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4月4日(金) 「山田風太郎記念館」オープン
・年度末の一山を越えてやれやれと思っていたら、退院したばかりの父親が倒れて救急車で運ばれて病院に逆戻り。自分は、酒飲んでて連絡がつかなかったということもあって、ついに携帯を持つ羽目になる。
・松橋さんから教えていただいたのだが、4月1日、兵庫県関宮町に「山田風太郎記念館」がオープンしたそうだ。→記念館サイト→会員も募集中という。是非一度尋ねてみたいもの。
・先週の土曜日は、帰省中の月うさぎさんと、安達さん、私の3人で、道立図書館ミニオフ?JRタワーに移動して、居酒屋風の店で歓談。楽しいひとときを過ごしました。書きたいこともやりたいことも色々あるが、とりあえずの近況報告ということで。



3月20日(木) 「鞆繪と麟之介の物語」発掘
・戦争が始まった。
・前回御紹介した「本とコンピュータ」の末永さんの文章は、連載ではなく単発物で、「1」となっているのは、4人の中の先鋒という意味である旨、御本人から連絡いただきました。あちゃー、相変わらずの粗忽で失礼いたしました。前回記載分を訂正しておきました。
・「月刊少年エース5月号増刊 エース特濃」やっと購入。浅田寅ヲ「甲賀忍法帖改」。ストーリーは原作には、ほぼ忠実ながら、舞台はどことも知れぬ世界に移し替えられており、これが非常に新鮮。こちらも、とてもスタイリッシュな画で、アッパーズの方とのキャラクター勝負も楽しみになってきた。
・また、山風リスト関係で新情報が、やよいさんから飛び込んできた。国会図書館(プランゲ文庫)で閲覧した雑誌「くいーん」(Vol.1 No.5 1947.12)に、「鞆繪と麟之介の物語」という風太郎の小説が掲載されていたとのこと。同じ号に乱歩の「山田風太郎君について」という紹介も併せて掲載されている由。
 実は、「鞆繪と麟之介の物語」は、山風リストの「リストの謎」のところに書いているように、前から謎だった作品。該当部分を引用してみると、

・山本明「カストリ雑誌研究」(中公文庫)341Pに『「鞆絵と麟之介の物語」山田風太郎』という記述があり、初出がカストリ雑誌『くいーん』の1948年5/15刊(昭和23年)とされている。(杉浦さん指摘) タイトルからいって、昭和27年の作品とされている「呪恋の女」の原型又は同一作品ではないかと推測されるのだが。(what's new?99.7.14参照)。
 →「宝石」51年9月号の『座談会「宝石」を俎上にのせる』中に「山田君の「鞆江と麟之介の物語」というのに似たのがあります。」という発言がある由(morioさんからの情報提供)

 というところで、探索は止まっていた。今回のやよいさんの情報で、当該作品が実在することが判明したことになる。送っていただいた冒頭の文章をみると、「呪恋の女」の冒頭とほぼ同一。この号で完結ではなく、次号以下に続いているが、次号の収蔵は、残念ながら国会図書館にはないようだ。 第1回目が、47.12月号で、「カストリ雑誌研究」にあるように48.5月号以降まで連載が継続したものかどうか判然としないが、リストの謎がまた一つ解決になりそうだ。やよいさん、ありがとうこざいました。



3月18日(火)  存在しないものをさがす/「無用な訪問者」原型
・年度末追い込み残業で、今日も本屋に寄れず。「甲賀忍法帖・改」どんなんだ〜。
・ありがとう4連発。
・ようっぴさんから、「密告」。赤沼三郎「翡翠湖の悲劇」(『あやつり裁判』所収)ありがとうこざいます。
・『十三の階段』贈呈いただく。ありがとうこざいます。
・末永さんから、「季刊 本とコンピュータ 2003年春号」送っていただく。ありがとうこざいます。この号に、末永昭二さんの「「存在しないもの」をさがす」という文章が掲載されており、道立図書館の栗田文庫及びウェヴ上の目録について、かなり筆が割かれている。ありがたいことに、栗田文庫を知ったきっかけとして、拙サイトと安達さんの調査についても言及されている。占領期雑誌記事データベースの話や、末永さん自家製のデータベースの話など、本を探す人には、ためになる話が満載で、関心のある向きは是非御一読を。しかし、これで、安達さんが閲覧請求を出したときに、係の方から「星がポコ」と返ってくる日も近いかも。
・事前に掲示板で予告があったように、MYSCONの際、某氏から、リスト未収録の山田風太郎の作品の提供があった。御本人の希望で名は伏せるが、ありがとうございます。ありがとうこざいます。  タイトルは、「馬鹿にならぬ殺人」(報知新聞/昭和27年11月7日)。「サスペンス・ルーム」というコーナーに掲載された1000字足らずのショート・ショートというか、コント。
 既に指摘されているように、「無用な訪問者」(読売新聞/昭和34年8月9日/光文社文庫『達磨峠の事件』で単行本初収録)の原型で、アイデアは同じだが、作家に編集者が探偵小説のアイデアを話すという体裁で、「無用な訪問者」のアプローチとは異なっている。ちょっとしゃれたオチは、ひょっとしてこっちの方が出来は上?とも思わせる。風太郎がこのアイデアに愛着があったのは、実体験で、無駄話に験悩まされていたのではないかなどと想像したくなる。
 また、リストを更新しなければ。



3月17日(月) 歓喜物ジュヴナイル第1作?
・MYSC0N4から無事帰還。参戦記は、改めてということで、MYSCON前に国会図書館で得た収穫の話を。
・今年に入って、松橋さんから、山田風太郎の荊木歓喜物のジュヴナイル2作「古墳怪盗団」「空を飛ぶ悪魔」を送っていただいたのは、既に書いたとおり。これらは、それぞれ「科学kの友」昭和25年2月号、3月号に掲載されたもの。その後、安達さんの調査により、これらの号が道立図書館で所蔵していること及び昭和24年12月号には、次号から山田風太郎の新連載が始まる旨の告知がされていることが判明した(掲示板3/5)。残念ながら、道立図書館には、昭和25年1月号が欠号とのことだったが、ネット検索の結果では、国会図書館では同号を所蔵している模様。少なくとも1月号には、一般に存在が知られていない風太郎作品が掲載されていると思われ、上京のついでに寄ってみたという次第。
 備付けの目録によると、国会図書館で所蔵しているのは、昭和25年に限ってみれば、1月号、2月号と後継誌「中学生」5月号。受付で請求書を出すと、雑誌が傷む可能性があるので、奧の特別閲覧室に出せとのこと。ここは、狭い部屋で、係員の監視の目が行き届くようになっているのだ。待つこと、30分。持ってこられた1月号をおそるおそる開けると、ビンゴ。
 巻頭にイラストもおどろおどろしい「軟骨人間」なる風太郎作品が載っている。角書きは、「科学怪奇小説」で、やはり、荊木歓喜物。内容の方は、風太郎読者であれば、タイトルを見ただけで、元ネタがわかってしまいそうである。「みささぎ盗賊」と同様、これまた同一作品をジュヴナイルで2回使いまわしているわけで、ファンとしては、手放しで喜べない部分もあるが…。それだけ原型作品が自信作だったと考えておくことにしよう。
 と、その時は、思ったのだが、家に帰って、作品リストで原型作品「蝋人」の発表年をみて、驚くことになる。「蝋人」の発表は、昭和25年「小説世界」2月号。むしろ、「軟骨人間」の方が先行している。1月のズレだから、どちらの執筆が先か知る由もないが、あの名作が当初、歓喜物のジュヴナイルのアイデアから派生したものではないか、と考えると、非常に興味深い。
 後継誌の「中学生」(昭和25年5月/表紙に5月創刊号とあり、「科学の友」改題とある)は、読物雑誌風だった「科学の友」を学習誌としてリニュアルすることを意図したようで、小説等は影をひそめ、風太郎作品の掲載もなし。安達さんによれば、「中学生」6、7月号にも掲載なしということなので、風太郎の連載は、「科学の友」で打ち切りになった可能性が強いと思われる。「科学の友」昭和25年4月号が存在していれば、この号にも歓喜物が掲載されている可能性があるのだが…。
 特別閲覧室扱いの資料は、複写は後日になるということで、送られてくるのは、1週間後くらいになるらしい。作品の内容については、正確を期すためコピー到着後に書きます。



