過去の雑記 02年 9月

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9月21日
翻訳SFファン度調査のCGI改造と、リスト作りを延々と。他の作業は合間に神林の『ラーゼフォン』を読むくらい。

神林長平『ラーゼフォン 時間調律師』(徳間デュアル文庫)読了。出だしからあからさまに神林。全体としてはやや苦しいが、無茶な設定をそれなりにまとめた点は賞賛すべきだろう。作風に合った設定重要。あるいは能力に見合った設定重要。
「(略)劇を終わらせられないのは作者に力量がない証拠なのだ、と思う。セトは駄目な作者だ。出演するわれわれとしてはかなわない。やってられないぜ」
「ラーゼフォンにデウス・エクス・マキナ、やってもらおうじゃないか。やれるか?」
というくだりには大笑いしてしまった。嫌味か?

夕方からユタ。参加者は大森望、柏崎玲央奈、小浜徹也、堺三保、雑破業、鈴木力、添野知生、高橋良平、林、福井健太、三村美衣、宮崎恵彦、柳下毅一郎(五十音順、敬称略)。主な話題はWEB本の談話室・書籍版、『合衆国復活』の考察の甘さ、ファンジン北方領土問題、おたく的中年の危機、知らない本に関する質問に答える快感、本格ミステリクロニクル、最低ミステリ作家・キーラーがいかに面白いか(実例を交えて)、『地球礁』、2002年度ベスト、『航路』早読みランキングの現状、スティーヴンスンが楽しめる人と楽しめない人、義憤に燃える人、SF出版の現状を憂える人、山をなす野球資料、4コマの引用は3コマまでか、王蛇サイン会@馬場芳林堂のおっかけ集団、で偶然会ってしまったいつもの人、など。アンケートの基礎資料に使おうと思っていた過去の星雲賞候補作リストは、そう簡単には手に入らないようなので諦めました。

……あ!WEB本の談話室で大森室長に質問すればよかったのか!

9月22日
翻訳SFファン度調査とりあえず版、完成。みなさん、試してください。

当初はベストリストに仕上げるつもりだったのだが、元ネタがベストリストではないと知ったので駄目なものもまぜるよう方針変更。結局、250作品になった。

この土日はCGIを改修しているか、リストを作っているか、本を読んでいるか、CATVを見ているかで潰れてしまった。先ほど鏡を見たら、あまりにも惨憺たるありさまになっていて愕然と。左眼が真っ赤だよ、おい。

大幅改訂の引きにつられて、文庫版『SF大将』を買ったのだが。これって「大星雲ショー」と、「SF小僧」が逆開きになったからフキダシ周辺を直しただけなんじゃないのか?全体を無限後退の入れ子構造に押し込めたハードカバー版の祖父江装丁に比べると、文庫版のそれはあっけない。もちろん、文庫で多重入れ子なんてできるわけがないとわかってはいるが。

9月23日
昼過ぎに起きて日常のメンテ作業をしていたら1日が終わってしまった。映画にでも行こうと思っていたのに。こうして日々が何の出会いもなく過ぎていくのだな。とほほ。

それはそれとして『90年代SF傑作選』考課表の現在状況。前回に加え、高橋誠さん、大久保均さんの票を集計。
  1. イーガン「ルミナス」 2.357
  2. ウィリアムズ「バーナス鉱山全景図」 2.000
  3. リード「棺」 1.857
  4. チャン「理解」 1.500
  5. ガードナー「人間の血液に蠢く蛇」 1.500
  6. マクドナルド「フローティング・ドックズ」 1.286
  7. マクラウド「わが家のサッカーボール」 1.214
  8. ビッスン「マックたち」 1.000
  9. レナルズ「エウロパのスパイ」 0.714
  10. バクスター「コロンビヤード」 0.615
平均点のベスト10でこんな感じ(-3〜+3、参加人数14人)。前回からあんまり変わってません。

翻訳SFファン度調査は盛況のようで何より。参加者数で本格ミステリ調査の1割を狙えるようがんばりたい。運用開始早々(今日13:51頃)バグ対応時のミスでデータをリセットしたりしてちゃ駄目だろうとは思うが。

ちなみに参加者137人の時点では、140作弱がベスト10、100作がベスト20クラス。70作あたりから分布が均質化して、平均点のあたりが上位4割という感じ。気になる人が多いようなら「今何冊だと何位かCGI」も作らなくもないです。

