポップでも立てて特殊な場所に隔離されているのかと思ったら、SFの棚に普通に並んでいたんでちょっと驚いた。『第3次大戦後のアメリカ大陸』『ファウンデーションと混沌』が平然で並んでいる棚はわりとかっこいい。
いろいろと「なるほど」と感心しつつ、QTブックス2冊、SFノベルス1冊の他、いまさらな新書やハードカバーを4冊ほど購入。いやあ、いまさら橋元淳一郎『人類の長い午後』(現代書林)が手に入るとは思いませんでしたね。
レジで並ぶ際に安田ママさんをお見掛けしたのでご挨拶しようかとも思ったが、仕事の邪魔にならぬよう目礼だけに留める。レジの担当者の人は、やはり久保書店本で一瞬詰まっていた。さもあろう。
まだ病み上がりなので、疲れが出ないうちに柏に戻り、昼寝。

随所で話題になっているようなので、SFM01/ 2掲載の記事、「完全保存版:21世紀SFのキイパースン[国内篇100]」のライター毎担当リストを作ってみた。
11人のライターそれぞれについて、担当人数、担当クリエイター名を列記している。なお、クリエイター名の後のカッコ内は、SFMに記載されていた「職業」。大槻ケンヂが作家になっているなど難しいところはあるが、どうせ便宜的なものなので気にしない。
「誰を担当するか」というのはライターの意志だけで決まるものとも思えないので、このリストから過剰な意味を読み取るのはお勧めしないが、例会でのバカ話ネタとしては使えるのではないだろうか。なお、元リストはCSV(というかK3というか)で作っているので、リクエストがあればアップするかも。

「完全保存版:21世紀SFのキイパースン[国内篇100]」のライター毎担当リスト
  • 尾之上俊彦(担当人数:7人)
    • 芦奈野ひとし(漫画家)、遠藤浩輝(漫画家)、黒田硫黄(漫画家)、サガノヘルマー(漫画家)、新谷明弘(漫画家)、永井幸二郎(漫画家)、やまむらはじめ(漫画家)
  • 風野春樹(担当人数:9人)
    • 池上永一(作家)、石黒達昌(作家)、井上雅彦(作家)、梅原克文(作家)、大槻ケンヂ(作家)、小川一水(作家)、貴志祐介(作家)、中井拓志(作家)、山之口洋(作家)
  • 柏崎玲央奈(担当人数:14人)
    • 秋山瑞人(作家)、伊吹秀明(作家)、岡本賢一(作家)、上遠野浩平(作家)、川上弘美(作家)、北野勇作(作家)、小林めぐみ(作家)、小松由加子(作家)、佐藤亜紀(作家)、篠田節子(作家)、鈴木光司(作家)、高畑京一郎(作家)、西澤保彦(作家)、森博嗣(作家)
  • 喜多哲士(担当人数:15人)
    • 浅暮三文(作家)、加門七海(作家)、佐藤大輔(作家)、霜島ケイ(作家)、高瀬彼方(作家)、田中哲弥(作家)、田中啓文(作家)、富樫倫太郎(作家)、とみなが貴和(作家)、夏見正隆(作家)、林譲治(作家)、平谷良樹(作家)、藤田雅矢(作家)、牧野修(作家)、毛利志生子(作家)
  • 小林治(担当人数:4人)
    • 岡村天斎(アニメ監督)、桝成孝二(アニメ監督)、水島精二(アニメ監督)、米たにヨシトモ(アニメ監督)
  • 添野知生(担当人数:3人)
    • 樋口真嗣(映画監督)、細田守(アニメ監督)、山崎貴(映画監督)
  • タニグチリウイチ(担当人数: 9人)
    • 安部吉俊(漫画家:「吉」の上側は実際は「土」)、緒方剛志(漫画家)、鬼頭莫宏(漫画家)、霜越かほる(作家)、寺田克也(漫画家)、富沢ひとし(漫画家)、内藤泰弘(漫画家)、森奈津子(作家)、柳原望(漫画家)
  • 福井健太(担当人数:12人)
    • 小田ひで次(漫画家)、駕篭真太郎(漫画家)、北川歩実(作家)、京極夏彦(作家)、柴田よしき(作家)、瀬川ことび(作家)、柄刀一(作家)、冬目景(漫画家)、弐瓶勉(漫画家)、古屋兎丸(漫画家)、麻耶雄蒿(作家)、丸川トモヒロ(漫画家)
  • 冬樹蛉(担当人数:10人)
    • 岩本隆雄(作家)、小林泰三(作家)、瀬名秀明(作家)、高野史雄(作家)、野尻抱介(作家)、平野啓一郎(作家)、藤崎慎吾(作家)、三雲岳斗(作家)、森青花(作家)、森岡浩之(作家)
  • 三村美衣(担当人数:16人)
    • 秋田禎信(作家)、秋山完(作家)、飯田譲治(作家)、荻野目悠樹(作家)、乙一(作家)、恩田陸(作家)、茅田砂胡(作家)、金蓮花(作家)、五代ゆう(作家)、庄司卓(作家)、須賀しのぶ(作家)、妹尾ゆふ子(作家)、古川日出男(作家)、古橋秀之(作家)、目取真俊(作家)、米田淳一(作家)
  • 和久井博人(担当人数:1人)
    • 佐藤哲也(作家)


