3月10日名古屋高裁民事1部
    処分取消等請求控訴事件(行政事件)について

         控訴を棄却!

 3月10日、名古屋高裁民事1部は行政事件について控訴棄却の判決を言い渡しました。3回の口頭弁論では事実審理を一切行わないまま、「原審で審理は尽くされている」として控訴を棄却。事件の本質に目を向けることなく控訴棄却の判決を下した高裁民事1部に強く抗議するものです。2004年6月月30日の岐阜地裁判決とともに3月10日は、司法が文化財行政を抹殺した日であることをここに明記するものです。

 高裁民事1部の判断

(1)高裁は行政事件について、「控訴人の被控訴人(岐阜県教育委員会)に対する訴えは訴えの利益を欠く」として不適法、さらに被控訴人岐阜県に対する損害賠償も理由がないものとして、「門前払い」の判決。すなわち、行政事件訴訟法第9条の「法律上の利益を有するもの」に該当しないから、処分取り消しを求める訴えの利益を欠き、訴えそのものが不適法であると断じました。
(2)控訴人が処分により、形式的にも実質的にも不利益を受けたと主張した点に対しては、「(教育委員会への登用以前に教務主任を経験していた控訴人を)池田小学校において校務主任の職務を担当するにすぎないとしても、実質的な降格処分であるとは認められない」と一蹴。
 もっとも問題は次の点です。
(3)「(文化財保護センターへ)派遣された控訴人は、発掘調査担当者として学術研究の職責を担い、重大な職務に従事していたのであるから、その職務の途中での異動は学術研究者としての職責を奪い、不利益であることが明らかであるなどと主張するが、仮に、控訴人が発掘調査担当者としての職務に従事していたとしても、原判示のとおり、控訴人の文化財保護センターへの派遣は、被控訴人岐阜県による他の団体等への職員の派遣(人事)の標準形態を超えるものではなく、控訴人の被控訴人岐阜県の教員たる身分と区別して、一学術研究者としてされたものであるとか、遺跡の発掘調査等について一定の成果を上げることを目標とし、これを解除条件としてなされたものであるなどの事情は認められない。」と、軽々に断じた点です。

 高裁判決は文化財行政の圧殺

 文化庁から岐阜県教育委員会へ、さらにセンターへと委任される埋蔵文化財発掘調査は、文化財保護法とこれを受けた各通達等によって学術的であることが求められるものです。これを黙殺して「職員の派遣(人事)の標準的形態を超えるものではない」とか、発掘調査担当者が「教員たる身分と区別」するものではないとする判決は、文化財保護法の趣旨からしても、埋蔵文化財発掘調査の本質と学術調査を担当する発掘調査担当者の学術的な役割を認識しようとしないもので、断じて認めることはできません。さらに問題は、上記(3)の部分が、原判決に対して高裁から改めて付け加えられたものであるという点です。この点、高裁判決は地裁判決よりもさらに「悪意に満ちている」と言わざるを得ません。この判決が一人歩きする時、全国の行政内研究者として文化財労働に従事する多くの教員系職員の身分と地位が、行政によって紙切れ一枚で脅かされることになります。発掘調査から整理調査を経て刊行される発掘調査報告書まで、何の躊躇なしに、学術調査の観点ではなくて、ただ単に「教員の異動」として担当者が次から次へと変えられ、その結果著しく学術性を欠く調査となることは、火を見るより明らかです。発掘調査によって「記録保存」として事実上永久に消失することになる多くの埋蔵文化財が、不十分な調査のまま消失することを容認する「悪意に満ちた」判決と言わずして、なんと表現していいのでしょう。断じて受け入れることはできません。
 「事前調査」「緊急調査」などという言葉で表現されてきた、破壊を前提とする発掘調査。埋蔵文化財の発掘調査が、公共事業の前の一段階に組み込まれ、事業量に変動して多数の教員が派遣されて「こなされていく」現状。あるいは職員不足、職員を抱え込むと後々大変だからと、民間会社に発掘調査から報告書作成までも委託して行われる調査の現状。今回の判決はこのような埋蔵文化財発掘調査の現状を追認したものであるのかもしれません。しかし永遠に消失する文化財の調査が、ないがしろにされていいはずがないという思いがあります。発掘調査が儀式のように形だけですまされることがあってはならない、と思うのです。
 司法が埋蔵文化財担当者の身分について判断した、歴史上初めての判決であると思います。歴史に残る、「悪意に満ちた」判決と言わざるを得ません。