作品毎に見たときに笑ってしまうのが『たった一つの』の強さ。参加人数が少ないとはいえ82.5%(137人時点)って何。

ポリシーを明記しておいたのが良かったか「なぜこの作品が」的反応は少ないようで。ジャンル的に「なぜここに」というのは「準拠リストに入っていたから」で、作品的に「なぜここに」というのは「SFMの年度回顧で取り上げられていたから」という理由がほとんど。「15年間の成果をリストアップ」ではなく「良くも悪くも15年間の反映」が目標なのだ(註:あくまで目標)。

しかし洒落で入れたとはいえ、『新T2』は誰も読んでいないな。あんなに面白いのに。

9月24日
「国内SFファン度調査」ではなく「翻訳SFファン度調査」にしたのは理由があって。「本格ミステリファン度調査」に触発されたものだから、名前も合わせようと。「ほんかく」と「ほんやく」。……すみません、2度といいません。この二日、人と会話してなかったから寂しかったんです。許してください。

「国内SF」でリストを作る人はいないもんだろうか。たかはしさんの説どおり、「ドラゴンマガジン」登場か角川青帯(スニーカーの前身)あたり、87年〜88年のどこかから今まで300作品。リストさえあれば、CGI設置については相談に乗る用意があるんだが。

翻訳SFファン度調査のリストについて大森望さんから突っ込みが(9月23日付)。確かにシリーズ物の扱いは半端でした。元ネタに『女囮捜査官』というのがあったんで、シリーズ枠もありかと安易に考えたのが問題ですね。

シリーズ記号付きなのは、<ダーコーヴァ>、<チョンクオ>、<ワイルド・カード>、<黒き流れ>、<エンジェルズ・ラック>、<シーフォート>、<オナー・ハリントン>、<スコーリア>、<20世紀SF>の9つ。適正化するなら、<20世紀SF>は6分冊の本扱いで『20世紀SF』とする。<チョンクオ>、<ワイルド・カード>、<シーフォート>、<オナー・ハリントン>、<スコーリア>はそれぞれの1巻のタイトルに変更。<ダーコーヴァ>は時期が違うとして削除。<黒き流れ>は『川の書』『星の書』に分割(参照リストには『川』『星』はあるけど『存在』はないんだな、これが)。と、こんなところか。あ、<エンジェルズ・ラック>は、あー、『冬長のまつり』あたりに入れ替えとか。
#もちろん今さらそんなことしない。

ティプトリー、『エンダー』、シモンズ、C・スミスの無敵っぷりは相変わらずだが、一時は全冊ベスト10入りの快挙を見せたイーガンがここに来て失速。代わりにギブスンがあがってきた。それはまあ納得だが『ソフトウェア』の9位(475人時点)は意外。ラッカーって思ったより人気あるんだなあ。

読者数1を保ち続けるかと思った『新T2』にもついに票が。物好きってのはいるもんだ。

言わずもがなですが。この結果で順位が低かったとしても悲観する必要は何もないかと。それで反省しなきゃならないのは翻訳SFのレビュアーをやってる人間くらいでしょう。……はい。思いっきり反省してます。100とは言わないが、明らかに50タイトルは足りてないよなあ。

おまけ。487人現在のベスト10。1位 244(堺三保さん)、2位 236(大森望さん)、3位 218、4位 210、6位 203(かつきよしひろさん)、7位 201、8位 193、9位 190、10位 177。

あ、今朝時点では165(いまだと13位タイ)という人はいなかったんで、できれば再投票してください。> のださん

9月25日
668人現在のベスト10。1位 244(堺三保さん)、2位 236(大森望さん)、3位 224、4位 221、5位 218(柏崎玲央奈さん)、6位タイ 210、8位 203(かつきよしひろさん)、9位 201、10位タイ 193(高橋ま さん)。

荒川弘『鋼の錬金術師』3巻(エニックス・ガンガンコミックス)。ここまでで切られると66がアルフォンスに問いかけるシーケンスが浮いてるなあ。66の発言意図がまったく掴めない。他は文句なく。アラレちゃん眼鏡のシェスカさんはもちろんのこととして、「生意気なおさななじみ」ウィンリィがかわいかったんで満足です。

