2002年1月はこの4公演

 


青年団「冒険王」

こまばアゴラ劇場 1/9〜1/30
1/19(土)観劇。座席 自由(3列目中央)

作・演出 平田オリザ

 舞台は、1980年初夏、トルコのイスタンブール。ソビエト軍のアフガニスタン侵攻、イランの学生による米国大使館占拠事件、韓国光州事件など、激動の世界史のただ中で漫然と旅を続ける日本の若者たち。そんな彼等が宿泊する旧市街にある日本円にして1日200円の安宿。その大部屋には何故か日本人だけが集まっている。1日のほとんどをベッドで過ごす男(足立誠)。妻と子供を日本に残し5年も旅を続ける男(古舘寛治)。長年旅を続け“旅”の意味が曖昧になっている者(山内健司)等など、さまざまな生き方の人々が東西の接点であるこの街で交差する。しかし、その場所は単なる通過点であり、又、個々の旅を続ける。戸外は戒厳令がひかれ不穏な空気が流れているが、彼等が心配しているのは、今後の世界情勢よりこれから先どうやったら旅を続けられるのか、どのルートなら別の国へ行けるのか、なのである。勇敢な冒険者のようでありながら、極めて日本的な特性を見せる旅行者たち。そんな風景を切り取った作品。1996年初演。平田オリザが16歳で自転車による世界一周旅行を敢行した際の実体験に基づく自伝的作品。

 観ている側(と言うか自分個人)からすれば、そこに描かれている世界は、通常の生活とは異なる日常、簡単に言ってしまえば“普通ではない日常”なのである。しかし、登場する人々にとってはそれが当り前の“普通の日常”なのである。その切り取り方がいつもながら素晴しく、見入ってしまった。平田オリザの自伝的作品との事だが、本人をモデルとしている人物が誰なのか私にはわからなかった。もしかしたら登場人物以外の視点(観客の視点でもあるのではないか)が、平田オリザなのかもしれない。しかし、視点は外部から内部を覗き見つつも、作者の思考は個々の登場人物の中に生きている、そんな感じがした。個人旅行なのに“集団”に安堵感を感じる日本人特有の感覚に対し疑問を感じたり、安く旅行する為に観光地などはほとんど訪れず、部屋でじっとしている時があるというそんな生き方に疑問を投げかける。それを旅に出て3ヵ月の在日韓国人(小河原康二)に代弁させたりもする。いろいろなものが詰まっている脚本であり、解釈も様々だと思う。結婚する事で旅を辞める事が日本に“逃げ帰る”と思って悩んでいる若者もいる。しかし、逆の立場から見れば、日本の生活からドロップアウトし、旅を続けているのだから、旅をする事が“逃げている”ともとれる。その様々な思いが交差する宿の中は、一見和やかに見えるが、個々の思いはかなり深い。旅立つ人、居座る人、帰るのを唯先延ばしにしている人・・・ラストは一人の男(小杉:山内健司)が突然思い立って旅だつシーンで終るが一体何をつかんだのか、それは全て見る側にまかされている様に感じた。

 登場する物・人物・事柄など時代背景は再演と言う事もあって古い。しかし不思議と古さを感じなかった。役者の技量・緻密な演出(扉の向こうには、本当にトルコの町並みが見えていた)も脚本の良さを引き出しているが、色あせない脚本にはまったくもって感服である。そして、微妙に今とだぶるところ(アメリカ軍のアフガニスタン攻撃などでの状況)も、時代の古さを感じずに楽しめた要因かもしれない。その古さを感じない不思議な感覚と共に日本人の精神面での弱さ・進歩のなさも感じてしまった私であった。


“青年団”自分が観た公演ベスト
1.東京ノート
2.上野動物園再々々襲撃
3.カガクするココロ
4.冒険王
5.海よりも長い夜
6.ソウル市民
7.ソウル市民1919

