書名:花神(上)
著者:司馬 遼太郎
発行所:新潮社
発行年月日:2015/2/5
ページ:472頁
定価:710 円+税
書名:花神(中)
著者:司馬 遼太郎
発行所:新潮社
発行年月日:2003/2/20
ページ:511頁
定価:667
円+税
書名:花神(下)
著者:司馬 遼太郎
発行所:新潮社
発行年月日:2009/6/30
ページ:553頁
定価:743 円+税
大村益次郎(村田蔵六・良庵)というと靖国神社の大鳥居と神社の間の広場に銅像があります。東京招魂社(後の靖国神社)を創建を提案した人の一人として大村益次郎がいます。大村は第二次長州征討の少し前、突然、桂小五郎(木戸孝允の推薦で)長州藩に士分待遇(碌はわずか)で召し抱えられて、長州征討で長州藩兵を指揮し、勝利の立役者となった。その後戊辰戦争で江戸城無血開場後、薩摩藩兵、長州藩兵を指揮して、彰義隊との戦い、その後の戦いの戦略、戦術を企画して指揮をとった。そして維新後、太政官制において軍務を統括した兵部省における初代の大輔(次官)を務め、事実上の日本陸軍の創始者、あるいは陸軍建設の祖と見なされることも多い。その後京都で暗殺される。(享年45歳)彼の晩年3年間、彗星のごとく現れて、彗星のごとく消えていった人。その大村益次郎の半生を描いた長編小説です。
村田蔵六は百姓で村医の出身。礼儀作法はだめ、人付き合いもだめ、蘭学者で緒方洪庵の塾でも塾頭を務める秀才、緒方洪庵の覚えも良い。何故かこの人を桂小五郎だけは評価していていた。幕府を倒すべく薩摩・長州が鳥羽伏見で戦い、東上して江戸城を無血開城した時、官軍の兵士は誰もいなかった。薩長のみ、また資金もなかった。ましてその後どうするかということも判っていない。西郷は江戸の警備を勝海舟に任せる。でも任された海舟も困ってしまう。勝手に彰義隊など。反薩長の志士(幕府軍)が板東、東北には一杯いる。そんなとき大村益次郎が江戸にやってきて総司令官になってしまう。
そして西郷も大村益次郎の作戦に反対もしない。政府軍の中では嫌われ者で一人で奮闘していた大村。嫌ってはいたが、大村の作戦が全て当たるので誰も文句は言えない。官軍が勝ったら何をすれば良いか?将来ビジョンをしっかりと持っていた者はそのとき大村くらいしかいなかった。西郷も大久保も岩倉具視も徳川幕府に変わって薩摩・長州が主体となった各藩連合政権的なことを考えていたのではないか。でも亡くなっている坂本龍馬、勝海舟などは民主主義の国を目指していた。どちらというと大村も旗本のだらしなさ、農民出身の歩兵、砲兵などの活躍などをみるにつけ、支配者階級ではない政治、政権を目指していたきらいがある。
戊辰戦争が終わってから、軍務を統括した兵部省で薩摩の反乱(西郷)を予見して大坂に軍事基地、軍需工場、弾薬庫などを作ることに走り回っていた。
ただ、大村益次郎という人は人としてみた場合、とてもつきあいにくい。いやなやつだったような気がする。つきあいたくないそんな感じがする。時代が少し違ったら全く世の中には出てこなかった人。また明治維新に彼が幕府軍にいたら、結果は全く逆の結果になっていたかも。幕府軍で戦った大鳥圭介は緒方洪庵塾で大村と同門。長州藩に呼び戻されるまで宇和島藩では蒸気船の設計、幕府講武所教授などしていた。収入も多く、何故博給の長州に帰ったのか?郷土愛だったのかも(幕府に長州を滅ぼされるという危機感)この小説で少しほっとするところはシーボルトの娘楠イネの支援者、保護者、恋人?の場面かな。
長い歴史の中であっという間を過ごしていった凄い人ということが言えるかもしれない。大村の部下の山田顕義が西南の役が終わったとき、大山巌、山県有朋の二人をさして「あいつらはまだ軍隊でしか飯を食う方法を知らないのか」といってあっさり引退した。というエピソード。その後を見ると面白い指摘だと思った。
また福沢諭吉(緒方洪庵塾で大村の後輩)は大村のことをあまりよく言っていない。(尊皇攘夷ものだと)一方大村は福沢のことは口ばかりの人と。長州人も吉田松陰はじめくちばかり。でも大村は一般的な長州人とも日本人とも違う。明治になってから存在価値が薄くなっているが木戸孝允(桂小五郎)は剣術にも優れているが、人を使うのが旨い。そして危険を察知すると戦わずに逃げるに徹していて。幕末の大切な時期にキッチリ仕事をしているという感じがする。
司馬遼太郎の小説は著者独自の歴史解釈(相当詳しく調べている)が随所に出てくるので、話が筋が飛び飛びになったりするのがちょっと欠点。また独自の解釈が絶対化のように上から目線で断定調がちょっと気になる。
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「大改命というものは、まず最初に思想家があらわれて非業の死をとげる。日本では吉田松陰のようなものであろう。ついで戦略家の時代に入る。日本では高杉晋作、西郷隆盛のような存在でこれまた天寿を全うしない。三番目に登場するのが、技術者である。この技術というのは科学技術であってもいいし、法政技術、あるいは蔵六が後年担当したような軍事技術であってもいい」