3月14日(金)
・大変遅蒔きながら、祝!女王様、サイト開設
・MYSCON用に、若竹七海氏の本ほか数冊読む。もう少し冊数稼ぎたかったのだが。
・快調「バジリスク」(甲賀忍法帖)が連載されているヤング・マガジンアッパーズで、連載にかこつけて、シャウト系平安絵巻バンド(なんじゃそりゃ)「陰陽座」のインタヴューが載っている。シングル「妖花忍法帖」で火がついたとか(本当か)。この曲、風太郎スビリットを存分に詰め込み、自分らで勝手に忍法帖シリーズと呼んでいるらしい。
・日影丈吉全集第2巻配本。密室物らしい『現代忍者考』を早く読みたいが、寝ころんで読めないのが、難。・オープンした大丸デパートの三省堂に喫茶店が併設されていて、本の持ち込みが自由らしい。札幌では、この種の形態の本屋は初めてだと思う。いったい何が狙いなんだ、と先日、いわゆる三美女オフ会でひとしきり話題になった。この前、のぞきに行って、その場で提出された疑問はあらかた解けた。
 ○買っていない本の持ち込みは可能なの?
 ●可能。ただし、レシート提示を求める場合もあるらしい。
 ○漫画や雑誌は、買う人いなくなるのでは?
 ●漫画・雑誌・旅行ガイド等は、持ち込み禁。
 ○持ち込んだ本にコーヒーをこぼした場合は?
 ●本の代金はいただきません。
 ○買わない本はどうするの?
 ●出口に返却台があったので、そこに戻すらしい。
 新書とかなら1時間くらいで読み切ってしまえる本もあると思うが、その辺は立ち読みと同じと割り切っているんでしょうな。時間制限はないようだけど、喫茶ルームは食堂街から見通しなので、3時間も4時間も粘って読み切るというのは、剛の者にしかできないということなのか。でも、狙いは今一つ不明。


3月8日(土)
・仕事関係が予期しない形で決着がついて落胆。
・HMM4月号、ヘンリー・ウエイド『塩沢地の霧』(国書刊行会)、ジョセフィン・テイ『魔性の馬』(小学館)、エリザベス・ピーターズ『リチャード三世「殺人」事件』(扶桑社ミステリー)購入。
・身辺は、3月6日JRタワーのオープンで持ちきり。土曜日の夜、移転オープンしたばかりの旭屋を少しばかりのぞいてみる。道内最大級の本屋だけあって、なかなか充実の品揃え。ウェルマン『悪魔なんかこわくない』など、国書刊行会のアーカムハウス叢書が並んでいるのには、ちょっとびっくり。


3月4日(火) リスト更新
・約一年ぶりに「山田風太郎作品リスト」「少年物リスト」「カウントダウン」の内容を更新。遅くなり、すみません。各位。(『怪談部屋』(光文社文庫)、『剣鬼喇嘛仏』文庫化、『山田風太郎コレクション3』刊行、『自来也忍法帖』復刊(文春ネスコ)、安達さん情報、少年物に関する松橋さん情報、「安土城」関連を追加)


2月22日(土)
・リアル日時とずれまくりですが、とりあえずこのままで。
・『十三の階段』ミニ感想。乱歩の参加した連作の全貌が明らかになるまで、春陽堂文庫のシリーズを待たなくてはならなかったことを考えると、早くもこのような形で、まとめて読むことができることに、感謝しなければ。「白薔薇殺人事件」(香山・島田・山田・楠田・岩田・高木)これは以前に感想を書いた。「悪霊物語」(江戸川・角田・山田)再読。発端・発展編で予想される結末が足りなく感じたのか、風太郎は、かなり大胆な結末編を書いている。一種の乱歩論になっているところも、さすが。「生きている影」(角田・山田・大河内)ドッペルゲンガー・スリラー。風太郎パートは、奔放の発想の冒頭編ののつなぎ役に徹しているが、辻褄合わせのネタを仕込むくらいで、あまり精彩がない。「十三の怪談」(山田・島田・岡田・高木)シンガポール・チャンギー刑務所から幕を開ける大迫力の冒頭編。他の大戦を扱った短編並みに力瘤が入っている。復讐のため旅館に集められた人々、神津恭介の登場。雄編の冒頭にふさわしい。ミステリとしての完成度ではこれが随一。結末間近、密室殺人を起こして高木に引き継ぐ岡田鯱彦は人が悪い。トニー谷のような登場人物アジャパー氏では全員が 悪のり。「怪盗七面相」(島田・香住・三橋・高木・武田・島・山田)怪盗を主人公とする一話完結の連作。それぞれ手持ちの探偵が投入されている。三橋は三橋らしく、島は島らしく、作家の個性がモロに出るのが面白い。ラストの風太郎パートは、七面相のこれまでの冒険にまつわるオチを用意しつつ、凝ったお話を繰り広げる。「夜の皇太子」(山田・武田・香住・山村・香山・大河内・高木)新宿御苑に集う浮浪児たちに君臨する夜の皇太子とは。連作にまつわる話のよれ具合は、これが一等か。でも、まとめて読めただけでも、ありがたや。読者には、気鋭推理作家のリレー長編というのは、インパクトあったのだろうか。


2月21日(金) 『十三の階段』
・どうやら、ネット情報によると、『山田風太郎コレクション3 十三の階段』(出版芸術社)が、出る寸前らしいので、昨日(23日)、街に出かけてきた。「リーブルなにわ」には、なし。「旭屋」のミステリ・コーナーにも、なし。例の秘密の場所かと思って、時代小説のコーナーをみると、「コレクション1」「コレクション2」の次に、本一冊分の隙間が空いているではないか。すごく気になる。安達さんにやられたか。しかし、もう札幌でも出ているのかも知れない、と勢いづいて、パルコの富貴堂へ。内装工事だとかで、隣のビルで営業中とのこと。世の中動いている。仮店舗のような形で、本の品揃えは、ほとんどなし。足を伸ばして、紀伊国屋。なんたること、ここも、「コレクション1」「コレクション2」の隣りに本一冊分のスペースが空いているのではないか。虚ろな穴。安達さん2号の仕業か。しかし、売れても、在庫は、あるはず。本棚の下のストッカーを引き開ける誘惑に耐えて、レジに確認。書店員、パソコンで検索すること、しばし。
「3巻は、まだ出ていません」 出るんだよう。あの穴は、なんだようと、暴れようと思ったが、やはり大人の選択をすることにした。肩をすぼめて、トボトボ店を出たりであった。
 【悲しいとき】[悲しいとき]【探している本があるはずのところがぽっこり空いているとき】[探している本があるはずのところがぽっこり空いているとき]というフレーズが頭を駆け抜ける。
 明けて、24日、もうネット情報では既に何人か入手しているらしい。帰りに、ロフトの紀伊国屋。ここにも、なし。1巻だけ置いてある。札幌は、まだなんだなと諦めつつ、いつも寄る札幌弘栄堂。キターッ!!作家別のコーナーに、カバーを見せて、5、6冊置かれてる。やはり、青い鳥は近くに、か。しかし、あの虚ろの穴はなんだったんだ。