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パルコ・プロデュース「彦馬がゆく」

PARCO劇場 1/8〜2/3
1/24(木)観劇。座席 J-11

作・演出 三谷幸喜

 舞台は、江戸幕末期。神田彦馬(小日向文世)は、七転八倒の末、日本初の写真館『神田写真館』を浅草にオープンした。シャッターを押す時の決まり文句は「人生でとっても愉快だった日の事を思い出してください」。しかし、写真に撮られると魂を抜き取られるという噂が広まり、なかなか客は集まらない。そんな時代ではあるが、家族たちも奮闘努力で写真館を支える。写真の事は一切わからないが、里芋の煮方には自信がある妻・菊(松金よね子)は、「住みよい国になる」と言う会話に「夏は涼しく、冬は暖かくなるんですか」と反論するそんな人柄。高杉晋作の奇兵隊に志願したかと思えば、新撰組にも首を突っ込む、無節操で自由奔放、まぁいわゆる馬鹿な男の典型な長男・陽一郎(伊原剛志)。 兄とは対照的に写真師の道を突き進む職人気質な次男・金之介(筒井道隆)。写真館のマネージャーとして一家を切り盛りしつつ、坂本竜馬と恋に陥ってしまう長女の小豆(酒井美紀)。そして、陽一郎の恋人・しのさん(瀬戸カトリーヌ)。主義主張を越えて、誰の写真でも引き受ける彦馬の写真館。そんな写真館を行き来する歴史の重要人物たち。あくまでマイペースな彦馬だが、知らず知らずのうちに、時代の荒波の余波が神田家にも押し寄せてくる・・・。揺れ動く時代の中、その波に翻弄されされつつも気丈に生きる、そんな小市民・神田一家の目を通し、動乱の幕末(文久元年の春〜慶応4年の春)を描き出した作品。東京サンシャインボーイズ時代の作品(1990年初演・93年に再演)を、キャストを大幅に変更・加筆しての再演。

 実在の写真師・上野彦馬をモデルにした作品らしい。詳しくは知らないのだが(パンフに書かれているのを読んで初めて知った)幕末に撮られた重要な写真が、一人の写真家の手によるものだという事実を知った三谷幸喜が、驚き書き上げた作品との事。でも、歴史上の有名人が写真館の1点で交差してるのってマジ凄いと思う。写真館にやって来るのは、ちょっと嫌な性格の陰謀家として描かれる坂本竜馬(松重豊)、お坊っちゃん気質丸出しの高杉晋作(本間憲一)、イメージとのギャップに悩む小柄な西郷吉之助(のちの西郷隆盛:温水洋一)、上昇志向だけは強い百姓出の伊藤俊輔(のちの伊藤博文:大倉孝二)、浮き沈みの激しい桂小五郎(梶原善)、顔に似合わずシャイな近藤勇(阿南健治)たち。その全ての人物が個性があり過ぎで、腹を抱えて笑ってしまった。初演から引き続き演じている梶原善と阿南健治は、水を得た魚状態。素晴しいの一言。近藤勇役は阿南健治の当たり役と言いきってもいい程のハマリ具合。あの恐い形相でも、写真機の前では素顔がぽろりと見え隠れする。娘がなつかないと弱音をはく近藤勇の人間味が垣間見える。それを阿南健治が、素晴しい演技でみせていた。ラストの笑顔は最高。反則技は温水洋一。登場した時からカーテンコールまで舞台に登場するだけでおかしい。すばらしいキャラクターを持った役者であると今さらながら感心してしまった。それをうまく生かした三谷幸喜は、やはりあて書きの天才。初演・再演と誰が西郷隆盛を演じたか知らないのだが、これ以上の適役はいないのではないかと思えるほどのおかしさ。思い出しただけで笑いが込み上げてくる。ぷぷぷっ・・・笑いを堪えるのが大変。大倉孝二も良かったのだが、梶原善の爆発ぶりにちょっと影が薄くなっていたのが残念でならない。いい役者を揃え、個性を完璧に生かした三谷幸喜の演出も冴えわたっていた、これで面白くないわけがない。それに応えるが如く、役者もいい顔してたし。小豆が号泣するシーンでは、何か具体的な事柄や言葉が心に訴えたわけではない(だって、私の事もちゃんと見てよーって子供っぽい理由なんだもん)のに、もらい泣き状態。ぼろぼろ泣けてしまった(不覚)。小豆を演じた酒井美紀のうまさにまんまとしてやられたって感じ。

