99年1月はこの10公演

 


ケイダッシュステージ「パパに乾杯」

新国立劇場・小劇場 1/7〜1/17
1/8(金)観劇。座席 C6列-3(招待)

作:アラン・エイクボーン
演出:山田和也

 つき合い初めて一か月しか経ってないジニー(宮本裕子)とグレッグ(大沢健)は、幸せ一杯の日々を送っていた。しかし、ジニーのかつての不倫相手フィリップ(安原義人)からは、いまだにアプローチが続いていた。その関係を清算するために、両親に会うと嘘を付き、ジニーはフィリップの家を訪れる。しかし、その嘘を真に受けたグレッグは、ジニーの両親に気にいられたい一心で、先回りし、フィリップの家に行ってしまう。そして、フィリップの妻シーラ(佐藤オリエ)をジニーの母親だと勘違いし話し始める。ところが、それを見たフィリップは、グレッグをシーラの若い恋人だと勘違いして関係はますます混乱していく・・・

 勘違いが勘違いを生み、ごろごろと転がっていくおかしさは、演出・山田和也が得意とする分野なので、安心して楽しめる。しかし、日本人が「グレッグ」とか「ジニー」とか呼び合うような芝居はちょっと苦手なので、どーもしっくりこない。物語もそこそこうまくまとまっていて面白いのだが、どろどろとした男女関係をサラリと上品に描いているのが、自分には非常に物足りなく感じた。って書いてしまうと自分の下品さをさらけ出すようだけど、本心なんで仕方がない。

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トリのマーク「丘のほとりにて。ベンジャミン」

ザ・スズナリ 1/8〜1/10
1/9(土)観劇。座席 自由

作・演出 山中正哉

 丘にいるちょっとこわれたコンピュータ・ベンジャミンは一人でいるのが寂しいので、自分に会うと幸せになるとか、話をするといいことがあるなどという噂を近所にまいている。しかし、その効果はあまりない。でも、特殊な計算が得意なので、ときどき丘の案内人が、計算の依頼人を連れてくる。それを楽しみに日々を送っている。そんなベンジャミンの日常を描く。

 初めて観たトリのマークだが、私には、馴染めない世界かもしれない、と言うのが正直なところ。居心地の良い不思議な空間というのは、なんとなくわかる。でも、意味を極力そぎ落とした会話など、退屈過ぎて、ついつい眠りの世界へ入ってみたり、覚醒したり。自分のイメージが貧困なのはわかっているのだが、イメージが全然膨らんでこなかった。どう展開するのかわくわくしたのに、いつになっても展開しない。いろんなことが起きそうなのに、何も起きない。そこに意図があるのだろうが、私には退屈な時間が過ぎるだけだった。
 劇場内を改造し、丘に見立てた試みはおもしろいと思う。スズナリがこうも違う世界になるのかぁ〜と感心もした。しかし、屋外でやったほうが良かったのではないかとも思う。わざわざ劇場を使い、別世界にする意味が見つからないのである。屋外や小さなギャラリーでの芝居が多いと聞いたが、この芝居も屋外でやったとしたら、それなりにイメージが膨らみ、おもしろかったのではないか。しかし、この劇団に馴染めない限り、どこで観ても同じかもしれない。

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ピジョン「平安京」

青山円形劇場 1/12〜1/15
1/12(火)観劇。座席 D-11

作・演出 松村武

 早稲田大学出身のカムカムミニキーナ、双数姉妹、拙者ムニエルが作った合同ユニット“ピジョン(拙者カム姉妹改め)”の1年ぶりの新作。

 舞台は、都が奈良から平安京に移り京都王朝の始まりとなった、西暦794年。藤原一族の繁栄と衰亡を、『帝』と呼ばれた一人の処女・藤原梅香(明星真由美)をめぐる色恋い沙汰を交えて描く歴史絵巻。まっ、結局全ては、藤原不比等(松村武)の野望を叶える為の策略だったという話。

 「2時間半もやる話じゃない」とか、上演時間の長さに対する不満を多く聞いたが、私にとっては、「長いからどうとか言う以前につまらん」と言うのが正直なところ。今年のワースト候補が早々と登場って感じだ。村松武の作品はこの前の『マントル無頼』を観て、肌に合わないと思っていたが、これは決定的にダメ。おもしろい所が一つもない。あっ、役者としての松村武はおもしろかったので、一つもないというのは失言。まだ村松作品を2作しか観ていないので、その世界感をどうとか言えないが、自分には合わない事だけは判明。
 それに加え、今回の芝居は単に“カムカムミニキーナプロデュース公演”としか思えず、3劇団が集まる意味が全く見れなかった。それぞれの劇団の良さが出てこその“ピジョン”だと思うのだが、ほとんどカムカム色に染まっていたとしか思えない。これなら以前やってた(今はどーなってんのか知らないが)、双数姉妹の番外公演『週刊明星』の方が、それぞれ参加している劇団色が出ていておもしろかった。今後どーゆう方向にこの“ピジョン”が進むのかわからないが、このままでは2度と観ることはなさそうだ。