 ただちに上告手続きをとりました

 控訴審判決を不服としてただちに最高裁に対して上告手続きをとりました。今後上告理由書を提出することになります。引き続き高裁民事2部で継続されている民事訴訟については、進行協議が行われています。真摯な審理が行われるよう、強く望むものです。



          
  3月10日名古屋高裁にて
          行政訴訟についての判決言い渡しが
                行われます!

 2004年7月9日、原告弁護団は名古屋高裁に対して控訴状を提出しました。名古屋高裁は訴えの内、民事事件と行政訴訟をそれぞれ別の事件として受理。それぞれ民事1部、民事2部が担当する旨の連絡がありました。原告側は被控訴人(財)岐阜県教育文化財団((財)岐阜県文化財保護センターが改称)が下した処分と被控訴人岐阜県・岐阜県教育委員会が下した処分は一体となすものであることから、控訴人は同一部による同一進行審理を求めてきました。この点については、被控訴人との間で見解の相違はありません。
 8月30日原告側は名古屋高裁に対して両事件の控訴理由書を提出。これに対して被控訴人のうち財団からは10月中旬に答弁書が出されました(行政事件についての答弁書は10月29日に被控訴人が提出)。10月19日は名古屋高裁にて民事事件についての進行協議が行われ、民事1部と2部に分かれて受理された件について裁判所側の見解を調整する旨が、裁判所側から述べられました。第2回進行協議は11月1日に行われ、民事2部裁判官は民事1部との協議の結果、受理通り行政事件については民事1部が、民事事件については民事2部が担当することを告げました。また、民事事件の審理については、11月9日の行政事件審理の結果を見て次回期日を通知する旨が告げられました。これによって、行政訴訟と民事訴訟が切り離されて審理されることが決まり、そのうち行政訴訟が先行して審理が行われることとなりました。行政訴訟は進行協議をもたずに11月9日に第1回口頭弁論が開かれました。控訴人は1回審理のみで結審、判決という図式を強く警戒していましたが、裁判長は新たな証拠調べはしない決定を述べ、次回期日を12月21日に指定しました。12月21日の第2回口頭弁論に先立って控訴人は準備書面を提出。控訴人に対する処分が形式的にも実質的にも不利益処分であったことを補強して主張しました。このため結審は延期されましたが、2月1日の第3回口頭弁論において、新たな証拠調べを求めた控訴人側に対して裁判所はこれを認めず、審理は終結。来る3月10日(木)13時10分から判決が言い渡されることが決まりました。結局高裁では、行政事件については何一つ審理されることはなかった、ということです。なお民事事件は、行政事件の判決を受けて、今月下旬に進行協議が予定されています。
 判決言い渡しは、3月10日13時10分からです。ぜひともご注目・ご支援下さいますようお願い申し上げます。
 

不当な処分の取消と
文化財行政に対する責任をあきらかにするため
闘っています!!
2004年6月30日(水)午後1時
岐阜地裁3階2号法廷において
不当判決が言い渡されました!!!
直ちに控訴手続きをとりました

 

