■本の評価は、☆☆☆☆☆満点
☆☆が水準作
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8月3日(木) 風太郎の少年物
・日下三蔵氏のご配慮で、つ、ついに、山田風太郎『笑う肉仮面』を読むことができました。ありがとう
ございます。ありがとうこざいます−。
・ずっと以前から、まとめておこうと思いながら、手をつけてなかった「風太郎の少年物」についてまとめてみました。ほとんどは、昨年「小林文庫ゲストブック」及び「猟奇の鉄人」掲示板で得た情報を元にしております。
・K文庫から荷物届く。当たったところは、こんなところ。海外は全滅。
高原弘吉『日本滅亡殺人事件』(弘斎出版社)
小泉喜美子『殺人はちょっと面倒』(中央公論社Cノベルス)
藤村正太『大三元殺人事件』(立風書房) *これは、麻雀推理全冊注文したのだが、1冊だけでした。黒白さんとダブったみたい。
多岐川恭『牝の感触』(桃源社・昭45) 短編集
北條文緒『ニューゲイト・ノヴェル』(研究社選書) *19世紀英犯罪小説群の研究書
『暗河21』(葦書房) 資料:同時代から見た夢野久作
『新青年』昭10.2、9、11月号。昭和10年の新青年。当たるはずがないと思って頼んだら、当たってしまった。こんな者のところに来ていいのかな。
8月2日(水)
・随分久しぶり。「パラサイト・関」更新だ。
・昨夜は、大通り公園ビア・ガーデンから流れて通飲。本日から夏休みなのだが、ふとんに倒れていた。夕方起き出して、郵便局。須川さんにくまブックス発送、ネット古書店入金。
・芦辺拓『真説ルパン対ホームズ』読了。
7月31日(月) ファンタスティック・ユーモリスト
・東方より、最高のプレゼントあり。しばらく、神棚に飾っておこうか。詳細はおいおい。
・札幌最高気温35度。ISO取得だかで職場の気温は28度固定。暑くて仕事にならんわい。
・いささか旧聞に属するが、高橋ハルカさんのHPの寄稿家の方のこの文章が可笑しくて。おそるべしモト冬木兄弟。
・異形コレクションシリーズで何作か読んで、すっかり気に入ってしまった岡崎弘明。90年に『英雄ラファシ伝』で第2回スファンタジーノベル大賞受賞。スラブスティックな笑いと作品の後味が実にいい、夢見がちなユーモリストである。『私、こういうものです』('93/角川書店)☆☆★は、「奇想天外サラリーマン小説」と銘打たれているが、立派なスラプスティックSF集。短編10編を収録。マイホーム探しの男女がまきこまれる珍騒動「いとしのマイホーム」、南の島の虫研究所に出張になった男を描く「浮気の虫がうごめく」、頂き物神経細胞刺激によるお中元SFの「お中元大作戦」など。日常の些事がまったく予期しないアサッテの方に横滑りしていく浮遊感とおかしみが最大の魅力で、お笑いでいえば爆笑問題のセンスに近い。下ネタ、駄洒落、客いじり?なしの東京風の笑いである(熊本出身ですが)。実際に笑える本というのはあるようであんまりないが、これは電車で読んでなくて本当に良かった本。『恋愛過敏症』(92/PHP研究所)☆☆は、長編。帯には「無添加、天然100%のファンタジー。ヘルシーでナチュラルな恋もいい。」これは、本の装幀とい
い、OL向けを狙ったらしい。恋をすればジンマシンが出るドジで夢見がちなOLが主人公だが、ビリー・ミリガン風のテーマをもちこんで、少し重い。途中で、どんでん返しがあるのだが、同趣向の日本映画の佳作をみている人は、見当がついてしまうだろう。独自の笑いは控えめだが、あちこちで光っている。ただ、全体的に客層を誤っている感じは否めない。『学校の怪談』のノヴェライゼーションも版を重ねて好調のようだし、新作で、その実力のほどを示して欲しい作家だ。
7月30日(日) ナチ娯楽映画の世界
・夏日。街に出かけたついでに、また、ラルズの古書市に寄ってみる。で、また、捕獲してしまいました、くまブックス「殺意の回想」100円。くー。わしゃマタギか。半年全然見つからなかったのに、立て続けに3冊。まさに古本マーフィ−の法則。
・旭屋で、キース・ロバーツ『ハヴァーヌ』(扶桑社)を見かけ、思わず購入。実家にサンリオ版があるはずなのだが(莫)>まだ、山とある『ポップ1280』の横で、最後の一冊となっていたというのは、若いSFファンが待ちかねていたといこうとなのか。菅浩江『永遠の森』(早川書房)も購入。
藤本泉「作者は誰か『奥の細道』」(パンリサーチ)、山岳ミステリー集新田次郎『山が見ていた』(カッパノベルス)、スピンラッド『鉄の夢』(早川書房)など。影響を受けやすい奴。
・いつの間にか開店していた「ブックオフ中の島」店へ。結構広い。あんまり珍しい物はなかったけど、梶、大谷、岡崎弘明が一歩前進。ジェローム・チャーリン「はぐれ刑事」(番町書房)100が嬉しい。