ああ。てなこと書いている間もくしゃみが止まらない。風邪がひどくならないうちにもう寝よう。

あ、お奨めアニメ判定SF系結果リストも更新中です。

9月26日
本間祐・編『超短編アンソロジー』(ちくま文庫)を読む。古今東西の「文章」の中から「短く、物語を予感させ、閉じてないもの」を集めたアンソロジー。超短編とは何かというあたりがいまひとつ(読者の側にとって)明らかでないので、「それとこれが同じものというのは無理がないか」という疑問はある。抽出された文章自体は総じて高レベルで、こうしたものが超短編というレーベルの下まとまって発表されるなら読んでみたいと思わせる。中では桂枝雀の落語からの抜粋「定期券」が良かった。良かったけど、これは単に短いショートショートのような気もするなあ。

SFM10月号読了。

恩田 陸「遺跡の少女」
長篇のプロローグ。物語の予感以外が存在せず、その予感も焦点を結ばない。
飛 浩隆「夏の硝子体(グラス・アイ)」
『グラン・ヴァカンス』外伝。70年代の翻訳小説のようだ。テイルがかわいい。
草上 仁「狩猟と農耕」
典型的な「落ちのある短編」。どこが論点になるかも、どう見せてどう落とすかもわかりきった中で意外性を感じさせる技術はさすが。が。
ストロス「<トースト>レポート」
未来のハッカー大会を描く技術カタログ小説。ふーん。
バースタイン「最後の祈りの日」
最後のホロコースト体験者。作品の出来不出来はともかく、描かれた思想に強い反発を抱いてしまったので、感情的に低評価。自分の負債を身勝手に押し付けるじじいもじじいだし、それを受け入れるガキもガキだ。
山田正紀・藤原ヨウコウ「影目」
「描きようがないこと」をぶつけた作家に、全力で答えた藤原ヨウコウの気概が見所。
谷 甲州「パンドラ」(第21回)
だから態度保留だってば。
ひかわ玲子「エデンに還れ」(第8回)
次回の落とし方次第としか言いようがない。
「故郷まで10000光年」の育成ネタはちょいとツボ。ただ、「びんぶたジャム」は使いまわし度が高くないか?

9月27日
所用で久しぶりに中野に寄る。ブロードウェイビルの呉服屋が潰れていたり、その分おたくショップがまた増えていたり、例によって色々とあれだった。そんな中、目を惹いたのがとあるスペース。4畳半ほどの空間にただただガシャポンの機械だけを詰め込んでいる。その数、40?いや、60か?あー、ガシャポン屋とでも言うべき店なのだろうな。ここまで潔い空間利用もありなのかと感じ入ったことである。

飛浩隆『グラン・ヴァカンス 廃園の天使1』(ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)を読む。ゲラですが。

あまりに漏れ聞こえる評判が良かったので、眉に唾をつけていたのだが、読んでみたら本当にすばらしかった。

永遠に夏の一日が繰り返される仮想世界、<夏の区界>。仮想空間の海辺に設けられたリゾートに人間の客が訪れないようになってから、1000と50年が繰り返された。<区界>の“住人”であるAI達は訪れる客の無いまま無限に続く夏休みを続ける。続けるはずだった。<蜘蛛>があらわれるまでは。

硝子の中に封じ込められたような明るい夏の情景が、透明なままに破壊されていく。その冷たい残酷さこそが最大の魅力。肉体を、精神を、存在そのものを、徹底的に破壊しながら、その破壊そのものを美しく見せる。肉を切り刻みながらスプラッタの神経質な笑いを許さず、魂を苛みながらサイコ・ホラーの非現実感を許さず。登場人物の中に溺れることも、痛みを客観的に眺めることも許さない絶妙の距離感。

傑作。以上。

972人現在のベスト10。1位 244(堺三保さん)、2位 238(三村美衣さん)、3位 236(大森望さん)、4位タイ 224、6位 221、7位 218(柏崎玲央奈さん)、8位タイ 210(山本和人さん)、10位 203(かつきよしひろさん)。なんか知り合いばかりのような。

9月28日
『グラン・ヴァカンス』、絶賛ばかりも気持ち悪いと思っていたらちゃんと否定的感想(たかはしさん、藤井さん、スズキさんの一部)も出てきて何より。

否定的感想に共通するのは作中のAIに対する違和感だ。これは、しごくまっとうな批判である。狭義のSFであることに拘れば、作中のAI設定・描写(なぜAIなのかというレベルからも含めて)に疑問を持つのは当然と思う。そこで乗り損ねると全体が辛くなるだろうな、とは思った。僕がそこを乗り切れたのは冒頭からAIの内省が描かれていたおかげだ。この時点で、期待するリアリティレベルを大きく魔法の側に傾けたので、AIどうこうはまったく気にならなかった。

