2000年7月はこの8公演

 


「オケピ!」

青山劇場 6/6〜7/9
7/4(火)観劇。座席 U-39

作・演出・作詞 三谷幸喜
作曲・編曲・音楽監督・指揮 服部隆之

 舞台は、ミュージカル上演中のオーケストラ・ピット(オケピ)。開演30分前の光景から公演のフィナーレまでの3時間半、公演と同時進行で舞台が進む。華やかなライトが照らし出すことのないオーケストラ・ピット。その中で右往左往する演奏者達にスポットライトを当てた、三谷幸喜初のオリジナル・ミュージカル。
 離婚寸前のコンダクター(真田広之)は、気の弱い優柔不断な男である。浮気性なハーピスト(松たか子)に惹かれつつも、トランペット(伊原剛志)のもとへ走った、妻の第一ヴァイオリニスト(戸田恵子)に復縁を迫っている。神経質なオーボエ奏者(布施明)は、別居中の娘が、父の仕事ぶりを20年ぶりに見に来るという事で落ち着かない。そのほか、チェロ(宮地雅子)、ヴィオラ(小林隆)、ギター(川平慈英)、ピアノ(小日向文世)、サックス(白井晃)、ファゴット(北川潤)、パーカッション(山本耕史)、ドラムス(菊池均也)ら一癖も二癖もある強者達が、劇中のナンバーに乗って自分の胸中を歌い上げる。楽団員一人ひとりのエピソードが複雑に絡み合って、フィナーレへと突き進む・・・。そんな12人の演奏者が織り成すどろどろの人間模様を、ミュージカルで包み描いた、三谷幸喜お得意のリアルタイム・バックステージストーリー。

 第45回岸田國士戯曲賞受賞作。時をほぼ同じにして、松尾スズキと三谷幸喜が共にミュージカルに挑むという、偶然なのか必然なのかわからない状況の中、三谷の『オケピ!』は、ドタバタの中で見せる人間性が複雑に絡んで大団円を見せる・・・と、結末は予想ついてしまうものの、かなりの高水準であった。松尾スズキの『キレイ』と比較してしまうと、ミュージカル作品としては『オケピ!』に軍配が上がったみたいな、そんな感じ(作品全体ではちょっと負けなんだけど)。しかし、ミュージカルである必要性は余り感じられず(布施明の表現力は凄くていいのだが、ミュージカルにする意味が不明確なんだよなぁ〜とかも含めて)、岸田國士戯曲賞受賞作と呼べるほど脚本がいいとも思えなかった。観劇中は大笑いして、これほど面白い作品はないってほど、笑って笑って笑って大満足したのだが、時間が経つにつれ物語が記憶に残っていない事に気がつく。この作品が岸田賞を受賞するなら、自分が三谷作品で一番好きな『ショーマストゴーオン』なんて50回くらい受賞してもいい、って数じゃないってか。まぁそのくらい作品のレベルの差があると思うのだが、贔屓目で観すぎているのだろうか。極上のエンタテイメント作品としては認めるが、戯曲だけを拾い上げると決していい作品とは言えない。登場する全ての人間を描いてはいるが、深みがない。関係においても必然性が薄く、ドラマチックな展開も自然さがなかった、という思いがふつふつと消化不良を起こしている。楽しんでおいて苦言を垂れるのは申し訳ないが、三谷幸喜に岸田賞を受賞せていなかったのを今更ながらに気付き、この機会を逃してはいけないみたいな無理やり感が強いと思うのは、天の邪鬼の自分だけであろうか。

 まぁ暴風雨の中、びしょぬれになって、渋谷駅から青山劇場に向かう宮益坂を、まるで川の中を歩いているがの如く登って行った苦労が報われるくらい、気持ちよく笑わせてもらったのは事実。ただ、物語が心にしみるわけではないし、素晴らしいミュージカルでもなかったし、すばらしいシュチュエーションコメデイでもなかった・・・のも事実。パンフに「ミュージカル畑の人たちでは考えつかないようなものを作る。それが畑違いの僕に課せられた、僕にしか出来ない、僕の使命だから。」と豪語しているが、その心意気が空回りしていた気もする。ミュージカルが持つうそ臭さを廃したミュージカルではあるものの、そのうそ臭さもミュージカルの楽しさでもあるわけだし、そのサジ加減がイマイチ噛み合ってなかったように感じた。