・さあ、これで夏休み用の本は揃ったぞ、と誰にでもなく言い訳。
・本日は、全くの守備範囲外だが、本屋で見かけ、面白そうだなと思って買った本。
『ナチ娯楽映画の世界』 瀬川祐司 平凡社('00.7)
ナチが映画をプロパガンダの重要な武器にしていたことは良く知られている。ヒトラーの映画好きは有名だし、国内の映画製作を統括するのは、ゲッペルスだった。フリッツ・ラングやダグラス・サークを初め、有能の映画人達は、ナチの手を逃れ、ハリウッドに亡命した。それゆえ、ナチ映画は、世界の映画史の呪われた部分であり、ごく一部を除いて、語るに価しない。ごく一部というのも、レニ・リーフェンシュタール『意志の勝利』などで、主にナチのプロパガンダ研究という観点から語られているにすぎない。筆者も、以前『民族の祭典』『意志の勝利』を観たことがあるが、ドイツチームの活躍に手を叩くヒトラーの映像がインサートされる度に、プロパガンタとは、こういうものかと思ったものである。
だが、著者は、このような映画史の常識を覆す。ナチ時代に製作された千数百本に及ぶ映画のほとんどは、宣伝臭のない「無害な娯楽映画」であって、傑作も多い。これまでの映画史は、これらの映画をまとめて切って捨てていた、と。ドイツで、実際に750本以上のナチ時代の映画を観たという著者だけに、その言説には説得力がある。数々の傑作を挙げた後に、著者の考察は「無害な娯楽映画」とは、一体なにか。映画にとって政治的とは何を意味するかに及ぶ。この考察部分は、まだ不十分の感もあるが、次の著作によって発展させられていくことを期待したい。「ナチと寝た女優」とひと括りにされたナチ映画の代表女優5人(3人は非ドイツ人だった!)の個性を映画に即して浮き彫りにした章も面白い。
しかし、門外漢にとって嬉しいのは、いまだ知られざる傑作が次々と紹介される点だ。筆者の琴線に触れたのは、例えば、SF映画では、タクシー運転手の冒険物語『透明人間、街を行く』(1933)、テレビ受像システムの開発をめぐるスパイアクション『仮面なき世界』(1934)、ロボットを人間の労働力の補助として利用する勢力と戦闘用ロボットを使って世界征服をたくらむ悪の野望との対立を描く『世界の王者』(1934)、アメリカとヨーロッパをつなぐトンネルの建設を題材とするSFアクション『トンネル』(1933)など。ミステリ映画では、殺人の疑いをかけられたボーイが真犯人を見つける『モスコオの夜は更けて』(1936)、名探偵に間違われた男の活躍を喜劇的に描く『シャーロック・ホームズだった男』(1937)、1867のパリ万博を母娘で見物に出かけるが母親が謎の失踪を遂げ、ホテルの従業員もがそんな女は知らないという不条理サスペンス(乱歩のエッセイに出てくる話ですね)『消えた足跡』(1938)など。このほかレヴュー映画、山岳映画(こういうジャンルがあるらしい)など活字で読んでも興味は尽きない。知られざる傑作。麗しい言葉。
7月28日(金) 山田風太郎コレクション!
・本日は、乱歩忌ですか。明日、東西で、乱歩忌にちなんだオフ会が開かれるようです。私も、「宮澤の探偵小説頁」の5万記念オフには、参加したかったのですが、誠に残念なり。
・以前から刊行情報が出ていた出版芸術社の『山田風太郎コレクション』いよいよ編集作業もほぼ終了した模様。編集を担当された日下三蔵さんのお許しを得て、ここに、ラインナップを紹介しておきます。(各巻のタイトルは、仮題)
1 『天狗岬殺人事件』
PART1 女探偵捕物帳(三人の辻音楽師/新宿殺人事件/赤い蜘蛛/怪奇玄々教/輪舞荘の水死人)
PART2 パンチュウ党事件/こりゃ変羅/江戸にいる私(「小説倶楽部」版)/二つの密室/贋金づくり
PART3 天狗岬殺人事件/この罠に罪ありや/夢幻の恋人/あいつの眼/心中見物狂/白い夜/真夏の夜の夢
2『生きている影』 悪霊物語/生きている影/白薔薇殺人事件/怪盗七面相/十三の階段
3『忍法創世記』
いまのところ、十月から三ヶ月連続刊行の予定とのことです。
かつて、戦前のある映画に惚れ込んだプロデューサーが、なんとか上映にこぎつけて、上映会最中に「どうですか、どうですか」と感極まって大声をあげ立ち往生したというエピソードを読んだことがあるけれど、立場は全然違えども、私もそんな気持ち。どうですか、どうですか、このラインナップの凄さ。
