書名:夜明けの雷鳴
医師 高松凌雲
著者:吉村 昭
発行所:文藝春秋社
発行年月日:2000/01/10
ページ:291頁
定価:1524円+ 税
慶応2年当時フランスは軍事援助などを通じて幕府と結びついていたが、翌年開かれるパリ万国博覧会に日本も参加するように要請してきた。幕府は展覧会への出展を決め、将軍徳川慶喜の弟・徳川昭武を自分の名代として派遣して親善外交を行わせ、その後留学させることとなったその随行員に高松凌雲は加えられることとなった。そこから彼の人生は大きく変転することになった。
パリ万国博覧会における日本の展示は大好評を博した。その後高松凌雲は「神の館」と呼ばれたパリの市民病院で医学を学んでいた。貧民からは料金をとらない「神の館」の運営に大変興味を持つ。その「神の館」は大富豪達、色々な人たちからの寄付で成り立っている。進んでフランス語、フランス医学を学んでいた凌雲たちは、日本から大政奉還のニュースを聞く。幕府が薩長を中心とする官軍に敗れ、将軍慶喜も謹慎しているという報も入った。幕府が崩壊した以上、凌雲など他の随行員は日本に帰らざるを得なかった。
江戸に戻った凌雲は、榎本武揚の幕府海軍で奥州へ逃げ延び、徳川の恩顧に応えて、官軍に抵抗することに身を投じることになった。江戸を出港した艦隊であったが、仙台など奥州の藩はすでに官軍に降伏したり恭順の意を表ており、やむなく箱館へ行って北海道での再起を図る。ここで榎本は函館病院の頭取に凌雲を任命する。
学んだ医学の先端技術を駆使するとともに、パリの「神の館」で学んだ富める者も富まざる者も、また敵も味方も差別なく施療する精神を植えつけていく。日本の医学に近代医療と呼べる精神を植え付けていく・・・・
その後の高松凌雲の生き方を決定的にした体験だった。函館戦争に従軍した一人の医師の視点、また幕臣から幕末、明治維新の息吹が感じられる。勇気を与えてくれる一冊ではなかろうか?吉村昭の本は面白い。