What's New ?

                       ■本の評価は、☆☆☆☆☆満点
☆☆が水準作


ホームページへ

不可能犯罪ミステリリスト(国内編)へ
不可能犯罪ミステリリスト(海外編:お試し版)
風太郎全作品刊行祈願カウントダウンへ
新刊レヴューへ
過ぎ去りしWhat’s New?へ
パラサイト・関の翻訳ミステリアワーへ
メールコーナー

ファイルが消えていたので再送(5/2)

2000.4.30(日)  美濃牛
・雑誌の付録についていたIE5のソフトを入れて、なんとかインターネット環境回復。これまで、一度アクセスしても、たいがいのサイトは開かず、一定の時間をおく再度アクセスする必要があるというもどかしい状況だった。
・10日ほど前に貰った高橋徹のメールから勝手に一部引用。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この状況下、殊能将之「美濃牛」読了。長編を読めない体質になって数年。これくらい一気に読めたのは高野史緒「ムジカ・マキーナ」以来(ということは5年ぶり)でした。昨日読み終わってから1日伏線を点検しましたが、実に達者。傑作でしょう。(直接関係ないですが、川崎賢子の解説も?!) 次作への期待は募りますが、それ以上に彼の書いたSFを夢想しております。このへん読んでると。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「傑作」かどうかは、留保がつくけど、「美濃牛」は、十分に論じられるだけの価値のある作品でしょう。実際のところ、これだけ抜きんでた教養、センスの持ち主は、現代日本ミステリ界にはほとんどいないと思う。本格ミステリは、現実を舞台にしたSFだという説もあるので(私の説)、殊能将之がミステリに来てくれて良かったな、と。パラパラと読み返して、気の付いた点をとりあえず書いておく。
・タイトルやコリン・デクスターばりに各章に掲げられたエピグラムからも、本書がギリシァ神話の「ミノタウロス伝説」をモチーフにしていることは明らかなので、まわりくどいようだが、ミノタウロス伝説について簡単に触れておく。テキストには、昨年出た「幻想文学56 くだ、ミノタウロス、牛妖伝説」に掲載されていた多田智満子「牛の貌した神々」が好便。
======================================
 オリュンポスの主神ゼウスは、牡牛の姿になってポイニキアの王女エウロペを誘拐、クレタ島へ連れていき、王女と交わりクレタの伝説の王ミノスたちを生む。ゼウスの去ったあと、エウロペは、島の王アステリオスと結婚。ミノスは養父アステリオスの死後王位継承問題が起こったとき、自分が兄弟の中で最も神意にかなう者であることを主張し、その証拠として海神ポセイドンの祭りの日に、神への犠牲獣を遣わせるよう祈り求め、ポセイドンは、祈願に応えて見事な牡牛を波間から送り出した。これを神寵としてミノスは王位についたが、見事な牡牛が惜しくなり他の牛を犠牲に捧げた。ポセイドンはこれを激怒し、彼の妃パシファエに、この美しい牛に対する恋慕の情を抱かした。パシファエは、苦悩のあげく、工人ダイダロスに相談し、張り子の牝牛の中に入って、牡牛に近づき、思いを遂げる。
 この交わりで懐妊したパシファエが生んだのが牛頭人身の怪物ミノタウロスである。王は、この不祥事を知り、ダイダロスに命じ、迷宮をつくらせ、ミノタウロスを幽閉する。
 ミノス王は、ミノタウロスの犠牲となる男女を送るよう征服民に要求する。アテナイの若き英雄テセウスが立ち上がり、生け贄の青年男女に加わったが、彼に一目惚れしたミノスの娘アリアドネから糸玉をもらい、糸を迷宮の入り口に結びつけて奧に進み、ミノタウロスを発見する。テセウスは、ミノタウロスを倒し、アリアドネの糸をたよりに無事帰還する。
======================================
・あらためて内容を読むと、牛人婚姻譚が交錯するなかなか凄まじい話だが、3つ目のパラグラフの伝説の基本設定を本書は忠実になぞっている。
 まず、本書の舞台、岐阜県の架空の地名、暮枝(くれえだ)村が、クレタ島に相当するのは明らかだ。
 とすると、テセウスは?それは、第1章のエピグラムに明示されている。「主人公はテセウスではなく、ごく普通の男である。」と。本書の表面上の主人公天瀬啓介(てんせ、とも読める)が若き英雄、クレタ島での冒険者テセウスに相当する。アリアドネは、物語の展開からも、まぎれはない。暮枝の大地主羅堂伸一の娘、羅堂窓音(まどね)。天瀬は、窓音の導きで、「八つ墓村」の鍾乳洞にも似た、迷宮を脱出する。他には?
 明らかな置き換えが二人いる。
 村の郷土史家、代田朗=ダイダロス。村の知恵者は、発明の才に富んだ工人ダイダロスにふさわしい。
 羅堂真一の父で、寝たきりの老人羅堂陣一郎の身辺を世話する女、羽柴栄(はしばえい)=パシファエ。この置換に気づいて、筆者は、頭をひねらざるを得なかった。本書での羽柴栄の役割は、神話の内容と整合しないのだ。
 以下、続く(かもしれない)。



2000.4.29(土) 『納骨堂の多すぎる死体』
・普段の休日は、ごろごろ読書ばかりしているダメ夫婦が、本部屋の惨状をみかねて、一念発起。南郷に出かけ、本棚を購入。その後、安心したかブック・オフ系数点に立ち寄り、何冊か購入。帰りに、一月以上遅れた誕生プレゼントを買わされる。5/19のスラップ・ハッピーのチケットをようやく購入。
・殊能将之『美濃牛』読了。読み応え十二分。感想はいずれ書くとして、基本アイデアの一部が、ついこの間読んだばかりの梶龍雄の短編と同じなのに驚く。話が逆だけど、長編を支えるアイデアを短編で使い捨てた梶龍雄の本格スピリッツに改めて感心させられた。
『納骨堂の多すぎる死体』 エリス・ピーターズ(00.2(('65)) ☆☆☆
 歴史ミステリというのがどうも苦手で、恥ずかしながら英ミステリに一時代を画したという著者のカドフェルシリーズも一冊も手に取っていない。本書は、カドフェルシリーズに先駆けて書かれたフェルス一家シリーズの中の代表作ということらしい。200年ぶりに開かれた納骨堂から、当時の領主の死体が消え失せ、死後まもない死体と、数年前に殺害された死体が発見された・・。 魅力的な冒頭の謎は、かなり手際よく解決される(特に200年前の死体消失の方の解決は秀逸)し、主人公の少年の成長や恋愛興味を交えてプロットは、よどみなく進行する。ただ、登場人物は、ほどよく書けているものの、基本的に善人ばかりで、悪人好みのページ制作者としてはは、ドラマの方には、あまり乗り切れず。


2000.4.28(金) えとせとら
・網走一泊の出張。本日は、黄金週間前だというのに、大雪に。帰りの飛行機の便が欠航するおそれが強くて、結局5時間以上かけてJRで帰る。まあ、本が読めるからいいんだけど。「美濃牛」を読んだり、うとうとしたり。
・倉坂鬼一朗『夢野断片、悪夢の破片』(同文書院)購入。ブックガイドなんだけど、帯の「ロバート・エイクマ」の誤植には、思わず頬がゆるんでしまう。カルトな怪奇作家が、ラブリーなぬいぐるみになってしまったみたいで。
・「宝石推理傑作選 全3巻」がいんなあとりっぷ社から届く。猟鉄掲示板で、まだ在庫があると知って、電話で購入を依頼したもの。刊行は1974年なのに、まだ在庫があるとは、なんとも驚き。刊行時に毎月HMMに広告が出ていて、溜息をついていたのだ。(中学生にはとても手が出せる値段ではなかった)20年以上も経って、新刊で入手できるとは望外の喜び。限定888部なのだが、私のところに来たのはNO.719。もしかして、まだ100セット以上在庫があるのか?サイ君のチェックを避けるため、価格は伏せておく。
・扉を開けると、出現した横溝正史の肉筆書名を思わず拝む。別冊も含めた宝石全号の表紙のカラー書影、3巻目の巻末に載っている宝石全号の総目録がなんとも嬉しい。収録されている小説77編、座談会5、対談2、エッセイ・評論16の中で、この本でしか読めないというのは、多くはないと思うが、これだけ並んでいるのを見るのは壮観である。20年ぶりにカタキをとった気分。
・てつおさんのHPで知ったミステリ専門古書店「探偵倶楽部」から、購入した本が送られてくる。長野の古本屋さんなんですね。ブツは、多岐川恭「落ちる」(徳間文庫)、甲賀三郎「山荘の殺人事件」(昭22・東書房)。前者は、永らくめぐりあえてなかったので、ほくほく。同古書店の作家別売り出し第一回目は、鮎川哲也みたいです。
・おお、高橋ハルカさん@週刊札幌読書案内から密室報告が。該当部分を引用してしまいます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 もしかしたら、ようやっと、私も調査員になれるかも…ってことでご報告です。
 島田荘司「嘘でもいいから殺人事件」(1984 集英社・集英社文庫)。台風で閉ざされた島の別荘で起こった密室殺人と死体消失物でした。ただ、これは単純な「密室物」には分類されないような気がするのですが、ご報告しておきます。もう読まれてますか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 初の女性調査員に名乗りを挙げていただき、感謝、感謝。該当本は、単行本の新刊で買っているのですが・・。これまた未読。捜索隊を繰り出さなければ。というより、半額店で買った方が早いですか。
・マーヴ湊さんより、メールをいただきました。「ハンニバル」と泡坂妻夫「からくり東海道」ほかについて。メールコーナーにて、どうぞ。ネット上の情報をあちこち仕入れているうちに、もう「ハンニバル」は読んだつもりになってきたぞ。