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舞台企画タイプス「屋形船グラフティー」

萬スタジオ 1/14〜1/17
1/14(木)観劇。座席 自由(E-8の座席)

作 谷村幸信
演出 MOTSU

 舞台は夏の屋形船。その日そこで宴会をする為に集まったのは自分を偽り、素顔を隠そうとする人々だった。そんな集まりの中に脱走犯が紛れ込んで繰り広げられるハートフルなコメディ。

 舞台いっぱいに繰り広げられる友情ドラマが臭くて、ハートフルどころか嫌気がさす。役者は下手だし、脚本も甘い。クサ過ぎるセリフ、都合が良すぎる展開には、脚本家の力量のなさを感じる。屋台船で宴会を行なう会のリーダーが警視庁の刑事という、とって付けたような状況にもがっかり。まっ、実は嘘だという展開にはなるのだが、本当の刑事が会のメンバーの中にいるという再び都合のいい展開にはあきれるばかり。ただ、発想はおもしろいと思う。護送車から脱走した男二人が逃げ込んだ先が屋形船だったり、そこで宴会を予定した団体が日本文通なんとか会という文通仲間の集まりだったりする、そんなシチュエーションの面白さはいい。ただ、物語の方向性と都合のいい展開が悔やまれる。脱走犯の一人が、恋人に会いたいという理由で屋形船に逃げ込むのだが、単なる偶然で、恋人がバイトをしている屋形船の近くで護送車が転覆するわけはないじゃないか。そんな偶然がおもしろくない。その後の展開も御都合主義で呆れ果てる。ラストではとんだ友情ドラマになってしまい、おもしろいシチュエーションを台無しにしてしまったのもいただけない。ラストの説教的な台詞もダメ。
 そんな感じなので、もし友情路線で行くなら、次回公演は観るところなし。シチュエーションコメディのおもしろさを追及していくようなら注目ってところかな。まっ、好き好きだけど。

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東京タンバリン「Sand-Wich」

明石スタジオ 1/14〜1/17
1/16(土)マチネ観劇。座席 自由(最前列中央)

作・演出 高井浩子

 時代は近未来。製パン会社の商品開発部に勤務する5人の男達の物語。パンの新製品を開発し続ける彼らには、特に何も変わったことはない日々が続いていた。ただ、最近「砂の様なものに体が侵される病気」が流行っているらしいという話は、彼等の耳にも届く。そんなある日、一人の男が体の不調を訴える。ひょんな事で平穏な日常が揺らぎだし「非日常の日常」が展開していく。

 静かなシュールさが妙に心をくすぐる。ちょっと不気味な不条理さも好きだ。ただ物語の深みはない。役者が良かったのでおもしろかったが、役者に個性がなかったら散々な芝居だったとは思う。不条理な会話劇の難しさだとは思うが、一体どんな事をやりたかったのかわからないギリギリの線って感じ。で、わかったかと言うとそうでもないんだけど。ほんと役者で見せてしまったって感じかな。
 その役者だが、特に目を引いたのが、動物電気の辻脩人。正直言って、辻脩人目当てで観に行ったのだが、あの気持ち悪さは、癖になるほど味がある。落ち着きのない変な動き方、目つきが悪い上に宙を泳ぐ視線。そんな変な奴だがイイのである。辻脩人がいたからこそ、不条理な世界が生きたとも言える。今後も辻脩人からは目が離せない。それにプラスして特に重要な役割ではなかったのだが、映像をげんこつ団の吉田衣里が担当していたのは、個人的には非常に嬉し事であった。

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劇団☆新感線「西遊記〜仮名絵本西遊記より〜」

青山劇場 1/14〜1/31
1/16(土)観劇。座席 A-20

作  中島かずき
演出 いのうえひでのり

 君主である美候王(池田成志)の命令で『三蔵経典』を手に入れる為に天竺に乗り込んだ孫悟空(筧利夫)、沙悟浄(手塚とおる)、猪八戒(深沢敦)の3人(匹?)は、天竺の守備を打ち破り、まんまと経典を手にする。しかし、美候王の側近の幻奘(古田新太)の策略で経典は奪われ、悟空は花果山に閉じこめられ羽目にあってしまう。そんな悟空の元へ経蔵(坂井真紀)、律蔵、論蔵と名乗る3人の娘が現れ「私達は三蔵経典、私達を天竺に連れて行ってください」と懇願する。かくして再び天竺への旅が始まるが、三蔵経典を奪回しようとする顕聖二郎神(鳥居かおり)や銀角(橋本じゅん)、そして宿敵・幻奘が行く手を阻む。
 1989年と1991年に上演した『西遊記』を、装いも新たにゴージャス版として再演。