2月20日(木) 『モンスター・ドライヴイン』
・『モンスター・ドライブイン』 ジョー・R・ランズデール(創元推理文庫/03.,2('88))
 うろ覚えだけど、「スプラッタ・パンク」なるホラージャンルが紹介されたときに一等先に挙げられていた作品じゃないかな、この作品。もっと早めに訳されていれば、日本のホラーにも相当なインパクトを与えたのではないか、とそんな気もする、突拍子もない小説だ。
 いつもの金曜の夜、ドライヴ・インシアター「オービット」で、ホラー映画のオールナイトに大騒ぎしているぼくら。そんな変哲のない週末だったはずなのに、その日の「オービット」は違った。怪彗星が押し寄せ、劇場は、外の空間と隔絶。閉鎖された空間での、B級ホラー映画さながら、阿鼻叫喚のサバイバル戦が繰り広げられる。ヘルズ・エンジェルたちがシアターの支配者として君臨するわ、食料が尽きて人肉喰いが始まるわ、あげくの果てには、同行の2人が「ポップコーン・キング」なる共生生物に変貌してしまう滅茶苦茶さ。神となった「ポップコーン・キング」の吐き出すポップコーンに劇場の人々は群がり、崇める。
 一体どんな結末が待ち受けるのが読んでいる間は想像もつかないが、みてくれのグロテスクさに比べ読後感はすこぶるいい。それは、この小説が一種の少年の成長物語になっているせいで、特にニセ神父との会話の辺りでの主人公の幻滅と覚醒は、60〜70年代アメリカ青春小説の伝統に則っているようにさえ思える。人々の壮絶なサバイバルの間、神なき場所でホラー映画は映写され続ける。従来の神にとって変わったB級映画の神々の下でも、人は、神とは何か、信仰とは何か、己とは何かを問い続けなければならないのである。続編訳出期待。



2月19日(水) 『ホラー・ガイドブック』
・ここ数日、書店にないないと、騒いでいたサイ君が御満悦顔で帰宅。週刊スタートレック・ファクトファイルを手に入れたらしい。専用のビニールの袋まであるらしい。おまけに、初回は、専用バインダーまで付いて290円。バインダーだけでもお得なような気もするが、こんなバインダーいらない。中をパラパラめくると何にも読むところがないじゃん。ただでさえ、うちは、電話台にスポック人形が置かれ、壁にはスタートレックカレンダーが張られている。この上、隔週で、こんな雑誌が増えていくのか。まったく度しがたきは、トレッキー。
・なんとなく買った尾之上浩司『ホラー・ガイドブック』(角川ホラー文庫/02.1)を読む。冒頭で編者が書いているとおり、編集部に命じられた「安く」「早く」「旨く」を満たし、小難しいことは抜きにして、面白いホラ−紹介に徹しようとしている本だが、おそらくは編集意図に反しているであろう、「ミステリー&ホラー 感情の錬金術」(並木士郎)、「一時間でわかる日本ホラー小説小史」(中島晶也)がタメになった。前者は、ボートレールの言明を基にミステリとホラーの関係について考察するもの。後者は、江戸期のホラーから現代までを幅広い目配りで俯瞰するもので格調高い。その他、小説と映像をほぼ同等に扱っているところも特徴で、情報量多く、バイヤーズ・ガイドとしては、まず、グッジョブか。『クィン氏の事件簿』『恐怖の研究』が、ホラーとして作品紹介されていて、ちょっと驚く。橋詰久子さんも、作品紹介を執筆しています。



2月18日(火) イリュージョン
・高橋@梅丘から、「奇術はイリュージョンを招くのでありまして」というタイトルのメールをもらいまして、何のことやらと思ったら、奇術は誤解を招くのではない、と。朝のドタバタの中で更新したとはいえ、
なんとも情けない変換ミス「奇術」→記述」で、もう恥ずかしくて、前回の追記。めかるさんには、重ねて申し訳なし。それでなくても、密室系は、誤字・脱字が多すぎると、サイ君にも指摘されているというのに。原因の大半は、文章の読み返しをほとんど、しないせいで、なぜ読み返さないかというと、モニターを見てると、持病のヘルニアで首が痛くなってしまって、もう早くアップして終わらせようという気になってしまうというのが大きい。それでも、次回更新時に直せばいいようなもので、まあ言い訳なんですが。寝転がって、文庫版をもっている腕がつらくなってくる時もある。
・「ヤングマガジン アッパーズ」早くも、甲賀忍法帖の漫画化「バジリスク」第2話。今回も、ほぼ忠実にストーリーを追っていて、次々出てくる各キャラクターも、いい感じ。石川賢『柳生十兵衛死す』(集英社)、買ってなかった3巻、4巻買ってくる。(5巻は見あたらず)これは完全にオリジナルですな。
・ルヴェル『夜鳥』、ランズデール『モンスター・ドライヴイン』(創元推理文庫)、「創元推理21」、『ハイ・シエラ』(ボケミス)購入。ポケミスは、名作ミステリ映画の未訳原作は続々刊行予定という。名作映画の原作が名作とは限らないけど、シブメの作家が並んでいてこれはちょっと楽しみだ。


2月17日(月) 松山俊太郎執筆目録 
・めかるさんという方から、メールをいただいた。懸案の「松山俊太郎先生執筆目録」サイトを立ち上げたとのこと。松山俊太郎といえば、個人的には、『別冊新評 山田風太郎の世界』に掲載された「忍耐するものとしての忍者」、教養文庫の小栗虫太郎の解説、『匣の中の失楽』(講談社文庫)などで、その学殖と深い読みに鮮烈な印象を受けてはいたのたが、印度哲学を専攻にしているらしいほか、どういう人なのか、判っていなかった。この度、執筆リストを拝見すると、評論の類を一冊にまとめていることもしていないらしい。これは、もう御本人の意志としか思えないが、文芸評論だけで雄に一冊分あるようだ。どこかで本にならないものか。
 実は、めかるさんから、「忍耐するものとしての忍者」の件で問い合わせがあったのは、4年前。ついにサイトを立ち上げられたということで、その志の継続と資料の博捜に頭が下がる。さらに情報が寄せられ、目録がますます充実されることを祈念。
サイトは、こちら
追記:めかるさんから、単行本はあるということで、頁上部にまとめた旨、ご連絡をいただきました。素早い。誤解を招く奇術ですみませんでした。



2月16日(日) いつか見た遠い空
・更新が滞っていたせいで、旧聞になってしまいますがー。
・「彷書月刊2月号の末永さんのコラム「昭和出版街では、原田宏『夫婦戦線異状なし』という諧謔小説が紹介されている。舞台は昭和5年の東京。主人公は、東大出の高等遊民。研究と称して内外の探偵小説を片端から読み漁っているというから、親近感が沸く。戦前の通叢書という若者向け遊び指南みたいなシリーズに「探偵小説通」というのが入っているくらいだから、戦前でも、こと都会においては、探偵小説がモボの基本教養だった時代があったのだなあ、と改めて思ったり。
・『あすなひろし作品選集1』(編集:あすなひろし追悼公式サイト)。第1弾は、少年漫画(1)。収録は、77〜80に「週刊少年チャンピオン」「月刊少年チャンピオン」に掲載された「いつか見た遠い空」「源平じいさん」「八月のツトム」の3作品。エッセイ・みなもと太郎、解説・米沢嘉博。雑誌サイズで、定評のあるタッチが再現されている。といっても、漫画音痴の自分は、リアルタイムで、この漫画家の作品に触れたことはないはずだ。ある扉絵に、「みずみずしい感性で描く美しい世界に広がる夢とロマン!!」という、やや気恥ずかしくなるような惹句が書かれたりしているが、こまわり君(「八月のツトム」に特別出演してたりする)の一方で、こういった作品が同じ雑誌に掲載されていたのか、とも思う。中学生のツトムや、彼女のヨシベエなどおなじみメンバーを中心に、ドタバタを交えながら進行する学園ドラマは、そのみかけを超えて胸に残る。登場する人物は、みかけはどうあれ、みな優しい。しかし、その優しさは、ある種の諦念に裏打ちされた、嗚咽を堪えているような優しさだ。優しさは、儚い。儚さは、流れる雲に、うつろう季節によく見合う。その世界は、夏休み の日、寝ころんで見上げた空のきらめきのように、儚く、懐かしい。