この小説は、精緻に描かれた水彩画を燃やし尽くすものだ。重要なのは、描かれる水彩画が美しいこと、それが完膚なきまでに燃やし尽くされること、そしてその燃え方が美しいこと。その三点は確かにクリアされている。ならば、それで十分ではないか。

以上が、僕はこう読んだという話。それがSFなのかと問われれば、「意匠がSFなんだから、SFだ」と答えよう。ふだんと意見が違うって?ダブル・スタンダードは世の常だ。

いや、絵が美しくないと言われたら……、そうですかとしか言いようが無いなあ。

夕方から品川のIMAXシアターで国際宇宙ステーションの上映を見る。良くできてる。素朴で力強い感動を得られること請け合いなので、一度見にいくことを強く強くお奨め。そして、宇宙開発への財布の紐を思いっきり緩めていただきたい。

その後は人を呼び出しつつ、飲む。話題は未読の人を置き去りにしつつもっぱら『グラン・ヴァカンス』。ジョニイさんは本当に駄目(絵が美しく感じられないというレベルで駄目)だったようで、圧倒的多数の肯定派から何が駄目だったのかとひたすら問い詰められていた。僕は意匠のレベルでの古さにはいまいち鈍いんで、問題点を把握し損ねているかもと思ったり。

飲み会後、無謀な人と上野でカラオケ。しりとりカラオケは他人が歌っている間も色々と考えなきゃいけないので忙しいことですね。

9月29日
R・A・ラファティ『地球礁』(河出書房新社)読了。感想はまた後日。楽しんだんだけど、どこを楽しんだのか説明するのがえらく難しい。さて、どうしたもんだか。

さて、『地球礁』の入荷状況はどうだろうと近所の新星堂へ偵察に行く。驚いたことに平積み。それも7冊。柱の影に一冊隠れていただけの『グラン・ヴァカンス』より圧倒的に多いんでやんの。恐るべし、河出。

竹本泉『よみきり▽もの』3巻(ビームコミックス)。「ブックスパラダイス」だよ「ブックスパラダイス」。聖林檎楽園学園シリーズで、しかも図書館ネタが読めるなんてと感動していたら一瞬で雑誌毎なくなってしまった悲劇のシリーズが読めるなんて。ああ、ああ。とりあえず、どこかで続きを連載希望。

藤崎竜『サクラテツ対話篇』下巻(ジャンプコミックス)。技法に対する追求やメタネタには見るべきところもあるが、全体として面白くないというちょっとした欠点があるのが問題。コミックスで読むと絵がうるさすぎるのも難。実験が次に生きることを期待するか。

あ!しまった、009見逃した。大切な「地下帝国ヨミ」篇最終回だというのに。くー。CSのアニメ局が追いつくのを待つしかないか。むう。

ああああああああああ!しまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!ファンタのオープニングチケット取り損ねたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!

9月30日
結果だの結果だのリストだのリストだのを色々と更新。意味があるのかと思うと沈黙せざるを得ないのがあれだ。

1170人現在のベスト10。1位 244(堺三保さん)、2位 238(三村美衣さん)、3位 236(大森望さん)、4位タイ 224、6位 221、7位 218(柏崎玲央奈さん)、8位 217(志村弘之さん)、9位タイ 210(山本和人さん)。知り合い率は変わらないがユタ率はアップ。というか名前がわかっているのはユタ例会の人だけだし。

『グラン・ヴァカンス』について再度考える。「読み始めた時点でAIは魔法と割り切ったから粗は見えなかった」というのは嘘ではないが正しくもない。作品の多くの部分が「魔法で動く人形」の話でも成立するのは確かだが、一部にAIであることに寄りかかった設定があるのもまた確かである。そこも含めて楽しんだということはAIと魔法を恣意的に使い分けつつ読んでいたという事なのだろう。これがありなら、他の作品を読むときにも同じ態度を取らなければフェアとは言えなくなる。しかし、たぶん気になるものを読んでしまうと気になるだろう。では、なぜそれは気になるのか。あるいは『グラン・ヴァカンス』では気にならなかったのか。僕の中での結論はまだ出ていない。

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