2000.4.24(月) 殺人者の空
・近所の古書店にてサルマン・ラシュディ『悪魔の詩』上下1,500で購入。
・理由あって、下記を読む。これもヴィンテージ積読本。250円のシールが貼ってあるゾッキ本で、学生時代水道橋の近くで入手したものだったろうか。
『殺人者の空』 山野浩一('76) 仮面社 ☆☆☆
 日本のニューウェーヴSFの第一人者だった作者の短編集。「宝島」に掲載された「カルプ爆撃隊」を除き、'71から'74のSFマガジンに掲載された作品。
●メシメリ街道 彼女の家を訪ねようとした「私」は、片側だけで5車線もある大河のような道路「メシメリ街道」に遭遇。警察も区役所も向こう側へ渡る方法を知らない。私は、乗り捨てられた自動車を拾い、メシメリ街道の果てまで向かうが・・。都市迷宮譚の一級品。
●マインド・ウインド 文房具会社の営業Sは、出張先の北陸の街で、無目的に散歩を続ける集団、散歩族を目撃する。世界で同時多発的に同じ現象が起きており、ロスでは、レミング現象まで発生しはじめた。空虚な日常の中にいるSは、散歩族に惹かれつつ、北陸の小都に転職を決意したのだが。外的世界の変容が内的世界に干渉してくるバラードテーマの好サンプル。 
●Tと失踪者たち 世界から次第に人が消失していく。故郷に帰って、村がほぼ全滅しているのを確認したTは、自らの消失を予感しながら、再び東京を目指すが。廃都となった東京が懐かしくも、美しい。
●首狩り 会社をクビになった私は、かっぱらいで生計を立てているが、その日盗んだ鞄からは、生きている男の首が出てきた。組織に拉致された男は、何十もの首たちの世話係に就任するのだが。奇想とグロテスクなユーモアに満ちた作品。多分、傑作。
●カルプ爆撃隊 係長の事故死を目撃した私は、警察に逮捕され、「カルプ爆撃隊」という刑務所らしい施設に収監される。私は、仲間と脱走を試みる。高度成長のただ中での「見えない戦争」のイメージが鮮烈。
●殺人者の空 学内のセクト間の対立の狭間で、私は、対立派のKを殺してしまうが、Kは、学籍の存在しないニセ学生だった。ありがちな観念小説風であまり買えない。
 全6編。この著者については、アンソロジーで数本読んだけで、難解のイメージをもっていたのだが、作品自体は、意外なほど読みやすく、物語性も豊か。作者のHPによれば、「マインド・ウィンド」は当時SFマガジンの月刊読者投票で1位をとった作品で、筒井康隆に、「山野さんは、こんなわかりやすい作品を書いては駄目だ」といわれたという。前衛という要素をはぎ取ってしまえば、作者は、迷宮や消滅、孤独へのこだわり、独特のユーモア感覚などの特性をもった当時の幻視者の一人と規定することもできよう。そして、その幻想譚、迷宮譚は今でも十分鑑賞に価する。
 「メシメリ街道」を従来の幻想小説と分け隔て、「ニューウェーブSF」たらしめているのは、例えば、そのスピード感覚とあちこちに散乱する衝突(クラッシュ)された自動車のイメージなのだろうが、作中の自動車の速度は「70キロ」に過ぎない。時速70キロの速度の幻想譚は、どこか甘く懐かしい。
(引用不正確、後日直します)



2000.4.23 (日) タラント氏の事件簿
・インターネットエクスプローラー5のダウンロードを途中で断念したせいか、HPがうまく表示されなくなってしまった。困った。
・芦辺拓『真説 ルパン対ホームズ』(原書房)、ウェストレイク『最高の悪運』(ミステリアス・プレス文庫)購入。
・宮澤さんより、密室報告
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 宮澤@密室調査員#004です。ようやく報告の第二弾が送れます。
 ・山沢晴雄『悪の扉』
 『別冊シャレード』の山沢晴雄特集2冊を読みました。『悪の扉』と『砧自身の事件』のうち、前者には密室があります。
 ついでに短編も読み返したのですが、山沢の作品は全てがアリバイトリックです。複数の人物が思惑を持って行動しそれらが衝突したとき、あるいはなんらかの不慮の事故で計画が破綻したときに奇妙な状況を見せます。密室もそれの産物です。
 密室ではなかったけど、『砧自身の事件』は面白かったです。私の頁もご参照ください。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第2弾感謝です。『悪の扉』、密室が出てきますか。泡喰って入手したわりに、未読です。メモを採る必要がありそうで構えてしまって。こっちを片づけないうちに第2弾『砧自身の事件』も出てしまいました。連休でなんとかなるかな。
『タラント氏の事件簿』 C.D.キング('00.4('35)) ☆☆☆★
 収録短編8編中7編で不可能犯罪を扱い、クイーンに「この時代におけるもっとも想像力に富んだ短編探偵小説集」と評された本書が訳出されると聞いて、狂喜乱舞した同好の方も少なくないだろう。●古写本の呪い 密室から消える古代アステカ文書。シンプルな謎解き。語り手フィランとタラント氏の遭遇編。
●現われる幽霊 新築の別荘に現れ美女を苦しめる幽霊。
●釘と鎮魂曲 密室状態のペントハウスから消えた犯人。トリックそのものよりも、手がかりとのアンサンブルが光る一編。
●「第四の拷問」 マリー・セレスト号事件そっくりの状況下で起こる怪事件。ネタはトンデモ系かも。●首無しの恐怖 郊外で起きる首切り連続殺人。警察の監視により、犯人とおぼしき人間は出入りしていないのだが。
●消えた竪琴 これでもかという完全密室から消失する古代エジプトの竪琴。
●三つ目が通る 衆人環視下での刺殺事件。
●最後の取引 探偵小説史上ここまでの苦行を強いられた探偵はまたとあるまい。色んな意味で驚愕の一編。
 「釘と鎮魂歌」「消えたハーブ」は既読だったが、本書第1編から最終話まで、語り手フィラン、タラントほか、主な登場人物たちの交遊、関係が深まっていくのが時系列で描かれるため、通読するのがお薦め。謎解き、トリックともに、アッと驚くものはないが、不可能犯罪へのこだわりはもちろん、タラント氏やフィラン、ヴァレリー、フィランの妹メアリ、謎の日本人従僕カトーなどレギュラーメンバーが織りなすアメリカの小春日和とでもいう情景が実に楽しく、クイーンの短編を想起させる。作者のオカルティックな物への傾倒は、本書のあちこちに散見されるが、「最後の取引」は、パズラー短編集としては、あまりに異色で、ストリブリングに共通する感性を感じさせる。アメリカ黄金時代短編の精華として、押さえておきたい一冊。 



2000.4.19(火) 死体のない事件
・岩井大兄からメール。近々、少しだけ耳寄り情報を提供できるかも。
レオ・ブルース『死体のない事件』(00.3('37)) ☆☆☆★
 一昨年訳され大評判となったレオ・ブルース『三人の探偵の事件』('36)(☆☆☆☆)に続くビーフ巡査部長第2作。本書の訳書である小林晋氏の私家版訳があったらしいが、むろん公書では初訳。ピーフが村のパプでダーツに興じているところへ、評判の良くない若者が現れ、「自首しに来た。人を殺したんだ」とだけ告げて、死亡してしまう。青年は、青酸カリをあおっていた。彼は、一体誰を殺したのか。前代未聞の「被害者探し」。ビーフたちの捜査が始まる。
 後年、パット・マガーによって、何度か試みられる「被害者探し」だが、マガーがある限定状況下での過去の事件の被害者探しを試みているのに対し、こちらは、シンプルな設定で、真っ向勝負の被害者探し。行方不明者が数名いるのだが、捜査の進展に連れ、彼らが被害者である可能性に次々と蓋がされていくあたりの展開は、絶妙である。作中ピーフのライバルとして登場するスコットランドヤードの敏腕なスチュート警部の仮説も、かなり高いレヴェルの推理であり、本格好みのツボを心得たつくり。(特に、作中のある仮説は後年の名作で用いられたものを思い起こさずにはいられない)。もっさりビーフとスチュート警部の対照、記述者であるタウンゼントとの掛け合いなど、はんなりしたユーモアも好ましい。惜しむらくは、サプライズ・エンディングに解明の論理が伴っていなく、着地で傑作になりそこねた印象。とまれ、ミステリ史上「被害者探し」という基本アイデアを提出したのみならず、解明でアクロバットを演じてみせた作品として、本書の価値は高い。記述者が自ら探偵小説の登場人物であることを強く意識している点や仮説の錬度など、フェラーズの作品に共通する批評性を感じ させる。真田啓介氏の解説は、本書のミステリとしての勘所を欠点を含め明快に論じており、いつものことながら感心。


2000.4.17(月) みたび『ガラスの鍵』
・本日は、他人のふんどしで。 
政宗九さんからメールをいただく。引用ご容赦。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
政宗です。お世話になっております。
つ、ついに私も「密室系」に協力できそうです。
『リサイクルビン』 米田淳一 講談社ノベルス
『幽霊病院の惨劇』 篠田秀幸 ハルキノベルス
  どちらも「密室状況からの人間消失」が出てきます。尤も『リサイクルビン』の方はちょっとずるいのですがね。
  でもまだ二つ。まだまだ「調査員」には程遠いですね。また思いついたら報告いたしますので。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
・おお、政宗さんまで!MYSCONでは、ありがとうこざいました。密室調査御協力に感謝申し上げます。
 『幽霊病院の惨劇』は、実は中村忠司さんから既にご報告いただいて、ここには、登録しています。現物の確認が遅れて、まだリストに載せていないので、わかりにくかったですね。申し訳ありません。
 で、『リサイクルビン』なんですが、MYSCON前に読んではいたのですが、どうしようか悩んでおりました。(悩むことは他にないのか!)、読んだ方はおわかりでしょうが、なにせ乱歩の類別トリック集成にも出てこないトリック。MYSCONの際、石井女王さんに「リストに入れます」といったら、驚かれてしまって、また悩み始めた次第。でも、『迷宮−Labylinth』がありなら、これもあり。ということで、最後の一押しを政宗九さんがしてくれました。また、よろしくお願いします。

・昨日触れた『ガラスの鍵』の結末をめぐるマーヴさんからのメール。
 謎解きのネタ割りをしているわけではありませんが、「ここまで」という次の太字の箇所まで、メール、私のコメントともに『ガラスの鍵』の結末に触れています。未読の方は、御注意ください。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 『ガラスの鍵』への早速の御対応恐縮です。あの文体と手法を追求していくと小説よりは戯曲に近くなってしまいそうで、ハメットがその後行き詰まる一因となったのかもしれませんね。同書の結末についてもう少し突っ込んで書きます。
 父親代わりでもある親友マドヴィッグが崇拝している女性を、主人公ボーモンが奪い取る結末にギリシャ悲劇の要素を見て取ることも可能でしょう。しかし読み直してみるとこのシーンはボーモンが親友に愛想をつかして女を選んだように見えて実は違うのではないか、ボーモンは友情を葬り去ってでもジャネットをマドヴィッグから引き離そうとしたのではないかと思えてきます。ボーモンはマドヴィッグのジャネットに対する態度を散々揶揄し、ジャネットに対しても父親とつるんでマドヴィッグを下等動物扱いしたと弾劾しますね。
 つまり叩き上げのマドヴィッグが上流階級に迎え入れられるわけもなく、また入ったとしても飼い犬にされるのがオチ、となれば愛してもいないジャネットを連れ去ってマドヴィッグの未練を断つことが親友としての最後のはなむけという意味ではなかったのか。だからこそラストで、マドヴィッグが裏切られた気分で去っていった後のドアをボーモンはじっと見つめるのであり、ボーモンと二人きりの世界を開こうにもジャネットの手には脆すぎるガラスの鍵しかないという例の夢にも呼応するものと読んだのですが、この解釈は成田さんの書かれた「義理より人情をとった男の諦念」とどれくらいずれているでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 メールの途中ですが、以下HP制作者のコメント。昨日は、「胸のすくような」と書きましたが、最初にマーヴさんのメールを読んだときの素直な感想は、「やられたっ」。剣の達人に、一刀の下、袈裟がけに斬り捨てられたような気がしました。私の解釈は、結末に触れるゆえ、あえてボカしましたが、義理は、無論ボーモンのマドヴィックへの友情(友情も人情だけど、義の部分も多いでしょう)、人情はジェニファーへの愛。という短絡的な結論。マーヴさんの解釈の方が明らかに、深いし美しい。せっかく「ラストなど人によって様々な解釈が成り立ちそう」と書かれているのに、その他の可能性を探ってみなかったの浅知恵に、恥ずかしい思いをしております。私が読んだのは、大久保康雄訳の『ガラスの鍵』なのですが、この機会に小鷹信光訳の早川ミステリ文庫を入手してみました。解説(小鷹信光)を読んで、小鷹訳が大久保訳への一種の挑戦として試みられていること、ハメットが『ガラスの鍵』を
一番気に入っている理由を「手がかりがとてもうまく配置されているから。もっとも誰も気づかなかったらしいがね」と言っていること、などを知りました。また、いずれ小鷹訳を、味わってみたいと思っております。
 「ここまで。」

