富士 - 特別急行第2列車 東へ -
終息
大雨による大幅遅れから、昼過ぎになって熱海に到着した上り〔富士・はやぶさ〕(2008-8) |
明石海峡大橋を見てから名古屋(5:16; 以降定刻着時刻)まではほとんど覚えがないから、いちおう寝たのだろう。いくつになっても夜行では気分が高ぶるのか、それともトラブルを用心するのか、なかなか寝付けない。お酒を飲むとすぐ眠くなるから、と一度ビールを飲んで乗ったら逆効果、頭痛ばかり続いて大変だった。
ここで車内販売員が乗り込み、浜松(6:30)に到着するころの「おはよう放送」とともに販売を開始する。コーヒーや缶飲料、サンドイッチ、弁当などをワゴンに載せて販売。なかでもホットコーヒー300円は、車内で暖かいものを取ることができない現在では、貴重な熱源である。(自販機はまだ冷飲料のみだった) 新幹線パッセンジャーサービスが担当。東京からは新幹線で折り返すものと思われる。下りは徳山〜〔はやぶさ〕博多までで、こちらも帰りは新幹線だろう。ようやく回ってきたワゴンからコーヒーを購入するころ、列車は静岡(7:26)に着いた。
あいかわらずの雨の中を、列車はほぼ2分遅れを保ったまま東上を続ける。8時すこし前、富士川の鉄橋に差し掛かった。富士山は見えるはずもなく。渡って着いた富士(8:00)では373系が並んだ。3月改正で臨時列車になる〔ムーンライトながら〕の「折り返し回送」を兼ねる同列車は、夜の「送り込み回送」と並んで、現在東京〜静岡間を結ぶ唯一の普通列車である。臨時化後はJR東日本の189系(現在の〔ムーンライトながら81・82号〕)となるが、この列車は残ることになった。
沼津(8:16)に停車、三島は通過して丹那トンネルを過ぎると関東圏。熱海(8:34) の発車メロディがJR東日本のエリアに入ったことを知らせてくれる。この先途中停車駅は横浜一駅だけだが、先行する普通列車はわずか2本しか追い抜けない。いまのブルトレに急行を期待するのが間違っているといえばそうで、逆に時間の余裕を楽しむと開き直ればよかったのだ。〔トワイライトエクスプレス〕はそうして成功した例といえるが、ほかの列車は大して速くもないのに途中駅の停車時間ばかり削られ、その余裕のなさも敬遠される理由ではなかったかと思う。
見覚えのある撮影名所が次々と訪れ、しかし平日で、この天気では撮影者もないだろうと思っていたのだが、根府川の先、S字に一人見つけた。
東京駅に到着した上り〔富士・はやぶさ〕ホームはまだ静かな雰囲気 |
機回し回送するEF66 45 |
最後の停車駅、横浜(9:35)。ラッシュのピークを過ぎてはいるが、それでも雑踏の中にとどまるブルーの車体は違和感がただよう。並走・離合する列車も一気に増え、都会へ戻ったことを実感する。品川を過ぎると右手には田町車両センター。その先にはかつてブルートレインやその牽引機が肩を並べていたものだが。広大な敷地が果てるころ、最後の車内放送が流れた。
終着駅東京(9:58) 10番線へ停車するころ、時計の針は10時を指した。今朝がたからずっと約2分の遅れであった。先頭・後部にはファンが数人集まっている程度。降車終了の合図を受けてサービス電源のエンジンが止められ、灯りも消えた。
このあと列車は下りと同じようにEF66が9番線経由で機回し後、編成を品川へ引き上げる。2006年の〔出雲〕廃止以降、上り列車についてはひとあし先に機回しが復活していた。
横浜駅の下り〔富士・はやぶさ〕 EF66の先には撮影者が密集 (2009-2) |
最終日となる3月13日発車ぶんは、上下各320名の寝台券が10秒で売り切れたそうだ。普段からこれだけ乗ってくれれば…とはいつも言われることだが、今回もまたそうなのである。
18:03に出発する下り列車については、冬場は日没が17時台ということもあり、撮影は事実上駅などに限られている。とくに東京駅では機関車前頭の撮影が難しいため、そのアングルで撮れる横浜駅での撮影者が急激に増えてきた。このため現場でも警備員を配し、平日から発着時刻の近い上り列車を待避線側へ迂回させるなどして、神経を尖らせている。
そんななかで、2011年3月から走る山陽・九州新幹線直通列車(新大阪〜鹿児島中央)の名称が〔さくら〕に決定した。在来線による九州への道筋は断たれてしまうが、〔富士〕と並んで歴史のある名称が新たな生を受けることは、ブルトレへのひとつの鎮魂になるだろう。その想いをつなぐためにも、最後まで無事に走り抜いてほしいと願う。そしてまた、伝統の名称と再会できる日を、静かに待ちたいと思う。
3月13日、薄暮の東京駅から〔富士・はやぶさ〕は最後の旅に立つ。東京で日没が18:03になるのは、4月1日のことである。
- 写真の一部には「鉄道ファン」(交友社)掲載分が含まれます (△=2008年3月号速報 ☆=2009年3月号特集 ★=2009年4月号REPORT)
- 特記以外の写真=2008-10撮影