1は、昭和2、30年代の雑誌に掲載されたのみで、かつて一度も単行本に収録されていない作品ばかり。といって、作品の質の面で落ちるわけではない。国会図書館などでなんとか読めた作品の範囲でいえば、「女探偵捕物帖」の顔もほころぶ大通俗、「二つの密室」の究極の密室パロディ、「この罠に罪ありや」のスタイリッシュネス、「白い夜」の力のこもった小説づくり、「真夏の世の夢」のトリックの先鋭性など、いずれも同時期の作品に決してひけをとるものではありません。「江戸にいる私」は、廣済堂文庫版とは、別ヴァージョン。それにしても、ああ、「パンチュウ党事件」とは、「天狗岬殺人事件」とは、一体どんな話なのだ。
2は、山風が参加した連作ミステリ集。他の作家のパートも読めれば、お買い得。
で、3が20世紀の掉尾を飾ることになる、おそらく山風最後の忍法帖。雑誌掲載のみで終わっていた作品で、出来映えについては諸説あるが、刊行がこれほど楽しみな本はない。
これで、山風の単行本未収録短編は、わずか10数編を残すのみとなる。ここまで、山風を追い詰めた日下氏の情熱に深く首を垂れるものである。
7月27日(木)
・山風関係で朗報をいただく。小躍りする。
・「猟奇の鉄人」の熱風に煽られるように、菅浩江特集のSFMも購入。これで3号続けて購入だ。菅浩江の英訳短編のルビ訳つき。この英訳短編、彼の地の「年刊SF傑作選」に選ばれたというのだから、カッコいい。
・HMM9月号購入。早川文庫海外ミステリ・ベスト100掲載。思ったより冒険小説系が多いような気がする。91年のアンケート(これは早川文庫に限らず・冒険小説、スパイ小説を除く)と比較すると、注目作は、
『火刑法廷』55位→4位
『ウィチャーリー家の女』81位→14位
『三つの棺』圏外→19位
逆に
『刑事の誇り』16位→圏外
『女には剥かない職業』19位→60位といったあたりは落ち込みが激しい。作家・評論家の点数は、一般の投票の3倍づけという不思議なアンケートなので、単純な比較はできないが。
読者の投票数は620通→405通と落ち込んでいる。
・好きなキャラクターの1位がマーロウ、3位がリュー・アーチャー、4位がシド・ハレーというところをみると、冒険小説協会の方々の組織票でもあったのでしょうか。文庫の品切れ状況などみると、リューアーチャーが3位というのはどうも解せない。6位がHM卿、8位がエラリー・クイーンというのも時代なのか。
・ネット古書店より本届く。
・『密室殺人大百科 上』読了。
7月26日(水) 『トレント乗り出す』
・本日も夕方から雨。ビアガーデンはさっぱりか。ネット古書店から本届くも、郵便局まで取りに行く気にになれず。
・一月音沙汰がないが、関つぁんは元気なのか。
・既に細部を忘れつつある「トレント〜」一応書いておく。あの壮大な前振りはなんだったのか、というまとめですが。
『トレント乗り出す』 E.C.ベントリー(00.6('38)) ☆☆☆★
●「ほんもののタバード」 「本物の陣羽織」という邦題でおなじみ。ユーモラスな詐欺物。「放心家組合」流の奇妙な味も少し。
●「絶妙のショット」 「好打」という邦題でおなじみ。有名なトリックよりトレントと犯人との対峙シーンが見せ場。
●「りこうな鸚鵡」 夜の一定の時間、放心してしまう美女の謎。魅惑的な謎の提出とトレントの捌きが絶妙。
●「消えた弁護士」 誰からも尊敬される弁護士が使い込みの末、失踪。しかし、事件の背後には。完全なる失踪に挑戦。「逆らえなかった大尉」脱獄囚の手紙に隠された盗品の隠し場所。犯人の機知が面白い。
●「安全なリフト」 昇降機のシャフトへの転落事故。なぜ事故死にみせかけなかったのかという謎がモダンデティクティブ・ストーリーめいている。
●「時代遅れの悪党」 時代遅れといいつつ、逆に現代的な「悪党」像を描き面白い。
●「トレントと行儀の悪い犬」 珍しく物理的トリックを使用。犬ミステリアンソロジーに好適。
●「名のある篤志家」 日常の些事が不条理に歪んでいき、元治安判事は自らの正気を疑うが・・。前半の悪夢のようなシチュエーションが秀逸。
●「ちょっとしたミステリー」娘の外出中に施錠された部屋で起こる怪事。ぬけぬけとしたユーモア。●「隠遁貴族」 貴族の失踪事件の裏にかなり意外なプロットを用意。ワインミステリーアンソロジーにも好適。
●「ありふれたヘアピン」 とびきり意外な舞台にトレントを拉致して、深い感銘を与えずにはおかない名編。この1作だけでも、読む価値あり。
3つ選べば、「ありふれたヘアピン」、「りこうな鸚鵡」、「隠遁貴族」か。
背景や題材に、趣向が凝らされており、アンソロジーに採ってみたくなるよう短編が多い。内容も、ホームズ譚風、チェスタトン風あり、奇妙な味あり、モダン本格風ありでバラエティに富んでいるが、どの作品にも通底するのは、奇譚の魅力だろう。「りこうな鸚鵡」「消えた弁護士」「名のある篤志家」のように、怪異譚や都市伝説に転んでもおかしくないような話が、のんしゃらんとしたトレントの個性とブレンドされてユニークなミステリとして着地する。既訳も多いが、まとめて読みたい一冊。