以下は、メールの続き。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 長くなりましたので、お勧めの『もうひとりのぼくの殺人』の感想を簡単に。五感に訴えかける都会と田園の描写、それぞれに鬱屈した登場人物の過去、結末近くの豪気な捨てゼリフと、細部の上手さが仕掛けの乱暴さを補って余りあります。プロットはウールリッチを思わせるも、叙情性は遥かに抑制が効いている忘れ難い秀作。但しヴィンテージ・ミステリを標榜するなら版元は原書の刊行年度を明記しなさい。それでは又。(『悪霊の群』急いで購入しました。なんと払い甲斐のある1,600円であることか)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  『もうひとりのぼくの殺人』の刊行年がないのは、書こうとおもって書き忘れておりました。ここは、きちっとしてほしいところですね。
●リスト追加
米田淳一『リサイクルビン』

 

2000.4.16(日) 続・黒いアリス
・レオ・ブルース『死体のない事件』、宮田昇『戦後「翻訳」風雲録』読了。
・C.D.キング『タラント氏の事件簿』(新樹社)、『探偵趣味傑作選』、『海外ミステリー作家事典』(光文社文庫)購入。
・マーヴ湊さんから、『ガラスの鍵』の結末に関して、胸のすくような解釈をいただいているのだが、日を改めて掲載します。
・というわけで、話が脱線した『黒いアリス』続き。前稿でディキンスン『緑色遺伝子』が'72年と書いたけど、'73の誤りでしたので、訂正しておきます。
『黒いアリス』 トム・デミジョン(角川文庫'76('68)) ☆☆☆
 アリスは11歳。夏休みが終わると、飛び級で8年生になる。アリスの教育資金は、たっぷり。富豪のおじいさんが莫大な遺産を残してくれたのだ。アリスの退屈な夏休み吹き飛ばすような事件が起きた。誘拐である。「あたしはユーカイされるんだ。とってもスリル!」
 背表紙には推理小説とあり、訳者あとがき(各務三郎)には、「利発で愛くるしいアリスがはなはだ現代的で苦い冒険を乗り越えていくファンタジーとして読めばよい」とある。一体どちらなのか気になってはいたのだが、なるほど、途中で明かされる誘拐の主犯の正体は意外性があるし、身代金受渡しには、ちょっとしたアイデアが盛り込まれている。といって、無理にミステリとして読むことはあるまい。
 アリスは、強力な日焼け剤の使用により、黒人の少女に変身させられる。白人少女が黒人少女に変身させられることによって、世界が変わる一種の思考実験ファンタジーと読めなくもない。
 背景となるのは、勃興する黒人復権運動に比例するように白人優位を旗頭にする秘密結社KKKの暴力弾圧が激化していった時代。(本書のクライマックスは、アリスの連れ去られた地、南部ヴァージニア州ノーフォークでの「アメリカ人種平等会議」のメンバーとKKKの抗争シーン)利己的なアリスの両親、売春宿の女主人をはじめとする誘拐犯人、FBI捜査官など戯画化された登場人物たち(特に、主犯の壊れぶりは特筆もの)。幼児虐待や二重人格などの先見的なテーマ性も盛り込まれていて、読みどころが多いのは間違いないのだが、ディッシュとスラデックの才人ユニットが、この時期に、このような小説を書いたのか、いまひとつ意図を量りかねてもどかしくもある。騒乱の時代をイギリスで過ごしたアメリカ作家の現状へのアンガージュマン(死語)だったのだろうか。
 お得意の数学パズルが出てくるところをみると、執筆したのは、スラデックなのかな。



2000.4.15(土)
・メールコーナーに、mushitaro氏(4/7分)の投稿アップど忘れ、申し訳なし。
・パラサイト・関に新着。
・前回の続きは明日。


2000.4.12(水) 『黒いアリス』
・帰りに、トマス・ハリス『ハンニバル上・下』(新潮文庫)、殊能将之『美濃牛』、古処誠二『UNKNOWN』(講談社ノベルス)を購入。前2作はなんとも楽しみではあるけれど。優先順位は『死体のない事件』、『悪霊の群』再読、『納骨堂の多すぎた死体』、『月明かりの闇』、『美濃牛』、『ハンニバル』・・・か。その間に、C.D.キングも『探偵趣味傑作選』も出そうだしなあ。楽しき哉、読書計画(涙)。
・中村忠司さんから、密室系ご教示。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
成田さん,こんばんは。中村@密室調査員003号です。 『金閣寺に密室』を読了して,早速報告しようと思ったら・・・,ともさんに先を越されたようですね。残念。で,何かないかと無理矢理探して,一つ捻り出しました。愛川晶『海の仮面』カッパノベルス('99.6刊) 栗村夏樹シリーズ三部作の三作目。海上の密室が出てきます。著者の言葉によると「不可能状況,それもラストが破綻しない本物の不可能状況ミステリーを一度は書きたい」と思いたち,「とっておきのトリックを使い」書いた作品とのこと。そのわりにトリックは凄いと思えるようなものではありませんけど。では,また。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
・ともさんには、MYSCON時に、「密室調査に協力したいけど、以前読んだのは忘れてしまっていて・・。」という有り難い言葉をいただいておりました。中村さん、いつも気にかけていただいてありがとうこざいます。タッチの差でした。『海の仮面』気になっておりましたが、そうですか。厚い奴ですよね。
追加、一丁。抜かれる前に、古処誠二『UNKNOWN』は、押さえましたぜ。
『黒いアリス』 トム・デミジョン(角川文庫'76('68))
 これもヴィンテージ積読本。トム・デミジョンとは、ジョン・スラデックとトマス・M・ディッシュの合作の筆名。スラデック追悼の意味で、読んでみた。
 スラデック、ディッシュはともにアメリカ人。イギリスに渡り、ニューウェイヴSFの牙城となった雑誌「ニューワールズ」(編集長はムアコック)に参加。ディッシュは、バラード、オールディスらに伍して作品を発表し、「アメリカSFをすっかり時代遅れにした『ニュー・ワールズ』なのに、その中のこれといった傑作は、みんなトマス・M・ディッシュが書いている」とまで、いわれた才人(「ニューワールズSF傑作選NO.1」より孫引き)。
 本書はニューウェイヴ華やかりし頃のイギリス滞在中に書かれたものだという。この後、スラデックは72年に、タイムズ・オブ・ロンドン紙ほか主催のコンテストに「見えざる手によって」を投じ第一席入選。2年後に『黒い霊気』発表というようにミステリに接近していく。話は変わるけど、同じ時期('72)に、イギリスで「ニューワールズ」の姉妹誌「インパルス」の編集長だったキリル・ボンフィリオリが「Don't Point That Thing At Me」なる作品で、ジョン・クリーシー賞をとっているのが気になる。ボンフィリオリの2作目『深き森は悪魔のにおい』(サンリオSF文庫)は、いささか高踏的ながら抱腹絶倒の怪作ミステリ。ニューウェーヴ運動の旗振りがミステリに越境していく内的必然性があったのかどうか、それとも単にフォーミュラノベルの形式に安らぎを求めたのか。エキセントリックなミステリを書いていたピーター・ディキンスンが'73年に『緑色遺伝子』でSFに進出し、この二人の動きとクロスするのも、何やら暗合めいた感じがある。
 この時期に、イギリスでは、従来の価値観では量りきれないオルタナティヴ・ミステリが派生する可能性があったのではないか、などと夢想してしまいたくなるのである。
 すっかり話がずれてしまったので、もう一回続きます。
●リスト追加
古処誠二『UNKNOWN』


2000.4.11(火) 続・『ガラスの鍵』
・以前、「青春探偵団」の写しを送っていただいた松本真人さんからメールを頂戴しました。拙い文章に感想をいただけるのは何よりです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
成田様 こんばんは。御無沙汰しております。
「ガラスの鍵」読まれたとの由。私もいつか読むぞ!の積ん読状態なのですが、そうですか、なかなか難解なのですね。ハメットは、以前、「マルタの鷹」「赤い収穫」を読んでしびれた記憶があります(特に「赤い収穫」)。私はハードボイルドをそんなに沢山読んでいる訳ではないのですが、成田さんのいわれている“ハードボイルドというのはハメットに始まりハメットで終わっている”という意見には賛成です。ハメットを読むと、チャンドラーはかなり甘く感じてしまいます。あれはあれで独特のセンチメントとリリシムズが心地よいのですが…。とまれ、「ガラスの鍵」は今度読んでみますね。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
・私もハードボイルドをそんなに読んでいるわけではないので、前回の文章はかなり恥ずかしいです。ハメットも読んだのは、『赤い収穫』と『マルタの鷹』と短編を少々のみでした。ただ、今回『ガラスの鍵』を読んでみて、チャンドラーとの比較において、物が違うという印象を禁じ得ませんでした。ネド・ボーモンは警句も吐かないし、甘いセンチメントとも無縁。内面描写どころか心理を窺わせるような描写を禁じ、贅肉をギリギリまでそぎ取った苛烈なまでのストイシズムこそ、ハードボイルド0そのものであり、この路線の本当のフォロワーも生まれなかったのではないかなどと感じてしまいました。無論、書いてあることが難解というわけではありませんが、マーヴ湊さんが書かれているように主人公の行動原理が読み切れないので、『ガラスの鍵』には、不条理劇めいた趣もあります。
・湊さんのメールで、ページ制作者が刺激を受けて永年のツン読本を消化、松本さんの読書にも波及。こうした流れがなんとも嬉しいです。HPをやってて良かったと思うひとときであります。松本さんにも、そのうち感想などいただければ幸いです。
 


