下北沢駅前劇場 5/2〜5/3
(「鼓膜」「ねこいらず」2本立て)
5/2(水)観劇。座席 自由(2列目左端)
『鼓膜』作・演出 野間口徹バッティングセンターで女(浅見奈生子)を舐める様に見ている男三人組。その現場に突然現れて女を拉致してしまう男(野間口徹)。男は拉致した女を部屋に監禁する。バッティングセンターにいた男達の中の一人・ウノ(福原充則)は以前この男に殴られ片方の耳が聞こえなくなっていた。ウノは、仲間のタクミ(吉見匡雄)とサノ(星野ゲン)と共にこの男を捜し、袋叩きにしようと行動に移す・・・。バッティングセンターで働いている男(山崎竜介)は、間違い電話を掛けた相手(三浦竜一)から逆にイタ電を掛けられていた。その男は覗きビデオの製作が仕事らしく、女を監禁した男の部屋を覗いていた。その様子を見に来て欲しいと、バッティングセンターの男に電話を掛ける・・・。一見繋がりのない七人の男と女が接触し、悲劇が生まれる・・・。
その暗さ故、万人受けはしないと思うし、人に薦められる作品でもない。が、私にはとても面白い作品であった。いや〜な不安感が全身を締め付けるように覆う、そんな不快感たっぷりの傑作であった。案内文に“主人公以外のヒトの情報がほぼ語られない話です”と書かれてあったが、主人公すら人となりは語られていない。女を拉致した男の素性も不明のままだし、ましてや原因も不明。不安だらけである。その不安感が増殖されているのが、無言でパネルに書かれた文字だけで会話をする男の不気味さである。人と会話でのコミュニケーションが取れない、今の時代が反映されているようである。そのパネルが冗談めいて可笑しいから余計に恐怖感がつのる。そんなところに演出のうまさを感じた。久々に不安感が渦のように劇場に充満している芝居であった。素晴しい。テーマは、ストレス解消には原因そのものを消去しないと駄目じゃんって事でしょうか。
『ねこいらず』作・演出 中村衛
団地のゴミ捨て場に集う猫と団地に住む主婦らをシンクロさせて描いた作品。
とても眠い。辛い。時間が早く過ぎて欲しいと願った。芝居が嫌いになった。そんな芝居。中村衛は前作の『くびきり』では、ちょっと面白い空間を構築していたのに、今回は全然駄目。自分の世界を表現するのではなく、自分の世界に引きこもってしまった感じ。その伝わらないイメージを、ただ並べただけという感じで、自己中心的な作品であり、その世界に馴染めない者には苦痛でしかなかった。
『鼓膜』だけなら評価は高いのだが、『ねこいらず』で評価を落とす。そんな結果になってしまった。これがrust-Kindergartenとしての最終公演との事で、ちょっと残念だ。野間口徹が親族代表で醸し出すおかしな空間も好きだが、今回の様などんよりと濁った空気も好きなので、機会があったら又、作・演出をしてもらいたいものだ。
“rust-Kindergarten”自分が観た公演ベスト
1.抵抗 2.くびきり
作 後藤ひろひと
演出 G2舞台は、宮原木材の事務所。しかし、事務所とは名ばかりで、そこには、事務机と椅子と電話があるだけのいわゆる税金対策として作られたペーパーカンパニーであった。そこで電話番をしているのが、社員の結城(粟根まこと)。そして奥には、部屋を間借りしている貧乏画家の神崎(後藤ひろひと)がいた。その日偶然、その事務所にやって来たのが、結城の幼なじみであり天敵でもある、超いいかげん男の健三(松尾貴志)、府中刑務所の看守をリストラされ再就職を探して宮原木材を訪れた青木木太郎(八十田勇一)、盗聴マニアで天才的ハッカーの皿袋(松永玲子)。そんな彼等の元へ幽霊会社だと思わずに、1億8千万円のビッグビジネスの話しが舞い込んで来る。幽霊会社なので仕事を受けてはいけないのに、たまたま電話を取ってしまった健三は、得意の声色で勝手に仕事を受ける方向で、どんどん話しを進めてしまった・・・。そんな感じで、結城にとっては不幸な出来事が雪達磨式に膨れ上って行くという、巻き込まれ型シチュエーション・コメディ。