2月15日(土) 本能寺周辺
・「安土城」に関して、ネット検索の力も借りて、風太郎の本能寺周辺の作品を再読・拾い読みしてみたので、ちょっと書いてみる。読んだ時期も、刊本も様々なので、こうして、ある時期を扱った作品にまとめて触れてみると、なかなか面白い。
 もう少し生かしておきたかった人物の筆頭に信長を挙げているくらいだから、「本能寺の変」は、風太郎にとって、極めて興味のある題材だったことは、想像に難くない。わずか11日間の天下だったとはいえ、成功したクーデターという意味では、日本史上の特異点ともいえるこの事件を、作者は、手を変え品を変え、何度も取り扱っている。
 ごく初期の作品、「妖僧」(昭和24/『長脇差枯野抄』収録)は、合理主義者信長と奇蹟を操る妖僧の対決がメインの掌編。信長に滅ぼされる妖僧は、火焔に包まれ「無辺悪鬼と化して、なんじを無健二国にひき堕し、三界三世にわたってたたるであろうぞ。」と叫び果てる。「聞け、日向(光秀)糞坊が尻を炙られて、血迷いごとをほざきおる」と声をかけられた光秀は、「御意−」とくぐもった声で答える。本能寺の変を待つこと2年前、天正8年真夏、安土城の白日夢の如き話。しかし、おそらく、光秀のくぐもった声には、宿り始めた信長に対する畏怖の念が凝縮している。この作品では、本能寺の変の遠因は、坊主の呪い、か。
 「明智太閤」(昭35/『江戸にいる私』収録)は、本能寺の変の急報が、備前で毛利と戦闘中の秀吉ではなく、毛利側に先に達していたら、というifの世界の設定。後の『魔天忍法帖』に通じるパラレル・ワールド。秀吉軍は、毛利との和睦に失敗、壊走し、明智は太閤の地位を得、淀君(お茶々=信長の妹お市の方の娘)を愛妾とする。秀吉に急報を告げる飛脚が途中で敗れたのは、お茶々が、父・浅井家を滅ぼされたのを怨み、刺客を差し向けたから、とされている。クーデターの理由は、強烈な意志の犠牲となった恥辱や怨恨以上に、信長がわずか、4.50人の軽装で本能寺に泊まることを知ったときの霊感に求められている。この辺は、「安土城」と共通か。
 「忍者明智十兵衛」(昭和37/『かげろう忍法帖』収録)は、浪人時代の明智光秀(十兵衛)を扱った一編。十兵衛は、切られた手足を再生させる奇怪忍法の使い手で、お市の方によく似た娘を手に入れようと企てるが、それを察知した婚約者・土岐弥平次に殺害される。しかし、女に対する妄念は、十兵衛の顔をもつに至った弥平次に乗り移り、後の本能寺の変の原因となる。本能寺の変の原因は、「十兵衛」のお市の方に対する強烈な恋着であり、明智太閤と微妙に響きあう。 
 雄編『妖説太閤記』(昭和40〜41)では、秀吉謀略説を採る。「その日」のために、光秀を織田家に引き入れ、光秀の母を人質にとった羽多野を信長に襲わせるなど伏線を次々に敷いていく軍師・竹中半兵衛の遠大な構想は、読者の心胆寒からしめるものがある。光秀が家康饗応の接待役を首にされたのは、家康の申出によることとなっている。
 さらにぶっ飛んだ説を披露するのが、『忍法剣士伝』(昭和42)。北畠具教の一人娘を剣豪12人を相手に主人公が守り抜く話だが、信長から北畠家殲滅の命を受けるのが、明智光秀。天正4年の話で、本能寺にはまだ間があるが、結末で、作者は、光秀にある魔法をかける。
 「叛の忍法帖」(昭和43/『秀吉妖話帖』収録)は、本能寺の変の前後を背景に4人の忍者による間諜戦を描いた秀作。明智・徳川・秀吉・毛利のそれぞれの間諜の四すくみの状況が、忍法自体の四すくみとして論理的にヴィジュアル化されているところが、なんとも秀逸。表舞台では、家康の接待役を命じられた光秀が信長に更迭される事件など史実に即して進行していく。光秀が家康の饗応役を更迭されたのは、『妖説太閤記』と同様、家康の異議によるものではないかとするが、ここでは、家康はある危険を察知していたのではないかと解釈する。クーデターの動機は、饗応役罷免などという小事ではなく、一部卒として信長に接して以来、光秀の胸に次第に凝結していったものではないかと作者は、推測する。
 「忍法死のうは一定」(昭和45/『忍法関ヶ原』収録)では、光秀の叛乱軍が本能寺に殺到してくるさなか、信長は、果心居士の幻術「女陰往生」により、自らの姪に当たる、16歳の茶々姫の体内に入り込み逃走する。信長に去来する魔風のごとき半生と悪夢のような未来が主題。「安土城」にも出てくる、信長の遠出の際、遊山に出かけた侍女たちの首をはねた事件なども出てくるが、本能寺の変の直接の動機には触れられていない。
 後の年代の話になるが、「忍法ガラシヤの棺」(昭和45/『忍法関ヶ原』)は、光秀の実娘で、細川家に嫁ぎ、敬虔なキリスト教信者になったお珠(細川ガラシヤ)の聖・悪の二面性を描いた作品。お珠は、「明智太閤」「叛の忍法帖」「安土城」にも顔を出しているが、彼女の人生の転機は、やはり本能寺の変にある。処世のために変節を重ね、細川家に逆賊の血を伝えることはならぬと申し渡した夫・細川忠興をさげすみ、夫への復讐を誓う魔性の女に変貌している。
 さらに、昭和53「安土城」や、「本能寺の変」から遡ること30年前、こともあろうに、本能寺において、若き信長と光秀が赤玉ワインを酌み交わすシーンが描かれる『室町お伽草子』(平成2〜3)とくれば、風太郎の生涯にわたる、並々ならぬ「本能寺の変」への執着が窺われる。
 一つの事件を扱っても、色合いの異なる物語を産み出す力量はもちろんのこと、必ずしも作品にとって重要ともいえない「本能寺の変」の真相にも、次々と新手を繰り出してくる風太郎の懐の広さに、改めて恐れ入った次第。