2000.4.9(日) 『ガラスの鍵』
みすべすのともさんより、密室系作品として、新刊の鯨統一郎『金閣寺に密室』(ノン・ノベル)を教えていただきました。ありがとうこざいました。ふふふ。これで、ともさんも密室調査協力者。しかし、20万アクセス達成というのは、偉業というしかありません。
・4/6日付け、マーヴ湊さんからのメールを改めて引用。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 読み残しの名作を少しでもつぶすべくハメットの『ガラスの鍵』をやっつけたのですが、難解なので驚きました。読み手に主人公の行動原理の読解を強いるミステリというのはこれまでに出会った記憶がありません。ラストなど人によって様々な解釈が成り立ちそうで、小鷹信光氏のハメット論が俟たれるところです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
・上記に触発されて、私も、『ガラスの鍵』をやっつけてみました(昔、一度落ちてます)。
 やっぱり凄い。なにが凄いといって、主人公ネド・ボーモンをはじめ登場人物の心理描写が一切ない。これはハードボイルド文体の常道なのでしょうが、主人公ネド・ボーモンに関しては、内面を窺わせる描写を徹底的に省き、セリフからも一切本音の感情は伝わってこない。ここまでの徹底性は、チャンドラー以降のハードボイルドにもみられないと思われ、もしかしたら、ハードボイルドというのは、ハメットに始まりハメットで終わっているのではないかと思わせるほどです。ここまで、ハメットが主人公の内面の心理を描くのを回避すると、ネド・ボーモンの行動は読者にとって謎に包まれてしまうわけで(実際ボーモンの行動は多くの場合、読者の予想を超える)、読者はいやおうなく「行動原理の読解」を強いられ続け、それが湊さんのいう「難解」さにつながっていくということでしょうか。ただ、結末は、俗な言い方をすれば、義理より人情をとった男の諦念といったような解釈が一応成立するのかなという気はしました。
 ハメットが徹底的に主人公の心理を召し上げてしまうのは、本格ミステリが原理的には徹底的に人間の内面を剥奪してしまう小説形式であり、記号としての人間、ブラックボックスとしての人間を扱うことと、どこか通底しあうような気がしました。笠井潔が、探偵小説は、第一次大戦のグロテスクな死体の山が必然的に喚起した、その隠蔽形態であり、表現主義やシュールリアリズムやハイデガー哲学に対応するものである。といっていますが(論旨の当否はともあれ)、ハメットの生み出したハードボイルドという形式も、当時の時代精神に正確に対応するものではないかと思った次第。
●密室系リスト追加
鯨統一郎『金閣寺に密室』(ともさんより)


2000.4.8(土)
・パラサイト・関にフェラーズ『細工は流々』のレヴュー。
・『悪霊の群』は、日下さんのご配慮で出版芸術社からいただけたとのこと。ありがとうこざいます。
 大御所二人の合作、神津恭介VS荊木歓喜の競演、さらには、アイデアは高木彬光・執筆は山田風太郎という分業体制が明らかになり実質的に風太郎が執筆した初長編に当たることなど、本書の歴史的価値は高く、二人のファンなら絶対の買いとお薦めいたします。以前に書いた私の感想はここ
 刊行に伴い、山風リスト及びカウントダウンを更新。
・朝刊で「六番目の小夜子」(NHK教育)第1回放映を発見。土曜日の放映だったんだ。サイ君は、呆け防止のために、テーブルの上に「六番目の小夜子」と書いた紙を置いて、昼から張り切っている。舞台が高校から中学に移されているほか、主人公たちの設定もかなり違うらしい。特に、関根秋役には怒っていた。ちなみに、文庫版と改稿版を続けて読んだサイ君によれば、両者の内容はほとんど変わっていないとのこと。


2000.4.7(金)
・メールコーナーにmushitaro氏からの新着。「僕を殺した女」「麦酒の家の冒険」「鳥源防・時間の裏側」「瓶詰めの街」評。


2000.4.6(木) 男子の本買い・発動篇
・久しぶりに旭屋で本買い。おおっ。ついに出た。山田風太郎・高木彬光『悪霊の群』(出版芸術社/1,600円)。他に、レオ・ブルース『死体のない事件』(新樹社/2,000円)、ジョン・ディクスン・カー『月明かりの闇』(原書房/1,900円)、蓮實重彦『映画狂人日記』を購入して、ほくほく。
・大通りのブックオフで、カサーレス『モレルの発明』ほか数冊購入。
・郵便局にて文生堂の荷物を受け取り。『十二人の抹殺者』は、無論駄目でした。ついでに頼んだ福島正実『未踏の時代』、鶴見俊輔『大衆文学論』の2冊。目録で買うような本ではないかも。
・家についたら、出版芸術社からの書籍小包みが。中を開けると『悪霊の群』!いきなりダブり。いただいてしまっていいのでしょうか。
・『悪霊の群』は、実に36年ぶりの出版という快挙。すばらしい。
鉄人掲示板における日下三蔵氏情報によると、『忍法創世記』の出版について、風太郎先生との二度の交渉で、出版OKが出た模様。つ、ついに。指が震える。全国の山風者の歓呼の声が聞こえる。
・廣済堂文芸部門撤退という、山風好きにはショッキングなニュースがあちこちで出ていますが、これについては改めて。
・発動掲示板で、とうとう、ワースト・コンタクトか。
・マーヴ湊さんからメールをいただく。今回はこちらで。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 こんにちは。有珠山報道を聞くまで溶岩ドームがそれ程危険なものとは知りませんでした。何とか鎮静してくれるといいですね。
  読み残しの名作を少しでもつぶすべくハメットの『ガラスの鍵』をやっつけたのですが、難解なので驚きました。読み手に主人公の行動原理の読解を強いるミステリというのはこれまでに出会った記憶がありません。ラストなど人によって様々な解釈が成り立ちそうで、小鷹信光氏のハメット論が俟たれるところです。
  ところで私も「○○と××くらい違う」を考えてみました。
・笠井潔とマツモトキヨシくらい違う
・黒死館とニッポンときめき歴史館くらい違う
・ノックスの十戒と横山ノックの懲戒くらい違う
・ロバート・ゴダードとハードボイルドだど!((C)内藤陳)くらい違う
・日本ファンタジー大賞と裸の大将くらい違う・村西とおると三つ目がとおるくらい違う・・・
 この辺で止めておきます。
昔ラジオでオン・エアされていた『スネークマン・ショー』で、伊武雅刀が「どれくらい違うかっつーと、ママグチ百恵のヤンコと、マモリのおばちゃまのコンコくらい違う!」とやったのを聞いて大笑いしたことを思い出しました。
  すみません、ミステリの話題に戻ります。クレイグ・ライスの新刊は買いですか。本屋では見送ってカーの『月明かりの闇』だけ購入しましたが再考します。その『月明かりの闇』のうしろの解説をパラパラやっていたら、『血に飢えた悪鬼』と『死者のノック』を混同した記述がありました。碩学森英俊氏にしては珍しい勘違いでは。それでは又
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 有珠山、避難生活の長期化が心配です。知っている人の顔が映ると、なおのこと。
 「○○と××くらい違う」コーナーに応募ありがとうこざいました。(募集してません)
 「ノックス」が一番ツボかも。「ニッポンときめき歴史館」は、知りません(涙)。
 ライスの新刊は、是非お求めください。
 「月明かりの闇」の解説読みました。ウィルキー・コリンズの未発表原稿というのは、「死者のノック」ですよね。「血に飢えた悪鬼」は、ウィルキー・コリンズが探偵役のはず(本が出てこない)。
 「ガラスの鍵」については、改めて。


2000.4.4(火) 『もうひとりのぼくの殺人』
・有珠山噴火で課員が応援で現地派遣になるなど、腰の落ち着かぬ年度始めである。
・DASACONのレポをみてたら「○○と××くらい違う」というをコンテストは面白いですね。いくつか考えてみる。
 ・ジョー山中とジョー樋口くらい違う
 ・ウエストレイクとほのぼのレイクくらい違う
 ・「バトラー弁護に立つ」と「バトラー便所に立つ」くらい違う
 ・陣羽織とジンバブエくらい違う
 ・じゅんとネネくらい違う (違いが思い出せない例え)
・うーむ。センスなし。というわけで、クレイグ・ライスとマイケル・ヴェニングくらい違う。
『もうひとりのぼくの殺人』 クレイグ・ライス(原書房00.3('43)) ☆☆☆★
 『眠りをむさぼりすぎた男』('43)に引き続いて出たマイケル・ヴェニング名義の第2作。ライス名義の作品を陽とすれば、ヴェニング名義は陰。もっとも、ライスの作品のユーモアは、「煙草の火をつけるのに、地獄の炎をもってするところから起こるものである」という中村真一郎の秀抜な指摘もあるのだが。
 パルプ作家ブルーノは、列車の中で眼を覚まし、ポケットに「保険外交員ジョン・ブレイク」の名刺が入っているのを発見。追い打ちをかけるように、新聞記事で、ジョン・ブレイクが殺人容疑で警察に追われているのを知る。しかも、その男の顔は、自分に瓜二つだった。ブルーノは自分が二重人格なのではないかという不安に襲われつつ、真相を探ろうとする・・。
 サミュエル・テイラー『私にそっくりの顔をした男』をはじめ、幾つも作例があるドッペルゲンガー・ミステリ(造語)だが、冒頭の不可能興味は、強烈。テイラーの長編は、途中であっさりネタが割れるが、本編では、結末までその興味は持続し、相当意外な真相を用意している。冷静に考えればかなり無理のある設定なのだが、全編を漂う都会の孤独と詩情が、登場人物たちの過去の人生の交響が、設定の強引さを些細な瑕疵にしか思わせない。特に、探偵というより運命の司祭を思わせる、メルヴィル・フェアのもたらす解決は、物語に深い余韻をもたらす。やりきれない結末に射してくる曙光は、「うぶな心が張り裂ける」のマローン物と同質のものか。



2000.3.30(木) ある文学賞
・有珠山で、噴火の可能性が限りなく強まっていて、地元の3市町3200人が避難中。道内の報道は、この有珠山一色なのだが、仕事の関係で電話した東京の人は「有珠山て山があるんですか」。距離と無関心は正比例というか。噴火はある程度予知ができる反面、いつまで続くか判然としないところが、他の災害と違う。とにかく、大災害に至らないことを祈るばかり。
・パラサイト・関更新。
・HMM5月号購入。ハヤカワ文庫海外ミステリベスト100をやるそうで、巻末のページが応募用紙になっている。それとは、別に「読んでみたいハヤカワ文庫の名作」アンケートも行うということで、葉書又はメールで受け付け、20名にはその本をプレゼントするとのこと。早川のHPのここで詳細はわかります。
 カーなど、YAHOOのオークションで法外の古書価がついていることに怒り心頭の方は、メールを書くという直接行動に出るべきかも。自分も、マクロイ希望してみるか。でも、なぜ、葉書又はメール一回につき1冊なのか。復刊の参考にするのなら、データは多いほどいいと思うのだが。理解に苦しむ。
・隔離戦線の池上冬樹のコラム。選考委員が酷評して落とした作品が他社から出てベストセラーになったという某文学賞の話を書いている。自ら予選委員として読んで惚れ込んだ作品が、予選委員会でも絶賛され、最終候補間違いなしと思われたのに、編集部の自主規制で最終候補から外れたという。選考委員たちにはとてもあの迫力と情念は理解されない、という理由で。で、最後にその作品の作者の名前を挙げて、書き続けて欲しいとエールを送っているのだが、この文章は、というより池上氏の姿勢はなんだかおかしい。その編集部や賞の在り方に対する批判を回避して作者にエールを送るより、そんなくだらない文学賞の予選委員などやめてしまうべきではないのか。まあ、御本人は、こういった曖昧な形でコラムに書くことが、業界人としての精一杯のプロテストのつもりなのかもしれないが。


