98年6月はこの6公演

 


超歌劇団「鬼の一休」

フジタヴァンテ 6/5〜6/7
6/5(金)観劇。座席 自由

作・演出 うるけん一太郎
時は室町時代。主人公は、鬼のような極悪非道の一休。しかし、それは独裁政治で暗黒の時代を築いた足利義満を倒し、世直しするする為のカモフラージュだった。って、いくらカモフラージュだからと言っても人を斬ったり、金を集めたりしていいんかい、と突っ込みを入れたくなるような、そんな物語。

GGフェスのラストに登場したのは、静岡から乗り込んで来た超歌劇団。そのおもしろさをどう表現したらいいのか悩んでしまう程、独特な世界を持っていた。“歌劇団”と名乗ってはいるが、歌う事も踊る事もない。どこまでがマジの芝居で、どこから笑いなのかその境界線もあやふや。いやマジの芝居が、なんかへなちょこで笑えるのかもしれない。へたくそゆえの笑いというか、自然体ゆえの笑いというか、一生懸命さがおかしいというか、そんな感じ。しかし、そんな芝居を褒めていいのか?と疑問がないわけではないが、自分にとって脱力感のある笑いは最高なのであるから、ここは自分の好みを信じ大きな目で見たい。仰々しくセンスが古い音楽(昔の新感線を観ているようだ)もなんかおかしいし、オーバーなアクションも変てこでいい。一場面の為だけに作った大がかりなセットがすごく邪魔なのも笑える。一休(うるけん一太郎)が口で言う「ずぶっしゅ」という刀で斬った時の効果音も笑いツボに入った。でも、一番おかしかったのが新衛門(渡辺祐介)である。真剣な台詞まわし、真剣な演技が逆におかしい。登場する度に大笑いしてしまった。真面目に芝居をしている(そう思うのだが)本人はこの笑いをどう取ったのだろうか?って“?”を付けてみたけど、本人の思いなんて知るよしもありません。しかし、その持ち味で今年のGGフェスの男優賞に輝いたもよう。

今回私は初日に観て非常に楽しめたのだが、「笑い」の受け方が初日と最終日では、天国と地獄と言ってもいいほどに、開きがあったらしい。私が観た時は、手を叩いて笑っていたロリータ男爵のタタララタタが、笑いの先導をしていたとはいえ、最終日に観た人の「つまらない」という感想の多さには「なぜ?」と言いたいほどだった。両日とも観た人の話では、作品の出来の差は全然なかったということだ。“客席の笑いが芝居をおもしろくした”ということもあるが、この極端な差に人を笑わせる事の難しさを今更ながら感じてしまった。それ由、笑える劇団には一目置いてしまう私であった。
あっ、ただ一つつまらなかったのが、場面転換時に読む俳句。「ここで一句」と言って詠むんだけど、その俳句がつまらない、つまらない。これには参った。

演劇の部屋に戻る


惑星ピスタチオ「大切なバカンス」

紀伊國屋ホール 5/7〜6/12  
6/6(土)観劇。座席 I-20

作 平和堂ミラノ
演出 西田シャトナー
初めて両親の元を離れて、田舎で夏休みを過ごすことになった一人の少年・カカオの物語。
田舎の生活にも慣れてきた少年は、ある日、湖畔の家に住む“みずうみばばあ”と呼ばれるひとりのおばあちゃんと出会った。一人静かに暮らすおばあちゃんと話しているうちに、おばあちゃんには、昔から心に思い続けている願いがある事を知る。少年はその願いを叶えようと、とんでもない計画を建て、実行したのだが・・・少年はこの夏休みで人の心の痛みを知り、ちょっぴり大人に成長した。そんなハートフルな物語。

平和堂ミラノらしい、いい作品だった。
が、一つの役を数人で演じるという新しい演出には正直疑問が残る。一つの役を数人で演じるのは、万華鏡を観ているようで、幻想的といえる部分もあったと思うが、細やかな心理を伝える部分では逆効果だった気がする。同じ登場人物でも演じる人が違うだけで伝わるイメージが全然違ってくる。それはそれでおもしろさはあったが、感情移入している自分の気持ちが、演じ手が変わる度に途切れてしまうのは、作品の流れも、おもしろさも破壊してしまっていたと思う。その変化を楽しめる物語(もっと冒険的な話)ならこの試みも成功だったかもしれないが、受けて側がやわらかな気持ちになれる平和堂ミラノの作品では正直言って失敗であったと思う。新しい試みはいいが、作品を考えた上で行うべきだったのではないか。脚本が良かっただけに悔やまれる。まっ、そもそもこの表現方法で何をしたかったのかイマイチ理解できなかったんだけど…。
パワーマイムは影を潜めてきたが、小道具を使わないで表現する力はさすがと言いたい。あっ、それと相変わらず照明は最高に良かった。