 まぁ〜とにかく、おもしろかったって事に尽きる。ここ最近三谷幸喜の作品は笑えるけど心に残らないという作品が多かったが、これは違う。大笑いした上に心にズシンと残る。今まで観た三谷作品でも一・二を争う作品だと思う。昔はこんないい作品を書けていたんだぁ〜と感慨深いが、これをステップに又いい作品をどんどん書いて欲しいもんだ。カーテンコールの拍手の中で幸せな気持ちに満たされたのは久しぶり。ほんと、こころが暖まった素晴しい舞台であった。

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劇団桃唄309「ダウザーの娘」

中野ザ・ポケット 1/24〜1/28
1/26(土)観劇。座席 I-2(招待)

作・演出 長谷基弘

 ヒッチハイクで旅を続ける初老の女性・Elizabeth<通称リズ>(楠木朝子)。たまたま、彼女を見かけた日系人・Jay(橋本健)と友人の婚約者ケイ(森宮捺芽)は彼女を乗せ旅をする事に。一方、ケイの婚約者・小牧(吉原清司)は、ヒッチハイクをする女性を取材している雑誌ライター織田(山本浩司)に同行していた。Jayとケイは旅の車中、リズの子供時代の話しを聞く。・・・Liz(針谷理繪子)は腕のいいダウザー(ダウンジングする人)の父親(嶋村太一)に連れられて、水源を探し当てながら各地を転々とする、流浪の生活を送っていた。そんな辛い生活の中でも親子で力を合わせ、楽しく日々を暮らしていた。しかし、自分の命に先がない事を知った父親は、娘との別れを決意する・・・。初老になったリズは、別れてしまった父親の軌跡をたどる旅に出ているのだと言う。そして自分が置き去られた後の父の軌跡もたどりたいと・・・。やがて3人は、ウインドビルという行った事のない町にたどり着く。その町で、旅の終わりに父親が探り当てた、最後の水汲み上げ風車と出会う。その風車にはエリザベスの名前が記されていた。

 2000年9月から1年間、文化庁在外研修員としてミネアポリスにいっていた長谷基弘の帰国後第1作目である。渡米中に英語で執筆し、2001年6月に現地のリーディング会で好評を得た新作戯曲「Dowser's Daughter」を日本上演版として翻訳。初老の女性の現在と過去という2本の軸に、日本人の旅行者の話を新たに追加しての日本版である。

 父親の軌跡をたどるリズの旅、リズのことを取材する雑誌ライター一行の旅。子供時代のリズと父親の旅。リズの一生を巡るそれぞれの旅が同じ空間で進行していく。時間や場所を飛び越えて、同じ空間で交差する手法は、さすが長谷基弘という感じで面白い。それが強引ではなく自然の流れで同居しているので、なんか現在のリズの心の中の風景を覗いているようで、違和感なく作品世界に入り込める。そのリズの心の中が、懐かしく楽しい思い出で満たされているようで、観ている自分の心までもが癒される。う〜ん、心にしみるって感じ。やはりこの作品でも、長谷基弘の“優しさ”が作品全体を包んでいた。

 ラストシーンで、風車の影がリズに写るのだが、そのシーンの素晴しい事。父の愛情が悲しいくらいに伝わり、感動してしまいましたよ、はい。そのシーンを見ながら、脳裏には父親の笑顔が浮かんでいた。やはり、嶋村太一の笑顔は武器だと再認識してしまった・・・


“劇団桃唄309”自分が観た公演ベスト
1.ダウザーの娘
2.よく言えば嘘ツキ
3.K病院の引っ越し

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とびだせボーイズ「紀伊國屋プロレス」

紀伊國屋ホール 1/29〜1/31
1/30(水)観劇。座席 P-12

 皆川猿時、杉村蝉之介、荒川良々の3人からなる大人計画の新ユニット。開演前の前説的映像は、3人の家族からの「とびだせビデオレター」。その映像が一通り終って、舞台に登場する3人。歌って踊って始まり始まり・・・。