 しかし、遊び心は満載で、三谷幸喜が書いた歌詞はなかなか面白かったと思う。中でも、小林隆が歌う「Who Are You?“誰も僕の名を知らない”」という歌には笑った。さすが、あてがきの天才。キャラクター設定で新鮮だったのが、松たか子にあてたキャラクター。公団住宅に住むサラリーマンの娘で男好き。今までの松たか子のお嬢様的イメージを壊す素晴らしさだったと思う。でも、これこそが、三谷幸喜の鋭い洞察力の賜物かもしれない。だって松たか子は育ちはいいが、お嬢様キャラより嫌な女の方が似合うと思うもの。舞台美術も面白かった。オーケストラピットの下に本物のオーケストラピットがある(コンダクターはもちろん服部隆之)。上にはミュージカルの舞台(足だけしか見えないが)の三重構造。あーそうそう、北川潤が歌い出す曲の出だしがもろキャッツっぽいところも遊び心があって面白かった。って、なんやかんや文句を言っても、面白いところ多いじゃん。

演劇の部屋に戻る


青年団「カガクするココロ」

こまばアゴラ劇場 7/5〜7/11
7/10(月)観劇。座席 自由(3列目中央)

作・演出 平田オリザ

 某国立大学の生物学研究室のロッカールーム。ここでは、類人猿の成長過程を操作し、猿を進化させるという壮大なプロジェクト(ネアンデルタール計画)が準備されていた。そんな遺伝子操作や分子科学などの話題が繰り広げられる中、恋愛、就職、失恋による自殺未遂、結婚など様々な人間模様が展開する。生命倫理という壮大な問題を抱えつつ、実生活のだらしなさが渾然一体となって、物語は漂流を続けて行く・・・。90年に『科学する精神』のタイトルで初演され“科学シリーズ”の出発点となった作品。数々の再演を重ねてきた劇団の代表作だが、今回は、若手・中堅俳優のみのキャスティングでの本公演として再演。

 「文明の急速な進歩と緩慢な人の進化」と、どこかの紙面で平田オリザが書いた文を読んだ記憶がある。まさに、進化の操作を試みるエリート達が集まった集団の中で、進歩のない人間のだらしなさが痛いほど浮き彫りにされている芝居であった。しかし、不思議とその光景に嫌な感情は湧かないのである。自分達が暮らす日常からみれば、突飛と言える研究者達の会話が妙におかしいのか、はたまた、研究者達の人間臭さがおかしいのか、不安定な精神の揺れ動きの必死さに共感してしまったのか・・・。本人達にしてみればそれが当り前の日常なのだが、やはりどこかおかしい。そんな日常の切り取り方に平田オリザの素晴しさ実感してしまう。そして、様々な人間関係、性格などが説明的ではない自然の流れの中で、観ている者の中に入ってくる演出・脚本の素晴らしさも賞賛したい。さらに、そんな人間関係を魅力ある役者が演じているものだから、向かうところ敵なし。まさに三位一体の芝居であった。会話の中からこの研究室を仕切るジャミラと呼ばれている教授の姿までもが目に浮かぶ。特別にドラマティックな展開はないが、飽きるどころか、むちゃくちゃ面白い芝居であった。青年団の公演の中でも上位に位置すのではないだろうか。

 物語は『北限の猿』へと続くのだが、私は、今回の再演でやっと『カガクするココロ』を観たので、続編は観ていない。次回再演があったら必ず観たいシリーズである。


“青年団”自分が観た公演ベスト
1.東京ノート
2.カガクするココロ
3.海よりも長い夜
4.ソウル市民
5.ソウル市民1919

演劇の部屋に戻る


ポツドール「騎士(ないと)クラブ」

大塚ジェルスホール 7/14〜7/17
7/15(土)マチネ観劇。座席 自由(6列目中央)

