■本の評価は、☆☆☆☆☆満点
☆☆が水準作
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8月24日(土) 『階下の密室』
・義母の四十九日も先週終わり、義父とサイ君と連れ立って仏壇を買いに行く。仏壇なんぞ意識したこともないが、仏壇のないうちに仏さまが出てしまうとやはりこれが必要になるのだ。とにかく、新聞に死亡のお知らせが出ると、すぐに遺族は、仏壇やら、華やら、香典返し、法要会場のDM、カタログに囲まれることになる。仏壇のカタログも、頼みもしないのに、十数種を越えて集まり、セールスやら電話の売り込みも多い。仏壇のカタログをみるともなくみると、数千万から数万円まで、様々な商品が己を主張している。いくつかのカタログで眼をひいたのは、「現代仏壇」というやつで、洋間に置くクロゼットみたいのが、結構出てる。仏間や和室のないマンションなどには、似合いそう。この現代仏壇、英語やイタリア語の商品名が付いているのもあり、イタリアの職人の手作りを売り物にしているものもある。イタリアの仏壇職人は、自分の職業を他人にどのように説明しているのであろうか。これにセットの仏具も、ヴェネチアングラスだったりするんだよなあ。買った仏壇は、もっとも売れる価格帯の普通の仏壇でありました。
・ようっぴさんから、日影丈吉の『現代忍者考』(東都ミステリー)が密室物という密告があり。毎度ありがとうございます。日影丈吉の『現代忍者考』(東都ミステリー)です。アマチュア奇術家の発表会後、控室に閉じこめたはずの男が首を剃刀で切られて死んでおり、テーブルの向い側には、向かいに座っていた腹話術の人形とトランプのポーカーをした形跡があった・・。現代の忍術研究家なども出てくるようで、面白そうです。やはり日影全集買わなきゃならん。
・日本に「密室」という言葉が根づいたのは、いつの頃のことか。山前譲氏の『七つの棺』の解説「密室−その不思議な魔力」によると、乱歩の「入り口のない部屋・その他」という評論が発表されたのが、昭和4年。そのタイトルが「密室・その他」でないことからして、その時点で、探偵小説のテクニカル・タームとしての「密室」はまだ普及していなかったと推理し、昭和6年発表の乱歩の「探偵小説のトリック」には、「密室の犯罪」という言葉が出てくること、松本泰の「探偵小説通」(昭和5年)には、「密室」という語が出てくることを指摘している。
松本泰「探偵小説通」をみてみると、確かに、モルグ街の殺人」の紹介の項で、「「モルグ街の殺人」では、老婦人とその姪が、密室で残虐な殺され方をしていた」と、「密室」という言葉が現代の意のように用いられている。また、「厳重に戸締まりをした室内に於いて行われた犯罪−これは現代でも多くの作家が好んで用いるテーマである。エドガア・ウォーレスの「血染めの鍵」はその適例である」とも述べている。(引用は新かなづかい) 横井司氏の「日本の密室ミステリ案内」(『密室殺人大百科』下)によれば、同じく昭和6年に書かれた葛山二郎「骨」、伊東鋭太郎「弓削検事の実験」、光石太郎(光石介太郎)「十八号室の犯罪」といった、初期の国産の密室物には、「密室」という語が出てこないことが紹介されている。作品内で、「密室」の語が大きくクローズアップされたのは、昭和8年に、「完全な密室に於ける殺人という構想が、探偵小説家の理想郷(ユートピア)だって事を云っておこう」と作中人物に云わせてている小栗虫太郎「完全犯罪」が嚆矢となるらしい。
で、ここで、前に多少高いこと出して買ったヘルマン・ランドン『階下の密室』(博文館/大正14)を紹介してみよう。これが、いわゆる密室物なら、通説は覆されるのだが。従来の「密室」は、秘密室の意味で使われたと誰かが書いていたようにも記憶している。この本、原題は付いていないが、エイデイの本にも掲載されていないようである・・。(続く)
8月22日(木) 「自殺の歌」
・ちょっと以前になるが、ようっぴさんから、島久平「犯罪の握手」「自殺の歌」をテキスト化したものをいただいた。前者は、『別冊宝石』昭和27年6月号、後者は、『別冊宝石21号』昭和27年7月号掲載の密室物。初出からテキスト化されているらしいのが、凄すぎる。「犯罪の握手」は、河出文庫の選集に入ったが、後者は未収録の伝法探偵物。
教授の娘に懸想する四人の若い男。教授の誕生日の集まりをきっかけに男たちの間の緊張は高まるが、もっとも傍若無人な男がアパートの密室で、同棲相手と一緒に死亡する。女性を殺害し、自ら自殺したとしか思えない状況だったが、この事件の新犯人は自分だと告白して別の男が自殺を遂げる。相次ぐ事件の真相はいかに、伝法探偵が密室とアリバイの謎を解きほぐす。
密室の謎はあっけないものだが、畳みかけるような事件展開が面白い。別な私立探偵と競演することで、「鈍重な牛」「寡黙な雄弁家」と評される伝法探偵の個性もよく出ている。
ようっぴさんからは、密室物として、甲賀三郎の短編「音と幻想」も密室物として教えてもらった。読んだ版は、昭和17年刊行の紫文閣社版とのこと。恐るべし。
8月20日(火) 道立オフとか
・更新久しぶり。この数週間、わけあって密室ミステリ漬けになっていた。本サイトの副題A
LOCKED ROOM CASTAWAY(密室の漂流者)ならぬ、A LOCKED ROOM DROWNED(密室の溺死人)といったところ。サイ君は、ロックンロールウィドウならぬ、ロックットルームウィドウ(=笑う後家?)状態、としゃれている場合か。形になればいいのだが。
・11日は、予定通り道立図書館で、オフ。参加者は、はるばる内地からやってこられた小林文庫オーナー、帰省中の月うさぎさん、お久しぶりのおげまる改め安達さん、初めましての高橋ハルカさん。気温があまりに低いので、オーナーは驚いたのではないか。久しぶりの道立図書館で、古い「宝石」などめくっていると、小林文庫オーナーと月うさぎさんが、連れだって来館。オーナーは、早速栗田文庫収蔵一覧などにかじりつく。月うつぎさんも、「骸骨島」を出したばかりの神月堂さんの依頼、少年雑誌の神津物のコピーの読めない部分を筆写。私も、「宝石」からのメモなど。固まってはいるが、受験生さながらの机オフが発進。月うさぎさんが冒険王の付録神津もの「夜の皇帝」ゲームなどを見つけてうけているうちに、高橋ハルカさん来館。初めまして。参加できなかった川口@白梅軒氏は、道立図書館より、ハルカさんと初対面する方が魅力的といっていたくらい、である。噂に違わず可憐なお方でした。ロビーで4人で話し込むうちに、おげまるさん来館。さっそく小林文庫オーナーと児童物リストなどを交換している。なんだか色々話す。オジ3は大体聞き役だったような気も。あっという
間に時間が経過し、オーナーの持ち時間も限られてくる。ロビーで話し込む、年齢、性別バラバラの5人は、さぞ不審をかっていたことだろう。途中、川口さんに月うさぎさんがTEL。ちっょとだけ話をさせてもらう。閉館時にロッカーの鍵をなくしてあたふたしたのは内緒だ。すみませんでした。図書館前でハルカさんと別れ、4人でススキノの蟹の店へ。ここでもとりとめもなく色々話す。オーナーに見せてもらった末永さんのパーティの写真も面白うございました。その後、別の店でパフェを喰うという暴挙に出てしまったのは、オフ会の興奮ゆえか。楽しかった。また、やりましょう。
翌日の夜、オーナーと食事。小樽まで古本ツア−にいかれたという。釣果は、短い時間ながらさすがオーナーというもの。ここでも、何だか色々話したなあ。面白かったなあ。よんどころない事情で、9時くらいに切り上げ、すみませんでした。また、いらしてください。
8月6日(火) 道立オフ
・山田風太郎『戦中派焼け跡日記』(小学館)出る。まだ、読めぬ。
・8月11日(日)、道立図書館オフ会を開催することになりました。オフというか、ついに来札される小林文庫オーナーを囲んで札幌関係者が図書館に集まりましょうか、というラフな企画です。終日、図書館にいる予定なので、特に何時からということはありません。同日18:00くらいから札幌市内のどこかの店で、歓談したいと思います。会費は、4000円くらいを予定。もし、札幌周辺で興味がある方がいたら、8日くらいまで、成田のメールアドレスまで、ご連絡ください。
