書名:讃歌
著者:篠田 節子
発行所:朝日新聞社
発行年月日:2006/1/30
ページ:355頁
定価:1700+税
ヴァイオリンの演奏で天才少女と騒がれ、日本国内でのコンクールの優勝、海外のコンクールでも二位になった柳原園子は、高校を卒業してアメリカ西海岸に留学。そこでカルチャーショック、自分の才能の限界の壁に突き当たって自殺未遂を起こす。その後日本に帰ってきて両親に支えながら、後遺症に苛まれ20年以上寝たきりの生活。そんな彼女が教会、老人会などでヴィオラの演奏をはじめていた。その演奏会は口コミで小さく広がっていた。
そんな演奏会で「シューベルト アルベジオーネソナタ」を松平千恵子という音大の教授の伴奏で柳原園子がヴィオラを演奏する。それを聞いた小野は感動的なフレーズに思わず涙する。小野の仕事はテレビ局の番組を請け負っている映像会社のプロジューサー補佐。柳原園子に興味をもったかれは彼女の半生を取り上げたドキュメント番組を企画する。その番組によって一躍時の人となった柳原園子。ひとつのサクセスストーリーですが、その後は篠田節子得意の反転が。
話は緻密でよく練られていてストーリーの展開も見事、欠点もない物語ですが、その中に人間が出てこない。第三者的な登場人物ばかりという感じがした。読んだ人を動かすなにかがない。段々プロ作家の悪い癖を身に付けてしまった感じがした。これは作家の人間の幅の狭さかなという気がする。本と人とのインタビューの資料集め、それも作品の流れに沿ったものばかり集めた結果か?遊びがない、ぎすぎすした作品になっているように思う。