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ベルティーニ&東京都交響楽団
京都公演

日時
2003年11月8日(土)午後5:00開演
場所
京都コンサートホール/大ホール
演奏
東京都交響楽団
独奏
河野克典(Br)
指揮
ガリー・ベルティーニ
曲目
マーラー
1.さすらう若人の歌
2.交響曲第1番 ニ長調「巨人」
座席
1階3列8番

京都の秋

 今日のコンサートは「京都の秋 音楽祭」の一環として行われたものですが、今日は秋らしくないポカポカ天気の良い日和の中で行われました。
 思えば、マゼール&イスラエルフィルの公演をこの人と間違えて買って以来、丸5年越しの念願が叶ったとあって、喜び勇んで地下鉄北山駅に降り立ったのでした。

 ベルティーニさんと東京都交響楽団によるマーラーチクルスですが、2000年から04年にかけて行われる予定で、今まで1,2,5,3,6,4,7番が終了し、後は10&大地の歌,9,8番が残されています。
 これに合わせてfontecからCDが発売されていますが、録音が始められたのが6番からだったため、1,2,3,5番は陽の目を見ないはずでした。
 発売された6番4番の出来を見ると(7番は未聴)4曲も欠けていることが無念としか言いようがありませんでした。

 そこで会場に入るとステージ上には無数のマイクが吊され、並べられ、今日の演奏会が録音されることが知りました。10日の東京国際フォーラム・ホールCでも同プロが行われるので、出来の良いテイクがCDにされるのでしょう。こういった形でもいいので、残りの3曲も拾い上げて欲しいと切に思いました。
 一方、客の入りは1階土間席は満員でしたが、2階のバルコニー席と舞台奥の席はガラガラというアンバランスな埋まり具合でした。しかし客の熱気は非常に高いもので、今日の演奏会にかける客席の意気込みが伝わって来ました。
 ただ今回座った席が第1バイオリンの真ん前ということもあって、この楽器の音が全面に押し出されるカッコとなったのが少しだけ残念でした。

さすらう若人の歌

 さて時間が来るとホールで練習していた楽員も一旦引き上げ、改めて全員揃っての入場となりました。コンマスが一礼してから音合わせが行われると、マエストロの入場が固唾を呑んで待たれました。
 やがて下手の扉が大きく開かれるとベルティーニさんと河野さんが現れ、大きな拍手が湧き起こります。そしてベルティーニさんが客席に背を向けましたが、精神集中をしてるのかピクリとしません。その瞬間、耳鳴りがするほど会場には完全な静寂が訪れました。タクトを取ってもなかなか振り下ろしませんでした。

 タクトが降ろされ第1曲目が始められるとその響きの良さに心を奪われました。表面上はソリッドで硬質ですが、幅の広い充実した響きの奥底には熱い血が通っている暖かい響き。フルネ御大による東京での演奏会ですら感じた弦と管の分離具合も払拭されていて、音色の深みは日本のオケではないようでした。音楽監督のなせる技でしょうか。
 ベルティーニさんの指揮ぶりはモーションこそ大きくはないですが、かなり細かくキビキビと動き、特に第1Vnには要所で厳しい指示を出していました。
 一方、独唱を務めた河野さんは揺るぎないテクニックで安心して聴くことが出来ました。またコントロールの良く効いた声で細かい変化を的確に付けていましたが、その歌い方は歌詞の表現している情景が浮かんでくるようなロマンティックな表情付けではなく、純音楽的なものでした。しかしこれはアプローチの違いで、好きずきでしょう。

 何より全編にわたって繰り広げられる緊張感に満ちたバックが非常に素晴らしく、息をすることが出来ないほどでした。
 やがて静かに音楽が終わるとタップリとした静寂の後、大きな拍手が湧き起こったのでした。

交響曲第1番

 休憩後にはぐっと弦の数が増えての1番となりました。
 登場したベルティーニさんは再び長い間を取って、その最初の一拍を振り出しました。
 演奏はリピートをすべて実行したもので、交響詩的な情景描写(心情描写)は行わず、あくまで純音楽的なアプローチを行いました。(またベルアップ等の指示にもしっかりと従ったものでした)
 やや荒っぽい所はありましたが、音楽の結晶の度合いが非常に高い素晴らしいものでした。

 まず第1楽章ではリズム感の良さに感心しました。リズム感と言っても踊るような躍動感ではなく、ボート競技でオールを漕ぐリズムに似た滑るようなスピード感あるリズムです。日本のオケもこんなリズム感が出せるのかと感心しました。
 第2楽章からはオケの鳴り方もフルパワーとなり、響きの充実度がさらにアップし、続く第3楽章はあまり引きずらず、締まった表現をしていたため、冗長に感じさせることもなくスッキリとしたものでした。
 終楽章も形式をしっかりと捉えた無駄のないもので、中間にある疑似クライマックスも充分な迫力がありました。(コーダで真に爆発させるため、ここを抑えて演奏する人が多いですが、それではわざわざマーラーがここで疑似的な頂点を書いた意味がなくなると思います。しかしそうするとコーダでは120%の力でやらなくてはならないため、それだけの力をオケが持っている、またはオケから引き出す能力を持っている必要があります)
 この疑似クライマックスのあと、室内楽的な音楽になるためかやや覇気が落ちましたが、これもコーダが近付くにつれてジリジリとテンションが上昇していき、その頂点での爆発力はこちらを圧倒するほどの迫力でした。
 これぞ本物のマーラーからだけ得られるカタルシスで、ホルン全員が起立しコラールが斉奏されると頭の中が真っ白になり、完全に音楽の中に没頭してしまいました。

 いたずらにアッチェレランドを掛けずに、隠し味程度に使われるテンポアップもみごとツボにはまったもので、最後の音がキリと締めくくられると同時ではなくほんの一瞬だけ遅れてブワッと拍手と歓声が湧き起こりました。(静寂が訪れるか!? と思いましたが……)
 いつまでも続くかと思った拍手に何度も何度も呼び出されるベルティーニさんで、オケのメンバーをひとパートごと順に立たせていきます。その間も拍手の勢いはまったく衰えません。
 やがて前後左右の客席に大きく手を振ると、ベルティーニさんがステージを後にし、コンマスが客席に向かって大きく頭を下げるとオケも解散して、演奏会の幕も降ろされました。

おわりに

 ちなみに今までに実演で聴いたマラ1は
マゼール&イスラエルフィル 98年大阪
ブロムシュテット&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス 99年京都
コバケン&関西フィル 01年定期
コバケン&大阪フィル 01年大阪
ヤルヴィー&エーテボリ響 02年大阪
 とありますが、今日のは間違いなくこれらをはるかに凌ぐ最高のマーラーでした。これだけ大きな感銘を受けたことはありません。(これに匹敵するのはコバケン&ハンガリー国立響の「復活」ぐらいです) CD化が非常に楽しみです。
 今度東京まで追っかけようかな?

 総じて、本物のマーラーを聴けた喜びでいっぱいの演奏会でした。

 さて次回は金聖響&大阪センチュリーの「ブラームス」です。このシリーズも最終回となりましたが、4番・1番というなかなかきついプログラムに注目しています。


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