 期待が大きかった、いや大きすぎた分落胆も大きく、期待した程おもしろくなかった、と言うのが本音。『西遊記』は新感線の公演の中で一番再演して欲しかった芝居だし、あれだけの役者を揃えたら、期待しない方がおかしい。そりゃぁ好きな役者が出ているし、物語だっておもしろいし、エンターテイメントとしては楽しめたと思う。ただ、新感線の芝居としては“こんなもんじゃないだろー”と言いたい。まず、マイクで声を拾っているところで違和感を覚え、芝居に入り込めない。ホリプロとの共同製作の目玉(?)のフライングによる孫悟空と幻奘の空中戦も、ただフライングで交差して火花が散る程度。これなら地に足つけて立ち回りをしてるほうが全然格好いいとさえ思えてしまう。そして、1部と2部で5時間近くあった(と思う)芝居を1本にし、3時間程度にしてしまった為なのかストーリーを追うだけで、遊びが少なく、展開にも無理が見えた。以前は遊び過ぎで本編を置き去りにするほどバカやってたのに、そのカケラもなく、新感線としてのおもしろさが全然見えなかった。・・・と、書いてからフッと気づいたのだが、新感線のおもしろさではなく、自分がこの劇団に求めるものと劇団が伸びて行く方向が違ってきたのかもしれない。新感線が東京進出を果たした次の公演から観続けているが(初進出したチケットも購入してたのだが都合でいけなかった)、もうこの劇団に過去のような強烈なライトと大音響で魅せる荒削りなパワーや、客席をも巻き込むはちゃめちゃな笑いを求める段階ではないのかもしれない。でも、そうなるとちょっと寂しい気もするが、それも時代の流れなのでしょうか・・・
 東京公演の次に行なった大阪公演は、むちゃくちゃ良くなっているとの噂を聞いた。東京公演でも序々に評判は良くなっていた・・・やっぱ早い時期に観たのが失敗だったかもしれない。


“劇団☆新感線”自分が観た公演ベスト
1.花の紅天狗
2.仮名絵本西遊記 2
3.ゴローにおまかせ 3
4.SUSANOH―魔性の剣
5.宇宙防衛軍ヒデマロ 5
6.西遊記〜仮名絵本西遊記より〜
7.スサノオ〜武流転生
8.星の忍者(再演)
9.髑髏城の七人(再演)
10.仮名絵本西遊記 1
11.宇宙防衛軍ヒデマロ 3
12.ゴローにおまかせ 2
13.ゴローにおまかせ 1
14.髑髏城の七人(初演)
15.アトミック番外地
16.野獣郎見参!
 

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弘前劇場「打合せ」

こまばアゴラ劇場 1/21
1/21(木)観劇。座席 自由(3列目中央)

作・演出 長谷川孝治

 舞台は、都内のとある地下室にある独立映画プロダクションの事務所。妻の自殺から脚本を書くことを辞めた脚本家・遠藤が、妻の七回忌に映画の脚本を再び書きはじめる。四国巡礼をしながら『癒し』を求め、書き綴る遠藤。その脚本に執拗にこだわる中条信子(森内美由紀)。プロデューサーの森一(畑澤聖悟)、俳優の江藤晋平(後藤伸也)、スクリプターの山田直子(松田弘子)は信子と脚本家の過ちを薄々感づいていた。その脚本を映画化するにあたり、事務所には監督の落合伸孝(山内健司)、カメラマンの服部種三(志賀廣太郎)、遠藤の脚本を演じる為に会社を辞め上京してきた奈良岡広一(福士賢治)が集まり“打合せ”を始める。しかし、その席には信子の姿はなかった。信子は3週間前に不慮の事故で死亡していたのだった。遠藤を取り巻く七人の生き方を映画製作事務所の1時間33分に凝縮した物語。