2000.3.27(月) 不埒王
・メールコーナーにmusitaro氏の竹本健治「入神」評。
・職場の送別会で酔っぱらって帰宅したら、文生堂の目録が来ていた。おお、幻の密室長編、輪堂寺耀『十二人の抹殺者』が6000円。酔っぱらった字でFAXしたけど、これはどう考えても無理ですね。それにしても、楠田匡介「四枚の壁」が32,000円、10年前の本である山村正夫「推理文壇戦後史4」が12,000円とは。くまかか(悶死)
・もう一つ、マーヴ・湊氏から、封書が届いていて、中を開けると、84年に出たパラサイト・関氏の個人誌「月刊 不埒王第3号」のコピー。ミス連大会で入手した機関誌のうち処分してなかった数少ない雑誌で押入れの奧から出てきたとのこと。「何度読み返しても抱腹ものですね」とある。ありがとうございます。ありがとうございます。もう当時、私は根室に行ってたので、今回が初読。酔っぱらいが爆笑し続けているのでサイ君に不審がられる。しかし、こんなものが生き残っているとは。
・内容は、ミステリ&放送禁止というその後誰も開拓しなかった分野というか、単なる放送禁止本というか。目次を拾うと「今、TVがつまらない特集」「小学生の恋愛を考える」「オクトパス金田の告白」「みんなの歌 寝たっきりかあさん」など。内容はとても書けないが、
「近日公開!ジョン・ディクスン・カー原作「軽率だった夜盗」より 「中卒だった夜盗」 監督村崎敏郎 同時上映「パンマの森の家」」とか。
「「本の雑誌」の木原ひろみと群ようこが同一人物と知り、怒っているのは一人おれだけではあるまい。黒猫亭事件もびっくりの一人二役!」が懐かしかったり。
・この男が今や、飛び級で一部上場企業の課長とは。世の中はわからない。



2000.3.26(日) 『青の殺人』
・昨日は、サイ君の誕生日で山鼻のイタリアン「タベルナ・ラ・ピアッツァ」手頃な値段でおいしいっす。ブックオフ系があるはずと睨むとちゃんとある。でも買った本はなし。よい傾向なり。
・クレージー映画にこんな秘密があったとは!慶大推理小説同好会掲示板の小山正氏の書込みを見よ。
・ライス『もうひとりのぼくの殺人』、筒井康隆『エンガッツィオ司令塔』読了。前者は、グッド!『眠りをむさぼりすぎた男』を凌駕する出来映え。
『青の殺人』 エラリー・クイーン(00.3(''72) 原書房(1,800円) ☆☆★
 大量にクイーン名義のハウスネームで書かれたペーパーバック・オリジナルの1冊。これまで、「二百万ドルの死者」しか訳されていないにもかかわらず、本書がこの度訳出されたのは、代作者がE.D.ホックで、リーとダネイが本書の成立に直接関わっているという事情が「The Tragety of Errors」のホックのエッセイで明らかになったことが契機と思われる。
 芸術的ポルノ映画として一部のファンの間で伝説と化した「ワイルド・ニンフ」を残して行方不明となった映画監督の行方を追ったプロデューサーが殺害される。州知事の命を受けた特別捜査官マイカ・マッコールは、北部の町ロックビュウで捜査に当たるが・・。素材は、それになりに、魅力的だが、筋立ては、いかにも軽ハードボイルド。妨害する現地の顔役、マッコールに反感を示す地元警察、秘密を探る謎の美女との交渉、マッコールの行く手に現れるウーマンリブの闘士・・。その筋立てに盛った本格テイストは、中の上といったところ。例のクイーン趣味も出てくるけど、途中で気が付いてしまいました。Wクイーン、ホックという包装紙を外してみると、ポケミス1000番台軽ハードボイルの隠れた佳作といったところか。邦題(原題「The Blue Movie Murders」)は、かなり苦しい。
●リスト追加
 梶龍雄「殺しの名刺は女の匂い」、霞流一「牛去りて後」、甲賀三郎「血液型殺人事件」


2000.3.23(木) 『怪人二十面相・伝』  
・クレイグ・ライス『もうひとりのぼくの殺人』(原書房/1,800円)購入。『眠りをむさぼりすぎた男』に登場したメルブィル・フェア物の第2作に当たる長編で、楽しみ。
『怪人二十面相・伝』 北村想 (ハヤカワ文庫/'95('89)) ☆☆☆
 MYSCONの本交換コーナーでほそみさんから戴いた本。タイトルは知っていたが、ハヤカワ文庫から出ていることさえ、覚えがなかった。いい本をもらったものである。
 怪人二十面相の私生活については、「サーカスの怪人」において、ほんの数行触れられているだけだという。劇作家北村想は、このほんの数行をヒントに、空想の翼広げて、怪人二十面相(本名:遠藤平吉)の伝記を書き上げてしまった。といっても、本書で描かれるのは、初代二十面相にして遠藤兵吉の師(サーカスの天才、丈吉)の冒険が中心てある。
 貧しい下駄職人の息子平吉は、一家心中から逃れ、サーカスに入団し、師と仰ぐ丈吉と出逢う。丈吉は、平吉に手品や曲芸を授けるが、ある日忽然と姿を消す。しばらく後、世間を騒がせる謎の怪盗が東京に出現した・・。
 丈吉に現世的欲はない。世間を相手にサーカスを見せたくて、二十面相の道を歩むのだ。
 怪盗のビルドゥングス・ロマンというのは、着想の勝利。浮き世離れした野心を抱く丈吉の怪盗とよばれるまでの道のりが、当時の世相をまじえて、精密に、かつ上品なユーモアを交えて描かれる。山場を幾つも盛り込み、読者の興味を逸らさない作劇術も、劇作家ゆえか。丈吉や平吉が、時の流れに逆らいつつも、流されてゆく一種の無常感と郷愁の感覚は、多分作者の資質であり、物語を縁取る大きな魅力にもなっている。終生のライバルである明智小五郎は、自己の名声に陶酔する悪魔主義者として描かれ、二十面相と好対照なのも面白い。NHK朝の連続TVドラマにしてくれたら、絶対観るぞ。
 しかし、このエンディングは。ここで、止められるわけがない。続編の『怪人二十面相・伝 青銅の魔人』を探さなくては。


2000.3.21(火) 『「ぷろふいる」傑作選』
・パラサイト・関に新着。
『「ぷろふいる」傑作選』 ミステリー文学資料館編(光文社文庫/003)
 待望の「幻の探偵雑誌」アンソロジー第1弾。続刊として、『「探偵小説」傑作選』、『「シュピオ」傑作選』が予定されているという。乱歩は「ぷろふいる」(昭和8年創刊)を「探偵小説への純真な情熱のみに終始した」雑誌と高く評価している。
●「血液型殺人事件」 甲賀三郎 細部に工夫を凝らした密室物で、嬉しい一編。
●「蛇男」 角田喜久雄 掌編ながら都市遊民の猟奇幻想を緻密な構成の下に描いて出色。
●「木魂」 夢野久作 才能と孤絶。フォークロアと理系幻想。様々なニュアンスに溢れる逸品。
●「不思議なる空間断層」 海野十三 読後思わず誰かに話したくなるような奇想。傑作にならないところがまた海野らしい。
●「狂燥曲殺人事件」 蒼井雄 編中もっともオーソドックスな結構をもつ探偵小説だが、古さは拭えず。
●「陳情書」 西尾正 エロティシズム溢れる端正な幻想譚。
●「鉄も銅も鉛もない国」 西嶋亮 宮澤賢治が描くような架空の国で起こる一種の不可能状況下の殺人。ポエジイとアレゴリーが交錯する最異色作。
●「花束の虫」 大阪圭吉 大阪圭吉短編としては中位の出来かもしれないが、Aに見えるのは実はBという驚きの要素を幾つも織り込んでおり、いまさらながら探偵小説センスの光る一編。
●「両面競牡丹」 酒井嘉七 結末まで怪談か探偵小説かわからないところがこの選集の役得。
●「絶景万国博覧会」 小栗虫太郎  あまりに日本的な遊郭の拷問車が、もっとも西洋的な観覧車にトポロジー変換を遂げるとき。鮮やかな虫太郎マジック。
●「就眠儀式」 木々高太郎 精神分析理論が変貌を遂げていくと、この種の謎解きは輝きを失っていくのはやむを得ないかも。
 既読の夢野、小栗、木々を除いて3つあげれば「蛇男」「不思議なる空間断層」「鉄も銅も鉛もない国」か。「鉄も〜」は、邦正彦「不思議の国の殺人」(「不思議の国のアリス・ミステリー傑作選」所収)の観念的探偵小説を思わせるところもあり、戦前にこういう試みの系譜があったのかと興味をかき立てる。「蛇男」「木魂」「不思議なる空間断層」「陳情書」「両面競牡丹」とドッペルゲンガーを扱った小説が多いのも、興味深いところ。



2000.3.20(月・祝) Jをひきずる
・Jプロレス、JSF、Jコミック、Jバカミス、Jコスプレ・・(もうやめんか)
・『Jミステリ−』所収の北上次郎「インターネット冒険記」で、「狩りのとき」の評価がよくてお気に入りと書かれている札幌の書店員のサイト「Lond Minority」を探すが見つからない。
 高橋ハルカさん@週刊札幌読書案内も探しあぐねて、「狩りのとき」で検索したら、「いちご狩りについて書かれたページがいっぱい出てきて困惑の御様子。しばし考え、試しに、綴りを「Loud〜」にしてみたら、当たりました。こちらです。(同内容を高橋さんの掲示板に書き込みました)
 「謎宮会」も「謎迷宮」と誤記されているし、お気に入りなら、正確に書くように。
・『2000本格ミステリ・ベスト10』(東京創元社)購入。回答者に市川さん@錦通信が出ていて、わーい。『ぷろふぃる傑作選』の芦辺拓氏の解説に登場する小林文庫オーナー@小林文庫もそうだけど、ネットと直接は無関係な場でも、ネットの情報量なり、レヴューの質なりを活字メディアが無視できなくなっているのを象徴するようで、なんだか嬉しい。ミステリ系でも、質の高い一部のHPは、もう、「冒険」されている時代ではないはずだ。
・小太郎さん@未読山脈トンプスン・コーナーから、当HPのトンプスン『ポップ1280』の感想へリンクをはった旨、連絡がある。「ポップ〜」リンクを自分でつくろうかと思っていてくらいなので、有り難し。
関つぁんと中村忠司さんのレヴューもお知らせしておく。
・マーヴ湊さんから、前回のカーの性的ニュアンス等に関してメールをいただく。メールコーナーにて。
また、お待ちしてます。
・『ぷろふぃる傑作選』等読む。