7月25日(火) 恋と革命のインドカレー
・本日は、大雨。ここ数日、北海道は梅雨型気候らしく、蒸し蒸しと暑い。
・日曜日の夕方、ラルズの古書市に行く。広い会場に、7、8人しかいないので、ゆっくりと見て廻れる。それは、いいのだが、9割方見終わって、欲しいものはなにもなし。ボウズがと思っていたら、掴みました。くまマブックス、総戸斗明『殺意の回想』100円。これは、読後、須川さん行き。くまマブックスのしおり入りなので、小林文庫オーナーには勝てるかもしれません。
・一冊出てくると、何冊か目に留まるのがでてくる。「新青年傑作集5 おお、痛快無比!!」、曽野綾子「消えない航跡」(新潮文庫/ミステリ短編集)、深谷忠記「甲子園殺人事件」(ソノラマ文庫)、石沢英太郎「少数派」(講談社/ゲイの世界を描く禁断ミステリらしい)。これで800円。
・旭屋で、ノックス『サイロの死体』、若竹七海『古書店アゼリアの死体』、芦辺拓『和時計の館の殺人』これで4,260円。新刊は高い。
・H林文庫の目録届く。相変わらず並んでいる本は壮観。値段も壮観。目録を眺めながら、いちいち呻き声をあげるので、サイ君に静かに読めといわれる。
・なんということはなく陳舜臣『虹の舞台』(毎日新聞社版)を読む。陶展望が探偵役の現代物。ネールのライバルで、戦時中亡命を繰り返しながら、台北空港で不慮の事故死を遂げたインド独立の英雄チャンドラ・ボースが扱われている。中に、ラス・ビハリ・ボーズに関しての記述があって、個人的なささやかな疑問が氷解した。
東京にいるときに、カレーの名店といわれる新宿中村屋に何度か行ったのだが、そこのレシートだったかに、中村屋のカレー(正しくは、インドカリー)の由来が書かれていた。うろ覚えになるけれど、インド革命運動の志士が戦時中日本に亡命。中村屋の娘と恋に落ちて、本格的インドカリーを初めて日本にもたして、大当たり、中村屋のカリーは恋と革命の味とかいったことが書いてあったように思う。思わず、「革命はどうした!」とカレーを食いながら、その場でつっこみたくなってしまったのだが、その革命の志士がラス・ビハリ・ボーズなのである。
「虹の舞台」では、その後のこの男について少しだけ触れている。
戦時中、日本はインド独立運動の後ろ盾になって、日本軍に投稿した5万の英印軍のインド将兵を「国民軍」に再編。そして、日本軍がインド独立連盟の議長として送り込んだのがこのラス・ビハリ・ボーズ。彼は、国民軍総司令官のモハン・シング大尉と対立し、このライバルをセント・ジョン島に監禁する。ところが、
「ライバルが失脚したとはいえ、ラス・ビハリ・ボースには、独立運動を指導する力はなかった。めちゃくちゃだったのである。」
やはり、カレーだけで良かったのか。
7月22日(土) 『おせっかい』
・また、一日遅れ。大通り公園のビアガーデンが金曜日から始まったが、始まると同時に気温が下がったような気がするのは気のせいか。蒸し暑いことは、蒸し暑い。
・近所のマンションで、フリーマーケット。横溝の白背でも転がっていないかと、ふらふらと行くが、無論なにもなし。それでは、おさまらなくなり、バスに乗って屯田のブックオフへ。郊外店の方に古いいい物があるような気がしているのだが、今回は、当たりは、なし。それでも、せっかく来たからと、何冊か買い込む。往路と帰路二度もバスに乗り間違え、行きは、屯田四条六丁目などという、札幌の「へり」で往生した。バス旅行仙人への道は遠い。
・『おせっかい』 松尾由美 幻冬舎('00.7) ☆☆☆
快作SFミステリ『バルーン・タウンの殺人』の著者の初長編ミステリーなのに、なんとなく、ひっそりと出た感のある新刊。でも、これは面白い。
数年前、妻を亡くした大手事務機器メーカーの管理職古内が主人公。ふとしたことから、足を折って入院中、部下の勧めで、ある小説誌に人気女流作家が連載しているミステリー「おせっかい」に夢中になる。ある東京の私鉄沿線の町で、「おせっかい」といわれるシリアル・キラーが次々と女性を殺していき、独立不羈の美人刑事が犯人を追う。「羊たちの沈黙」以来、ありきたりといえば、あまりにありきたりの設定のミステリーなのだが、古内は、小説のヒロインに、心惹かれる。と、同時に、小説中の主人公にあなたは作者に食い物にされているだけなのだ、と告げたいという気持ちが高じていく。小説世界とのコンタクトをとろう試みた古内は、何度目かには、小説中の点景の人物として登場することに成功する・・。