作・演出 三浦大輔

 登場するのは、工場勤務らしき男達8人。その一人の部屋が舞台である。その部屋でビデオカメラを窓辺に置いた時、偶然、隣の家に住む女性の姿を捕えてしまう。その女性は、週2、3回、決まって午後8時頃、その窓辺に立っていた。それを知った彼ら8人は、その女性(斎藤舞)を幸子(ユキコ)と呼び、この集まりを“騎士(ないと)クラブ”と名付け、盗み撮りを始めた。1ヶ月も過ぎると盗み撮りに留まらず、捨てたゴミを漁る、盗聴機を仕掛けるなど、生活自体までも盗み見るという行為に及んだ。そして、ついには幸子自身を襲い、部屋に連れ込んでしまう男まで現れた・・・。しかし、部屋に連れ込んだ幸子は、カメラの中の想像していた幸子とはまるで別人の性格の悪い女であった。自分の作り上げた幸子と現実の幸子の違いに直面し、“騎士クラブ”を生き甲斐にしていた部屋の主は狂っていく・・・。それを止められない他の男達・・・。
と、ここまでが、第一部。
 第二部では、第一部までの物語は全てピンク映画の撮影という事で始まる。撮影は順調に進み、最後に男女のカラミのシーンの撮影になる。しかし、その場になって女優がカラミを拒否し、撮影現場は混乱していく・・・。そして最後に悲劇が訪れる・・・。

 初観劇という事で、役者の名前と役柄が一致せず、斎藤舞(INSTANT wife)の名前しか書き込めてない。申し訳ない。とりあえずで悪いが、8人の男達の役名と役者名を列挙しておきたい。ノムラ:角清人/ビトウ:小林康浩/カネコ:糸田淳一/トガシ:野平久志/トツカ:西園泰博/アズマ:岡雄一郎/タケウチ:米村亮太郎/シバ:高多康康一郎。彼等が限りなく濃い空間を作り上げていた。芝居の中で役名を呼んでいたと思うが、芝居に没頭し過ぎてしまったのか、名前を全然覚えていないのである。この記憶のなさは、自分でも呆れ果ててしまう・・・。しかし、それほど強烈な芝居ではあった。

 ポツドールの芝居は、“エロでグロい”という悪い噂を耳にしていたので、自分の中では『ゴキブリコンビナート』+『ハイレグジーザス』的な危険なイメージがこびり付いており、恐る恐る劇場に向かった(マジで)。しかし、劇場に着くと劇団を手伝っている女性達が美人ばっかで、ちょっと予想外に気持ちは和んでしまった。ってそんな事はどうでもよく、実際の芝居はどうだったかと言うと、噂通り凄いものであった。“エロでグロい”と言うのは噂通り。しかし、それが嫌悪感なく入ってきた。まぁフルチン芝居に慣れてしまったという事は言えるのだが、全裸が芝居に溶込んでいたと言うか、その挙動不審な行動にまで自然な空気を感じてしまったのである。初めは、意味なく全裸でいる男の存在が目障りでもあったのだが、その目障り感というのも現実的であり、非常におもしろい感情を呼び覚ましてくれた。男ばっかの酸い臭いような汗くさいような汁くさいような、そんな臭いまでもが伝わってくる微妙な空間を、観客である我々が覗き見ている、これが今回の“セミドキュメント”と称する技法なのだと思うが、それがうまく芝居と噛み合っていて非常におもしろい空間を構築していた。ポツドールのホームページには劇団のテーマが書かれており、それによるとテーマは「人間の本質」らしい。転記させて頂くと【人間のすべてを描こうとする時、「エログロ」的要素は必然的に表れるものである。目を背けがちなその要素に真っ向から立ち向かいポピュラーにする作業をポツドールは続けている。よってその手段として芝居には暴力やセックス、嘔吐物を用いるがその表現があまりにも過剰なためエログロ、アングラ系劇団(ハイレグジーザス・ゴキブリコンビナート等)と位置付けられがちであるが実際はそれらとはまったく質が異なる。表現したいのはあくまでも「人間ドラマ」である。】との事。ハイレグやゴキコンとまったく質が異なるって所はひっかかるが(ゴキコンは人間の奥底にある感情を描いていると自分は思っている)なるほどって感じである。