7月29日(月) 『もう一人の山田風太郎』
・更新の方は、すっかり夏休み状態。宿題をこなしきらなければならないのだが、いまやっていることは宿題をやっていることになっているのか。
・昨日は、山田風太郎の一周忌。チーズの肉トロでもつくってもらって、オンザロックでとか思っていたのに、そういうわけにもいかなかった。
・折良く、有本倶子『もう一人の山田風太郎』が到着。砂小屋書房というスモールプレスから、一昨年の3月に出た小体の本。出たことは知っており、そのうちと思いつつ、ずるずると来てしまったが、久しぶりに何冊か古本をネット注文した勢いにまかせて、こちらから注文。11代にわたる風太郎家の家系図が四つ折りで入っていたりして、なかなか凄い本だ。ゆっくり読みます。
・本屋行った。買った。見た。「彷書月刊」最新号。石井女王さまの写真が利乗っているのは、末永さんの連載の方じゃなくて、ちょっと探しました。コスプレの方は、ちょっとよくわからなかったですが、ケーキは凄いですな。
・某所にも書いたけど、白梅軒3周年おめでとうございます。東京のオフ会で、「はくばいけん」と口走ったら、石井さんに「えー、しらうめけんでしょ」と突っ込まれて、顔から炎。川口さんは「両方ある」と優しくおっしゃってましたが、今、創元推理文庫版をみたら、「はくばいけん」とあるではないか。顔から煙くらいで良かったか。この読み方、過去ログで話題になっていると思うのだが、開店時から全部の書込みを読んでいるはずなのに、覚えてないんだよなあ。
・国書3期完結、『ソルトマーシュの殺人』購入。もともと2期のラインナップだったんだよなあ。この本。3期廻しの謎解きを試みた(「ミッチェル差し替えの謎」(99.3.24))者としては、周回遅れの刊行であっても素直に言祝ぎたい。
・道立オフも役者が揃いそうになってきましたが、夏休みの登校日風日記は、この辺で。
7月18日 『密室犯罪学教程』
・森さんの大当たりは、凄い。こんなこと現実に起こるんですか。
・ビル・S・バリンジャー『煙で描いた肖像画』(創元推理文庫)購入。小学館の新シリーズ第1弾となんで同時期に競合するのかわからなかったのだが、猟奇の鉄人のレヴューを読んで、そういうことだったのかと合点。小学館のシリーズを応援したくとも、さすがに文庫がすぐ出るのが判っていれば、文庫まで待つのが人情だ。翻訳権について、50年代の作品が今後続々翻訳権切れになるのかと思って、藤原編集室のここで「翻訳権」について読んでみるに、どうもそう単純なことでもないらしい。
・天城一『密室犯罪学教程』(私家版)を読む。
全体は、右開きの「実践編」と左開きの「理論編」からなる。「実践編」から読むようにという作者の注意書きに基づき、冒頭の数編に手をつけつつ、勿体ないような気がして、そのままになっていたが、これはなかなか凄い本だ。神棚に飾っておくべき本ではなかった。
なにが凄いといって、「理論編」の献詞が凄い。本書を捧げた江戸川乱歩に「先生」と呼びかける形で始まり、乱歩邸での一度だけ実現した歓談ことを懐かしく振り返るところから、この文章は始まるのだが、頁変わって次の冒頭でまた「先生」と呼びかけ(この手法は繰り返される)、この辺から文章の雲行きが変わってくる。戦時中のクラス雑誌に書いたマルクス主義的方法による「探偵小説の過去と未来」という文章が特高の検閲を免れたのは、「先生の通俗探偵小説の流した害毒」ゆえだった、それが自分の「不思議の国の犯罪」を推挙してくれたという先生の恩顧に次ぐ恩顧だったと皮肉に結論づける。続いて、探偵小説とファシズムの相関関係に触れた自分の文章が乱歩の眼に触れ、それが乱歩の感情を害したのではないか。乱歩の自分に対する弾劾は、「続・幻影城」において、「類別トリック集成」に自分の作例が収録されていないことや戦前の通俗小説に関して「害毒のほうが大きかった」と自己批判している点に現れているとする。探偵小説の本場にも存在しない「トリック」という語を探偵小説の一番大切なものに据えた乱歩の態度が糾弾される。乱歩のテーゼは、「操作」が万能とい
う1920年代の時代風潮を探偵小説の分析に適用したものであったが、探偵小説の本質が知恵比べだと理解されてしまうとすると、探偵小説は社会ダーウィン主義の文学化としてファシズムそのものに転化してしまう。本質的に夜の人であった乱歩は、戦後昼の光を浴びカリスマとなった乱歩は、最も苦手とするトリックの創造に行く手を阻まれてしまった。
あまりに大ざっぱな要約で、戦前の高等教育を受けた知識人の教養の凄みをみせる文章の迫力と、清澄とでもいいたい境地にまで蒸留された思考の先鋭さをうまく伝えることはできないが、あまり読んだことのないラディカルな乱歩批判として、貴重なものと思う。
本書が書かれた動機は、乱歩に反して、「密室トリックを崇拝するな」。密室トリックなど容易に創作できることを証明するために書かれた恐るべき実践の書なのである。
7月17日(水) また『骸骨島』
・掲示板の例のところで、道立オフの話が出ていますので、関係者?はよろしくお願いします。・『剣鬼喇嘛仏』(徳間文庫)購入。26年ぶりの初文庫化ですか。縄田一男解説は、先日の山風展にも少し触れている。
・『骸骨島』、予想以上に面白かった。推理的要素のほとんどない「科学冒険小説」だけど、科学者を乗せた飛行機の遭難、突然海上に現れた巨大なしゃりこうべ、どくろの怪人にさらわれた少女、少女の切り取られた腕が撒かれるという冒頭の壮大で猟奇的演出。もう一人の狙われた博士と神津恭介の骸骨島への潜入というところから、物語は東京と太平洋上をまたにかけ、さらに五転、六転。中でも、数日で東京で水爆が爆発するというデッド・リミット・サスペンスは、700万都民のパニックも交え、小見出しで時間を刻んでいくという凄い盛り上がりを見せる。
作中「読者諸君も、子供のころには毎日毎日、空襲の恐ろしさになやまされていたにちがいない」という一節が出てきて、ちと粛然。そうか、これは戦火をくぐり抜けてきた子供たちに向けて書かれた、この時代(昭和25年)の物語なのだと改めて気づく。今では子供もそっぽを向くかもしれない、ヒューマニズムや良き科学への希望といったメッセージが力強く伝わってくるのは、戦後の子供たちに向けた作者自身の熱い思い入れゆえだろう。作中、悲しみと感動で、何度か男泣きに泣く松下捜査一課長に胸を打たれますた。
7月15日(月) 『骸骨島』
・本日、帰宅すると、文雅@神月堂さんから、幻の高木彬光の単行本化されていない少年物『骸骨島』の復刻本が届いておりました。ありがとうございます。同人誌にもかかわらず、装幀は、商業出版の新書と見まがうばかり。内容の一節を抜き出した帯までついてます。復刻プロジェクト始動中とは、聞いていたけれど、著作権者の了解をとり、幾人もの協力者を得て、エッセイに、元ポプラ社の編集者へのアンケート、書誌等まで充実させて一冊にまとめあげた熱きファン魂には、感服するほかは、ございません。そして、寄せられている「たたかうぼくらの名探偵」と題する一文は、あの「風の谷の篤志家または北の大地のシュリーマン」、おげまるさんの筆になります。深い・懇切・面白い文章は、おげまるファンは必見。ということで、ご注文は、文雅さんのサイトまで。
7月12日(金) 『密室レシピ』
・おげまるさん、メールチェックよろしく。(私信)
・後藤さんから提供あった中国本の画像を貼ってみる。とりあえず、これ。とこれです。相当の迫力。作品の選択基準がよくわかりません。
・昌文社ミステリー第2弾、ジェラルド・カーシュ『壜の中の手記』購入。
・『密室レシピ』 角川スニーカー文庫(02.4) ☆☆
国内作品アンソロジーとしては、13冊目の密室アンソロジー。
「トロイの密室」 折原一
富豪の密室の死。同じ部屋の紐で縛られた棺には瀕死の人物。隣の部屋での密室死。というトリプル密室状況だが、強引なトリック一発で解決。
「タワーに死す」 霞流一