(小説内)現実の人物が、小説内小説中に登場して活躍という話は、それこそ山のようにあり、本編もあえていえば、メタミステリーに分類されるのただろが、この手の小説につきものの不自然さ、難渋さをほとんど感じさせないのは、作者の手腕だろう。小説中の登場人物に作者の罪を告発するというかなり奇妙な心理も納得させるようにできている。
主人公と主人公を慕う、元部下の男女二人組は、作者に対するイニシアチブをとるために、「おせっかい」担当の編集者を襲い、シリアルキラーの正体を白状させようとする。その試みが失敗に終わると、それまでに連載された小説からシリアルキラーの正体を推理してしまう。この推理が、なかなか圧巻で中盤の見所。小説の犯人を変えようとする女流作家側と主人公側の奇妙な攻防が繰り広げられていくのだが・・。
この先一体話はどう転がっていくのだろう、という展開の読めなさが本書の最大の魅力。現実と小説の世界が交互に描かれ、毒手は両者の行く末をともに固唾を飲んで見守らざるを得ない。現実と小説のアンサンブルは絶妙で、登場人物も説得力に富んでいる。SF的な思考実験の要素もあり、甘さ控えめな文章もグッド。読了後のインパクトにやや欠けるという一点を除けば、見事に細いロープを渡りきった作者に拍手喝采。新しき才能、ミステリの王国へようこそ。
7月19日(水) 「ガラスの罠」
・木曜日にアップしております。
・『ガラスの罠』 黛恭介 (昭和55・太陽)
文庫サイズの「くまブックス」の一冊。(株)太陽は、道内の政治経済誌「月刊クォリティ」を出している出版社で、本作も、昭和53.8〜54.6のまで同誌に連載されたもの。表紙には、「第3回北海道文学賞受賞」とある。「北海道文学賞」は、「クオリティ」が主催しており、96年には、本格デビュー前の永井するみ(北大獣医学部出身)が第20回北海道文学賞を受賞している由。現在ももこの賞、続いているのだろうかって、書くくらいだから、地元でもあまり知名度が高いとは思えない賞である。
本作のカバー裏のあらすじを引用。
「夏の「管理職研修会」に同僚16名と参加した宗像は、そこで殺人事件に巻き込まれる。その背後には、汚職もからむ社内派閥の勢力争いが隠されていた―。サラリーマンの心理を巧みにした利用した「KJ法殺人処方箋」」。
作者は、略歴によれば、昭和10年生。執筆当時、札幌テレビ放送社員で社史編纂室副部長。なんとなく、微妙なポストが、作中の主人公のサラリーマン世界への屈託とダブってくるというのは、考えすぎか。
KJ法は、いうまでもなく、文化人類学者、川喜多二郎の考案に係る発想法の一種。グループ討議で出てきたキーワードを整理分類して、模造紙などに整理。問題解決のためのフローチャートのようなものをつくるという作業を職場の研修などでやらされた人も多いはずだ。かくいう私もその一人なのだが、これは、あんまりうまい結果が出てこない。研修者同志が対立したり、派閥ができたり、結局声のでかい奴の言い分が通ったりと、サラリーマン社会の縮図を持ち込んだような形になる。ここに目をつけた作者の狙いは面白く、その限りでは、かなりリアリティある設定だ。
作品の舞台は、ご当地ミステリ−らしく、苫小牧近郊のホテルである。殺されるのは、経理課長。なにやら、事件の底流には、出世争い、金銭問題、汚職、社内の女性を巡る愛憎などが複雑に絡み合っているらしい。主人公であるクールな庶務課長は、自らの犯行を疑われ、事件の解決に乗り出すのだが・・。
文章は、心配したほど悪くない。研修の内容や進行も、実体験に基づくものか、リアリティに富んでいる。ただ、主要人物に限っても、キャラクターがほとんど描き分けられていないのが、やはりアマチュアの域を出ないところ。読者を物語に没入させる最低限の条件がクリアできていないのだ。作中、かなり詳しく書きこまれいる「KJ法」−完成した模式図も披露される−は、殺人事件に密接に絡んでおり、その限りでは看板に偽りはない。ホテルの図面が配され、犯人のアリバイトリックにもちょっとした工夫がみられるけれど、いかんせん犯人側の犯行計画が大がかりにすぎ、リアリズムの世界では説得力に欠ける。本格の佳作にも、ゲテミスにもなっていないところが、正直残念。ただ、探偵役となる会社ビルの喫茶店のマスターの正体には、のけぞる。ミステリー笑いの殿堂入りかも。
それと、いくら北海道でも、会社の研修の昼食にジンギスカンは食べないと思うぞ。
・明日、小林文庫オーナーさまにお送りしなくては。
7月17日(月)
・あー、恥ずかしい。昨日の記述に、高橋徹から速攻で指摘あり。「野阿梓は男性」でこざいました。あー、この物知らず、というかなんというか、すっぽり抜け落ちてました。推理作家、石沢英太郎の子息ですよね。月報の項、すべて撤回いたします。すみません。こういう半可通な間違い、あちこちでやっているんだろうな。ついでに、こんな所を教えて貰いました。むう、川崎賢子って女性だったのか。