2月14日(金) 「安土城」
・すっかり、遅くなってしまったが、掲示板で、雲斎さんに教えていただいた「安土城」の話を。教えていただいた『探訪日本の城5北陸道』相賀徹夫編(小学館昭和53)は、ネットで検索、札幌の古本屋にも在庫があることが判ったので、取り置きをお願いして、1000円で入手。
 該当本は、「図説と物語」の副題をもつ大判の叢書で、カラー写真や図版等がふんだんに盛り込まれている。山田風太郎「安土城」の他にも、陳舜臣「彦根城」、水上勉「一乗谷城」など、城をタイトルにした作品が全6編、その他、歴史や紀行文が収められている。
 正直な話、掲示板で、雲斎さんに教えていただいた当初は、昭和53年という比較的近年の時期に発表した作品で既存の書誌から漏れているものがあるとは、にわかには信じられず、叢書の企画に併せて既存作品を改題したものか、若干書き替えたものではないかと思った。本の方には、各作品には、特段の注釈めいたものはなく、簡単な執筆者紹介があるばかり。
 一読したところ、過去に読んだことがない作品のようだ。同様の題材を扱った短編などを当たってみたが、それらの作品を流用したものでもないようで、見落としの可能性は否定できないものの、どうやらオリジナル作品らしい。
 物語は、雲斎さんが書かれているように、「明智光秀が本能寺の変にいたるまでの変心を描いたもの」。
 天正10年、明智光秀は、強敵武田を殲滅し、主君信長とともに甲州路から凱旋し、はじめて平安の日々を迎えていた。光秀55歳、信長49歳。かつて諸国を放浪していた牢人の自分が、天下人信長の信任厚く重用されている現状に、光秀は、深く満足している。この度は、安土を訪れる家康の接待役を仰せつけられた。安土の初夏はうららかだった。
 そんな光秀が臣下から奇妙な報告を受ける。かつて信長の臣下として一向宗攻撃の大将をつとめた佐久間右衛門信盛が城下の辻で乞食をしているというのだ。信盛は、与えられた任務で十分な成果を挙げられず、信長の逆鱗に触れ追放された人物。しかし、乞食に成り果てているとは、と耳を疑った光秀は教えられた辻で乞食に出会う。乞食は間違いなく信盛で、流浪の生活を語り、信長の苛烈極まりない断罪を語る。「いつかは、あなたにも思い当たられるようだ」という乞食の言葉に光秀は、胸底に冷たい波の立つのを覚える…。
 さらに、信長に運命を狂わされた侍女や法華宗の坊主のエピソードが続いて、主君の恐ろしい相貌が浮かび上がってきたところへ、家康の饗応のための魚が腐っていたという失態が信長の逆鱗に触れ、光秀は、接待役を解任される。そんな折りも折り、備中の毛利を攻める秀吉から援軍の依頼があり、信長の指令で出動した光秀は、15日後、兵をとってかえし、本能寺へ向かう−。
 光秀の心変わりを誘うエピソードの積み重ね・その内容が、いかにも風太郎らしく、信長の魔王の如き性格を際立たせる。また、風太郎好みの?光秀の娘・お珠(後の細川ガラシャ)やキリスト教の神学校(セミナリオ)をさりげなく絡ませるなどの配慮も、いかにも、この作家らしい。
 他の作家の作品は、城にまつわる解説又はエッセイといった趣のものが並んでいるが、この作品に関しては、虚実とりまぜた、堂々たる短編小説といっていいと思う。既存のリストに入っていなかったのは、エッセイと捉えられていたからなのか、はたまた、歴史関係書ゆえなのか。
 昭和53年というと、『明治断頭台』が書かれた年で、以降の風太郎は、明治物・室町物に傾注していくことになる。その意味でも、「本能寺の変」を描いたこの作品は、貴重と思われる。
 情報を寄せて下さった雲斎さん、うめびーさんに感謝。



2月1日(土) 生ボンバイエ
・告別式に出席してから帰札。金曜の夜が申し込み開始だったMYSCON4は、土曜日申込みでも間に合ったようだ。参加される方は、よろしくお願いします。
・父親の見舞いの帰り、母親とサイ君と飯を喰いにいく。過分にさっ引かれていた組合費が戻ってきて、あぶく銭気分で、多少はり込んでみた和食の店。聴くところによると、今晩この店に、アントニオ・猪木が来るという。アントニオ・猪木。馬場派だった自分は、新日プロレスの観戦経験が一度しかない。根室に住んでいた頃で、あの時は、町中のどこにこれだけの車が存在していたのかというくらい体育館の廻りがごった返していた。高田がまだ前座だった頃の話だ。いつの話だ。
 それはそうと、アントニオ・猪木。そういえば、新日2連戦が札幌であるので、ダーをやりに来たのか。こんな機会を逃してはいかん。だが、予定の時間を過ぎても、現れない。飛行機が遅れているらしい。食事は、とっくに終わったが、一人焼酎をすすり、粘る。他の二人が帰りたがっても、まだ粘る。コンパニオンらしき女性が二人来たので、さらに粘る。
 予定を大幅に過ぎて、来たーっ。身を屈めるようにして入ってくる現人神。取り巻きが多数。地元の後援者の接待らしい。しきりに、「先生」が連発される。コンパニオンをネタにギャグを飛ばす猪木。
 中が落ち着いた頃を見はからって、店を出る。他の2人いなければ、ずっと粘っていたのだが。
 「ファンですっていって握手すれば良かった」という母親。今頃、なにゆうてんねん。
 帰りに乗ったタクシーで「さっき、猪木に会った」といったら、運転手曰く
 「今日、お客さんで2人目だ。さっき乗ったお客さん、千歳空港で気が付いて握手して貰ったって」 
 うーん、「神」は遍在する。 
【折々の密室/1月14日】
・南極でタロ、ジロの生存を発見(1959)
#109 G.K.チェスタトン「犬のお告げ」 『ブラウン神父の不信』
 あずまやの特性を生かした密室トリックが印象深いが、読み返してみると、犬が殺人を予言したという神秘が本編の最大の魅力であることを実感。冒頭のDog-Godが、結末で「一神教」−「汎神論の一大動物園」の関係として倒立するとき、パズル小説は、確かに、世界模型に姿を変える。



1月31日 また、歓喜
・同僚の御尊父の葬儀で、旭川に一泊。
・先日の「空を飛ぶ悪魔」に続いて、またしても、松橋さんから、山田風太郎の知られていなかった少年物を送って頂いた。本当にありがとうこざいます。タイトルは「古墳怪盗團」。5頁。画は「空を飛ぶ悪魔」と同じ、黒須喜代治。 元ネタは、題名から察せられるように、「みささぎ盗賊」。時代は現代に移し替えられている。
 舞台は、紀州の山奥の平城村。京阪神を荒らし回っている大盗賊団「黒十字組」が根城としている屋敷の前に、一人の男が血まみれになって倒れている。男は、息も絶え絶えに「青十字組」の者と名乗る。青十字組は、やはり京阪神で音に聞こえた盗賊団。男が震えながら話だしたのは、神后皇后御陵の盗掘にまつわる不思議な顛末だった…。
 この後は、「みささぎ盗賊」の展開をほぼ踏襲していくのだが、最後の方で忽然と、荊木歓喜とその弟子末弘千吉が登場してくる。
 松橋さんによれぱ、掲載誌は、
「古墳怪盗團」:科学の友 昭和25年2月号 山海堂
「空飛ぶ悪魔」:科学の友 昭和25年3月号 山海堂
とのこと。「科学の友」というのは、中学生向けの少年誌らしい。昭和25年2月号には、風太郎の他にも、海野十三の「推理学校(四時間目)」という汽車の速度と弾丸の速度によるクイズみたいな物が載っている由。
 こうなると、「科学の友」には、さらなる歓喜譚があるような気もするのだが。



1月27日(月)
・ヘレン・マクロイ『歌うダイアモンド』購入。
【折々の密室/1月11日】
・鏡開き
#106 ヘレン・マクロイ 「鏡もて見るごとく」 『歌うダイアモンド』『密室大集合』
 女教師の不当な解雇事件を調査するウィリング博士は、その原因が彼女のドッペルゲンガー出現事件にあることを知る。目撃者の証言が相次ぐさなか、女教師は、至極不可解な状況で死を遂げる。この世のものとも思えない神秘で畳みかける前半部がとにかく圧巻。人為の存在が窺われるようになってからも、物語の緊張感は途切れることなく、巧みな手掛かりの配置による謎解きも決まっている。実際にあったドッペルゲンガー事件「エミリー・サジェ事件」を下敷きにした名作。
【折々の密室/1月12日】
・スキー記念日
 オーストラリアのレルヒ少佐が日本で初めて青年将校にスキーを指導
#107 都筑道夫『最長不倒距離』
 本出次第。
【折々の密室/1月13日】
・成人の日
 『大人の推理あそび』から選ぼうと思ったが、これも本が出てこない。理想の成人ということで、アブナー伯父物。
#108 M・D・ポースト「地の掟」 『アブナー伯父の事件簿』
 守銭奴の金貨が、厳重な戸締まりをされた家から盗まれ、さらに、少しずつ元の場所に戻されるという怪事が発生。守銭奴は、魔女の仕業だと信じるが、アブナー伯父は、それを裏打ちするように、
金貨はドアの鍵穴を出入りするもののところにあり、犯人を斧で攻撃すれば地獄に落ちるたろう、と指摘する。アブナー伯父の言葉は、はったりが効きすぎの感もあるが、冒頭の「地の掟」をめぐる議論が巧みに謎解き(というよりl事件の決着)に巧く生かされており、この知恵者の風格をよく伝えている。