怪獣映画撮影中の現場で、特撮監督がミニチュアの東京タワーに刺さって死亡。周囲には近づいた足跡はない。撮影中の映画タイトルが「クツルーの来襲」で、ツルの怪獣が登場する「鶴の恩返し」をモチーフにした話というところからして、霞ワールド。鶴居村からツルが来る〜。トリックもいかにも、この作者らしい。
「正太郎と冷たい方程式」 柴田よしき
「冷たい方程式」とは、ちと違うか。未来の宇宙ステーションでのミステリーツアー中の密室殺人を扱った猫の正太郎シリーズ番外編。舞台設定の割には、解決はややお手軽。
「雪の絵画教室」 泡坂妻夫
冒頭から巧みに読者を引きずり込む話術は健在。雪に囲まれたアトリエでの殺人。周囲についているのは、片道の自転車の跡のみ。もう一つの進行中の事件と絡ませるのは予想の範囲だが、ユニークな登場人物といい、名人の語りを聞いたような心地にさせてくれる。
7月5日(金)
・すっかり時間が空いて、すみません。正解は、「虚像淫楽」でありました。後藤さんから「スリル・ミステリー小説集」のカバーの画像もいただいているのだが、うまく貼れるかどうかチャレンジしてみます。
・末永さん大宴会、大盛況のうちに終了したようで、慶賀慶賀。しかし、各所の報告レポートを読んで凄いと思ったのは、やはり、石井女王さまの「貸本小説」コスブレでした。事前に、ちょっとした企画があるとは聞いていたのだが。モデル自身がカバー絵を演じるというウロボロスなパロディというか、なんというか。池袋の居酒屋に異次元の穴が空いたのでは。2002年、新たな女王伝説誕生。
・『彷書月間』の「ホンの情報」によると、太田出版『福神』(7号・8号)という雑誌に「山田風太郎の日米決戦論」は、山田風太郎の未発表エッセイを載せているらしい。
・私事になるが、6月26日、義母(サイ君の母)が死去。昨年1月に膵臓ガンの手術をして、4月以降は家に復帰していたのだが、今年になって入退院を繰り返すようになった。25日には、容態が悪化し、医者に呼ばれてもう長くはないと告げられたのだが、こんなに早く逝ってしまうとは。夜中の3時すぎに、泊まり込んだ義父から電話で知らされ、駆けつけたときには、もう白い布がかけられていた。頭ではこの日が来るとは判っていてはずなのだが、現実はあまりにもあっけない。
6月24日(月) 山風翻訳続報
・ある方から、連絡あり。私の旧アドレス(s-narita@mxh.mesh.ne.jp ) で、「
Worm Klez.E immunity 」という添付ファイルつきのメールが届いていたとのこと。クレズといういうウィルスメールらしいので、このようなメールが届いたら速攻で削除されるようお願いします。対策については、「クレズ対策WEB」を参考にしてみてください。「差出人」を感染コンピュータ内で取得した任意のメールアドレスとして設定する場合があって、差出人が必ずしも、ウィルスに感染しているわけではないらしい。どうも、当方のパソコンが感染しているわけではないようなのだが、はっきりと確認ができない。
・中国在住?の後藤さんから、再び、山風発見のメール。引用させていただきます。
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本日、新たなる発見がありました。先の「スリル・ミステリー小説集」の新刊の中に山風の作品がありました。題名は直訳で「虐待狂の悲劇」さて、原題は?
今回は題名だけで想像できると思いますが、キーワードは、
・医院
・17〜18才の少年
・水銀
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山風好きは、想像がつくと思いますが、正解は、次の更新でということで。
6月23日(日) 『両性具有迷宮』
・『両性具有迷宮』西澤保彦(02.1/双葉社) ☆★
百合作家森奈津子シリーズ第2弾。深夜のコンビニで宇宙人の誤爆に巻き込まれた森奈津子には、突然男性器が生えてくる。やがて、同様の被害にあった女性の連続猟奇殺人事件が発生。奈津子は、作家仲間の協力を得て、捜査に乗り出すが・・。トンデモな設定にもかかわらず、どこか『死者を笞打て』を思わせるようなところもないではなく、楽屋落ち的本格ミステリを期待したのだが、作品の比重は明らかに森奈津子嬢のスラプスティックな性的冒険の方におかれていて、謎解き部分は設定の奇天烈さがまったく生きていない、付けたり程度のもの。これでは謎解きに参加させられる倉阪鬼一郎、ミーコ嬢、図子慧、柴田よしき、牧野修、野間美由紀の諸氏も浮かばれないというものである。実在の作家、森奈津子にここまでやらせていいものかというほどの、ファンタスティックな御乱行の方は怪作の域に達しており、そちらの方を評価すべき作品なのだろう。作者は、以前から、ジェンダー論みたいなものを隠しテーマ的に使っており、この作品もその思考の延長上にあるのだろうけど、森奈津子という、うってつけのキャラを得たとはいえ、虚実皮膜の中で試してみる意図がいま一つわからないん
だよなあ。
6月22日(土) 『飛鳥高名作選』
・末永さんを囲む大宴会まで、あと一週間となり、掲示板で最終告知をされています。参加希望の方は、是非お早めに。
・「本棚の中の骸骨」の藤原さんの業務日誌で、先日の『被告の女性に関しては』の感想の一節をとり上げていただきました(既に更新されていますが)。本をつくった方に、このような形で言及・賛同いただき、サイト制作者冥利に尽きるものがあります。
・読んでから、随分時間が立ってしまったけど、本格ミステリコレクションシリーズ1の感想。
・『飛鳥高名作選』 河出文庫(01.9)
第一短編集『犯罪の場』収録の6編、第二短編集『黒い眠り』収録の8編プラス4編の計18編を収録した飛鳥高ベストアルバム。『黒い眠り』の感想は、既に書いた(00.10/29)ので、ここでは、残り10編を。「逃げる者」から「暗い坂」までが、『犯罪の場』収録作。
「逃げる者」 劇場の火災事件に潜む狡猾な意図。リアルな設定に高度な本格構成を絡めた秀作。
「二粒の真珠」 軽量鉄骨住宅での密室殺人。後の同種トリックの原型。解明の手掛かりが鮮やか。
「犠牲者」 温泉町の幽霊話に呼び寄せられる男。トリックも印象的だが、犯罪の理論的統一性という観点からの解明もユニーク。
「金魚の裏切り」 散歩中の消えた会社社長。被用人と主人の屈託が強烈なオチに繋がっている。「「犯罪の場」 土木工学実験中の密室殺人を扱ったデヴュー作。動機が極めて戦後的。
「暗い坂」 密室での土木会社社長殺し。なぜ氾濫密室を構成する必要゛あるか?に真っ正面から挑んだ力作。
「加多英二の死」 昇天途中で訊問官から自分の死の再調査を命じられた男。珍しい幽霊探偵物だが、人の世の裏表を皮肉混じりに描きつつ、トリックまでぶちこんでいるこの律儀さ。
「ある墜落死」 こそ泥を働く無一文の男の墜落死。単純な事件に二重の意外性を盛り込んだ佳作。
「細すぎた脚」 建築中のクラブハウスの密室殺人。動機に凄み。
「月を掴む男」 小悪党になろうとした男の死。冒頭とラストの対比が決まっている。
帯に曰く「本格ミステリはここまで進化していた」。トリックができたら一丁あがりではなく、背景・心理・解明の論理・謎の提示の仕方まで考え抜いた丁寧な仕事ぶりは、本格短編の醍醐味。常套を脱した設定からでも「本格」にしてしまう力技には、「すべてが本格になる」と唸らせられる。
6月20日(木) 『被告の女性に関しては』
・無理矢理なネタに言及していただき感謝。各位。『死の命題』リストにのっけてなかったような。『コリアン・ミステリ』は、半ばこのネタのために買ったようなもの。
・『被告の女性に関しては』 フランシス・アイルズ(晶文社/02.6('39)) ☆☆☆☆
期待の晶文社の新シリーズ第一弾。いや、しかし、この小説が日本語で読めるなんて。タイトルは『女について』などと仮訳されていたこともあった。普通小説と紹介されていて、それなら読めなくていいかと思っていたが、最近の若島正の本格的な紹介・再評価は、俄然興味を湧かせるものだった。結論からいって、『殺意』、『レディに捧げる殺人物語』の二大傑作に遜色ない、全然普通ではない「普通小説」だった。広く世の小説好きに読まれて欲しい本だ。
