富士 - 特別急行第2列車 東へ -

空間

オロネ15 3000番台のサイドビュー (上: オロネ15 3002 天拝山-原田 2009-1★ 下: オロネ15 3006 岡崎-幸田 2008-5★)

それでは、元祖シングルDX・A寝台車オロネ15 3000番台のインテリアを見てみよう。もとは単なる「A個室寝台」で、マークもベッドに「個」だったが、国鉄末期に のちの〔北斗星〕用となる2人個室「ツインDX」(オロネ25 500番台)の登場時に、区別のため名称がつけられた。寝台料金は13,350円。半端な額面は歴史的経緯を含んでおり、グリーン車・A寝台に課せられた通行税(10%)を含む14,000円が、1989年の同税廃止・消費税導入で改定(税率3%時は13,100円)されたものだ。

本日の車両はオロネ15 3005。もともとは24系25形のオロネ25 5として製造されたもので、国鉄製造の14・24系では唯一、新製時からの個室車両である(ほかにはJR東日本が「夢空間」で試作したオロネ25 901「デラックススリーパー」しかない)。室数は14。ナロネ20は1人×10+2人×4の定員18名だったから、当時の国鉄車両では最も定員が少なかった。

A個室の座席モード 狭いながらも占有できる空間だ肘掛を跳ね上げると背ずりが引っ込む さらにベッドをスライドすることも可能

座席兼ベッドは枕木方向に設置されていて、座った場合に奇数室は東京向き、偶数室は九州向きとなる。窓は上り列車に対し進行右側で、1・7号車とともに豊後水道・周防灘・駿河湾・相模灘を眺めることができる、まさに「海側」だ(そのかわり富士山は見えない)。

背もたれは厚く、登場当時から床も絨毯敷きとなっている。このあたりはさすがにB寝台と格が違う。その両脇には肘掛がついているのだが、これを持ち上げると背ずりが引っ込む。さらに、座席下にあるレバーを押し下げると座面が手前にせり出して、B寝台と同じ公称70cm幅ながらベッドをより広く使える、という仕掛けだ。

通路側には読書灯と電灯スイッチ、空調制御ツマミがある。つまり通路側を頭にして寝るのが基本だ。その上には荷物置場の棚。

登場当時は扉に窓がついていた。当然、廊下からのぞかれたり、灯りが漏れたりしないように、カーテンを閉められるようになっていた。リニューアルの際に窓なしの扉に交換されていて、扉脇の妙な位置にあるフックは、その名残である。

窓側の四角いテーブルに取っ手がついているが、これを引き上げると洗面台があらわれる。走行音が若干大きくなるが、これは排水口が線路面近くまで降りているためだ。お湯と水のレバーをそれぞれ捻って水を出す。ステンレス製と陶器の違いだが、リニューアル前の洗面台と似た感じだ。各室に洗面台が備えてあることから、車端にあるのは共用のトイレ(和式・洋式)だけで、洗面台は持たない。

脇には鏡と、シェーバー用のAC100Vコンセントがひとつ。いちおう用途外との断りつきになるが、ケータイの充電も可能ではある。ほかにコップとペーパータオルが備わる。お手洗い(トイレ・洗面台)にペーパータオルを備えるのはA寝台のみの特権(?)だ。以前は普通列車など紙すら備えない例もあったそうだが、いわゆる「黄害問題」から垂れ流しが禁止となったため、現代の列車トイレには最低でもトイレットペーパーは常備されている。

寝具類は基本的にB寝台と同じだが、洗面台がついていることで、タオルも置いてある。九州ブルトレのマークイラストが印刷されたもので、アメニティとして「お持ち帰り」可能。浴衣は「エ」だらけだが、「工(工事のコウ)」である。これは国鉄の前身が工部省に属したことに由来し、JNRマーク(1958年制定)以前の国鉄の標章であった。また整備基地により「JR」マークの柄もあったりする。

壁には灰皿が取り付けられている。(寝タバコは厳禁!) 灰捨てが簡単にできる独特の構造で、列車の禁煙化が進んだいま、なかなかお目にかかれないアイテムのひとつだ。禁煙室は現在に至るまで設定されておらず、しかし意外にも部屋の中でほとんどタバコ臭は感じなかった。きれいに清掃されていたのはもちろんだが、もともと使われること自体が少ないからだろうか。となりの車両、廊下まですこしヤニっぽいB個室「ソロ」とは対称的だった。

鍵が掛けられるから、車内巡りや駅ホームに降りるのに、手荷物などを気にせずにすむのも良い。かつては編成端つまり行き止まりの場所に位置し、デッキ脇には車掌室があったので、いちおうの安心も保たれていたということだが。現在は車掌室も使われず、「乗客専務車掌」という赤いプレートだけが残されている。鍵は3室のみシリンダ錠で、ほかはテンキーによる暗証番号式である。


洗面台A個室の廊下

……とまあ設備だけで言えば至れり尽くせりかもしれないが、実際の使い勝手はというと、「うーん……」とうなってしまうのだ。

想像した通り、部屋自体がとても狭い。座ると目の前が壁で、正対して座ると足は伸ばせない。ウナギの寝床というか、口の悪い人からは「独房」とまで言われたのも無理もないかなと思う。

洗面器は小さく「かえし」もないから、気を付けないと水がシートにこぼれる。テーブル兼用だから、使うときには載せていたものを他に移動しなければならない。前述のとおり共用の洗面台は同車にはない。まあ、1・3号車まで足を運ぶのもたいした手間とはいえないが。

窓側に座ろうと思うとこの洗面台と配管が足元を邪魔して、斜めに座るしかない。真ん中なら足元も少しは余裕があるけれど、そこには鏡があってずっとご対面。灰皿がここにあるから(私は吸わないが)タバコを吸う自分の姿をじっくり眺められる。

背もたれと座面が動く構造はギミックとしては面白いけれど、背もたれがずいぶん高い位置で終わっているので、腰の据わりがすこぶる悪い。一晩かけていろいろと試してみたが、けっきょく背もたれを下げて枕を腰に当てる、あるいはあぐらをかく、あきらめて寝る、のどれかだった。つまり、座席にした状態が一番居心地が悪いという、なんとも残念なつくりなのである。まあ、寝台車の本分とは寝ることであるから、その点に関していえば十分すぎる設備なんだろうが……。

この反省を踏まえてか、JRになってから登場したシングルDXはだいぶ改善された。部屋自体が広くなったし、ソファとベッドの役割がきちんと分担され、テレビも備わっている。「サンライズ」は2階建ての広さを活かして、きちんとした椅子と机を備える。