・各所で、山尾悠子本が話題になっていることについて、高橋徹が「20世紀最後の恋」(ヒカシュー)というか、と書いてきた。うまいことをいう。とりあえず、訂正のみ。
7月16日(日) 日本の夏、密室の夏
・夏だ、休みだ、本買いだ。とばかり、本日、『ガラスの罠』を読みつつ、旭屋に出かける。
『山尾悠子作品集成』(国書刊行会)、二階堂黎人編『密室大百科 上・下』(原書房)、『二階堂黎人が選ぶ手塚治虫ミステリー傑作集』(ちくま文庫)、ニコラス・ブリンコウ『マンチェスター・フラッシュバック』(文春文庫)。
『山尾〜』は、8,800円プラス税。くー、清水飛び降り本。1冊だけ棚に残ってました。帯が破られないように、店員の手元を穴の開くほど、見つめる。『マンチェスター〜』は、エルロ、トンプスンに影響を受けたノワール小説で、97年シルヴァーダガー賞作。期待できそうだ。この本帯ないのかな。
・古本屋も廻ろうと思ったが、重さに堪えかね、石川書店のみ。岩下俊作『焔と氷』(昭34・五月書房)
800、田中小実昌『自動巻時計の一日』(角川文庫)100ほか。岩下は、某目録で別な作品に結構な値段が付いていたのを覚えていたので購入。こういう買い方は、駄目だよね。明治密偵風雲録の副題あり。
・帰ってきて、『山尾悠子作品集成』をぱらぱらと。79年沢渡朔による著者ポートレートに、しばし見ほれる。月報で、佐藤亜紀、野阿梓、小谷真理、東雅夫が書いているが、女性3人は、結局自分の事を語っているらしいのが、東雅夫のひたすら讃仰との対比で、なにやら可笑しい。もったいなくて、しばらく読めない本になりそうだ。
・『密室大百科』で、最初に、ロバート・エイディー「密室ミステリ概論」(森英俊)を読んで、しばし陶然。原本で読んではいたのだが、よくわかないところも多かったもの。無性に、未訳の密室物がを読みたくさせる、愛好家にとっては劇薬のようなエッセイである。
同書横井司「日本の密室ミステリ案内」の主な参考文献に拙サイトが紹介されていて、吃驚。もし、初めてこられた方がいたら、日本の密室リストは、タイトルだけで入れてしまったものもあり、不可能犯罪の定義も曖昧で、かなりいい加減なシロモノであることをご承知おきください。精度を高めていきたいという意向だけは、あるのですけれど。
7月13日(木)
・残業続きで、ふにふにふに。本屋も古本屋も行けないぞ。松尾由美『おせかっい』も、もう少しなのだが読み終わらない。面白いぞ。「トレント〜」は、M87星雲の彼方に。メールの返事を書いていない方申し訳ありません。くまブックスは、まだ手をつけてません、小林文庫オーナーさま。あいすみません。須川さん、くまブックス配給、次はまかせてください(ほんとか)。白梅軒店主さま、お言葉かたじけありません。BK1は、おーかわさんの日記みたいに字が小さい。こちらも検索が楽しいぞ。(ネットは見てるらしい)謎宮会は、葉山日記が圧巻。「キングとジョーカー」はどこまで上がるのか(YAHOOも見ているらしい)。某古本市の目録に、北町・海野・蘭の作品を掲載した「小学校4年生」が載っているぞ。1万円也。(目録も見ているらしい)戦前にも小学生は、いたのか。そりゃいるよ。あー、それにしても、早く、密室アンソロジーのエィディーの文章が読みたい。
残業生活者の詩と真実を「意識の流れ」の手法で描いてみました(嘘)。
7月9日(日)
・弟夫婦のところに、第一子の男の子が生まれたので、土曜日、サイ君と旭川に行って来る。最近の赤ちゃんというのは、顔ずシュッとしてるのね。名前は、「陸(りく)」だという。うーむ。別に、最近のトレンドを研究したわけではないみたいなのに、同室の男の子も、同じ名前で驚いたとのこと。流行っているのかな。
弟の嫁さんが我が子をみて最初の感想は、「ヨーダみたい」。母性とは、冷徹なものなのか。
・帰りに、初めて、旭川の古本屋を何軒か廻ってみる。北海道古書店「ガイドマップ」というのをみると、16軒載っているのだが、廻れたのは、3軒くらい。
・収穫は、 「BOOK BIG BOX」で、P.G.ウッドハウス『スミスにおまかせ」(創土社)。
「いほり文庫」で、朝日ソノラマ文庫、カットナー「御先祖様はアトランティス人」、メリット「卑怯の地底人」、カート・シンガー選「眠られぬ夜のために」、ヴァン・サール選「魔の誕生日」、デニス・ホイトリー選「悪魔の化身」、中島河太郎「推理小説展望」(東都書房)、中田耕治「危険な女」(河出ポケットブックス」、{現代大衆文学全集」の「新進作家集」、「澤田撫松集」(昭3.平凡社)、田中小実昌「香具師の旅」(泰流社)など。