肺の病を得て海辺の町に保養にやって来た21歳の青年アランは、滞在先の医師の妻に惹かれていく。彼女との関係にはまっていくアランの前には、思わぬ事件が待ちかまえていた・・。年上の人妻との一夏の愛。なんとも、お定まりのストーリーを思わせるが、表面上、姦通小説の定番をなぞりながら、物語はゆるやかに底意地悪く進行していく。アランは、オックスフォードの学生で詩人の卵だが、優秀な家系に生まれ、劣等感にさいなまれている。それを癒すのが、優雅で貞淑な医師の妻イヴリン。青年期特有の尊大と小心の間をいききするアランのキャラクターには、バークリーの青年時代が投影されているようだ。アランの心を揺さぶっていく印象的な小事件を積み重ねて、物語は前半のクライマックス。アランとイヴリンが決定的な一夜を迎える映画の長廻しのようなシークエンスは、強く印象に残る。以降、関係が深まる度に、当事者の意外な素顔が露呈されていく後半は、丁寧に創り上げた伽藍を崩壊させていくような、ある種戦慄をもたらすような展開をみせる。ラスト近くアランの放り込まれるのは、悲惨と滑稽を二つながら併せ持つような、しかも小説のモチーフを強く暗示するような
状況だ。
「「マイフェア・レディ」と「フランケンシュタイン」は実は同じ話」という言葉があるけれど、本書もある意味、disciplineによる怪物誕生の物語と読めないこともない。アイルズ=バークリーの筆致には、「紳士」をつくりあげるイギリスの教育制度とイヴリンの「恋のてほどき」を等価にみているような視線を感じる。
後半、イヴリンがやや判りやすい存在になってしまうのがほんの少しの瑕疵と最初感じた。が、果たしてそうか。こちらもアイルズ=バークリー自身が投影されているような尊大な自信家の医者と、アランの真ん中で、イヴリンと名付けられた「女性の不可解」は、相変わらず、微笑みながら佇んでいるのではないか。
6月18日(火) 密室系ワールドカップ開催
・茗荷丸さんのみょうがアンテナから当掲示板がリンクされています。ありがとうございます。掲示板の更新は、これで捕捉できるかも。この自動更新リンク集、自分でもつくってみようと思ったのだけど、なぜかうまく登録できないのだ。
・ニッポン、残念。しかし、お楽しみはこれからだ。W杯便乗、密室系ワールドカップの開催だ。
ベスト8各国から、優れた密室系ミステリを選抜。各国の名誉と威信をかけての勝利の美酒争奪戦は、どうか。
まず、イングランド。カーも、スラデックも、米国に寝返るおそれがあるため、ここでは遠慮してもらう。硬軟豊富に取りそろえた密室系から、ここではベッキンガム宮殿に住むというストライカーにちなんで、ロナルド・ノックス『密室の百万長者』を選抜。ノックスは、ウェールズでもなく、スコットランドでもないから大丈夫だ。
続いて、米国は、いま一つ不人気ながらその実力を高く評価して、ヘイク・タルポット『魔の淵』。
次にドイツ。苦しい。早くも、苦しい。同盟国日本の援軍を頼んで、ドイツが舞台の笠井潔『哲学者の密室』、二階堂黎人『人狼城の殺人 ドイツ編』、海渡英祐『伯林一八八年』等をもってくるという手もあるが、なるべくなら、生え抜きにこだわりたい。ドイツ、密室というと、映画『Uボート』を思い出す。息苦しい。しかも、これはミステリではない。息苦しさの中で思い当たったのが、ハーリヒ『妖女ドロッテ』。渡辺剣次『十三の密室』で触れられているから密室物だろう。
スペイン。ここは、一点物。モンタルパン『中央委員会殺人事件』(西和書林)。食道楽で女好きな名探偵カルバーリョが「スペイン共産党中央委員会開催中の密室で突如起こった書記長暗殺事件」に挑む。どうも、いわゆる密室物でないような気もするが、帯にそう書いてあるから密室だ。不屈のアイルランド代表(レ・ファニュ『アンクル・サイラス』)と死闘は、歴史に残るだろう。
ブラジルは、どんびしゃり。王様ペレの『ワールドカップ殺人事件』。最近、便乗復刊されたが、W杯真っ最中というのに本屋からは消えていたので、内容は不明。しかし、執筆協力というか代作したのは、密室プチマスターのハーバート・レズニコウだから、これでいいのだ。
韓国。またも弱り目。困ったところへ、刊行されたばかりの韓国推理小説アンソロジー『コリアン・ミステリ』(バベル・プレス)。14編の中には、密室系もあるだろう。あるに違いない。観客も含めた総力戦により、イタリア代表(エーコ『薔薇の名前』)を打ち負かした試合運びは、既に神がかりか。
トルコ。トルコのミステリー。なにも思いつかない。「世界」で困ったら、「おばちゃま」に訊け。(あの「小枝」のおばちゃまではない)。ミス・ポリファックス物ドロシー・ギルマン『おばちゃまはイスタンブール』をかろうじて、拾い出す。しかし、密室物でも、はえ抜きでもない。トルコ国民にアンケートをとると、一番好きな国は、日本で、その理由を訊くとほとんどの人はわからないと答えるという、大変な親日国なので、ここはやむなく日本から援軍を送る。だが、トルコというと、御同輩と同じことしか思いつかない。シルビア嬢かくるみ嬢か。ここでは、密室物を含む短編集、都筑道夫『泡姫シルビアの華麗な推理』を選抜だ。日本代表(京極夏彦『魍魎の匣』)の妖怪パワーをねじ伏せた実力は本物か。
セネガル。セネガル・・。セネガル・・・。どこだ一体。ミステリはおろか、文化が紹介されているのだろうか。ここで、この企画も破綻かと思われたときに、神は現れた。
ジャックマール&セネガル『「そして誰もいなくなった」殺人事件』。セネガル出身なのか、セネガル。先祖は偉いぞ、セネガル。ロバート・エイディは、「そして〜」を密室物に分類しているから、そのパロディも密室系でいいのだ。一回戦でフランス代表(アルテ『第四の扉』)を破る番狂わせ、トーナメントで実力者スウェーデン代表(マイ・シューヴァル&ペールヴァール『密室』)を破った強豪だ。
単に最後の駄洒落を言いたかっただけという気もするが、密室の神は、この8強にどんな結末をもたらすのであろうか。
●ベスト8進出
イングランド ロナルド・ノックス『密室の百万長者』
アメリカ ヘイク・タルポット 『魔の淵』
ドイツ ハーリヒ『妖女ドロッテ』
スペイン モンタルバン『中央委員会殺人事件』
ブラジル ペレ『ワールドカップ殺人事件』
韓国 金聖鐘 外『コリアン・ミステリ』
トルコ 都筑道夫『泡姫シルビアの華麗な推理』
セネガル ジャックマール&セネガル『「そして誰もいなくなった」殺人事件』
6月16日(日) 戦中派焼け跡日記
・『文芸ポスト 夏号』購入。(購入は16日)スクープ初公開と題して、「昭和21年 山田風太郎未発表日記発見!」日記の存在は、知られているんだから、「発見」は、ちと大げさか。昭和21年作家デヴュー前後の日記。生前、公開を肯じえなかったが、死の半年前に公開することを許していたという。1周期を機に
小学館から発刊予定らしい。縄田一男による、手際良い、さわり部分の紹介(18p)と瀬戸内寂聴による読後の感想(2P)。さわり部分だけでも、面白い。引き込まれる。『戦中派不戦日記』の続きなのだから、面白いに決まっているけれど、生前本にならないのは、日記の記述が簡単になっていて、まとまったヴォリュームがないせいかと思っていた。1年分で1冊の本になるのだから、分量的には、結構なものなのだろう。
掌を返したように戦争を懺悔する大衆と知識人たちへのいら立ち、焼け跡の街頭スケッチ、自らの目標の定まらないことへの懊悩、「達磨峠事件」当選による探偵小説への傾斜・・。どれも興味深い。
作品の背後にあるものを示す記述も多い。幼くして亡くした父と母の夢を見たあとに、「ほんとうの」文学を夢想しつつ、「いや、俺はもう冷めてしまった。俺は総ての感情を生物学的に計算して、結果は零と出たような、皮肉と諷刺と暗澹たる冷やかさに満ちた文学しか書けない」(5/10)と、処女作執筆前に、自らの作風を予言するような記述が出てくるが、その正確さ、冷徹さは、怖いような気がするほどである。あるいは、「乱歩が『探偵小説』を愛好するのは論理を愛する心である』というのは真実である。なるほど僕は論理を愛する、遊戯的に!」(10/4)とあるのは、作品の秘密の一端を明かしているのではないか。また、探偵小説は余技であるが、紙飢饉で新人の登場が容易でないから、探偵小説界に参入する旨の記述(11/14)も見える。日記故の、青年らしい野心の表出が、生前の公表を認めなかった理由とも思えてくる。