2000.3.17(金) 『ドイル傑作選U』 
・『ぷろふいる傑作選』(光文社文庫)購入。巻末の作品リストも含めてこれが税込み700円でいいのかというお買い得品。売れて欲しい、続いて欲しい。冒頭の甲賀三郎「血液型殺人事件」は、密室物で、ささやかな喜び。
・ロバート・ブロック『ボオ収集家』(新樹社)、文藝別冊『Jミステリー』購入。しかし、Jミステリとは、やな言葉だな。Jリーグ、J−POP、J文学!からの転用なんだろうけど、「二銭銅貨」から見積もっても、80年からの歴史がある日本のミステリになぜJの字を冠さなきゃならんのか。なんでも、Jをつければ、いいのか。J映画、J料理、J美人、Jファッション、Jスープ(みそ汁)、J.J.マック、J隊(自衛隊)・・。
『ドイル傑作選U ホラー・SF編』 北原尚彦・西崎憲編 (翔泳社/00.2)
 ドイルという作家がホームズ物だけの作家でないことは周知の事実で、実際、かつて出ていた新潮文庫のドイル傑作選では、1ミステリー編、2海洋奇談編、3ボクシング編、4冒険小説編、5恐怖編、6海賊編という芸風の広さが窺われるセレクションだったらしい(その後、1、2、5の3巻本に縮小)一体、ボクシング小説、海賊小説とはいかなる小説なのか興味深いところだ。余談は、さておき本書は、ホラー、SFの秀作を集めたもの。ホームズ物と一部のSF以外が手に入りづらくなっているだけに、有り難い傑作選だ。
恐怖の物語
●大空の恐怖 高度記録に挑戦する飛行家が大空で遭遇する怪物。未知領域の恐怖を描いた名編。
●樽工場の恐怖 西アフリカの島の樽工場で次々と変死者が出る理由とは。恐怖を盛り上げるテクニックはさすが。
●北極星号の船長 広大な氷原に出没する人影。因果話にっなているのが古風かも。
●競売ナンバー249 古代エジプトのミイラが甦る怪異譚。
●銀の斧 ブタペストを舞台に中世の斧がもたらす惨劇。斧をもった瞬間の登場人物の激変ぶりが凄い。サイコホラーの原型のような作品。
科学と空想の物語
●地球の悲鳴 ガイア理論を思わせるような発想に基づく横ジュンもビックリのバカSF。チャレンジャー教授って、マッド・サイエンティストだったんだ。
●分解機 これもチャレンジャー教授物。軽妙なショート・ショート。
●ロス・アミゴスの大失策 ヴィクトリア空想科学小説に多い「電気」をめぐる滑稽譚。
●危険! 架空の小国が潜水艦8隻で、対イギリス戦に勝利するという架空戦記小説。イギリスの防衛体制に警鐘を鳴らす意図ありか。
神秘の物語
●火あそび 降霊会の最中に降臨した魔物。初出から採られた挿し絵も怖い。
●いかにしてそれは起こったか 自動車事故を起こした男が観たもの。ラスト1行が効果的。
●ヴェールの向こう 結婚記念日にローマの砦を訪れた夫婦に起こったこと。一種のタイム・スリップだけど、レイモンド・カーヴァーの小説暴力的に演奏したという趣もあって、もっとも現代的かも。
●トトの指輪 時空を越える長命人の苦悩。これも、奇想に驚かされる。
●ジョン・バリントン・カウルズ 次々と男を破滅させる宿命の女を描き、強烈な印象を残す一編。 
 3つ挙げると、「大空の恐怖」「ヴェールの向こう」「ジョン・バリントン・カウルズ」かな。通読すると多様な物語世界に驚かされること請け合い。恐怖譚は、ドイルが生きた時代の「世界の拡大」を反映して、超高空、アフリカ、北極、精神世界など未知の領域の恐怖が描かれることが多いが、作品を古びさせないのは、その語りのテクニックだろう。「一体何が起こっているのか」という興味を持続・拡大させる語り口のうまさは、ホームズ物にも共通するもので、ショッカー的要素の織り交ぜ方も実に巧み。
読者をドライブさせていくツボを心得た真のストーリー・テラーの力量がわかる好短編集。西崎憲氏の解説も、後年、心霊術に傾斜していったドイルの全体像を統一的に把握しようという試みで、興味深かった。



2000.3.14(火) メール大会 
・ジョン・スラデックが死んだそうで。『黒い霊気』『見えないグリーン』「見えざる手によって」みんなとてもヒップなパズラーだった。『黒い霊気』の一挿話、ホームズが推理する切り裂きジャックの正体なんて、いまだに覚えてるもんなあ。サッカレイ・フィン物の長編第3作にいずれ会えることもあるだろうと思っていただけに、残念なり。
高橋徹から、メールで、次のHPを教えてもらう。ますますいいぞ、殊能将之。
殊能将之氏のジョン・スラデック追悼

・というわけで、本日は、メール大会。豪華三本立て。じっくりお楽しみ下さい。
マーヴ・湊氏の『血に飢えた悪鬼』とカーの性的ニュアンス  メールコーナーにて
mushitaro氏の『どすこい(仮)』及び『偏執の芳香』レヴュー 同上
常打ち、パラサイト・関氏の「その後の事ども」


2000.3.13(月) MYSCONレポート
・そんなわけで、12〜13日にかけて行われた「MYSCON」レポート。

■前哨戦
 9時50分の千歳発で、いざ東京へ。早稲田界隈の古本屋を攻めてみようと、高田馬場。東京在中は、この近辺に住んでいたので、懐かしい。西の方から古本屋を眺めていく。安藤書店のミステリのコーナーで、ダグラス・トムスン「探偵作家論」をとって思案しているときに、女性が入ってきて隣のQTブックスを掴む。外の均一台でなにやら歓談している男どもの一行らしい。東京では、古本狩りツアーが流行しているのかと思いきや、中の一人は、古本神・彩古さんのようだ。去年の今頃の小林文庫オフ以来の生彩古さん。そうすると、この女性が古本女王の石井さんですか。声をかけ、彩古さん、石井さんに3500円はお買い得と教えてもらう。本屋の中で、黒白さんに初対面の挨拶。西武古書市方面ではなかったのですか。続いて、「解放されたフランケンシュタイン」を譲っていただいた土田さんとも、ご挨拶。既にして、土田さんのバックは相当の重量をもっているよう。聞きしにまさる買いっぷりである。もう一人は、白梅軒店主・川口さん。いきなり、豪華メンバーだ。
・一行と別れて、さらに東方面へ。東外れの古本屋の前で、再び石井さんと遭遇。森英俊さんから携帯に電話があり、「安藤書店の前にいるでしょう」と推理されたとのこと。森さんは、あっちにいますよと教えてくれる。ここは、MYSCON会場か。高田馬場方面に戻る途中、森さんと遭遇。
 「本、今渡しましょうか」と、森さん。HMMで「MURDER BY THE MAIL」(森さん経営の洋ミステリ専門書店)がクイーンの新刊「THE TRAGEDY OF ERRORS」販売しているを知って、お願いしていたのだ。代金後渡しということでありがたく、拝領。路上での本の受け渡しは、「「MURDER BY THE MAIL」はじまって以来ではないでしょうか。
 寝不足のため、喫茶店で少し寝ようと思ったが、うまく眠れず。「THE TRAGEDY OF ERRORS」に寄せた森さんのエッセイを読んでみる。日本の新本格(Sin-Honkaku School)に関する言及もありました。

■MYSCON開始
 早目に会場である本郷の「鳳明館・森川別館」入り。南北線「東大前」駅から、NYSCONスタッフの方々が、要所に立ち、道案内をしてくれる。受付で、フクさん、しょーじさんに挨拶。適当に入った部屋には、3つの名前を持つ男、戸田さん。雑談しているうちに、Masamiさんも。そのうちに、葉山さん、松本真人さんなどと初対面の方と挨拶。全部の方は捕捉しそこなったが、創元推理倶楽部東京分科会の方の比率が高いようだ。蘇部健一さんが入室。おお写真と同じだ。蔓葉さんは、クイズ企画に備えて「日本ミステリー事典」を読み込んできたという。「イントロあては出るでしょう」と私が適当なことをいっているうちに、18:00会場入り。

■講演
 地下の大広間では、100人を越える集団が集結し、熱気溢れる。予想外に若い女性が多い。私は、よしだまさしさんの横。フクさんの司会で、MYSVCONスタート。
 最初は、「オルファトグラム」を出したばかりの井上夢人さん「e-novelsを語る」。インタヴュアーは大森望さん。ー昨年から試みられている推理作家・評論家ギルドによるe-novelsの現状と展望など。
システムづくりかデザイン、企画まで、井上さんが取り組んでいるようで、e-novelsを語らせるなら、この人しかいない。お話の内容は、最近では笠井潔氏はスキー熱が下降気味で、e-novels一本に情熱を注いでいるとか、大物作家の誰それをリクルートしてくるとか。インターネットを用いた小説分野への大出版社の頭の堅さとか。最近、絶版配布の動きは、出版社による作家の囲い込みとししてしか機能ししないのではないか。とか。インターネット上で連載されている「99人の電車」は、4年かかって11分しかたっていないとか。色々興味深い。
 井上氏は、よどみなく言葉が出てくるし、大森氏の突っ込みは、頭の回転が早くさすがである。会場で、e-novelsを買ったことのある人の挙手を求めたところ、数人程度。ミステリに興味があってインターネットをやっているという集団の中で、この数字は、現状では、まだ苦戦なのかも。
 喜国雅彦さんは、サッカーの中田の日記を読むために買ったウェッブ・マネーの残りを使ったとかで、中田をe-novelssにコンパートすれば大ヒットという案も。
 個人的には、紙は神なりで、後段のオークションをみてもわかるように、本信仰はまだまだ続く思う。よほどの素材でない限り、寝転がって読めるようになるまで、手を出さないという気がする。でも一度は、試してみようとは思った。
 最後に「オルファトグラム」をめぐって、次作のネタとかぶらないように、今後の井上氏の執筆予定を聞き出す浅暮三文氏の質問が受けてました。

