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UP DATE .2001.2/8
第17回 スペシャル・インタビュー
バックナンバー改訂に寄せて
2001年、『お酒について語らせて』のバックナンバーが一部改訂いたしました。今回ここで、その経緯や
これからの『お酒に・・・』に関する展望等を執筆者であるNumberさんにインタビューしたいと思います。
インタビュアーは私、南場釣遊です。
何故書き換える必要があるのか?
Q:「どうもこんにちは。早速ですが、今回改訂したのは
第1回カクテル 第2回ウイスキー 第3回お酒と対峙する 第4回ジン 第6回ラム 第7回マティーニ と 初期の作品殆どですね。なんで一度公開した内容を書き換えようと思ったんですか?」 N:「端的に言うと自分で納得出来なくなったからです。」 Q:「どういったところが?」 N:「そもそもこの『お酒について語らせて』というコラムは、元々 僕がお酒が好きで、それはただ 単に飲んで美味しいという事だけではなくて、お酒とのつき合い方 拘りや楽しみ方、そう言う数え切れ ないお酒が織りなす世界を好きになって、この素晴らしい世界をみんなにも知って貰いたい、伝えたい、 そういう思いから始めたコンテンツなんです。」 Q:「それは今でも変わっていないのですか?」 N:「変わっていません。」 Q:「当時からそういう気持ちで書いて公開し、今も気持ちは変わらない。だったらなぜ書きなおす必要が あったのか疑問なんですが?」 N:「『お酒について語らせて』は、お酒を知らない人にこそ伝えたい企画だったわけですが、当時の僕は、どうしても概論的な説明を織り交ぜて 理解してもらった上で話しを進めていかなければならないと思っていました。それは 基本こそが大切という思いが強かった為です。結果 お酒のカテゴリーや規定をまず 最初に書くようになっていたんです。」 Q:「しかしそれは、例えばジンというお酒をテーマに語ろうと思った場合、ジンとは何か?という答えを はじき出すことになるわけですから原材料や製法の規定とかを記すのは必要な事なんじゃないですか?」 N:「そうだね。 まずそのテーマにしたお酒がどんなものかを知った上でないと、そのお酒のすばらしさは 解らない 当時の僕は確かにそう思ってました。そしてその通り綴りました。」 Q:「しかしそれは違う、と?」 N:「思いました。つまり、今までの書き方は お酒をある程度知っている人でないと楽しめない、そんな コラムにしてしまっているなと思うようになったんです。知らない人に、まず概要を知ってもらうことか ら初めていた。読む人からすれば、それは苦痛になってしまう とても危険なものだと感じたんです。 僕はこのコラムを、お酒の辞書的なものにしようとは思わなかったはずですし、僕自身お酒の博士に なるつもりは無かった。つまりお酒を研究材料にして的確に答えをはじき出すプロフェッサーになんか なりたくなかった。ジンとは何か?ラムとはなんなのか?そんな事を知りたいなら本を開けば良いし、 そういったサイトを設けている人はたくさんいます。僕がやる必要はない」
再びインターネットで
Q:「次の質問ですが、お酒を知らない人に お酒の魅力を伝える為のコラム『お酒について語らせて』を
インターネットでやる必要があるのでしょうか?もっと突っ込んで言わせて貰うなら、インタ
ーネットでなければいけないものでは無いでしょう?」
N:「確かに、お酒についての魅力を伝えるならグラスを前にして共に語り合った方が確かだと思います。 最終的にお酒のすばらしさを体感してもらうのはバーであったり、 自宅であったり、あるいは自然の中かもしれません。いずれにしてもグラスの前でなければ答えは出ない かもしれない。僕の拙い文章が足枷になってしまう可能性も非常に高いからね(笑)。 けれどもお酒を知らない人にとって、少なくとも飲酒を日常にしていない人々にとって お酒を手にする 事、あるいは酒場に赴くことは『わざわざな行為』『勇気のいる行為』な筈です。わざわざそうさせる 切っ掛けになる為に、彼ら彼女らにとって、とてもとても重いバーの扉を開ける切っ掛けになるために、 僕はインターネットは最適じゃないかと思います。そしてこのコラム『お酒について語らせて』も。 少なくとも僕はそう思っています。このコラムを読んでバーに足を運んでくれる人がいたら とても嬉しい。」
コンテンツを設けて
Q:「ところで、今までのこのコラムの反響というのはどんな感じでした?」