●1.「とびだせボーイズのベトナム冒険記」
作:松尾スズキ
 日本人の作詞家・関口(杉村)は、かつて一緒に歌を作っていたが、今では行方不明になってしまった作詞家(皆川)を探しに、ベトナムへと向かった。現地で出会ったベトナム人の車引き・ヤン(荒川)とアメリカ人のブモースキー(皆川)の協力の元、ボートで川に漕ぎ出た作詞家達。しかし、天気は急変、大雨の為に船は沈没間際である。そんな状況の中、頼りにしていたベトナム人とアメリカ人は川に投げ出されてしまう。激流に巻き込まれ、大量の水を飲み瀕死の状態の二人。どちらの命も助けたいが、関口はどちらか一人しか助けられないと判断。そこで、どちらを助けるか天秤にかける。ならば、今までどちらが自分に優しかったかで判断する事に。で、なんやかんや今まで歩んで来た道のりを思い返す・・・そんなシーンとかが挿入され、助ける一人を選択。マウスツゥマウスの人工呼吸を試みようとするのだが・・・。
 まぁ、結末は、ライフセイバーに必要不可欠であるマウスツゥマウスが出来ない男のシミュレーション訓練だったってオチなんだけど、全編『地獄の黙示録』のパロディになっていた。ちょうど『地獄の黙示録/完全版』の公開間際というのもあって、そのパロディ精神に心が動かされる。私なんて前日に試写でその映画を観たばかりだったので余計に笑ってしまった。やはり笑いにはタイミングも必要。そのタイミングを逃さないところは、さすが松尾スズキって感じ。でも、絶賛できる程の出来ではなかったけど。まぁ、今回の中では一番面白かったのは確か。大人計画の次回本公演の脚本は、宮藤官九郎が担当するという事なので、松尾スズキの新作は当分お預けなのだろうか・・・

●2.「マスク・ド・スカンク〜あなたにヒップアタック」
作:宮藤官九郎
 女子プロレス界の女王・マスク・ド・スカンク(皆川)に弟子入りした桜庭アキコ<レスラー名:おすし>(荒川)が、紆余曲折を繰り返しつつ立派に成長して行く女子プロレス根性物語と、本物のスカンクになっていくマスク・ド・スカンクの悲劇の物語が交差して暴走していく・・・。
 まぁ〜どうってことのない物語。官九郎ちゃん、ちょっと力抜き過ぎ。客席で大笑いしている場合じゃないっしょ、って言いたい。

●3.「ゆりこちゃんと一緒」
作:岩松了
 ゆりこちゃんの周りを行き交う男達の物語。
 で、その“ゆりこちゃん”ってのはダッチワイフだったってオチ。ここ最近の岩松了の作品は正直つまらない。

●4.「スタンド バイ ミー」
作:とびだせボーイズ
 八戸水産高校の修学旅行で東京へ出てきた3人。“あの子とスキャンダラス”というチーム名を付けた彼らは、気合いを入れて東京見学へ。その中の一人の男(皆川)が、生き別れの姉が歌舞伎町で働いていると告白。この機会に会いたい、って事で他の二人からお金を出させてイカガワシイ店へと入って行く・・・。
 でもそれは嘘で固めた作り話。遊びたいだけでしたって物語。で、話はもっと展開していくのだが忘れてしまった。すまんです。

 芝居の合間に流れる、ダメ青年(皆川、荒川)と、「君だけを撮りたい」と一人の青年だけをとひたすら撮り続けるダメ写真家(村杉)の映像ドラマはかなりの逸品。その映像には、阿部サダヲ、唯野未歩子もゲスト出演。ちょっと豪華。それに比べてしまうと本編のパンチ力不足は否めない。松尾作は面白かったがあとはどうも・・・芝居を観に来て芝居より映像が面白いってのはいかなるものか。3人のキャラは魅力的ではあるが、まだまだ3人だけでは楽しめなかったというのが本音。今回は脚本の面子の豪華さ、期待感で満員の客席だったと思う。私はその一人。そして、ゲストで誰か登場するかもしれないって期待も少々あったかもしれない。でも、残念ながら舞台に登場したのは3人のみ。ゲストなしでやった事に対してはあっぱれと言いたいけど、小さいホールでこっそりやるような公演だったら納得出来るが、紀伊國屋ホールのような大ホールでやる公演ではなかったような気がする。もうちょっと華が欲しかったなぁ〜。次回公演もあるのだろうが、私としては誰が脚本を書くか次第で、次回公演を観るかどうか決めるような気がする。4作目が本人達の作品ではあるが、それほど面白くなかったし・・・。あと、どこでやるかかなっ。もっと濃縮された空間だと魅力ある作品が生まれてくる気配を感じるのだが・・・。

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