富士 - 特別急行第2列車 東へ -

伝統の富士山マークが雨に濡れる 交流機ED76最後の舞台
[D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D]

真夜中に目が覚めた。

ロングレールに乗るわずかなジョイント音が、順調な運行を示している。深夜時間帯ではあるが、京阪神地区は寝台特急がもっともスピードに乗る区間だ。

EF66 45率いる上り〔はやぶさ・富士〕は姫路でいったん停車した後、再び緩やかに加速する。灯りを消したまま窓外を眺めていると、やがて一瞬の光芒、轟音とともに機関車とブルーの客車12両が流れ飛んだ。深夜2時――東海道・山陽本線1・2列車の離合は、所定では加古川付近でくりひろげられる。


激震

東京に到着した上り〔銀河〕 廃止の噂が立つと同時に撮影者が増えた (2007-12△)

2007年11月、衝撃のニュースが報じられた。

「寝台急行〔銀河〕、寝台特急〔なは・あかつき〕を2008年3月で廃止。…〔富士・はやぶさ〕についても2009年に廃止の方向で検討中―」。

前々からそういう噂があることは耳にしていたものの、やはり事実上の廃止宣告には、ついに来るべきものがきたかという思いが強かった。12月になってJRから正式なリリースがあり、その後〔銀河〕〔なは・あかつき〕に関しては記すまでもなく。

この改正で〔富士・はやぶさ〕が持ちこたえたのは、今となっては不思議としか言いようがない。しかしその先に待ち受けるものには誰もが気にせずにいられなくなった。それでも利用が回復することはなく、2008年10月には、「2009年3月のダイヤ改正で廃止の予定」と報道される。そして年の瀬も迫る12月21日。JR各社プレスリリースの片隅に、「ご利用の少ない『富士・はやぶさ』の運転を取りやめます。」と一文だけ記されていた。

そういえば、九州特急自体への乗車も久しくしていなかった。〔はやぶさ〕は博多→東京で、〔富士〕は小倉→東京で乗ったことがある。まだ24系単独で運行されていた時代で、それから激動の流転を経て併結の現在まで、東京〜九州特急はとんとご無沙汰だった。

シングルDX指定の寝台券 個室は基本的に横長券
※ 使用前にドキュメントスキャナで取り込み 一部情報は削除しています

来たるべきその日まで、残された時間はもう少ないかもしれない。大騒ぎになる前に、栄光の1・2列車〔富士〕に乗っておこうと思う。2008年9月頭の週末、みどりの窓口へ向かった。インターネット予約では、寝台券を買うことができない。

「取れますね」「ではお願いします」

日曜発だからだと思うが、あっさり個室が確保できた。A寝台個室「シングルDX(デラックス)」。元祖となるオロネ15 3000番台(もとオロネ25)も、一度体験しておきたかった。