■全体企画
 休憩になり、唯一の煙草部屋である「人狼城」へ。企画は禁煙で、滅び行く喫煙人種にとっては、つらいものがある。避難してきた、倉阪さん、浅暮三文さんに、ご挨拶。ウェストレイクは、ほとんど手に入れられたとのこと。浅暮さんに次作のお話などを少しうかがう。
 廊下で、kashibaさんから山風「棺の中の失楽」を「成田さんがもっていた方がいいと思うので」といただく。感涙。
 企画第二弾は、本の交換会及び大クイズ大会。親しい人ばかりが集まって話しているというプレ・MYSCONの反省を踏まえ、あえて親しくなさそうな人を集めたグループ分けによるクイズ大会。私のグループは、ロエ蔵さん、JYL(米田淳一)さん、石井春生さん、藤原義也さん、ほそみさん、タニグチリウイチさん、岡嶋一人さん、ららさん、りなりなさん、のださん。ネット・ヒーローのタニグチ・リウイチさん、のださんにお目もじかない嬉しいなり。実体化した御本人に出会えるというのは、こういう席ならでは。
 私の持参本は、ジム・トンプスン「ポップ1280」。新刊なんで、あまり持っている人はいないと思ってのセレクション。JYLさんの「リサイクルビン」「プリンセスプラステイック」プラス百目鬼恭三郎という驚異のセレクション。藤原義也さんはデレック・スミス「悪魔を呼び起こせ」。石井さんは日下三蔵編「乱歩の幻影」(講談社文庫)。山田風太郎の「伊賀の散歩者」と蘭光生「乱歩を読んだ男」をあんなに絶賛していいものでしょうか。一番受けていたのは、タニグチさんの中国語の探偵漫画短編集で、名作の漫画化らしい。一編は「密室の行者」であることが確認。本の交換は、なかなかルールが決まらなかったが、私は、ほそみさんの北村想「二十面相伝」を落掌。
 クイズ大会の方は予想に反して「昼休み古本屋の均一台で20冊の文庫本を7日間続けて買っていく男がいる。なぜ」という解答のユニークさを競う「文庫本20冊の謎」。「男が土田さんだった」という模範解答は、すぐ出たのだが、これを各グループで論議。
 「死体を本で埋めるため」「ワゴン業者がワゴンの欠陥を隠すため」「ワゴンの下の水道管工事の欠陥を隠すため」、「へそくりを隠した本が倉庫にあるので回収するため」とか色々出る。
 私も、「向かいに古本屋の娘が好きな内気な男が住んでいて、ワゴンの入れ替えが必要になる冊数を毎日人を使って買わせ、入れ替えに出てくる娘を観る」という大阪圭吉ネタとか、「古本屋の倉庫で殺した死体のパーツが20冊の塊に埋め込んであり、それを回収するためとか」出すが、やっばり20冊、7日間というところはうまくいかない。結局、研究所で培養して巨大化むた紙魚の餌として買っているというという、のださんのSFネタに。
 各班の解答は珍答続出で爆笑。解答が禁じ手傾向に走るのは、最近の講談社ノベルスの傾向を反映しているのか。でも、あの面白さは、会場にいないとわからないかも。ネタよりプレゼンテーションの方が大切というのは、ミステリも同じ。個人的には、「西澤保彦」というのがツボでした。
 それにしても、若きミステリ読みの方々が、男前が多く、笑いをとるのに長けているのには、驚く。読者層にも、地殻変動が起きているのか。
 予定時間をかなり超過して終了。

■第1企画
 30分程度の休憩。無謀松さんと晩飯と酒の買い出し。煙草部屋で大森望さんとご挨拶したのは、この頃か。
 「インターネット企画」と「若ミス・リベンジ」に分かれ、前者に参加。小林文庫オーナーと、ともさんというミステリ・ネット界の巨頭がHP運営の苦労などを語るというもの。集まってるメンバーをみて、kashibaさんが、さっそく「老ミス」命名。女性は、なんと1人のみ。そのうちに、続々と集結してきましたが。参加者ほとんどが自分のHPをもっている人のはずで、これだけ集まると壮観。らじさんと良知さんにご挨拶。
 友野さんの司会でHPを立ち上げた動機、アクセス数、掲示板のレス付けの話など。岡嶋一人さんの話が絡んで、多少、とっちらかった印象も。掲示板のレス付け話が、面白い。kashibaさんも、1冊読んで、日記付けまではできると思ってたけど、掲示板が誤算だったといっていた。
 レス付けは必要と意見が多かったと思うけど、個人的には、大森掲示板のように、管理者はたまに顔出しする程度もいいのではないかと思う。まあ、それでうまく話が流れていけば、苦労はないのだが。
 
■第2企画
 こちらは、企画部屋Aが「海外ミステリを読もう!」、Bが「ミステリ大喜利」で、Aに参加。森英俊さんと国書探偵小説全集などの編集に当たられている藤原義也さんの豪華対談。企画意図は、海外ミステリ初心者向けだと思うけど、集まっているメンバーは、老ミスと共通する人が多いかも(笑)。
 森さんと藤原さんの選んだ初心者向けお薦めリストを中心に話が運ぶ。リスト作品は、配布、掲載可能ということなので、後日アップ予定。藤原さんの「海外ミステリに興味のない人に無理に勧めて面白いだろ、ということはしたくない」(意訳?)という発言が印象に残る。最後にお二人が挙げられた今後の刊行予定は、豪華ラインナップで、(タルボットThe Hungman's Hundymanが出るとか)今年も、海外物ヴィンテージ戦線からは、眼が離せない。

■オークション
 大幅に時間がずれ込んで、25時近くから、カリスマ・オークショニアン、kashibaさんの「みんな古本が買いたいか−っ」の鬨の声でオークション開始。次々と出品されている古本に、次々と適切なコメントと笑いを織り込んで競っていくkashiba氏の至芸は、もう人間国宝級か。ミステリ全般に関する深い知識と、各方面に対する気配り、目配りがなければ、できる技ではありません。狙い目が出たときの、黒白さん、千街さん、てつおさん、フクさんらの気迫は、凄かった。
 「戦後推理小説総目録2〜5」が出たときに、葉山さん、須川さんのバトルになり、4200円まで上がったときに、まだ定価より安いときいて「4500円」といって落札してしまった。こういう勝ち方もあるんだな、と。(お二人、すみません)
 休憩時間に、喫煙部屋に避難すると、岡嶋一人さんと松本楽志さんら若ミス連が、なにやらミステリの図面をめぐって、論争中。途中、蘇部健一さんにサインをもらったり、次回作の話も少し聞く。
 で、結局、オークションは5時近くまで、続いたのでありました。kashibaさんのスタミナも尋常ではない。次回は、もう少し冊数を絞るべきかも。印象深かったのは、某出品物をめぐる大森さんのわるもの発言だったり。

■古本朝市〜閉幕
 オークションが終わったと思ったら、5時から朝市。大広間には、人がいっぱいいて驚く。みな、ほとんど寝ていないのではないか。よしださん、彩古さん、kashibaさん、橋詰さんらの出品に押すな押すなの大盛況。その数、数百冊。隙間からの覗くと、ほんとお値打ち本がならんでいる。よしだ出店を中心に多岐川恭ほかをゲット。落ち穂拾いもまた楽し。
 朝市も終わって、各所で歓談モード。小林文庫オーナー、ともさん、葉山さん、須川さん、政宗九さんらと雑談。ここの雑談がもっとも、自分にとって交流っぽかったかも。なんせ、企画に出ずっぱりで、参加者の方とゆっくりお話する機会もなかったもので。ここでも、葉山さんの人型記憶兵器ぶりに感嘆。途中、橋詰久子さんとも少しお話。木越さんは、元気だそうです。関つぁん。そのうち、疲労困憊で、会話も途切れがちになっていくうちに、フィナーレ。
 部屋へ帰り、オークションの途中で撃沈した宮澤さんを起こしたら、こんなの買ってしまったと嘆いていた。そりゃそうですぜ。
 選考11時間に及ぶ、クイズ大会優勝チーム発表の後、さわやかに、フクさんのスタッフ紹介と閉会宣言で、カーテンフォール。
 帰りは、まっすぐ羽田へ。 
 記憶違いもあるかもしれませんが、ご容赦。
 個人的な反省点としては、企画に出すぎて、参加した方と、あまり突っ込んだ話ができなかったこと。上京自体がビックイベントなんで、ついつい欲が出てしまう。あとは、酒を飲む場に行けなかったんで、せっかくもっていった珍味を出し損なったのが残念なり。
 ともあれ、MYSCONの発案者であり本大会を大成功に導いたフクさんはじめ、スタッフの方々、本当に、ご苦労さまでした。

・レポート書くまでがMYSCONと、だらだらと書きすぎ。零点だこりゃ。




2000.3.12(日) MYSCON収穫本
・MYSCONに行ってまいりました。スタッフの方、おつきあい戴いた方、ありがとうございました。レポートは後日ということにして、とりあえずMYSCON等での収穫本等を備忘録代わりに。
○古書店
・トムスン「探偵作家論」(昭11・春秋社/十銭札が挟まっていた)
・ヴィカーズ「ヴェルフラージュ事件」(ポケミス)
・益子政史「ロンドン悪の系譜」(北星堂書店)
○森英俊さん(「MURDER BY THE MAIL」)からの購入
・クイーン「THE TRAGETY OF ERRORS」!
○フクさんからの頂き本
・鷹見緋紗子「血まみれの救世主」(徳間ノベルス)
○kashibaさんからの頂き本
・山田風太郎「棺の中の悦楽」(桃源社・初版!)*100円で拾ったというところが、さすが鉄人
○おーかわさんから
・山風関係!
○中村さんとの交換本
・天藤真・草野唯雄「日曜日は殺しの日」
○しょーじさんとの交換本
・牧野修「ビヨンド・ザ・ビヨンド」(ログアウト冒険文庫)
○交換企画
・北村想「怪人二十面相」・伝」(ハヤカワ文庫)
○オークション
・中島河太郎「戦後推理小説総目録」(第2〜5集)
・ヒルダ・ローレンス「雪の上の血」(東京創元社・世界推理小説全集49)
・ニコラス・ブレイク「クリスマス殺人事件」(国土社/「死の殻」のジュブナイル)
○朝市(よしださん・彩古さん・kashibaさん・惣坂さん・日下さん・橋詰さん・おーかわさんより)
・多岐川恭「老いた悪魔」(桃源社)(よしださんより)
・多岐川恭「牝の芳香」(桃源社)
・梶龍雄「女名刺殺人事件」(桃園書房)
・幾瀬勝彬「女子大生殺害事件」(春陽文庫)
・筑波耕一郎「空白の逆転殺人」(栄光出版社)
・ムアコック「この人を見よ」(ハヤカワSFシリーズ)
・マッギヴァーン「ファイル7」(ハヤカワ文庫)
・カルペンティエール「この世の王国」(サンリオ文庫)
・マッカリ「黒星」(昭5・世界大衆文学全集) 
・幾瀬勝彬「女子大生殺害事件」(春陽文庫)
・筑波耕一郎「空白の逆転殺人」(栄光出版社)
・長井彬「死の轆轤」(講談社ノベルス)
・井上ほのか「アイドルは名探偵」シリーズ5巻(講談社X文庫)(葉山さんに背中を押され、ついに桃背)
・山田風太郎「忍者黒白草紙」(角川文庫)
・南部樹未子「狂った弓」(光文社カッパノベルス)
・戸板康二「松風の記憶」(講談社文庫)
・戸板康二「団十郎切腹事件」(講談社文庫)
○サイン
・持参した「長野・上越新幹線四時間三十分」に蘇部健一氏からサインを戴く。