1月24日(金) 『ミステリイは誘う』
・高速バスに2時間以上揺られて、日高管内新冠町に出張。全国から不要のレコードを蒐集している名物施設「レ・コード館」の近くの食堂で、特製ミソラーメンを食す。どこが特製なのかと思っていたら、チャーシューがシングル・レコード大なのであった。まあ、それだけなんですけど。テーブル・クロスの下には、レコード・ジャケットが挟み込まれていて、自分の席は、ビートルズの「イエスタデイ&トゥデイ」だった。
・霞流一の新刊『呪い亀』(原書房)購入。紅門福助物で、26の各章のタイトルは、すべて洋画のタイトル。これも楽しみ。
・春日直樹『ミステリイは誘う』(講談社現代新書/03.1)読む。
 「死体」「探偵」「美女」「手がかり」「推理」の5つのキーワードを基に気鋭の文化人類学者が書いた「ミステリのフィールドワーク」ということだけど、これまでの諸家の議論を超えるものではなく、やや期待はずれ。フーコー、カイヨワ、花田清輝らの名前は出てくるのに、1章・2章の考察の基になっていると思われる笠井潔や、4章の考察の基になっていると思われるベンヤミンの名前は出てこない。「美女」の章は、単なる名作のダイジェストにすぎないし。もっとも面白い「推理」の章も、シービオクの論考にその多くを負っており、「探偵とは呪術師」という結論も、京極夏彦以降、もはや読者の共通了解になってしまっているものではないかと思う。「ミステリイ本をミステリイ小説のように書けないか」という意気込みは多とするも、「お洒落」とも「深い」ともいえない曖昧な性格な本に終わってしまっているように感じた。



1月23日(木) 
・そういえば『妖奇傑作選』「生首殺人事件」のことを書くのを忘れていた。いつの頃からか、ミステリを読んでいる最中、さきのことを考えないような脳内物質が流れるようになって、大概の解決編にはあまり失望もしないのだが、これは随分早い段階で見当がついてしまった。でも、どんどん人が死んでいくというこのパターン、やっぱりいいですね。前に筒井康隆がミステリという形式のフォーミュラ・ノベルとしての優位性というようなことをいっていたが、下手くそであれ、連続密室殺人・跳梁する犯人・迎え撃つは名探偵という黄金律を踏襲できれば、それなりに楽しめるをというのは、ミステリの形式としての強さ、ということか。他では高木彬光「初雪」が異色で面白かった。
【折々の密室/1月10日】
・ココ・シャネル逝去(1971) 
 香水の方で。
#105 双葉十三郎 「匂う密室」 『「X」傑作選』 (光文)
 「密室の魔術師」と同じ待島五郎物。密室で絞殺された金満家の部屋にガスが充満していたのは、なぜなのか。無気力な復員者、ダンサーくずれのフラッパーなどの容疑者に戦後の香りが漂う。急転直下の解決にも、「この頃の雑誌ときたら精々二十五枚から三十枚どまり」なので、という楽屋オチつき。


1月21日(火) 仰天!「空を飛ぶ悪魔」
・どえらい物が送られてきた。送り主は、これまで何度も風太郎関係で貴重な情報をいただいている松橋さん。ブツは、山田風太郎・作「空を飛ぶ悪魔」のコピー。「探偵小説」と角書きがある。こ、これは…。光文社文庫『笑う肉仮面』他で、ほぼ集成され尽くしたと思われていた山風少年物の知られざる一編ではないか。
 悪鬼のような形相をした男ともう一人の男の迫力ある争闘場面が扉絵で1頁。作品自体は3段組4頁。
 冒頭を読んで、さらに眼を剥く。
 「旅をする荊木歓喜先生といつしよに、末広千吉少年が、山陰地方の或る寂しい漁村に入つたのは、冬のはじめのことであつた。」
 なんと、我が敬愛する名探偵ナンバー1・荊木歓喜先生登場譚なのである。歓喜登場作品は、ごくわずかにすぎず、このようなテキストに遭遇できるなどとは夢にも思わなかった。 
 興奮冷めやらず、読み進む。
 朱雀寺という山寺に宿泊した歓喜先生一行は、海藻からつくる「コロナ糊」という新製品を発明した工場主に出会う。その新発明をめぐって、工場関係者らの間で、いざこざが発生しているらしい。翌日、工場主は、工場の近くで、技師の首吊り死体を発見。一見自殺と思われたが、歓喜先生は死体の状況から他殺と断定する。しかし、現場には、技師の足跡しか残っていない。地元の巡査は、思わず
 「あなたは、犯人が天空へ飛び去つたとでもおつしやるのですか?」
 事件は、不可能犯罪の様相を呈するのである。しかも、関係者には、皆アリバイがあるというおまけつき。トリックは、若干似たものが風太郎作品があるが、この短い枚数できっちり伏線まで張って意外性を演出しているのだから偉い。珍しく歓喜先生の医学的知識のレクチュアも拝聴できる。一体、どこに掲載され作品なのだろう。
 松橋さん執念の探索のお裾分けにあずかることができたのは、得難い喜び。もしかしたら、こうした作品が、まだ眠っているのではないかという気にもなるのである。



1月19日(日) 白き大地に白梅軒 
・Kashibaさん、おめでとうございます。今度の叙述トリックは、さすがにノーヒントに近かった。プリンスにしろプリンセスにしろ、溢れる蔵書に囲まれて、ミステリ・古本の帝王学は、ばっちり。早くもネット・アイドルともいえる赤ちゃんかも。
・すっかり、ネタを寝かしてしまってすみません。高橋@梅丘氏。「あすなひろし公式追悼サイト」でついに、「あすなひろし作品選集1〜3」の通信販売および予約開始のお知らせ。ふるって、注文ください、とのこと。私も、買ってみましょう。
・白梅軒店主、川口氏、真白き大地へ来る。17日の日、お会いしました。北大構内で大雪に見舞われて、難渋したらしい。この日は、結構の雪が降ってたもんね。帽子は必需品と聴いて買ってきたのに、誰もかぶっていないじゃないですか、とも。刺身なぞ食べながら、歓談。
 話はあちこちに転がるが、中でも、読書スタイル、本の入手方法、図鑑のコレクションの話等、読書雲上人の話はとても面白い。半端な厚さじゃない「新聞王ハースト」を通勤電車で読んだというのに、のけぞる。その他、謎に包まれた??川口さんの半生やスティル・ライフの一端をゆっくりお聞きできたのも、白梅軒ファンとして、楽しゅうございました。途中、高橋ハルカさんから電話が入り、結局参加できなくなったのは残念。安達さんも、都合で参加できず。川口さんも残念がっておりました。
 残念といえば、直前で話題になっていた、狸小路のテーマ曲〜「ポンポコシャンゼリゼ」を川口さんが、その博物学的関心ゆえか、非常に聴きたがっており、狸小路にも足を運んだが、聴けなかったとのこと。
 「そんな有名な歌なんですか」と川口さんに聴かれ、「札幌市民で知らない人はいませんよ」と私。二軒目に行ったススキノのスナックで、その話題になって、店の若い娘が「え〜、どんな唄?」と聴かれ、がっくり。君、知らんのか。ちょっと歌ってみる「月がポンと出りゃ、星がポコ」
 けげんそうな娘。サビに入れば判るだろうと最後まで歌う私。「狸小路は〜ボンポコシャンゼリゼ〜」
「えー知らない」最後まで歌わせてこれかよ。「ママ知ってる?」
 「知らない」
 もう、ショージ君のようにうなだれてしまった。内地の方と話すと、北海道背負っているような気になるんだよなあ。
 時間が経つの早く、2時すぎまで、お疲れだったと思う川口さんを引き回してしまった。
 1月の札幌は、初来道の川口さんには異国の地だったかも。気候のいい時期また来てください。