 この1時間33分はパンフレットに書いてあった時間。本当にその時間だったのか記憶にない、って言うか見ていない。それはさて置き、長谷川孝治が演劇以上に入れ込んでいるという映画についての物語を、青年団の山内健司、志賀廣太郎、松田弘子を迎えておくる公演。期待以上におもしろかった。
 ただ、本公演が「日常性」を重視するのに対し、より「物語性」を重視した作品を上演する“フラグメントシリーズ”を予備知識もなく、初めて観たので、正直、戸惑いもあった。「一つの集団には一つの方法論しかない」という演劇的怠慢を避けるために初めたシリーズだそうだが、いつも自分が弘前劇場に感じる、舞台という空間を超越した「日常に入り込む」という感覚がなく、そこには入り込む隙間のない密閉された空間が存在していた。前回の『秋のソナタ』にしろ、自分が舞台と同じ空間にいるのではないかと錯覚を起こす芝居が、ある種魅力なのだが、今回はそれがまったくない。
 しかし、つまらなかった訳ではなく、映画製作というものに興味があったのもあるが、各々の人物の関係性が非常に面白い。映画に対する想い入れや方法論がぶつかり合う。そこから見える人間性が物語に重みを加えて、さらに面白さを増す。物語はチラシに書かれてあったものから随分変更されていたが、実際に上演された脚本のほうが、私は数倍おもしろいんじゃないかと感じた。まっ、あらすじだけじゃ判断できないけど。
 ただ、実際に亡霊の信子を舞台に登場させたのには、違和感を覚えた。「これは、弘前劇場の芝居じゃない」みたいな、シコリ感が残ったのも正直なところ。しかし、なんて言うか、気持ちが優しくなれるという感じは、気分がよくて好きなんだけど。でも、それは弘前劇場の芝居ではないんじゃないか・・・みたいな葛藤が自分の中で渦巻く。弘前劇場に、固定観念を抱いていた私にとって“フラグメントシリーズ”は、いい刺激剤になったのは言うまでもない。


“弘前劇場”自分が観た公演ベスト
1.秋のソナタ
2.家には高い木があった
3.打合せ
4.アメリカの夜

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第三エロチカ「ロスト・バビロン」

ザ・スズナリ 1/14〜1/24
1/23(土)観劇。座席 自由(6列目中央)

作・演出 川村毅

 「銃で人が撃てる」というテーマパーク『ロストバビロン』が舞台。入場者は銃(模造ガン)を携帯し、リストラされたサラリーマンや社会からあぶれた者達が演じる襲撃者を模擬ではあるが銃殺することで、ストレスを解消する。そんなテーマパーク開発が秘密裏に進められていた。そのPR映画を製作するため、かつて恋人だった映画監督(吉田鋼太郎)と脚本家(中川安奈)が呼ばれる。そんな状況の中、オープン前のモニターとして参加している若者達は、人を撃つ快感が徐々に麻痺しはじめたのか、過激な要求を出し始めていた。その要求に答えるように疑似弾丸の効果も徐々にその威力を増していく。そんな中、ついに襲撃者の不満が爆発し、反撃が開始された。襲撃者に略奪された弾丸の中に実弾が含まれているという最悪の事態により、戦いは生死をかけた壮絶なものに発展していく。

 第三エロチカを観るのは久しぶりである。第三エロチカは、私を芝居好きにした原因の一劇団であるにもかかわらず、『東京トラウマ』を観た時に失望し、それ以降観たいと思わず今日に至っている。いや、“いた”と過去形にせねばならない。おもしろいという予感がしたのだろうか、何かに引かれるように観た『ロスト・バビロン』は、久々の傑作であった。「これでこそ川村毅」である。変な実験などに手を染めず、原点に戻り、ストレートに物語を書けば、こんないい作品ができるのである。
 しかし、褒めてはいるが、不満がないわけではない。映画『ロスト・ワールド』に類似しているという点が満点をあげられない原因となっている。『ロスト・ワールド』と言っても恐竜のヤツではなく、ユル・ブリンナーが主演していた映画である。あの映画はテーマパークのロボットの反乱を描いていたが、やはり類似している。そう思うのは自分だけであろうか・・・
 そんな不満はあるものの、川村毅の復活は非常にうれしい事である。出来ることなら、このまま『新宿八犬伝』の完結編となる第五巻を書いてもらいたいものだ。以前、新宿に新しい変化が起こった時に登場すると語っていたが、世紀末の今年あたりに是非とも書いて欲しいと願う。

 最後になってしまったが、客演の吉田鋼太郎の起用が作品をここまですばらしいものにした最大の勝因だ、と付け加えておきたい。


“第三エロチカ”自分が観た公演ベスト
1.ニッポン・ウォーズ
2.フリークス1988
3.ロストバビロン
4.ボディ・ウォーズ
5.四谷怪談・解剖室
6.東京トラウマ