“惑星ピスタチオ”自分が観た公演ベスト
1.破壊ランナー
2.小林少年とピストル
3.Believe
4.熱闘!!飛龍小学校パワード
5.大切なバカンス
6.ファントム
7.満月の都
8.ロボ・ロボ
9.ナイフ
10.WORLD
 

演劇の部屋に戻る


ベターポーヅ「カエルとムームー」

『劇』小劇場 6/10〜6/14  
6/10(水)観劇。座席 自由

作・演出 西島明
気が付いたら一週間も眠っていなかった伝染性不眠症の三人姉妹。それにちょっと危ない兄やイトコなどが絡みながら過ぎていく、長い夜の物語。

“異常な世界”と表現するとちょっと違うような気がする。異常な人物ばかりなんだけど、なんかその一歩手前的な感覚、強いて言うなら“みんな尋常でない”という感覚かなぁ。で、その一歩手前の感覚というのが、妙に浮遊感があって、おかしくもあり、気持ちよくもありという不思議な空間を醸し出している。でも、ともかく“変”なのである。突拍子もない台詞もいいし、腐ったポテトサラダから毛が生えているって訳がわからないのもいい。記憶がだんだん退化していくシーンでは、その感覚がわかるだけに(寝不足で喉元まで出ているのに思い出せないって感じ)笑えました。寝不足でいる時も妙な浮遊感があって気持ちいいもんです。なんか麻痺していく感覚って言うか。
げらげらという感じではなくニタニタって感じは、文字で表現したものを見るより、是非とも体感してほしいと思う。シュールな笑いでおなかいっぱいって感じで満足できるはず。この空間はとても癖になると自分的には太鼓判を押したい。
今回加藤直美が宮沢章夫プロデュース作品に出演するために出れなかったのが悔やまれるが、それを除いてもおつりがくる出来映えだった。役者それぞれ個性があっていい。猿飛佐助が登場するたびに着ている“うさぎのTシャツ”の柄が変わっているのも、ちょっとしたお遊びでよかった。っていうかそのTシャツ欲しかった。


“ベターポーヅ”自分が観た公演ベスト
1.カエルとムームー
2.ボインについて、私が知っている二、三の事柄
 

演劇の部屋に戻る


宮沢章夫プロデュース「alt.」

フジタヴァンテ 6/12〜6/14
6/13(土)観劇。座席 自由(座席なし)

作・演出 宮沢章夫
劇場には椅子がない。入り口でもらった「alt.」と書かれたシールを胸などに貼り、勝手に移動しながら観劇をする。劇場を美術館に見立て、いろいろな場所で芝居を見るといった感じだ。その芝居も舞台で演じられるものばかりでなく、客の真ん中の空間で行われたり、ロビーで行われたり様々だ。その作品解説が初めに渡される『MUSEUM GUIDE(alt.その見方)』に記されているのだが、表紙をめくると「これは、ガイドブックではない。」と書かれてしまっている。「一体どうすりゃいいんだい」って気持ちを察するように、文は「見方をこうだと限定すれば、あなたの位置を決めることにつながる。」と続く。なるほど、この文で今回宮沢章夫がやってみたかったものが、おぼろげながら見えてくる。

「芝居を一定の場所で見る」という今までの観劇パターンを壊した実験的な舞台には、拍手を送りたい。しかし、そこから起こってくる面白さは、期待ほど感じなかったというのが正直な感想。自分の気持ちでいろんな場所で芝居を見るのだが、その芝居自体があまり面白くない。どれを見てもわくわくしてこない。退屈なのである。もっと面白い事をやっていれば、この企画も良かったとは思うが、時間が経つのが遅く感じるくらい、楽しめない。観るのに飽きたらロビーでコーヒーも飲めるのだが、そのコーヒーがまずい。おもけに、いっしょに付いてくる音楽(?)もつまらない。「ウワボ自由なテキスト」と題し、同じシチュエーションで様々な見方を表現する作品は面白かったのだが、面白かったのがこれだけと言うのは、なんか無駄な時間を使ってしまったって感じで欲求不満感が残る。
今回は加藤直美が出演していたのでどうにか最後まで観れたって感じ。

演劇の部屋に戻る


ラッパ屋「阿呆浪士」

THEATER/TOPS 6/4〜6/30  
6/20(土)観劇。座席 ろ-2(枡席)