 ただ、全てにおいて絶賛出来るかと言うとそうでもない。第一部までの内容はむちゃくちゃいいと思う。集団での狂気の方向性の描き方などは凄いの一言。集団だと狂気って上昇方向に向かってしまい、止めようとする人間が逆に異端児扱いされるみたいな雰囲気があると思うが、その静かな恐怖の描き方が最高であった。大人計画をも凌駕していると言える。って褒め過ぎか。ただ、第二部のカラミを嫌がる女優ってシチュエーションは、なんかありきたりでつまらなかった。暴力を振るうのもリアリティという事でいいのかもしれないが、不愉快さが残った。本気で殴らなくても殴られた演技をするのが役者ではないかという疑問も残った。ただ、そのリアリティがあったからこそ、不愉快さが生まれてきて、空気がとっても痛く感じたのかもしれない。その空気は全て計算されつくした演出家の意図通りだと思うので、してやられたりという事だろうか・・・。どう言っていいやら自分の中の感情が動いている。こんなに感情が動く芝居を観るのは久々の様な気がする。劇団員の方から誘いのメールを頂き、観劇したのだが、とんだ掘り出し物であった。

 話は変わるが、斎藤舞のうまさは凄かった。第一部での性格の悪さもいいが、第二部での嫌がり方も絶妙。ちょっと欲情してしまいそうになる(マジ)。こんな凄い女優がいたんだなぁと自分の視野の狭さを再認識した。もっと芝居観にゃぁいかんなぁ。

演劇の部屋に戻る


拙者ムニエル「新しきペンギンの世界」

下北沢 駅前劇場 7/7〜7/16
7/15(土)ソワレ観劇。座席 C-11

作・演出 村上大樹

 オープニングの舞台は結婚式場。結婚式当日、新婦に逃げられ立ちつくす高山(小村裕次郎)・・・。高山はサイコメトロとして都営大江戸線に勤務していた。で、何故か大江戸線が南極まで延びていて、そのトンネルを掘っていたのが、逃げた嫁さんだったみたいな記憶があるのだが、どうだろう?そんな話に、プロレスの話だとか、おしんの話だとか、バーガーキングの話だとか、様々な話が盛り込まれる・・・。

 コント集だと思って観ていればそれなりに面白かったのかもしれないが、今回うかつにもストーリーを追ったりしたもんだから、てんで中身がない芝居に思えてしまった。自分の周りで観た人の評判はすこぶるいいのだが、私としてはダメ。メインであるコントネタ自体もヌル過ぎて非常に退屈だった・・・。ツボに入る笑いがなく、眠気との格闘の数時間といった感じ。覚えているのが、自由席の頭上からシートを被せ、指定席のみに見せるという暴挙をはたらいたイナサマーショー(伊奈恵一)と、ラストで加藤啓が哀愁漂う瞳で「乗り越えられない暑さ(辛さ?)寒さがある時、いっそ私はペンギンになりたい」ってセリフ。どんな状況でのセリフかは忘れてしまったのだが・・・。

 小手伸也、小村裕次郎という、破壊者として定評のある二人が客演しているので、そーとー期待したのだが、期待とは裏腹にとっても眠かったという記憶が鮮烈に残ってしまった。拙者ムニエルは旬を過ぎて下降線を辿っているのだろうか?って疑問すら残ってしまう公演だった。それとも、私個人の嗜好が拙者ムニエルの笑いに合わなくなったのだろうか・・・ふ〜む。


“拙者ムニエル”自分が観た公演ベスト
1.DX寿姫
2.喰らわせたいの〜花椿花子Blowing UP〜
3.ビバ!ヤング!(ヒップ)
4.新しきペンギンの世界

演劇の部屋に戻る


ロリータ男爵「花魔王」

フジタヴァンテ 7/20〜7/23
7/22(土)観劇。座席 自由(最後列中央:招待)

作・演出 田辺茂範

 その村には古くから伝わる恐ろしい言い伝えがあった。「祝いの晩に、花の魔王がお祝いに現われる」村人達は恐れ、その村から祝い事は無くなった。しかし、禁じられたお祝いをした事から魔王を再び蘇らせてしまう。連続して祝福される村人達。いわれなき祝福。そんな中、かつてない程盛大なお祝いが・・・(チラシより引用)