で、結果は、受けた仕事を見事成し遂げ(そんな都合良く行くかよ〜ってのは大目に見て)、“結城ビッグ・ビズ・エンタープライズ”という独立した会社まで築き上げる成功ぶり。1日にして巨万の富みを手に入れた5人の夢のような物語。まぁ、いわいるアメリカン・ドリーム、というか日本なのでジャパニーズ・ドリームを手に入れた個性あふれる5人のサクセス・ストーリーとでも言いましょうか、そんな物語。ゲラゲラ腹を抱えて大笑いしてしまった。役者のキャラも手伝っているが、後藤ひろひとの脚本のおかしさが一番。さすが。ラストも夢の様にはかなく消えるのかと思ったら、まんまと成功させてしまう“裏切り”を見せる。「後藤ひろひとの脚本ならハッピーエンドはないだろう」なんて、自分勝手な思い込みを心地よく裏切ってくれた。なんか“してやられたり”って感じだ。ただ、後藤の良さでもある“毒”がすっかり消えてしまっていたのは、とても残念である。ゲラゲラ笑っておいて苦言を垂れるのも申し訳ないが、演出がG2という事が後藤ひろひとをハートフル化してしまった一番の原因だと思うのだが、どうだろう。って疑問を投げかけてもしょうがないけど。今回は意に反して、心地良さを感じてしまったが、後藤にはハートフルな物語は似合わないと思うのは自分だけではないはず。描かれた世界も狭すぎて、後藤の持つ世界感じゃないとも感じてしまった。こんなこじんまりとしたシチュエーション・コメディより、もっとでっかい嘘をつけるのが後藤ひろひとの才能でもあるのに残念でならない。笑えた事に対しては大満足であるが、物語としては薄いなぁ〜ってのが本音である。
役者に関しては申し分ない。ベストな配役で、これ以上は考えられないって言ってもいい。これだけいい役者で観られたって事が最高の喜びだった、ってのが一番の感想かも。
“AGAPE store”自分が観た公演ベスト
1.BIG BIZ〜宮原木材危機一髪!〜 2.超老伝2000
作・演出 倉森勝利
構成 小松と倉森勝利ブラザーズ負け戦さで逃げ帰った一人の兵士・ダンダダ(小松和重)が、森で妖精(皆川猿時)に出会う。彼はその妖精に「一国一城の主になりたい」と願いをかける。気の良い妖精が願いを聞き遂げた途端、男は妖精に剣を向けた。妖精は「願いは叶うが報いもある」と言い残し消えてしまう。
キャムゼルの国を倒し、一国一城の主の道を歩んで行くダンダダ。しかし、ダンダダには後を継ぐ子供が生まれなかった。自分の子供を姫のヒラタグレース(平田敦子)と結婚させ、国王の座を手に入れる計画は目の前にあると言うのに・・・それどころか、ダンダダは子供が出来ない事で殺されるのを恐れ、子供ができたと嘘をついてしまう。そんなある日、偶然に子供を拾う。その子を自分の子として育てようと意を決したが、その子は女であった。しかし、今のダンダダには、その子にすがるしか手はない。結局、その子を男として育てる決心をするのであった・・・。
ダンダダJrは男の顔(小松和重)と女の顔(久米淳子)の二つの顔を持ち育っていく。そんなダンダダJrをライバル視するマックスベア(久ヶ沢徹)。ダンダダJrを女と見破り恋に堕ちるキャムゼル王子(児玉信夫)。妖精チンク(倉森勝利)らが展開するサモアリ版『リボンの騎士』。今まで本多劇場で見るサモアリには失望感を抱いていた。それなので、今回の観劇は見送ろうと思っていたが、ひょんなところから招待券を頂いた(ラッキー!)ので観劇する事にした。で、どうだっかと言うと、面白かったのである。P列といういつもより遠い距離にも関わらずである。物語性があり、ラストの悲劇もサモアリらしくなく、とても新鮮な衝撃を受けた。後藤ひろひとが遊気舎時代に書いたダークファンタジー(『ダブリンの鐘つきカビ人間』とか)を彷彿させる。
ただ、芝居自体に満足はしたものの、サモアリの素晴らしさである“ユルユルの面白さ”を感じられるスペースは本多劇場ではなく駅前劇場のような小スペースだと思う持論に変わりはない。ぎゅうぎゅうに押し込まれたスペースで、ユルユルの笑いを楽しむ、それこそがサモアリの持ち味なのではないか。って動員数を考えたら無理な話なのかもね。
“サモ・アリナンズ”自分が観た公演ベスト
1.ガッツ団 2.ロボイチ 3.マクガフィン 4.ホームズ 5.ホールアンドナッツ 6.スネーク・ザ・バンデット 7.蹂躙