とにかく、完全版の刊行が待たれる内容だ。
6月15日(土) 山風ミステリ、中国語訳
・当掲示板にて、小林文庫オーナーから、末永昭二さんを祝う「大宴会」について、正式に告知していただいております。賑やかな楽しい会になることを祈念しております。ぱぁーっと参りましょう。ばぁーっと。
・札幌祭りで賑わう街に出かけたが、『文芸ポスト』新しい号が出ていない−。購入本、ついに出た!F・アイルズ『被告の女性に関しては』(昌文社)F・デュレンマット『約束』、D・E・ウェストレイク『骨まで盗んで』(ハヤカワ・ミステリ文庫)。
・中国出張中の後藤さんからメール。一部引用させていただきます。
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昨日、本屋に行った所、「日本スリル・ミステリー小説集」というのがありました。その中の「愛の証明:西村京太郎」という本の目次を見るとなんと、「山田風太郎」の文字が・・・題名は直訳で「証明のない謀殺」 原題があたまに浮かびません!「にいさん。突然の旅立ちに手紙を残していきます。私はもう帰ってきません。・・・」という内容で始まる短編なのですが・・・
アンソロジーの中とはいえ、中国語の山風、とりあえずゲットです。
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【読者への挑戦】
ここで、山風好きは、後藤さんの発見した作品の原題名を当ててみてください。(実は、私も実際に本に当たるまで正解は、おぼろでした。)
・山風の中国語訳ゲットは、難しいと思っていたのですが、ミステリの方で早くも、発見されましたか。
後藤さん、やりました。該当作は、「眼中の悪魔」でしょうか。書き出しが、「兄さん、突然旅に出かけるので、この手紙を遺して置く。或いは、二度と帰って来ないかもしれない。」だし、証拠の残らない謀殺を扱っているので。しかし、中国語訳の山風発見、快挙であります。『妖異金瓶梅』も、逆輸入されているといいな。
・ミステリ関係は、西村京太郎、松本清張、森村誠一、夏樹静子、赤川次郎等の翻訳が多いようとのことでした。
6月14日(金) 『ナイト・ランド』(続)
・2ch経由で、山風戦後日記公刊を知る。ここ。快哉。とりあえず、『文芸ポスト』を買いにいかねば。
・日本−チュニジア戦。15時30分のキックオフ、職場のテレビは御法度。職場の数人は、途中経過を含め一切結果教えないでほしいと周囲に懇願。速攻で帰って、ビデオで臨場感を味わうのだという。帰宅途中、「会話が耳に飛び込んでくれば、(結果が)わかる」「号外を配っていればわかる」「スーパーが記念大売出しをしていればわかる」「大通り公演で車が炎上していれば、わかる」・・と周囲に冷やかされていたが、結果はどうか。そういうことがあって、フクさんの日記を見て笑ってしまった。
・夜、「すすしろ」という店で、飯、酒。おまかせコースで、凝った和食が10品。特に、口の中で崩れ去るタコと締めの蕎麦は、絶品でした。
・『ナイト・ランド』(続き)
物語は、外国生活の長い主人公が、隣家に住まう佳人ミルダスと出逢う場面から幕を開ける。恋の鞘当てを経て二人は結ばれるのだが、妻ミルダスは、赤ん坊を産み落として早逝する。苦悩する主人公は、夜の夢ので、未来の世界に転生することになる。この未来世界のヴィジョンが素晴らしい。
時は、百万年後。太陽が死滅し、外宇宙のエネルギーの侵入を受けた地球は、グロテスクな化け物が跋扈する「夜の領域」と化していた。生き残った人類は、最終要塞「角面堡」と呼ばれるピラミッドに集結、闇の世界に跳梁する怪物を監視しながら生活を送っている。前世の記憶を持つ主人公は、目に見えぬ波動を聴く能力を有しており、ある日、静かな呼びかけが自分に対してなされているのを知る。その外の世界からの呼びかけが亡きミルダスのものだと直観した主人公は、その交信の事実を怪物警備官に告げ、自分たち以外の人類がナイトランドのどこかに生存していることを知ったピラミッドの住人に熱狂をもたらす。もう一つの生き残りグループが危機に瀕していることを知ったピラミッドの若者500人は、掟を破り、救出のためナイトランドに踏み出すが、怪物群と大死闘の末、殲滅される。嘆きの声がピラミッドを満たしたとき、主人公は、ミルダス救出のため、単身ナイトランドに踏み出していく。
ここまでで5分の1くらい。ここまでは、いい。素晴らしい。特に、若者たちが、住民たちの監視下で殲滅させられるシーンの迫力は特筆に価する。未来世界の不気味な造型といい、「20世紀初頭の最も重要なイギリス・ファンタストの一人」と呼ばれるだけのことはある。問題は、この後。メインテーマとなる主人公の「行って、来い」がひどく退屈なのだ。おそろしくプロット感覚というものに欠け、主人公の旅程を時間を追って書かれていくだけ。省略をほどこすこともなく、睡眠時間や食べた食料カプセルの量が綿密に記録される。おそらく、計算したら旅程における総睡眠時間まで判明してしまうのではないか。おまけに、時代錯誤的な最愛の女に対する思慕の念や読者に対する意味不明のことわりやら言い訳やらが頻出し、流れを中断することおびただしい。読み進むうち、興奮の場面のはずの、怪物との死闘のシーンまでも、読者にとっては日常化してしまう。ホジスンは、「冒険とは退屈なものである」というメッセージを送ろうとしているのであろうか。
ミルダス(未来世界ではナーニという女性になっている)と遭遇しての帰り旅が、また退屈。騎士道的倫理を尊ぶ主人公に許されるのはキスまでらしいが、これも省略なく全部記録され、のろけや、犬も喰わない痴話げんかも延々と綴られる。ヒラミッドに近づいてからのゴール直前で二人は絶体絶命のピンチを迎え、物語はやっと盛り上がりをみせる。(ここで盛り上がってくれなくて、どうする)
主人公の冒険が、不完全ながら、今日的だと思われるのは、前半の一部、それにゴール間近の道行きが、数百万のピラミッド住民の視線にさらされている点が挙げられる。メデイアにさらされた冒険は、極めて20世紀的だ。死に溢れた物語にもかかわらす、宗教や神に対する言及がほとんどないのも注目に価する。
『指輪物語』に先立つこと40年前、やがて20世紀のSFやファンタジーで消費しつくされることになるイメージの強烈な原風景がここにあるのは間違いない。時代を越える幻視力と騎士道精神が奇妙な混濁する不思議な作品に出会えたのは欣快事だった、と日記には書いておこう。
6月13日(木) 『ナイト・ランド』
・昨日書いた一件、気に掛けていただきありがとうございます。Tさま、某さま。
・ナンシー・関死す。同世代ではほとんどいない、その発言内容のほとんどに頷ける人だったのに。惜しい。
・ボアコベ『鉄仮面』(上・下)(講談社学芸文庫)購入。文庫2冊で、3,780円。あたたたた。講談社刊版の文庫化だが、元版も見ないし、これは買っておく必要のある本。講談社ノベルスの法月綸太郎『法月綸太郎の功績』、字を探すのが面倒な殊能将之の新刊購入。
・今日の本は、実は昨日の本とフーディニつながり。ホジスンは、イギリスに巡業してきた脱出王フーディニを渾身の力で縛り挙げ、縄抜けの術に四苦八苦させて、「あの男にだけは二度と縛られたくない」といわせたという力自慢だったらしい。
『ナイト・ランド』 ウィリアム・ホープ・ホジスン(原書房(02.6('12)) ☆☆☆★
月刊ペン社版の再刊らしい。帯に曰く「H・P・ラヴクラフトやC・S・ルイスが絶賛した20世紀イギリスを代表する異次元幻想怪奇小説ついに復刊!」ところが、荒俣宏の解説を読むと、二人とも、ホジスンの想像力の壮絶さは評価しつつ、「バカバカしいほどの擬古文」と酷評し、総合評価は一言でいえば、「読むに堪えぬ冗長なロマンス」ということだそうだ。全然、誉めてないではないか。