・折々は、もはや挽回不能?
【折々の密室/1月9日】
・豪華客船クイーン・エリザベス号、香港で火災起こして沈没(1972) 
 全然、豪華客船ではなく単なる貨物船の話。
#104 高橋泰邦 『黒潮の偽証』 光文
 大時化に出逢った貨物船・寿南丸の中で一等航海士が自殺?真相を究明する暇もなく、乗組員たちは離船を余儀なくされるが、船長は、海の男らしく、独り難破寸前の船に残る。漂流を続ける船の中で船長は、あろうことか若い女を発見して…。迫力に富んだ遭難のシーンからここまで、物語は予想外の展開を見せる。陸上では、海事補佐人の大滝が事故と乗組員の死を解明すべく、調査に着手する。一等航海士の死は、一種の密室状況で起こるが、これにもう一つの「密室」が微妙に絡んで
くる謎解きは、なかなか面白い。願わくは、初老の船長と若い女の二人の漂流譚がもう少し続いてほしかったんだけど。
 


1月12日(日) 「妖奇」に眼が眩んで
・白梅軒店主、来道の報あり。楽しみ。
・時々思い出したように書込みがあり、管理人も捕捉を忘れる当掲示板のいわゆる「こそこそ」スレに、北の大地の朱礼門さんから、「童貞試験」の本当の初出情報等貴重な山風情報あり。全山風書誌探究者必読。
・光文社文庫『甦る推理雑誌4 「妖奇」傑作選』。開けて、眼を疑う。幻の密室長編『十二人の抹殺者』の作者である輪堂寺耀と同一人物と想定される、尾久木弾歩の長編『生首殺人事件』を340頁を使って、完全再録。無論単行本化は初のはず。これは快挙、いや怪挙か。まだ途中までだが、首切り連続殺人の第1、第2とも密室で事件発生。こんな素人くさい小説に喜んではいけないのかもしれないが、喜んでしまう。
 文庫で再現された、この「妖奇」、うさんくささ、爆発。まずもって、カラーで再現される表紙に裸女が乱舞、再録される5名の作家のうち4名が消息不明、巻末の作品リストには聞いたこともない作家がずらり。甦るシリーズでも、雑誌としてのうさんくささ、いかがわしさは、随一だろう。「現地取材」までして、雑誌のうさんくささの消息を語った喜国エッセイは、このシリーズのベスト解説。それにしても、象は忘れない、ミステリファンは忘れない、だな。



1月11日(土) マスコット
・年末、まとめて4冊出た扶桑社文庫・昭和ミステリ秘宝(続刊期待)。鮎川哲也『翳ある墓標』に収録された翻訳短編集を読んでみる。昭和24年、「マスコット」という雑誌に中川通名義で翻訳された短編で単行本に収録されるのは、もちろん初めてとのこと、どれもなじみのない作家で、当時のパルプマガジンから適当にセレクトされたものらしい。大家の若カリし頃の訳文に接することができて、というより、いまどきあまり読めない類の作品だったので、ちょいと面白かった。
「茶色の男」C・G・ホッジス 共同経営者が殺害され、妻が誘拐されたた男の巻き込まれ型ハードボイルド。秘密調査局やスパイも登場。  
「二重殺人事件」R・カールトン 殺害された瓜二つの男に男になりすまして、捜査を続ける私立探偵。
「オーム教奇譚」ミルトン・オザーキ 伯母の死に不審を抱いた姪とその婚約者が、小さな街で隆盛を誇っていた新興宗教の本山に潜入。くだんの宗教と同じ名前をもつこの宗教、教祖も教義もあやしげ、信者の一人は、街の警察署長であることが判明するなど、作品のとんでもなさでは随一。
「夢果てぬ」レオナード・ロスボロー 深夜元愛人からかかってきた電話で、殺人に巻き込まれて。短い枚数で話は二転、三転。かなり辻褄の合わない解決。
 どれもパルプテイストのハードボイルド作品で、その埃っぽさがゆかしい。鮎川自身は、作品選定にはタッチしてなかったんだろうな。米国文化の移植が十分でなく、ハードボイルド文体も確立してなかった頃の訳で、今の眼からみると、なにやらおかしな訳語が出てくる。締鎖にファスナーとルビが振られたり、ビンキーの愛称がピン公だったり、モーテルが車庫付旅館だったり。これもまた一興。



1月10日(金) 恐怖のベッド 
【折々の密室/1月7日】
・多岐川恭生誕(1920)
#102 多岐川恭「みかん山」 『続・13の密室』
 初読のときはさほどとも思わなかったが、再読して評価が挙がった一編。展望台にいた人間が出入りを目撃していないにもかかわらず、みかん山の一軒家で同級生が殺害される。密室トリックにおける一つの型をごく自然な状況で描いて完成度が高い。作品に漂う旧制高校時代に寄せる郷愁も忘れ難い。

【折々の密室/1月8日】
・ウィルキー・コリンズ生誕(1824) 
#103 ウィルキー・コリンズ「恐怖のベッド」 『恐怖のベッド・夢の女』
 密室短編の古典をタイトルにしている岩波文庫侮り難し。歓楽の都パリで遊蕩に耽るイギリス人が普通の娯楽には飽きたらず、ヤクザ者が跋扈する賭場に乗り込んだ一夜、圧倒的な勝ちを収める。老兵に勧められるまま、その夜、賭場の一室に宿泊するが、眠れないうちに、部屋の風景が次第に変わり始めているのに気づいて・・。夜を明かすと死人が出る部屋というアイデアは、評判を呼び、後の同一テーマの作品の源泉になったという。見知らぬ一室で寝入ることができず、室内を観察する視線が恐怖の感情を盛り上げていく構成が圧巻で、部屋の異変に気づく一瞬にはカタストロフィーが押し寄せる。「室内」や「視線」の観点からも、読み込まれてしかるべき古典かも。1852年の作。
(例によって本が出てこず、別訳「恐るべき奇怪な寝台」(HMM'88.12)を参照)


1月7日(火)  名作表の愉しみ
・パラサイト・関更新。
・久しぶりに、キーティング『海外ミステリ名作100選』((早川書房)をぱらぱらめくっていたら、刊行当時(92)未訳の名作の紹介が、ここ10年で随分進んでいることに気づく。頭から順番に、
ドロシイ・L・セイヤーズ『箱の中の書類』(この本もセイヤーズ表記ですな)
エセル・リナ・ホワイト『バルカン超特急』
ナイオ・マーシュ『ランプリイ家の殺人』
ジョン・フランクリン・バーディン『悪魔に喰われろ青尾蠅』
ジム・トンプスン『ポップ1280』
ヘレン・マクロイ『割れたひづめ』
ピーター・ディキンスン『毒の神託』…。現在に生きている幸福を実感するのは、こんなとき。それにしても、キーテイングのセレクションは渋い。三昔ほど前、創元推理コーナーという小雑誌にサンデータイムスのベスト99というのが載っていて未訳の多さに臍を噛む思いをしたけど、今なら大分、邦題が付くのが増えていることだろう。今年も、これまた未訳の名作作M・ギルバート『スモールボ−ン氏逝去』が予定されているようだし、名作表にまつわる楽しみも続く。