N:「開設当初はサイト自体がリンクフリーではなかったし(今はフリーです)、そう沢山の人に見てもらっているのかというと解らない けれども、とても嬉しく思うことがたくさんありました。」 Q:「それはどのような?」 N:「やはり『共感した・私もそう思います』といったご意見は本当に嬉しい。自分の感覚は間違ってなか ったんだなっていう安堵感に繋がったりね。飲み方の提案とか描写に対して『今度やってみよう、やって みました』というのもそうだね。」 Q:「好意的な意見ですね。反論とかは無いんですか?」 N:「ありません。もっともそんなマンモスサイトではないし、温かい目でみてくれているリピーターが 多いからだろうね」 Q:「執筆者としての不安は無いですか?」 N:「本当に自由に書いているから 不安というものは無いけれども、責任は感じています。いい加減なこ と、少なくとも間違った事は書けない。実際、僕のコラムを読んでお酒に関系する生業についたとか、 お酒との日常的なつき合いを改めるというメールを頂くと、嬉しいと同時に襟を正さなきゃと思います。」 Q:「このコラムが温かい人との繋がり、関係をもたらしてくれているんですね」 N:「そう思います。」
日本の酒文化
Q:「Numberさんが取り組んでいる内容に水を差すようですが、今の若い人たちって、お酒の事を良く
知ってますよね?」
N:「そうかな?」 Q:「ワインブームがあってテレビでもソムリエにスポットを当てたプログラムが多かったり、ビールも モルト100%を初め色々な銘柄が作られています。焼酎にしても原材料がバラエティーに富んだ本格焼酎を 色々飲み、高価なシングルモルトウイスキーを好む人が増えて、日本酒も大吟醸とか贅沢なお酒を飲む 人が増えてますからね」 N:「そうだろうか?本当にそうだろうか?」 Q:「と 言うと?」 N:「確かに、たくさんのカテゴリーのお酒で次から次へと新しい銘柄・商品が誕生しています。そして それらを若い人中心に口にする機会も増えていると思います。しかしそれは、果たして本当に本人の 意志によって愛飲されているのかと言うと、僕はそうじゃないような気がする。何か商業的な団体による コマーシャリズムやマスコミュニケーションの力に操られている、そんな気がしてなりません。」 Q:「むぅ・・・」 N:「確かにあらゆるお酒を口にする切っ掛けとしてブームというのは大きな役割を果たしていると 思います。僕の周りでは特にお酒とのつき合いを大切にしている人たちが多いし、お酒を日常にしている 輝ける飲み手達が沢山います。しかしそれは極一部の人たちであって、若い人たち全般が色々な銘柄を 飲んでいるという事実だけを捕まえてお酒を知っているというのは危険な事のような気がする。 例えば今、人々は海外に赴いてまでブランド物を手に入れたり、有名な車や人気の品々を購入しています。 いずれの商品も他人から声望を与えられてる物ばかりで、本当に自分の中から必要と判断したものと 向き合っている人は僅かな人なんではないかと思うわけです。外的な情報に踊らされてしまっている、という。 同時に内的な思いこみ、錯覚もあると思うんです。僕自身、ひとつのお酒に魅了されると、 他の物が目に入らない時がまま有ります。それはその他にも無限にあろう素晴らしいお酒の魅力を 自らスポイルしてしまう可能性をはらんでいます。場合によっては現在魅了されているもの以外を否定して しまうことさえありました。これはとても危険な事です。そう とても危険な事なんだ。」 Q:「そうすると、まだまだみんな何も解っちゃいない、と?」 N:「誤解しないで欲しいのは、僕はなにも高台に立って説法を唱えているのではないという事なんだ。 初めはお酒の事なんて何も知らなくて、そう 初めは誰でもそうなんだ。そのうち飲酒を経験して、 沢山の魅力を体感したとしても、お酒の魅力は尽きる事がない。お酒の知識というのは、そうそう覚え きれるものじゃないんだ。だからと言って途方に暮れる必要なんか 何処にも無くて、無尽蔵に降っては湧いてくるお酒の魅力を、やはり無尽蔵に体感出来るということなんだ よね。そうすると、お酒の事を知っているなんてそうそう言えるもんじゃない。それは僕も当然そうで、 このコラムでは特にお酒を知らない人に向けて、と言っているけれども、もちろん十分にお酒の魅力を 体感した事のある人にも読んでもらいたいんだ。お酒とのつき合いは生きている限り続けられるし、 周りの大切な人々に『あの人はお酒を愛した』と正しく認知されれば、天国にいったってお供えしてもらえるからね。僕は、お酒を飲むという ていたらくな行為をとても温かいものとして捉えたいし、捉えて欲しいと思っています。身体と心で飲んで、決して頭で飲んで欲しくはない。自らの意志で飲んで欲しい。そ うした個々の飲酒こそが、日本の酒文化なんだ。日本の酒文化は、正に僕たちが今、これから作り上げて いくものなんだ。決して商業的な団体のコマーシャリズムに作られるものじゃない と、僕はそう思 います。」 Q:「今後はどうやって続けていくんですか?」 N:「きっと基本的な心構えは変わらないと思います。お酒の世界で、素晴らしいと思った・体感した事柄を綴っていきたいと思います。そうしてこのコラムを読んで、素晴らしいお酒の世界を体感する人が一人で も多くいてくれるととても嬉しい。 ただ、その方法論や表現に関してはどうなるか僕にも解りません。でもきっと楽しんで書いていきたい。 楽しく無くなったら、またしばらく書かなくなるだけです(笑)」 Q:「僕もお酒は大好きなので、これからも書き続けてくれることを期待します。身体に気を付けて 頑張ってください。」 N:「お互いにね。」 |