・帰りの荷物が重いわけだ。 


2000.3.10(金) MYSCON前夜
・森英俊・野村宏平編『乱歩の選んだベスト・ホラー』、横田順彌『古書狩り』(ちくま文庫)、柄刀一『ifの迷宮』(光文社)購入。
・MYSCONに向けての読書は、思惑の4分の1も進まなかった。まあ、酒飲んでたのが、いけないんだけど。
・水面下で画策していた本等の交換予定も煮詰まった。珍味と古本を鞄に詰め込み、帝都出撃準備完了。


2000.3.6(月) 『虚無〜』廉価版
・クイーン(名義)『青の殺人』(原書房)をやっと見つけ、購入。
・塔晶夫(版)『虚無への供物』(東京創元社/4000円+税)を購入。同時に出た100部限定豪華本
65000円)は、とても手が出ないので、こちらで慰める。でも廉価版には、「構想表」の複製は、ついていない。豪華本は、まだ20部残っているらしいとか、「その人々に」の前の「−」が抜けてるのが、校正ミスだとか、色々わかってインターネットは、便利なり。ところで、小林文庫オーナーは豪華本を買われたのであろうか。
・最近は、タイムスリップ小説調査員としても活躍中の中村忠司さんから(「ポップ〜」お買上げありがとうこざいます。)新着情報。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
成田さん,こんばんは。中村@調査員3号です。 新刊は早いもの勝ちってことで。柄刀一『ifの迷宮』(カッパノベルス)には密室状況が2つ出てきます。典型的な部屋ものと車のトランクの密室。部屋ものの方のトリックは豪快です。そんなもん,わかるかい!って感じ。でも,がくしさんならわかるのかも。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そのトリック気になる〜。傑作みたいですね。この作家は、今が旬なのかも。「贋作館事件」でも、一人勝ちという感じでした。読まなければ。 


2000.3.5(日) 
・新刊「ドイル傑作選U」(翔泳社)をさる方からいただく。ありがたし。
・既に旧聞に属しますが、3.1日付けをkashibaさんの日記でとりあげていただき、どもども。
 でも、フランスで受ける日本作家。これは、難問かも。志水辰夫は、ほとんど読んでないけど、まだウェットかなあ。夢野久作、山田風太郎は受けると思うけど、ハードボイルドではないし。大藪春彦、河野典生、ちょっと違うような。坂口安吾がハードボイルド書いてたら、受けたような気もします。サイ君のコリーヌにも聞いたけど、結論は出なかった。
・矢崎存美『刑事ぶたぶた』(廣済堂出版)、坂口安吾『能面の秘密』(角川文庫)、倉阪鬼一朗『迷宮』(講談社ノベルス)読了。米田淳一『リサイクルビン』(講談社ノベルス)は、もう少し。
・いきおいで読み始めた一作目『ぶたぶた』の冒頭作に、ぶたぶたの家族がでてきて、ビックリ。


2000.3.1(水) アメリカの叔父さん
・古本屋で小鷹信光「ハードボイルドの雑学」(グラフ社/'86)購入。グラフ社雑学シリーズの一冊ということで、見たこともありませんでした。近所で日影丈吉「咬まれた手」を50円で拾う(完爾)。
・マーヴ・湊さんからメールをいただきました。以下引用。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
『ポップ1280』が単行本になりましたか。
HMMに訳載したまま埋もれさせておくには惜しい傑作だけにミステリ・マニアには朗報ですね。
ベルトラン・タヴェルニエが大胆にも舞台をフランス領アフリカに移し替えて映画化した『Coup de torchon』を観たことがありますが、原作にはかなり忠実な作りであったものの、主演がフィリップ・ノワレではちょっとマイルドすぎたようです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
・やっぱり朗報ですよね。それに、おお、「ポップ1280」は、映画化されてましたか。日本公開はされていないのではないでしょうか。御覧になっているとは、うらやましい。タヴェルニエの映画は「田舎の日曜日」というのを見ただけです。
・フランス人ローペール・ドゥールズの怪評論集「世界ミステリ−百科」(JICC出版局)で、「ジム・トンブソン」の項をみると、映画化4作目としてベルトラン・タベルニエの「乱闘」が挙げられている。「これは『人口1275人』からの作品である」と書いてるけど、なんで仏題で人口が5人減っているのだあ。謎。
・以下、余談。
・同書の目次を眺めていたら、フランス贔屓というか、フランス人の好きな米国作家の傾向がわかって面白い。ジム・トンプソンを筆頭に、ホレス・マッコイ、デヴィッド・グーディス、チャールズ・ウィルフォード、チェスター・ハイムズ、パトリシア・ハイスミスといったあたりの評価は、一時期(今でも?)、完全に本国アメリカを上回っていたのではないか。80年代に入ってから、アメリカで、トンプソン、ク゜ーディス、ウィルフォードの再評価が進んだというのも、フランスの評価を逆輸入した感が強い。
・フランスでは、アメリカのミステリに、独特の鑑識眼で臨んでいる節がある。タベルニエも評論家出身ということだが、「カイエ・デ・シネマ」の評論家出身、ヌーヴェル・バーグ3人男はこんな具合。
 ゴダール「気狂いピエロ」の原作がライオネル・ホワイト、「メイド・イン・USA」が原作がリチャード・スターク。トリュフォー「ピアニストを撃て」の原作がデビッド・グーディス、「黒衣の花嫁」がウィリアム・アイリッシュ。クロード・シャブロルになると、「二重の鍵」(エリン)、「ふくろうの叫び」(ハイスミス)、「刑事キャレラ 血の絆」(エド・マクベイン)、さらには「十日間の不思議」(クイーン)まで映画化していたはず。
・フランスのこの態度は、ミステリだけに限らない。映画でいえば、米国では、職人娯楽作家にすぎなかったヒッチコックを熱狂的に受け入れたのはフランスだった。ジョン・フォードやサミュエル・フラーについても然り。本国では、三文SF作家だったP.K.ディックは、フランスのSF大会で王様のように迎えられ、「ヴァリス」はパリでオペラ化までされた。音楽でいえば、モダンジャズやベルベット・アンダーグラウンドなどなど。
・アメリカのポップ・カルチャー受容に当たって、フランスは、本国で評価されないくずの中から宝石を見つけるように、ふるまってきたかのように見える。厳父イギリスに比べ、優しい後見人の如く、遠くに住む叔父さんの如く。さすがに、自由の女神をアメリカに贈った国だけのことはある。
・考えてみれば、ポオを「発見」したのは、ボードレールだった。ハメットを「発見」したのは、ジイドだった。フランスは、アメリカのミステリの歴史にとっても、恩人なのである。



2000.2.29(火) 祝!『ポップ1280』単行本化
・出たっ。ジム・トンプスン『ポップ1280』の単行本本日発売(扶桑社/1500)。HMMで連載完結するや、本HPの常連レビュアー(笑)、パラサイト・関氏、ストラングル・成田氏(ワシや)の絶賛を浴びた傑作がついに単行本化。(2年半で私の☆☆☆☆★が付いたのは、この本だけ)というより、キーティングが名作ベスト100に選定し、仏のミステリ叢書セリ・ノワールの記念すべき1000冊目に選ばれたパルプ・ノワール究極の一冊がこれだ。
 すでに出来上がっていたカバー・イラストに合わせて二週間で書き上げるや、ドンチャン騒ぎをして飲み狂い、入ったばかりの原稿料を使い果たしたという本書成立にまつわる逸話もむちゃむちゃ格好いい。犯罪小説史上見たこともないような登場人物を描き、黒いユーモアを噴出させ、胸にギリギリ食い入ってくる、この真の傑作をご賞味あれ。
・それにしても、去年出てれば、「サヴェジ・ナイト」と相まって、トンプスン大爆発だったのに・・。残念。早川ではなく、扶桑社から出るのも不思議。巻末リストによれば、去年翔泳社から出た「サヴェジ・ナイト」が扶桑社から訳者を変えてまた出るらしい。これまた???



2000.2.28(月) 『どすこい(仮)』
・HMM4月号、エリス・ピーターズ『納骨堂の死体』(原書房/1800円)購入。クイーン『青の殺人』は、見あたらず。原書房の近刊予告によると、カー『月明かりの闇』、ライス『もう一人が殺人』(いずれも仮題)が出るようだ。楽しみ。
『どすこい(仮)』 京極夏彦(集英社/00.2) ☆☆
 収録作は、「四十七人の力士」「パラサイト・デブ」「すべてがデブになる」「土俵(リング)・でぶせん」「脂鬼」「理油(意味不明)」「ウロボロスの基礎代謝」の7編。タイトルをみてもわかるとおり、パロディ短編集というより、お笑い短編集。パロディというには、ちときつい。京極のことだから、必殺技頭捻りお笑い相撲取り小説を装って世紀末ベストセラーの憑き物落としでも試みるのかと思っていたら、さにあらず。「47」「48」という、数に溺れる暗合小説になるかとも思ったが、そうもならない。四十八手のレアな技、頭捻り(ずぶねり)を引っさげて、こういうのを一回やってみたかったんだよお、ととるしかないギャグ小説。お笑い小説としての出来は、まあ及第点。何か所かでは、大いに笑かしてもらいました。ただ、新手のギャグがなく、繰り返しギャグの錬度もいま一つ。懐古ギャグが多いのも気になるなあ。いしかわじゅんならもっとうまくやるかも。直接、この小説とは関係ないけど、私と同じ60年代前後生まれの人たちの懐古ギャグが今でも通用するのを不思議に思っていた。私は問いたい。電信柱の陰の明子姉ちゃん、フランケンのフンガーフンガー、「あの娘 がつくった塩むすび」が、なぜ若い層の笑いをとれるのか。ちょっと遡って、金語楼のおトラさん、ドングリ天狗、虫下しのマクニンでは、なぜダメなのか。これは、きっと60年代世代以降、懐古ギャグの中世ともいうべき状態が続いているということでして。それだからこそ、京極夏彦には、安易な懐古ネタや擬音に走らないギャグをやってほしかった。そう相撲の技でいえば、・・
「相撲の技でいえば?」
「あなた誰です(か?」
「成り行き上登場したものです」
「そう、相撲でいえば、頭を相手の頭につけて、体をひねって・・」
「ああ、昼ののど自慢に出てる」
「それは、ズブの素人」
「じゃあ、下町の玉三郎がもろうとる」
「それは、おひねり」
「子供の頃境内で遊んだパイナップル、チョコレートと対の」
「それは、グスベリ」
「髪の毛がドーナツ状に張り付いとる坊さん」
「それはザビエル。もう、1字も合うとらんがな」
 ずぶねり。
 一度やってみたかった。