訳者荒俣自身も、「後世に残る一大異常作」と評価しつつも、「翻訳することは苦痛以外のなにものでもなかった」「救いようのない宮廷恋愛風ロマンス」といい、「一人でも多くの人に読み通していただきたいと願うばかりである」と、読み通す人がほとんどいないだろうという諦め顔。ページ数550頁。昨今の小説に比べ途轍もなく長いとはいえないが、実は、後半の冗長さを考え、刈り込みを行ったペーパーバック版を参考に「テキストのカットを断行した」とある。作者自身も、出版社の勝手なカットに遭い、泣く泣く10分の1に縮めた「X氏の夢」という小説に書き直したこともあるという。10分の1で話が通じるんかい。恐るべきことに、これは10分の1に縮めても十分話が通じる小説だったのである。(不本意ながら、続く)
6月12日(水) 『第四の扉』
・日曜の昼頃、何者からか、「「 RX-2001 」がパワーアップした、」なる書込みが当掲示板にあり、よく観に行く掲示板にも同様の書込みがあった。ミステリ系が軒並みやられているのかなと思ったが、書込みの時間やその他今日になって知った情報から判断すると、どうも当サイトの工事中リンク(掲示板リンク)を伝って、書き込まれた疑いが濃厚。当日も、リンクしている掲示板すべてに同様の書込みがあったわけではないので、どうもおかしいなと思いつつ、そのままになっていた。もし、この疑いどおりであれば、リンクさせていただいていた掲示板の運営者には誠に申し訳ありません。この場を借りてお詫びいたします。工事中リンクは削除しました。掲示板リンクなるものが、この種の好餌になりやすいのに気づかなかったのは、軽率でありました。リンク集、この前のオフで一部の方からは好評だったのだが・・。
・『第四の扉』 ポール・アルテ(ポケミス/02.5('87)) ☆☆☆★
待望久しい「フランスのカー」、長編初紹介。早くも重版がかかったというから、読者の歓迎のほどが窺える。この薄さで密室殺人、幽霊屋敷、降霊術、お告げ、分身、死者の甦り、奇術等オカルト・ミステリのアイテムを息つく間もなく繰り出し、破綻もなくまとめる手腕は、従来のフランス・ミステリから想像されるものと一線を画している。ただ、導かれる解決に、さほどみるべきロジックはなく、辻褄を合わせただけという感も。全体にコクに欠け、安上がりのディナーめいたつくりは、むしろ現代本格としての長所なのかもしれないとも思う。ぬけぬけとした本歌どりや、フーディニの扱いを含めた全体の醒めた調子の方に★を献上。いずれにしろ、じゃんすか次の作品を訳して欲しい作家だ。
併せて邦訳のあるアラン・ツイスト博士物2短編。
「死者は真夜中に踊る」(HMM01.4) 封印された納骨堂に響く笑い声と移動する棺の謎。意外な犯人、トリックの隠し方にも秀でた佳編。
「ローレライの呼び声」(HMM02.7) ライン河畔で出逢ったローレライ伝説を思わせるような足跡なき殺人。「孔雀の羽根」に敬意を表した?水準作。
6月11日(火) 殿山節
・「彷書月刊6月号」で、「殿山のタイちゃん」と題された殿山泰司の特集。「JAMJAM日記」等で経験した独特の殿山節が甦ってくる。ミステリが好きで、とにかく撮影の合間に読む、読む。基本はハードボイルド好きのようだが、和洋問わず何でも読む。ポケミス等の新刊に混じって、しょっちゅうクロフツの長編に高得点を与えたりしていて、嬉しくなったりしたものだ。地の文章に、「ジイチャン!」「アンンダラ!」「ヒクヒク」という意味不明の間投詞が出てくる「多重人格的集団即興手法」(by山下洋輔)の文章は結構癖になったもの。
今回、特集の最後に、戦争前夜のモダニズム雑誌に掲載された「Showの悲しみ」(昭14)という文章が載っており、、そんな雑誌の同人だったというのにも驚いたが、後年の八方破れの欠片さえない端正かつリリシズムある文章にさらに唸る。いや何も、驚く必要はないのかもしれないが、あの一見八方破れの素人芸のような文章が、モダニズム経由の高度に練られた文章だったかもしれないというのは、手品の種を明かされたような気分。
・殿山泰司といえば、いつぞや新藤兼人『三文役者の死』(岩波現代文庫)というのを読んだ。交遊50年の監督が身近で見続けてきた殿山泰司の一代記を綴ったもの。戦時中、殿山の所属する劇団が満州へ慰問公演をし、満映理事長甘粕正彦直々に饗応を受けたなんて、風太郎が昭和物を書いたら、出てきそうなエピソードもある。唯一の主演作「裸の島」の撮影苦労話や、役者稼業、ミステリやジャズ、女の間を右往左往する私生活等幅広く扱い、自由に生きた役者の素顔を伝える。ただ、新藤兼人の作品が好きではないせいか、殿山に対する庇護者的視線めいたものを感じていまひとつ乗り切れなかった。殿山泰司は、新藤兼人が思っているよりもっと大きな存在かもしれない。
6月9日(日) グッバイ・イエロー・ブリック・ロード
・『だからドロシー帰っておいで』 牧野修(角川ホラー文庫/02.1) ☆☆☆
牧野修は現代のロマンティストである。そうでなければ、36歳生活に疲れた(でも「サザエさん」には憧れている)主婦・伸江を「オズの国」に招待しようなどと思うものか。しかし、「現代」のロマンティストであるからには、オズの国は、この時代の暗闇と地続きとならざるを得ない。このオズの国では、ライオンはホームレスの中年に、カカシは、精神を病んで自殺した学校教師に、ブリキの男のきこりは痴呆老人に、黄色いレンガ道は盲人用タイルに変換される。一行の旅は血まみれの逃避行となる。架空と現実の世界が交互に描かれ、現実の世界はこの作家らしい壊れっぶりをみせるのだが、読後印象に残るのは、むしろ架空の王国で味わう伸江の生の昂揚や小川の水に手をひたしたときの清冽さ。架空世界での奔放な想像力はいうに及ばず、伸江の救われた魂に現代のロマンティストとしての天稟を感じるのである。
6月8日(土) 山風対談
・道新によれば、道警幹部まで、イングランドが勝って良かったと発言していた。
・伝奇M02(学研:1,400円)購入。追悼特集、山田風太郎・半村良。既に、掲示板で日下さんから教えていただいていたように「忍法相伝64」が掲載されている。以前、morioさんから、御教示のあった、忍法相伝73の原型短編であります。 巻頭カラーは、カバージャケット付きの貸本時代小説の特集で、文章は、末永昭二氏。解説資料編には、この前伺った「明朗ノワール」の語も登場。「二重人格の和製ターザンと、日本に漂着したスコットランド産ドンキホーテが絡む」というパンクな時代小説、宮本幹也『野獣剣』がそそる。
・先日、聴いてきた山風展記念企画の3回目の対談の話。(辻真先×新保博久)
当日も見えていた杉浦さんによると、1回目の会場の半分が地元の御年寄り。たまたま来て見たらやってたんで覗いた、という感じがありありの雰囲気だったとのこと。質疑応答の時間にも「読んだことはありませんが」と前置きして質問するひとがいる有様で、全体は、マニア風の若い人、講演者のファンとほぼ三つにわかれていたらしい。
今回は、辻氏のファンも多いせいか、会場は、8割程度は、入っていた。年輩の方も多いが、若いファンもかなり混じっている。風太郎夫人もいらしてたと思う。
辻氏は、お元気そう。後で確認したら、御年70歳ですか。風太郎より10年後の生まれになる。対談は、もう一方的に辻氏のペース。講演慣れもされているのだろうか、資料もみずに立て板に水の喋り。一方、新保氏の方は、話の引き出し役に徹しようと心がけていたところ、引き出し役は不要の辻氏の能弁の喋りに圧倒されていた感じ。何度も口を挟みかけては、空振りに終わるシーンが続出。 冒頭、辻氏からは、風太郎作品からは、かなりパクった、という衝撃?の発言があり、「宇宙少年ソラン」のエピソードに忍法を用いた話などを語る。戦後の荊木歓喜との出逢い、NHKのプロデューサー当時「甲賀忍法帖」を徹夜で読んで、翌日の番組に穴を開けそうになったこと、「江戸忍法帖」の常套を外した主人公登場のテクニック、「同日同刻」の凄さ等熱く語っていた。(光文社文庫版「夜よりほかに聴くものもなし」の辻解説でその一端は紹介されている)。
