FURIKO de SHIKOKU
番外走者 : 宇和海3号 〜 2000系 (JR四国) 〜
松山 9:00 -(1053D)- 9:41 伊予大洲 9:43 -(4728D)- 10:50 伊予市
振子列車の投入は悪い線形でもそれなりに走れるようにするのが目的だが、鉄道の高速化はもちろんそれだけではない。電化、複線化、曲線改良、軌道強化、駅構内分岐器の取り替え、そして高速・高加減速車両の投入……
その究極が新幹線に代表される新線の建設。松山の西、伊予市(いよし)と伊予大洲(いよおおず)の間に建設された予讃線新線・内子(うちこ)線は非電化単線ながら新幹線なみの高規格線路で、ハイパワーなディーゼルカーとあいまって松山〜宇和島の時間短縮に貢献しているが、それと引き換えに特急列車は夕陽の美しい伊予灘の観望を失ってしまった。
8月6日。予讃線の新旧区間を乗るため、きょうは伊予大洲までの往復。いつのまにか満員になった〔宇和海3号〕は松山を発車すると鋭い加速で伊予市へ。旧線と別れる向井原(むかいばら)は1面1線の駅で、たちまちポイントを通過し山奥へ向かう。
新幹線を思わせる高架軌道を飛ばし、四国最長の犬寄トンネルを通過。内子から新谷(にいや)までは内子線である。これより少し前に、北海道で石勝(せきしょう)線が開通したときは、それまでの夕張線という名称を石勝線に変え、道東への幹線の座に就いた。このあとの国鉄運賃値上げで「幹線」「地方交通線」で運賃が異なることになり、内子線 (五郎(ごろう)〜内子) はまだローカル路線なので地方交通線に編入、その後予讃新線が開業しても名前ごと残り、実態はローカル線の幹線と、メインルートになった地方交通線ができあがった。特定地方交通線同様、ここにも線名だけですべてを決めてしまったための矛盾が起きている。
新谷を通過して (また予讃線に戻る) しばらく走ると、右に旧線の築堤が伸びていき、そしてすぐに右から予讃線旧線が寄り添う。合流してしばらく走ってから伊予大洲に到着。
二等辺三角形の2辺をたどる旧線の列車はキハ32単行、トイレ無し。今来た道を戻り、内子線の線路跡を受け入れたところが五郎、内子線のもと始発駅は小さな駅。なぜ最初から伊予大洲を始発にしなかったのだろうか? 確かに「松山方面から」の方が優先されるとも思えるが。
伊予長浜で海岸線に出て、「海と夕陽の見える駅」として有名な下灘(しもなだ)まで海沿いに走る。ロングシートなのが難点で、首をかしげて外を見る。そこには伊予灘が一面に広がっている。下を走る道路は「夕焼け小焼けライン」という名前がついている。地図ではあまりわからないが、線路は小さく曲がりくねって、確かにこれでは遠まわりなのはともかく、スピードアップは望めそうにない。
実質的にはこちらがローカル線に転落したのを逆手に取り、JR四国では海岸線をゆっくりと走るトロッコ形車両の運転をはじめた。その〔海辺のトロッコ1号〕と、海岸を離れた伊予上灘(いよかみなだ)で行き違う。向井原で新線と合流し、伊予市で下車。伊予鉄道の郡中港(ぐんちゅうこう)駅がすぐ近くにある。
振子車の課題
軌道の強化
振子の原理を使っているということは、曲線に入ったときに車体重心が線路中心より外側に振れている。
そんな車両が高速で通過するのだから、そのぶん軌道への負荷も大きい。
また、曲線が急になるほどボギー台車の輪軸角度差が軌道に与える影響も無視できない。383系電車、283系気動車ではつねに輪軸が曲線中心を向くようにする「自己操舵台車」を採用している。
振り遅れ
すでに記したとおり、自然振子方式では遠心力を回転力に利用するため振り遅れ、通過後の揺れ戻しが生じる。また、車体の下部すなわち床部が回転するため、特に振り遅れが生じると、立っている人が足元をすくわれることになる。
これらの問題については傾斜制御を行うことでほぼ解決を見ている。
集電系
車体が大きく傾くため、パンタグラフの移動も大きくなる。そのため架線の左右変動量をおさえて吊架する必要があり、381系の投入された線区ではその措置が取られ、それ以外の区間では振子機能を停止している。
2000系に続いてJR四国が開発した8000系電車では、屋上に設置した円弧型のスライダーの上にパンタ台を載せ、足元の台車からワイヤーで引っ張っている。
つづいて登場したJR東日本のE351系、JR九州の883系では、台車からアームを立ち上げ屋上のパンタ台に直結する方法を取った。
381系を置き換える目的で増備されたJR東海383系とJR西日本283系については、地上設備がすでに整えられている理由でパンタグラフは屋上固定となっている。
車体形状の問題
回転の問題から車体裾部を通常の車両より大きく絞らなければならず、出入口とホームとの間に大きなすき間が生じている。バリアフリーが声高に言われる現在、こんなにすき間が空いているのは健常者にとっても問題といえよう。可動式ステップの装備が望まれる。
381系ではデッキと客室の間に段差が生じた。以後の新車では出入口を含めてより低重心化を進めているが、一方で連結器の高さはこれまでと同様にとどめなければならず、連結部間通路に段差を生じている。編成がほぼ固定されていれば、中間連結器を低く押さえるという対処法もあるが、増解結を頻繁に行う車両では難しい。