作・演出 鈴木聡
舞台は赤穂浪士の討ち入りの噂で持ち切りの江戸。しかし、その高まりに反し浪士達の士気は低下していた。そんな中、浪士の一人、貞四郎(木村靖司)の血判状が、ひょんな事から魚屋八(岡山はじめ)に渡ってしまう。花街でモテようとして八は、隠れ赤穂浪士を名乗る。そこから事態はあらぬ方向へと走りだしてしまう。『忠臣蔵』を背景に、偽赤穂浪士八っつぁんの“嘘から出た真”を描いた物語。
劇場を江戸の歌舞伎小屋に大改造。シアタートップスの客席中央に舞台と花道を作り、座席は枡席と座布団席という大がかりな事をやってしまう。そして、語りに浪曲師の国本武春を招き、江戸情緒たっぷりに演出した作品。

観劇状況をここまで凝った演出にしたのは面白かったが、肝心なストーリーに目新しさは感じず(再演だからかもしれないが)、散漫さが目だってしまった。舞台が狭すぎたのもあるが、数人が絡んでは消え、絡んでは消えという感じで進むので、なんかストーリーの流れが悪い。それに、目の前でドタバタされるのは、せっかくの舞台構造ではあるが、目障りでもあった。期待しなければ楽しめたのかもしれないが、期待させる劇団になってしまったのだから、辛い評価も仕方がない事だろう。討ち入のシーンは良かったが、ラッパ屋にしてはカッコつけ過ぎなのもマイナス要因かなっ。


“ラッパ屋”自分が観た公演ベスト
1.サクラパパオー
2.凄い金魚
3.マネー
4.エアポート'97
5.裸天国
6.鰻の出前
7.阿呆浪士

演劇の部屋に戻る


NYLON100℃ SIDE SESSION #6「ファイ」

中野ザ・ポケット 6/24〜7/5
6/30(火)観劇。座席 M-5

作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
振付 井手雅子(珍しいキノコ舞踏団)
オブジェクト製作 ヨシタケシンノスケ
時は2098年、22世紀を目の前にした、今から100年後の世界。人々が溶けてしまった(何故かローソンだけが残った)例の戦争の後の物語。人類は進歩するどころか、遺伝子的退廃で今より退化していた。そんな時代、サロンだか喫茶店だかわからない店、おまけにゲリラ活動の秘密基地でもある“クラブファイ”に集まる人々を軽いタッチで描いた物語。

どーでもいいような物語に詰め込んだ、不条理過ぎる世界がすばらしい。物語だけでなく、登場人物や台詞の端々まで不条理だらけ。その不条理な世界がむちゃくちゃおもしろい。今まで観たナイロンの芝居の中では、一番笑ったんじゃないかと思う程笑った。初めから最後まで笑いっぱなし。チラシには「絶対に本公演では見ることの出来ないステージ」だとか「演劇という文脈では到達し得なかった奇異な領域に迷い込んだステージ」だとか書いてあったが、実験的であるサイド・セッションの芝居としては、今回も裏切られた感じだ。“裏切り”と言っても、出来の善し悪しではなく、飛び抜けた実験的舞台を期待していた事に対してそう感じただけで、期待を裏切られた事により、今回もよくできた芝居になっていたと思う。
サイドセッションにしては役者も充実していたと思う。大倉孝二が出ていなかったのは残念だったが、ベテランだけでなく若手の個性も光っていたので、充分観応えがあった。中でも新谷真弓がいい。猫100℃---でも良かったが、今回もいい味をだしていた。8月には猫ニャーの本公演に客演するらしいので、目が離せない。
猫ニャーと言えば、ケラはブルースカイの作品に触れ、相当衝撃を受けたに違いないと感じた。パンフレットでも書かれているが、自分の作品がテクニカルになってきている事を、猫ニャーの芝居を観て感じたのではないか。その反動が今回の作品に現れたのか、バランスの悪いおもしろさが非常に出ていたと思う。芝居に、脈絡やテーマや理由づけをしないで、単純におもしろいものを列挙してしまう。そんな感じの芝居。私はそんな成熟しきってない芝居が大好きである。

余談になるが、この芝居はワンドリンク付きの芝居だった。しかし、劇場内での飲食禁止で、あえなくドリンクはおみやげとなってしまった。なんか企画倒れな感じになってしまい、ちょっと残念であった。


“NYLON100℃”自分が観た公演ベスト
1.カラフルメリイでオハヨ'97
2.ファイ
3.吉田神経クリニックの場合
4.ザ・ガンビーズ・ショウ Bプロ
5.フランケンシュタイン
6.下北沢ビートニクス
7.ザ・ガンビーズ・ショウ Aプロ
 

演劇の部屋に戻る



CONTENTSのページに戻る