ソノラマは500円。札幌より、ずっと安い感じ。雑然としているけど、最近あんまりみない70年代の美本が多くて、いい店なり。大阪圭吉「とむらい機関車」も、スリップも抜いていない美本(1,600円)だったので、買ってしまう。そんなはずはないと思いつつ、なかなか見つからなくて個人的妄執となっていた、くまブックスの一冊、黛恭介「ガラスの罠」も、掴みました。
・色々あって、更新予定が進まず。古本の収穫を書いてのお茶濁しでござい。
7月6日(木) トレント(承前)
・いささか、旧聞に属するが、HMM8月号は「トワイライトゾーン」特集。「トワイライトゾーン」人物事典に「狩久」が出てきて、ちょいと驚く。TZの台本の翻訳は、すべて彼の仕事らしい。小説から遠ざかっている時に、こういう仕事をしていたんですね。
・SFMが8月号がジョン・スラディック特集で、先月号(ディック特集)に引き続き、買ってしまう、柳下毅一郎「ロボットの魂」が、この「時代に遅すぎたか早すぎたかした狂える天才」の全貌を語って秀逸。オカルト批判を書く一方で、オカルト本を執筆。「目の前に謎があると解かずにいられない」気質と「韜晦を仕事にしていた」という辺りが琴線に触れる。ディック「テレポートされざる者」(「ライズ民間警察機構」)の欠落部分をスラデックが推理して文体模写までして補ったというものを日本語で読んでみたいものだ。
・スラデックの書誌(林哲矢)も載っているのだが、参考文献は、ヒュービンの「クライム・フィクションV」(CDーROM版)を除けば、みなWEB文書。時代は、ここまで来てるのか。
・でトレントの続き。 集英社文庫から最新の『トレント最後の事件』訳が出ていたのを思い出して、仕入れてくる。新保博久解説が懇切。乱歩の「トレント〜」とのかかわりに筆を費やし、宮脇孝雄、森英俊の新しい言及にも触れている。この作品を引き合いに、笠井潔の「大戦間ミステリ」論に一矢を報いている?のも、面白い。 アメリカ探偵作家クラブ会員が選んだベスト100('95)では、33位に入っているから、欧米でも、まだ十分読み継がれている古典なのだろう。(ちなみに「EQ」のベスト100('99)では、66位)黄金時代の嚆矢といわれている「トレント〜」を論じることは、いまなおホットな試みかもしれない。
などといった、まとめとは、ほとんどかかわりなく、「乗り出す」へ、行く。と思ったが、時間切れ。まだ、続きます。すみません。
そうそう、最新の「トレント最後の事件」論がOKさんのHPで読めます。面白い。
7月5日(水) 「なぞの黒かげ」
・「トレント〜」の続き、に行こうと思ったら、奔馬性検索症候群が再発したので、次回ということで。
・フクさんのページの紹介で知った「復刊ドット.コム」に登録されている山風の「笑う肉仮面」。復刊希望が100人に達すれば、復刊交渉を行うという。オンデマンド出版というのは、半信半疑なのだが、そのうち一票を投じてみようかな。でも、ポプラ社版の「笑う肉仮面」というのもあるのでショッカー。帰去来リストでは、東光出版社(少年少女最新探偵長編小説10)しか載っていないのだけれど。
・「彷書月刊」に「国際子ども図書館」の充実した目録についての記事があったので、検索してみる。
笑う肉仮面 / 山田風太郎‖著 ; 太賀正‖絵 * ワラウ ニクカメン
出版事項: 東京 : 東光出版社, 昭和33 形態事項: 256p ; 19cm
・東光出版社版が国会図書館の蔵書にあるではないですか!でも、東光出版社が、現存しなければ、復刊交渉もできないはず。果たして、ポプラ社版って存在するのだろうか。
・「笑う肉仮面」といえば、同書に収載されている「なぞの黒かげ」の初出について、北海道在住の松橋さんという方から、御教示をいただいている。(すっかり遅くなってしまい、申し訳ありません)
学習研究社の『四年の学習』昭和32年10月号〜昭和33年3月号?ではないかとのことです。
『四年の学習正月特大号』を松橋さんは所有されていて、これが連載4回目ということなので、前後を推定したということです。貴重な情報ありがとうこざいました。
・昨年、古書市の目録に出ていたので、同号が初出ではないかと思っていたのですが、これは連載物でありましたか。(昨年のWHAT'S
NEW?99.7.18「影を慕いて」参照)
・少年物については、以前、猟鉄掲示板、小林文庫ゲストブックで、色々貴重な情報があったので、別にまとめておきたいと思いつつ、いつしかときはすぎのとを。週末にてもまとめてみたいと思っております。
・「国際子ども図書館」の目録にも、さすがに「四年の学習」は存在しない模様でありました。が、光文社「少年」はあり。行くか、国会図書館。(涼しくなったら)
7月3日(月) 「トレント乗り出す」
『トレント乗り出す』 E.C.ベントリー
