ナットクする 自信がもてる 赤ちゃんのうまい名づけ by All About 命名ガイド 牧野くにお 

baby
    



 名前に使える漢字の範囲は、これまで要望にこたえる形で、つぎのように決められてきました。

時期    変   更 文部(科学)省が決める漢字表  法務省が指定する別表の漢字  
1947
昭和22
当用漢字
1850字
1850字
1951
昭和26
法務省が92字を指定 当用漢字
1850字
92字 1942字
1976
昭和51
法務省が28字を追加 当用漢字
1850字
120字 1970字
1981
昭和56
文部省が常用漢字を制定
法務省が8字を削除・54字を追加
常用漢字
1945字 
166字 2111字
1990
平成2
法務省が118字を追加 常用漢字
1945字 
284字 2229字
1997
平成9
訴訟により琉の1字追加 常用漢字
1945字 
285字 2230字
2004
平成16
法務省が488字を追加
訴訟により曽、駕、獅、毘の4字・および瀧の1字体を追加
常用漢字
1945字 
983字体 2928字体
2009
平成21
訴訟により穹、祷の2字追加 常用漢字
1945字 
985字体 2930字体
2010
平成22
文科省、常用漢字196字追加
   勺錘銑脹匁の5字削除
法務省、5字追加・129字削除
常用漢字
2136字 
861字体 2997字体
2015
平成27
訴訟により巫の1字追加 常用漢字
2136字
862字体 2998字体
 2017
平成29
 訴訟により渾の1字追加  常用漢字
2136字
863字体 2999字体

平成16年の追加のとき「字種」と「字体」が混同され、常用漢字の字種、字体、人名用漢字の字種、字体、という基本の区別がわからなくなったため、今では字体という言葉しか使われなくなりました。

 名前に使える漢字は、このように、
     
文部省のきめた漢字ぜんぶ + 法務省がきめる別表の漢字
というふうに決められてきています。
 そして文部省が決める常用漢字はもちろん、法務省が決める別表も、名前については考慮しません。これは根本的におかしなジレンマなのですが、名前に使える漢字の範囲を決めるとき、名前にふさわしい字かどうかはいっさい吟味しないのです。そのため名前に使える2998字体の大部分は名前にふさわしくない字です。たとえば、
 ●はじめから名前に適さない意味の字
     死、痴、病、毒、餓、邪、敵、泣、豚、蛇、悪、汚、盗、貧
     暗、葬、殺、罪、墓、…
 
●また悪い意味でなくても名前の作りようのない字
     壁、歯、焼、針、黎、油、燦、捷、秒、…
 
●電話で説明できない字
     璽、繭、襖、塑、逓、驍、纏、…
 
●活字に変換できない、手書きでしか書けない字
 ●古い字体でしか書けない字

  (もともとは人名に使える字を指定するときは、シンニュウの点を1つにする、
   每は毎にする、など現在の書き方に統一されていましたが、とくに平成16年
   の追加のさいに、「字種」と「字体」が混同され、旧字でしかかけない字が
   増やされてしまいました)
     逗、漣、摺、煉、楢、晦、溢、揃、煎、徠、遜、槌、樽、萊
     蓬、鄭、鱒、繫、鷗、蠟、簾、這、廟、…

 以上のような名前に不向きな字は非常に多く、名前に入れればもちろん本人も困りますし、社会で混乱をおこし、多くの人の迷惑になります。


            要望や訴訟をむやみにしないこと

 「名前に使える漢字を増やせ」という要望や、「この字を使わせろ」という個人的な訴訟は、これまで何度も行われてきましたし、今も続いています。でも、私たちが国にそういう主張をすれば、名前に向く字かどうかはまったく吟味されずに、数だけ増やしてしまいます。
 名前に向く字で使用できない字というのは、もうほとんど残っていません。この後におよんで「字をふやせ」「自由にさせろ」と言い続けると、ムダな税金が湯水のように使われ、名前に不向きな字が大量に増やされてしまいます。もういいかげんに要望や訴訟はやめたほうがよいでしょう。
 今の日本の中年以上の人が知っているおおよそ2000字の漢字を使ってさえ、まちがった読みかたの名前、人に読めない名前がたくさんつけられています。それが野ばなしのまま、さらに学校でも教えない、ふだん目にしない字が無作為にふやされれば、うっかり名前に不向きな字をつかって後悔する人はでるでしょうし、わかりにくい名前、手書きでしか書けない名前、つまり社会で役目をはたせないような名前はますますふえてしまいます。
 めくらめっぽうに漢字の数をふやせば、社会(私たち全員)が迷惑することになるのです。

 もちろん「漢字をふやせ」という要望が、社会の流れにかなうこともあります。たとえば、つぎのような状況でしたら、人名用の漢字をふやすのもよいでしょう。
 
◎日本人の知っている漢字がふえていて、中国や日本の古典を読む若者もふえている
 ◎名づけでは「人に迷惑をかけない」ということを、だれもがもっとも重視している
 ◎ふやした漢字は、ワープロでもメールでも、すぐに変換できる

 今の日本の社会はまるっきりちがいます。活字ばなれは急速で、年齢がさがるほど、知っている漢字は少なくなっています。
 字画占いにしたがって名づけをする場合は、使える漢字が大幅にへり、つけられる名前もかぎられてきます。世の中には「名前に使える漢字をふやせ」という要望が多いのに、字画占いにしたがって名づけをする人も多いのが、面白い現象です。