 祝うと“花の魔王”が現われるという伝説を信じ、祝い事が厳禁な村。そこへ、よそ者マーガレット(入交恵)一家が引っ越して来る。名門貴族のおぼっちゃまでマーガレットの婚約者シモン(斉藤マリ)も腑に落ちない。そこで、伝説を気にせず引っ越し祝いをやってしまったから、もぉ〜大変。伝説通りに花の魔王(松永雄太)がやって来てしまう。花の魔王は、なにやら蒔き散らし祝福。蒔いているのは実は花の種で、祝われた本人の頭に根つき発芽、開花の頃魔王がさらいにくるという魂胆である。そんな花の魔王の行動をよそに、アスター(松尾マリヲ)とマーガレットの仲がおもしろくないシモン。そんなシモンから逃げる二人は、アスターの文通相手である後藤(加瀬沢拓未)を頼りに日本へ。でも追っ手に捕まって禁固10年。後藤は発明家だが、発明は不発。応援する妻・聡子(丹野昌子)、銀行家・杉山(田辺茂範)の応援もむなしく、本業の後藤部品は不渡り二度目。でも、ついに発明が認められノーベルアイディア賞を受賞。その受賞式で発芽中だった聡子は魔女化してしまう。実は聡子は、花の魔王の娘だった・・・って感じの物語。

 中世の仰々しい雰囲気の中での、相変わらずのへなちょこさ。へっぽこぴ〜でゆるゆる。それが嬉しい。でも今回は、意外性とか情けなさ加減に物足りなさを感じてしまった。いい感じにまとまってしまったのが逆効果なのかも。でも、ミスマッチな状況は、お間抜けで大好き。


“ロリータ男爵”自分が観た公演ベスト
1.犬ストーン2000
2.恋は日直
3.信長の素〜端午の節句スペシャル
4.地底人救済
5.花魔王
6.三つ子の百まで〜その100分の1

演劇の部屋に戻る


故林プロデュース
「親族代表コントライブ“人間力学ショー”」

ザムザ阿佐谷 7/22〜7/23
7/23(日)観劇。座席 自由(3列目中央:招待)

作・演出 故林広志

 披露宴での挨拶をどうしようか電話で話す3人(嶋村太一、竹井亮介、野間口徹)。今更「雨降って地固まる」はやめようとの結論に。で、結婚式当日、自分達の番になって出た言葉は・・・
まさにグループ名そのままの“親族代表”的作品でオープニング。・・・追って簡単に列挙。
■書類をなくしてしまった沼田(竹井)は、課長(嶋村)に渡したと思っていた。課長はそんなはずはないと強気の発言。だが、実は受け取っていた。それがバレるとメンツ丸潰れなので、別の社員カメザキ(野間口)の後ろポケットに忍びこませる。カメザキは自分が持っていて怒られるのは嫌なので竹井のポケットへ。竹井は散々自分は持っていないと豪語していた分、今さらありましたとは言えないので課長のポケットへ・・・堂々巡りの責任転換。
■あやふやな刑事課捜査1係。戸惑う新人。通っているのに相手にされない爆弾犯。
■真実を真に受けないで嘘を真に受けてしまう男。絡む大嘘つきの長谷川。
■真剣にピクニックに取り組む社員二人とペンションのおやじの会話。
■頭に斧を刺した男が、風邪ぎみだと病院にやってくる・・・そりゃどう見たって風邪じゃぁないでしょって話。
■抽象的な刑事。
■ぎこちない親子。息子に天然記念物指定の手紙が送られてくる。
■「7時のお詫び」・・・ニュースのお詫びをするコーナー。
■誠実なピンサロの呼び込み。
■変身したくないヒーロー“レニー”登場。
■方向音痴のカメザキ。方向どころか時間も距離も音痴。江戸時代に行ったり、海外に行ったり。でも携帯電話は繋がっている。
■本心を言うスカッシュ。
 列挙はしてみたものの、説明不足で観た人にしか(観た人にも)わからないかも。まぁコントなのでこんなんでも良いかなと・・・

 男3人(親族代表)+女1人(鯉沼トキ)の人間関係から生まれるショートコント集。1999年12月のプレゼンライブを経ての初の単独公演である。プレゼンライブの時は、故林広志作品の緻密なおかしさを三人なりの世界に築きつつあったのだが、まだまだ故林広志の世界であり、そこから一歩出てはいないという感想であった。今回は、経験を積んだ三人が、どう自分達のキャラを出し、どれだけ付可価値的な面白さが味わえるかが楽しみであった。で、どうだったかと言うと、むちゃくちゃ面白かった。しかし、合格点は出たが満点ではなかったという感じである。不満というのではなく、「まだまだ行けるぞ」みたいな期待というか余力を感じてしまう。いや、余力というのは違うな。力を出しきれていないというのを感じてしまった。まだまだ脚本に頼っているという感じが歯がゆいのである。3人が醸し出す笑いの空気は素晴しいものになってきている。あとは、しっかり組み立てられた故林広志の笑いを、いかに自分達のものにするかが、今後の課題ではないだろうか。3人寄れば文殊の知恵。故林広志の作・演出なので故林色が出るのは当り前。一歩進んで“親族代表の作品”と言いきれる、はた又「この作品は親族代表でなくては駄目だ」と断言できる作品を生み出して欲しい。