名探偵フィリッブ・トレント物の短編集である。なにしろ、『トレント最後の事件』('13)1作をもってして、「現代探偵小説の父である」(ジョン・カーター)といわれた作者の唯一の短編集の初訳なのである。
『トレント最後の事件』のどこがそんなに凄かったのか。これがピンとこなかった。なにしろ、海外ミステリを読み出して数作目、小学生のときに読んだ作品なので、作品の滋味などわかろうはずもない。名作とはこういうものか、と、とまどい気味の感想をもった記憶しかない。
ヘイクラフト『探偵小説成長と時代』(「娯楽としての殺人」)をひいてみる。ベントリーと『トレント最後の事件』について、6頁も割かれている。
ヘイクラフトは、(探偵小説の)近代派(モダ−ン)にふさわしい、最初の1冊と同書を位置づけ、「このわかわかしい先覚者を有名にした上品な自然主義と、みなぎる機智とゆたかな味わいは、鑑賞家たちを喜ばせた」「全体のすがたは、じっさいにただ読んでみなければけっして理解できないほど、文学味と自然らしさに満ちている」と絶賛している。「ただ、今日の非常に発達したものにくらべれば・・けっしてはなばなしい才智溢れるものとはいえない」という留保をつけた上で、「極彩色と誇大が犯罪小説の表看板だったころに、この小説が独自なものでありえた理由があるのだ。」と書いている。
ヘイクラフトの著書('46)の時点で、「トレント〜」の独自性も見えづらくなっていたということか。
もう少し前の評価は、どうか。
31年のダグラス・トムスン「探偵作家論」は、恋愛興味を持ち込んだこと、性格描写の輸入を褒め、形式の高度なテクニックを褒める。同書によれば、セイヤーズは、「トレント〜」を形式に於ける顕著な傑作品だと唱え、更に、その恋愛譚は、「芸術的に扱われ巧みに感情をもって語られている」と褒めているという。トレントがウィムジー卿の造型に影響を与えている可能性もありそうだ。
引用ばっかりだが、面白くなってきたので、どんどん引用。
ホヴェィダ「推理小説の歴史はアルキメデスに始まる」から。
「この作品は現在推理小説の古典の一つに数えられている/しかし刊行後五十年になるこの作品は極度に手が込みすぎて人工的に思える。その重要性は別の面に求めるべきだ」として、「大戦間に英国の作家たちが開拓した一つの形式を念入りに作り上げた」ことに求める。
日本ではどうか。井上良夫「探偵小説のプロフィル」の「世界名作研究」より。
「私はこの作品が悪口をいわれているのをきいたことがない。外国ではトムスンもセイアーズもヴァン・ダインもすべてこれを激賞し、カロリン・ウェルズの如きは「理想的なる探偵小説」という讃辞まで捧げている。」と書き、昭和12年の外国作品ベスト10では「黄色い部屋」に次ぐ第2位になっていると記している。
ところが、「私は由来「トレント」をあまり好かなかった 。・・期待して読んだ結果はすこぶるの失望であった」とし、二読目においても「気にくわぬ作品であった」と述べる。三読目に至って「すこぶる感心するところがあり」と評価が大いに変わっている。同書の構成を分析し、最終章に於ける「サスペンスを孕んだ不思議な神韻と恍惚の雰囲気」を高く評価するのである。海外の評価によりかからず、探偵小説的力動を子細に分析しての評価は、さすがと思わせる。 どんどん、横道に逸れていくので、もう一回。
7月2日(日) リンク集更新
・リンク集更新第1弾Maniac Pavilion」、「名張人外境」、「WASEDA MYSTERY CLUB」を追加。
・『この文庫がすごい!2000年版』掲載の「21世紀に伝えたい『B級珍本文庫の50冊』を求めて」
は、野村宏平+霞流一+小山正+杉江松恋の四氏による古本屋ツアー記。「猟奇の鉄人」の「無敵
五人組」ツアーを彷彿とさせる買いまくりの記は、痛快。森英俊氏、古本女王さまのゲスト出演あり。世紀末日本、人々の間で徒党を組んだ古本屋ツアーが大流行したと記録されたりして(ないない)。
珍本50冊のリストもそそります。
・古本といえば、「小説推理」の喜国エッセイ、俺ラマ島というのが凄かった。古本と古本屋でつくるパノラマ島。笑いと震えが同時に襲う大傑作。
・ベントリー『トレント乗り出す』、カー『月明かりの闇』読む。
●リスト更新
黒田研二『ウェディング・ドレス』、氷川透『真っ暗な夜明け』(中村さんより)、『密室は眠れないパズル』(ともさんより)、横田順彌「まだらのひもの」「Yの悲劇」(上野さんより)、森博嗣『女王の百年密室』、彩古ジュン『白銀荘の殺人鬼』
(注:ヨコジュン「まだらのひもの」は、厳密にいえば「密室」ではないけれど、密室に対する「疎室」という概念を打ち出していること、密室としても通用するトリック(笑)を用いていることから、追加)