12月29日
昼前に神保町へ。なにやらいろいろと廻ったはず。途中、SF宝石80年12月号を発見し、購入。これでSF宝石はコンプリートとなった。めでたい。

九段下から渋谷方面に移動する予定だったのだが、なんとなく歩いているうちに靖国神社に寄ってしまう。まあ、そういうこともある。
靖国神社の境内を歩くうちに様々なことに打ちのめされる。おそるべし、護国の神社。

市ヶ谷から青山に出て、ABCへ。ペヨトル工房の無くなるよフェアに負けて3冊ほど購入。キャサリン・ダン『異形の愛』、J・G・バラード『クラッシュ』、キャシー・アッカー『アホダラ帝国』というラインナップは我ながらちょっとどうかと思う。

渋谷まで歩き五島プラネタリウムの投影を見る。えーと、そのなんだ。名古屋市科学館の学芸員ってレベルが高かったのか。

つい油断して、三省堂コミックステーションで、いまさらにもほどがある鈴木志保『船を建てる』1、2巻(集英社ぶーけコミックスワイド版)を買ってしまう。学生時代にぶーけで連載を読んで以来、買おうかどうしようか悩んでいたもの。ここまで、がまんしてたんだけどなあ。

12月30日
鈴木志保『船を建てる』1、2巻(集英社ぶーけコミックスワイド版)を読む。ああ、そうだ、これだよ、これ。この世界だよ。

なぜか二本足(ヒレ?)で立ち、言葉を話すアシカたちの世界。そこに生きる、煙草とコーヒーの二人(頭)組と、その周囲のアシカたちが、人生の機微を語る。曰く、「チェリーが祈ってあげるわ 冷蔵庫で腐りゆく海老やその他諸々のためにね」。曰く、「銅像になっちゃった スクリューが待っているからね」。無用にシュール。過度に感傷的。しかし、それが心に染み入るときもあるわけで。

いやだから良いもんは良いんだよ。

12月31日
親切な方からのご指摘を受け、「完全保存版:21世紀SFのキイパースン[国内篇100]」のライター毎担当リストの誤字、誤植を訂正。あまりにも恥ずかしい間違いなので、修正履歴は残しません。< 卑怯

夕方から、掃除をしたり、年越し蕎麦を食べに行ったり、レコ大だの紅白だのゆく年来る年だのを見たりする。まるで大晦日のような過ごし方である。テレビから鳴り響く除夜の鐘を聞くうちに、いつもと変わらぬごく普通の一年であるところの2000年も暮れていった。

思えば、今年後半は労働環境、居住環境、人間関係など多岐にわたる変化の年であった。変化は、自分がそこで要求されるものに見合った能力を持っているかという不安を除けば、概ね良い方向のもの。来世紀もこの幸運が続いてくれることを祈る。
# って、今からそんな守りに入ってどうする。
## 20世紀最後のネタがツッコミかよ。
### いや、それでもメタツッコミよりはマシだろう。

次回へ

このページのトップへ