書名:靖国への帰還
著者:内田 康夫
発行所:講談社
発行年月日:2007/12/14
ページ:338頁
定価:1600円+税
昭和20年、海軍厚木基地。夜間戦闘機「月光」で出撃した武者滋が、命からがら帰投した基地は、2007年の厚木基地だった。2007年にタイムスリップした主人公の武者滋中尉が、現代と過去に戸惑いながら、政治家やマスコミに揉みくちゃにされます。そんな中、現在の日本の現状を理解するにつれ『こんな病んだ社会を護るために、かつて、若者たちが命を賭して戦ったわけではないはずだ。戦争の愚かさとともに、若くして死ぬことの悲しさと虚しさを学んだはずの日本人が、平和の中でなぜ死んでゆかなければならないのか―武者はどうしても理解できそうにない。」と
主題は靖国問題を鋭く描いている。武者の言葉をかりて
『何はともあれ、武者たち大多数の日本国民にとって、大東亜戦争は正義の戦「聖戦」であった。聖戦の象徴は天皇である。軍人たる者、天皇陛下のために死す―というのは、国のため、家族を守るために死すことと同じ意味であった。
そして死ねば靖国神社に祀られる―というのも、軍人たちの心の支えであった。戦死は単なる死ではない。国家によって神として祀られ、永遠に栄誉を讃えられる、英雄的行為の結果なのである。
「死んだら靖国で会おう」
この合言葉は、ただの気休めや慰めではなく、死を恐れず敵に立ち向かう、闘争心の最後の拠り所だったのだ。』
かつて恋心を抱いていた女性が描いた武者滋の絵と再会する。その女性沖有美子との62年ぶりの再会。その有美子の一言が重くのしかかる。
「武者さんが一つだけ勘違いしていらっしゃることがあります」…「靖国神社のことですけど。軍人さんが『死んだら靖国神社へ還る』っておっしゃってらした気持ち、とてもよく分かるんですけど、それはやはり男性の考えですわね。女のわたくしは、そうではなく、その方のご家族や恋人や愛する人たちの心の中に還って来て欲しかったのだと思います。心の中に、いつまでも消えることのない蝋燭のように、灯りをともしていていただきたかったわ」
「戦死すれば、軍神・英霊となり靖国神社に祀られ、国民がこぞって拝み慰霊するものだ」という「靖国信仰」は、軍人・男性の論理だと看破する一節が鋭い。
靖国論争の争点が上手くまとめられているとまた内田康夫が現代の日本の人々にもう一度認識して欲しい叫びかもしれない。久々の感動の書です。内田康夫の代表作かもしれません。