“故林プロデュース”自分が観た公演ベスト
1.薄着知らずの女II
2.当時はポピュラー/奥本清美さん(23才、OL)
3.コントサンプル(スペシャル)〜ガバメント・オブ・ドッグスがゲスト〜
4.薄着知らずの女
5.当時はポピュラー2“北沢順一さん”(39才、医師)/Aプロ
6.当時はポピュラー2“北沢順一さん”(39才、医師)/Bプロ
7.親族代表コントライブ“人間力学ショー”
8.漢字シティ『すりる』
9.コントサンプル/2-99,aG:
10.真顔のわたしたち〜親族代表/漢字シティ・プレゼンライブ〜
 

演劇の部屋に戻る


東京タンバリン「夏祭り」

高円寺明石スタジオ 7/25〜8/1
7/25(火)観劇。座席 自由(コの字型の客席の下の角)

作・演出 高井浩子

 海が近い避暑地の民宿。その大部屋。明日の夏祭りに備え、なにやらばたばたとしている。久々に太鼓勝負大会があり、民宿の主人・盛田昌之(本間剛)も近所の友人達と出場するらしく、練習に余念がない。そんなばたばたな状態とはつゆ知らず、家を出ている昌之の弟・盛田広毅(青木宏幸)が、癖ありの自主映画監督・矢吹錠(井上幸太郎)ら一行と共に帰省する。澤村史江(三谷智子)は、義弟・澤村彰二(瓜生和成)となんか理由ありの微妙な関係。子供に火傷をおわせてしまった罪の意識から家出をして、義弟のいるこの民宿へ。昌之の同級生・明田鉄也(宮澤大地)は、父親が危篤で大変な状態だったりと、輪を掛けてばたばた。かと思えば、呑気に旅行している若作り・巨乳作りのOL三人・亀井鶴子(大場靖子)、浜本麗子(衣川昌美)、伊井貴美子(伊藤美穂)がいたりして、悲喜こもごも。様々な人達が擦れ違ったり関係し合ったり。そんな中で迎える祭りの当日。自主映画御一行の友情恋愛関係のゴタゴタも一段落。家出の史江は、旦那の澤村彰(永井秀樹)が連れ戻しに来て、こちらも一段落。同級生・鉄也の父親は亡くなってしまい本日が通夜。太鼓勝負大会は、人数足らずで棄権かと危ぶまれたが、出場だけはすると・・・。そんな日常を切り取った物語。

 総人数22人が登場するホームドラマ的群像劇。様々な人達が様々な思いを秘めて生きている。でも、その思いは叶ったり叶わなかったり。そううまく行かないけど、どっこい生きているって感じの芝居。なんて事のない出来事にゆっくりと心が動く。感動した!って直接的なものではなくて、なんか心がほんわか暖まったって感じ。できれば、ラストは、登場人物各々に太鼓を一叩きさせて欲しかった。それぞれの思いが、その音色に表われるように・・・。悲しい音色、激しい音色などなど・・・芝居じゃそこまでを望むのは難しいか。


“東京タンバリン”自分が観た公演ベスト
1.夏祭り
2.Sand-Wich
 

演劇の部屋に戻る


にんじんボーン「恋ハ水色」

下北沢駅前劇場 7/25〜7/30
7/29(土)マチネ観劇。座席 自由(3列目左端)

作 村上マリコ
演出 宮本勝行

 とあるホテル内に設置された、結婚式コーディメート会社のミーティングルーム。一ヵ月後に挙式を控えた4組のカップルが、カリスマコーディネーターから披露宴の説明を受けている。そして、そのアシスタントの石ノ塚くんと憩ノ居さんは、実は恋人同士。彼は今日、彼女にプロポーズするつもりだが、なかなかそのチャンスがつかめないでいた・・・

