【山口's HP TOPへ戻る】

「眠りの森の美女」(全幕)日本バレエ協会神奈川ブロック (2001.12.23)
<気品溢れる岩田唯起子のオーロラ姫>

とても素敵な「眠りの森の美女」を観ました。日本バレエ協会神奈川ブロックの自主公演です。 私は初めこの公演をあまり期待してはいませんでした。神奈川県在住のバレエダンサーが集まって毎年開かれる公演で、昨年は、「くるみ割り人形」でしたが、どちらかというと発表会の延長のような感じで技術的に今一だった記憶があったからです。
ところがプロローグが始まって直に、これは大きな間違いだったと気づきました。この公演は特定のバレエ団によるものではなく、神奈川県のいろいろなバレエ研究所から集まったダンサー達が協力して演じたものです。このためダンサーの技量も違うし、練習時間も限られます。それなのに、技術的にもまとまりの上でも大バレエ団のものに引けをとらない素晴らしいものでした。これにはダンサーもスタッフも大変な苦労があったと思います。
それに、この「眠り・・・」プロローグ+3幕の完全全曲版なのです。「眠り・・・」は長大なため、完全全曲の上演は少ないのです。東京バレエ団などは、第二幕の大部分をカットした演出です。ノーカットの完全全曲版を堪能させてもらえたのは本当に嬉しいことです。
 
それに、松山バレエ団の「眠り・・・」などは豪華絢爛で鼻につくところがあるのですが、これは必要十分な舞台の装飾という感じで、とても親しみが沸きました。
また、出演者がとても充実していました。オーロラ姫:岩田唯起子、王子:李波、リラの精:三井亜矢、フロリナ:吉川真由子、青い鳥:法村圭緒と、現在最も嘱望されている若いダンサー達が中心となって、これに神奈川ブロックのダンサー達が力をあわせて、精一杯良い舞台にしようという気持ちが伝わってきました。

主役の岩田唯起子は、岩田バレエ団のプリマ。かつて、「バレエ誕生」というテレビ番組で白鳥の湖のオデットを見たことがありますが、生で観るのは初めてです。今回は、オーロラ姫に挑戦。バレエを志す女性が一度は踊りたいと憧れる一方、バレリーナの資質が問われる難役です。 岩田唯起子はほっそりとしたシルエットがとても美しい舞姫。痩せすぎ??と思うくらいスリムなせいか、少し弱々しく感じたところもありましたが、かといってギスギスした感じではなく、とてもしなやかで、気品に溢れ、オーロラ姫のイメージにぴったりでした。
 