驚いたのは、辻氏の記憶力の良さで、「甲賀忍法帖」の○○という忍者の○○という忍法は、「外道忍法帖」の○○という忍者の○○という忍法とよく似ていて、とか、「外道忍法帖」の○○という忍者は、忍法を出す前に死んでしまって惜しかったとか、忍法物にまつわるディープな話題が次々と飛び出す。再読は、あまりしてないというから、いかに当時、熱読していたかという証左でもあろう。新保氏のの発言で印象に残ったのは、「「外道」は風太郎忍法帖の傑作として挙げる人も多いのに、本人が好んでいないのは、実はラストで、風太郎作品全体の秘密を明かしてしまっているからではないか」「晩年、死を超越したような境地のようだった風太郎も、一時期、人一倍死を恐れる気持ちが強かったのではないか。「人間臨終図鑑」によって、多くの人の死に方を知ることで、死を客観的に見つめることができたのではないか」という趣旨の発言。
あっという間に1時間経って、質問コーナーへ。「みささぎ盗賊」の評価、「文体」の話など興味深かったが、一番面白かったのは、アニメに関心をもつという若い方の質問。日本のアニメで技を出すときに、技の名前を叫ぶのは、なぜでしょうか、風太郎作品の影響でしょうか、というもの。海外のアニメでは、そういうことはないらしい。これには、両氏も戸惑ったようで、忍法帖で、忍法の技名が出てくるのは、「くの一」辺りからで、それも相手が倒れてからつぶやく、ので直接の影響はどうか、というような新保さんの回答だったように思うが、質問者がさらに突っ込むには、技の名前を叫ぶのは自分にとって不利になるのになぜ叫ぶのかというもの。合戦のときの「やあ、我こそは・・」と名乗りを挙げる日本伝統の一種のフェアプレイ精神ではないかとか、辻氏が風太郎忍法帖のエキスをアニメに移植したのが始まりかもしれないなどと話は転がる。話としては、風太郎忍法帖が始まりというのは面白い。ハルク・ホーガンが技を出すときに「アックス・ボンバー」と叫ぶのも、風太郎忍法帖の影響なのだろうか。
6月7日(金) 山風展
・因縁の対決イングランドVSアルゼンチン in 札幌ドーム。道警7000人が動員され、福住(ドーム周辺)の町内会では、夜間外出自粛要請が出され、飲み屋はグラスを止めて紙コップも検討したところも、あるとか。高橋@梅ケ丘には、すすきの肉弾レポートを期待されたが、分別ある同僚に断られ、自宅でTV観戦。イングランドが勝って良かった。しかし、あからさまに暴動を期待しているようなメディアもなあ。
・山田風太郎展のことを書いておく。
会場の世田谷文学館は、駅から7〜8分の近代的な建物。
風太郎展自体は、図録と同じく(逆か)、6部構成に分かれており、「第1部 山田風太郎(図巻)」「第2部 戦中派虫けら日記・戦中派不戦日記」「第3部 ミステリー・伝奇小説」「第4部 時代小説−忍法帖シリーズ」「第5部 歴史伝奇小説−明治小説・室町物」「第6部 風太郎の愛した作家たち」。
特別展につながる廊下には、各紙誌で伝えられた風太郎展の紹介、反響の記事。入り口には、「この門を入る者一切の望みを捨てよ」 ダンテ「神曲・地獄篇」と、「人間臨終図鑑」冒頭のエビグラフが掲示されており洒落ている。図録で先に見ていたせいで展示品そのものに対する驚きはなかったが、本物が発するオーラは確実に伝わってくる。
第1部。「あと千回の晩飯」の原稿。縦長の細い文字で非常に読みにくい。幼少時愛用の着物。こんなものが残っているんだ。「人間臨終図鑑ノートと題された見開きのノート。人物に番号が付され、開けられていた頁は、1214〜1216。それらの人物の死に際の様子がまとめてあるらしい。一緒に展示していた人間臨終図鑑ノート(7)には、1006-1205の番号が付されていた。「人間臨終図鑑」で採り上げられている人物は、数えてみると923名なので、盛り込めなかった人物がまだ多数いたということか。しかし、小説執筆の傍ら、人の死に様を蒐集・分類していたというのを目の当たりにみせられて、改めて恐るべき人という印象を受ける。
「風太郎随筆」と題された随筆のスクラップ集。学生時代の小説が掲載された受験雑誌。提供は旺文社。なるほど。愛読したらしい徳富蘇峰「近世日本国民史」。医科大学時代のノート。きれいに整理されたノート。字も読みやすい。特筆すべきは、絵の上手さで、包帯の巻き方等挿入されている絵が実に巧み。昭和24.3.30付けの東京医科大学卒業証書。乱歩の真似をして初めてたという自分用のスクラップブック「風評集」の一部。平成13年7月28日以降は、夫人が引き継いだという。ヨーロッパ旅行のアルバム。筒井康隆から山田風太郎への自著解説に対する礼状。
第2部。日記。後年「戦中派虫けら日記」としてまとめられる日記。扉には、トルストイの引用。後年とは、うって変わって几帳面な字で書かれている。歴史雑感としてまとめられた、源頼朝に関する文章。中井英夫あての風太郎書簡。戦争中の日記に対する感想らしい。字が読めないのが、ひどく残念。「同日同刻」をまとめるための膨大なノート。歴史家さながらの克明な研究に改めて圧倒される。「太平洋戦争風眼帖」。原稿用紙に、「愚かなる人間を描く」の文字。
第3部。内扉に「双頭の人」稿料にて求む。「黄金と裸女を追う男」稿料にて求む等書かれた医学書。原稿料は、酒だけに遣っていたわけではないらしい。
風太郎→横溝正史書簡(26.7.13) 「女が見ていた」贈呈の礼状。一通りの御礼の後に、「つくづく思ふのは小生らの作るものはどういふものか雑音が入りすぎていて、何だかスッキリしないといふことです。頭が悪いのか、不熱心なのか、どちらかでせう」。
「悪霊の群」推薦の御礼(26)では、「やっぱり、今更ながら合作といふことは容易なものではありませんね。トリックがつまる、つまらんといふこと以外に情熱のシーソー・ゲームといった状態があることとをはじめて知りました」「まあ、自爆するところまでやるよりほかはありません」
「雪女」の草稿。創作ノート。鏡文字になっている語が、アルファベットに始まって助詞、形容詞、動詞など二頁にわたって抜き出されている。「河内山宗俊」の草稿。(初出が、小林文庫オーナーから提供あった新データになっていた)。
第4部。美麗な金箔を押された「金瓶梅」二部作の初版の後に、忍法帖映画のボスター。忍法帖ベストセラーの雰囲気を伝える記事類。
第5部。ちくま明治物シリーズの南伸坊のイラスト原画。「中世索引」?「中世の人物」と題するノート。南北朝時代の手製の年譜。「中世」物に対する晩年の並々ならぬ意欲が窺える。 第6部は、二階の常設展の一角。エッセイに出てくる夏目漱石−森鴎外書簡の額装。「反世界の八犬士」と題する「八犬伝」の続編構想ノート。「八犬伝はいかなる物語か」と書かれたノート。今は風となってしまった幻の小説の姿を思う。
1階の出口では、風太郎氏が「徹子の部屋」に出演した際のビデオを流しており、何人かが視聴していた。これは、ビデオで見たことがあるが、やはり、とっくり視聴する。高峰秀子の「歌の花かご」というレヴューを見に行って肋膜炎になり、徴兵を免れたなどと、黒柳徹子に語っている。
二階の常設展には、世田谷ゆかりの作家に関する資料が展示されているが、横溝正史の蔵書の一部(これがまた、垂涎)などが展示されており、ミステリファンには、見逃せない。乱歩から正史あての海外ミステリを情熱的に読み込んでいたころの書簡もある。ビデオコーナーには、乱歩撮影の9ミリ半フィルム(昭9〜18)(数分)なる珍品がある。上諏訪で療養中の正史を訪れた時の撮影もあり、これに映っている乱歩・正史の自然の笑顔が実に自然で、いい物を見せてもらった。はにかむ正史夫人もなかなか。世田谷文学館の絵はがきの一枚は、横溝正史のポートレイトなので、土産に買い込む。
売店では、山風本の横に、西脇順三郎の詩集があったので、懐かしくなり購う。昔、教養文庫版で読んだことがある程度なのだが、よくわからない詩情が結構好きだった。歩くことをそのものを詩にすることが多い人だったけど、この詩人が歩き回っていたのは、この地、世田谷周辺だったのかと改めて気づかされる。そう思うと、帰りにみた文学館周辺のどことなく鄙びたようなたたずまいは、趣深い。代表作「旅人帰らず」の末尾は、こんなものだった。「白壁のくずるる町を過ぎ/路傍の寺に立寄り/曼陀羅の織物を拝み/枯れ枝の山のくずれを越え/水茎の長く映る渡しをわたり/草の実のさがる藪を通り/幻影の人は去る/永劫の旅人は帰らず」 旅人は帰らず、か。