 にんじんボーン初のラブストーリー。パンフには、宮本勝行が子供の頃TVで見た「ルーシー・ショー」や「パートリッジ・ファミリー」などの、どうしようもなく愛すべき笑いを一度やってみたかったと書かれていたが、なるほどそんな笑い。あのゲラゲラ笑いが充満しているような、そんな公開録画的雰囲気が漂っていた。そんな和やかな雰囲気が客席にも伝わったのか、とても楽しい気分に浸れた。
 今回は登場人物が物語の要になっていたので、パンフに書かれた人物紹介を列挙しちゃいます。各々のキャラ設定もいいが、それを演じた役者もいいんだな、これが。
●コーディメートアシスタント石ノ塚くん(石塚義高)
 :恋も仕事も遊びも不器用、中途半端な好青年。
●憩ノ居さん(憩居かなみ)
 :石ノ塚よりも半年先輩の、愛らしく仕事熱心な新人コーディネーター。
○しげるさん(飯田茂)
 :市役所勤務15年、お見合いでやっと生涯の伴侶を捜し出した男性。
○恭子さん(秋山恭子)
 :年老いた両親の世話で、婚期が後れた心優しい女性。
■勝行くん(宇奈月慎太)
 :生まれて今まで、自由に育ちすぎた野育ちの自由人。
■ナーちゃん(上野可奈子)
 :彼をも振り回す天然ハリケーン娘。
□かずひこくん(原 寿彦)
 :似顔絵描きを生業とする、平成のヒッピー青年。
□ひさよさん(上原久代)
 :深窓の令嬢ながら、バカな男とバカな恋愛に燃えるバカな女の子。
◆村ノ越さん(村越保仁)
 :イギリス出張から本社に戻り、上司の女性に心奪われたバツイチの男性。
◆めぐみさん(成田めぐみ)
 :結婚生活より仕事を選び、2度の離婚を経てやっと生涯のパートナーを得た女性。
◇ダンディ山口(山口雅義)
 :結婚コーディネーターに全てをかける、業界のカリスマというより神様と呼びたい男性。

 人によっては、人生最大のイベントかもしれない結婚式。その一ヵ月前という時間と、ミーティングルームに4組のカップルが集められてしまったという設定が絶妙。一ヵ月前ってウキウキだったり、式の段取りでうんざりしていたりと、嬉しさと面倒臭さが同居している微妙な気分の時期だと思う(これは自己経験からの気持ちなんだけど・・・)そんな中で見せる喜怒哀楽。自分の結婚式で頭が一杯なのに、他人の結婚式の様子まで聞かされたんじゃ正直嫌だろうなぁ〜と思う。おまけに聞きたくもない他人の結婚式の予算まで聞かされるし・・・。そんな中で展開される様々な人間模様。貧乏な人から金に糸目はつけないという人。若いカップルから年配のカップルまで、もうひっちゃかめっちゃか。石ノ塚くんが憩ノ居さんにプロポーズするタイミングなんてありゃしない。でも、そんなドタバタを見ていると幸せな結婚式の様子までが垣間見れる様で、重ねて楽しくなってしまったのは確か。

 そして、それらをまとめる男が結婚コーディネーターのダンディ山口。自他共に認める“業界のカリスマ”的存在だが、裏を返せば結婚式だけしか能のない男でもある。ダンディ山口の孤独な姿に、結婚という一世一代のイベントに隠れた人生の悲しさを見た・・・。そんな男を山口雅義が演じているからなおさら味があるって言うか、暗くならずに哀愁が漂う、ちょっと嫌な奴だが、実はいい奴みたいな人物像をうまく表現していた。山口雅義っていい役者だなぁ〜と改めて実感した。ついででなんだが、憩居かなみの元気な笑顔も実に良かった。

 開演時のセリフ・・・大きくなって世間からニコニコ顔で向かえられなくなった時、一人でも自分にニコニコ顔を向けてくれる一人を捜し求める・・・これがこの芝居の全てかなっ。結婚生活が随分長い自分だが、改めて結婚式で右往左往していた頃を思いだし、人生を見つめて直してしまったりして。


“にんじんボーン”自分が観た公演ベスト
1.オヅ君が来た日
2.恋ハ水色
3.い・い・ひ・と
 

演劇の部屋に戻る



CONTENTSのページに戻る