原作 金杉忠男
脚本・演出 平田オリザ小学校の同窓生であった増本の葬式の帰り道。四つ木橋にあるとある喫茶店。この店は後輩の佐々木次男(山内健司)の店である。その店に集まるかつての少年達。増本と同級生であった藤崎次郎(篠塚祥司)、吉田忠男(志賀廣太郎)、一年後輩の中川義男(猪股俊明)、後輩の市川祐介(大塚洋)らは、思い出話に花を咲かせている。皆小学生からの友達である。そんな思い出話しの中、藤崎が小学生当時『月の砂漠』を上演するにあたり、クラスのマドンナが本物のらくだに乗りたいと言い出した話になる。上野動物園からラクダを盗み出し、マドンナを乗せようと画策した悪ガキ時代の話。そんな昔話に花が咲いているところへ、かつてのマドンナ北本菊子(大崎由利子)がやってくる・・・。かつての悪ガキたちの追憶と中年となってしまった彼らの現実生活が交差する。長い年月はそれぞれ別の人生を歩ませていた。吉田には若気の至りで別れてしまった妻と娘がいる。その娘が結婚の報告にやってくる。中川は妻と別れて6年が経つ。今では草木染めの先生に惚れていたりする。藤崎はガンであと1年の命である事を知っていた。市川は47歳で第二子の誕生・・・何の心配もなく“今”を精一杯生きていた子供たちが、長い年月を生き、それぞれの人生を築きあげていた。各々が背負ってる様々なものが、重苦しい空気を醸し出す・・・そんな現実を振り払うが如く、彼らは再びマドンナをラクダに乗せようと動き出す。
金杉忠男の中村座時代の名作『上野動物園再襲撃』をベースに、いくつかの作品と遺稿である原稿用紙5枚ほどの作品をコラージュして、平田オリザが書き下ろした新作。中村座及び、その後の金杉忠男アソシエーツの公演を私は観たことがない。それどころか、金杉忠男の名前は知っていたが、恥ずかしながら、どんな作品を書く人なのかまるっきり知らなかった。なので、今回の作品はまるっきり平田オリザの新作として観た。で、どうだったかと言うと、とんでもなく素晴らしい作品だったのである。同級生の死を目の前にした事によって、今まで他人事だった“死”が身近に迫ってきた40代後半から50代のかつての少年達。そんな彼等の人生の喜怒哀楽が散りばめられたとても深い作品であった。ラストシーンは、みんなで騎馬を作り、マドンナと喫茶店のアルバイト香山早苗(安田まり子)を乗せ、月の砂漠を合唱するシーンなのだが、ちょっとベタ過ぎるんじゃないかと思いつつも感動してしまった。今までの人生がそれぞれの頭に走馬灯のように浮かんでいるのがわかる名シーンであった。それが芝居とわかっていても、自分の心に届いたのは、脚本・演出・役者の素晴らしさにほかならない。本当に登場人物の人生を歩んできたと思える素晴らしい演技は、芝居という枠を超えて心に突き刺さった。この作品、長い人生を歩んできた中高年には、単にノスタルジィではない人生の重みを痛いくらいに感じるのではないだろうか。若い人の中には、共鳴できずにつまらないと思う人も多いかもしれないが、私は、感動の涙を流してしまった。 誰かに感情移入したという訳でもないが、とても泣けてしまったのである。芝居の中に自分の人生を見てしまったからだろうか・・・。
一つひっかかっているのが、かつてのマドンナ北本菊子の存在。何かわけありの人生を歩んできたらしく、四つ木には40年近く戻っていなかった。そんな北本が一人で喫茶店で佇んでいる時、死んだ妹・北本弥生(辻美奈子)が現れる。このシーン、観ている時は気がつかなかったのだが、この妹が実は生きていて、生きていると思っている北本菊子が実は死んでいたのではないかと・・・。そうすると北本菊子の挙動不審さや携帯が今使われていない事とかの説明がつくのではないか。妹が「又来てね」というセリフにも納得が行くし、菊子の死因が自殺で命を簡単に落としていたとしたら、最後に菊子が藤崎に「死ぬなよ」と力強く言うせりふにも重みを感じてしまうのだが・・・本当はどうなんだろう。
“青年団”自分が観た公演ベスト
1.東京ノート 2.上野動物園再々々襲撃 3.カガクするココロ 4.海よりも長い夜 5.ソウル市民 6.ソウル市民1919