6月3日(月) 北海道の古本屋
・ウィリアム・ホープ・ホジスン『ナイトランド』(原書房)、若島正『乱視読者の帰還』(みすず書房)購入。両方とも、3,200円だ。ある種、爽快な高笑い。
・札幌の第一戦はフーリガンが出現しなかったようだが、東京もワールドカップのせいか、外国人が多数目についた。よしだまさしさんなんかは、外国人を見る度に「フーリガンだ」と呼ばわってはばからないので、東京にいる間、外国人を見ると「フーリガン」でと思う癖がついた。赤坂のドトールコーヒーから出てくるパンク風の兄ちゃんに出くわしたので、心の中で「フーリガンだ」と叫んだら、その兄ちゃんの連れが小さいサッカーボールを蹴りながら出てきたので、笑ってしまった。外国人には二度も話しかけられる。一回目は、神保町で「ライターを貸して」(日本語)、放火に手助けをすることになるのかとビビりながら貸す。二回目は、浜松町のモノレール乗り場で、中東系のおっさんに「Do
you speak English?」今度はなんだ。金を入れたのに切符が出ないらしい。表示パネルを見て、してやったり。200円足りないだけではないか。「more
two coins」でうまくいった。遂に、街角で英語で話しかけられて役に立てたよ、明子姉ちゃん。ホスト国の面目が保てたぞ。しかし、サンキューと愛想のいい笑みを浮かべたあいつらこそが、実はフーリガンだったかもしれない。
・リーブルなにわに「北海道の古本屋」なる80頁のガイドブックが置いてあった。価格100円。以前、古書籍商組合が無償で配っていたものに若干カラーページがついただけといった感じだが、最後のページに「このガイドブックをご持参の上、掲載店にてお買上げのお客様にはお買上げ金額より100円引きとさせていただきます」(確認印)とある。なるほどね。
巻頭カラーには、サブカルチャーやコミックも特集され、ちょっと楽しめる。全体が「古書の鉄人」入門編、ガイド部分が「古書の鉄人」実践編と銘打たれているのだが、もはや、これは「料理」より「猟奇」の方の影響か。本日は、パソコン疲れでこれだけです。
6月2日(日) 東京2デイズ
・行って来ました。世田谷文学館・山風展。午前8時すぎの千歳発に乗って、午後1時すぎに、世田谷文学館到着。京王線の中で『忍法忠臣蔵』を読み返していて、最寄り駅「芦花公園」を6つも乗り越してしまったのは内緒だ。忍法帖もさることながら、「あしばなこうえん」と思いこんでいたのが原因らしい。
落ち着いたただすまいの中を5分ほど歩くと、近代的な世田谷文学館。チケットを求め、山風の幼少時に着た着物などを観てると、声をかけられる。松本さんではないですか。展示を観たら、また仕事に戻り、夜に合流とのこと。松本さんが別な人に声をかけたと思ったら、こちらは、よしだまさしさんではないですか。ふと気づくと、今日の記念対談の出演者の新保博久さんが、辻真先さんを案内している。駆け足で観て、ロビーに行くと、石井女王さまともうお一方。2時からの記念対談参加組だ。黄色いジャケットを着て、週刊文春もっている方を探すと、おられました、初対面の杉浦さん。対談を聞きに来られるということで、事前にメールをいただいていたのだ。以前送っていただいたビデオの御礼など。そこへ、やよいさんもいらっしゃる。辻真先さんの独演会ともいえる対談を楽しんだ後、気づくと後ろに宮澤さんが。私的な有名人が予告もなしに、次々と現れるのでクラクラしそうである。
サイン騒動の後、やよいさんがいったん戻られ、石井さん、よしださん、宮澤さんと3人で高井戸の古本屋にいってみることになる。ここでも車中の話がはずんだせいか、乗り過ごす羽目に。
夜の待ち合わせ場所は、新宿紀伊国屋本店。小林文庫オーナーも、当日、結婚式で東京に出られるということで、急遽開催が決まったミニオフ。参加者数名のはずだったのだが、最終的な参加者は集まってみないとわからないというスリリングな展開に。結局、オーナーや白梅軒店主の奔走?のおかげで総勢15人という思ってもみない大人数のものになった。参加者は、小林文庫オーナー、よしださん、石井さん、宮澤さん、松本さん、やよいさん、川口さん、土田さん、無謀松さん、いわいさん、彩古さん、末永さん、月うさぎさん(2次会参加)、もうお一方(一応、伏せておきます)。末永さん、いわいさん
、月うさぎさんとは初対面。ワールドカップでたくさん立っている警察官を利用しまくって、目的地にたどりついた月うさぎさんは凄い。1次会は、居酒屋風鮨屋、2次会はパセラ。話題はあっちに転がり、こっちに転がり実に楽しかったです。パセラの2次会というのは、憧れていたんだ。 散会の後、4名で延長戦ということになり、呑んでいるうちに終電も終わり。結局、始発まで飲みましょうという流れで、とこどころ意識を失いながら、明るくなるまで呑む。それにしても、末永さん、お強い。
5時過ぎにタクシーで宿の赤坂のビジネスホテルへ。チェックアウトぎりぎりまで寝て、もう一度、世田谷で山風展と常設展をじっくりみる。その後、神保町をひやかして、エアドゥの最終で帰札。
忙しい日程をやりくりして集まっていただいた皆さんに心から感謝。また、幹事役をかって出ていただき、実は既に結婚式と2次会で5時間飲み続けていたというオーナ−お世話になりました。
展示の話と対談の話は後日ということで。
◎買った本
「プレイボーイ傑作選」(100円)(石井さんに見つけてもらう)
「ダンセイニ研究誌 PEGANA LOST」 (RBワンダー) 「彷書月刊6」
◎いただき本
「カドカワミステリ6」(杉浦さんより)
栗田信「河童の源四郎」(文芸評論社)
栗田信「艶筆 雨月物語」(文芸評論社)(以上、川口さんより)
山田風太郎「落日殺人事件」(桃源社)(石井さんより)
5月29日(水) 大宴会
・世田谷文学館にTEL。土曜日2時からの山風企画(辻真先×新保博久対談「山風忍法帖に学ぶもの」)は、まだ席に余裕があるようなので、予約に成功。電話番号を告げると、受付の女性と「遠方からいらっしゃいますよね」「札幌です」てな会話があり、「新宿から京王線という線にのって、8つ目の駅です。各駅停車しか停まりませんから御注意ください」などと丁寧に教えてもらう。北海道から来ましたというのは、なかなかの殺し文句なんだよね。
・既に「小林文庫ゲストブック」で告知されており、当サイト御覧の方の多くはご存じかと思いますが、こちらでもアナウンスさせていただきます。当掲示板でおなじみ、末永昭二さんの御著書『貸本小説』の推理作家協会賞候補を祝い、受賞作無しを残念がる「大宴会」が企画されています。
日時: 6月29日(土)の夕刻から(開始時間は未定 17:00くらいから?)
場所: 都内(池袋を中心に検討します)
主催: 『新青年』研究会、ネットファン有志(共同主催)
会場や詳細は、凡その参加人数などが見えてきてから、決められます。
幹事を引き受けられた小林文庫オーナーさまは、出来るだけ幅広く、多くの方に集まっていただきたいとおっしゃってます。「ミステリーファンでも、ファンでなくても」、「末永さんと面識が有っても、無くても」、でも、末永さんをお祝いする気持ちの有る方は、どしどしご参加下さいとのこと。参加を希望される方、参加出来そうな方は、小林文庫ゲストブック又は当掲示板テルミンスレッドに書きこむか、小林文庫オーナーにメールを送って下さい。あくまで人数把握が目的ですので、最終的に参加できなくなっても構いません。できれば参加したい、と言う程度の方もご連絡下さい。
なお、メールの場合は、mailto: kobashin@st.rim.or.jp(小林文庫オーナーのアドレス)にお願いします。
宴会が企画された経緯などは、「小林文庫ゲストブック」(URLを貼っておきました)を御覧いただければ、よく判ると思います。
私自身の参加は、ちょっと厳しいかもしれませんが、是非多くの方にご参集いただき、大いに盛り上げていただきたいと思います。当サイトも後援などの名目で、応援してまいる所存であります(しかし、宴会の後援とは何だ)