ローズアダージョという至難な踊りを後にひかえるオーロラの出は、キャリアを積んだバレリーナでも不安を感じて緊張するところと言われていますが、岩田唯起子も舞台に現れた瞬間はかなり緊張していたようでした。 「失敗しないよう、正確に、落ち着いて」と自分に言い聞かせるように、幾分不安げな表情も見せ、思わず「頑張って!」と声をかけたくくらい、表情が強張っていました。 ひとしきり踊って、ローズアダージョ。最初は4人の王子によってサポートされるバットマン・デヴェロッペのポーズ。 左脚のポアントで立って、ク・ドゥ・ピエからルティレにあげた脚を伸ばす動きですが、次に控えるアチチュードのバランスに備えてか、脚をあまり挙げずに適当に済ます人もいますが、岩田唯起子は、丁寧に、脚をしっかりと高く挙げ、しかも上品でうっとりでした。そしていよいよ王子に手を離してバランスをとるアチチュード。サポートの王子の手を慎重に離して、しっかりアンオーまで手を挙げてとても美しいポーズでした。 ローズアダージョが進むにつれて、調子も出てきたようで、最後のアラベスクのバランスもバッチリ決めてにっこり、とても素敵でした。ローズアダージョは、クラシックバレエで最も至難な踊りと言われるもの。見事に踊りきったのはさすがです。 ただ、バランスでは、アンオーから手を下ろして次の王子の手を握るところで、バランスへの不安からか、思わずギュッと握りしめる感じなのが気になりました。ここでもう一呼吸置いて、ゆっくりと余裕をもって握れるようになったら、なお一層優雅で素敵だろうにと思うのは贅沢でしょうか。 ローズアダージョを踊り終わってのレヴェランス。さすがに、ほっとしたのでしょう、とても美しい笑顔でした。  難関のローズアダージョを無事通過して気をよくしたのか、この後のヴァリエーションでは終始柔和な表情で軽やかな美しい踊りでした。カラボスの毒矢に倒れる場面も、息をはずませての熱演でした。
第二幕の幻想の場、そして第三幕グラン・パドドゥとも、エンジン全開という感じで見事でした。ローズアダージョにせよ、幻想のシーンにせよ、パドドゥにせよ、唯起子さん、腕の動きがとてもしなやかで魅力的でした。また、体もとても柔らかなようで、アラベスクでは180度近くまでも脚を上げて静止しました。ここまで上げると(シルヴィ・ギエムのように)下品に感じる人もいるのですが、岩田唯起子はとても上品で、気持がよいのです。内から自然ににじみ出る気品なのでしょう。
グラン・パドドゥでは、難しいフィッシュダイブをすべて美しく決め、観客の大きな拍手を誘いました。拍手だけでなく幾度も「ブラボー」の声が飛びんでいました。観客をこんなに熱狂させるくらい、岩田唯起子さんの踊りは素晴らしかったのです。鳴りやまぬ拍手に何度も何度もお辞儀をして応える唯起子さん、感激して紅潮した表情が素敵でした。
それにしても、クラシックチュチュ姿の岩田唯起子は本当に可愛らしい。日本人でクラシック・チュチュがこんなによく似合う人も珍しい。 そしてトゥで立った姿の美しいこと。それに岩田唯起子の気品は出色です。大切に大切に育てられた天真爛漫なオーロラ姫そのものというイメージなのです。持って生まれた資質に加え、弛まぬ精進の結果だと思います。心から拍手を送りたいと思います。

王子は、李波(Lee Pou)の客演。彼は、王子役として定評があります。丁寧にしっかりと、岩田唯起子をサポートしていました。 リラの精は、三井亜矢さん。リラの精にふさわしい、優しい姿が印象に残りました。 青い鳥のパドドゥは、フロリナ王女:吉川真由子、青い鳥:法村佳緒のペア。吉川真由子は、ふっくらとして上品で優しさに溢れていて、笑顔の美しい素敵な踊りでした。ただ、青い鳥の法村圭緒が、あまりに細く病的に見えたのが気になりました。
この公演、ダンサー一人一人が、一生懸命に演じている気持ちが伝わってきて、見終わったとき、とても爽やかな気持ちになれました。 大バレエ団による公演のような、豪華さはありませんが、とてもよくまとまっていて非常に好感を持てました。小さな公演には時としてキラッとした輝きを見いだすものです。この公演は、生のオーケストラではなく録音テープによる演奏でしたが、テープの音が良くなく耳障りでした。ステージが素敵だっただけに残念です。もっとも最近の生のバレエの演奏は、オーケストラが音を外すようなひどいものが多いだけに、テープですから逆に安心して聞けたともいえるかもしれません。 ともあれ、4時間弱の長時間でしたが、2001年のバレエの見納めにふさわしい、素敵なステージでした。 ダンサーの皆さん、スタッフの方々、素敵な「夢」をありがとう、ご苦労様。

(社団法人)日本バレエ協会神奈川ブロック第19回自主公演
20周年記年公演「眠れる森の美女」(全幕)
  曲:P・チャイコフスキー、演出・振付:橋浦 勇     
  バレエミストレス:新井雅子・菅生みどり
  オーロラ姫:岩田唯起子、王子:李波、リラの精:三井亜矢
  フロリナ王女:吉川真由子、青い鳥:法村佳緒
  2001年12月22日 神奈川県民ホール

【山口's HP TOPへ戻る】