1月6日(月) 博覧会の夜
・年末、翻訳成ったエセル・リナ・ホワイト『バルカン超特急』(小学館)を読んでいたら、例の都市伝説が出てきた。いうまでもなく、この小説、同名のヒッチコック映画の原作で、「列車内で知り合った女が突然姿を消し、そのことを主人公の若い女性が騒ぎ立てると、他の乗客は口を揃えてそんな女などいなかった」というプロットをもつ。同種のサスペンス物の古典であり、エイディの「A LOCKED ROOM MURDERS」にも消失物として登録されている一種の不可能犯罪物でもある。
 で、「例の話」というのは、以前、宮澤さんのサイト「探偵小説頁」の「質問箱」で、『古畑任三郎』第三話の原典は? またはパリ万博綺譚について」として話題になったもの。
 パリ万博を訪れた母娘。娘が外出から戻ってみるとホテルから母親が消えている。しかも、誰も彼もが母親など見ていない、あなたひとりだったと彼女に告げる…。「質問箱」には、色々な方から情報提供があり、原典として、マーキー「空室」、ベイジル・トムスンThe Vanishing of Mrs Fraser、「バルカン超特急」などが挙げられ、 都筑道夫、ウールリッチ、ロバート・ブロック、久生十蘭の作品にまで話が派生していって、とても面白い。自分も「続・幻影城」にこの話の紹介があること、「バルカン超特急」の映画と同年にドイツでも、この話が映画化されているらしいことを情報提供したりした。
 『バルカン超特急』の中では、この話は、概略次のように紹介される。(235〜236p)
 主人公アイリスは、自分の置かれた立場を考えているうちに、ある実話を思い出す。「ところがその場所(注:アイリスの頭)に、別の話−雑誌で読んだのだが、どうも実話らしい−が滑りこんできた。」
 「東洋への観光旅行から帰る途中の、母と娘の話」。
・ヨーロッパのあるホテルに到着して、娘は母親の部屋の番号を書き留め自室へ。
・母親の部屋に戻ると母親の姿は跡形もなく消え、部屋そのものも家具調度が変わり壁紙が新しくなっている。
・娘がホテルの従業員らに尋ねると、あなたはホテルに一人で来たといわれる。
・真相は、母親は東洋で疫病にかかり亡くなっていた。その街では博覧会が開催される予定であり、風聞を恐れたため、母親は犠牲にされた。
 「バルカン超特急」の原作自体も、この都市伝説にインスパイアされていることが判ったが、このフォークロア、どこか人を捉えて離さないところがある。
 都市の無名性、アイデンティ不安、正体が明らかでない権力の暴力性…。実に20世紀らしい都市伝説であり、繰り返し借用されるに足る、物語の原質を持っていると思える。
【折々の密室/1月6日】
・色の日
 カラーコーディネーターなど色彩に関する人たちの記念日らしい。
#101 佐野洋「青の断章」 『七色の密室』
 色連作の冒頭の一編。温泉ホテルの密室で怨みをかっていた新聞社の地方部長が殺害される。数年前、同じ部屋に泊まった女優の部屋に猫が入り込むという不可思議な事件があり、捜査陣はその事件との関連を探っていくが。新聞社の内幕を背景に、トリックも無理がないリアルな密室。


1月5日(日) 追悼の修辞学
・山前譲編『本格一筋六十年 思い出の鮎川哲也』(東京創元社)。99人による追悼文を並べた追悼文集が圧巻。一挙に読むとくらくらしてくる。同時代を併走していた作家はもはや少なく、鮎川哲也
賞等の鮎川チルドレン世代の追悼文がその太宗を占める。直系筋の作家、交わりは薄いが決定的な影響があった作家、作品だけで接した評論家等追憶の濃淡は様々だが、各人の文章の端々からその存在の大きさ、予想を上回る影響と広がりを感得できる。こうした追悼文集というのはあんまりなじみがないが、考えようによっては恐い場である。同一テーマによる一種のアンソロジーのようなもので、書かれた事実のみならず、各人の物の見方、文章のスタイル、書き手としての個性が露になってしまう。そんな意味で強く印象に残ったは、阿部陽一、加納朋子、巽昌章、有栖川有栖、麻耶雄嵩、霞流一の諸氏か。巽エッセイは、巨星落下の重力に導かれるように、問わず語りに自らの方法論と探偵小説論のアポリアを語ったもので、出色と思った。河田陸村による手紙の紹介、編集者座談会
もその人柄を彷彿させる企画で、好ましかった。
【折々の密室/1月5日】
・東京・京橋間に馬車、人力車専用の道路が完成(1874)
#100 海渡英祐「俥に乗った幽霊」 『俥に乗った幽霊』
 明治時代を舞台にした探偵記者・有沢敬介物。お茶の水で人力車に乗せた女、牛込町辺りで車夫が振り返ってみると、女の髪の毛はざんばらに乱れて額には白い三角、経帷子を身にまとっている。やがて同時刻お茶の水で女が殺されていたのが発覚。女は本物の幽霊なのか。現代タクシー怪談の原型のような作品だが、解明の説得力は十分。


1月4日(土) 新春風景
・今年もよろしくお願いします。
・風邪ひいて寝こんだりしているうちに、長かったはずり正月休みも終わり。なんということだ。
・3日の夜、岩井大兄、あっちゃんと飲む。本好きのナイスミドル?たちの会話。
 「最近、高血圧の薬飲んでて」「わしも」「本上まなみと結婚した、18歳年上の沢田なんとかって編集者、『わしらは怪しい探検隊』でドレイかなんかの役で出てた人じゃなかった?」「へえ」「札幌出身の将棋ライターが高橋和と結婚して、それも十数歳違い」「それ誰?」「かつての将棋界のアイドル」
「田中さんと並ぶ40代の星だ」「正月番組はボキャブラだけだった」「ボンバイエは紅白裏番組史上第2位だったとか」「なんだそれ」「番組宣伝のCMがやたら多いのは何故」「スポンサーつかないから
からだろ」「なんか面白いの読んだ」「このミスの上位を片っ端から。『バッタ農場』も『わが名はレッド』もダメだった」「俺は『髑髏島の惨劇』」「どう?」「糞だ」「『GOTH』は良かった」「わしも」「「奇遇」は?」「心境小説」「沖本貸本店の横に新しくパソコンショップが出来て」「穴を掘ってたとか」「赤髪組合か」「わはは」「すし善の支店が東京に出来て。ネタ築地直送とか書いてある」「普通の鮨屋と同じか」「この前教えてもらった鰻屋に行ったら、閉まってた」「おかみさんが股関節骨折で入院したらしい」「どうしたら骨折すろんだ」「わはは」「仕事どう」「今年、俺の部署なくなるかも」「…」。
 20年来同じ話をしているような。微妙に違うような。

【折々の密室/1月1日】
・元旦
#096 輪堂寺耀『十二人の抹殺者』  
 隣りあって住む2軒の家の12人全員に、不吉な賀状が送られてくるところから物語は幕をあける。「謹賀死年」「死にましてお芽出とうございます」「謹みて死年のお祝辞を申し上げます」などと書かれた、悪戯にしては度を越した内容に怯える両家の家族に、殺人者の魔の手は襲いかかる。9つの殺人に、5つの不可能犯罪を扱った幻の密室長編。内容的には、やはり野に置け幻作品だが、作者がこの小説に託した夢の片鱗にいささか心揺すぶられる。

【折々の密室/1月2日】
・初夢
#097 泡坂妻夫「夢の密室」 『夢の密室』
 自在の境地に達した作者の秀作。トリップ作用のあるカヴァを試してみたOLが遭遇した密室殺人。夢と現実が地続きになり、謎の解決が現実の扉を開いていく構成が素晴らしい。トリック今一つでも傑作はできるという見本のような作品。

【折々の密室/1月3日】
・カルタ大会
#098 山村美紗『百人一首殺人事件』
 初詣に賑わう大晦日の八坂神社で幕を開ける百人一首連続殺人。2番目の事件が、どのように現場に入ったか・現場を出たのかの二つの謎をもつ密室殺人。和歌に生体実験、アリバイに密室と盛り沢山なキャサリン物第二作。

【折々の密室/1月4日】
・山田風太郎生誕(1922) 
#099 山田風太郎「蝋人」
 密室内で友人の不思議な死体が発見されるという発端をもつ、ミステリであり、恋愛小説であり、怪奇譚であり、エロチックな小説であり、切支丹物であり、デッドエンド・サスペンスであり、かつそのどれでもない神業的一品。焼跡版グロテスクとアラベスクの物語に切支丹という背景が与えられ、異形なものに心奪われた男の歓喜と苦悩が、エゴイズムの振幅があまりにも豊かな物語を紡ぎだす。