 2004年6月30日午後1時5分に開廷された302号法廷にて、判決言い渡しが行われました。林道春裁判長は、平成12年(行ウ)第6号処分取消等請求事件について、被告岐阜県教育委員会に対する処分取消請求を却下。被告岐阜県に対する請求を棄却しました。また平成12年(ワ)第348号処分取消等請求事件について、被告財団法人岐阜県文化財団に対する請求をいずれも棄却しました。
 判決文の詳細についてはこれから検討を行いますが、大まかに判決文の組み立ては
1、財団との間には雇用関係はない。
2、県教委の転任処分は裁量権の範囲内のことで、原告に給与上の不利益は生じていない。
3、原告作成のメモを報告書原稿として無断で用いたのは、盗用には該当しない。
というものです。
 そもそも本事件の本質は、岐阜県と岐阜県教育委員会、財団が報告書の刊行を含む適正な発掘調査を行おうとしなかったことにあり、これに努力した原告を排除するための転任処分であったことにあります。岐阜地裁判決は埋蔵文化財発掘調査の重要性を認めようとせずに、事件の本質を見落としているものと言わざるを得ません。すなわち、本件転任処分を肯定することにより、岐阜県が行った杜撰な発掘調査を容認することにつながるものです。したがって、原審判決には到底首肯することはできません。
 これからただちに控訴手続きをとる予定です。


第17回地裁口頭弁論弁論
臼井進氏への尋問行われる

 10月29日第17回岐阜地裁口頭弁論では、臼井進氏(原告解職当時、センター調査部長)への尋問と原告本人に対する被告側反対尋問と再主尋問が行われました。
 臼井氏は原告側主尋問に対して、@調査部長として、当時原告が従事していた塚遺跡報告書作成業務途中であることは十分に認識していたこと。Aしかし原告を異動させることについては、寺屋敷遺跡報告書作成業務に関しても何ら問題がないと判断し、調査部長として原告を次年度残留させるべきであるという意見具申を行わなかったこと。Bそして何よりも調査部長に人事権はなく、センター理事長からの下達に従ったのみであること、などなどを証言しました。
 冒頭に水谷弁護士の「あなたはセンター調査部長就任前の埋蔵文化財調査や考古学研究の経験・実績はありますか」という問いに「何もありません」。「失礼ながら素人のまま就任されたということですか」という問いに、「その通りです」と。はからずも明らかにされた岐阜県の埋蔵文化財行政の実態。ついで原告本人に対する被告側弁護士からの前回の原告側主尋問に対する反対尋問、そして次に原告側弁護士からの再主尋問。再主尋問では県教委による原告の著作からの無断使用が1985年にも行われていたことが明らかにされました。
 ついで裁判長は原告側に今後の審理の意向を打診。原告側は、本日の証言でも調査部長には人事権がないことは明らかであり、処分当時のセンター理事長篠田幸男氏の喚問を求め、被告側はこれに不同意の意を表明しました。
 別室での5分間(!)の協議の後、裁判長は民事訴訟の証人尋問を終了することを宣言。原告側に最終意見陳述書の提出を求めました。原告側代理人弁護士はこれに異議を唱えましたが、裁判長はこれを認めず、次回期日が12月24日午前9時45分と決定しました。また民事訴訟だけでなく、行政訴訟についても同時に終了を宣言。次回で結審となることが確定しました。

結審はおかしい

 本日の証人尋問では調査部長は人事権がないことを証言し、人事権は理事長にあることを明言しました。であるならば、何故この処分が行われたのかは理事長を証人として採用しないことには審理がつくされたとはいえないはずです。しかし、これに耳を貸さずに一方的に審理打ち切りを宣言したことについては、全く納得がいかない、不当なことだと思います。また、センターには人事権はなくあくまでも県教委の意向に従った異動であるというならば、県教委がなぜ原告を塚遺跡報告書作成途中で、また寺屋敷遺跡報告書作成業務に全く従事させずに異動させる必要があったのかは、原告側申請の県教委関係者を証人として採用し、尋問しなければわからないはずです。これに反して、行政訴訟についても県教委関係者の証人を一切採用せずに、審理を行おうとしない今日の決定は、やはり不当なものと思います。審理をつくさずに裁判を終えようとする裁判所の姿勢に、処分以来7年近くの年月は一体何だったのかと、とてもやりきれない思いです。