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あまがさき近松創造劇場「蜻蛉(かげろう)」

新国立劇場・小劇場 1/29〜1/30
1/29(金)観劇。座席 C1-10

作 松田正隆
演出 岩崎正裕

 兵庫県尼崎市の主催で、近松門左衛門の作品の精神を現代に蘇えらせ、新しい現代演劇の創作を目指す企画の第一回公演。
 高校教師の浅倉深雪(花田明子)は、見合い相手だった梶井(紀伊保)が妹の佳代(洪仁順)と結婚してしまったのが引き金となってしまったのか、いつしか、妻帯者の須永(水沼健)を自ら誘うように関係を始めてしまう。須永が深雪の部屋に転がり込んで10日が過ぎたある日、妹が家を出たと梶井が深雪の部屋を訪れる。

 深雪の部屋を行き交う人々の話である。題名の“蜻蛉”はこの「姉」である深雪を例えたのであろうか。それとも、深雪の部屋という明りに集まる人々をさしたのだろうか・・・
 どうしても、物語の本質が見えてこなかった。それどころか、年齢のいった女性に対する作家のエゴみたいなものが見えてしまい、作品に入り込めなかったというのが真実。30歳を過ぎて結婚していない女性が、人間としてダメみたいな杓子定規的な表現が自分には不快でならなかった。結婚していない事に対して「何やってるんだろう」って、ちょっと考え込むのはわかる。でも、それが一番重要な事みたな感じでは息が詰まる。本当はもっとあの芝居から引き出されるものが隠されているに違いないが、その思いが邪魔をして、私には何ひとつ見えてこなかった。作家自身、こんな事欠片も思っていないかもしれないが、私にはそう伝わってきてしまい、とても不快のまま劇場をあとにした。

 あっ、恥ずかしながら、近松門左衛門の作品をちゃんと読んだ(観た)記憶がないので、あの作品が近松門左衛門の精神を蘇らせていたのかどうかは、判断できず。勉強不足を痛感。

<追記>
 会場でもらったパンフには、主人公の名前は“深雪”という名前になっていたが、後日雑誌などの記事を読むと“佐和子”になっていた。自分の記憶を辿るも思い出せるはずがない。本当はどちらの名前が正解なんでしょうか・・・

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NYLON100℃ SIDE SESSION
「ロンドン→パリ→東京」

本多劇場 1/26〜1/31
1/30(土)マチネ観劇。座席 A-3

作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ

 舞台は99年7月の東京。35年前少年探偵団に入っていた47歳の十日家タモツ(大倉孝二)は、もう一度少年探偵団をやろうという夢を追い求め、他人の迷惑はかえりみず、周囲の人々を騒動に巻き込んで行く。かつての仲間であるヒラメ(村岡希美)・ハカセ(大山鎬則)・オイロケ(新谷真弓)を集め、自分が毎晩残業で4年もの間家に帰ってなかったばかりに(道を挟んで向かいに家があるのに…)妻子を奪われた相手・野々村切人(小林高鹿)に戦いを挑む。この男こそ悪の権化・永遠の敵キリヒト本人であった。てな内容の話だけど、ストーリーはたいして意味を持たない。って言うかどーでもいい。そんなナンセンスな展開が続く。ケラが2年4ヶ月ぶりに単独で書いた純ナンセンス作品。

 笑えなかったわけじゃないけど、何故か眠気を堪えるので精一杯だった。所々で可笑しいんだけど、テンポが悪く、なんかつまらないという印象が強い。言葉尻を捕まえた遊びは確かに面白いが、ただそれだけ。笑うだけ笑って、後には何も残らないというコンセプトだとは思うが、印象が強かったのが劇中劇(?)である『バカは二度注意されてもベルを鳴らす』での清水宏がやけにうるさかった事、っていうのも寂しい限りだ。ナンセンスも中途半端な感じで、変な奴らが暴れているだけという印象が残る。ハイレグ・ジーザスの岸潤一郎・正岡泰志が客演していたが、各々の持ち味を出しているに過ぎず、新しい魅力が引き出されてはいなかったのも残念であった。


“NYLON100℃”自分が観た公演ベスト
1.カラフルメリイでオハヨ'97
2.ファイ
3.フローズン・ビーチ
4.吉田神経クリニックの場合
5.ザ・ガンビーズ・ショウ Bプロ
6.偶然の悪夢
7.フランケンシュタイン
8.イギリスメモリアルオーガニゼイション
9.ロンドン→パリ→東京
10.下北沢ビートニクス
11.ザ・ガンビーズ・ショウ Aプロ

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