あくまでも死力をつくして

 最終意見陳述の前に、12月3日弁護団は結審は不当であることを主張する書面を提出しましたが、12月11日岐阜地裁民事第2部は1本の電話で新たな証拠調べはしない旨を通知してきました。しかし、まだあきらめません。あくまでも闘います。最終意見陳述書には訴えのすべての思いをつぎ込む覚悟です。徳山村へ赴任した1978年から、村の皆さんと一緒に徳山村の歴史を残すために、廃村の足音の中で全力で駆け回った日々。寺屋敷遺跡発掘調査で山間峡谷部での旧石器時代の存在を実証した他の数々の発見に、作業員さんたちと一緒に徳山村の歴史の新しい一頁を切り開いたことを喜んだ日々。思いのどれだけが裁判所に届くのか。最後まであきらめずに、がんばる決意です。



2000年6月5日岐阜地裁へ提訴する訴訟原告、弁護団長水谷博昭弁護士、井口浩治弁護士(左)。
右は記者会見の様子(中央が水谷弁護団長、右が訴訟原告)。

 下記の申し入れにもかかわらず、被告は原告を一方的に揖斐郡池田町立池田小学校から大垣市立綾里小学校への異動処分を発令しました。
これに対して原告は県人事委に処分取り消しを求める不服申し立てを行っていましたが、2002年10月24日付で県人事委はこれを却下する決定を下しました。
 原告は再度の異動処分の取消も含めるため、2002年12月25日の第12回岐阜地裁口頭弁論で請求趣旨の追加的変更を行いました。


 岐阜県教育委員会教育委員長 様
平成14年3月27日
住所 岐阜県揖斐郡藤橋村東横山394の2
申入者 篠 田 通 弘   
昭和30年12月25日生 
現職 池田町立池田小学校教諭 

平成14年4月1日付人事異動に関する抗議ならびに申し入れ

 表題のことについて、次のとおり抗議と申し入れをいたします。

1、抗議ならびに申し入れ時の職および所属部局
  岐阜県揖斐郡池田町立池田小学校教諭
2、抗議の内容
 申入者は、平成14年3月25日午前7時30分、勤務中の池田町立池田小学校において「平成14年4月1日付で大垣市立綾里小学校へ転任する辞令が交付される旨、内示する」との連絡が池田小学校校長より口頭でなされました。
 申入者は平成9年3月31日付で派遣先の(財)岐阜県文化財保護センターから解職処分、翌平成9年4月1日付で岐阜県教育委員会事務局指導部文化課事務職員から池田町立池田小学校教諭への異動処分を受け、今日に至っているものであります。埋蔵文化財発掘調査担当者としての業務途中での解職・異動処分は、国民の利益を大きく損なうものであり不当かつ違法な処分であります。従って、申入者は平成12年6月5日に岐阜県・岐阜県教育委員会・(財)岐阜県文化財保護センターを被告として処分取消等請求事件を提訴し、現在岐阜地方裁判所において審理が行われており、来る4月10日には第8回口頭弁論が予定されているところであります。
 しかるに今回の異動処分内示はこれら岐阜地裁の審理を無視し、さらなる異動処分を行うことを内示するものであります。そもそも岐阜県教育委員会事務局から池田小学校への異動処分取り消しを求める裁判が係争中であるのに、裁判の一方の当事者である被告が原告に対してさらに異動処分を発令するということ自体、不当で納得のいかないことであります。異動処分が発令された場合は、裁判の公正な審理に大きな影響を与えかねない、また原告である私に著しい不利益を与えかねないものであります。
 裁判の公正さを損なうおそれのある異動処分内示に、強く抗議するものであります。

3、申し入れの内容
 岐阜県教育委員会におかれましては、申入者の抗議申し立てに真摯に耳を傾けられ、不当な異動処分が発令されないよう、強く申し入れるものであります。             以 上 

訴訟原告と弁護団(左から、井口浩治弁護士、弁護団長水谷博昭弁護士、丸井英弘弁護士、訴訟原告)

岐阜地方裁判所案内図

岐阜地裁第1回口頭弁論のあらまし 20000920
準備書面(2)を提出 20010410
準備書面(3)を提出 20010509
岐阜地裁第6回口頭弁論のあらまし 20011031

県人事委の却下決定書要旨 20000318
却下決定に対して声明発表  20000321
県人事委員会最終審理=第8回公開口頭審理のあらまし